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宮小路瑞穂/鏑木瑞穂(前編)◆guAWf4RW62



「此処が……LeMU?」

ピンク色の可憐な唇から、女性のような声が紡ぎ出される。
中国風の服装を身に纏い、澄んだ瞳で周囲を見渡す者の名は、宮小路瑞穂。

意識が戻った時にはもう、鷹野達の本拠地『LeMU』内部に飛ばされていた。
四方を壁に囲まれた細長い通路は、黄泉へと通じる道のようにも見える。
未だ敵の姿は見受けられないが、遠くから時折聞こえてくる銃声が、何処かで争いが起こっている事を証明している。
今自分が居る場所は間違い無く決戦の地であり、後数時間もしない内に全ての決着が付くだろう。
瑞穂は自身の手首へと視線を移し、巻かれているリボンにそっと手を添えた。

「貴子さん……僕は…………」

彼女の笑顔が好きだった、彼女の仕草一つ一つが好きだった、彼女の何もかもが好きだった。
一生を賭けて愛すると誓った女性――厳島貴子。
愛しくて、守りたくて、だけど気付いた時には何もかもが手遅れだった。
一時的に別行動を取った事が仇となって、彼女は二度と帰らぬ人になってしまったのだ。

「僕は貴子さんを守れなかった……。僕は貴子さんの意思を穢してしまった……。
 でも、何よりも大切な事に気付けたから――」

貴子を守れなかった自分は、鷹野三四の甘言に惑わされて悪鬼と化してしまった。
自分勝手な感情に流されて、決して貴子が望まぬであろう修羅の道を歩んでしまったのだ。
だけど、もう絶対に過ちは犯さない。
自分がこの島で生きて来れたのは、貴子を失っても尚立ち上がれたのは、誰のお陰か。

「アルルゥちゃん、茜さん、ことみさん……貴女達の分も、僕は戦い抜いて見せます。
 アセリアさん……梨花さん……皆、絶対に生きて帰りましょうね」

そう呟いたのを最後に、鏑木瑞穂は思考を中断して、エルダー・シスター宮小路瑞穂として歩き始めた。
今の所敵と遭遇してはいないが、決して油断は出来ない。
此処は敵の本拠地であり、自分にとっては正真正銘の死地なのだ。
安易に集中力を絶やしてしまえば、それが即座に死へと直結する。
散っていった仲間達の想いを背負う自分が、そのような無様を晒す訳にはいかない。

何時でもベレッタM92Fを撃ち放てるような姿勢のまま、瑞穂は注意深く辺りを観察する。
慎重に慎重を期して進んでゆくと、やがて右手に一つの扉が見えた。

「これは……倉庫?」

扉の上部には、『倉庫』と書かれたプレートが備え付けられている。
本来ならば、此処は瑞穂にとって関係の無い場所。
鈴凛から得られた情報によると、敵の重要施設は地下三階に揃っている筈。
今自分が何階に居るかは分からないが、普通に考えればまずは階段を探してみるべきだろう。
しかし沙羅の云っていた言葉が、頭の何処かで引っ掛かっていた。

――『連中の武器庫や弾薬庫をおさえることができればいいんだけどね……』

自分や仲間達は、こと弾薬に関して余裕のある状況では無い。
出来れば決戦を行う前に、強力な装備や弾薬を揃えておきたい所。
そして倉庫ならば、武器が置いてある可能性も十分考えられるのでは無いか。
そう判断した瑞穂は、扉を開けて倉庫の中へと侵入していった。

「思っていたよりもずっと広いわね……。使える物が有れば良いのだけれど」

倉庫は大きさにして縦三十メートル、横二十メートルと云った所だろうか。
そこら中に金属製のコンテナが散乱しており、天井では幾つかの蛍光灯が煌いている。
素早い足取りで、倉庫の中を一周程してみたが、目ぼしいモノは何も見付からなかった。
こうしてる間にも仲間達は戦っているだろうし、余り悠長にしていられる時間は無い。
瑞穂は倉庫を出る前に、もう一度だけ全体を見渡そうとして――そこで、後ろから扉の開く音が聞こえて来た。

