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「陽のあたる場所(前編)」(2007/07/25 (水) 14:52:49) の最新版変更点
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**陽のあたる場所(前編)
予定された時間に流れた放送は、ハクオロと観鈴の心に衝撃を与えていた。
観鈴は、大勢の人間が死んでしまった事を嘆く。
一方のハクオロは、第一に探したかった女の名前と、頼りになる部下の名前に崩れかかる。
(エルルゥ……カルラ)
傷つき倒れていたハクオロを助けてくれた薬師のエルルゥ。家族として自分を支えてくれた彼女。
時に怒られたりもしたが、家族だからこそ叱ってくれたのは、痛いほど解かる。
その眩しい笑顔と、強い瞳に二度と視線を交わす事は出来ない……
大切な部下の一人で、奔放な言動と行動で何度も困らせてくれたカルラ。
彼女と契約しても、そのやりとりは変わらなかったが、彼女は常にハクオロを助けてくれた。
その強く美しい微笑と、高潔な瞳に二度と視線を交える事は出来ない……
出来れば、ハクオロは全てを投げ出したかった。何度迎えても身内の死は辛い。
だが、彼はその後ろ向きな迷いを振り払う。
(私が全てを投げ出したら、アルルゥや観鈴はどうなる)
まだこの地で踏み止まらなければならない。まだやるべき事はたくさんある。
「ハクオロさん……」
倒れそうになったハクオロを傍で支えながら、不安そうな目でハクオロを見上げる。
すぐそばまで来ているかもしれない死が、観鈴に恐怖を植え付けていた。
だが、その恐怖に必死で耐えながらも、ハクオロを一生懸命ささえ続けた。
(こんなに震えている観鈴にまで心配されるとは)
ハクオロは静かに心を落ち着かせ、観鈴の頭を撫でた。
「あ」
「大丈夫だ。ありがとう」
「ぁ、うん。よかった」
その言葉を聴いた途端、観鈴は目に涙を浮かべ座り込む。
そんな観鈴を、今度はハクオロが支え抱きかかえる。二度目のお姫様抱っこだ。
(私は観鈴と共に生き残る。そして、この主催者に償わせてみせる……それまでしばしのお別れだ)
脳裏に浮かぶ二人の影に別れを告げ、ハクオロは大地を踏みしめる。
「わ」
「あの建物で少し休もう。もしかしたら、誰か居るかもしれんしな」
二人は、映画館の入り口へと向かっていった。
入り口までの数分間、思考を切り替えたハクオロはある点について考えていた。
(カルラ程の戦士でも死んでしまう。まさか彼女よりさらに強い者がいるのか?)
それと同時に、もう一つの可能性を懸念していた。
(観鈴やあの学校に居た男女のような銃があればあるいは容易いか)
少なくとも、ハクオロ達のいた国ではあんな武器は見たことが無い。
その油断が、カルラの死を招いたのかもしれない。
(考えても解からないが、ともかく銃には十分警戒しなければ)
ようやく建物の扉が見えてきたところで、ハクオロは人の気配を感じ足を止めた。
「? ハクオロさん?」
「そこに居るのは誰だ!」
その呼びかけから暫くして、映画館の扉がゆっくりと開いてゆく。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
建物から出てきたのは、また見たことの無い服を着た女性だった。
◇ ◇ ◇ ◇
時間は少し遡る。
エスペリアは映画館に到着すると、その扉を開け中へと進んだ。
防音機能を備えた壁と絨毯が、彼女の足音を消し去る。
正面ロビーはそれなりに広く、傍には上の階に続く階段を発見した。
「ここは、どのような施設なのでしょうか」
映画の存在を知らないエスペリアにとって、映画館の存在は理解出来なかった。
気になるのは、壁に掛けられた大きな絵と、さらに奥がある事を示す扉の二点。
大きな絵が何を意味したものかは分からない。なので、まずは扉に手を掛けることにした。
通常より厚い扉を開けると、そこには綺麗に並べられた椅子と、一部色の違う壁があるだけだった。
細かい部分は違うが、似たような施設がファンンタズゴリアにあったことを思い出す。
「ここは、会議室の様な場所なのでしょうか?」
それならば、この椅子の多さにも納得がいくし、隣のロビーとこの部屋を隔てる厚い扉も頷ける。
室内を探索するが、他の通路に出る扉以外、特に気になるようなものは発見できなかった。
(あ)
着た道を戻るため向きを変えたエスペリアの目に、とある一室が映る。
この部屋を見渡せそうな窓に、見たことの無い黒い物体が置いてあるのが分かる。
とりあえず、次はあの部屋を調べようと、この部屋に入った扉の場所まで戻った。
ゆっくりと扉を開けロビーに出たエスペリアは、外から誰かが近付く気配を感じた。
