守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(前編)◆guAWf4RW62
ひゅうひゅうと風が吹いていた。
鮮やかな夕日が、眼下に広がる孤島を赤く照らし上げている。
真っ赤に染まった孤島の姿はまるで、多くの人間が流した血に塗れているかのようであった。
鮮やかな夕日が、眼下に広がる孤島を赤く照らし上げている。
真っ赤に染まった孤島の姿はまるで、多くの人間が流した血に塗れているかのようであった。
「――――っ」
大剣を携え、幾重にも連なる雲の真下で飛翔しているのは、アセリア・ブルースピリットと呼ばれる妖精である。
圧倒的な加速力を生み出す純白の翼と、只の人間では及びもつかぬ凄まじい身体能力。
第四位の永遠神剣『求め』と契約し、オーラフォトンの力すらも手に入れたアセリアは、生存している参加者中で間違いなく最強の存在。
しかしその最強の妖精の表情が、今は悲痛に大きく歪んでいた。
圧倒的な加速力を生み出す純白の翼と、只の人間では及びもつかぬ凄まじい身体能力。
第四位の永遠神剣『求め』と契約し、オーラフォトンの力すらも手に入れたアセリアは、生存している参加者中で間違いなく最強の存在。
しかしその最強の妖精の表情が、今は悲痛に大きく歪んでいた。
「お願いだミズホ……どうか持ち堪えてくれ……!」
呟くアセリアの腕の中には、血塗れになった宮小路瑞穂の姿。
瑞穂の口から放たれる吐息は、今にも消え入りそうな程に弱々しい。
アセリアも必死に永遠神剣の力を引き出して、瑞穂の状態が悪化しないようにしているが、それだけでは足りない。
一刻も早く、適切な治療を施す必要があった。
瑞穂の口から放たれる吐息は、今にも消え入りそうな程に弱々しい。
アセリアも必死に永遠神剣の力を引き出して、瑞穂の状態が悪化しないようにしているが、それだけでは足りない。
一刻も早く、適切な治療を施す必要があった。
その為、当初アセリアは病院に向かおうとしていたのだが、現在は電波塔の上空辺りを飛翔している。
この島にくるまで戦う事しか知らなかったアセリアは、治療に関する知識など全く持ち合わせていない。
自分だけで病院に向かったとしても、瑞穂に対して何の処置も出来ないだろう。
アセリアは遅ればせながらその事実に気付き、電波塔の周辺へと舞い戻って、瑞穂を治療し得るであろう仲間達の姿を探していた。
この島にくるまで戦う事しか知らなかったアセリアは、治療に関する知識など全く持ち合わせていない。
自分だけで病院に向かったとしても、瑞穂に対して何の処置も出来ないだろう。
アセリアは遅ればせながらその事実に気付き、電波塔の周辺へと舞い戻って、瑞穂を治療し得るであろう仲間達の姿を探していた。
「早く……早くコトミ達を見つけないと……」
満身創痍の肉体を酷使し、残り少ないマナを総動員して、全速力で電波塔の周辺を探索する。
後に控えているであろう主催陣営との対決を考えれば、出来るだけ力は温存しておくべきだが、そのような理屈など知った事では無い。
今のアセリアにあるのは、瑞穂を救いたいという想いだけである。
しかしそんなアセリアの想いも空しく、一ノ瀬ことみや古手梨花の姿は一向に見付かる気配が無かった。
後に控えているであろう主催陣営との対決を考えれば、出来るだけ力は温存しておくべきだが、そのような理屈など知った事では無い。
今のアセリアにあるのは、瑞穂を救いたいという想いだけである。
しかしそんなアセリアの想いも空しく、一ノ瀬ことみや古手梨花の姿は一向に見付かる気配が無かった。
「上空から見える位置には居ない――でも、森の中になら……っ」
上空から見渡してみた限り人の姿は見受けられなかったが、未だ森の中は確認していない。
アセリアは高度を落として、生い茂る木々の間を縫うように突き進む。
視界の端に映ったアヴ・カムゥの残骸など気にも留めず、意識を捜索に集中させる。
アセリアは高度を落として、生い茂る木々の間を縫うように突き進む。
視界の端に映ったアヴ・カムゥの残骸など気にも留めず、意識を捜索に集中させる。
「コトミ、リカ! 居るなら返事をしてくれ!」
高速で飛び回りながら、可能な限り大声で叫んだ。
焦燥に染まったその声は、静まり返った森の中に大きく響き渡る。
だが何度声を発しても、返って来るのは周囲に吹き荒れる風の音だけであった。
焦燥に染まったその声は、静まり返った森の中に大きく響き渡る。
だが何度声を発しても、返って来るのは周囲に吹き荒れる風の音だけであった。
(……落ち着いて考えろ。コトミ達は何処に居る……!?)
ともすれば溢れ出しかねない感情の奔流を抑え込んで、アセリアは懸命に思案を巡らせる。
これだけ叫んでも返事が無い以上、ことみ達が森の中に居る可能性は低いと云わざるを得ない。
他の場所を当たってみるべきだろう。
これだけ叫んでも返事が無い以上、ことみ達が森の中に居る可能性は低いと云わざるを得ない。
他の場所を当たってみるべきだろう。
「未だ調べていないのは……あの搭だけ」
小さく呟いてから、アセリアは前方に聳え立つ巨大な塔を眺め見た。
電波塔――首輪の操作という役目を課された、此度の殺人遊戯に於ける最重要施設。
元々はあの搭を破壊するのが、アセリア達一行の目的だった。
最大の脅威であったアブ・カムゥを打倒した以上、ことみや梨花が舞い戻ってきて、電波塔を破壊しようとしていても可笑しくは無い。
一縷の望みに懸けて、アセリアは電波塔の前に降り立った。
電波塔――首輪の操作という役目を課された、此度の殺人遊戯に於ける最重要施設。
元々はあの搭を破壊するのが、アセリア達一行の目的だった。
最大の脅威であったアブ・カムゥを打倒した以上、ことみや梨花が舞い戻ってきて、電波塔を破壊しようとしていても可笑しくは無い。
一縷の望みに懸けて、アセリアは電波塔の前に降り立った。
「フ――――!」
ウイング・ハイロゥを仕舞い込んでから、半ば体当たりするような形で、搭の扉を強引に押し開ける。
開け放たれた扉の向こう側には、巨大な通路が広がっていた。
幅は優に五メートル以上あり、奥行きは数十メートル、壁面は無骨なコンクリートで覆い尽くされている。
通路の所々には金属製のコンテナが配置されており、その影に敵が潜んでいる危険性もあるだろう。
本来ならば、慎重を期して進むべき場面。
しかし今は、ほんの一秒一時すらも惜しい。
開け放たれた扉の向こう側には、巨大な通路が広がっていた。
幅は優に五メートル以上あり、奥行きは数十メートル、壁面は無骨なコンクリートで覆い尽くされている。
通路の所々には金属製のコンテナが配置されており、その影に敵が潜んでいる危険性もあるだろう。
本来ならば、慎重を期して進むべき場面。
しかし今は、ほんの一秒一時すらも惜しい。
「……敵が居たとしても、倒せば良いだけ!」
敵の領域である通路を、アセリアは何の躊躇も無く駆け抜けてゆく。
その速度は、疾風と見紛わん程に凄まじい。
通路に面する扉を一つずつ押し開けて、中に人が居ないか確認する。
見張りの敵兵等は潜んでいないようであったが、仲間達の姿もまた見当たらない。
そのまま突き進んでゆくと、やがて正面に曲がり角が見えた。
その速度は、疾風と見紛わん程に凄まじい。
通路に面する扉を一つずつ押し開けて、中に人が居ないか確認する。
