三人でいたい(Ⅰ)◆tu4bghlMIw
《LeMU第二層「ツヴァイト・シュトック」ファンタジーランド(第四区画)――アリス・イン・ナイトメア》
ひたり、
ひたり、
ひたり、
ひたり、
ひたり、
血が落ちる。クリーム色の歩道を赤い斑点が汚した。
被弾した脇腹に応急処置は施したが、もはや純白の包帯は赤く染まり用を為さなくなっていた。
被弾した脇腹に応急処置は施したが、もはや純白の包帯は赤く染まり用を為さなくなっていた。
ひたり、
ひたり、
ひたり、
ひたり、
ひたり、
血が落ちる。ゆっくりと、掻き消えるように意識が虚無へと向かう。
少女が持っている武器は一本の剣だけだった。
拳銃は遊戯を通して百発以上の弾丸を全て撃ち尽くし、ただのガラクタとなった。
最強の武器として島に殺戮の雨を振りまいた重機関銃の弾も一発だって残っていない。
小さな手斧も鎌もとっくに向かってきた兵士に投擲してしまった。
拳銃は遊戯を通して百発以上の弾丸を全て撃ち尽くし、ただのガラクタとなった。
最強の武器として島に殺戮の雨を振りまいた重機関銃の弾も一発だって残っていない。
小さな手斧も鎌もとっくに向かってきた兵士に投擲してしまった。
永遠神剣第七位「存在」――幾人もの人の血を啜りながら、未だ美麗な刀身を維持し続ける神如き剣。
幽鬼のように、一歩一歩確実に。
少女は基地の奥を目指す。
少女は基地の奥を目指す。
「――ッ!? 川澄舞、見つけたぞ!」
また一人、死角から男が飛び出してきた。
男はその手に小さな機関銃を握り締めている。
圧倒的な速度で鉛玉をばら撒く殺人兵器。この島の兵士達が標準的に装備している武装だ。
男はその手に小さな機関銃を握り締めている。
圧倒的な速度で鉛玉をばら撒く殺人兵器。この島の兵士達が標準的に装備している武装だ。
男はすぐさま身体だけを物陰に隠すと少女に向けて引き金を引いた。
旧式のタイプライターを高速で打刻したような不思議な音。
だけど、本当はそんな生易しい言葉じゃ全然足らない筈なのだ。
鼓膜を突き破り脳髄まで浸食するような火薬の爆発は、不安定な狙いで発射される弾丸よりもよっぽど正確に少女の身体を射抜く。
少女は顔を顰めながら身を翻す。銃口の向きから大体の着弾点を予測するのは大分慣れて来ていた。
旧式のタイプライターを高速で打刻したような不思議な音。
だけど、本当はそんな生易しい言葉じゃ全然足らない筈なのだ。
鼓膜を突き破り脳髄まで浸食するような火薬の爆発は、不安定な狙いで発射される弾丸よりもよっぽど正確に少女の身体を射抜く。
少女は顔を顰めながら身を翻す。銃口の向きから大体の着弾点を予測するのは大分慣れて来ていた。
「――五月蝿い」
この状況下における銃撃音、それは即ちターゲット発見した、という意味を内包する。
そして舞が弾丸の入った銃を所持していない以上、この音は山狗の兵士達が舞に向けて発砲したことになる。
彼らはワラワラと羽虫のように集まってくる。舞はイライラしていた。
そして舞が弾丸の入った銃を所持していない以上、この音は山狗の兵士達が舞に向けて発砲したことになる。
彼らはワラワラと羽虫のように集まってくる。舞はイライラしていた。
彼女は蟲が嫌いだった。
何も考えず、ブンブンと蠢くその風貌には根本からの生理的嫌悪さえ覚えていた。
いや、この島にやって来てからそうなってしまったと言った方が適切か。
何も考えず、ブンブンと蠢くその風貌には根本からの生理的嫌悪さえ覚えていた。
いや、この島にやって来てからそうなってしまったと言った方が適切か。
特に苦手なのはやはり――蠅。奴らは死臭を嗅ぎ分け、どこにでも現れる。
そう、思い出したくなかった。
公園で見つけた《佐祐理》の肉は朽ち、異臭を放ち、何匹もの蛆虫がその身体には集っていた。
その映像を脳内で再生する度、何度となく胃の中の物を戻しそうになった。
マトモな食事など取っておらず、僅かな水分を摂取しただけにも関わらず胃袋は収縮を繰り返す。
鼻腔をツンと刺激する胃液と瞳に滲む涙。
そう、思い出したくなかった。
公園で見つけた《佐祐理》の肉は朽ち、異臭を放ち、何匹もの蛆虫がその身体には集っていた。
その映像を脳内で再生する度、何度となく胃の中の物を戻しそうになった。
マトモな食事など取っておらず、僅かな水分を摂取しただけにも関わらず胃袋は収縮を繰り返す。
鼻腔をツンと刺激する胃液と瞳に滲む涙。
記憶に脳が過度のバイアスを掛ける。
美しいものはより美しく。
醜いものはより醜く。
美しいものはより美しく。
醜いものはより醜く。
見たのは一瞬だけだ。本当は、こんなカタチをしていなかったような気もする。
何もかも全部全部脳味噌が施した趣味の悪い悪戯だ。
片方しかない眼球がきっと狂っていたに違いない。
だって、
だって、自分は……、
何もかも全部全部脳味噌が施した趣味の悪い悪戯だ。
片方しかない眼球がきっと狂っていたに違いない。
だって、
だって、自分は……、
――腐った佐祐理の屍体を見てソレに恐怖を覚えてしまったのだから。
「そっちに行ったぞっ!! 追い詰めろ!」
機関銃が乱射される。地鳴りのような爆音が身体を震わせる。
「敵は手負いだ、回り込め!」
苛立った男の怒鳴り散らす声。
少し前までは無線でやり取りしていた男達も、舞が自分達をただの障害物としか見做していないことを理解したため、一切の機微な配慮をなくしていた。
舞が羽入の力によって転送されたのは地下二層『ツヴァイト・シュトック』の地下遊園地。
メリーゴーランドや観覧車、一体どこから持ってきたのかと首を傾げたくなるような豪壮な城とファンシーな一角だ。
だがその実。子供達に夢と希望を与える筈のこの空間は、血と硝煙が香る惨劇の舞台となっていた。
少し前までは無線でやり取りしていた男達も、舞が自分達をただの障害物としか見做していないことを理解したため、一切の機微な配慮をなくしていた。
舞が羽入の力によって転送されたのは地下二層『ツヴァイト・シュトック』の地下遊園地。
メリーゴーランドや観覧車、一体どこから持ってきたのかと首を傾げたくなるような豪壮な城とファンシーな一角だ。
だがその実。子供達に夢と希望を与える筈のこの空間は、血と硝煙が香る惨劇の舞台となっていた。
死体。倒れ伏す血濡れの男。
相手が死んでいようが生きていようが舞には関係なかった。
ただひたすら前進する。
ただひたすら階下、鷹野三四の居る場所へ向けて進軍することだけが彼女の思考を支配していた。
相手が死んでいようが生きていようが舞には関係なかった。
ただひたすら前進する。
ただひたすら階下、鷹野三四の居る場所へ向けて進軍することだけが彼女の思考を支配していた。
何人切ったのだろう? 何人殺したのだろう?
