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哀しいと云えず云わず強がる理由を教えて/生き続ける事にきっと意味があるから。諦めないで、生きることを◆UcWYhusQhw






――教えて”強さ”の定義
自分 貫くことかな
それとも自分さえ捨ててまでまもるべきもの守る事ですか?






(ここに来たら叩き潰すだけ……ただそれだけなんだ)
自分は未だに迷っていた。もうすぐ参加者がこちらに来るというのに。
振り切ろうにも振り切れない。
彼らが大神に抗うことなど出来る筈が無い。
ここで叩き潰すのがせめてもの情け。
そう思っているのに。

(何故だ……何故それを自分は受け入れる事ができない……自分は彼らの足掻きを認めるのか?……いや認めてはいけない……いけないんだ)
そう認めてはいけないのだ、彼らの足掻きを。
認めれば何かが音を立てて崩れてゆく気がして。
例えそれが自分の意志に反していても。

(こんな時、祖父なら……いや絶対反対するだろう。エヴェンクルガのプライド、武士としてプライドが絶対赦さないはずだ……自分は)
祖父、ゲンジマルならばたとえその命が潰えたとしてもこの殺し合いを否定するだろう。
彼のプライドが赦さないはずなのだから。
……自分には無いのだろうか、武士としてのプライドが。
いや、ある筈だ。プライドも誇りも。
なら、真っ向に反対すべきではないか、その誇りにかけて。
たとえ、それが背く事でも。
参加者に手を差し伸べるべきなのかもしれない。

(それに……自分が今まで戦った人間は兵士。そう戦争で、だ。しかし、今回向かってくるのは殆どが戦慣れしてない子供だ……自分の剣は子供に向けるものなのか)
そして自分が戦うのは子供達ばっかだ。
本来守るべき筈の。
自分の剣は子供を切れるのか?
分からない。
やはり、守るべきなのか。
自分にあった筈の信念の元に。
例え、それが裏切りでも。

(……いや、それはもう遅い……遅すぎるんだ。遅すぎる……感傷はやめよう……今はただ何も考えなくていい……ただ屠るだけ)
そして自分は考えることをやめた。
不毛過ぎる。
そう、もう遅いのだ。
今更なのだから。
だから屠るだけ。
それだけなのだ。

(さあ……相手は誰だ? 幸いここは広い。思う存分戦える)
だから今はただ、戦いを待つだけ。
自分に向かうのは誰だ。
桑古木と同じく永遠を謳う者か。
不思議な力を持つ羽の生えた女か。
それとも、集団でかかってくるか。

どちらにしても不足は無い。
幸い広く暴れ回れる場所だ。
力を十分に使える最適ともいえる場所。
どんな強い者でもこの先は通しはしない。

そしてどれくらいの時ぐらいが経ったのだろうか?
「遂に……来たか……む?」
その参加者はこの場にやって来た。

だが予想とは随分違う。
まさか……まさか。

「おう……やっぱでけーな」

こんな小さな少女一人なのか。
生き残ってる中でも力の無いこの少女が自分の相手なのか。
確かずっと守られて生きていた少女だったはず。

そんな……自分にこんな無力な存在を殺せというのか。

自分には……自分にはできるのか?

自分に無力な少女を屠る事なんか……。
どうしてもっと力がある者ではないのか。
それなら対等の勝負が出来るというのに。
この少女じゃ話にならない。ただの虐殺で終わる。

自分はこれから戦う相手の方を向く。
その少女はなんとも無垢な瞳をこちらに向ける。

これから戦いが始まるというのに私の心は完全に揺れ動いてしまった。

自分の刃はこんな少女を斬る為にあるのか……教えてください……偉大なる祖父よ。




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「んあ……着いたのか? 皆はいないのか? はぐれちまったのか……にしても誰も居ないぜ。敵の一人くらい居ると思ったんけどさ」
きぬが飛ばされ辿り着いた場所はかなり広い場所。
LeMWの中でもっとも大きい広さを持つ一階、ただそこに佇んでいた。
ともにいた仲間は居なくきぬ1人である。
しかしきぬの予想と違いそこにはだれも居なく、ただ壁から見えるとても綺麗な魚が泳ぎ回っていただけ。