見張りの敵兵等は潜んでいないようであったが、仲間達の姿もまた見当たらない。
そのまま突き進んでゆくと、やがて正面に曲がり角が見えた。
(誰か……待ち構えている)
神経を研ぎ澄ませると、角の向こう側に何者かが潜んでいる気配を感じ取れた。
これだけ派手に足音を立てて動き回っているのだから、こちらの存在は察知されている筈。
そう判断したアセリアは、両足に残された筋力を総動員して、角の方向へと思い切り跳ねた。
相手に攻撃の照準を絞らせぬよう、通路の壁面を蹴り飛ばす事でジグザグに跳躍する。
これだけ派手に足音を立てて動き回っているのだから、こちらの存在は察知されている筈。
そう判断したアセリアは、両足に残された筋力を総動員して、角の方向へと思い切り跳ねた。
相手に攻撃の照準を絞らせぬよう、通路の壁面を蹴り飛ばす事でジグザグに跳躍する。
「――――てやあああああっ!!」
甲高い雄叫びと共に、蒼の妖精は己が大剣を勢い良く振り下ろす。
疲弊し切った身体から放たれるソレは、全快時とは比べるべくもない駄剣だが、それでも並の相手なら十分に切り伏せ得る一撃。
しかし『求め』の刃先が標的を捉える寸前、アセリアの腕がピタリと停止した。
疲弊し切った身体から放たれるソレは、全快時とは比べるべくもない駄剣だが、それでも並の相手なら十分に切り伏せ得る一撃。
しかし『求め』の刃先が標的を捉える寸前、アセリアの腕がピタリと停止した。
「……リカッ!?」
「……アセリアッ!? それに瑞穂!?」
「……アセリアッ!? それに瑞穂!?」
アセリアの蒼い瞳に映るは、捜し求めていた仲間――古手梨花。
梨花の両腕には、ミニウージーがしっかりと握り締められている。
恐らくは、敵が中に侵入して来たのだと勘違いして、迎撃しようとしていたのだろう。
梨花はミニウージーの銃口を下ろすと、血に塗れた瑞穂の方へと視線を移した。
梨花の両腕には、ミニウージーがしっかりと握り締められている。
恐らくは、敵が中に侵入して来たのだと勘違いして、迎撃しようとしていたのだろう。
梨花はミニウージーの銃口を下ろすと、血に塗れた瑞穂の方へと視線を移した。
「ちょっと、一体何があったのよ!? ボロボロじゃない!」
「……説明している時間は無い。今は早く……ミズホを、助けて欲しい」
「……説明している時間は無い。今は早く……ミズホを、助けて欲しい」
アセリアの片腕に抱き抱えられている瑞穂は、今も苦しげに胸を上下させている。
その顔色は、徐々に青白く変色しつつあった。
直ぐにでも適切な治療を施さねば、手遅れになってしまうかも知れないだろう。
その顔色は、徐々に青白く変色しつつあった。
直ぐにでも適切な治療を施さねば、手遅れになってしまうかも知れないだろう。
「分かったわ、瑞穂の手当てを優先しましょう。アセリア、まずは瑞穂を横に寝かせて頂戴」
「……ん!」
「……ん!」
梨花は指示を送りながら、冷静に瑞穂の様子を観察した。
瑞穂の身体の至る所には、打撲跡や擦り傷が見受けられるが、致命傷と呼べる程の物は無い。
深い傷といえば精々、左腕上腕部に刻み込まれた傷くらいだ。
傷の深さだけを見れば、命には別状の無い状態。
しかし、負傷箇所が極めて不味い。
人体の構造上、左腕上腕部は心臓から程近い位置にある。
そのような箇所を深く傷付けられた場合、必然的に大量の出血を許してしまう。
つまり今の瑞穂は、出血多量が原因で生命の危機に晒されているのだ。
瑞穂の身体の至る所には、打撲跡や擦り傷が見受けられるが、致命傷と呼べる程の物は無い。
深い傷といえば精々、左腕上腕部に刻み込まれた傷くらいだ。
傷の深さだけを見れば、命には別状の無い状態。
しかし、負傷箇所が極めて不味い。
人体の構造上、左腕上腕部は心臓から程近い位置にある。
そのような箇所を深く傷付けられた場合、必然的に大量の出血を許してしまう。
つまり今の瑞穂は、出血多量が原因で生命の危機に晒されているのだ。
「リカ……どうだ? ミズホは……助かりそうなのか?」
「……集中したいから、少し黙ってて」
「……集中したいから、少し黙ってて」
アセリアが不安げに問い掛けて来たが、丁寧に対応している余裕など無い。
質問をぴしゃりと跳ね付けてから、過去の記憶を呼び起こす。
梨花は雛見沢症候群の女王感染者として、長い間入江診療所に通い続けてきた。
そういった関係上、診療所の所長――入江が他の患者を治療する場面も、梨花は幾度と無く目撃している。
専門的な知識までは持ち合わせていないが、簡単な応急処置を行う程度なら、見よう見まねで出来る筈だ。
質問をぴしゃりと跳ね付けてから、過去の記憶を呼び起こす。
梨花は雛見沢症候群の女王感染者として、長い間入江診療所に通い続けてきた。
そういった関係上、診療所の所長――入江が他の患者を治療する場面も、梨花は幾度と無く目撃している。
専門的な知識までは持ち合わせていないが、簡単な応急処置を行う程度なら、見よう見まねで出来る筈だ。
(……帰ったら、入江に礼を云わなくちゃね)
梨花は鞄の中に手を伸ばして、百貨店で見つけた物――治療用具一式を取り出した。
まずは左腕上腕部の傷口に、消毒ガーゼを強く押し当てた。
続けて左腕を心臓よりも高い位置に持ち上げる事で、出血の勢いを押し留める。
最後に包帯で、左肩口の辺りを強く縛り止めた。
まずは左腕上腕部の傷口に、消毒ガーゼを強く押し当てた。
続けて左腕を心臓よりも高い位置に持ち上げる事で、出血の勢いを押し留める。
最後に包帯で、左肩口の辺りを強く縛り止めた。
「終わった……のか?」
「ええ、きっとこれで大丈夫な筈よ」
「ええ、きっとこれで大丈夫な筈よ」
決して手際が良いとは云えないものの、何とか応急処置は完了した。
それは確かに効果があったようで、あれ程激しかった瑞穂の出血が、今はピタリと止んでいる。
アセリアがオーラフォトンで治療を行っている事もあり、瑞穂の顔に少しずつ血色が戻ってゆく。
まだまだ油断は出来ないが、一先ず峠は越えたと考えて間違い無いだろう。
それは確かに効果があったようで、あれ程激しかった瑞穂の出血が、今はピタリと止んでいる。
アセリアがオーラフォトンで治療を行っている事もあり、瑞穂の顔に少しずつ血色が戻ってゆく。
まだまだ油断は出来ないが、一先ず峠は越えたと考えて間違い無いだろう。
「ミズホ……良かった……」
アセリアは瑞穂の手を取って、しっかりと握り締めた。
手の平から感じられる暖かさは、今も瑞穂が生きているという証に他ならない。
最悪の事態を避けられたと分かり、アセリアは安堵に表情を緩めた。
しかし此処は平和な病室等では無く、敵の重要施設であるという現実を失念してはいけない。
アセリア達が成さねばならない事は、それこそ山のように残っている。
手の平から感じられる暖かさは、今も瑞穂が生きているという証に他ならない。
最悪の事態を避けられたと分かり、アセリアは安堵に表情を緩めた。
しかし此処は平和な病室等では無く、敵の重要施設であるという現実を失念してはいけない。
アセリア達が成さねばならない事は、それこそ山のように残っている。
「さて、何があったか説明して貰おうかしら」
「……ん、分かった」
「……ん、分かった」
そうして、アセリアは梨花と情報交換を開始した。
◇ ◇ ◇ ◇
「つまりあの巨大なロボットを破壊したのは、貴女なのね?