「――そこまでよ。此処から先は行かせない」
「…………ッ!?」

心臓が激しく跳ね上がり、全身へと血潮を巡らせる。
瑞穂が驚愕と共に振り返ると、扉の前に白衣の女性が屹立していた。
すらりと整った顔立ちに、長い髪を靡かせた女性は、極めて知的な雰囲気を纏っている。
パッと見た感じ、年齢的には自分より少し上と云った所だろうか。

「貴女は…………優さん?」

ぼそりと、瑞穂が呟いた。
直接の面識こそ無いものの、外見的特徴から判断するに、恐らくはそれで正解の筈だった。
優は表情一つ変えぬまま、静かに首を縦へと振った。

「……私の事を知っているのね、宮小路瑞穂さん。鈴凛から聞いたのかしら?」
「ええ、鈴凛さんから色々なお話を聞かせて頂きました。
 貴女が鷹野三四に協力しているという事も――そして本当はこの殺し合いの所為で、酷く心を痛めているという事も」

瑞穂がそう云うと、優の眉が僅かながら持ち上げられた。
田中優美清春香菜――此度の殺人遊戯に深く関わっている、極めて優秀な科学者。
今は鷹野側の人間であるものの、鈴凛から聞いた話によれば、説得の余地があるという事だった。
故に瑞穂はいきなり武器を向けたりせずに、まずは説得を試みる。

「単刀直入に云います。優さん……私達に協力して頂けませんか?」
「……私は間違いを犯した人間なのよ。私が鷹野に協力しなければ、犠牲者はもっと少数で済んだかも知れない。
 そんな私の事を許して、仲間に迎え入れようって云うの?」

答える優の言葉は冷静を装ったものだが、その奥底には悲痛な響きが確かに存在していた。
それも無理は無いだろう。
此度の殺人遊戯では、もう余りにも多くの人間が命を落としてしまった。
その中には、優の仲間であった小町つぐみも含まれているのだ。
優が犯してしまった罪は、間違い無く許されざる大罪。
しかし瑞穂は悩む素振りすらも見せず、揺るぎ無い視線を優へと向けた。

「……私自身、嘗て間違いを犯してしまった人間です。
 それでも私が今此処に居るのは、間違いを犯してしまっても、きっとやり直せると信じているからです」

嘗て倉成武が口にした台詞と、ほぼ同意義の言葉。
過程こそ違えども、道を踏み外した事があるのは瑞穂も同じ。
だけど――間違ったならやり直せばいい。
罪を犯したのならば、償えば良い。
それが武と瑞穂に共通した信念だった。

「過去の遺恨に囚われていても、誰も救われません。今こそ皆で手を取り合って、この悲しい戦いを終わらせましょう」

差し伸べられた手。
それは優にとって、余りにも魅惑的な提案であったに違いない。
武や他の参加者達と協力して戦えれば、どんなに良い事か。
自分の罪を少しずつでも償ってゆければ、どんなに心が救われる事か。
けれど――優はゆっくりと首を横に振った。

「悪いけど、貴女の提案には乗れないわ。私が置かれている立場は、貴方のソレと大きく異なるのだから」
「……どういう事ですか?」

明確な否定の言葉に、瑞穂が訝しげな表情を浮かべる。
優の凍り付いた眼差しが、一直線に瑞穂を射抜いた。

「貴方が褒美目当てで一度殺し合いに乗ったように、私も自分の目的を果たす為、鷹野と取引を行っているのよ。
 この殺し合いに、私の仲間達――倉成やつぐみが参加させられているにも関わらずね」
「――――ッ!?」

瑞穂の目が、驚愕に大きく見開かれた。
ようやく、全ての糸が繋がった。
優は倉成武の旧友である筈だし、鈴凛に僅かながら助力してくれた事もあるらしい。
そんな彼女が敵に回ったのは、鷹野の手によるものだったのだ。
優は呆然とする瑞穂の様子に構う事無く、次々と言葉を並べ連ねてゆく。