きぬは不審に思いつつも進み始める。
拍子抜けはしたものの進む事には変わらない。
自分の目的は鷹野を倒す事、それ故に止まる理由がなかった。
とりあえず仲間と合流しようときぬが考えた時それは居た、大剣を構えて。

「……げっ……簡単に通らせてくれるとは思ってないけどさ、ありゃねーよ……あのロボ」
それは武達が戦ったロボ、アブ・カムゥ。
全長5メートルにも達そうかという巨人は、あの屈強な武達すらも追い詰めたという。
それ程の強敵が、今自分の進路に立ち塞がっていた。
可能なら戦闘を回避したい所だが、行く手を塞がれているのだ、アレを倒さなければ進めない。

「勝てんのかよ……いや、かつんだ! 大丈夫、弱点も聞いてるし、この槍もある。負けられないんだよ。ボクは!」
そう、今のきぬに諦めるという言葉はない。
きぬも力を手に入れたのだ。献身という力を。
それに弱点も聞いてる、そこを攻めれば勝機は見える。
何より負けられないという気迫がきぬを進ませ続ける。
生きる、ただそれを胸に。
だから、きぬは向かっていく、目の前の巨人へ。

きぬはアヴカムゥの前に着きそれを見上げる。
「おう……やっぱでけーな」
自分の背の何倍であろうか、その大きさだけで十分威圧感があった。
そしてそのアブカムゥと目が合う。
きぬは槍を構え戦闘の準備をしたが襲ってくる気配がなかった。

「自分の名はヒエン。そなたの名は?」
「蟹沢きぬだぜ」
「そうか……まだ抗うのか? このアブカムゥを見ても怖がらないのか? そなたには力は無い筈だろう」
ヒエンは改めて本人に問う。
力の無いきぬが抗う理由を。

「当たり前だ! ボクは進まなきゃ駄目なんだ。どんなものでもぶっ潰す! 迷う訳にはいかないんだよ!」
「……そうか。意志は固いか。羨ましいな……自分はまだ迷っている。本当にこれが正しい道なのか……自分は……」
「お前は……」

(こいつ……もしかして無理矢理連れてこられたのかよ……祖母さんみたいに迷ってる)
きぬはそんなヒエンの様子を見て一人の人を思い出した。
それは純一の祖母。
彼女はここに騙されたような形で連れてこられてきた。
そして迷っていた……自分がどうするべきかと。
そんな彼女の事を考えると、もしかしてこの男もそうじゃないかと思えた。
顔は見えないけど声は迷っているように思えた。
(純一はこいつを止めるだろうな……ボクは……でもこいつは主催側なんだよ、罪が……いや何言ってんだよボク。罪とか関係ないって言ったんじゃないか。
 それに純一の意志は継ぐと決めたんだ。ならボクが出来るのなら……ボクはそれをやり通す。こいつを止めてみせる。純一もきっと望む!)
そしてきぬは決意する、この前に居る男を止めると。
この男は主催側なのだ。決して怒りがないというわけではない。
でも純一はそれでも止める筈、その罪とか関係無しに。
利用されてるだけの人間ならなおさらだ。
自分はあの時決めたのだ、純一の信念を継げたらと。
ならやろう、自分が出来る事を。
だからきぬは動く、この男をこちら側に戻す為に。
純一もきっと望むと思って。

「なあヒエンといったよな? お前、止めようぜこんな事」
「……何を言う? きぬ殿」
「だっておめー迷ってるんだろう? ならこんな事をすべきじゃないぜ。ボクはあんたがこんな事をする人間に思えねえ、だってこんなに迷ってるだろ」
「何故……そう思う、私は黙って見てることしか出来なかった! 所詮は無理だとそう諦めて! 抗う事なんか無駄なんだ!」
「ほら……迷ってるじゃんか。必死に自分に言い聞かせてるだろ。無駄だって! ヒエン! 抗う事は無駄なんかじゃねーんだ!
 それに後悔してる……何も出来なかったって! 大丈夫だぜ! まだ間に合うから! 諦めず最後まで貫く事はできるんだ!必ず!」
きぬの叫びは部屋中に響く。
万感の思いをのせて。