貴女は神剣に操られて、瑞穂ごとロボットを攻撃してしまったと――そういう事なのね?」
「……うん。私が……ミズホを傷付けた」
貴女は神剣に操られて、瑞穂ごとロボットを攻撃してしまったと――そういう事なのね?」
「……うん。私が……ミズホを傷付けた」
梨花が問い掛けると、アセリアは力無く頷いた。
今のアセリアの心は、深く重い罪悪感に囚われている。
今のアセリアの心は、深く重い罪悪感に囚われている。
「アセリア……貴女は一生懸命、瑞穂を守ろうとした。その結果は悲しい物になったけれど、きっと瑞穂は許してくれる。
『仲間を守りたい』という貴女の想いは、ちゃんと伝わっている筈よ」
「うん……ミズホは優しいから……それは分かっている。でも……だからこそ、私は心が痛い」
『仲間を守りたい』という貴女の想いは、ちゃんと伝わっている筈よ」
「うん……ミズホは優しいから……それは分かっている。でも……だからこそ、私は心が痛い」
瑞穂とアセリアがこの島で培った信頼関係は、何が起ころうとも決して崩れはしない。
瑞穂が意識を取り戻したとしても、罵倒の言葉を浴びせられる事は無いと断言出来る。
しかし、だからこそアセリアは形容し難い程の痛みを感じていた。
自身の身など顧みずに、『求め』の力を引き出して、只ひたすらに瑞穂の治療を続ける。
残り僅かなマナで行われる治療は、相当に効果が落ちてしまっているが、何もしないよりは随分とマシだろう。
瑞穂が意識を取り戻したとしても、罵倒の言葉を浴びせられる事は無いと断言出来る。
しかし、だからこそアセリアは形容し難い程の痛みを感じていた。
自身の身など顧みずに、『求め』の力を引き出して、只ひたすらに瑞穂の治療を続ける。
残り僅かなマナで行われる治療は、相当に効果が落ちてしまっているが、何もしないよりは随分とマシだろう。
「……アレを壊すのは、暫く無理ね」
梨花はそう呟いてから、前方に立ち塞がる扉を眺め見た。
他の部屋には重要そうな機械が置いていなかった以上、この扉の向こう側に、電波塔の機能を司る設備があるのは間違いない。
その設備さえ破壊すれば、電波塔は只の鉄屑と化す筈。
しかし扉は見るからに頑丈そうな金属で構成されており、しっかりと施錠もしてある。
中に入るには破壊するしかないが、銃弾程度では到底不可能だし、疲弊し切ったアセリアにも破壊する事は難しい。
他の部屋には重要そうな機械が置いていなかった以上、この扉の向こう側に、電波塔の機能を司る設備があるのは間違いない。
その設備さえ破壊すれば、電波塔は只の鉄屑と化す筈。
しかし扉は見るからに頑丈そうな金属で構成されており、しっかりと施錠もしてある。
中に入るには破壊するしかないが、銃弾程度では到底不可能だし、疲弊し切ったアセリアにも破壊する事は難しい。
(なら一旦外に出て、ことみを探すべきかしら?
……ううん駄目ね、なるべく早く電波塔を破壊しないと)
……ううん駄目ね、なるべく早く電波塔を破壊しないと)
一瞬頭に浮かんだ考えを、直ぐに打ち消した。
次々に不覚を取った鷹野達が、このまま黙っているとは考え難い。
勝負とは、後手に回れば回る程不利になる物。
鷹野達が次の手を打つよりも早く、電波塔を無力化しておきたい所。
とは云え、瑞穂の治療を後回しにするという選択肢は論外だ。
次々に不覚を取った鷹野達が、このまま黙っているとは考え難い。
勝負とは、後手に回れば回る程不利になる物。
鷹野達が次の手を打つよりも早く、電波塔を無力化しておきたい所。
とは云え、瑞穂の治療を後回しにするという選択肢は論外だ。
まずは瑞穂の容態がもう少し回復するのを待って、それからアセリアに休憩を取らせるべきだろう。
多少なりとも休憩を取った後のアセリアならば、造作も無く扉を破壊出来る筈だった。
結論を下した梨花は、アセリアにも応急処置を行うべく、治療の準備をし始めた。
多少なりとも休憩を取った後のアセリアならば、造作も無く扉を破壊出来る筈だった。
結論を下した梨花は、アセリアにも応急処置を行うべく、治療の準備をし始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
場所は移り変わり、電波塔の周辺に広がる草原。
激戦の傷跡が深く刻み込まれた地に、赤色の車が停車していた。
激戦の傷跡が深く刻み込まれた地に、赤色の車が停車していた。
「――はん、アレさえ壊せばこの糞ったれゲームも終わりって訳かい」
逸早く車から降りた大空寺あゆは、酷く皮肉気な笑みを浮かべた。
車の助手席には白鐘沙羅の姿が、そして後部座席には両腕を後ろ手に縛られた、一ノ瀬ことみの姿がある。
車の助手席には白鐘沙羅の姿が、そして後部座席には両腕を後ろ手に縛られた、一ノ瀬ことみの姿がある。
――あゆはことみをロープで拘束した後、直ぐ様話を聞きだそうとした。
しかしことみが最初に話したのは、電波塔によって首輪が管理されている為、今すぐ破壊しにいくべきだという内容の物だった。
それは本来ならば、眉唾物の話。
殺人遊戯の生命線とも云える最重要施設を、参加者が攻撃可能な場所に設置するなど考えられない。
ましてやその情報源が、殺人鬼である一ノ瀬ことみなのだから、信じろと云う方が無茶だろう。
しかしことみが最初に話したのは、電波塔によって首輪が管理されている為、今すぐ破壊しにいくべきだという内容の物だった。
それは本来ならば、眉唾物の話。
殺人遊戯の生命線とも云える最重要施設を、参加者が攻撃可能な場所に設置するなど考えられない。
ましてやその情報源が、殺人鬼である一ノ瀬ことみなのだから、信じろと云う方が無茶だろう。
だが塔に関する情報は、あゆ達も幾つか耳にしている。
蟹沢きぬの情報によれば、参加者達は暗示を掛けられていた所為で、少し前まで電波塔の存在を認識出来なかったらしい。
そして主催者側の人間だと思われる男も、『電波塔を放棄する事にした』と云っていた。
あの電波塔が何か重大な機能を担っているのは、ほぼ間違いない。
今回に限っては、ことみの話を信じるに足る材料が十分過ぎる程揃っていた。
そこであゆと沙羅は、ことみへの尋問よりも、電波塔の破壊を優先する事にしたのだ。
山道であった為車での移動は難航したが、何とか無事電波塔まで辿り着けた。
蟹沢きぬの情報によれば、参加者達は暗示を掛けられていた所為で、少し前まで電波塔の存在を認識出来なかったらしい。
そして主催者側の人間だと思われる男も、『電波塔を放棄する事にした』と云っていた。
あの電波塔が何か重大な機能を担っているのは、ほぼ間違いない。
今回に限っては、ことみの話を信じるに足る材料が十分過ぎる程揃っていた。
そこであゆと沙羅は、ことみへの尋問よりも、電波塔の破壊を優先する事にしたのだ。
山道であった為車での移動は難航したが、何とか無事電波塔まで辿り着けた。
「……沙羅、準備は良いかい?」
「うん、バッチシよ。ちゃんと信管もセットあるし、何時でもいけるわ」
「うん、バッチシよ。ちゃんと信管もセットあるし、何時でもいけるわ」
答える沙羅の両腕には、サッカーボール大の爆弾が抱き抱えられている。
その威力は、天才少女・二見瑛理子のお墨付きだ。
電波塔という巨大な施設を無力化するのに、これ以上適した武器は無いだろう。
敵が待ち伏せしている可能性も考慮すれば、内部よりも外部から破壊する方が良い筈だった。
その威力は、天才少女・二見瑛理子のお墨付きだ。
電波塔という巨大な施設を無力化するのに、これ以上適した武器は無いだろう。
敵が待ち伏せしている可能性も考慮すれば、内部よりも外部から破壊する方が良い筈だった。
沙羅は車から降り立つと、生い茂る草々を踏み締めながら、電波塔の外壁傍まで歩いていった。
爆弾を地面に設置してから、祈るように目を閉じる。
爆弾を地面に設置してから、祈るように目を閉じる。
「瑛理子――力を貸して。鷹野達に、飛びっきりのカウンターパンチを食らしてやって……!!」
強い想いを篭めた言葉と共に、沙羅は爆弾を起動させた。
続けて全速力でその場を離脱し、あゆやことみと共に、自分達が乗ってきた車の背後へと身を隠す。
そのまま暫く待ってみたものの、爆発が起きる様子は無い。
もしかしたら失敗作だったのでは、という不安も沸き上がったが、それは杞憂に終わった。
爆弾の外装が急激に膨らみ、そして破裂する。
続けて全速力でその場を離脱し、あゆやことみと共に、自分達が乗ってきた車の背後へと身を隠す。
そのまま暫く待ってみたものの、爆発が起きる様子は無い。
もしかしたら失敗作だったのでは、という不安も沸き上がったが、それは杞憂に終わった。
爆弾の外装が急激に膨らみ、そして破裂する。
「「「……………………ッ!!!」」」
轟く爆音、視界を覆い尽くす閃光。
余りの衝撃に大地すらも振動し、凄まじい爆風が容赦無く吹き荒れる。
コンクリートや金属片等、電波塔を構成していた様々な物体の破片が、雨のように降り注いでいた。
もし沙羅達が車の背後に身を隠していなかったら、残骸の幾つかが身体に突き刺さっていたかも知れないだろう。
余りの衝撃に大地すらも振動し、凄まじい爆風が容赦無く吹き荒れる。
コンクリートや金属片等、電波塔を構成していた様々な物体の破片が、雨のように降り注いでいた。
もし沙羅達が車の背後に身を隠していなかったら、残骸の幾つかが身体に突き刺さっていたかも知れないだろう。