分からない。もう覚えていない。
意識する必要もないし、そんなことを気にかけている理由も意味もない。
分からない。もう覚えていない。
意識する必要もないし、そんなことを気にかけている理由も意味もない。
とりあえず分かったことは――そう、剣で人を切ると《重い》ということだ。
ただ逃げるように美凪の身体を貫いた時とはまるで違う。
蟲を振り払うように目の前の人間の皮膚を裂き、肉を絶ち、骨を切断するこの感覚はもっと汚らしくて澱に満ちた行為。
ただ逃げるように美凪の身体を貫いた時とはまるで違う。
蟲を振り払うように目の前の人間の皮膚を裂き、肉を絶ち、骨を切断するこの感覚はもっと汚らしくて澱に満ちた行為。
舞は追われる自らの境遇をとある童話に重ね合わせ、自虐的に笑った。
援軍が来る前にこの場を切り抜けるのが最善だろう。
舞は残り少ない魔力を強化に当てる。
身体能力を大幅に上昇させ、発射される弾丸を掻い潜るように物陰の山狗に向けて接近する。
舞は残り少ない魔力を強化に当てる。
身体能力を大幅に上昇させ、発射される弾丸を掻い潜るように物陰の山狗に向けて接近する。
「なっ、はや――」
レトロな雰囲気の洋館(おそらくお化け屋敷か何かだろう)の影から舞を銃撃していた兵士の数メートル近くまで疾走。
その人ならざる速さに男は驚愕の呻き声を上げる。
銃口が舞に向けられる。だけど、そこまでだ。発砲に至るには速度がまるで足らない。
その人ならざる速さに男は驚愕の呻き声を上げる。
銃口が舞に向けられる。だけど、そこまでだ。発砲に至るには速度がまるで足らない。
下段に構えた「存在」を男の上半身目掛けて切り上げる。
もう馴染んで来た鈍い感触が両手を襲った。プールの中で棒か何かを振り回すのと似ている行為だ。
もう馴染んで来た鈍い感触が両手を襲った。プールの中で棒か何かを振り回すのと似ている行為だ。
液体が邪魔をするのだ。紅の血液が刃の進行を妨げる。
だけど永遠神剣を獲物として用いる舞にとって、斬撃の際剣に掛かる負担を考慮する必要はない。
これは神剣同士の戦いでなければ決して砕けることのない剣なのだ。
何人切っても問題ない人斬りのための武器なのだ。
だけど永遠神剣を獲物として用いる舞にとって、斬撃の際剣に掛かる負担を考慮する必要はない。
これは神剣同士の戦いでなければ決して砕けることのない剣なのだ。
何人切っても問題ない人斬りのための武器なのだ。
男はこの世のものとは思えない絶叫を残して地面に倒れ伏した。
血がドクドク、と吹き出す。グレーの床が赤く染まる。血の池が出来る。
死んだのだろうか。……いや、別にどうでもいいか。
ソレよりも一刻も早く鷹野の居る場所を目指さなければ――
血がドクドク、と吹き出す。グレーの床が赤く染まる。血の池が出来る。
死んだのだろうか。……いや、別にどうでもいいか。
ソレよりも一刻も早く鷹野の居る場所を目指さなければ――
その時だ。
タン、
と乾いた音が舞の耳を捉えた。近い、それも相当に。
すぐさま対応すべく、舞は音のした方向へと身体を振り向かせた。
すぐさま対応すべく、舞は音のした方向へと身体を振り向かせた。
つもりだった。
どういうことなのだろう、これは。
世界が、突然急上昇を始めた。
メリーゴーランドやティーカップといったアトラクションが突然、上方へと競り上がったように見えたのだ。
グングンとまるで窓から眺める景色のように周囲が加速していく。
一つだけの瞳ではその動きを追い切れない。残像が視界にチラつく。
世界が、突然急上昇を始めた。
メリーゴーランドやティーカップといったアトラクションが突然、上方へと競り上がったように見えたのだ。
グングンとまるで窓から眺める景色のように周囲が加速していく。
一つだけの瞳ではその動きを追い切れない。残像が視界にチラつく。
……違う。
これは、ただ自分が落ちているだけの話だ。
これは、ただ自分が落ちているだけの話だ。
そこまで考えて、舞はようやく自分が置かれている状況を理解した。
ああ、自分は――撃たれたんだ、と。
ああ、自分は――撃たれたんだ、と。
周りが上昇したんじゃない。自分が沈んで行っただけのこと。
ドサッ、という身体が地面に倒れ込む音が響いた。
ようやく、このタイミングになって脇腹辺りに弾丸が撃ち込まれたことを意識した。
弾が当たった場所から血液が零れ出す感覚を覚えた。流行病に掛かった時のような浮遊感、体温が一気に上昇する。
ドサッ、という身体が地面に倒れ込む音が響いた。
ようやく、このタイミングになって脇腹辺りに弾丸が撃ち込まれたことを意識した。
弾が当たった場所から血液が零れ出す感覚を覚えた。流行病に掛かった時のような浮遊感、体温が一気に上昇する。
「ここだっ!! 急げ!!」
見上げた先、鼠色の作業着を着た男が怒声を張り上げて仲間に合図を送る。
間を置かずに幾人もの兵士が荒々しい足音を立てながら集まって来た。
当然、彼らの手には一様に無骨な短機関銃が握られている。
間を置かずに幾人もの兵士が荒々しい足音を立てながら集まって来た。
当然、彼らの手には一様に無骨な短機関銃が握られている。
銃。黒くて重い、金属の凶器。
ぽっかりと空いた見ているだけで吸い込まれてしまいそうな空洞とパーツとパーツが擦れ合った時の甲高い音。
その先端が全て舞へと向けられる。
寸分たがわずにその弾丸が自らの身体を撃ち抜く未来を舞は想起した。
ぽっかりと空いた見ているだけで吸い込まれてしまいそうな空洞とパーツとパーツが擦れ合った時の甲高い音。
その先端が全て舞へと向けられる。
寸分たがわずにその弾丸が自らの身体を撃ち抜く未来を舞は想起した。
マシンガンが一斉に発射される。
弾丸が飛んでくる。
単眼とはいえ、向けられた銃口から確実に自分の身体に弾が命中することは分かった。
が、身体は動かない。地面に倒れこんだこの状態でその鉄の凶器を回避する術は舞にはなかった。
弾丸が飛んでくる。
単眼とはいえ、向けられた銃口から確実に自分の身体に弾が命中することは分かった。
が、身体は動かない。地面に倒れこんだこの状態でその鉄の凶器を回避する術は舞にはなかった。
死が訪れる。
鎮静剤が投与された身体から意識が乖離していくような感じだ。
精神だけが身体を飛び抜け、そのまま地獄の断頭台に直行だ。
佐祐理や祐一とは同じ所に行けないだろうな、ふとそんなことを舞は思った。
鎮静剤が投与された身体から意識が乖離していくような感じだ。
精神だけが身体を飛び抜け、そのまま地獄の断頭台に直行だ。
佐祐理や祐一とは同じ所に行けないだろうな、ふとそんなことを舞は思った。
鷹野三四に会うまで死ぬ訳にはいかない。
佐祐理を何としてでも生き返させるのだ。
確かに自分には蘇生と似たような力がある。だが、死んでからあそこまで身体が朽ち果ててしまった人間を復活させることは不可能だ。
ならば敵の、鷹野が持つ特殊な力に賭けるしかなかった。
たとえ一握の砂のように、掌からこぼれ落ちてしまうようなちっぽけな希望しか残っていないとしても。
佐祐理を何としてでも生き返させるのだ。
確かに自分には蘇生と似たような力がある。だが、死んでからあそこまで身体が朽ち果ててしまった人間を復活させることは不可能だ。
ならば敵の、鷹野が持つ特殊な力に賭けるしかなかった。
たとえ一握の砂のように、掌からこぼれ落ちてしまうようなちっぽけな希望しか残っていないとしても。
本当に自分はこんな所で終わってしまうのだろうか?