数は分からないが、着実にこの場所を目指している。
(人間と戦う事は出来ません。ですが)
万が一襲い掛かってくるような事があれば身を守る。それを心に決めていた。
扉越しで待機していると、外から呼びかけるような声が聞こえる。
しばしの沈黙。敵か味方かは判断できないが、ここにいる事は知られているらしい。
相手は先程の呼びかけ以降、こちらが動くまで沈黙を守り続けている。
やがて意を決したエスペリアは、扉に手を掛け外へと足を踏み出す。
そこにいたのは仮面の男と、その男に抱きかかえられた少女の二人だった。
男も少女も、武器を構えている様子は無い。そこにきて、ようやくエスペリアは言葉を発した。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
二人の状態は、無意識のうちにエスペリアの警戒を緩める事となった。
なぜなら、抱きかかえていたのでは武器を握れないのだから。
外で待っていた男女を招き入れ、エスペリアは改めて挨拶した。
「先程も申し上げましたが、私の名前はエスペリアと申します」
「あ、か、神尾観鈴です」
「ハクオロだ。怒鳴ったりしてすまなかった……君一人か?」
「はい。この建物に来てから、ずっと一人でいました」
「そうだったか」
「それと、すぐに姿を見せず申し訳ありませんでした」
「いや、君の判断は正しい。相手が分からない内は仕方ないさ」
「そう言って頂けると、助かります」
頭を下げると、ハクオロは笑って済ませた。
お互いに情報交換していたが、途中からハクオロは困ったような顔をし始めていた。
「ところで、ここはどういった場所なんだ?」
「それが……私にもハッキリとした答えは申し上げられないんです」
「と言う事は、エスペリアもこの世界の住人ではないんだな」
「はい。私のいた世界はファンンタズゴリアと言われ、そこではラキオスと言う国に所属していました」
「私はトゥスクルと言う国の皇を任されていた。どうにも説明が付かないな……」
「あ、あの!」
情報交換中、二人のやり取りを黙って聞いていた観鈴が口を開く。
「二人とも、映画館が何なのか分からないんですよね?」
その質問に、二人は同時に頷く。観鈴は知る限りの知識を語る事にした。
「えっと、この奥の部屋に椅子がたくさんあるんです。そこで映画……風景なんかを記録したものを観るんです」
「確かに、椅子が並んでいましたね」
「ふむ」
「で、部屋の一番奥がスクリーン……じゃなくて、えっと、なんだったかな」
頭を叩いて必死で思い出す。だが、上手い言葉が出てこない。
「と、ともかく、そのスクリーンって場所に記録した風景とかを映せるんです」
「ほお」
「何やら不思議な技術ですね」
(そっか、そう言うのって私達の世界では機械でやってるから不思議じゃないんだ)
最後の「記録した風景が写せる」に反応したハクオロは、興味深そうに観鈴の話に耳を傾けていた。
彼のいた世界では、そのような便利なものはなかったからだ。
一方のエスペリアも、その夢のような技術に素直に驚いていた。
「それは、私達にも使えるものなのでしょうか?」
「あ……えっと、難しいかもしれないです。ただ、機械に詳しい人がいれば、その人が教えてくれるかも……」
「そうか。まぁ、聞く限りでは今の私達ではどうにもならんのだな」
「はい。ごめんなさい」
元気に語っていた観鈴の口調が段々と沈んでいく。
「いや、助かったよ観鈴」
「ええ。勉強になりましたよ」
「は、はい!」
そのうわべだけでない、真心のこもった礼を受けて、観鈴の顔は笑顔に戻った。
それに安心したハクオロは、居住まいを正してエスペリアに向き直った。
「私達は少し休憩したら新市街へ向かうつもりだ。良ければエスペリアも一緒にどうだ」
「そうですね……」
言葉を交わしたところ、数時間前に出会った大石と違い、この二人ならば十分に信頼できる。
最初はハクオロの仮面のせいで不審なイメージもあったが、逆に中身はしっかりとしていた。
それに、観鈴の中にある澄んだ瞳はエスペリアを強く惹いていた。
「はい。こちらこそ喜んで」
「にはは。ぶい」
「ああ。ぶい」
二人のやりとりに、エスペリアは思わず吹き出してしまった。それを慌てて咳払いで誤魔化す。
「それでは、出発前に少し周囲を見てきます。その間、お二人は休憩を取っていて下さい」
そう言って、彼女は扉の向こうへと消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇
佐祐理を殺した往人は、放送が終わって安堵していた。
探していた観鈴の名前は呼ばれない。それだけが、彼を安心させていた。
(待ってろ観鈴……)