「塔は……どうなったの!?」
爆風が収まるのを待ってから、沙羅は車から身を乗り出した。
するとボロボロの風体を晒している塔の姿が、瞳に映った。
元が巨大な施設だった事もあり、何とか原型を留めてはいるものの、アレでは最早修理不可能の筈。
するとボロボロの風体を晒している塔の姿が、瞳に映った。
元が巨大な施設だった事もあり、何とか原型を留めてはいるものの、アレでは最早修理不可能の筈。
「瑛理子……やっぱりアンタ凄いよ。アンタは……天才よ」
失敗作など、とんでもない勘違いだった。
瑛理子が準備してくれた爆弾は、恐るべき威力を発揮したのだ。
瑛理子の遺した切り札は、悪魔の枷を完全に打ち破ってくれたのだ。
沙羅は瑛理子が遺したもう一つの道具――小さな人形を、慈しむ様に抱き締めた。
瑛理子が準備してくれた爆弾は、恐るべき威力を発揮したのだ。
瑛理子の遺した切り札は、悪魔の枷を完全に打ち破ってくれたのだ。
沙羅は瑛理子が遺したもう一つの道具――小さな人形を、慈しむ様に抱き締めた。
しかし何時までも、感慨に耽っている訳にも行かない。
首輪の機能を無効化させたとは云え、未だ全てが解決した訳ではないのだ。
首輪の機能を無効化させたとは云え、未だ全てが解決した訳ではないのだ。
「それじゃ、そろそろ行こっか」
目的を果たした沙羅達は、直ぐに場所を移そうとする。
初めに沙羅が車に乗り込んで、エンジンを起動させた。
次にあゆとことみが車のドアを空けて、後部座席に乗り込もうとする。
しかしそこであゆは、唐突に動きを止めた。
未だロープで拘束したままのことみを、値踏みするように眺め見る。
初めに沙羅が車に乗り込んで、エンジンを起動させた。
次にあゆとことみが車のドアを空けて、後部座席に乗り込もうとする。
しかしそこであゆは、唐突に動きを止めた。
未だロープで拘束したままのことみを、値踏みするように眺め見る。
(……本当にコイツは悪人なのか?)
あゆの中に渦巻いているのは、『もしかしたら、一ノ瀬ことみは殺人鬼なんかじゃ無いのでは?』という想いである。
殺し合いに乗っている人間ならば、首輪を無力化させる方法など考えたりはしないだろう。
そんな事をするよりも、優勝する為の方法を考えた方が遥かに有益だ。
にも関わらず、ことみは電波塔の機能を解明していたし、その破壊を推奨だってしていた。
殺し合いに乗っている人間ならば、首輪を無力化させる方法など考えたりはしないだろう。
そんな事をするよりも、優勝する為の方法を考えた方が遥かに有益だ。
にも関わらず、ことみは電波塔の機能を解明していたし、その破壊を推奨だってしていた。
「なあ一ノ瀬、もう一度聞いてやる。時雨を殺したのは、お前なのか?」
「……何度聞かれたって答えは同じ。亜沙さんは私の大事な仲間だった。
そんな人を、殺したりする訳ないの」
「……何度聞かれたって答えは同じ。亜沙さんは私の大事な仲間だった。
そんな人を、殺したりする訳ないの」
問い掛けてみると、全く迷いの無い答えが返って来た。
告げることみの表情には、動揺している様子など微塵も無い。
冷静に観察してみると、とても嘘を吐いているようには思えない。
やはり、自分が間違っていたのでは――あゆの中に根付いていた猜疑心と憎悪が、徐々に薄れてゆく。
だが、全てが丸く収まるかと思われたその瞬間。
パアン、という乾いた音がした。
告げることみの表情には、動揺している様子など微塵も無い。
冷静に観察してみると、とても嘘を吐いているようには思えない。
やはり、自分が間違っていたのでは――あゆの中に根付いていた猜疑心と憎悪が、徐々に薄れてゆく。
だが、全てが丸く収まるかと思われたその瞬間。
パアン、という乾いた音がした。
「――――なっ!?」
あゆ達の近くに生い茂っていった雑草が、鳴り響いた銃声と共に弾け飛ぶ。
唐突に飛来した弾丸が、束の間の平穏を切り裂いていた。
唐突に飛来した弾丸が、束の間の平穏を切り裂いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
電波塔が爆破された時、アセリア達はまだ塔内に留まっていた。
アセリアが残された力の全てを振り絞って、オーラフォトン・バリア――強力な防壁を展開する魔法――で仲間達を守ったものの、一歩間違えれば死んでいた。
今のアセリア達にとって、外から攻撃してきた人間は冷酷無比な襲撃者に他ならない。
だからこそ梨花は、即座に反撃を行ったのだ。
アセリアが残された力の全てを振り絞って、オーラフォトン・バリア――強力な防壁を展開する魔法――で仲間達を守ったものの、一歩間違えれば死んでいた。
今のアセリア達にとって、外から攻撃してきた人間は冷酷無比な襲撃者に他ならない。
だからこそ梨花は、即座に反撃を行ったのだ。
「くっ……やっぱりこの距離じゃ当たらないわね」
梨花はベレッタM92Fを握り締めながら、苛立たしげに吐き捨てた。
塔の外壁が破壊されたお陰で、視線こそ通ってはいるが、いかんせん距離が遠過ぎる。
どうしてものか――梨花が結論を出すよりも早く、横からアセリアの声が聞こえて来た。
塔の外壁が破壊されたお陰で、視線こそ通ってはいるが、いかんせん距離が遠過ぎる。
どうしてものか――梨花が結論を出すよりも早く、横からアセリアの声が聞こえて来た。
「あれは……コトミ? サラ……それに、ダイクウジアユッ…………!」
「え――――?」
「え――――?」
云われて梨花は、襲撃者達の姿を注視した。
一見した所、相手の人数は三人。
栗色の髪の少女――外見的特徴から察するに、白鐘沙羅。
そして車の直ぐ傍に金髪の少女、大空寺あゆと、ロープで拘束されたことみの姿があった。
一見した所、相手の人数は三人。
栗色の髪の少女――外見的特徴から察するに、白鐘沙羅。
そして車の直ぐ傍に金髪の少女、大空寺あゆと、ロープで拘束されたことみの姿があった。
「ちょっと、どういう事!? 何でことみが捕まってるのよ!?」
「分からない……。だけど、ダイクウジアユは……危険な人間だ。
このままじゃ、コトミが危ない……!」
「分からない……。だけど、ダイクウジアユは……危険な人間だ。
このままじゃ、コトミが危ない……!」
アセリアからすれば、そう判断するのが一番自然だった。
予告無しの爆撃攻撃に、ロープで拘束された仲間の姿。
アセリアとことみは一度、あゆに襲撃された経験だってあるのだ。
何故ことみが捕まっているのか、どうして沙羅があゆと同行しているのかは不明だが、危険な状況である事は間違い無い。
予告無しの爆撃攻撃に、ロープで拘束された仲間の姿。
アセリアとことみは一度、あゆに襲撃された経験だってあるのだ。
何故ことみが捕まっているのか、どうして沙羅があゆと同行しているのかは不明だが、危険な状況である事は間違い無い。
「確か沙羅って云う人は、貴女の知り合いだったわよね? だったら交渉の余地くらいあるかも知れない。
まずは話し合ってみましょう」
「……ん!」
まずは話し合ってみましょう」
「……ん!」
すぐさま対応策を決めた梨花達は、二人同時に塔を飛び出した。
塔は何時倒壊するか分からない状態なので、満身創痍の瑞穂を残してゆく訳にはいかない。
アセリアは草原の一角に瑞穂を横たわらせてから、静かに呟いた。
塔は何時倒壊するか分からない状態なので、満身創痍の瑞穂を残してゆく訳にはいかない。
アセリアは草原の一角に瑞穂を横たわらせてから、静かに呟いた。
「ミズホ……暫く此処で待っていて。必ず……コトミを助けて、戻るから」
生命の危機は脱したものの、瑞穂は未だ気絶したままである。
出来ればずっと傍に付いてあげたい所だが、今は緊急事態。
先ずはことみを救出するのが先決だろう。
蒼の妖精は視線を上げて、己が役目を果たす為に歩き出した。
出来ればずっと傍に付いてあげたい所だが、今は緊急事態。
先ずはことみを救出するのが先決だろう。
蒼の妖精は視線を上げて、己が役目を果たす為に歩き出した。
「――アセリアッ!?」
「――アセリアさんっ!」
「――アセリアさんっ!」
アセリアの姿に気付いた沙羅とことみが、同時に驚きの声を上げる。
それに構わずアセリアは歩き続け、沙羅達から二十メートル程離れた所で足を止めた。
ひゅうひゅうと、冷え切った風が草原の中に吹き荒れる。
降り注ぐ夕日が、アセリアの顔を朱色に照らし上げていた。
それに構わずアセリアは歩き続け、沙羅達から二十メートル程離れた所で足を止めた。
ひゅうひゅうと、冷え切った風が草原の中に吹き荒れる。
降り注ぐ夕日が、アセリアの顔を朱色に照らし上げていた。
「サラ……どういうつもりだ。どうして……こんな事をする」
「こんな事って――、私達は只、電波塔を破壊しようと……」
「――ふざけないで! 下手したら私達、死んでいたのよ!?」
「こんな事って――、私達は只、電波塔を破壊しようと……」
「――ふざけないで! 下手したら私達、死んでいたのよ!?」
弁解しようとした沙羅の言葉は、梨花の声によって遮られた。
梨花は怒りの表情を浮かべたまま、ロープに縛られていることみを指差す。
梨花は怒りの表情を浮かべたまま、ロープに縛られていることみを指差す。
「私の仲間をそんな風にロープで縛って! 何よ、人質にするつもりなの?