舞は自らを強く叱責する。
だけど、身体は動かない。
応えてくれない。
舞は自らを強く叱責する。
だけど、身体は動かない。
応えてくれない。
神剣魔法を使う、という手段もあったかもしれない。だけど今から詠唱してもどう考えても間に合う訳がない。
そもそも、心が乱れて上手く魔法を紡げない。つまり、手詰まり。
もはや眼を瞑る余裕さえ、自分には残されて――
そもそも、心が乱れて上手く魔法を紡げない。つまり、手詰まり。
もはや眼を瞑る余裕さえ、自分には残されて――
「――オーラフォトンバリアッ!」
――いなかった筈なのに。
その時、遥か絶空から、誰かの叫び声が飛び込んできた。
ソレはつまり呪文の詠唱。神剣魔法を用いるものが魔法を使用するときに口にする合言葉のようなものだった。
舞を穿つ筈だった弾丸は全て虚空に出現した壁に弾き落とされる。
カラカラ、と妙に甲高い音と共に鉛弾が冷たい地面の上に散らばった。
ソレはつまり呪文の詠唱。神剣魔法を用いるものが魔法を使用するときに口にする合言葉のようなものだった。
舞を穿つ筈だった弾丸は全て虚空に出現した壁に弾き落とされる。
カラカラ、と妙に甲高い音と共に鉛弾が冷たい地面の上に散らばった。
《天使》
その言葉だけで十分で十全で完全だ。
純白の二枚の翼、舞散る粉雪のような羽根。
純白の二枚の翼、舞散る粉雪のような羽根。
目の前に降り立った影。少女――蒼の少女がそこには立っていた。
舞の頭を過ぎったイメージを語るために、余計な修飾語は他に何一つ必要なかった。
舞の頭を過ぎったイメージを語るために、余計な修飾語は他に何一つ必要なかった。
「な……ッ馬鹿な!? 奴は白鷺が第一区画で足止めしている筈では……」
「何故だッ……? 確かに先程連絡があった筈……取り逃がしたとはいえ、有り得ん速度だッ……」
「何故だッ……? 確かに先程連絡があった筈……取り逃がしたとはいえ、有り得ん速度だッ……」
狼狽を隠せず、完全に追い詰めていた筈の舞の周囲から思わず後退する兵士達。
先程まで顔面を覆い尽くしていた喜色に満ちたどす黒い笑顔は完全に消え失せ、それぞれが苦虫を噛み殺したような感情を滲ませる。
先程まで顔面を覆い尽くしていた喜色に満ちたどす黒い笑顔は完全に消え失せ、それぞれが苦虫を噛み殺したような感情を滲ませる。
「サラが、上手くやってくれたようだな。しかし……カワスミマイ? 何故こんな場所に……」
背中に二つの翼を生やした少女が天から舞のすぐ側に降り立った。
その青く澄んだ瞳は無垢なまま舞の顔を覗き込む。
山狗に背中を晒しながらも、一切の隙は伺えない。
男達も少女が放つ独特のオーラ、格の違いのようなものを感じ取り完全に気圧されてしまっていた。
その青く澄んだ瞳は無垢なまま舞の顔を覗き込む。
山狗に背中を晒しながらも、一切の隙は伺えない。
男達も少女が放つ独特のオーラ、格の違いのようなものを感じ取り完全に気圧されてしまっていた。
「アセ、リア」
舞はぼそりと呟いた。
忘れられる筈がなかった。
流麗にして美麗。優雅にして可憐。誰よりも美しく、誰よりも強い。
その姿は極めて鮮明に舞の頭の中で再生される。御伽噺の登場人物のようなリアリティの無さだ。
時計を抱えて走るウサギが可愛らしく見えるような本物の精霊――蒼の妖精がそこにはいた。
忘れられる筈がなかった。
流麗にして美麗。優雅にして可憐。誰よりも美しく、誰よりも強い。
その姿は極めて鮮明に舞の頭の中で再生される。御伽噺の登場人物のようなリアリティの無さだ。
時計を抱えて走るウサギが可愛らしく見えるような本物の精霊――蒼の妖精がそこにはいた。
□
《LeMU第二層「ツヴァイト・シュトック」遊園地ゲート付近(第零区画)――Vanishing twins》
「うぉぉぉぉおおおおおりゃあああああああ!!!!」
白鐘沙羅は絶好調だった。
なぜなら彼女の手元には自身が最も得意とする武器であるマシンガンが握られている。
25発の弾丸を瞬く間に撃ち尽くすと、逃走した兵士が持っていた予備のマガジンをそのまま弾倉に突っ込む。
ウージーの使用弾薬は9mmパラベラム弾。短機関銃や拳銃など今現在世界で最も広く使用されている弾丸だ。
なぜなら彼女の手元には自身が最も得意とする武器であるマシンガンが握られている。
25発の弾丸を瞬く間に撃ち尽くすと、逃走した兵士が持っていた予備のマガジンをそのまま弾倉に突っ込む。
ウージーの使用弾薬は9mmパラベラム弾。短機関銃や拳銃など今現在世界で最も広く使用されている弾丸だ。
加えて敵の兵士が持っていた武器も都合の良いことに同じ弾薬を用いる短機関銃だったのだ。
使用銃器はH&K MP5。ドイツのヘッケラー&コッホ社が製作した名銃である。
妙なことに型式が若干古いモデルを使っているようだが、当たらなければどうということはないのだ。
使用銃器はH&K MP5。ドイツのヘッケラー&コッホ社が製作した名銃である。
妙なことに型式が若干古いモデルを使っているようだが、当たらなければどうということはないのだ。
沙羅は辺りを走り回りながら弾薬をばら撒く。
そこら中に響き渡る銃撃音が心地良いBGMだ。
自分の中に《負ける》という未来予想図はこれっぽちも存在しなかった。
そこら中に響き渡る銃撃音が心地良いBGMだ。
自分の中に《負ける》という未来予想図はこれっぽちも存在しなかった。
自分はあの地獄の島の中で数多の参加者と戦い生き残ってきた女なのだ。
それがこんな場所であっけなく死ぬようなことがあるだろうか。
それがこんな場所であっけなく死ぬようなことがあるだろうか。
いや、ない。
もしもそんな臆病な自分が存在したとしたら、0,3秒でぶっ飛ばしてやる。
そして思いっきり頬目掛けてグーパンチだ。
ボコボコに殴り通した後で頭の中を入れ替えてやる。「そんな弱音吐いてんじゃない!」って叱り付けながら。
もしもそんな臆病な自分が存在したとしたら、0,3秒でぶっ飛ばしてやる。
そして思いっきり頬目掛けてグーパンチだ。
ボコボコに殴り通した後で頭の中を入れ替えてやる。「そんな弱音吐いてんじゃない!」って叱り付けながら。
白鐘沙羅は絶対に負けられない。
ソレは双樹の死を知った時から、今に至るまでずっと沙羅自身を突き動かして来た一つの信念だ。
自分は一人でこうしてここにいるのではない。
もっと沢山の人たちの意志、想い、願いを背負ってここに立っているんだ。
ソレは双樹の死を知った時から、今に至るまでずっと沙羅自身を突き動かして来た一つの信念だ。
自分は一人でこうしてここにいるのではない。
もっと沢山の人たちの意志、想い、願いを背負ってここに立っているんだ。
圭一。
美凪。
瑛理子。
そして恋太郎、双樹。
無念のまま苦しんで死んでいった他の参加者。
美凪。
瑛理子。
そして恋太郎、双樹。
無念のまま苦しんで死んでいった他の参加者。