(どうして、自分を止めようとする? やめろ! 止めてくれ!)
ヒエンは苦しかった、自分の心が見透かされてるような気がして。
まさか止められるとは思わなかった。
無垢な少女な純粋な思いがヒエンを苦しめる。
だからそれを追い払うように強引に、
「もう止めろ! もう遅い! 戦おう、きぬ殿。自分にはもうこれしか無いのだ!」
「ヒエン! 違うって!」
「いいのだ……ここは今、きぬ殿と自分しかいない。戦おう。進み続けるのだろう? なら超えてみろ」
ヒエンのアブカムゥが剣を構える。
もう話し合いしないという意志を篭めて。
そして自分の心の迷いを断ち切るように。

「……畜生、諦めねーぞ。ボクは……なら戦って納得させる!」
きぬも、悔しがりながらも槍を構える。
もう戦うしか無い。
なら、自分の力で止めてみせる、そう考えて。

そして、
「さあこい! 自分を倒してみろ!」
「諦めるかよ! ボクは!」
開戦の鐘はなった。お互いの疾駆を持って。




「うおおおおおおおおおお!」
まず先手をきったのはきぬ。
「献身」の強化により凄まじい速度でヒエンの方に走り向かう。
そして手に持つは、献身と散弾銃ペネリM3。
アブカムゥを打倒するには、この武装がベストだときぬは思った。
しかし逆に言えば、これを失うと勝ち目が無い。
(魔力……どこまで持つかな)
献身で仲間を回復した分を考えると何処まで持つか。
この難敵相手に魔力を温存している余裕など、ある筈も無い。
故にきぬは、己が魔力を全て使い切るつもりだった。
此度の戦いは、総力戦と呼ぶに相応しいモノになるだろう。

「何の迷いも無く突っ込んでくるか!」
迎え撃つはヒエン。
加速して向かってくるきぬに対して出来る事。
ヒエンが持つ剣で無謀とも思えるきぬの突進を打ち落とす事。
だが、未だ心に残るものがヒエンの判断を鈍らす。
(これで……終わりだ。しかし自分は斬れるのか? いや迷うのではない!)
結果、その迷いがヒエンの迎撃を遅らせた。
「遅いぜ!」
向かってくるきぬに対して振った剣は、横に飛び避けられ当たらず宙を切った。

きぬはそのままヒエンの右横に回った。
そう、狙うは一つ。
アブカムゥの弱点、脇腹である。
「くらえ! ここが弱いんだろ!」
そしてペネリM3が吼える。
沙羅に教えてもらったお陰で、巧く使うことが出来た。
吐き出されるは無数の散弾。
ヒエンはそのきぬの動きの速さに対応出来ず、全ての散弾を受けた。
「ぐぅ……弱点を知ってるのか!」
ヒエンにとって予想外だったのは、きぬが弱点を知ってる事。
そして、予想以上に早い事。
次の瞬間、ヒエンは気付く。
「何処だ……奴は」
きぬが見当たらない事。
先程まで右横で銃を撃っていたのだ。
なのにもういない。
遠くにはいってないはずと考えた瞬間、左から衝撃を受けた。
先程と同じ衝撃である。
「がっ!? な……もう移っただと!?」
それはきぬが左から撃った銃の衝撃そのもの。
「献身」の身体強化により、敏捷さを限界まで上げての奇襲。
それがきぬの立てた策。
アヴ・カムゥを打倒し得る、唯一の手段だった。

「幸い……傷は浅いか。これならまだ遅くなることもない」
ヒエンにとって幸いだったのは、弱点には当たったものの両方とも浅かった事だ。
お陰でスピードが遅くなるという致命的な欠点を負う事は避けられた。


「これを……繰り返せば倒せる!」
きぬはその一撃を放った後、ヒエンから距離をとった。
狙うはヒット&アウェイ。
きぬにとって幸運だったのは、アブカムゥの弱点を最初から知ってた事。
ヒエンが永遠神剣の恐ろしさを知らずに、きぬをただの少女だと侮っていた事。

