「CARNIVAL」(2008/01/05 (土) 23:27:01) の最新版変更点
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**CARNIVAL ◆tu4bghlMIw
「――ッ!! また……」
鈴凛は思わず頭を抱えた。死亡者発生を報せるブザーが鳴り響く。
消えた。目の前で続けざまに二つのランプが光を失い灰色の硝子になった。
該当する番号は十四番と二十八番。
小町つぐみに二見瑛理子……よりによってこの二人が、と言わざるを得ない状況だ。
妹達は別として、親しくない他の参加者に優劣をつける事は卑しい行為だとは十分に自覚している。
だが、嘆かざるを得ない理由がある。
彼女達は二人とも長い間、それぞれ別の集団のリーダーの元で参謀役を務めていた類の人間だ。
しかも作戦の立案だけでなく、自ら首輪解除を目論んで行動していたのである。
首輪、このちっぽけな島に散らばった参加者を監視する唯一のシグナルであり檻であり剣であるもの。
島から脱出し、ディーの元に辿り着くためには必ず乗り越えなければならない、厚く高い壁だ。
「……ヤバイって……コレ」
鈴凛は頭をカリカリと掻きながら、残りの参加者の名前を眺めつつ唸った。
なにしろ、参加者の中で首輪を解除し得る能力を有している人間がついに、あと一人となってしまったのだから。
一ノ瀬ことみ――世界的に有名な科学者を両親に持ち、特に物理学に関する知識は他の追随を許さない。
おそらく何一つ制限が無ければ、彼女は簡単に首輪を解体出来る筈。
だが外殻の繋ぎ目に関する暗示、そして盗聴器に生存確認装置とソレを妨害するための機能は多々含まれている。
下手に首輪に手を出せば、鷹野の手によってすぐさま首輪が爆破される。
生きた人間の首輪を真っ向勝負で直に解除するのは、おそらく自分でも不可能――故に、支給品の中に紛れ込ませた数々の特殊機器が効果を発揮する。
ブラフも仕込んではあるが、当然本命も存在する。
それが例のゲームディスクである。
殺し合いの場とは明らかに不釣合いのアレが、連鎖式に動作する特殊プログラムの起動キーとなっている。
もちろん偽装目的で、当初から見せしめ役になる予定だった少年の名前を冠した恋愛アドベンチャーゲーム、という形を取っている。
ちなみに内容は丁度研究室にあった雑誌を参考にした。
タイトルは……何だったかな。確か少し美味しそうな名前だった気がする。
大雑把なストーリーを説明するとプレイヤーは女学生。
その学校は三つの女学園が隣接して、一つの学び舎を形成している。
そして各学校の三人の主人公のうち、一人を選択し友人や先輩、後輩と"友情"を深めていく訳だ。
当然、参考元からの多大なるインスパイアを受けて登場人物は全て女性である。
これは万が一ディスクの中身を鷹野達に検閲された時、その超設定で検査の手を緩める目的もある。
加えて、破棄される危険を最小限に少なくするため、彼の知り合いのデイパックの中にソレを忍ばせておいた。
彼の名前がついたコンドームが支給品に含まれているのも同じ理由。
関連性を強化し、ゲームディスクに何らかの力があるのでは無いかと思わせるためだ。
そして最後に、"アレ"の中に封入したディスクの効果を記した企画書。
この両者と分解のためのノウハウさえ揃えば、首輪を何とかする事は出来る筈。
だが、逆に――鷹野が仕組んだ"罠"も存在する。
例えば最たる例があのフロッピーディスクだ。
そもそも。ROMですらない辺りで怪しさ爆発ではあるのだが。
しかし、三枚セットのうち一枚だけ『パソコンだけではなくその利用者をも吹き飛ばす』効果を持ったフロッピーが含まれている。
情報自体は信憑性のあるものも多いのだが……。
「鈴凛」
「……ん、優さんか。どしたの?」
鈴凛が振り向いた先、そこに立っていたのは右腕で書類をまとめたバインダーを抱えた金髪の少女だった。
田中優美清春香菜。この科学技術班の副主任、ポスト的には右腕、という事になるのだろうか。
明らかに年上なので、さすがに"さん"を付けている。
ちなみにフルで名前を口にした記憶はさすがにない。他の人間も含めて皆、優と呼んでいる。
この第一件研究室の主任へと就任した際、鷹野が直属の部下にと付けて来た人間――つまり、監視役と言った所だろう。
「司令が呼んでる。司令室じゃなくて直接個人ラボに来るように、だって。大至急」
「……個人ラボ? あそこまで行くの? ……っとに、あの鬼婆。人使いが荒いんだよなぁ」
「ふふ、司令が聞いたら怒るよ」
「いやいや、大丈夫だって。ほら、私には"首輪"付いてないし」
そして二人で一笑。
実際に首輪を付けられている姉妹の事を考えれば、本来なら口が裂けても言えないような冗談だ。
ただ、これぐらいの腹芸が使えなければ鷹野を欺く事なんて出来ない。
心にもないブラックジョークくらい、存分に吐いても構わない。
んーでも、こうして普通に笑っている姿なんて、どう見ても普通の女の人なんだけどな。
優さんはどうして、鷹野の手先になんかなっているんだろう。
こんな綺麗な人でも腹の中では何を考えているか分からないって事なのかな。怖いね。
そう、今現在このLeMUに居る人間は大きく分けて二つに区別できる。
つまり鷹野三四が所属する秘密結社『東京』、そして直属の部隊『山狗』の人間。
そして鈴凛や優さん、ヒエンさんなどと言った外部の人間。
この外部の人間、というのが中々厄介だ。
例えば鷹野と意気投合し、殺し合いを嬉々として見物している者もいればその逆、渦巻く殺意の嵐の中で顔を顰めている者もいる。
優さんも時々、凄く悲しそうな顔をする。根っからの悪人にはとても見えない。
もしかして、自分のように誰か知り合いが参加しているのだろうか。
だとしたら……ゲームを転覆させる手伝いをして貰えるかもしれない。
たまにそんな考えが浮かぶけれど、毎回泡のようにパチンと消えてしまう。
危険、過ぎるのだ。
例えばある時急に山狗の隊長が変わっていたという事実。
軽い挨拶を交わす程度でほとんど話をした事は無いが、たまにここ第一研にやって来るあの男性――桑古木涼権と言ったか。
彼は、明らかに鷹野側の人間だ。
今も現在進行形で拷問を加えられている富竹ジロウがソレを身をもって証明してくれた。
彼と親しげに話す優さんを見れば、彼女を味方に引き入れるのは無理だと確信出来る。
「んー分かった、行って来る。あ……そうだ、優さん。ランキングの更新、頼んどいてもいいかな?」
「あの、二人?」
「そ。作った本人が言うのも何だけど、急造のプログラムだからって手動で更新しなきゃいけないなんてお笑い種だよねぇ」
「……分かったわ」
その反応に微妙な違和感を覚えた。
なんて言えば良いんだろう。優さんの表情に一瞬、影が差した……気がしたんだけど勘違い、かな?
眉間の辺りにキッて少しだけ、皺が寄ったような感じ。顔を顰めたと言えば、多分そうなんだろうけどよく分からない。
こちらの軽口にもまるで反応してくれなかったし。変なの。
「ん、うん? お願いね」
「ええ」
言葉にし難い微妙な予感を殴り捨てて、鈴凛は立ち上がる。
そして「バイバイ」と軽く胸元で優に手を振ると、第一研究室の入り口へと向かった。
優さんも手を振り返して合図をしてくれた。
だけど、私の中の神経を羽毛でくすぐっているようなソワソワする感覚はまるで消える事はなかった。
やっぱり、変だ。
■
「えーと、ここを右、か。はぁ……面倒過ぎ……」
鈴凛はPDAと睨めっこしながら、レムリア遺跡の巨大迷路を攻略していた。
ちなみに手に持っているこの携帯端末は"幹部クラス"にだけ支給されている特注品で、複雑極まりないLeMU内を移動する際には欠かせないアイテムである。
役職を持たない人間は大雑把な地図を使って頭を捻りながら行動しなければならない。
ソレぐらいこの基地の中は入り組んでいる。"迷路"などと言うアトラクションを抜きにしても、だ。
精密なマップや現在位置機能などを搭載した端末を持っている鈴凛ですらコレである。
まさに難攻不落の要塞……若干、設計者の趣味も入っているような気はするが。
海底の地下三階『ドリット・シュトック』に、司令室などの主な施設は建設されている。
悪の秘密基地的に考えれば、重要な建物ほど下の階層に在るべきなのだろう。
つまり地下二階に位置している我が第一研究室は扱いが適当である、という訳だ。
鷹野直属の第二研究室や個人ラボはこの階層にある訳で、待遇の差、露骨な差別を感じずにはいられない。
「あれ、ヒエンさんと……ッ!!」
「いやぁ、鈴凛じゃないか! こんな所で会うなんて奇遇だねぇ!」
鈴凛は奥歯をギリッと噛み締めた。
迷路の曲がり角から漏れた暖かな光。そこから見知った二人組が顔を覗かせたのだ。
そして、その剥き出しの敵意はヒエンと呼ばれた気の良さそうな青年、ではなくてもう片方の人間にだけ注がれている。
「ハウエンクア…………」
ハウエンクアは白い髪に尖った耳、明らかに人以外の何かであると即断出来る青年だ。
この殺し合いを誰よりも楽しんで観ている者の一人。鈴凛はこの男に露骨なまでに嫌悪の感情を持っていた。
「相変わらず、君は僕を見る度に凄く不快そうな眼をするねぇ。
くくく、もしも僕が客分の立場じゃなけりゃ、バラバラに切り裂いてあげたい所だよ!