そんな尊い人達の死があって、今の自分がある。
だから死ねない。
絶対に絶対に、最後まで意地を貫き通す。
這い蹲って全身が血塗れになって骨が砕け肉が裂けてもやらなければならないことが幾つもある。
だから死ねない。
絶対に絶対に、最後まで意地を貫き通す。
這い蹲って全身が血塗れになって骨が砕け肉が裂けてもやらなければならないことが幾つもある。
とはいえ。
羽入の不思議パワーによってLeMUに送られて来る寸前まで心の中は不安で一杯だった。
絶対に生きてこの島から抜け出す、そう強く心に誓っていた。
しかしそれでも全く見知らぬ場所に放り出されることに心を乱されなかったといえば嘘になる。
羽入の不思議パワーによってLeMUに送られて来る寸前まで心の中は不安で一杯だった。
絶対に生きてこの島から抜け出す、そう強く心に誓っていた。
しかしそれでも全く見知らぬ場所に放り出されることに心を乱されなかったといえば嘘になる。
しかしその不安は一瞬で消えた。
なんと、沙羅は生き残ったメンバーの中で最も高い戦闘能力を有するアセリアと同じ場所に飛ばされたのだ。
残存戦力的に考えれば、一刻も早く他の仲間と合流したい所ではあったが。
スタート地点は馬鹿みたいに広大なホールだった。そこから、アセリアの腕に抱かれながら遊園地の入り口までやって来た。
なんと、沙羅は生き残ったメンバーの中で最も高い戦闘能力を有するアセリアと同じ場所に飛ばされたのだ。
残存戦力的に考えれば、一刻も早く他の仲間と合流したい所ではあったが。
スタート地点は馬鹿みたいに広大なホールだった。そこから、アセリアの腕に抱かれながら遊園地の入り口までやって来た。
「アセリア、頼んだわよ……」
アセリアとは数分前にゲート付近で別れた。
そこら中に仕掛けられた罠や防壁、兵士の攻撃から彼女を守るためだ。
沙羅には特別な魔力や特技はなかったが、永遠神剣の重要性だけは十分に理解しているつもりだった。
ディー、というこの事件の黒幕的存在。
彼を撃滅するために、必ずこの力が必要になるはず。
それならばアセリアの力を温存するのは何よりも大切なことだろう。
そこら中に仕掛けられた罠や防壁、兵士の攻撃から彼女を守るためだ。
沙羅には特別な魔力や特技はなかったが、永遠神剣の重要性だけは十分に理解しているつもりだった。
ディー、というこの事件の黒幕的存在。
彼を撃滅するために、必ずこの力が必要になるはず。
それならばアセリアの力を温存するのは何よりも大切なことだろう。
故に追撃して来た兵士達の相手を一手に引き受けた。
もちろん、彼らと心中するつもりは更々ない。
一時的な足止め程度でお役目御免であることは理解している。
全員が生きて帰らなければ意味がない――十分頭に入っている。
もちろん、彼らと心中するつもりは更々ない。
一時的な足止め程度でお役目御免であることは理解している。
全員が生きて帰らなければ意味がない――十分頭に入っている。
何、問題はない。
少しやり合って見て分かったこと。
確かに素人に毛が生えた程度……とまで卑下するつもりはない。
確実に訓練は積んでいると思うしそれなりに実力はある、ちゃんとした兵隊だとは思う。
少しやり合って見て分かったこと。
確かに素人に毛が生えた程度……とまで卑下するつもりはない。
確実に訓練は積んでいると思うしそれなりに実力はある、ちゃんとした兵隊だとは思う。
だけど、その程度だ。
彼らは何と言えばいいのか。そう、現実味がない。
こうした真っ向からの撃ち合いに慣れていない印象がある。
圧倒的に数では勝っている筈なのに、陣形や連絡に関する不備が多過ぎるのだ。
温室部隊とまで揶揄するつもりはないが、おそらく彼らは工作や索敵といった裏方をメインにこなす兵士なのではないか。
彼らは何と言えばいいのか。そう、現実味がない。
こうした真っ向からの撃ち合いに慣れていない印象がある。
圧倒的に数では勝っている筈なのに、陣形や連絡に関する不備が多過ぎるのだ。
温室部隊とまで揶揄するつもりはないが、おそらく彼らは工作や索敵といった裏方をメインにこなす兵士なのではないか。
それに、脆い。彼らには自分達と違ってどこか余裕のようなものがある。
命を賭けるということ。その真剣さに欠ける。
命を賭けるということ。その真剣さに欠ける。
「当たると痛いわよ!! 雑魚は引っ込んでなさい!!」
「――ッ、ぐああああああああ!!」
「あ」
「――ッ、ぐああああああああ!!」
「あ」
牽制のつもりで発射した弾幕を躱し切れず、飛び出して来た一人の兵士がもんどり打って倒れる。
痙攣して血も出ているが死んではいない。
適当にぶっ放したとはいえ、さすがに殺すのは吝かではない。狙うのは主に下半身や銃を持った手の部分だ。今回も命中したのは太股と脇腹である。
痙攣して血も出ているが死んではいない。
適当にぶっ放したとはいえ、さすがに殺すのは吝かではない。狙うのは主に下半身や銃を持った手の部分だ。今回も命中したのは太股と脇腹である。
敵が人間、というのは難しい。
なぜなら相手はコチラに対して殺害上等で挑んでくるのに対して、沙羅はどうしても手加減をしてしまうからだ。
彼女は未だこの島で一人の人間も殺したことはなかった。
いや殺人経験があったとしても、こんな真っ向からの《戦争》をする気にはなれない、ようにも思える。
ヤクザの抗争なんかとは違う。恋太郎はたまに秋月組のお屋敷で仕事をしていたが、あくまで自分は探偵助手一号なのだ。
いかに戦場の空気が戦意を高揚させるとしても、無理なものは無理……とはいえ、
なぜなら相手はコチラに対して殺害上等で挑んでくるのに対して、沙羅はどうしても手加減をしてしまうからだ。
彼女は未だこの島で一人の人間も殺したことはなかった。
いや殺人経験があったとしても、こんな真っ向からの《戦争》をする気にはなれない、ようにも思える。
ヤクザの抗争なんかとは違う。恋太郎はたまに秋月組のお屋敷で仕事をしていたが、あくまで自分は探偵助手一号なのだ。
いかに戦場の空気が戦意を高揚させるとしても、無理なものは無理……とはいえ、
ま、いっか。死ななきゃ。
「ちょっと、そこのアンタ! 殺されたくなかったら私の質問に答えなさい!」
「ぐッ……! ふ、ふざけるな! ん……ま、待て! おいお前、何をするつもりだ!? や、やめ……もがッ!!」
「ぐッ……! ふ、ふざけるな! ん……ま、待て! おいお前、何をするつもりだ!? や、やめ……もがッ!!」
沙羅は銃弾を食らい地面に倒れ伏していた兵士の足を掴んで彼を暗がりに引き摺って行く。
足を撃たれている癖にじたばたと抵抗したので、少しだけイラッと来た。
気付いた時には男の口の中へデイパックから取り出したお玉の丸い方を突っ込んでいた。
ついでにロープで男の腕を後ろ手で縛る。
何故か物凄く関係ない理由で胸がスーッとした気がする。どうしてだろう?