禁止エリアにチェックを入れた往人は、島の中心へと足を進めていた。
地図と自分の方向感覚が正しければ、現在地は北の方になる。
より多くの人間を殺すつもりだが、先程の銃声を聞いて近付いてくるものはいない。
もしかしたら、逆に銃声を警戒して遠くに避難した可能性もあるのだ。
とりあえず目立つ建物を経由しつつ、新市街へ向かうルートをとる事にした。
やがて、路面がアスファルトから土に変わり始めた頃、一つの建物が姿を現した。
「映画館か」
自分の人形劇と違い、その迫力は大したものなのだろう。
それでも、人形劇が劣るとは一度も思った事は無かった。
(いつか、観鈴を連れて映画館に行きたかったな)
そんな未練を振り払う。自分がするべき事は、そんな娯楽とは程遠い位置にあるのだ。
これから続けていくのは人殺しと言う、自分を主演にしたつまらない人形劇。
早足で建物に近付くと、そこにはエプロンを着用した女性がこちらを見据えて立っていた。
(何時から気付いてた)
映画館を発見した時にはいなかった。おそらく、往人が未練に惑わされていた時だろう。
お互い慎重に距離を詰めていく。その手にはコルトM1917を握り締めて。
「国崎往人だ。聞きたいことがある」
「エスペリアと申します。お聞きしましょう」
往人は舌打ちをした。未練を振り払うときに発した殺気はエスペリアを警戒させていた。
今までと違い、雑談をする雰囲気などどこにもない。だから、単刀直入に聞いた。
「神尾観鈴と言う少女を探している」
「……存じています。と言ったら」
その言葉を聞いた途端、往人はエスペリアの額に向けコルトM1917を構えた。
「どこで会った。いや、今どこに居る」
「……武器を向ける方に、喋ると思いますか?」
「言わないなら吐かせるだけだ」
冷たい声と共に照準をあわせ、コルトM1917から弾丸が飛び出す。
その高速で襲い掛かる塊をエスペリアはギリギリで回避する。
数秒後、エスペリアの白く美しい頬から焼けた様な臭いと、鮮やかな血が流れ落ちる。
至近距離で避けられた事に動揺するも、往人は続けてもう一発の弾丸を放つ。
だがそれより先に、エスペリアの持つ木刀が往人の腕を撃ち払う。
「ぉぐッ」
「させません!」
運が悪い事に銃は握った手から滑り落ち地面に投げ出された。
急いで拾おうとするものの、先に気付いたエスペリアに銃を蹴飛ばされる。
銃を手放した動揺と、痺れるような一撃は往人に隙を生んでいた。
「はぁぁ!」
「くっ」
その隙を狙い、エスペリアは木刀を突き出してきた。地に転がり、間一髪でその一撃を避ける。
突きを避けられたエスペリアの腹部に隙間が生まれる。急いで体勢を整える。
だがそれよりも早く、起き上がった往人が勢いを利用して、鋭い廻し蹴りをエスペリアに放った。
突然の蹴りが腹部に直撃するも、崩れ落ちる前に足目掛けて木刀を振り下ろす。
腹部のダメージで力は入らなかったが、振り下ろした場所は脛だったのが幸いした。
痺れるような痛みにしゃがみ込む往人。その頭上に、エスペリアは木刀を当てた。
「私の勝ちです」
「くっ」
◇ ◇ ◇ ◇
崩れ落ち、顔を地面に向ける往人を見つめながら、エスペリアは悟られないように安堵する。
映画館を出て行く前のハクオロの助言がなかったら最初の一発で自分は死んでいた。
観鈴に見せてもらったそれは、地面に転がるよう銃と形がほとんど似ていた。
最初はよく理解できなかった銃の説明も、身をもって体験すれば十分に理解できる。
(こんな恐ろしい武器があるなんて)
さらに恐ろしいのは、この銃を突きつけた男は観鈴を知らないかと聞いてたのだ。
警戒して建物で休んでいると伝えなかったが、どうやら正解だったようだ。
「今度はこちらからお聞きします。なぜ神尾観鈴を探しているのですか?」
「護るためだ」
「ならば、どうして私に銃を撃ったのですか?」
「簡単な事だ」
戦う直前と同じ、冷たくて悲しいような声で往人は呟く。
「観鈴を生かして返すため、他の全員を殺す。それだけだ」
「……それは、観鈴さんが望んでいる事ですか?」
「違う。俺が勝手にやっているだけだ。アイツにこんな風に汚れた事はさせられない」
「貴方が誰かを殺して、観鈴さんは喜ぶと思いますか? 観鈴さんは――」
「分かっている!!」
「!」
初めて聞く、往人の心の叫びだった。
怒りを込めつつも、辛そうな表情でエスペリアを睨みつける。
「きっとアイツは望まない。こんな事を望んじゃいない……けどな、憎まれ罵られる方がいいのさ」
「え?」
「観鈴が……死ぬくらいならな」
エスペリアの目には、往人の顔が泣いているように見えた。
彼の悲痛な思いは、エスペリアにも伝わっていた。
「それでも、私は観鈴さんが『どこに向かったか』教えられません」
「どうしてもか」