ああ、もしかして、そんなに君の妹達が死んだ時に大笑いしていたのが気に障ったかい?」
「何の……事?」
「とぼけなくてもいいんだよ、鈴凛。この基地の人間は誰だって知っている話じゃないか。
君が自分の身可愛さに、身内の命を差し出したって事さ!!」
「ッッ!! あなた、そんな口から出任せ――」
思わず頭にカッと血が昇りかける。
まさに大人と子供程の体格差がある相手に向けて鈴凛は詰め寄り、キッと彼を睨みつけた。真っ直ぐに、弓で射るように。
その視線をハウエンクアは口元に残忍な笑みを浮かべながら受け止める。
20cm近い身長差がそのまま余裕の差なのだろうか。彼の微笑は消えない。
「――ハウエンクア、止めておけ。口が過ぎるぞ」
「……はぁ、ヒエン。君は本当に良い子ちゃんだねぇ。……まったく、戦場での姿とは大違いさ」
「黙れ」
ヒエンさんが一歩前に出て、ハウエンクアを眼で嗜める。
ハウエンクアはさもつまらなさそうな表情を浮かべながら、額に手を当て大げさなポーズを取った。
興を削がれたのか、フッと彼が今の今まで放っていた黒い殺意が消滅する。鈴凛も少しだけ、肩の力を抜く。
この二人、服装や身体的特徴から察するに同じ国の出身なのだろう。
そして部外者である自分の眼から見ても分かり易いくらい険呑な関係だ。
だが、契約者だ。
鷹野の目的はおそらくゲームの完遂、一方でこちらの役割は鷹野の監視。そして彼ら二人の役目は鷹野の護衛、らしい。
しかしある程度の実力者であるとは思うが、彼ら自身に高い戦闘能力があるようには思えない。
第二研によく出入りしているようだが、そこに力の秘密があるのだろうか……。
「鈴凛殿。その、護衛の者も付けずに一人でどちらへ?」
「…………鷹野のラボ」
「ああ、そういう事。"君も"かい」
「君、も?」
「そう、鷹野が凄く面白い話を聞かせてくれる筈さ。期待しているといいよ」
ニヤニヤしながらハウエンクアがさも楽しそうに話す。
どうやら、同じように鷹野に呼び出されていたらしい。
……それにしてもムカつく笑顔だ。コイツの顔面運動に対して『笑』というある種、良い意味を持つ文字を使う事さえ躊躇する。
第四放送の後、鷹野に"客"だと紹介されてからの短い付き合いではある。
とはいえ、他の人間がコイツに感じているのと同じかそれ以上の不快感は当然、私も覚えている。
ここまで嬉々としてゲームを肯定する人間を好きになれという方が難しい。
「……そう。じゃあ、私は急ぐから」
「そうかい? ひゃはははははっ、それじゃあね、鈴凛。君の妹の健闘を祈っているよ!」
もう一度大笑いしながらハウエンクアは鈴凛と擦れ違い通路の奥に消えた。
それに続くのがヒエンさん。
ペコリと小さく鈴凛に会釈して、彼もハウエンクアに続いた。
小さくなっていく二人の影を見送る。
あの人は、あんなに辛そうな顔をしているのに。鈴凛はぼんやりと思った。
ヒエンさんは鷹野やこのゲームに対して疑問を抱いていないのかなぁ、と。
彼は明らかにハウエンクアや鷹野とは違った種類の人間だ。
なのにやっている事は大して変わらない。鈴凛ならばおそらく何が何でも拒否するであろう、放送をさっきやった。
何故、何故、何故?
契約者だから無理なのだろうか。
契約者が自らの契約内容を他人にバラしたり、命に背いたりするのはご法度。
もしもそんな事をしてしまえば、瞬間本人の命が砕け散ってしまうだろう。
例えば私が参加者に対して過剰なまでの接触を試みた場合、などがソレに該当する。
本部からの強制的な首輪の解除や、塔の破壊などだろうか。
あくまで、脱出は彼ら自身の手で行われるべきであって、私はサポートに徹する事しか出来ない。
ヒエンさんは契約者。
もしやその契約内容は『鷹野に従うこと』なのかもしれない。
ソレならば、彼が彼女の命令を反故に出来ない理由も分かる。
そう言えば……何故、鷹野はこんな殺し合いを計画しようとしたのだろう。
そんな疑問がふと頭に浮かんだ。
■
カビ臭い部屋の前でふいに足が止まった。
奥には例の暗い色のツナギを来た山狗の人間が二人いる。
鉄格子と叩き付けのコンクリートに聴覚を俄かに支配する水の零れる音。
煌びやかなアトラクションの裏側に隠されたこのLeMUの暗部とも言うべき牢獄だ。
基本的にはこの空間は在るだけで、ほとんど使われる用途はなかったように思える。
なぜなら明確に反逆の意思を持つものが発見された場合、ここでは投獄ではなくて一気に"処理"されるためだ。
殺し合いはどんなに長くなっても三日目でケリが付くと当初から予定されていた。
故に、謀反者を捕らえておく必要など全くない。
時間や手間が掛けられたのは主に準備期間であり、本番が始まってしまえばそれは一瞬の閃光のようにあっという間に駆け抜けるのだから。
だから今現在この牢屋を使用している男は例外中の例外と言ってもいいだろう。
男、富竹ジロウが参加者に対して故意に情報を流したにも関わらず、死を免れているのは一概に鷹野三四の個人的な気紛れに過ぎない。
困った事になったと思う。
私の目的はあくまで『一人でも多くの参加者を脱出させる事』なのだ。
その過程で鷹野といざこざを抱えている富竹の力を借りられたのは僥倖だったが、その後の経過がマズイ。
確かに彼が捕まった結果として、桑古木涼権の危険性が浮き彫りにはなった。
最悪、彼からこちらの名前が出ないとも限らないし、基地側の人間の中に明確な反乱分子の集団が存在する事が知られてしまったのは失態だった。
「ん、珍しいな」
「……部隊長、お久しぶりです」
噂をすれば何とやら、という奴か。暗闇の更に奥の奥から一人の男が姿を現した。桑古木涼権、その人だ。
私は思わず顔面に出掛かった驚愕を表す筋肉運動を必死で塞き止める。
そう、ビクビクする必要性などこれぽっちもないのだ。
表立っての彼と私の関係は、山狗の部隊長と第一研の主任。何もやましい事はない。
「優は上手くやってるか?」
「あはは、そりゃあもう! 周りが男の人ばかりなんで、優さんがいてくれるだけで大分違います」
「そうか、それにしても……」
桑古木はグルッと辺りを見回し、少しだけ厳しい眼をして鈴凛に問い掛けた。
「何故こんな所に? 女の子が一人で出歩くような場所じゃないだろう?」
――来た。
まるで鷹のような、獲物を見定めるような厳しい視線だ。
私は心の中に出掛かった台詞、つまり「富竹ジロウの様子が少し気になったんだ」という括弧の中身を丸ごと封殺し、予め用意しておいた当たり障りのない台詞と入れ替える。
「いえ、その司令にラボに来るようにと」
「……ああ、通り道だからな」
鈴凛の回答を聞いて、彼は一瞬向けた疑惑の表情を弛緩させた。
それはそうだ。理由がなければこんな場所にやって来る筈がない。
「あの……奥の人は?」
「安心しろ、"死んではいない"さ。正直、君のような子に見せられるような光景じゃないんだけどな」
「そう、ですか……」
鈴凛達の視線はここからは警備の人間の爪先しか見えない闇の闇へと向けられた。
耳を澄ませば男の荒い息が聞こえてきそうな気もする。
だがどう見ても警備は厳重だ。中の反抗勢力だけでこの状況を打破するのは難しいかもしれない。
「あ、それじゃあ私はそろそろ。あんまり遅れるとまた怒られちゃうんで」
「……一人が不安なら部屋の前まで付いて行こうか?」
桑古木が懐から懐中電灯を取り出しながら尋ねる。
警戒、しているのだろうか。それとも本心なのか。正直どちらとも取れる言葉だ。故に判断が難しい。
真面目な回答はNGだろう。直感的に悟る。
「いえ、遠慮しておきます。大体、そんな事言っちゃっていいんですか?
女の子を暗がりに連れ込むなんて褒められた事じゃないです。それ、聞いたら優さん怒りますよ」
「参ったな……そんなつもりは更々無いんだが。そもそも、告げ口するのは誰になる?」
「もちろん私です」
バーンと後ろに効果音でも出ている気分で、胸を張り堂々と言ってのける。
桑近木は思ったとおりと言うか何と言うか、口元を少しだけ歪ませた。どう見ても苦笑している。
ワン、ツー、スリー。
軽く三秒数えてポーズを解除。そして小さく笑う。
「冗談です」
「……冗談じゃなかったら困る。じゃあな、気をつけろよ」
やれやれ、と言う感じで桑古木はぴらぴらと鈴凛に向かってぶっきら棒に手を振って去っていった。
悟られてないよね。大丈夫、だよね? そうだね、と相槌を打ってくれる人物はもういない。
暗い牢獄の方を一瞥し、今更ながらそんな事を感じた。
私は、今、孤独だ。
■
「……で、何の用。わざわざこんな薄暗い場所まで呼び寄せて」
「くすくす、ごきげんよう。やぁねぇ、そんな怖い顔しちゃ、せっかくの可愛いらしい顔が台無しよ?」
鷹野のラボに通された鈴凛は仏頂面でそう問い掛ける。
対照的に部屋の主は飄々としたもので、いつも通りの含み笑い。人を小馬鹿にしたような態度が健在だ。
正直、胸糞が悪くて仕方がない。
だがこれも仕事。我慢我慢と鈴凛は自分に言い聞かせる。
個人的な部屋、という事でいつも鷹野の周りをガードしている山狗は一人も見えない。
もしも私が銃などを持ち込んでいたらどうしたのだろう?