貴女と大空寺あゆは、殺し合いに乗ってるって云うの?」
「……違う! 私達は殺し合うつもりなんて無い!」
「だったら、ことみを放しなさい! 今すぐによ!」
貴女と大空寺あゆは、殺し合いに乗ってるって云うの?」
「……違う! 私達は殺し合うつもりなんて無い!」
「だったら、ことみを放しなさい! 今すぐによ!」
云われて沙羅は一瞬迷ったが、直ぐにことみの縛めを解いた。
今下手に逆らっては、取り返しの付かない事態になりかねないからだ。
自由になったことみは、負傷している足を引き摺りながらも、アセリアの元へと駆け寄っていった。
今下手に逆らっては、取り返しの付かない事態になりかねないからだ。
自由になったことみは、負傷している足を引き摺りながらも、アセリアの元へと駆け寄っていった。
「アセリアさん、梨花ちゃん!」
「コトミ……もう大丈夫。私の後ろに……隠れて」
「コトミ……もう大丈夫。私の後ろに……隠れて」
アセリアはそう云って、ことみを後ろへと下がらせた。
アセリアの両腕には、今も『求め』がしっかりと握り締められている。
アセリアの両腕には、今も『求め』がしっかりと握り締められている。
囚われの身であったことみは解放された
しかしアセリア達もあゆ達も、臨戦態勢を解いたりはしない。
両者共に、既に一度ずつ互いを攻撃してしまっているのだ。
そのような状況で、安易に相手を信用したり出来る筈も無い。
しかしアセリア達もあゆ達も、臨戦態勢を解いたりはしない。
両者共に、既に一度ずつ互いを攻撃してしまっているのだ。
そのような状況で、安易に相手を信用したり出来る筈も無い。
アセリアと古手梨花。
大空寺あゆと白鐘沙羅。
両者は各々の得物を手に、緊張した面持ちで睨み合う。
だが唐突にあゆが口元を吊り上げて、心底可笑しそうに哂い始めた。
大空寺あゆと白鐘沙羅。
両者は各々の得物を手に、緊張した面持ちで睨み合う。
だが唐突にあゆが口元を吊り上げて、心底可笑しそうに哂い始めた。
「く――、くくッ……アハハハハハハハハハっ!! そうか……そういう事か…………!!」
狂ったような笑い声が、静寂に包まれた黄昏の草原を打つ。
一人で納得したように哂い続けるあゆの姿は、本人以外の誰にとっても理解不能な物だ。
訝しげな視線を送る沙羅に対して、あゆが語り掛ける。
一人で納得したように哂い続けるあゆの姿は、本人以外の誰にとっても理解不能な物だ。
訝しげな視線を送る沙羅に対して、あゆが語り掛ける。
「分からないのかい、沙羅。私達はまた、一ノ瀬に騙されたんだよ」
「……どういう事?」
「あの糞虫にとって電波塔を壊す事なんて、どうでも良かったのさ。只――私達とアセリア達を、潰し合わせようとしただけだ」
「なッ…………」
「……どういう事?」
「あの糞虫にとって電波塔を壊す事なんて、どうでも良かったのさ。只――私達とアセリア達を、潰し合わせようとしただけだ」
「なッ…………」
絶句する沙羅を他所に、あゆは言葉を続けてゆく。
「考えたもんだねえ、一ノ瀬。生き残りが少なくなってきたから、そろそろ仲間を切り捨てようって腹か。
塔の中にアセリア達が居るって事も、最初から分かっていたんだろ? 分かった上で敢えて、塔を爆破させようとしたんだろ?」
塔の中にアセリア達が居るって事も、最初から分かっていたんだろ? 分かった上で敢えて、塔を爆破させようとしたんだろ?」
語るあゆは、憎悪に染まり切った目でことみを睨み付けている。
今まで集めた情報によれば、自分達と同様、アセリア達も殺し合いには乗っていない筈。
しかし自分達は、塔の中に居るアセリア達を問答無用で攻撃してしまった。
生じてしまった亀裂を修復するのは、並大抵の事では不可能だろう。
今まで集めた情報によれば、自分達と同様、アセリア達も殺し合いには乗っていない筈。
しかし自分達は、塔の中に居るアセリア達を問答無用で攻撃してしまった。
生じてしまった亀裂を修復するのは、並大抵の事では不可能だろう。
対主催を志す者同士が潰し合えば、一番得するのは誰か――そんなモノ、殺し合いに乗っている人間に決まっている。
余りにも出来すぎた、作為的に準備されたとしか思えぬ状況。
一度消えかけた疑心暗鬼の炎は、以前を遥かに上回る勢いで燃え上がっていた。
余りにも出来すぎた、作為的に準備されたとしか思えぬ状況。
一度消えかけた疑心暗鬼の炎は、以前を遥かに上回る勢いで燃え上がっていた。
「ちょっと待つの! 私にはそんなつもり、これっぽちも無かったの!」
「はっ、この期に及んで言い逃れとはね。流石に売女なだけあって、面の皮が厚いさね。
その調子だとアレか、男相手なら股でも開いて懐柔してんのかい?」
「はっ、この期に及んで言い逃れとはね。流石に売女なだけあって、面の皮が厚いさね。
その調子だとアレか、男相手なら股でも開いて懐柔してんのかい?」
ことみが懸命に無実を訴えるが、あゆは全く取り合おうとしない。
必死の弁明は寧ろ、あゆの憎悪に拍車を掛けるだけだった。
必死の弁明は寧ろ、あゆの憎悪に拍車を掛けるだけだった。
「首輪の機能を無効化しようとしてたのも、全ては私達を欺く為だった訳だ。
いやいや、ホント大した役者だよ」
「……幾らなんでも、それは一方的に決め付け過ぎなんじゃないの?」
「沙羅――お前、未だ寝惚けてるんだな。なら良い事を教えてやろうか?」
いやいや、ホント大した役者だよ」
「……幾らなんでも、それは一方的に決め付け過ぎなんじゃないの?」
「沙羅――お前、未だ寝惚けてるんだな。なら良い事を教えてやろうか?」
ことみを殺人鬼と断ずる材料は十分に揃っているが、未だ沙羅は確信を持てていない様子。
だから、あゆは口にする――今まで伝えていなかった『事実』を。
だから、あゆは口にする――今まで伝えていなかった『事実』を。
「お前の元の世界の知り合い――確か、恋太郎といったか。ソイツを殺したのはな、そこの糞虫さ」
「え…………」
「聞こえなかったんなら、もう一度云ってやる。双葉恋太郎を惨殺したのは、一ノ瀬ことみだ」
「え…………」
「聞こえなかったんなら、もう一度云ってやる。双葉恋太郎を惨殺したのは、一ノ瀬ことみだ」
念を押すようにあゆが云うと、沙羅の顔から表情が消えた。
最愛の人間を奪った怨敵が目の前に居るという情報は、確かに沙羅へと伝わった。
最愛の人間を奪った怨敵が目の前に居るという情報は、確かに沙羅へと伝わった。
「どう? これでもまだ、そこの糞虫を信頼する余地が残されてるって云うのかい?」
投げ掛けられた問い掛け。
沙羅は静かに俯いて、暫しの間沈黙を守っている。
そのまま待つ事、十数秒。
やがて沙羅は、幽鬼の如くゆっくりと顔を上げた。
沙羅は静かに俯いて、暫しの間沈黙を守っている。
そのまま待つ事、十数秒。
やがて沙羅は、幽鬼の如くゆっくりと顔を上げた。
「……す」
その声は小さ過ぎて、誰にも聞き取る事が出来なかった。
しかし聞き取るまでも無く、この場に居る全員が沙羅の意思を理解出来ただろう。
何しろ沙羅の表情は、般若の如き形相に変わっていたのだから。
しかし聞き取るまでも無く、この場に居る全員が沙羅の意思を理解出来ただろう。
何しろ沙羅の表情は、般若の如き形相に変わっていたのだから。
「殺す……殺してやる!! よくも恋太郎を…………ッ!!!」