足を撃たれている癖にじたばたと抵抗したので、少しだけイラッと来た。
気付いた時には男の口の中へデイパックから取り出したお玉の丸い方を突っ込んでいた。
ついでにロープで男の腕を後ろ手で縛る。
何故か物凄く関係ない理由で胸がスーッとした気がする。どうしてだろう?
こんな馬鹿なことをやりながらも当然周囲を警戒することは忘れない。
男が持っていたH&K MP5はすぐさま回収。デイパックのサイドポケットに放り込む。
ひとまず、安心出来る場所までやって来たことを確認すると改めて男に向けてウージーを突き付けた。
男が持っていたH&K MP5はすぐさま回収。デイパックのサイドポケットに放り込む。
ひとまず、安心出来る場所までやって来たことを確認すると改めて男に向けてウージーを突き付けた。
「いい? アンタに拒否権はないの。痛い目見たくなかったら聞かれたことだけ素直に簡潔に正確に答えること。OK?」
「ん――もがッ! ぶぐッ!」
「……あ。お玉入ったままだと何言ってるか分かんないか」
「ん――もがッ! ぶぐッ!」
「……あ。お玉入ったままだと何言ってるか分かんないか」
沙羅はぽん、と掌を叩くと男の口からお玉を引っこ抜いた。
少し汚い気がしたのでそのままソレをぽいっと放り投げる。
少し汚い気がしたのでそのままソレをぽいっと放り投げる。
「ッ……捕虜の扱いという者を知らないのか、お前は!!」
「残念ながら、鬼畜野郎に手心を加えられるほど上品に育った訳じゃないの。ゴメンなさいね」
「残念ながら、鬼畜野郎に手心を加えられるほど上品に育った訳じゃないの。ゴメンなさいね」
別に沙羅はサディストでもないし、女王様よろしく変なマスクを被ったりもしていない。
少しだけイライラしたから男を手荒く扱ってしまっただけの話だ。
少しだけイライラしたから男を手荒く扱ってしまっただけの話だ。
コスプレをするとその格好が精神状態に影響を与えると言う。
しかし沙羅は武や瑞穂や梨花のような、コスプレ軍団の仲間入りをしてはいない。
この島に放り出された時からずっと同じ黒のロングスカートと学校の制服。もう同じ服を三日間着っ放しなのでヨレヨレだ。
決して地味ではないと思う。どちらかと言えば目立つ方だ。
しかし沙羅は武や瑞穂や梨花のような、コスプレ軍団の仲間入りをしてはいない。
この島に放り出された時からずっと同じ黒のロングスカートと学校の制服。もう同じ服を三日間着っ放しなのでヨレヨレだ。
決して地味ではないと思う。どちらかと言えば目立つ方だ。
「抵抗しても無駄よ。私の仲間は凄く強いんだから。口を塞いでも良いことなんて一つもないわ」
懐から取り出したワルサーP99を構えながら山狗を睨み付ける。
鉄の銃口が男の喉下を突き上げる。人差し指はトリガーへ。いつでも発射に移れる体勢だ。
もっとも、彼がすぐに口を割るとは思っていない。
どうせ適当な受け応えしかしないのだから、一つか二つ情報を引き出したら昏倒させて身包みを剥いでアセリアを追いかけるべきだろう。
鉄の銃口が男の喉下を突き上げる。人差し指はトリガーへ。いつでも発射に移れる体勢だ。
もっとも、彼がすぐに口を割るとは思っていない。
どうせ適当な受け応えしかしないのだから、一つか二つ情報を引き出したら昏倒させて身包みを剥いでアセリアを追いかけるべきだろう。
「まぁ……いいだろう、どうせお前達はもうすぐ散る命だ。何でも答えてやろう。
死ぬ前に自分達が置かれた状況が、どれだけ絶望的かを思い知っておくのもいいだろう」
「……あら」
死ぬ前に自分達が置かれた状況が、どれだけ絶望的かを思い知っておくのもいいだろう」
「……あら」
予想外の返答。つまりは『何でも聞いて来い』ということか。
男はニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべながら沙羅を嘲笑う。
明らかにピンチなのは自分の筈なのに、どこまでも沙羅を舐めた態度だ。
思わず蹴り飛ばしてやりたくなったが当然、そんな衝動は押し潰す。相手が余裕ぶって話す気になっているうちが花なのだ。
男はニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべながら沙羅を嘲笑う。
明らかにピンチなのは自分の筈なのに、どこまでも沙羅を舐めた態度だ。
思わず蹴り飛ばしてやりたくなったが当然、そんな衝動は押し潰す。相手が余裕ぶって話す気になっているうちが花なのだ。
「質問一、あんたら何人くらいいるの?」
まずは牽制。
「……山狗は十三人一組だ。その小隊が四つ、合計五十二人……まぁこちらの事情で若干の誤差はある。その他の職員もいるしな」
「あんた達の装備は?」
「あんた達の装備は?」
これはとっておき。兵士にとって自らの装備を告白することは、完全な降伏行為に近い。
「隊によって、多少の差はある。俺達《白鷺》はH&K MP5に予備弾薬九十発にナイフと無線機」
「へぇ、結構豪華じゃない。さっさと寄越しなさい」
「……全部、バッグの中だ。ナイフは腰のホルダーに入っている」
「へぇ、結構豪華じゃない。さっさと寄越しなさい」
「……全部、バッグの中だ。ナイフは腰のホルダーに入っている」
微妙、だ。
特に兵士の数など適当なことを言われても、こちらが確信を持てる筈がない。
確かに弾薬は男の言った通りだった。ナイフの位置も正確。
特に兵士の数など適当なことを言われても、こちらが確信を持てる筈がない。
確かに弾薬は男の言った通りだった。ナイフの位置も正確。
だが情報自体は凝った眼で見ることしか出来ない。
信憑性などゼロに等しい。所詮参考程度だ。
信憑性などゼロに等しい。所詮参考程度だ。
「……次。武器庫と弾薬庫の位置を教えなさい」
「俺みたいな下っ端が詳しい場所を全て把握している訳がないだろう? どの階にもある、ぐらいしか言えんさ」
「俺みたいな下っ端が詳しい場所を全て把握している訳がないだろう? どの階にもある、ぐらいしか言えんさ」
無線機の機能を確かめながら沙羅は思考を巡らせる。
男のバッグの中には他にも基地内の地図など役に立つ代物も多く入っていた。
これなら一足先に奥へと向かったアセリアを追い掛けることも造作はないだろう。
だが、
男のバッグの中には他にも基地内の地図など役に立つ代物も多く入っていた。
これなら一足先に奥へと向かったアセリアを追い掛けることも造作はないだろう。
だが、
「……ってかさ」
「なんだ?」
「どうしてアンタそんなにペラペラ喋る訳? ダンマリで時間稼ぐとか考えないの?」
「なんだ?」