あの高そうな机の裏側に怪しげなボタンでもあって、押した瞬間に本棚と実験器具の隙間にある壁が回転扉として作動。
その先から警備兵が雪崩れ込んで来たりするのかなぁ。
うん、やろうと思えば簡単に出来る。そういう愉快な仕掛けなら私も喜んで作るのに。
「私、忙しいんだよね。大した用事じゃないなら帰らせて貰いたいなぁ。
"司令"が色々仕事回すから、やる事だって沢山――」
「五人目」
「え?」
「五人目が現れたの」
五人……目?
何が五人目だと言うのだろう。いや、そもそも今までは四人だったと言う事か?
基地の中にいる外部の幹部の数、違う。これは私が知る限りで既に五人。他にも居るかもしれないが、増える事はあれ、減る事はない。
いや――
「……まさかッ!!!」
「ご名答、かしら?」
「誰が……いや、誰から?」
「あら、アタリみたいねぇ。でもそりゃあ、ね。もちろん『名前を言ってはいけないあの人』に決まっているでしょう?」
名前を言ってはいけないあの人。
言葉通りの意味。業と、そして力と、契約を強いた者――ディー。
彼について詳しい情報を話す事は禁止されている。
だが、それが契約者同士の会話においても有効なのか。名前を口にした瞬間、命が弾け飛ぶのか。鈴凛は知らない。
だけど契約者の間では"彼"の名前はこうやってぼかして呼ばれるのが常だった。
契約者に対する伝言などは全て、鷹野を通して行われる。
故に鈴凛は彼とはここに召喚された時に一度だけ会ったきりである。
氷のような瞳と白い羽根。
この世の中に本当に天使が存在するのならばきっとこういう姿をしているのだろう、心の底から思った。
しかし、ソレは仮初の姿。彼はこの空間、この島に眠るあらゆる殺意や混沌の生みの親とも言える存在なのだから。
「やっぱり、驚いているようね」
「そりゃあ……で、誰なの? 部隊長? 優さん? まさか、富竹ジロウとかいうオチはないでしょうね?」
「ジロウさん? ……ふふふ、それも悪くないわねぇ。
『鷹野三四に服従する』という内容で契約させるよう、あの人に頼んでみようかしら。
でも、きっと私に協力するくらいならジロウさんは自分の喉を掻っ切って自決する事を選ぶんでしょうねぇ……」
「……?」
一瞬鷹野が見せた遠い視線、自らの台詞を反芻するような動作は何だったのだろう。
しかし訝しげに見つめる鈴凛に対して、鷹野はすぐさま微笑を塗りたくった憎らしい顔を取り戻す。
「ゴメンなさいね。ふふふ、少しだけぼんやりしていたみたい。で……"契約者"の事だけど」
「うん」
「――月宮あゆ」
「え?」
「だから、月宮あゆよ。ほんの一日前まではただ、うぐうぐ言って他人の足を引っ張る事しか出来なかった、あの弱虫さん」
「さ、参加者!? 嘘っ!?」
鷹野は小さく頷いた。鈴凛は言葉を失った。しかしソレは至極まともな反応である。
なぜなら、新しい契約者が誕生したと言う事はディーが接触したという事の裏付けでもあるのだから。
全く姿を見せない自分達の親玉が見知らぬ所で、事もあろうにゲームの参加者とコンタクトを取っていたと聞いて驚かずにいられるだろうか。
そして、コレで皮肉な事に全ての糸が一本に繋がるのだ。
月宮あゆの行動、そして存在自体にまで及ぶ奇怪なストーリーにようやく注釈が付く。
海の家における短距離移動による確定的な盗聴器の故障――もちろん、何故ああなってしまったのかはまるで不明なのだ。
というか故意に仕掛けるのならば、生存確認装置か信管に付けるだろう。盗聴器などと言う半端な事はしない。
そもそも、参加者側にそのルールを逆手に取られて、海の家でワープされまくる、という展開にはまずなりようがない。
そう、おかしい。
神社の境内、祭具殿の更に奥の方だろうか。そう、朝倉音夢が丁度命を落とした博物館に若干近いポイントかもしれない。
意識して足を運ばなければ確実に気付かないような場所にあの"桜"は植わっている。
初音島の枯れない桜――禁止エリアに隠されるようにひっそりと咲き誇る花。
参加者に制限を掛け、あらゆる特殊な移動や幻覚に関する制御を行っているもう一人の管理者だ。
そして、その桜が妙なのだ。
きっかけはおそらく芳乃さくらの死だったと思う。
彼女の命が失われた前後から、微妙なブレが散在するようになった。
小町つぐみが例の"塔"の存在に気付いたのもソレが原因かもしれないし、高嶺悠人が永遠神剣の力をコチラの予想以上に引き出している事もそうなのかもしれない。
盗聴器に関する問題もおそらくそうだろう。
そしてその故障ゆえ、大空寺あゆとの接触した以降の足取りが掴めていなかった。
衛星のトラブルで映像もなく、ようやくカメラが発見した時にはなんと国崎往人を殺害するシーンだったのだから驚きだ。
その後彼女は二見瑛理子を殺害し、現在はゲーム開始時から積極的に暴れ回っている佐藤良美と共同戦線を組んでいる。
鉄乙女の足に縋り付き、彼女が毒殺される遠因を作った時の面影は既に皆無。
「つまり……『あの人』が月宮あゆの傷を治したって事……?」
「まぁ、そうでしょうねぇ。理由も特にないそうよ、あえて言うのならば"気まぐれ"ですって」
「気まぐれ……」
人一人の命を復活させる事が心の遊びとでも言うのか。
実際、自分達の事なんて虫けら程度にしか思っていないのだろう、ディーは。
ソレが痛いほど分かっているから逆に口惜しい。
その内情に一糸の揺らぎもなく、清々しいほどの本音に違いないのだから。
「どうしたのかしら、鈴凛。もしかして、いっそ治すのならば自分の妹を――」
「違う!!」
「ふふふ、そうよねぇ。例えどの子を生き返したとしても、月宮あゆのように上手くやる事は出来なかったでしょうしねぇ。
一番上の姉はともかくとして他の二人は搾取されるだけだろうし、咲耶さんにしても、もう少しやり様はあった筈だもの」
「く……っ!!」
姉妹に対する暴言。鈴凛は鷹野の顔面に一発パンチをお見舞いしてやりたい強い衝動に駆られた。
だけど……我慢だ。耐えろ耐えろ耐えるんだ、私。
握り締めた拳をゆっくりと戻し、指の力を慎重に抜く。
何で? どうして、私こんな気持ちになっているんだろう?
ああ、そうか慣れたんだ。この訳が分からない島の空気に汚染されたんだ。
情けなくて死んでしまいたい。でも無理。だって、当たり前でしょ?
私には責任があるんだ。そう簡単に死ねる訳がない。楽に死ねる訳が……ない。
「ふふ、小町つぐみが死んだのは少し残念だったけど、まだまだ面白くなるわ。あなたの"最後"の妹もきっと綺麗に踊ってくれる。
楽しみましょう……ね? この史上最悪の"祭"を」
「まつ……り? まさか、降誕祭とか収穫祭でもやっているつもりじゃないよね」
鷹野の"祭"と言う表現に鈴凛は思わず、怒りも忘れて口を挟んだ。
なぜなら、あまりにもその言葉は不釣合いだったから。
鷹野が放送などで口にする『ゲーム』と言う単語さえ、鈴凛にとっては不愉快だった。
そして言うに事欠いて祭。正直失笑ものだ。
だが、
「――神は降りるわ」
「は?」
返って来た返答は至極真面目で、そして確信に満ちた一言だった。
鷹野は大きく息を吸い込み、滑るように絶妙なスピードで言葉を吐き出す。
「いいえ、違うわ――私が、私達がこの世界の神となるの!!
一二三お祖父ちゃんが成し遂げた成果を刻み付けるの。この国の歴史に、無能揃いの馬鹿共に思い知らせてやる!」
「ちょ……鷹野」
鈴凛は口をあんぐり開けて急変した鷹野を見つめる事しか出来なかった。
その様子はまるで自らの言葉に陶酔している狂信者にしか見えない。
鷹野の言葉は終わらない。
まるで全てを終焉に向かわせるための聖書が頭の中に組み込まれているかのように、空で言葉を紡ぐ。
「そして私達は生き続ける――
歴史の歯車の中において、雛見沢症候群の真実は世界を揺るがすわ……。
そしてお祖父ちゃんの論文を食い入るように見つめるの。
誰もが感じるはずよ。『確かに神はこの中にいる』ってね! あははははははははっ!!」
え、て言うか……ど、どういう事? 何? 壊れた? 過労で鷹野がついにどこかオカシクなった……?
確かにずっと司令室にいたもんね。まだ一日とちょっと、とはいえ疲れが溜まっていたんだろうし。
だって、私の中の鷹野はこんな意味分からない事言わないもの。もっと……うん、薄気味悪い感じだ。
イメージが崩壊したって言うか……その、何だろう。気味は悪い、凄く……怖い。
「その瞬間、人は神をイメージする。そして絶対的な存在として確固たる具象となるの。
鷹野一二三と、そして私鷹野三四の名前が永世永劫この世で命を持ち続ける時は、もうすぐそこまで来ている!!」
あ……れ。
何だろう、この違和感。
まるで鷹野の言葉が身体をスーッと通り抜けて、他の誰かに向けられているような不思議な感覚だ。
困惑した鈴凛はサッと後ろを振り返るが、そこにあるのは重厚なドアのみ。
この部屋の中に存在する"人間"が自分と鷹野だけであるという事実は疑いようがない。
では、何故?