しかしそれよりもっと、きぬを優利にしていた理由がある。それは
(何故……初撃は仕方無くとも追撃は避けれた筈。慢心か? いやこれは違う……ああ、迷いか。そしてその性で手を抜いている)
そう、ヒエンの迷い。そしてきぬという少女に対し手を抜いている事。
それがヒエンの動きを鈍くする。
どうやらきぬの言葉は、強くヒエンに影響を与えているようだった。
(手を抜く? 何故? まさか自分は勝って欲しいのか、この少女に。……もう自分の心はそっちに揺れ動いてるのか?)
ヒエンは更に惑う、自分の心が分からなくて。
このまま負けてもいいのかもしれない。
そうヒエンに思わせる程深く根づいていた、あの言葉は。
抗う事は無駄じゃないという言葉。
まだ間に合う。諦めず最後まで貫く事はできると彼女は言った。
とてもきれいな言葉。
それは、ヒエンを惑わすには充分すぎた。

(もうあの言葉に身を任せてもいいのかもしれない……いや違う)

だがその言葉に乗る寸前で、ヒエンをとどませるもの。
それは奇しくも祖父から受け継いだ物。
(自分にもプライドがある。武士として。なにも戦う前に言葉にのるのことはなんと言う事! なら自分は全力を出して戦うべき!
 もう侮ったりはしない。全力でいかせて貰う。それでももし……自分を打倒出来たのなら……抗いきったのなら……その時は)
武士としてのプライド。
必死に向かってくる者に対して手を抜く事は、プライドが赦さない。
ならば、互いに全力勝負。
それでも自分を打倒出来るのならば、きっと満足出来る筈。
そう思ったから。
それに
(懸けてみたくなった……彼女の抗いに。必死に抗い続ける彼女に。そんな彼女が全力でかかってくる……なら自分も全力でやらなければ失礼だろう。
 自分は自分の力で道を切り開く。それがどちらの道かは解らないが……だからぶつけよう……自分の力を! 自分の抗いを!)
きぬの抗いに何か懸けたくなったのだ。
そんな彼女に自分の抗いもぶつけたい。
そう思って。全力で。
だがら今は迷いなど、頭から消えていた。

そしてヒエンはきぬを睨み付ける。
もうヒエンには迷いなど無い。
目の前の相手と戦う。
そして、どちらが勝つかを決める。
その先にきっと見えるものがあると信じて。

「なんか空気が変わった気がする……でもここで止まれないんだよお」
そしてきぬは再び走り出す、ヒエンに対して。
きぬは少しの自信があった、先程はあんなにヒエンを圧倒出来たのだ。
きっと次も大丈夫だと。

だがその自信は簡単に打ち砕かれた、ヒエンによって。

先程とは違い、ヒエンは自らも駆け出した。
簡単な事だった。
弱点が知られているのならば、狙われる前に打ち倒せばいい。
直ぐにきぬに追い付いて
「はああああああああ!!」
ヒエンは大剣を横薙ぎに振るう。
先程とは比べ物にならないくらい早い。そして鋭い。

「つ!? あぶな!」
すぐに反応出来なかったのはきぬ。
しかしきぬも持ち前の運動能力と身体強化を生かし、紙一重で躱す。
だが、これで終わりでは無かった。
「まだだ! 受けろ!」
避けたきぬに対し、更にヒエンは追撃。
大剣でそのまま切り上げ、きぬを狙った。
「ちょ! しゃれなんないよ!」
きぬはそれも避けるが、まだ終わらない。
ヒエンが見せる全力。
武士としてのプライドに懸けて。
「おおおおおおおおおおおお!!!」
唐竹、袈裟。逆袈裟。
様々な技でただ剣を振る。
そして
「でやあああああああ!!」
「やば……避け切れね……」
遂にその渾身の技が、逃げ回るきぬを捉えそうになった。
きぬが避け切る事は難しい。

このままでは直撃してしまう。そうなれば死あるのみ。
きぬは避ける事は無理だと判断して
「っ、ガイアブレス!」
神剣魔術によって槍で受け止める。
「ぐぅぅぅぅ!! うがああああ!!」
マナの鎧で守られ、斬り捨てられる事だけは避けられたが、吹き飛ばされて壁に打ち付けられた。
その衝撃は凄まじく、きぬの動きを止めさせるのには充分であった。