「はい。ただ、貴方を殺す事もしません」
「なんだと?」
「貴方を殺せば、観鈴さんが悲しむから。だから、考え直すまでどこかに閉じ込めてさせて頂きます」
溢れ出る慈愛の表情で、エスペリアは往人に諭した。
木刀を構えているものの、すでに彼女の心は戦闘態勢を解除していた。
「……分かった」
観念した顔で、往人は笑みを浮かべる。言いたい事が伝わり、エスペリアも胸を撫で下ろす。
「なら」
そして、ほんの一瞬だけ気を許したエスペリア目掛けて飛び出す何か。
「悪いが死んでもらう」
次の瞬間、エスペリアの喉から鮮血が乱れ飛び散っていく。出血場所は、貫通して空洞が出来た喉。
往人の手には、柄だけ残ったスペツナズナイフが握られている。
理解を得られたと思い込み、今だ燻っていた殺意に気付いたときには、全てが遅かった。
「かはっ」
「苦しいだろう。せめてもの情けだ」
地面に落ちていたコルトM1917をエスペリアの額に押し当てる。
「俺は見ての通り『良い人』じゃないんだ。じゃあ――」
「エスペリア!!」
コルトM1917がエスペリアの額を抉るのと、映画館から出てきた仮面の男の叫びは同時だった。
「まだいたのか……ッぅ」
痺れる腕と足が往人をよろめかせる。戦いのダメージがかなり残っている証拠だ。
(さすがに連戦は辛い。ひとまず逃げるか)
エスペリアの傍に投げ出された木刀を取り上げて、急ぎデイパックにしまう。
そして、迫ってくる仮面の男を注意しつつ、往人は懸命に足を動かしその場から立ち去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
扉の向こうから、観鈴が説明してくれたような銃声らしき音が聞こえたのに、ハクオロだけが気付いた。
映画館をあらかた調べ、ロビーに戻っていたハクオロは、傍にいる観鈴にそっと語りかけた。
「観鈴、ここで待っていてくれ」
「は、ハクオロさんは?」
「私は外を見てくる……エスペリアが心配だ」
そう言うと、ハクオロは勢いよく扉を開け外に出る。
そこには、紅い小さな池の中で倒れるエスペリアと、こちらに気付いて逃げる男の姿があった。
「エスペリア!!」
男のほうも気になるが、まずはエスペリアのもとへと駆け寄った。
「しっかりしろエスペリア!」
必死に呼びかけるが、彼女の瞳は光を失いつつあった。
「喉が……なんて事だ」
薬師であるエルルゥならば良い知恵もあったかもしれないが、ハクオロにはそんな知識は無い。
やがて、その綺麗な瞳が鈍い色になるまで時間は掛からなかった。
エスペリアの亡骸を抱きかかえるハクオロの背後に誰かが立つ。
「エスペリア……さん?」
「観鈴! どうして――」
「ハクオロさんの叫び声が気になって。それで」
「そうか。エスペリアは……もう」
「うっ、ぐす、うぅ」
大粒の涙が、観鈴の瞳から紅く染まった池に滴り落ちる。
だが、どれだけ泣いても紅く染まった色は薄まる事は無かった。
ハクオロは静かにエスペリアを抱き上げ、立ち上がる。
「一度映画館まで戻ろう」
泣きながらも、観鈴は力一杯頷いた。泣いても泣いても涙が枯れる事は無い。
ようやく出会えた新しい仲間との別れは、あまりにも早すぎた。
それに、観鈴にとってはエスペリアの死が、この島で初めて直面する『死』だったのだ。
観鈴の心は徐々に、だが確実に押し潰されていく。
無言のまま映画館まで戻る。観鈴が扉に手を掛けたところで、遠くから銃声が鳴り響いた。
「あの方向は」
銃声の聞こえてきた方角は、先程の男が逃げた方向と一致する。
瞬時に考えをまとめると、ハクオロは強い口調で観鈴に問いかけた。
「少しの間、一人でいられるか?」
「え?」
「あの方向、エスペリアを撃った男が逃げた方向と一緒だ。
もしかしたらまた誰かが危険な目にあっているかもしれない。だから、助けに行きたい」
その真剣な口調に、泣き続けていた観鈴は驚く。
(そうだ。これ以上悲しい思いをしたくない)
決心した観鈴は、デイパックからMk.22を取り出しハクオロに差し出す。
「これは……」
「それで、困っているが助かるなら」
泣いていた時とは違い、小さな決意が秘められているのは言葉で解かった。
観鈴の手から、しっかりとMk.22を受け取る。
「ハクオロさん!」
「ん?」
「絶対! 絶対に帰って来て下さい!」
「ああ! 約束する!」
そう宣言すると、ハクオロは銃声のもとへと駆け出した。
そんな彼の背中を観鈴は手を振って送り出す。
それは、今の観鈴に出来る精一杯の空元気だった。
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**陽のあたる場所(前編) ◆Qz0e4gvs0s
予定された時間に流れた放送は、ハクオロと観鈴の心に衝撃を与えていた。