「この世界には、自分の命より大事にしなきゃいけないものだってあるわ。
馬鹿には分からない崇高な理念よ……自分を壊しても信じていた人間に裏切られても、貫き通さなければならない意地。心の強さ。
私はソレを持っている!!
どんな運命にだって打ち勝って見せる!!」
そうだ。分かった。
この違和感の原因がようやくおぼろげながら理解出来た気がする。
つまり、そう……簡単な事だ。
――鷹野の言葉は私じゃなくて、まるで別の誰かに向けられているみたいだったんだ。
「…………あら、あなたまだいたの?」
「"まだ"って言うか……」
大演説大会を開催していた彼女を、しっかりと見守っていた鈴凛に対して鷹野がぶつけた言葉はあまりにも適当なものだった。
いきなり陶酔モードに入って喋りだしちゃったのは一体誰なのさ、と心の中で突っ込みを入れる。
「もう用事は済んだから帰っていいわよ……くすくす」
「ったく、分かったよ……あ、そうだ。ねぇ、鷹野」
「何、かしら」
ふと鈴凛は思い出した。
自分が何故、鷹野がこんな殺し合いを開催しようと思ったのかについて、疑問に感じていた事を。
そもそもこのゲームの発端は鷹野がディーに参加者を集めるように頼んだ、と聞いている。
その大半が自分とは全く関係のない人間だ。つまり、彼女には何か他に目的がある、という事になる。
「まさかとは思うけど。今のって……マジ?
ほら、参加者を集めた理由がさ……その、神とか……冗談、だよね?」
鈴凛は半分冗談混じりに尋ねた。
鷹野の反応は明らかに妙だ。ゾクッとするような不気味な表情のまま「うふふふふ」と笑うばかり。
楽しいから笑うのか、こちらをからかっているのか。それさえも分からない。
数秒間、彼女の笑い声が窮屈な部屋を支配した。
そして――
「マ・ジ」
私の言葉をなぞるように放たれたその単語。鷹野の流れるような金髪がサラサラと揺れた。
言葉とは真逆だった。鷹野はその時――全く笑っていなかった。
■
「もう……勘弁してよ」
鈴凛はようやく研究室の自分専用の個室に帰り着き、デスクに突っ伏してグッタリしながらブー垂れていた。
もちろん台詞を口に出したりはしない。
心の中でブツブツと文句だけを重ねる。
は? マジで? この馬鹿げたゲーム……鷹野の言葉を借りるなら"祭"の目的が、自らを神にする事だって言う訳?
ねーよwwwwって心の底から叫びたいけど、あの眼を見てしまったら一笑に切って捨てる事も不可能だ。
いやいや、でもなぁ。確かに似たような事、前にも言ってたんだよね。
えーと、二回目の放送だったかな。大神だとか、神の眷属とか……。もう、意味が分からない。
「鷹野は……嘘を言ってはいないのです」
「やっぱり? だよねぇ」
「彼女の意志は強い。強い意志は運命を強固にするのです」
「運命……か。自信満々に自画自賛するくらいだし――」
――へ?
鈴凛は普段の自分からは考えれられない程のスピードで辺りを見回した。
漫画的な効果音を足すならばバッ、バッ、バッ、であろうか。だが、収穫は何もない。
眼に入って来るのはさすがに見慣れてしまった白い壁と数々の設備と書類の山ぐらいのものだ。
そう、誰もいない。
では『今、私と会話していたのは一体誰』なのだろう。
気のせい? 幻聴? はっ!! もしかして……死者の声――ッ!?
確かに私が死んでいった人間の対象となっている事は揺らぎようのない事実だ。
彼らを拘束している首輪の製作者は何を隠そうこの私、鈴凛なのだから。
ディーや桜と言った超常現象の塊のような連中がこの事件の黒幕である。
つまり、ゴーストやスピリット(もちろん赤とか緑色の人達の事ではない)のような具象が現れてもおかしくないのではないか。
「ボクは……お化けではないのですよ」
「――!? あ、あ、あ……」
鈴凛は椅子から滑り落ち、床に尻餅を付いたまま、突然目の前に現れた"何か"を指差しながらカタカタと震えた。
やっぱり、いたんだ。
現れたのは――見たこともない少女の霊だった。
薄紫色のゆったりとした髪から動物の山羊のような可愛らしい角が顔を覗かせている。
そして非常に可愛らしい。おそらく十歳くらいの年頃で亡くなったのだろう。
第二次性徴を迎える寸前の少女、ソレ特有の一種のフェチズムに満ち溢れている。
服装は多分、巫女装束という奴である。
そしておそらく今、島で佐藤良美が来ているような緋袴には間違いない。
しかし何故か肩の部分が大胆にカットされ、ノースリーブ状態となっている。つまり腋が丸見えなのだ。腋巫女、とでも呼べばいいのか。
これが最近のトレンドなのだろうか。いや、既に死んでいるんだから一昔前の流行なのか?
……ダメだ、頭がこんがらがって来た。
「あの……その……あぅあぅ」
しかし――若干、冷静になってみると、彼女は本当に幽霊なのだろうか。
確かに透明だ。だが足はある。
そもそも彼女は参加者ではない。という事は、鈴凛に対して恨みを持っている人間ではない筈だ。
それに、この「あぅあぅ」という声が例の五人目の契約者『月宮あゆ』っぽい気もするが、多分気のせいだ。まさか生霊でもないだろう。あと……少し、咲耶ちゃんとも似ている気がする。
「力を……ボクに力を貸して欲しいのですよ!」
「ち……から?」
鈴凛は本日何回目になるか分からない、驚きの表情を浮かべた。
■
「『大神への道』……? ああ、プールのパソコンに入っていたらしい変なデータの事?」
「そうなのです。オオアリクイのヌイグルミ、天使の人形、国崎最高ボタンという至宝を集める事でこのLeMUへの道が開かれるのです!」
「何でそんな変なものばかり……」
「可愛いか――気まぐれ、なのです!」
「……ホント気分屋が多いね、この基地には」
『いきなり妙な巫女の姿をした幽霊が現れたと思ったら、実はソイツは神様だった』
催眠術や超スピードは置いておくとして、もう意味が分からない。
でもその口から"ディー"という単語を出されては信用するしかないだろう。
んで、その妙に可愛らしい萌系神様は今、優さんがこの前差し入れてくれたシュークリームをがっついている。
ずっと透明な訳ではなく、部分的に実体化は可能らしい。器用な奴だ。
「んで、羽入。私にどうしろと? パソコン弄って参加者の簡単なサポートするぐらいの力しかないんだよ?」
「それは大丈夫なのです。私の力があれば鷹野の監視の眼を誤魔化すのは何とかなるのです」
「へぇ……」
「だけど……今、ディーさんの監視下にある私の力はこの基地内、そして姿や言葉は似た波長を持つ契約者の方にしか伝わりません。
鈴凛さんに頼みたい事はただ一つ。梨花達がこの暗号文に近づけるよう手助けをして欲しいのです」
口の周りをクリームだらけにしながら言われても説得力ないんだけど、と鈴凛は突っ込みたいのを必死で我慢する。
しかし、彼女の提案は中々魅力的だ。
首輪の制限を解除するまでは、自分の用意した道具が最大限使用されれば何とかなる。
だが、その後このLeMUへと乗り込み、鷹野を倒し、あまつさえディーと接触する手段にはアテがなかった。
弱体化し、ほとんどの時間をディーが休息に当てている今だからこそ、彼女が姿を現す事が出来た訳だ。
「そうだね。私としても――ッ!!!! あ…………」
「……どうしたのです、鈴凛? どこを見て……」
突如、けたたましい音が突然、鈴凛のパソコンの横に置いてあった機械から響いた。
二人の瞳はポツポツと点灯を繰り返し、そして消えたランプに注がれる。
「ち……かげ」
彼女の呟きはゆっくりと沈み、地面に吸い込まれていった。
消えた光は十番――高嶺悠人と、そして三十七番――千影。
それは非情な報せだった。
そう、全滅したのだ。
最後の姉妹は今、この瞬間に、命を落としたのだから。
鈴凛の頬から一筋、涙が零れた。
【LeMU 地下二階『ツヴァイト・シュトック』第一研究室/二日目 午前】
【鈴凛@Sister Princess】
【装備:鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:なし】
【状態:健康、深い悲しみ、契約中】
【思考・行動】
1:???
【備考】
※鈴凛の契約内容は"参加者が脱出できる最低限の可能性を残す"こと。
ただノートパソコンの機能拡張以外の接触は原則的には禁止されています。
※参加者の能力はD-4 神社の奥に植えられている枯れない桜の力によって制限されています。
【羽入@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、困惑】
【思考・行動】
1:???