「違う! 私は恋太郎さんを殺してなんか……」
「五月蝿い! アンタだけは、絶対に許さないんだからッッ!!!」
「違う! 私は恋太郎さんを殺してなんか……」
「五月蝿い! アンタだけは、絶対に許さないんだからッッ!!!」
ことみの弁明は、最後まで聞く必要すら無いと云わんばかりに跳ね付けられた。
今の沙羅の心は、激しく燃え盛る憎悪で埋め尽くされている。
交渉など不可能だ。
今の沙羅の心は、激しく燃え盛る憎悪で埋め尽くされている。
交渉など不可能だ。
「お前達、話は聞いてただろ? 一ノ瀬ことみは極悪非道な殺人鬼さ。
今から一ノ瀬を殺すから、ソコ退けや。邪魔するって云うんなら、生命の保証は出来ないよ」
「冗談じゃないわね。ことみが殺し合いに乗っているなんて、そんなの有り得ない。
私は貴女達なんかよりも、ことみを信じるわ」
「……何を云われようとも、私は……コトミを守る。お前が敵だと云うのなら……倒すだけ」
今から一ノ瀬を殺すから、ソコ退けや。邪魔するって云うんなら、生命の保証は出来ないよ」
「冗談じゃないわね。ことみが殺し合いに乗っているなんて、そんなの有り得ない。
私は貴女達なんかよりも、ことみを信じるわ」
「……何を云われようとも、私は……コトミを守る。お前が敵だと云うのなら……倒すだけ」
話は終わりだと云わんばかりに、あゆが刺々しい声で通告したが、梨花もアセリアも退こうとしない。
殺気に満ちた視線と視線が、火花を散らすかのように激しく鬩ぎ合う。
殺気に満ちた視線と視線が、火花を散らすかのように激しく鬩ぎ合う。
「そうかい……。なら――」
あゆの手に握り締められたS&W M10が、すっと持ち上げられる。
応じるようにして、アセリア達も各々の得物を構えた。
応じるようにして、アセリア達も各々の得物を構えた。
「――死ねや、糞虫共!!」
甲高い銃声を轟かせながら、あゆのS&W M10が火花を吹く。
放たれた銃弾は一直線に、アセリアの胸部目掛けて飛んで行った。
アセリアは恐るべき動体視力で銃弾の軌道を見抜き、『求め』の刀身を盾にして受け止めると、そのまま前方へと疾駆した。
放たれた銃弾は一直線に、アセリアの胸部目掛けて飛んで行った。
アセリアは恐るべき動体視力で銃弾の軌道を見抜き、『求め』の刀身を盾にして受け止めると、そのまま前方へと疾駆した。
今アセリアは疲労困憊の状態だが、それでも素人の銃撃程度なら問題にならない。
次々に襲い掛かるあゆの銃撃を着実に防ぎながら、確実に間合いを詰めてゆく。
だが突如アセリアは背中に薄ら寒いものを感じ、咄嗟の判断で後方へと跳躍した。
次の瞬間、それまでアセリアが居た空間を、猛り狂う銃弾の群れが切り裂いてゆく。
次々に襲い掛かるあゆの銃撃を着実に防ぎながら、確実に間合いを詰めてゆく。
だが突如アセリアは背中に薄ら寒いものを感じ、咄嗟の判断で後方へと跳躍した。
次の瞬間、それまでアセリアが居た空間を、猛り狂う銃弾の群れが切り裂いてゆく。
「アセリア――私達の邪魔をするつもりなら、アンタも倒す!!」
「サラッ……」
「サラッ……」
沙羅はアセリアの着地を待たずして、立て続けにワルサー P99のトリガーを引き絞る。
熟練した銃の使い手である沙羅が、狙いを外す事は有り得ない。
放たれた銃弾は一つの例外も無く、アセリアの胴体部に向かって飛んで行った。
本来のアセリアならば、ウイング・ハイロウゥを展開して回避する場面。
しかし今のアセリアには、そのようなマナなど残されては居ない。
宙に浮いたまま、必死に身を捩って逃れるのが精一杯だった。
熟練した銃の使い手である沙羅が、狙いを外す事は有り得ない。
放たれた銃弾は一つの例外も無く、アセリアの胴体部に向かって飛んで行った。
本来のアセリアならば、ウイング・ハイロウゥを展開して回避する場面。
しかし今のアセリアには、そのようなマナなど残されては居ない。
宙に浮いたまま、必死に身を捩って逃れるのが精一杯だった。
「くあっ…………!」
何とか銃弾の回避には成功したものの、アセリアは着地に失敗して転倒してしまう。
それは沙羅にとって絶好の好機であり、アセリアにとっては絶体絶命の危機。
沙羅はほんの一秒足らずの動作で、倒れ伏すアセリアへと照準を定める。
だが沙羅は視界の端にあるモノを認めると、直ぐに射撃動作を中断して、傍にあった瓦礫の山――電波塔の残骸――へと身を隠した。
連続して鳴り響いた銃声と共に、瓦礫の一部が弾け飛ぶ。
それは沙羅にとって絶好の好機であり、アセリアにとっては絶体絶命の危機。
沙羅はほんの一秒足らずの動作で、倒れ伏すアセリアへと照準を定める。
だが沙羅は視界の端にあるモノを認めると、直ぐに射撃動作を中断して、傍にあった瓦礫の山――電波塔の残骸――へと身を隠した。
連続して鳴り響いた銃声と共に、瓦礫の一部が弾け飛ぶ。
「――――ッ、まさか今のを躱されるなんて……」
銃撃を行った梨花は、沙羅の卓越した危機回避能力に舌打ちしながらも、ミニウージーを鞄へと仕舞い込んだ。
短機関銃であるミニウージーは強力無比な火器だが、何回も使用してしまえば直ぐに銃弾が切れてしまうからだ。
幸い瑞穂の鞄を持ってきたお陰で、ミニウージー以外にも武器は沢山ある。
梨花は鞄からベレッタM92Fを取り出すと、沙羅が隠れている瓦礫の山に向かって銃撃を開始した。
短機関銃であるミニウージーは強力無比な火器だが、何回も使用してしまえば直ぐに銃弾が切れてしまうからだ。
幸い瑞穂の鞄を持ってきたお陰で、ミニウージー以外にも武器は沢山ある。
梨花は鞄からベレッタM92Fを取り出すと、沙羅が隠れている瓦礫の山に向かって銃撃を開始した。
「6、7、8…………」
沙羅は一目で梨花の銃が何であるかを見抜き、相手の弾切れまで耐え凌ぐ作戦に出た。
反撃など一切行わずに、敵が消費した弾数を数えながら、瓦礫の影で息を潜め続ける。
焦る事は無い。
敵の銃弾さえ切れてしまえば、一気に攻め込む好機が生まれる筈なのだ。
反撃など一切行わずに、敵が消費した弾数を数えながら、瓦礫の影で息を潜め続ける。
焦る事は無い。
敵の銃弾さえ切れてしまえば、一気に攻め込む好機が生まれる筈なのだ。
「14……15――今ッ!!」
敵の弾切れと同時に、勢い良く瓦礫の山を飛び出す沙羅。
そんな彼女の目に映ったのは、コロコロと転がってくる空き缶のような物体だった。
次の瞬間、沙羅の視界が眩い閃光で覆い尽くされる。
そんな彼女の目に映ったのは、コロコロと転がってくる空き缶のような物体だった。
次の瞬間、沙羅の視界が眩い閃光で覆い尽くされる。
「しま……っ、くああああああああ!!」
物体が閃光弾であると気付いた沙羅は、半ば反射的に目を閉じたものの、その程度では防ぎ切れない。
炸裂した閃光段は、沙羅の視力を一時的に奪い去っていた。
炸裂した閃光段は、沙羅の視力を一時的に奪い去っていた。
「半ば賭けだったけど――どうやら、決まってくれたみたいね」
梨花はそう呟きながら、両目を覆っていた手を外した。
こちらの弾切れと同時に敵が攻め込んでくると踏んで、梨花は予め閃光弾を投擲していたのだ。
こちらの弾切れと同時に敵が攻め込んでくると踏んで、梨花は予め閃光弾を投擲していたのだ。
低い身体能力しか持たぬ梨花と、高度な射撃の技能を持つ沙羅。