観鈴は、大勢の人間が死んでしまった事を嘆く。
一方のハクオロは、第一に探したかった女の名前と、頼りになる部下の名前に崩れかかる。
(エルルゥ……カルラ)
傷つき倒れていたハクオロを助けてくれた薬師のエルルゥ。家族として自分を支えてくれた彼女。
時に怒られたりもしたが、家族だからこそ叱ってくれたのは、痛いほど解かる。
その眩しい笑顔と、強い瞳に二度と視線を交わす事は出来ない……
大切な部下の一人で、奔放な言動と行動で何度も困らせてくれたカルラ。
彼女と契約しても、そのやりとりは変わらなかったが、彼女は常にハクオロを助けてくれた。
その強く美しい微笑と、高潔な瞳に二度と視線を交える事は出来ない……
出来れば、ハクオロは全てを投げ出したかった。何度迎えても身内の死は辛い。
だが、彼はその後ろ向きな迷いを振り払う。
(私が全てを投げ出したら、アルルゥや観鈴はどうなる)
まだこの地で踏み止まらなければならない。まだやるべき事はたくさんある。
「ハクオロさん……」
倒れそうになったハクオロを傍で支えながら、不安そうな目でハクオロを見上げる。
すぐそばまで来ているかもしれない死が、観鈴に恐怖を植え付けていた。
だが、その恐怖に必死で耐えながらも、ハクオロを一生懸命ささえ続けた。
(こんなに震えている観鈴にまで心配されるとは)
ハクオロは静かに心を落ち着かせ、観鈴の頭を撫でた。
「あ」
「大丈夫だ。ありがとう」
「ぁ、うん。よかった」
その言葉を聴いた途端、観鈴は目に涙を浮かべ座り込む。
そんな観鈴を、今度はハクオロが支え抱きかかえる。二度目のお姫様抱っこだ。
(私は観鈴と共に生き残る。そして、この主催者に償わせてみせる……それまでしばしのお別れだ)
脳裏に浮かぶ二人の影に別れを告げ、ハクオロは大地を踏みしめる。
「わ」
「あの建物で少し休もう。もしかしたら、誰か居るかもしれんしな」
二人は、映画館の入り口へと向かっていった。
入り口までの数分間、思考を切り替えたハクオロはある点について考えていた。
(カルラ程の戦士でも死んでしまう。まさか彼女よりさらに強い者がいるのか?)
それと同時に、もう一つの可能性を懸念していた。
(観鈴やあの学校に居た男女のような銃があればあるいは容易いか)
少なくとも、ハクオロ達のいた国ではあんな武器は見たことが無い。
その油断が、カルラの死を招いたのかもしれない。
(考えても解からないが、ともかく銃には十分警戒しなければ)
ようやく建物の扉が見えてきたところで、ハクオロは人の気配を感じ足を止めた。
「? ハクオロさん?」
「そこに居るのは誰だ!」
その呼びかけから暫くして、映画館の扉がゆっくりと開いてゆく。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
建物から出てきたのは、また見たことの無い服を着た女性だった。
◇ ◇ ◇ ◇
時間は少し遡る。
エスペリアは映画館に到着すると、その扉を開け中へと進んだ。
防音機能を備えた壁と絨毯が、彼女の足音を消し去る。
正面ロビーはそれなりに広く、傍には上の階に続く階段を発見した。
「ここは、どのような施設なのでしょうか」
映画の存在を知らないエスペリアにとって、映画館の存在は理解出来なかった。
気になるのは、壁に掛けられた大きな絵と、さらに奥がある事を示す扉の二点。
大きな絵が何を意味したものかは分からない。なので、まずは扉に手を掛けることにした。
通常より厚い扉を開けると、そこには綺麗に並べられた椅子と、一部色の違う壁があるだけだった。
細かい部分は違うが、似たような施設がファンンタズゴリアにあったことを思い出す。
「ここは、会議室の様な場所なのでしょうか?」
それならば、この椅子の多さにも納得がいくし、隣のロビーとこの部屋を隔てる厚い扉も頷ける。
室内を探索するが、他の通路に出る扉以外、特に気になるようなものは発見できなかった。
(あ)
着た道を戻るため向きを変えたエスペリアの目に、とある一室が映る。
この部屋を見渡せそうな窓に、見たことの無い黒い物体が置いてあるのが分かる。
とりあえず、次はあの部屋を調べようと、この部屋に入った扉の場所まで戻った。
ゆっくりと扉を開けロビーに出たエスペリアは、外から誰かが近付く気配を感じた。
数は分からないが、着実にこの場所を目指している。
(人間と戦う事は出来ません。ですが)
万が一襲い掛かってくるような事があれば身を守る。それを心に決めていた。
扉越しで待機していると、外から呼びかけるような声が聞こえる。
しばしの沈黙。敵か味方かは判断できないが、ここにいる事は知られているらしい。
相手は先程の呼びかけ以降、こちらが動くまで沈黙を守り続けている。