【備考】
※『大神への道』の3つの道具を集めて、廃鉱の最果てに持っていく事で羽入がLeMUへの道を開きます。
※ディーの力の影響を受けているため、雛見沢症候群の感染者ではなくても契約者ならば姿を見る事が出来ます。
|189:[[求めのアセリア/Lost Days(後編)]]|投下順に読む|191:[[世界で一番長く短い3分間]]|
|189:[[求めのアセリア/Lost Days(後編)]]|時系列順に読む|191:[[世界で一番長く短い3分間]]|
|174:[[おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた]]|鈴凛|193:[[贖罪/罪人たちと絶対の意志(前編)]]|
||羽入|193:[[贖罪/罪人たちと絶対の意志(前編)]]|
|182:[[第五回定時放送]]|鷹野三四|198:[[小さなてのひら/第2ボタンの誓い(前編)]]|
|182:[[第五回定時放送]]|ヒエン||
|182:[[第五回定時放送]]|ハウエンクア|201:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(前編)]]|
|182:[[第五回定時放送]]|富竹ジロウ||
|182:[[第五回定時放送]]|田中優美清春香菜|193:[[贖罪/罪人たちと絶対の意志(前編)]]|
|182:[[第五回定時放送]]|桑古木涼権|201:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(前編)]]|
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**CARNIVAL ◆tu4bghlMIw
「――ッ!! また……」
鈴凛は思わず頭を抱えた。死亡者発生を報せるブザーが鳴り響く。
消えた。目の前で続けざまに二つのランプが光を失い灰色の硝子になった。
該当する番号は十四番と二十八番。
小町つぐみに二見瑛理子……よりによってこの二人が、と言わざるを得ない状況だ。
妹達は別として、親しくない他の参加者に優劣をつける事は卑しい行為だとは十分に自覚している。
だが、嘆かざるを得ない理由がある。
彼女達は二人とも長い間、それぞれ別の集団のリーダーの元で参謀役を務めていた類の人間だ。
しかも作戦の立案だけでなく、自ら首輪解除を目論んで行動していたのである。
首輪、このちっぽけな島に散らばった参加者を監視する唯一のシグナルであり檻であり剣であるもの。
島から脱出し、ディーの元に辿り着くためには必ず乗り越えなければならない、厚く高い壁だ。
「……ヤバイって……コレ」
鈴凛は頭をカリカリと掻きながら、残りの参加者の名前を眺めつつ唸った。
なにしろ、参加者の中で首輪を解除し得る能力を有している人間がついに、あと一人となってしまったのだから。
一ノ瀬ことみ――世界的に有名な科学者を両親に持ち、特に物理学に関する知識は他の追随を許さない。
おそらく何一つ制限が無ければ、彼女は簡単に首輪を解体出来る筈。
だが外殻の繋ぎ目に関する暗示、そして盗聴器に生存確認装置とソレを妨害するための機能は多々含まれている。
下手に首輪に手を出せば、鷹野の手によってすぐさま首輪が爆破される。
生きた人間の首輪を真っ向勝負で直に解除するのは、おそらく自分でも不可能――故に、支給品の中に紛れ込ませた数々の特殊機器が効果を発揮する。
ブラフも仕込んではあるが、当然本命も存在する。
それが例のゲームディスクである。
殺し合いの場とは明らかに不釣合いのアレが、連鎖式に動作する特殊プログラムの起動キーとなっている。
もちろん偽装目的で、当初から見せしめ役になる予定だった少年の名前を冠した恋愛アドベンチャーゲーム、という形を取っている。
ちなみに内容は丁度研究室にあった雑誌を参考にした。
タイトルは……何だったかな。確か少し美味しそうな名前だった気がする。
大雑把なストーリーを説明するとプレイヤーは女学生。
その学校は三つの女学園が隣接して、一つの学び舎を形成している。
そして各学校の三人の主人公のうち、一人を選択し友人や先輩、後輩と"友情"を深めていく訳だ。
当然、参考元からの多大なるインスパイアを受けて登場人物は全て女性である。
これは万が一ディスクの中身を鷹野達に検閲された時、その超設定で検査の手を緩める目的もある。
加えて、破棄される危険を最小限に少なくするため、彼の知り合いのデイパックの中にソレを忍ばせておいた。
彼の名前がついたコンドームが支給品に含まれているのも同じ理由。
関連性を強化し、ゲームディスクに何らかの力があるのでは無いかと思わせるためだ。
そして最後に、"アレ"の中に封入したディスクの効果を記した企画書。
この両者と分解のためのノウハウさえ揃えば、首輪を何とかする事は出来る筈。
だが、逆に――鷹野が仕組んだ"罠"も存在する。
例えば最たる例があのフロッピーディスクだ。
そもそも。ROMですらない辺りで怪しさ爆発ではあるのだが。
しかし、三枚セットのうち一枚だけ『パソコンだけではなくその利用者をも吹き飛ばす』効果を持ったフロッピーが含まれている。
情報自体は信憑性のあるものも多いのだが……。
「鈴凛」
「……ん、優さんか。どしたの?」
鈴凛が振り向いた先、そこに立っていたのは右腕で書類をまとめたバインダーを抱えた金髪の少女だった。
田中優美清春香菜。この科学技術班の副主任、ポスト的には右腕、という事になるのだろうか。
明らかに年上なので、さすがに"さん"を付けている。
ちなみにフルで名前を口にした記憶はさすがにない。他の人間も含めて皆、優と呼んでいる。
この第一件研究室の主任へと就任した際、鷹野が直属の部下にと付けて来た人間――つまり、監視役と言った所だろう。
「司令が呼んでる。司令室じゃなくて直接個人ラボに来るように、だって。大至急」
「……個人ラボ? あそこまで行くの? ……っとに、あの鬼婆。人使いが荒いんだよなぁ」
「ふふ、司令が聞いたら怒るよ」
「いやいや、大丈夫だって。ほら、私には"首輪"付いてないし」
そして二人で一笑。
実際に首輪を付けられている姉妹の事を考えれば、本来なら口が裂けても言えないような冗談だ。
ただ、これぐらいの腹芸が使えなければ鷹野を欺く事なんて出来ない。
心にもないブラックジョークくらい、存分に吐いても構わない。
んーでも、こうして普通に笑っている姿なんて、どう見ても普通の女の人なんだけどな。
優さんはどうして、鷹野の手先になんかなっているんだろう。
こんな綺麗な人でも腹の中では何を考えているか分からないって事なのかな。怖いね。
そう、今現在このLeMUに居る人間は大きく分けて二つに区別できる。
つまり鷹野三四が所属する秘密結社『東京』、そして直属の部隊『山狗』の人間。
そして鈴凛や優さん、ヒエンさんなどと言った外部の人間。
この外部の人間、というのが中々厄介だ。
例えば鷹野と意気投合し、殺し合いを嬉々として見物している者もいればその逆、渦巻く殺意の嵐の中で顔を顰めている者もいる。
優さんも時々、凄く悲しそうな顔をする。根っからの悪人にはとても見えない。
もしかして、自分のように誰か知り合いが参加しているのだろうか。
だとしたら……ゲームを転覆させる手伝いをして貰えるかもしれない。
たまにそんな考えが浮かぶけれど、毎回泡のようにパチンと消えてしまう。
危険、過ぎるのだ。
例えばある時急に山狗の隊長が変わっていたという事実。
軽い挨拶を交わす程度でほとんど話をした事は無いが、たまにここ第一研にやって来るあの男性――桑古木涼権と言ったか。
彼は、明らかに鷹野側の人間だ。
今も現在進行形で拷問を加えられている富竹ジロウがソレを身をもって証明してくれた。
彼と親しげに話す優さんを見れば、彼女を味方に引き入れるのは無理だと確信出来る。
「んー分かった、行って来る。あ……そうだ、優さん。ランキングの更新、頼んどいてもいいかな?」
「あの、二人?」
「そ。作った本人が言うのも何だけど、急造のプログラムだからって手動で更新しなきゃいけないなんてお笑い種だよねぇ」
「……分かったわ」
その反応に微妙な違和感を覚えた。
なんて言えば良いんだろう。優さんの表情に一瞬、影が差した……気がしたんだけど勘違い、かな?
眉間の辺りにキッて少しだけ、皺が寄ったような感じ。顔を顰めたと言えば、多分そうなんだろうけどよく分からない。
こちらの軽口にもまるで反応してくれなかったし。変なの。
「ん、うん? お願いね」
「ええ」
言葉にし難い微妙な予感を殴り捨てて、鈴凛は立ち上がる。
そして「バイバイ」と軽く胸元で優に手を振ると、第一研究室の入り口へと向かった。
優さんも手を振り返して合図をしてくれた。
だけど、私の中の神経を羽毛でくすぐっているようなソワソワする感覚はまるで消える事はなかった。
やっぱり、変だ。
■
「えーと、ここを右、か。はぁ……面倒過ぎ……」
鈴凛はPDAと睨めっこしながら、レムリア遺跡の巨大迷路を攻略していた。
ちなみに手に持っているこの携帯端末は"幹部クラス"にだけ支給されている特注品で、複雑極まりないLeMU内を移動する際には欠かせないアイテムである。
役職を持たない人間は大雑把な地図を使って頭を捻りながら行動しなければならない。
ソレぐらいこの基地の中は入り組んでいる。"迷路"などと言うアトラクションを抜きにしても、だ。
精密なマップや現在位置機能などを搭載した端末を持っている鈴凛ですらコレである。
まさに難攻不落の要塞……若干、設計者の趣味も入っているような気はするが。
海底の地下三階『ドリット・シュトック』に、司令室などの主な施設は建設されている。
悪の秘密基地的に考えれば、重要な建物ほど下の階層に在るべきなのだろう。
つまり地下二階に位置している我が第一研究室は扱いが適当である、という訳だ。
鷹野直属の第二研究室や個人ラボはこの階層にある訳で、待遇の差、露骨な差別を感じずにはいられない。
「あれ、ヒエンさんと……ッ!!」
「いやぁ、鈴凛じゃないか! こんな所で会うなんて奇遇だねぇ!」
鈴凛は奥歯をギリッと噛み締めた。
迷路の曲がり角から漏れた暖かな光。そこから見知った二人組が顔を覗かせたのだ。
そして、その剥き出しの敵意はヒエンと呼ばれた気の良さそうな青年、ではなくてもう片方の人間にだけ注がれている。
「ハウエンクア…………」
ハウエンクアは白い髪に尖った耳、明らかに人以外の何かであると即断出来る青年だ。
この殺し合いを誰よりも楽しんで観ている者の一人。鈴凛はこの男に露骨なまでに嫌悪の感情を持っていた。
「相変わらず、君は僕を見る度に凄く不快そうな眼をするねぇ。
くくく、もしも僕が客分の立場じゃなけりゃ、バラバラに切り裂いてあげたい所だよ!