「どうしてアンタそんなにペラペラ喋る訳? ダンマリで時間稼ぐとか考えないの?」
どう考えても、ココまで何もかもが上手く行く筈がないだろう。
いくら銃を突きつけられているとはいえ、ここまで内部情報を配慮なしに公言してしまうのは変にも程がある。
嘘をつくにしてもやり方というものがあるだろう。
仲間に合図を送るために、会話を引き伸ばしたり、コチラを挑発するなど例を挙げればキリがない。
嘘をつくにしてもやり方というものがあるだろう。
仲間に合図を送るために、会話を引き伸ばしたり、コチラを挑発するなど例を挙げればキリがない。
「そう……だな。俺も山狗の一員だ。参加者であるお前に言えることは少ない……が、」
突然、真面目な顔付きになった男が顔を伏せた。
口元の嫌味な笑みが消失する。
口元の嫌味な笑みが消失する。
「……こちら側の人間が皆、三佐の意見に賛同していると思われては困る」
「へぇ……。案外、一枚岩でもないってことかしら」
「まさか。ここまで大規模な殺戮だ、歓んで遂行出来る者ばかりな訳がないだろう」
「へぇ……。案外、一枚岩でもないってことかしら」
「まさか。ここまで大規模な殺戮だ、歓んで遂行出来る者ばかりな訳がないだろう」
バッ、と視線を上げた山狗の顔に滲む自責の感情を沙羅は感じ取った。
常識に沿って考えてみれば当然……なのだろうか。
確かにこの殺し合いは大半の参加者が十代の少年少女である。
いかに訓練を積んだ兵士といえど、そんな年頃の人間が互いを傷付け、憎み合う光景を進んで見たいとは思わないのかもしれない。
良心の呵責という奴か。ソレにしては少々虫が良いような気もするが。
確かにこの殺し合いは大半の参加者が十代の少年少女である。
いかに訓練を積んだ兵士といえど、そんな年頃の人間が互いを傷付け、憎み合う光景を進んで見たいとは思わないのかもしれない。
良心の呵責という奴か。ソレにしては少々虫が良いような気もするが。
「そんなに、最悪な光景だったの」
「こちらとしてもあまり進んで口にしたい話題ではないんでな。
そもそも死んでいったどの参加者についても雄弁に語れる訳ではない。だが……、」
「だが、何よ」
「白鐘沙羅。お前の――姉の最期についてなら、話してやることが出来る」
「……え」
「こちらとしてもあまり進んで口にしたい話題ではないんでな。
そもそも死んでいったどの参加者についても雄弁に語れる訳ではない。だが……、」
「だが、何よ」
「白鐘沙羅。お前の――姉の最期についてなら、話してやることが出来る」
「……え」
"名前"が呼ばれたのは第一放送の時。
もしかしたらもう、二日も前の出来事になってしまうのかもしれない。
気付いた時、沙羅はその名を口ずさんでいた。
もしかしたらもう、二日も前の出来事になってしまうのかもしれない。
気付いた時、沙羅はその名を口ずさんでいた。
「双……樹?」
□
《LeMU第二層「ツヴァイト・シュトック」ファンタジーランド(第四区画)――蒼と黒》
アセリア・ブルースピリット。
サファイアのような蒼い髪と白い甲冑を身に纏った小柄な少女。
この島で相対した唯一の剣士。自分と同じ剣を持ち、剣に生きる騎士。
サファイアのような蒼い髪と白い甲冑を身に纏った小柄な少女。
この島で相対した唯一の剣士。自分と同じ剣を持ち、剣に生きる騎士。
見た目が違うのは当たり前のことだ。
しかし、それより何より両者を隔てる確固たる差を生み出しているものがあった。
それは心。
剣士や騎士にとって最も優先されるべき事項――
しかし、それより何より両者を隔てる確固たる差を生み出しているものがあった。
それは心。
剣士や騎士にとって最も優先されるべき事項――
何のために剣を振るうのか。
何のために戦うのか。
何のために戦うのか。
舞は人形だった。
倉田佐祐理が生きている、という餌に釣られ殺戮を繰り返す玩具。
その心は脆く、不確かでそして気付けば空っぽになってしまった。
彼女の中にはもう、戦いしか存在しない。
遠野美凪が差し出したその掌を振り払った彼女にとって、己の存在理由はそこにしかなかった。いや在ってはならないのだ。
倉田佐祐理が生きている、という餌に釣られ殺戮を繰り返す玩具。
その心は脆く、不確かでそして気付けば空っぽになってしまった。
彼女の中にはもう、戦いしか存在しない。
遠野美凪が差し出したその掌を振り払った彼女にとって、己の存在理由はそこにしかなかった。いや在ってはならないのだ。
戦い以外のものは全て、気付けばなくなっていた。
舞にとってその"何か"はとっくに捨ててしまった筈の物。
倉田佐祐理の死。それは彼女にとって、重く辛い十字架を背負わせることとなった。
故に彼女は自身を修羅道へと叩き落し、何人もの人間の命を奪ったのだから。
倉田佐祐理の死。それは彼女にとって、重く辛い十字架を背負わせることとなった。
故に彼女は自身を修羅道へと叩き落し、何人もの人間の命を奪ったのだから。
もはや彼女に日常はなく、心休まる瞬間も存在しない。
誰からも理解などされず、気狂いの烙印を押されながらも親友のために戦いを重ねた。
その手を血で汚した。心を、殺した。
誰からも理解などされず、気狂いの烙印を押されながらも親友のために戦いを重ねた。
その手を血で汚した。心を、殺した。
「……難しい、局面だな」
アセリアが左手の指先で口元を軽く撫でながら言った。
キョロキョロと辺りを見回し、落ち着かない様相を示す。
だが、その反応はあくまで『LeMUの内部にて川澄舞と遭遇したこと』について。
自分達の周りを今この瞬間も銃器を持った兵士達に取り囲まれいていることに関してはとことん無関心である。
キョロキョロと辺りを見回し、落ち着かない様相を示す。
だが、その反応はあくまで『LeMUの内部にて川澄舞と遭遇したこと』について。
自分達の周りを今この瞬間も銃器を持った兵士達に取り囲まれいていることに関してはとことん無関心である。
「…………"存在"か」
舞の右手に今も強く握り締められているその剣を一瞥する。
神剣の使い手は永遠神剣の反応を探ることが出来る。
ほとんど純粋な力押しにだけ、魔力を使っていた舞にこの能力を有効活用することは出来なかった。
しかし、元々永遠神剣での戦闘に慣れたアセリアにとっては別。加えて自身の相棒とも言うべき「存在」ならば尚のことだ。
神剣の使い手は永遠神剣の反応を探ることが出来る。
ほとんど純粋な力押しにだけ、魔力を使っていた舞にこの能力を有効活用することは出来なかった。
しかし、元々永遠神剣での戦闘に慣れたアセリアにとっては別。加えて自身の相棒とも言うべき「存在」ならば尚のことだ。