やがて意を決したエスペリアは、扉に手を掛け外へと足を踏み出す。
そこにいたのは仮面の男と、その男に抱きかかえられた少女の二人だった。
男も少女も、武器を構えている様子は無い。そこにきて、ようやくエスペリアは言葉を発した。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
二人の状態は、無意識のうちにエスペリアの警戒を緩める事となった。
なぜなら、抱きかかえていたのでは武器を握れないのだから。
外で待っていた男女を招き入れ、エスペリアは改めて挨拶した。
「先程も申し上げましたが、私の名前はエスペリアと申します」
「あ、か、神尾観鈴です」
「ハクオロだ。怒鳴ったりしてすまなかった……君一人か?」
「はい。この建物に来てから、ずっと一人でいました」
「そうだったか」
「それと、すぐに姿を見せず申し訳ありませんでした」
「いや、君の判断は正しい。相手が分からない内は仕方ないさ」
「そう言って頂けると、助かります」
頭を下げると、ハクオロは笑って済ませた。
お互いに情報交換していたが、途中からハクオロは困ったような顔をし始めていた。
「ところで、ここはどういった場所なんだ?」
「それが……私にもハッキリとした答えは申し上げられないんです」
「と言う事は、エスペリアもこの世界の住人ではないんだな」
「はい。私のいた世界はファンンタズゴリアと言われ、そこではラキオスと言う国に所属していました」
「私はトゥスクルと言う国の皇を任されていた。どうにも説明が付かないな……」
「あ、あの!」
情報交換中、二人のやり取りを黙って聞いていた観鈴が口を開く。
「二人とも、映画館が何なのか分からないんですよね?」
その質問に、二人は同時に頷く。観鈴は知る限りの知識を語る事にした。
「えっと、この奥の部屋に椅子がたくさんあるんです。そこで映画……風景なんかを記録したものを観るんです」
「確かに、椅子が並んでいましたね」
「ふむ」
「で、部屋の一番奥がスクリーン……じゃなくて、えっと、なんだったかな」
頭を叩いて必死で思い出す。だが、上手い言葉が出てこない。
「と、ともかく、そのスクリーンって場所に記録した風景とかを映せるんです」
「ほお」
「何やら不思議な技術ですね」
(そっか、そう言うのって私達の世界では機械でやってるから不思議じゃないんだ)
最後の「記録した風景が写せる」に反応したハクオロは、興味深そうに観鈴の話に耳を傾けていた。
彼のいた世界では、そのような便利なものはなかったからだ。
一方のエスペリアも、その夢のような技術に素直に驚いていた。
「それは、私達にも使えるものなのでしょうか?」
「あ……えっと、難しいかもしれないです。ただ、機械に詳しい人がいれば、その人が教えてくれるかも……」
「そうか。まぁ、聞く限りでは今の私達ではどうにもならんのだな」
「はい。ごめんなさい」
元気に語っていた観鈴の口調が段々と沈んでいく。
「いや、助かったよ観鈴」
「ええ。勉強になりましたよ」
「は、はい!」
そのうわべだけでない、真心のこもった礼を受けて、観鈴の顔は笑顔に戻った。
それに安心したハクオロは、居住まいを正してエスペリアに向き直った。
「私達は少し休憩したら新市街へ向かうつもりだ。良ければエスペリアも一緒にどうだ」
「そうですね……」
言葉を交わしたところ、数時間前に出会った大石と違い、この二人ならば十分に信頼できる。
最初はハクオロの仮面のせいで不審なイメージもあったが、逆に中身はしっかりとしていた。
それに、観鈴の中にある澄んだ瞳はエスペリアを強く惹いていた。
「はい。こちらこそ喜んで」
「にはは。ぶい」
「ああ。ぶい」
二人のやりとりに、エスペリアは思わず吹き出してしまった。それを慌てて咳払いで誤魔化す。
「それでは、出発前に少し周囲を見てきます。その間、お二人は休憩を取っていて下さい」
そう言って、彼女は扉の向こうへと消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇
佐祐理を殺した往人は、放送が終わって安堵していた。
探していた観鈴の名前は呼ばれない。それだけが、彼を安心させていた。
(待ってろ観鈴……)
禁止エリアにチェックを入れた往人は、島の中心へと足を進めていた。
地図と自分の方向感覚が正しければ、現在地は北の方になる。
より多くの人間を殺すつもりだが、先程の銃声を聞いて近付いてくるものはいない。
もしかしたら、逆に銃声を警戒して遠くに避難した可能性もあるのだ。
とりあえず目立つ建物を経由しつつ、新市街へ向かうルートをとる事にした。
やがて、路面がアスファルトから土に変わり始めた頃、一つの建物が姿を現した。