ああ、もしかして、そんなに君の妹達が死んだ時に大笑いしていたのが気に障ったかい?」
「何の……事?」
「とぼけなくてもいいんだよ、鈴凛。この基地の人間は誰だって知っている話じゃないか。
君が自分の身可愛さに、身内の命を差し出したって事さ!!」
「ッッ!! あなた、そんな口から出任せ――」
思わず頭にカッと血が昇りかける。
まさに大人と子供程の体格差がある相手に向けて鈴凛は詰め寄り、キッと彼を睨みつけた。真っ直ぐに、弓で射るように。
その視線をハウエンクアは口元に残忍な笑みを浮かべながら受け止める。
20cm近い身長差がそのまま余裕の差なのだろうか。彼の微笑は消えない。
「――ハウエンクア、止めておけ。口が過ぎるぞ」
「……はぁ、ヒエン。君は本当に良い子ちゃんだねぇ。……まったく、戦場での姿とは大違いさ」
「黙れ」
ヒエンさんが一歩前に出て、ハウエンクアを眼で嗜める。
ハウエンクアはさもつまらなさそうな表情を浮かべながら、額に手を当て大げさなポーズを取った。
興を削がれたのか、フッと彼が今の今まで放っていた黒い殺意が消滅する。鈴凛も少しだけ、肩の力を抜く。
この二人、服装や身体的特徴から察するに同じ国の出身なのだろう。
そして部外者である自分の眼から見ても分かり易いくらい険呑な関係だ。
だが、契約者だ。
鷹野の目的はおそらくゲームの完遂、一方でこちらの役割は鷹野の監視。そして彼ら二人の役目は鷹野の護衛、らしい。
しかしある程度の実力者であるとは思うが、彼ら自身に高い戦闘能力があるようには思えない。
第二研によく出入りしているようだが、そこに力の秘密があるのだろうか……。
「鈴凛殿。その、護衛の者も付けずに一人でどちらへ?」
「…………鷹野のラボ」
「ああ、そういう事。"君も"かい」
「君、も?」
「そう、鷹野が凄く面白い話を聞かせてくれる筈さ。期待しているといいよ」
ニヤニヤしながらハウエンクアがさも楽しそうに話す。
どうやら、同じように鷹野に呼び出されていたらしい。
……それにしてもムカつく笑顔だ。コイツの顔面運動に対して『笑』というある種、良い意味を持つ文字を使う事さえ躊躇する。
第四放送の後、鷹野に"客"だと紹介されてからの短い付き合いではある。
とはいえ、他の人間がコイツに感じているのと同じかそれ以上の不快感は当然、私も覚えている。
ここまで嬉々としてゲームを肯定する人間を好きになれという方が難しい。
「……そう。じゃあ、私は急ぐから」
「そうかい? ひゃはははははっ、それじゃあね、鈴凛。君の妹の健闘を祈っているよ!」
もう一度大笑いしながらハウエンクアは鈴凛と擦れ違い通路の奥に消えた。
それに続くのがヒエンさん。
ペコリと小さく鈴凛に会釈して、彼もハウエンクアに続いた。
小さくなっていく二人の影を見送る。
あの人は、あんなに辛そうな顔をしているのに。鈴凛はぼんやりと思った。
ヒエンさんは鷹野やこのゲームに対して疑問を抱いていないのかなぁ、と。
彼は明らかにハウエンクアや鷹野とは違った種類の人間だ。
なのにやっている事は大して変わらない。鈴凛ならばおそらく何が何でも拒否するであろう、放送をさっきやった。
何故、何故、何故?
契約者だから無理なのだろうか。
契約者が自らの契約内容を他人にバラしたり、命に背いたりするのはご法度。
もしもそんな事をしてしまえば、瞬間本人の命が砕け散ってしまうだろう。
例えば私が参加者に対して過剰なまでの接触を試みた場合、などがソレに該当する。
本部からの強制的な首輪の解除や、塔の破壊などだろうか。
あくまで、脱出は彼ら自身の手で行われるべきであって、私はサポートに徹する事しか出来ない。
ヒエンさんは契約者。
もしやその契約内容は『鷹野に従うこと』なのかもしれない。
ソレならば、彼が彼女の命令を反故に出来ない理由も分かる。
そう言えば……何故、鷹野はこんな殺し合いを計画しようとしたのだろう。
そんな疑問がふと頭に浮かんだ。
■
カビ臭い部屋の前でふいに足が止まった。
奥には例の暗い色のツナギを来た山狗の人間が二人いる。
鉄格子と叩き付けのコンクリートに聴覚を俄かに支配する水の零れる音。
煌びやかなアトラクションの裏側に隠されたこのLeMUの暗部とも言うべき牢獄だ。
基本的にはこの空間は在るだけで、ほとんど使われる用途はなかったように思える。
なぜなら明確に反逆の意思を持つものが発見された場合、ここでは投獄ではなくて一気に"処理"されるためだ。
殺し合いはどんなに長くなっても三日目でケリが付くと当初から予定されていた。
故に、謀反者を捕らえておく必要など全くない。
時間や手間が掛けられたのは主に準備期間であり、本番が始まってしまえばそれは一瞬の閃光のようにあっという間に駆け抜けるのだから。
だから今現在この牢屋を使用している男は例外中の例外と言ってもいいだろう。
男、富竹ジロウが参加者に対して故意に情報を流したにも関わらず、死を免れているのは一概に鷹野三四の個人的な気紛れに過ぎない。
困った事になったと思う。
私の目的はあくまで『一人でも多くの参加者を脱出させる事』なのだ。
その過程で鷹野といざこざを抱えている富竹の力を借りられたのは僥倖だったが、その後の経過がマズイ。
確かに彼が捕まった結果として、桑古木涼権の危険性が浮き彫りにはなった。
最悪、彼からこちらの名前が出ないとも限らないし、基地側の人間の中に明確な反乱分子の集団が存在する事が知られてしまったのは失態だった。
「ん、珍しいな」
「……部隊長、お久しぶりです」
噂をすれば何とやら、という奴か。暗闇の更に奥の奥から一人の男が姿を現した。桑古木涼権、その人だ。
私は思わず顔面に出掛かった驚愕を表す筋肉運動を必死で塞き止める。
そう、ビクビクする必要性などこれぽっちもないのだ。
表立っての彼と私の関係は、山狗の部隊長と第一研の主任。何もやましい事はない。
「優は上手くやってるか?」
「あはは、そりゃあもう! 周りが男の人ばかりなんで、優さんがいてくれるだけで大分違います」
「そうか、それにしても……」
桑古木はグルッと辺りを見回し、少しだけ厳しい眼をして鈴凛に問い掛けた。
「何故こんな所に? 女の子が一人で出歩くような場所じゃないだろう?」
――来た。
まるで鷹のような、獲物を見定めるような厳しい視線だ。
私は心の中に出掛かった台詞、つまり「富竹ジロウの様子が少し気になったんだ」という括弧の中身を丸ごと封殺し、予め用意しておいた当たり障りのない台詞と入れ替える。
「いえ、その司令にラボに来るようにと」
「……ああ、通り道だからな」
鈴凛の回答を聞いて、彼は一瞬向けた疑惑の表情を弛緩させた。
それはそうだ。理由がなければこんな場所にやって来る筈がない。
「あの……奥の人は?」
「安心しろ、"死んではいない"さ。正直、君のような子に見せられるような光景じゃないんだけどな」
「そう、ですか……」
鈴凛達の視線はここからは警備の人間の爪先しか見えない闇の闇へと向けられた。
耳を澄ませば男の荒い息が聞こえてきそうな気もする。
だがどう見ても警備は厳重だ。中の反抗勢力だけでこの状況を打破するのは難しいかもしれない。
「あ、それじゃあ私はそろそろ。あんまり遅れるとまた怒られちゃうんで」
「……一人が不安なら部屋の前まで付いて行こうか?」
桑古木が懐から懐中電灯を取り出しながら尋ねる。
警戒、しているのだろうか。それとも本心なのか。正直どちらとも取れる言葉だ。故に判断が難しい。
真面目な回答はNGだろう。直感的に悟る。
「いえ、遠慮しておきます。大体、そんな事言っちゃっていいんですか?
女の子を暗がりに連れ込むなんて褒められた事じゃないです。それ、聞いたら優さん怒りますよ」
「参ったな……そんなつもりは更々無いんだが。そもそも、告げ口するのは誰になる?」
「もちろん私です」
バーンと後ろに効果音でも出ている気分で、胸を張り堂々と言ってのける。
桑近木は思ったとおりと言うか何と言うか、口元を少しだけ歪ませた。どう見ても苦笑している。
ワン、ツー、スリー。
軽く三秒数えてポーズを解除。そして小さく笑う。
「冗談です」
「……冗談じゃなかったら困る。じゃあな、気をつけろよ」
やれやれ、と言う感じで桑古木はぴらぴらと鈴凛に向かってぶっきら棒に手を振って去っていった。
悟られてないよね。大丈夫、だよね? そうだね、と相槌を打ってくれる人物はもういない。
暗い牢獄の方を一瞥し、今更ながらそんな事を感じた。
私は、今、孤独だ。
■
「……で、何の用。わざわざこんな薄暗い場所まで呼び寄せて」
「くすくす、ごきげんよう。やぁねぇ、そんな怖い顔しちゃ、せっかくの可愛いらしい顔が台無しよ?」
鷹野のラボに通された鈴凛は仏頂面でそう問い掛ける。
対照的に部屋の主は飄々としたもので、いつも通りの含み笑い。人を小馬鹿にしたような態度が健在だ。
正直、胸糞が悪くて仕方がない。
だがこれも仕事。我慢我慢と鈴凛は自分に言い聞かせる。
個人的な部屋、という事でいつも鷹野の周りをガードしている山狗は一人も見えない。
もしも私が銃などを持ち込んでいたらどうしたのだろう?