「ゴホ……何だよぉ……アレ、滅茶苦茶強いじゃんか」
きぬは思う、強いと。
先程までの動きとは段違いだ。
舐め切っていたのもあるかもしれない。
「どうだ? きぬ殿。これで諦めるか?」
「……冗談きついって! 諦めるわけないじゃんか!」
だけど諦める事なんかしない。
ヒエンもその答えを解っていたように笑った。

「ふっ……流石だな。だが自分も止まれないのだ、目が覚めた。全力でいかせてもらう」
「ふん……遅いんだよ! ボクなんか最初からクライマックスだぜ!」

そして2人は向かい合う。
ヒエンの全力で勝負は仕切り直し。
そう、これからこそ2人の本気の勝負が始まる。
お互いの意地をぶつける戦いが。

「はあああああ!!」
まず動いたのはヒエン。
きぬが壁に打ち付けられたダメージの残ってる間に、更なる追撃を考えた。
ヒエンはそのままきぬに近付き大剣を振るう。
その斬撃はまさに暴風というに相応しい一撃。
難無くきぬに当たるように思えた。

しかし、ヒエンが動かすアブカムゥの武装は大剣のみ。
それだけでも十分だが、言ってしまえばそれだけである。
それ故に攻撃が単調になる。
その事をきぬは知っていた。
「食らえ!」
「何度も食らって溜まるもんかよ……ウインドウィスパー!」
ヒエンの剣がきぬの頭に当たる刹那、きぬの体を突如風が吹き飛ばす。
結果きぬはその剣の軌跡から外れ、避ける事が出来た。
その風の正体は『献身』の神剣魔術。
そう、きぬがヒエンに対抗出来る唯一とも言える手段。
きぬはこの短い間でかなり使いこなす事が出来る様になっていた。

「うし……このまま!」
きぬはその風の反動でヒエンの横に回った。
それは弱点ともいえるわき腹への攻撃の為に。
そしてぺネリM3で撃ち抜く。
「よし……これで……お……おろ?」

その攻撃は脇腹に当たったかのように思えた。
だがそれは違い
「そう……何度も弱点に攻撃を許すと思うか?」
ヒエンは剣でわき腹をかばい全くの無傷だった。
そう、ヒエンも弱点は知っている。
なら弱点は守る事は極普通の事。
先程受けたのは、きぬが弱点を知ってるとは思わなかったから。
だから知ってると解っている以上は、もう食らうわけに行かなかった。

「残念だが……ここまでだな」
そして訪れるはヒエンに対する圧倒的な優利。
きぬは、弱点への攻撃が無駄となって隙がないヒエンから逃げる事は出来なかった。
もうヒエンの剣の間合いに入っており、避ける事は不可能。

「そんな……ここまで着てかよ」
完璧なチェックメイト。
きぬは目を瞑った。
もう終わり。
後悔は沢山ある、でももう逃げられないのだ。
だから目を瞑りやがて来る死を待った。

ヒエンはそれに呼応するかのようにきぬに剣を振る。
(あっけなかったな……やはり抗う事なんか無理なのだ。)
ヒエンには少しの失望や残念な気持ちがあった。
でももう終わりなのだ。
そしてもう少しで、大剣の刃先がきぬを捉えそうになる。
だがその瞬間

――お兄様。大丈夫ですか? 元気出してくださいね。

「っ!? うああ!?」
ヒエンは自分の妹サクヤのことを思い出した。
そしてそれが被る、きぬと。多分同じぐらい年齢だった筈。
(自分は同じくらいの子を斬るのか?)
「ああああ!!」
そして間も無くきぬの頭に当たりそうな剣の軌道を、強引に変える。
ズゥンと剣が地面に打ち付けられる音が響く。
ぎりぎりきぬの横を通り地面を切りつけた。

「くっ……はあ……自分は何を?」
ヒエンは安堵とまた迷いが同時に襲ってきた。
仕留める絶好のチャンスであったのに。
一瞬の迷い。
(自分は……ここまで未熟であったか)
そして改めて未熟さを知る。
(やはり……自分は斬れない……あんなにも言葉が胸に刺さる)
きぬの言葉がそれほど影響していたとは、ヒエンも思わなかった
そしてきぬを見る。
彼女は既に離れ何かを準備しているようだ。
まだ、きぬは諦めない。
進んでくるだろう
(おそらく……次が最後……迎撃……しなければ)
そして次が最後。
きぬが自分を打倒すれば終わり。
出来なければ、そのまま迎撃して終わり。
どちらにしろ終わりである。
(だが……本当に自分に出来るか?)
しかし誰もその疑問に答えてくれなかった。



