前を向いて ◆ncKvmqq0Bs



人気の無いレジャー施設。
本来人でにぎわっているはずの場所も、ここでは人っ子一人いない。
まるで自分ひとり世界に取り残されたような感覚すら覚える施設。
夜ということもあいまって、その不気味さは形容詞がたい域に達していた。

そこに、脱力したように座り込みうなだれる男が一人。
高嶺悠人である。
彼の目の前には、雑然とものが置いてある。どうやら鞄の中身を全て出してみたようだ。
地図、コンパス、筆記用具、水、食料、名簿、時計、ランタン、そして………支給品。
彼はまず、この殺し合いをとめようと考えた。……まぁ当たり前といえば当たり前である。
そのためには、道具が要ると思った。戦いに乗った相手を退けるためにも、弱い人を守るためにも。……当然である。
鞄には、殺し合いをする道具が入っていると言っていた。なら、おそらくは武器であろう……気持ちはよく分かる。
それを使おうというのだ。

それがどっこい。
予想外にも。
殺し合いだからそういう道具が入っている。―そう考えていた時期が俺にもありました。

いかなる言葉を使っても彼がどれだけ予想を裏切られたかを言い表すことはできない。
なぜなら

彼の支給品は




バニラアイスとハリセン

何故そんなものが支給品と分かったか?
簡単である。
包んでいた紙と小型の冷凍庫にでかでかと墨で支給品と書いてあったからだ。
バニラアイスを食ってみた。
旨かった。
キーンとした。
なんか懐かしかった。
………………………涙が出た。


「どうすればいいんだよ……」
弱音を吐くのを軟弱者だと罵るなかれ。
誰だって突然殺し合いに放り込まれて自分の武器がハリセンとバニラアイスでは絶望するだろう。
他の参加者は剣や銃を持っているかもしれない。
アセリアやエスペリアがいる以上、どんな存在がいてもおかしくない。
その中でバニラアイスとハリセン!
こんな状況でも、微妙にそういう期待値はあっただけに、空よりも余計タチが悪い。
オクラホマ・スタンピートの如く持ち上げて落とされた気分だ(ブレーンバスターでもいい)。
いくら似たような状況に放り込まれ、殺し合いを強要された経験がある悠人言えども、平然とできようものか。
バニラアイスをどうすれば武器にできるか?人を撃退できるか?投げるか?犬じゃないんだから退散させられるとは思えない。
せいぜい溶けたアイスクリームが女の子の顔を白くべた付かせるくらい程度。とてもどうこうできるものじゃない。
小型の冷凍庫のほうは、30cm四方で取っ手がついているし、そこそこ重いから鈍器として使用できないこともないが………
こんなものを今の自分が振り回したら逆に自分が振り回されるだけだ。

とても扱えるとは思えないし、こんなもので人を殴っては殺してしまうかもしれない。というかその確立のほうが高いくらいだろう。
永遠神剣をもたずとも、ファンタズマゴリアのとき並みの膂力があれば扱うこともできるだろうが、ないものねだりをしてもしょうがない。
しかも微妙に腹立つことに、冷凍庫には「雪の振る冬の校庭で食べてもおいしいよ☆」とかなめたことが書いてある。
そんなところで食べてもおいしいわけがないだろう、常識的に考えて………
もう一度何かないかと鞄をひっくりかえして振ってみてもほこりがパラパラと落ちるだけ。
溜息まじりにハリセンを掴んでみる。これは逆に殺傷能力が低すぎる。思いっきりやっても相手がなみだ目になるくらいだろう。
だがこれでも、何もないよりはマシだ。本当に、何もないよりはいくらかマシといった程度のものだが。
それでも人間極端に追い詰められると、なにかつまらないものでもあると安心するものだ。
……かといってこの状況が解決されるわけではないが。
なんとなく軽くハリセンを振ってみる。そこら辺の壁にハリセンがぶつかった。
ただ、それだけ。それだけだったが――――














  そ  の  と  き  奇  跡  が  起  こ  っ  た  !  !