あの高そうな机の裏側に怪しげなボタンでもあって、押した瞬間に本棚と実験器具の隙間にある壁が回転扉として作動。
その先から警備兵が雪崩れ込んで来たりするのかなぁ。
うん、やろうと思えば簡単に出来る。そういう愉快な仕掛けなら私も喜んで作るのに。
「私、忙しいんだよね。大した用事じゃないなら帰らせて貰いたいなぁ。
"司令"が色々仕事回すから、やる事だって沢山――」
「五人目」
「え?」
「五人目が現れたの」
五人……目?
何が五人目だと言うのだろう。いや、そもそも今までは四人だったと言う事か?
基地の中にいる外部の幹部の数、違う。これは私が知る限りで既に五人。他にも居るかもしれないが、増える事はあれ、減る事はない。
いや――
「……まさかッ!!!」
「ご名答、かしら?」
「誰が……いや、誰から?」
「あら、アタリみたいねぇ。でもそりゃあ、ね。もちろん『名前を言ってはいけないあの人』に決まっているでしょう?」
名前を言ってはいけないあの人。
言葉通りの意味。業と、そして力と、契約を強いた者――ディー。
彼について詳しい情報を話す事は禁止されている。
だが、それが契約者同士の会話においても有効なのか。名前を口にした瞬間、命が弾け飛ぶのか。鈴凛は知らない。
だけど契約者の間では"彼"の名前はこうやってぼかして呼ばれるのが常だった。
契約者に対する伝言などは全て、鷹野を通して行われる。
故に鈴凛は彼とはここに召喚された時に一度だけ会ったきりである。
氷のような瞳と白い羽根。
この世の中に本当に天使が存在するのならばきっとこういう姿をしているのだろう、心の底から思った。
しかし、ソレは仮初の姿。彼はこの空間、この島に眠るあらゆる殺意や混沌の生みの親とも言える存在なのだから。
「やっぱり、驚いているようね」
「そりゃあ……で、誰なの? 部隊長? 優さん? まさか、富竹ジロウとかいうオチはないでしょうね?」
「ジロウさん? ……ふふふ、それも悪くないわねぇ。
『鷹野三四に服従する』という内容で契約させるよう、あの人に頼んでみようかしら。
でも、きっと私に協力するくらいならジロウさんは自分の喉を掻っ切って自決する事を選ぶんでしょうねぇ……」
「……?」
一瞬鷹野が見せた遠い視線、自らの台詞を反芻するような動作は何だったのだろう。
しかし訝しげに見つめる鈴凛に対して、鷹野はすぐさま微笑を塗りたくった憎らしい顔を取り戻す。
「ゴメンなさいね。ふふふ、少しだけぼんやりしていたみたい。で……"契約者"の事だけど」
「うん」
「――月宮あゆ」
「え?」
「だから、月宮あゆよ。ほんの一日前まではただ、うぐうぐ言って他人の足を引っ張る事しか出来なかった、あの弱虫さん」
「さ、参加者!? 嘘っ!?」
鷹野は小さく頷いた。鈴凛は言葉を失った。しかしソレは至極まともな反応である。
なぜなら、新しい契約者が誕生したと言う事はディーが接触したという事の裏付けでもあるのだから。
全く姿を見せない自分達の親玉が見知らぬ所で、事もあろうにゲームの参加者とコンタクトを取っていたと聞いて驚かずにいられるだろうか。
そして、コレで皮肉な事に全ての糸が一本に繋がるのだ。
月宮あゆの行動、そして存在自体にまで及ぶ奇怪なストーリーにようやく注釈が付く。
海の家における短距離移動による確定的な盗聴器の故障――もちろん、何故ああなってしまったのかはまるで不明なのだ。
というか故意に仕掛けるのならば、生存確認装置か信管に付けるだろう。盗聴器などと言う半端な事はしない。
そもそも、参加者側にそのルールを逆手に取られて、海の家でワープされまくる、という展開にはまずなりようがない。
そう、おかしい。
神社の境内、祭具殿の更に奥の方だろうか。そう、朝倉音夢が丁度命を落とした博物館に若干近いポイントかもしれない。
意識して足を運ばなければ確実に気付かないような場所にあの"桜"は植わっている。
初音島の枯れない桜――禁止エリアに隠されるようにひっそりと咲き誇る花。
参加者に制限を掛け、あらゆる特殊な移動や幻覚に関する制御を行っているもう一人の管理者だ。
そして、その桜が妙なのだ。
きっかけはおそらく芳乃さくらの死だったと思う。
彼女の命が失われた前後から、微妙なブレが散在するようになった。
小町つぐみが例の"塔"の存在に気付いたのもソレが原因かもしれないし、高嶺悠人が永遠神剣の力をコチラの予想以上に引き出している事もそうなのかもしれない。
盗聴器に関する問題もおそらくそうだろう。
そしてその故障ゆえ、大空寺あゆとの接触した以降の足取りが掴めていなかった。
衛星のトラブルで映像もなく、ようやくカメラが発見した時にはなんと国崎往人を殺害するシーンだったのだから驚きだ。
その後彼女は二見瑛理子を殺害し、現在はゲーム開始時から積極的に暴れ回っている佐藤良美と共同戦線を組んでいる。
鉄乙女の足に縋り付き、彼女が毒殺される遠因を作った時の面影は既に皆無。
「つまり……『あの人』が月宮あゆの傷を治したって事……?」
「まぁ、そうでしょうねぇ。理由も特にないそうよ、あえて言うのならば"気まぐれ"ですって」
「気まぐれ……」
人一人の命を復活させる事が心の遊びとでも言うのか。
実際、自分達の事なんて虫けら程度にしか思っていないのだろう、ディーは。
ソレが痛いほど分かっているから逆に口惜しい。
その内情に一糸の揺らぎもなく、清々しいほどの本音に違いないのだから。
「どうしたのかしら、鈴凛。もしかして、いっそ治すのならば自分の妹を――」
「違う!!」
「ふふふ、そうよねぇ。例えどの子を生き返したとしても、月宮あゆのように上手くやる事は出来なかったでしょうしねぇ。
一番上の姉はともかくとして他の二人は搾取されるだけだろうし、咲耶さんにしても、もう少しやり様はあった筈だもの」
「く……っ!!」
姉妹に対する暴言。鈴凛は鷹野の顔面に一発パンチをお見舞いしてやりたい強い衝動に駆られた。
だけど……我慢だ。耐えろ耐えろ耐えるんだ、私。
握り締めた拳をゆっくりと戻し、指の力を慎重に抜く。
何で? どうして、私こんな気持ちになっているんだろう?
ああ、そうか慣れたんだ。この訳が分からない島の空気に汚染されたんだ。
情けなくて死んでしまいたい。でも無理。だって、当たり前でしょ?
私には責任があるんだ。そう簡単に死ねる訳がない。楽に死ねる訳が……ない。
「ふふ、小町つぐみが死んだのは少し残念だったけど、まだまだ面白くなるわ。あなたの"最後"の妹もきっと綺麗に踊ってくれる。
楽しみましょう……ね? この史上最悪の"祭"を」
「まつ……り? まさか、降誕祭とか収穫祭でもやっているつもりじゃないよね」
鷹野の"祭"と言う表現に鈴凛は思わず、怒りも忘れて口を挟んだ。
なぜなら、あまりにもその言葉は不釣合いだったから。
鷹野が放送などで口にする『ゲーム』と言う単語さえ、鈴凛にとっては不愉快だった。
そして言うに事欠いて祭。正直失笑ものだ。
だが、
「――神は降りるわ」
「は?」
返って来た返答は至極真面目で、そして確信に満ちた一言だった。
鷹野は大きく息を吸い込み、滑るように絶妙なスピードで言葉を吐き出す。
「いいえ、違うわ――私が、私達がこの世界の神となるの!!
一二三お祖父ちゃんが成し遂げた成果を刻み付けるの。この国の歴史に、無能揃いの馬鹿共に思い知らせてやる!」
「ちょ……鷹野」
鈴凛は口をあんぐり開けて急変した鷹野を見つめる事しか出来なかった。
その様子はまるで自らの言葉に陶酔している狂信者にしか見えない。
鷹野の言葉は終わらない。
まるで全てを終焉に向かわせるための聖書が頭の中に組み込まれているかのように、空で言葉を紡ぐ。
「そして私達は生き続ける――
歴史の歯車の中において、雛見沢症候群の真実は世界を揺るがすわ……。
そしてお祖父ちゃんの論文を食い入るように見つめるの。
誰もが感じるはずよ。『確かに神はこの中にいる』ってね! あははははははははっ!!」
え、て言うか……ど、どういう事? 何? 壊れた? 過労で鷹野がついにどこかオカシクなった……?