正面から戦えば、何百回やろうとも沙羅が勝つに決まっている。
しかし、梨花とて自身の非力さくらい自覚している。
実力で劣っているのならば、正面から戦わなければ良い。
心理戦という一点に限っては、梨花の方が一枚上手だった。
正面から戦えば、何百回やろうとも沙羅が勝つに決まっている。
しかし、梨花とて自身の非力さくらい自覚している。
実力で劣っているのならば、正面から戦わなければ良い。
心理戦という一点に限っては、梨花の方が一枚上手だった。
「これでチェックメイト――暫くの間、大人しくして貰おうかしら」
梨花は敵の戦闘能力を奪い去るべく、銃口を沙羅の左足へ向けた。
沙羅は未だ視力が回復していない為に、碌な回避行動を取れない。
一対一の対決なら、これで勝負は決まっていただろう。
だが今は複数人による乱戦の最中であり、常に周囲へと気を配る必要がある。
あれだけ派手な攻撃を行ってしまえば、他の者に狙われぬ筈が無いのだ。
梨花は突如左肩に鈍い痛みを感じ取り、ベレッタM92Fを取り落とした。
沙羅は未だ視力が回復していない為に、碌な回避行動を取れない。
一対一の対決なら、これで勝負は決まっていただろう。
だが今は複数人による乱戦の最中であり、常に周囲へと気を配る必要がある。
あれだけ派手な攻撃を行ってしまえば、他の者に狙われぬ筈が無いのだ。
梨花は突如左肩に鈍い痛みを感じ取り、ベレッタM92Fを取り落とした。
「あぐっ…………!?」
「――アホ面晒して、一人で勝った気になるなや」
「――アホ面晒して、一人で勝った気になるなや」
梨花の左肩に銃弾を掠らせたのは、疑心暗鬼に囚われし金色夜叉――大空寺あゆだ。
直撃こそ免れたものの、銃弾は梨花の左肩に浅くない損傷を与えていた。
間髪置かずに、あゆはS&W M10で追い討ちを行おうとする。
だが沙羅に仲間が居るのと同様、梨花にも仲間が居る。
何者かが近付いて来る気配を察知したあゆは、首を横へと向けた。
直撃こそ免れたものの、銃弾は梨花の左肩に浅くない損傷を与えていた。
間髪置かずに、あゆはS&W M10で追い討ちを行おうとする。
だが沙羅に仲間が居るのと同様、梨花にも仲間が居る。
何者かが近付いて来る気配を察知したあゆは、首を横へと向けた。
「たああああああああっ!」
「アセ、リアッ……!!」
「アセ、リアッ……!!」
吹き荒れる蒼の疾風。
あゆの両足に狙いを絞って、アセリアの大剣が横凪ぎに振るわれる。
しかしあゆにとっては幸いな事に、満身創痍のアセリアが放つ剣戟は、常人でも反応可能な速度にまで落ちている。
あゆは済んでの所で真上に跳躍して、迫る一撃をやり過ごした。
凌ぐ事に成功してしまえば、危険な状況も一転して自らの好機となる。
この距離ならば照準を定めるまでもなく、銃弾は必ず敵に命中する。
あゆは地面に降り立つと同時に、S&W M10の引き金を絞った。
だが至近距離からの銃撃でも、アセリアを打倒するには至らない。
あゆの両足に狙いを絞って、アセリアの大剣が横凪ぎに振るわれる。
しかしあゆにとっては幸いな事に、満身創痍のアセリアが放つ剣戟は、常人でも反応可能な速度にまで落ちている。
あゆは済んでの所で真上に跳躍して、迫る一撃をやり過ごした。
凌ぐ事に成功してしまえば、危険な状況も一転して自らの好機となる。
この距離ならば照準を定めるまでもなく、銃弾は必ず敵に命中する。
あゆは地面に降り立つと同時に、S&W M10の引き金を絞った。
だが至近距離からの銃撃でも、アセリアを打倒するには至らない。
「こんなモノ……当たらない!」
アセリアは身体を横に傾けて、迫り来る銃弾を薄皮一枚で回避する。
あゆの放った銃弾は、空しく宙を切り裂いてゆくに留まった。
今のアセリアは疲弊し切っており、普段の一割も力を出せていない。
それでも人間離れした動体視力と、卓越した戦闘センスだけは健在だった。
あゆの放った銃弾は、空しく宙を切り裂いてゆくに留まった。
今のアセリアは疲弊し切っており、普段の一割も力を出せていない。
それでも人間離れした動体視力と、卓越した戦闘センスだけは健在だった。
「化け物がっ……!」
悪態を吐きながら、あゆが一旦距離を取るべく下がってゆく。
一方アセリアは追撃しようとせずに、別の方角に向けて走り出した。
あゆとアセリアが戦っている間、他の人間が何もしていなかった訳では無い。
アセリアの向かった方角には、沙羅とことみの姿がある。
沙羅は梨花の銃撃を掻い潜り、ことみに襲い掛かろうとしている所だった。
一方アセリアは追撃しようとせずに、別の方角に向けて走り出した。
あゆとアセリアが戦っている間、他の人間が何もしていなかった訳では無い。
アセリアの向かった方角には、沙羅とことみの姿がある。
沙羅は梨花の銃撃を掻い潜り、ことみに襲い掛かろうとしている所だった。
「当たって……ッ」
「馬鹿ねえ、そんな物が通用するとでも思ってんの!?」
「馬鹿ねえ、そんな物が通用するとでも思ってんの!?」
ことみは車の影に隠れながら、周囲に落ちていた瓦礫の欠片を投擲するが、そのような抵抗無意味。
沙羅は難無く身を躱しながら、瞬く間に距離を縮めてゆく。
足を負傷していることみは、障害物に身を隠す以外、銃撃から逃れる術を持っていない。
捕虜になった際に荷物も奪われてしまった為、武器を用いて反撃するのも不可能だ。
このまま距離が縮まり切ってしまえば、数秒と保たずに殺されてしまうだろう。
そんな状況を覆したのは、満身創痍の身体で駆け付けたアセリアだった。
沙羅は難無く身を躱しながら、瞬く間に距離を縮めてゆく。
足を負傷していることみは、障害物に身を隠す以外、銃撃から逃れる術を持っていない。
捕虜になった際に荷物も奪われてしまった為、武器を用いて反撃するのも不可能だ。
このまま距離が縮まり切ってしまえば、数秒と保たずに殺されてしまうだろう。
そんな状況を覆したのは、満身創痍の身体で駆け付けたアセリアだった。
「てやああああああっ!!」
「――――ッ!?」
「――――ッ!?」
重厚な轟音に続いて、土煙が巻き起こる。
沙羅の進路を防ぐような位置に、アセリアが『求め』を振り下ろしていた。
アセリアは真っ直ぐに沙羅の瞳を見据えながら、極力冷静な口調で語り掛けた。
沙羅の進路を防ぐような位置に、アセリアが『求め』を振り下ろしていた。
アセリアは真っ直ぐに沙羅の瞳を見据えながら、極力冷静な口調で語り掛けた。
「……落ち着け。コトミは、人殺しなんか……していない。サラは……アユに、騙されているだけだ」
「――そんなの、信じない! 信じられるもんかああっ!!」
「――そんなの、信じない! 信じられるもんかああっ!!」
感情が昂ぶっている沙羅は、アセリアの言葉に耳を貸そうともしない。
最愛の人を殺した怨敵が眼前に居る以上、やるべき事など一つ。
立ち塞がる障害を排除すべく、少女はワルサー P99片手に蒼の妖精へと挑み掛かる。
三度、咆哮を上げる銃口。
最愛の人を殺した怨敵が眼前に居る以上、やるべき事など一つ。
立ち塞がる障害を排除すべく、少女はワルサー P99片手に蒼の妖精へと挑み掛かる。
三度、咆哮を上げる銃口。
「サラ……ッ」
アセリアは表情を歪めながらも、容赦無く降り注ぐ銃弾の連撃を正確に見切ってゆく。