チュド―――――――――――――――ン!



( ゚д゚)……ハァ?

( ゚д゚)……

( ゚д゚ )

なんということでしょう(加藤みどり氏の声で)。
突然ハリセンからあふれ出た電撃にかかればこの通り。
気持ちが明るくなる暖色で描かれていたタイルは剥がれ、中のコンクリートがむき出しになりました。
すぐに側に置かれていた観葉植物の葉もパラパラと乾燥して落ち、気持ちを殺伐とさせます。
部屋中に黒い煙がもやもやと上がり、事件性を演出します。



「…………稲妻が、出るハリセン?」
ふと、激烈に嫌な予感かられ、ハリセンに目をやる。
柄(?)から僅か、手に収まってないところになにやら見える。文字のようだが……?

岬 と一文字。

嫌な予感大幅アップ。というか青天井で上昇中。
恐る恐る人差し指と中指を開き、その下の文字を確認する。

岬 今日子

(やっぱりキョウコーーーー!?)
ガビーンとかズーンとか言う雰囲気が悠人の背中にのしかかる。
しかしまぁ謎は全て解けた。
やっぱりというかなんというか、このハリセンは今日子のものらしい。

岬今日子は、悠人とぺド野郎もとい光陰をことあることにハリセンでシバく同級生で、稲妻を操る永遠神剣『空虚』の契約者だ。
悠人達は現実世界ではただハリセンで叩かれるだけだったが、異世界のファンタズマゴリアに来てからは『空虚』の力の上乗せされたライトニングブラスト入りハリセンでド突かれまくっていた。

どうやらこのハリセン、今日子の稲妻の力が少し残っているらしい。
電撃を撃ちまくる――とはできなさそうだが、何回か殴る分には電撃は出てくれそうな気配はある。

にしてもこんな世界まで来て今日子の道具が渡されるとは……腐れ縁というものであろうか。
だが、この支給品決して彼からすれば悪いシロモノではない。―――むしろ大当たりだ。
何しろ電撃が出てくることは物騒だが、死なないことは自分の身をもって体験済みだ。
相手を倒すことはできても、迂闊なことをして殺す心配も無い。扱い方も極論的だが剣と基本同じだ。
何発、いつまで稲妻が出てくれるかは心配ではあるが、そんなものは些細なことだ。
「そうだな……こんなとこで立ち止まっちゃ駄目だよな」
苦笑気味に呟く悠人。
なんとなく、今日子が「がんばんなさいよ、バカユウ!」と言っている気がする。

そう、何よりこの支給品は彼の心を鼓舞する効果をもたらした。
どんなに強い戦士も、状況に流され混乱したり、心が折れていては十分に闘うことができない。
まして、こんな世界ならなおさらだ。あたふたしていれば、ばっさりやられるだけだろう。
この状況で生き残るのに真に必要なもの。

それは心を強く持つこと。

言うのはたやすく、実行するのは難しく――そしてあっさり忘れたり、なにかの拍子に曲がってしまうものだ。
実際今さっきまで彼もそうだった。
けど今は違う。

「――よし、いくか。アセリアたちを探さなきゃな」

殺し合いの渦中とは思えないほど晴れた顔で、悠人は歩き出した。


【D-1 西部の森/1日目 深夜】

【高嶺悠人@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア バニラアイス@Kanon×9(消費数1)】
【所持品:支給品一式 】
【状態:好調】
【思考・行動】
1:アセリアとエスペリアと合流
2:出来る限り多くの人を保護
3:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
2周目以降の今日子、光陰生存ルートから 細かいどのタイミング、どのルートで出たかは今後に任せます


023:今、この場で生まれた私達の目的の違い 投下順に読む 025:傀儡のアセリア
023:今、この場で生まれた私達の目的の違い 時系列順に読む 025:傀儡のアセリア
高嶺悠人 053:おいてきたもの







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