「映画館か」
自分の人形劇と違い、その迫力は大したものなのだろう。
それでも、人形劇が劣るとは一度も思った事は無かった。
(いつか、観鈴を連れて映画館に行きたかったな)
そんな未練を振り払う。自分がするべき事は、そんな娯楽とは程遠い位置にあるのだ。
これから続けていくのは人殺しと言う、自分を主演にしたつまらない人形劇。
早足で建物に近付くと、そこにはエプロンを着用した女性がこちらを見据えて立っていた。
(何時から気付いてた)
映画館を発見した時にはいなかった。おそらく、往人が未練に惑わされていた時だろう。
お互い慎重に距離を詰めていく。その手にはコルトM1917を握り締めて。
「国崎往人だ。聞きたいことがある」
「エスペリアと申します。お聞きしましょう」
往人は舌打ちをした。未練を振り払うときに発した殺気はエスペリアを警戒させていた。
今までと違い、雑談をする雰囲気などどこにもない。だから、単刀直入に聞いた。
「神尾観鈴と言う少女を探している」
「……存じています。と言ったら」
その言葉を聞いた途端、往人はエスペリアの額に向けコルトM1917を構えた。
「どこで会った。いや、今どこに居る」
「……武器を向ける方に、喋ると思いますか?」
「言わないなら吐かせるだけだ」
冷たい声と共に照準をあわせ、コルトM1917から弾丸が飛び出す。
その高速で襲い掛かる塊をエスペリアはギリギリで回避する。
数秒後、エスペリアの白く美しい頬から焼けた様な臭いと、鮮やかな血が流れ落ちる。
至近距離で避けられた事に動揺するも、往人は続けてもう一発の弾丸を放つ。
だがそれより先に、エスペリアの持つ木刀が往人の腕を撃ち払う。
「ぉぐッ」
「させません!」
運が悪い事に銃は握った手から滑り落ち地面に投げ出された。
急いで拾おうとするものの、先に気付いたエスペリアに銃を蹴飛ばされる。
銃を手放した動揺と、痺れるような一撃は往人に隙を生んでいた。
「はぁぁ!」
「くっ」
その隙を狙い、エスペリアは木刀を突き出してきた。地に転がり、間一髪でその一撃を避ける。
突きを避けられたエスペリアの腹部に隙間が生まれる。急いで体勢を整える。
だがそれよりも早く、起き上がった往人が勢いを利用して、鋭い廻し蹴りをエスペリアに放った。
突然の蹴りが腹部に直撃するも、崩れ落ちる前に足目掛けて木刀を振り下ろす。
腹部のダメージで力は入らなかったが、振り下ろした場所は脛だったのが幸いした。
痺れるような痛みにしゃがみ込む往人。その頭上に、エスペリアは木刀を当てた。
「私の勝ちです」
「くっ」
◇ ◇ ◇ ◇
崩れ落ち、顔を地面に向ける往人を見つめながら、エスペリアは悟られないように安堵する。
映画館を出て行く前のハクオロの助言がなかったら最初の一発で自分は死んでいた。
観鈴に見せてもらったそれは、地面に転がるよう銃と形がほとんど似ていた。
最初はよく理解できなかった銃の説明も、身をもって体験すれば十分に理解できる。
(こんな恐ろしい武器があるなんて)
さらに恐ろしいのは、この銃を突きつけた男は観鈴を知らないかと聞いてたのだ。
警戒して建物で休んでいると伝えなかったが、どうやら正解だったようだ。
「今度はこちらからお聞きします。なぜ神尾観鈴を探しているのですか?」
「護るためだ」
「ならば、どうして私に銃を撃ったのですか?」
「簡単な事だ」
戦う直前と同じ、冷たくて悲しいような声で往人は呟く。
「観鈴を生かして返すため、他の全員を殺す。それだけだ」
「……それは、観鈴さんが望んでいる事ですか?」
「違う。俺が勝手にやっているだけだ。アイツにこんな風に汚れた事はさせられない」
「貴方が誰かを殺して、観鈴さんは喜ぶと思いますか? 観鈴さんは――」
「分かっている!!」
「!」
初めて聞く、往人の心の叫びだった。
怒りを込めつつも、辛そうな表情でエスペリアを睨みつける。
「きっとアイツは望まない。こんな事を望んじゃいない……けどな、憎まれ罵られる方がいいのさ」
「え?」
「観鈴が……死ぬくらいならな」
エスペリアの目には、往人の顔が泣いているように見えた。
彼の悲痛な思いは、エスペリアにも伝わっていた。
「それでも、私は観鈴さんが『どこに向かったか』教えられません」
「どうしてもか」
「はい。ただ、貴方を殺す事もしません」
「なんだと?」
「貴方を殺せば、観鈴さんが悲しむから。だから、考え直すまでどこかに閉じ込めてさせて頂きます」
溢れ出る慈愛の表情で、エスペリアは往人に諭した。
木刀を構えているものの、すでに彼女の心は戦闘態勢を解除していた。
「……分かった」
観念した顔で、往人は笑みを浮かべる。言いたい事が伝わり、エスペリアも胸を撫で下ろす。
「なら」