「!? 今のうちに!」
きぬにはその攻撃が何故外れたか分からなかったが、逃げる好機を無駄にはせず、そのまま遠くへ離脱した。
(不味いぜ……ボタンの光弱くなってる)
少し距離を置いたきぬが確認した、ボタンの輝きを。
それは以前より光が弱くなっており魔力が少なくなっている証拠でもあった。
献身が使えないのならヒエンに勝てはしない。だから
(なら……次のチャンスで終わらせる。次がラストチャンス。これを逃せば勝てはしない。気合を入れろボク!)
きぬは次がラストチャンスと考えた、アブカムゥを倒すチャンスと。
そしてバックを取りだしたのは沙羅からもらった爆弾。
それと永遠神剣『献身』。
それが頼るべきの最後の装備。

「うし……行くぞ……うおおおおお!!」
そして再度、突撃。
身体強化によりきぬは凄まじい勢いで加速しヒエンに迫る。
それは殆ど疾風の如く。

だが、ヒエンの目はきぬを捕らえていた。
「そんな突撃ばかりで……甘い!」
ヒエンは得物を討つべく剣を大振りした。

だがそれがきぬの狙い。
大振りして隙が出来るのを狙っていた。
そしてボタンを強く握る。
(純一……ボクに力を!)
「みろやあああああああああ!!!!! これがボクの全力だあああああああああ!! 純一や皆の思いを乗せたさああああ!!」
そして吼える。
献身唯一にして最強の攻撃魔術を。
それは最大なる荒れ狂う衝撃!

「エレメンタルブラストォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

刹那緑の球体が現れた。
その瞬間、破裂。
そして現れる凄まじい衝撃波と真空波。
その全てがヒエンにぶつかる。
「な!? ぐおおおおおお!!!」
いくらアブカムゥとてその攻撃を受けて平気な訳がない。
暴風はアブカムゥを襲い傷付けていく。
まさに最強といえる力だった。

「ぐはあ!」
そして遂にアブカムゥ動きを止める。
そして生じる大きな隙。
きぬはアブカムゥの右横に移動していた。
きぬはその瞬間は狙っていた。
本命はこちらの攻撃!

「いっけーーーーー!!!」

きぬは沙羅手製の爆弾を投げた。
それは弧を描きアブカムゥの脇腹に当たりコツンと音が鳴った。
瞬間、爆発!

「がああああああああ!!!!」
凄まじい爆風がヒエンを包む。
弱点である脇腹を狙われたのだ。
先程の衝撃波とも変わらない威力であった。

きぬはそれを少し離れた所で待つ。
煙が晴れるのを待っていた。
これで終わりの筈、そう思って。

だが
「中々だったな、だがまだ立っているぞ」
ヒエンは煙が晴れる中、立っていた。
ボロボロだが立っている。
そしてきぬの下に突撃。
弱点を狙われ動きが遅いが、それでも進んでいた。
「くっ……この!」
きぬは取り出したペネリM3をヒエンに向けて撃つ。
「無駄だ!」
だがそれは意味が無く、全てその強固な装甲に防がれていた。

「弾が……無い!」
やがて弾切れ。
リロードしている余裕も無く、ヒエンはもう直ぐ傍まで来ていた。
今度こそ完璧なチェックメイト。
ヒエンはそう思った。

だが違った。
「残念だったなこれでおわ……!?」
そう言いかけたヒエンはきぬの方を見て驚く。
きぬの顔は絶望に染まってはいない。
浮かべるのは凄まじい闘志。

そしてきぬは更に吼える。
「まだ終わりじゃねーんだよ!!」
そして『献身』を構え
「これが最後の魔力だ! 受けろ! ウインドウィスパー!」
神剣魔術を唱える。
そう、きぬはまだ魔力を残していた。
万が一に備えて。

そして強い風が吹く。
その風にのせて
「これが、ほんとの最後の一撃! みんなの思いを乗せて! 届けやーーー!!!!!」
『献身』を投げた、ヒエンに向けて。
その放たれた献身は、きぬが行使していた身体強化により強化された腕力と、魔術により出来た風に乗って凄まじい速度で飛ぶ。

「そんな……馬鹿な!! っ……がああああああああああああああああああああ!!」


そして全ての希望をのせた弾丸の如き槍は鋼鉄の鎧を貫いた!