確かにずっと司令室にいたもんね。まだ一日とちょっと、とはいえ疲れが溜まっていたんだろうし。
だって、私の中の鷹野はこんな意味分からない事言わないもの。もっと……うん、薄気味悪い感じだ。
イメージが崩壊したって言うか……その、何だろう。気味は悪い、凄く……怖い。
「その瞬間、人は神をイメージする。そして絶対的な存在として確固たる具象となるの。
鷹野一二三と、そして私鷹野三四の名前が永世永劫この世で命を持ち続ける時は、もうすぐそこまで来ている!!」
あ……れ。
何だろう、この違和感。
まるで鷹野の言葉が身体をスーッと通り抜けて、他の誰かに向けられているような不思議な感覚だ。
困惑した鈴凛はサッと後ろを振り返るが、そこにあるのは重厚なドアのみ。
この部屋の中に存在する"人間"が自分と鷹野だけであるという事実は疑いようがない。
では、何故?
「この世界には、自分の命より大事にしなきゃいけないものだってあるわ。
馬鹿には分からない崇高な理念よ……自分を壊しても信じていた人間に裏切られても、貫き通さなければならない意地。心の強さ。
私はソレを持っている!!
どんな運命にだって打ち勝って見せる!!」
そうだ。分かった。
この違和感の原因がようやくおぼろげながら理解出来た気がする。
つまり、そう……簡単な事だ。
――鷹野の言葉は私じゃなくて、まるで別の誰かに向けられているみたいだったんだ。
「…………あら、あなたまだいたの?」
「"まだ"って言うか……」
大演説大会を開催していた彼女を、しっかりと見守っていた鈴凛に対して鷹野がぶつけた言葉はあまりにも適当なものだった。
いきなり陶酔モードに入って喋りだしちゃったのは一体誰なのさ、と心の中で突っ込みを入れる。
「もう用事は済んだから帰っていいわよ……くすくす」
「ったく、分かったよ……あ、そうだ。ねぇ、鷹野」
「何、かしら」
ふと鈴凛は思い出した。
自分が何故、鷹野がこんな殺し合いを開催しようと思ったのかについて、疑問に感じていた事を。
そもそもこのゲームの発端は鷹野がディーに参加者を集めるように頼んだ、と聞いている。
その大半が自分とは全く関係のない人間だ。つまり、彼女には何か他に目的がある、という事になる。
「まさかとは思うけど。今のって……マジ?
ほら、参加者を集めた理由がさ……その、神とか……冗談、だよね?」
鈴凛は半分冗談混じりに尋ねた。
鷹野の反応は明らかに妙だ。ゾクッとするような不気味な表情のまま「うふふふふ」と笑うばかり。
楽しいから笑うのか、こちらをからかっているのか。それさえも分からない。
数秒間、彼女の笑い声が窮屈な部屋を支配した。
そして――
「マ・ジ」
私の言葉をなぞるように放たれたその単語。鷹野の流れるような金髪がサラサラと揺れた。
言葉とは真逆だった。鷹野はその時――全く笑っていなかった。
■
「もう……勘弁してよ」
鈴凛はようやく研究室の自分専用の個室に帰り着き、デスクに突っ伏してグッタリしながらブー垂れていた。
もちろん台詞を口に出したりはしない。
心の中でブツブツと文句だけを重ねる。
は? マジで? この馬鹿げたゲーム……鷹野の言葉を借りるなら"祭"の目的が、自らを神にする事だって言う訳?
ねーよwwwwって心の底から叫びたいけど、あの眼を見てしまったら一笑に切って捨てる事も不可能だ。
いやいや、でもなぁ。確かに似たような事、前にも言ってたんだよね。
えーと、二回目の放送だったかな。大神だとか、神の眷属とか……。もう、意味が分からない。
「鷹野は……嘘を言ってはいないのです」
「やっぱり? だよねぇ」
「彼女の意志は強い。強い意志は運命を強固にするのです」
「運命……か。自信満々に自画自賛するくらいだし――」
――へ?
鈴凛は普段の自分からは考えれられない程のスピードで辺りを見回した。
漫画的な効果音を足すならばバッ、バッ、バッ、であろうか。だが、収穫は何もない。
眼に入って来るのはさすがに見慣れてしまった白い壁と数々の設備と書類の山ぐらいのものだ。
そう、誰もいない。
では『今、私と会話していたのは一体誰』なのだろう。
気のせい? 幻聴? はっ!! もしかして……死者の声――ッ!?
確かに私が死んでいった人間の対象となっている事は揺らぎようのない事実だ。
彼らを拘束している首輪の製作者は何を隠そうこの私、鈴凛なのだから。
ディーや桜と言った超常現象の塊のような連中がこの事件の黒幕である。
つまり、ゴーストやスピリット(もちろん赤とか緑色の人達の事ではない)のような具象が現れてもおかしくないのではないか。
「ボクは……お化けではないのですよ」
「――!? あ、あ、あ……」
鈴凛は椅子から滑り落ち、床に尻餅を付いたまま、突然目の前に現れた"何か"を指差しながらカタカタと震えた。
やっぱり、いたんだ。
現れたのは――見たこともない少女の霊だった。
薄紫色のゆったりとした髪から動物の山羊のような可愛らしい角が顔を覗かせている。
そして非常に可愛らしい。おそらく十歳くらいの年頃で亡くなったのだろう。
第二次性徴を迎える寸前の少女、ソレ特有の一種のフェチズムに満ち溢れている。
服装は多分、巫女装束という奴である。
そしておそらく今、島で佐藤良美が来ているような緋袴には間違いない。
しかし何故か肩の部分が大胆にカットされ、ノースリーブ状態となっている。つまり腋が丸見えなのだ。腋巫女、とでも呼べばいいのか。
これが最近のトレンドなのだろうか。いや、既に死んでいるんだから一昔前の流行なのか?
……ダメだ、頭がこんがらがって来た。
「あの……その……あぅあぅ」
しかし――若干、冷静になってみると、彼女は本当に幽霊なのだろうか。
確かに透明だ。だが足はある。
そもそも彼女は参加者ではない。という事は、鈴凛に対して恨みを持っている人間ではない筈だ。
それに、この「あぅあぅ」という声が例の五人目の契約者『月宮あゆ』っぽい気もするが、多分気のせいだ。まさか生霊でもないだろう。あと……少し、咲耶ちゃんとも似ている気がする。
「力を……ボクに力を貸して欲しいのですよ!」
「ち……から?」
鈴凛は本日何回目になるか分からない、驚きの表情を浮かべた。
■
「『大神への道』……? ああ、プールのパソコンに入っていたらしい変なデータの事?」
「そうなのです。オオアリクイのヌイグルミ、天使の人形、国崎最高ボタンという至宝を集める事でこのLeMUへの道が開かれるのです!」
「何でそんな変なものばかり……」
「可愛いか――気まぐれ、なのです!」
「……ホント気分屋が多いね、この基地には」
『いきなり妙な巫女の姿をした幽霊が現れたと思ったら、実はソイツは神様だった』
催眠術や超スピードは置いておくとして、もう意味が分からない。
でもその口から"ディー"という単語を出されては信用するしかないだろう。
んで、その妙に可愛らしい萌系神様は今、優さんがこの前差し入れてくれたシュークリームをがっついている。
ずっと透明な訳ではなく、部分的に実体化は可能らしい。器用な奴だ。
「んで、羽入。私にどうしろと? パソコン弄って参加者の簡単なサポートするぐらいの力しかないんだよ?」
「それは大丈夫なのです。私の力があれば鷹野の監視の眼を誤魔化すのは何とかなるのです」
「へぇ……」
「だけど……今、ディーさんの監視下にある私の力はこの基地内、そして姿や言葉は似た波長を持つ契約者の方にしか伝わりません。
鈴凛さんに頼みたい事はただ一つ。梨花達がこの暗号文に近づけるよう手助けをして欲しいのです」
口の周りをクリームだらけにしながら言われても説得力ないんだけど、と鈴凛は突っ込みたいのを必死で我慢する。
しかし、彼女の提案は中々魅力的だ。
首輪の制限を解除するまでは、自分の用意した道具が最大限使用されれば何とかなる。
だが、その後このLeMUへと乗り込み、鷹野を倒し、あまつさえディーと接触する手段にはアテがなかった。
弱体化し、ほとんどの時間をディーが休息に当てている今だからこそ、彼女が姿を現す事が出来た訳だ。
「そうだね。私としても――ッ!!!! あ…………」
「……どうしたのです、鈴凛? どこを見て……」
突如、けたたましい音が突然、鈴凛のパソコンの横に置いてあった機械から響いた。
二人の瞳はポツポツと点灯を繰り返し、そして消えたランプに注がれる。
「ち……かげ」
彼女の呟きはゆっくりと沈み、地面に吸い込まれていった。
消えた光は十番――高嶺悠人と、そして三十七番――千影。
それは非情な報せだった。
そう、全滅したのだ。
最後の姉妹は今、この瞬間に、命を落としたのだから。
鈴凛の頬から一筋、涙が零れた。
【LeMU 地下二階『ツヴァイト・シュトック』第一研究室/二日目 午前】
【鈴凛@Sister Princess】
【装備:鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:なし】
【状態:健康、深い悲しみ、契約中】
【思考・行動】
1:???
【備考】
※鈴凛の契約内容は"参加者が脱出できる最低限の可能性を残す"こと。
ただノートパソコンの機能拡張以外の接触は原則的には禁止されています。
※参加者の能力はD-4 神社の奥に植えられている枯れない桜の力によって制限されています。
【羽入@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、困惑】
【思考・行動】
1:???
【備考】
※『大神への道』の3つの道具を集めて、廃鉱の最果てに持っていく事で羽入がLeMUへの道を開きます。
※ディーの力の影響を受けているため、雛見沢症候群の感染者ではなくても契約者ならば姿を見る事が出来ます。
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