だが、舞は目の前に現れたアセリアの表情を見て思った。
少女が明らかに前回出会った時に比べて何かが違っている、と。
少女が明らかに前回出会った時に比べて何かが違っている、と。
訝しげに自身を見つめる舞の視線を受け止め、アセリアは小さく首を傾けた。
その瞬間、舞は確信する。
その瞬間、舞は確信する。
1+1が2であるように、
少女が女へと成長するように、
昼の次が夜であるように、
当たり前のように。
少女が女へと成長するように、
昼の次が夜であるように、
当たり前のように。
感じる。
彼女の中から溢れる強烈な活気、エネルギーを。
見える筈のない形而上の存在である筈のオーラ、生命力の波が波紋となってひしひしと伝わってくるようなのだ。
彼女の中から溢れる強烈な活気、エネルギーを。
見える筈のない形而上の存在である筈のオーラ、生命力の波が波紋となってひしひしと伝わってくるようなのだ。
人形とは空っぽの人間のことを差す。
それ故に似たものの存在、そして真逆の存在を敏感に感じ取る。
それ故に似たものの存在、そして真逆の存在を敏感に感じ取る。
あの時のアセリアは確かに胸の内に多少の光を宿していたようにも思えたが、それでもまだ自分に近い存在だったように思える。
感情の使い方やぶつけ方を知らない。赤子のようなものだった。
だが、今。
この瞬間の彼女の印象とその記憶から心情的な類似性を見出すことは困難だ。
感情の使い方やぶつけ方を知らない。赤子のようなものだった。
だが、今。
この瞬間の彼女の印象とその記憶から心情的な類似性を見出すことは困難だ。
精霊。
妖精。
そんな幻想的な通称で彼女を表すことはもちろん可能だ。
だけど、それ以上に――彼女は《人間》と呼んだ方がよっぽど適切だ。
この島での出来事が彼女に成長をもたらした、そう判断するべきか。
妖精。
そんな幻想的な通称で彼女を表すことはもちろん可能だ。
だけど、それ以上に――彼女は《人間》と呼んだ方がよっぽど適切だ。
この島での出来事が彼女に成長をもたらした、そう判断するべきか。
「マイ。お前がミナギとハクオロを殺したと聞いた」
舞はアセリアの問い掛けにこくりと頷く。
否定する理由はなかった。
彼女はそもそもあの場に居た人間と合流している。
それはつまり、一部始終を知られているということ。シラを切る必要などこれっぽちもない。
否定する理由はなかった。
彼女はそもそもあの場に居た人間と合流している。
それはつまり、一部始終を知られているということ。シラを切る必要などこれっぽちもない。
「どういう……つもり? 何で、助けるの」
「ん、誰かが襲われているのが見えたから。まさか……マイだとは思わなかったが」
「そう……」
「ん、誰かが襲われているのが見えたから。まさか……マイだとは思わなかったが」
「そう……」
殺され掛かった所を彼女が自分の仲間だと勘違いした訳か。
もしかしたら他に協力者でもいるのかもしれない。だが、一時的に状況が回復したように見えただけだ。
なぜなら、アセリアが自分を許す筈などないのだから。
そう、川澄舞はとびっきりの人殺しだなのだ。
もしかしたら他に協力者でもいるのかもしれない。だが、一時的に状況が回復したように見えただけだ。
なぜなら、アセリアが自分を許す筈などないのだから。
そう、川澄舞はとびっきりの人殺しだなのだ。
「次に会う時は……本気で殺しに来て、そう言ったはず……」
舞には命乞いをする意志など微塵もなかった。
もっとも、友好的な解答が返って来る確立などゼロに近いのだろうが。
このまま自分を置いて飛び立って行こうが彼女を恨む気はない。
何もかもを一人でやり遂げる、佐祐理を救って見せる。それだけを考えて殺し合いに乗ったのだ。
もっとも、友好的な解答が返って来る確立などゼロに近いのだろうが。
このまま自分を置いて飛び立って行こうが彼女を恨む気はない。
何もかもを一人でやり遂げる、佐祐理を救って見せる。それだけを考えて殺し合いに乗ったのだ。
だが、
「何故だ? 私には……今のお前と戦う理由は存在しない。
いいから、立て。まだ……お前には余力があるだろう? 話はこの場を……切り抜けてからだ」
いいから、立て。まだ……お前には余力があるだろう? 話はこの場を……切り抜けてからだ」
クルッと少女は倒れる舞に背中を向けた。
そしていつの間にか自分達を完全に取り囲んでいた山狗達に向けて、剣を構える。
それは馬鹿でも分かる答えだった。
戦士にとって最も無防備な背後を見せる、という行為が意図するものは一つしかない。
そしていつの間にか自分達を完全に取り囲んでいた山狗達に向けて、剣を構える。
それは馬鹿でも分かる答えだった。
戦士にとって最も無防備な背後を見せる、という行為が意図するものは一つしかない。
――背中を任せる、つまりこちらを信頼しているということ。
意味が分からなかった。舞は少女がイカレているのではないかと思った。
酔狂も良い所だ。いや、絶対にどこかがおかしい。
それだけアセリアの答えは常識から懸け離れたものだった。
酔狂も良い所だ。いや、絶対にどこかがおかしい。
それだけアセリアの答えは常識から懸け離れたものだった。
自分は殺人鬼だ。
自分は悪人なのだ。
自分は悪人なのだ。
何故、助ける? あまつさえ背中を預けるだと? 共闘でもしようというのか?
まるで意味がない。
その身を危険に晒してまで、こんな血塗れの人殺しに手を貸す義理などこれっぽちもないのだ。
まるで意味がない。
その身を危険に晒してまで、こんな血塗れの人殺しに手を貸す義理などこれっぽちもないのだ。
それにアセリアの力は鷹野を初めとした、主催側の人間を打ち倒すのに絶対必要な要素の筈だ。
彼女が持っている永遠神剣の力は有限。源となる魔力は絶対に温存されるべきなのだ。
剣を交えた者の情けだとでも言うのか。目の前に居る女が何人の命を奪い、どれだけの人間を傷付けたか知らない訳がない。
彼女が持っている永遠神剣の力は有限。源となる魔力は絶対に温存されるべきなのだ。
剣を交えた者の情けだとでも言うのか。目の前に居る女が何人の命を奪い、どれだけの人間を傷付けたか知らない訳がない。
「ふざけ……ないでッ!! 知ってる……筈。私は人殺し。そこの兵士達だけじゃない、参加者だって何人も殺した。
今だってアナタの背中を切りつけるかもしれない、すぐに裏切るかもしれない!
信用出来る要素なんて……これっぽちも無いのにっ!」
今だってアナタの背中を切りつけるかもしれない、すぐに裏切るかもしれない!