「見事……だ」
その投げられた槍はあの強固な装甲を貫き、当たった中央部に風穴を開けていた。
そしてアブカムゥは機能を完全に停止して地面に倒れる。

「勝ったのか……ボク」
きぬが呟く。
それに応える者は無く、ただこの現状が答えを示していた。
それはきぬが立っていてヒエンが立っていない事。

そう、きぬの紛れもない勝利。
きぬの純一から教わった諦めない心、それが勝利へと導いた。

(もう光ってない……魔力は無い。ありがと……本当にありがと……純一と祖母さん)
ボタンはもう魔力を使い果たしただのボタンに戻っていた。
きぬは改めて礼を言う。生かしてくれたあの二人に。

そしてきぬは倒れ動かないアブカムゥの元に向かう。
そう、それはヒエンを説得する為に。
なんとしてもきぬは説得したかった、己が信じるもの為。
そしてアブカムゥの元に着く。
その時アブカムゥの貫かれた穴からヒエンが出てきた。
ヒエンは怪我は負ってないものの、どこか疲れたような顔をしてアブカムゥに寄りかかったまま動こうとはしない。
「……殺しはしないのか?」
「ばーか、何の為に必死に戦ってきたんだよ……オメーを説得する為だよ」
ヒエンの問いをきぬは即座に否定する。
殺す事など全く考えてはいなかった。
「……まだ諦めていないのか?」
「当たり前だ……これは僕が継いだ信念だ。絶対諦めたりはしねーよ……純一はきっとそうだから」
「ふっ……なら何故自分の為にここまでする? 命を懸けてまで」
ヒエンはそれが聞きたかった。
何がきぬをここまで動かすのかを。

それにきぬが今告げる、万感の思いを篭めて。
「決まってる……お前、そんな悪い奴には見えないんだ」
「何を……自分は何もせずにお前達に殺し合いを強要させたのだぞ」
「でも……迷ってるじゃん、ヒエン。そして自分の心に嘘ついて必死に耐えようとしてる」

ヒエンは驚いた、心が見透かされてるよう気がして。
でもそれを信じる事が出来ずに
「何故そう思う? 勘違いしないで貰いたい、自分は非道な人間だ……そんなに甘くはない」
そう否定した。
自分に思い込ませるように。
しかし直後きぬから凄まじい怒声が飛んだ。

「嘘だッ!!」

それはヒエンに対しての怒り。
かたくなに偽ろうとするヒエンへの。
「違う! どうしてそう偽ろうとするんだよ自分の気持ちを! ボクには解る! ヒエンがそんな人間じゃないって! 優しい人間だって」
「何故だ! 何故そう言い切れる!」
「だって……あんな辛そうにしてたじゃんか僕と戦おうするとき! そしてボクを殺せる時に殺さなかったじゃんか!
 あの時の声は悲しそうだった! 非道な人間ができる顔じゃない!」
「っ……それは」
ヒエンはきぬの叫びに口をつむぐ。
そんなヒエンに対し、きぬはもっと言葉をかける。
ただヒエンを救いたい、その一心で。

「なあ……一緒に来いよ……ボクとさ。ヒエンの気持ちはしってる……きっとまだ戻れる……どうしてこんなのに協力したかは聞かない。
 ただ今は力を貸して欲しいんだ。こんな下らないのを終わらせる為に」
「自分は……自分には罪がある。ただ何もせず殺し合いを黙ってみていた……お前たちを殺そうとしていた。自分が抗う価値など」
ヒエンはきぬの言葉に頷くことが出来ず、ただ言い訳をした。
そんなヒエンにきぬはまっすぐ目を向けて
「罪とかはやっぱ分からない……でも一つだけわかった事がある……自分自身がその行いにくいを感じるんだったらさ……きっと罪は償えるぜ」
「何?」
「ああ、償える、きっと。どれだけかかるか分からないけどさ。生きてればきっと。諦めなければきっと償える」
「生きていれば……諦めなければだと?」
「うん……そう。そう生きているだけでいい。生きて、ずっと生き続けて。諦めずに。ずっと進み続けてさ。
 そしたらいつか思う事ができるんだ……自分はきっと何かできたって。それが何かは分からないけどさ」
「生きてるだけでだと……そんな簡単な事じゃ……」
ヒエンがその言葉を言いかけた瞬間きぬは激昂した。
それはきぬにとって許し難い言葉。
純一が自分に願った事。