そして、ほんの一瞬だけ気を許したエスペリア目掛けて飛び出す何か。
「悪いが死んでもらう」
次の瞬間、エスペリアの喉から鮮血が乱れ飛び散っていく。出血場所は、貫通して空洞が出来た喉。
往人の手には、柄だけ残ったスペツナズナイフが握られている。
理解を得られたと思い込み、今だ燻っていた殺意に気付いたときには、全てが遅かった。
「かはっ」
「苦しいだろう。せめてもの情けだ」
地面に落ちていたコルトM1917をエスペリアの額に押し当てる。
「俺は見ての通り『良い人』じゃないんだ。じゃあ――」
「エスペリア!!」
コルトM1917がエスペリアの額を抉るのと、映画館から出てきた仮面の男の叫びは同時だった。
「まだいたのか……ッぅ」
痺れる腕と足が往人をよろめかせる。戦いのダメージがかなり残っている証拠だ。
(さすがに連戦は辛い。ひとまず逃げるか)
エスペリアの傍に投げ出された木刀を取り上げて、急ぎデイパックにしまう。
そして、迫ってくる仮面の男を注意しつつ、往人は懸命に足を動かしその場から立ち去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
扉の向こうから、観鈴が説明してくれたような銃声らしき音が聞こえたのに、ハクオロだけが気付いた。
映画館をあらかた調べ、ロビーに戻っていたハクオロは、傍にいる観鈴にそっと語りかけた。
「観鈴、ここで待っていてくれ」
「は、ハクオロさんは?」
「私は外を見てくる……エスペリアが心配だ」
そう言うと、ハクオロは勢いよく扉を開け外に出る。
そこには、紅い小さな池の中で倒れるエスペリアと、こちらに気付いて逃げる男の姿があった。
「エスペリア!!」
男のほうも気になるが、まずはエスペリアのもとへと駆け寄った。
「しっかりしろエスペリア!」
必死に呼びかけるが、彼女の瞳は光を失いつつあった。
「喉が……なんて事だ」
薬師であるエルルゥならば良い知恵もあったかもしれないが、ハクオロにはそんな知識は無い。
やがて、その綺麗な瞳が鈍い色になるまで時間は掛からなかった。
エスペリアの亡骸を抱きかかえるハクオロの背後に誰かが立つ。
「エスペリア……さん?」
「観鈴! どうして――」
「ハクオロさんの叫び声が気になって。それで」
「そうか。エスペリアは……もう」
「うっ、ぐす、うぅ」
大粒の涙が、観鈴の瞳から紅く染まった池に滴り落ちる。
だが、どれだけ泣いても紅く染まった色は薄まる事は無かった。
ハクオロは静かにエスペリアを抱き上げ、立ち上がる。
「一度映画館まで戻ろう」
泣きながらも、観鈴は力一杯頷いた。泣いても泣いても涙が枯れる事は無い。
ようやく出会えた新しい仲間との別れは、あまりにも早すぎた。
それに、観鈴にとってはエスペリアの死が、この島で初めて直面する『死』だったのだ。
観鈴の心は徐々に、だが確実に押し潰されていく。
無言のまま映画館まで戻る。観鈴が扉に手を掛けたところで、遠くから銃声が鳴り響いた。
「あの方向は」
銃声の聞こえてきた方角は、先程の男が逃げた方向と一致する。
瞬時に考えをまとめると、ハクオロは強い口調で観鈴に問いかけた。
「少しの間、一人でいられるか?」
「え?」
「あの方向、エスペリアを撃った男が逃げた方向と一緒だ。
もしかしたらまた誰かが危険な目にあっているかもしれない。だから、助けに行きたい」
その真剣な口調に、泣き続けていた観鈴は驚く。
(そうだ。これ以上悲しい思いをしたくない)
決心した観鈴は、デイパックからMk.22を取り出しハクオロに差し出す。
「これは……」
「それで、困っているが助かるなら」
泣いていた時とは違い、小さな決意が秘められているのは言葉で解かった。
観鈴の手から、しっかりとMk.22を受け取る。
「ハクオロさん!」
「ん?」
「絶対! 絶対に帰って来て下さい!」
「ああ! 約束する!」
そう宣言すると、ハクオロは銃声のもとへと駆け出した。
そんな彼の背中を観鈴は手を振って送り出す。
それは、今の観鈴に出来る精一杯の空元気だった。
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|066:[[そこには、もう誰もいない]]|ハクオロ|073:[[陽のあたる場所(後編)]]|
|066:[[そこには、もう誰もいない]]|神尾観鈴|073:[[陽のあたる場所(後編)]]|
|062:[[それぞれの失敗?]]|二見瑛理子|073:[[陽のあたる場所(後編)]]|
|057:[[涙は朝焼けに染まって]]|国崎往人|073:[[陽のあたる場所(後編)]]|
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