一発目と二発目の銃弾はサイドステップで躱し、三度目の銃弾は上体を屈める事でやり過ごした。
そのまま足を前に進めつつも、再度説得を試みる。
一発目と二発目の銃弾はサイドステップで躱し、三度目の銃弾は上体を屈める事でやり過ごした。
そのまま足を前に進めつつも、再度説得を試みる。
「もう、止める……! 憎しみに身を任せるなんて……こんなの、サラらしくない……!!」
「五月蝿い! アンタはねえ、私と恋太郎の絆の深さを知らないから、そんな事が云えるのよ!!」
「ッ――――」
「五月蝿い! アンタはねえ、私と恋太郎の絆の深さを知らないから、そんな事が云えるのよ!!」
「ッ――――」
説得が不可能だと判断したアセリアは、止む無く攻撃態勢へと移行する。
話して止めれないのなら、殺しはしないまでも一時的に無力化させるしか無い。
アセリアは沙羅のワルサー P99に狙いを絞って、『求め』を斜め上方に振り上げた。
しかし今のアセリアの剣戟は、一般人のあゆですら反応出来る程に衰えてしまっている。
そんなモノ、探偵助手を勤めし少女に通用する筈が無い。
話して止めれないのなら、殺しはしないまでも一時的に無力化させるしか無い。
アセリアは沙羅のワルサー P99に狙いを絞って、『求め』を斜め上方に振り上げた。
しかし今のアセリアの剣戟は、一般人のあゆですら反応出来る程に衰えてしまっている。
そんなモノ、探偵助手を勤めし少女に通用する筈が無い。
「ふん――遅いわよ!」
沙羅はワルサー P99の銃身を持ち上げて、アセリアの攻撃を空転させる。
続けて、がら空きとなったアセリアの胸部に向けて、ワルサー P99の銃口を向けた。
そんな沙羅の動作に反応して、上体を横に傾けて回避しようとするアセリア。
しかし沙羅も、並大抵の攻撃ではアセリアを打倒し得ぬ事くらい理解している。
沙羅は右手でワルサー P99を撃ち放ちつつも、左手でポケットからS&W M36を取り出した。
続けて、がら空きとなったアセリアの胸部に向けて、ワルサー P99の銃口を向けた。
そんな沙羅の動作に反応して、上体を横に傾けて回避しようとするアセリア。
しかし沙羅も、並大抵の攻撃ではアセリアを打倒し得ぬ事くらい理解している。
沙羅は右手でワルサー P99を撃ち放ちつつも、左手でポケットからS&W M36を取り出した。
「…………ッ!?」
「――貰ったああああああああ!!!」
「――貰ったああああああああ!!!」
二丁撃ち。
精度が落ち、腕に負担も掛かるのが難点だが、近距離戦に限って云えば正しく必殺の攻撃。
上体を傾けた状態のアセリアに対して、S&W M36の銃口が向けられる。
この状況からアセリアが逃れるには、一体どうすれば良いのか。
精度が落ち、腕に負担も掛かるのが難点だが、近距離戦に限って云えば正しく必殺の攻撃。
上体を傾けた状態のアセリアに対して、S&W M36の銃口が向けられる。
この状況からアセリアが逃れるには、一体どうすれば良いのか。
全身全霊の力で飛び退くか――否、今の体勢からでは間に合わない。
再度攻撃して銃を破壊するか――否、これも間に合う筈が無い。
再度攻撃して銃を破壊するか――否、これも間に合う筈が無い。
紛れも無い絶対絶命の窮地。
されどアセリアは、今に匹敵する死地を何度も潜り抜けて来た。
蒼の妖精は秒に満たぬ時間で、最善の選択肢を見つけ出す。
されどアセリアは、今に匹敵する死地を何度も潜り抜けて来た。
蒼の妖精は秒に満たぬ時間で、最善の選択肢を見つけ出す。
「ク――――!!」
「なっ…………!?」
「なっ…………!?」
銃声が鳴り響くのとほぼ同時に、重厚な金属音が木霊した。
銃弾を防いだのは、アセリアの左腕を覆っている頑強な鎧。
アセリアは咄嗟の判断で、左の籠手を盾としたのだ。
しかし流石に衝撃までは殺し切れず、アセリアの左手に重い鈍痛が襲い掛かる。
一方、沙羅も無茶な射撃を行った所為で、両腕に痺れるような痛みを覚えていた。
二人は無理に接近戦を続けようとせず、各々の方向へと飛び退いてゆく。
正しく刹那の攻防いうべき衝突は、どちらの側にも軍配があがる事無く、仕切り直しとなった。
銃弾を防いだのは、アセリアの左腕を覆っている頑強な鎧。
アセリアは咄嗟の判断で、左の籠手を盾としたのだ。
しかし流石に衝撃までは殺し切れず、アセリアの左手に重い鈍痛が襲い掛かる。
一方、沙羅も無茶な射撃を行った所為で、両腕に痺れるような痛みを覚えていた。
二人は無理に接近戦を続けようとせず、各々の方向へと飛び退いてゆく。
正しく刹那の攻防いうべき衝突は、どちらの側にも軍配があがる事無く、仕切り直しとなった。
「――ッハァ……、フ、ハァ―――」
懸命に呼吸を整えるアセリアは、心中穏やかでは無い。
嘗て沙羅とは共に行動した事があったものの、これ程の実力を持っている事は知らなかった。
疲弊し切った今の自分では、そして相手を殺さずに止めようという甘い考えでは、恐らく厳しい戦いを強いられるだろう。
しかし、それでもやるしかないのだ。
妙な言い掛かりをつけてくるあゆはともかく、沙羅が善人であるのは間違いない筈。
ことみを見捨てるといった選択肢は有り得ないし、怒りに支配されているだけの沙羅も殺せない。
アセリアはそう結論付けると、沙羅を殺さずに無力化するべく駆け出した。
嘗て沙羅とは共に行動した事があったものの、これ程の実力を持っている事は知らなかった。
疲弊し切った今の自分では、そして相手を殺さずに止めようという甘い考えでは、恐らく厳しい戦いを強いられるだろう。
しかし、それでもやるしかないのだ。
妙な言い掛かりをつけてくるあゆはともかく、沙羅が善人であるのは間違いない筈。
ことみを見捨てるといった選択肢は有り得ないし、怒りに支配されているだけの沙羅も殺せない。
アセリアはそう結論付けると、沙羅を殺さずに無力化するべく駆け出した。
205:さくら、さくら。空に舞い散るのは…… | 投下順に読む | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |
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204:そして、「 」 | 宮小路瑞穂 | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |
204:そして、「 」 | アセリア | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |
204:そして、「 」 | 一ノ瀬ことみ | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |
204:そして、「 」 | 古手梨花 | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |
204:そして、「 」 | 大空寺あゆ | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |
204:そして、「 」 | 白鐘沙羅 | 206:守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編) |