「ヒエン! 生き続けることは簡単なんかじゃねーよ! ボクは色々な人に生かさせてもらってる! そして皆に願われた、生きて欲しいって! 
 ボクはそんな人達の思い、罪、信念、全てを背負って生きてるんだ! 正直……重過ぎるよ……ボクはこんなにも小さい……でも!
 それでもボクはずっと生きていかなくちゃいけないんだよ! それが残され生きている人間のできる事だからさ!
 だからさ……生きて! ずっと生き通せば! きっと思えるんだ、みんなの思いを継いで進む事が出来たってさ!」

きぬの叫びがただ響く。
そう、この叫びがきぬのこれからやっていかなきゃならない事。
それはとても重たい、でも諦めちゃ駄目な事。
だからきぬは生き続ける。どんなに辛くても苦しくても。
それが沢山の人から救われたきぬができる恩返しなのだから。

それがこの島で大切な物を手に入れ、そして失っていった悲しい少女の誓い。
その誓いはとても儚く悲しい物、でもそれは尊く美しい物。

ただその少女の気高さにヒエンは圧倒されるだけだった。
そしてきぬはヒエンに答えは出す。
どうして抗うか、という言葉に対して。
きぬなりの言葉で。
「なあ……なぜ抗うかっていったよな」
「あ、ああ」
「もっとしっかり教えてやる。それは生き続けなきゃいけないからボクは、皆の為に。それだけ」
「それだけなのか……?」
「ああ、それだけ。でもそれがボクの強さ。何の力を持たないボクが誇れる事、だから抗うこと止めるわけにいけないんだ。
 なあ……ヒエン、お前も生きろよ……抗えよ。生き続けてその罪を償えよ……きっと出来るよ」
「いいのか……自分は」
「うん……少なくても今ボクは赦すよ……そして生きて、償っていけばいい。進めばいい。
 ヒエン、そしたら自分の心に素直になれよ……今したいことは何かって……本当は分かってるんだろ?」
きぬは差し伸べる、その手を。
ヒエンがこっちに来てくれることを信じて。
ヒエンの気持ちはもう知ってるから。
だから手を差し伸べる。

(今したい事……自分はいいのか? いや彼女はいった「生きろ」と。……なら生きて……償えるのなら。それが例え反乱する事でも)
きぬの笑顔が見える、無垢な笑顔が。
そっと手を伸ばして。
ヒエンはその笑顔を見て苦笑いをしつつ立ち上がる。
彼女の強さを実感しつつ
(叶わないな……本当に。でも信じたい、彼女の強さを)
「きぬ殿……自分は抗うよ。生きて、生きて。その先に見えるのが分からないけど、でも今自分がしてる事は正しいとは思わない
 だから抗って……そして見つけてみるよ、自分の道を」
「ヒエン! そうだぜ! うん!」

ヒエンは笑う。
これから、道が開ける気がして。
まだ分からないけどいつかそんな事が来る気がして。

きぬの手を取ろうとする。
同じ道に進む為に。


だが



パララと突如響くタイプライターのような音。

「…………え?」

ヒエンのわき腹が赤く染まる。
ヒエンはそのまま手を取らず倒れる。
きぬはよくわからなかった、何がおきたか。

ただ解る事は悲しみの輪廻は終わってない事。
そして続く。
さらなる悲しみへと。



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207:牢獄の剣士(Ⅱ)――夢想歌――(後編) ヒエン 211:守りたい。ただ貴方だけを。貴方が生き続ける未来を。守りたい。優しさに包まれた、貴方の気高い心を




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