信用出来る要素なんて……これっぽちも無いのにっ!」
舞はアセリアの背中ををキツく睨み付けながら大声で叫んだ。
湧き上がるのは少女に対する強い疑念。そして戸惑いだった。
湧き上がるのは少女に対する強い疑念。そして戸惑いだった。
「――それでも、私達は……同じ参加者だ。だからこんな殺し合いを企んだ連中を倒す。
マイも同じ気持ちだから、ここに乗り込んで来た……違うのか?」
マイも同じ気持ちだから、ここに乗り込んで来た……違うのか?」
自然に、当たり前のように少女の背中は悠然と語る。
二枚の翼の間から覗く小さなその肩がやけに頼もしく見えた。
ずきり、と舞の胸が痛んだ。
自分が《とある人間》と背中を合わせ、《何か》と戦った過去の出来事が蘇る。
二枚の翼の間から覗く小さなその肩がやけに頼もしく見えた。
ずきり、と舞の胸が痛んだ。
自分が《とある人間》と背中を合わせ、《何か》と戦った過去の出来事が蘇る。
舞の身体に得体の知れない感覚が生まれた。
それは暖かくも冷たくもない、言葉にするならばそう――気概とでも言うべきか。
意地だった。
自分が堕ちたこと。もはや笑い合うような日常に帰れないことは痛いほど分かっている。
それでもなお、鷹野達の基地に乗り込んできたのは全てを確かめたいという意志があったからだ。
それは暖かくも冷たくもない、言葉にするならばそう――気概とでも言うべきか。
意地だった。
自分が堕ちたこと。もはや笑い合うような日常に帰れないことは痛いほど分かっている。
それでもなお、鷹野達の基地に乗り込んできたのは全てを確かめたいという意志があったからだ。
理性では理解している。
佐祐理は死んだんだ。放送の通り、ずっとずっと前に。
考えてみれば一人の参加者だけ特別扱いして救助をするなんて、そんな馬鹿げたことがある訳がない。
佐祐理は死んだんだ。放送の通り、ずっとずっと前に。
考えてみれば一人の参加者だけ特別扱いして救助をするなんて、そんな馬鹿げたことがある訳がない。
だけど心は理解出来ない。
いや、認めることなんて出来る筈がないんだ。
佐祐理は死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ。
残響となって脳髄を駆け巡るその概念に胸を引き裂かれてしまいそうだ。
いや、認めることなんて出来る筈がないんだ。
佐祐理は死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ。
残響となって脳髄を駆け巡るその概念に胸を引き裂かれてしまいそうだ。
だけど、どちらにしろ共通していることがあった。
――それは、川澄舞にこんな場所で倒れている暇なんてないということ。
「……ッ! はっ、ああぁぁああああっ!!」
舞は「存在」を杖代わりにして傷付いた身体を無理やり持ち上げる。
心を、奮い立たせる。
倒れる訳にはいかない。自分にはやらなければならないことがある。
武器だってあるのだ。何人もの血を吸ったこの災禍の塊はまだ手の中にある。
心を、奮い立たせる。
倒れる訳にはいかない。自分にはやらなければならないことがある。
武器だってあるのだ。何人もの血を吸ったこの災禍の塊はまだ手の中にある。
剣は折れていない。
骨だってまだ十分に動かせる。
魔力だってそれなりに回復はした。
瞳は一つ失ったけど、それでももう一つ同じものがある。
骨だってまだ十分に動かせる。
魔力だってそれなりに回復はした。
瞳は一つ失ったけど、それでももう一つ同じものがある。
だから《心》だって折れる訳がないのだ。
身体をゆらりと起こし、デイパックの中から例の道具を取り出す。
目的の物はすぐさま見つかった。白濁色のガラス瓶に入った薬品だ。ラベルには『morphine』と大きく記されている。
細かい説明も下に英語で書かれているが、そんな説明書きを気にしている余裕などない。
乱暴に瓶の蓋を開け、中のタブレットを口内に一気に放り込む。
目的の物はすぐさま見つかった。白濁色のガラス瓶に入った薬品だ。ラベルには『morphine』と大きく記されている。
細かい説明も下に英語で書かれているが、そんな説明書きを気にしている余裕などない。
乱暴に瓶の蓋を開け、中のタブレットを口内に一気に放り込む。
即効性ではないにしろ、少しだけ気が楽になったような感じはする。
なにしろアヘンから造り出すアルカロイドの一種だ。プロシーボとしての効果も折り紙付きだろう。
戦闘中に痛みに膝を付くようなことがあってはならない。
なにしろアヘンから造り出すアルカロイドの一種だ。プロシーボとしての効果も折り紙付きだろう。
戦闘中に痛みに膝を付くようなことがあってはならない。
「……危なく、なっても。手助けは……しない、から」
「ん。だが私はマイが危なくなったら助けるぞ?」
「ん。だが私はマイが危なくなったら助けるぞ?」
当たり前のように答えるアセリア。
ふっと肩の力が抜けた気がした。彼女はそういう人間。
こんな台詞を自然と口にすることが出来る純粋な心を持った人間なのだ。
ふっと肩の力が抜けた気がした。彼女はそういう人間。
こんな台詞を自然と口にすることが出来る純粋な心を持った人間なのだ。
「どうでも、いい。勝手に……したら」
世話になど、なるものか。
白銀の翼の生えた少女と背中を向かい合わせる。存在の柄を握り締める。
まだまだやれる、筈だ。
白銀の翼の生えた少女と背中を向かい合わせる。存在の柄を握り締める。
まだまだやれる、筈だ。
「た、隊長! 我々はどうすれば……」
「う、うろたえるな! いかにあちらの数が増えようともこっちが何人いると思っている!
銃が当たればいかに奴らといえど……」
「う、うろたえるな! いかにあちらの数が増えようともこっちが何人いると思っている!
銃が当たればいかに奴らといえど……」
兵士達がおろおろしながらようやく口を開いた。
撃つ機会は十分にあった筈なのに。いや、アセリアの存在がそうさせなかったとでも言うべきか。
だが、やはり拙い。
舞は肩で息をしながら辺りを見回した。視界の中にいる兵士の数は全部で八。全員が機関銃を構えている。
撃つ機会は十分にあった筈なのに。いや、アセリアの存在がそうさせなかったとでも言うべきか。
だが、やはり拙い。
舞は肩で息をしながら辺りを見回した。視界の中にいる兵士の数は全部で八。全員が機関銃を構えている。
「……アセリア」
「何だ、マイ」
「他の……参加者は?」
「このエリアのゲート付近でサラが足止めをしている。ミズホ達は別の場所に飛ばされたと思う」
「そう」
「何だ、マイ」
「他の……参加者は?」
「このエリアのゲート付近でサラが足止めをしている。ミズホ達は別の場所に飛ばされたと思う」
「そう」
この遊園地の入り口ならば大して時間は掛からないだろう。
鷹野三四の元に辿り着くにしても、この兵士達の存在は厄介だ。
一人一人に大した武力はないとしても、銃器を持っている点は無視できない。
ならば、他の参加者と形の上だけでも協力し、鷹野がいる場所へと向かうのが最善の策ではないか。
鷹野三四の元に辿り着くにしても、この兵士達の存在は厄介だ。
一人一人に大した武力はないとしても、銃器を持っている点は無視できない。
ならば、他の参加者と形の上だけでも協力し、鷹野がいる場所へと向かうのが最善の策ではないか。
「……五分で、片付けて白鐘沙羅と合流。その後、敵を倒しながら……鷹野三四の所へ向かう」
「ん……五分か」
「足りない?」
「いや……、」
「ん……五分か」
「足りない?」
「いや……、」
ちらりと背後のアセリアの表情を盗み見る。
アセリアも振り返る。そして誇りに満ちた戦士の顔のまま、さも当然のように言った。
アセリアも振り返る。そして誇りに満ちた戦士の顔のまま、さも当然のように言った。
「――三分もあれば十分だ」
□
211:?? | 投下順に読む | 211:三人でいたい(Ⅱ) |
211:?? | 時系列順に読む | 211:三人でいたい(Ⅱ) |
210:We Survive(後編) | 川澄舞 | 211:三人でいたい(Ⅱ) |
210:We Survive(後編) | アセリア | 211:三人でいたい(Ⅱ) |
210:We Survive(後編) | 白鐘沙羅 | 211:三人でいたい(Ⅱ) |
204:そして、「 」 | ハウエンクア | 211:三人でいたい(Ⅱ) |
208:機神胎動 | メカ鈴凛 | 211:三人でいたい(Ⅱ) |