「最初はね、私だって一生懸命皆を救おうとしたわ。自分の命を引き換えにしてでも、大切な仲間達を守ろうとしたわ。
 でも駄目だった。どれだけ抵抗しても、どれだけ懇願しても、鷹野はまるで聞き入れてくれなかった。
 だから、一番大切なモノ――娘以外の命を切り捨てた。鷹野に協力するのを条件として、娘の安全だけは保障して貰ったの」

優を縛っているのは、鷹野と交わした最悪の取引。
逃れられない破滅ならば、せめて一番大事なものだけでも護りたい。
優は最愛の娘を守る為に、自ら悪魔の役割を買って出たのだ。

「もし私が妙な行動を取れば、娘の身にまで危害が及ぶ……。だから私情を捨てて、鷹野の手となり足となり働き続けたわ。
 犠牲になった人々の嘆きになんて、一切耳を貸さずにね。嘗ての仲間が殺される瞬間ですら、何も行動を起こさなかった」
「…………」

瑞穂は言葉を失ったまま、優の話に聞き入っている。
今瑞穂が耳にしているのは、娘の為に全てを捧げた女性の悲痛な独白だ。
下手な言葉など、挟める筈も無い。

「どれだけ恨まれようとも、私は決して自分の道を曲げない。
 全てを失ってしまった貴方と違って、私には未だ守るべき物が残されているのだから」

許しも要らない。
理解も要らない。
娘さえ無事で居てくれれば、他には何も求めない。
娘を守りたいという絶対の意思が、優を悪魔へと変貌させる。
優は鞄へと手を伸ばし、右手にS&W M500を、左手にベレッタM1951を握り締めた。
白衣を纏いし科学者の瞳に、凄まじいまでの殺気が宿る。

「お喋りが過ぎたわね。私は侵入者を排除しなければいけないし、貴方は私達を倒さなければいけない。
 お互い悠長にしている時間なんて無い筈よ――始めましょう」
「……分かりました」

優がそう告げると、瑞穂は直ぐにベレッタM92Fを構えた。
何を始めるのか、とは聞かない。
そんなモノ、わざわざ尋ねるまでも無い。
相容れぬ目的を持つ者同士が戦場で対峙した際、やるべき事など一つしか存在しない。

「優さん……貴女は一番大切なモノを守る為に、嘗ての仲間を切り捨てたと云いましたね。
 だったら私は、絶対に貴女を認めない。嘗て同じ間違いを犯した私だからこそ、認める訳にはいかない」

厳島貴子の為に理想を棄てるか、仲間達の想いに応えるか。
想像を絶する程の苦悩の末に瑞穂が選び取ったのは、仲間と手を取り合って生きてゆく道。
だからこそ瑞穂には、今の優を認める事など出来なかった。

恋人を生き返らせる為に一度は悪魔と化した、宮小路瑞穂。
娘を守る為に仲間すらも切り捨てた悪魔、田中優美清春香菜。
静まり返った倉庫の中で、二人の悪魔が睨み合う。
そして――先手を打ったのは優の方だった。

轟く銃声。
優の両手に構えられた二丁の拳銃が、立て続けに火花を吹く。
二挺拳銃――それは一介の科学者如きではまず不可能な、余りにも無茶な射撃方法。
しかしキュレイウイルスによる身体能力強化が、不可能を可能にさせる。

「…………っ」

瑞穂は上体を低く屈めた体勢のまま、全速力で倉庫の中を駆け回る。
一箇所に留まり続ければ、その瞬間に倒されてしまうだろう。
間断無く放たれる銃弾の雨は、全てを破壊し尽くす爆撃のようだった。
一発一発が必殺の威力を秘めた銃弾を、優は矢継ぎ早に連射して来る。
倉庫中の物体が次々と破壊されてゆき、木やコンクリートの破片が舞い散ってゆく。

「ク――――」

瑞穂が地面を蹴って、大きく横に跳ねる。
次の瞬間、怒涛の如き連撃が降り注いで、瑞穂の後方にある壁が一部砕け散った。
瑞穂は卓越した運動能力で身を躱しているものの、余りにも敵の手数が多過ぎる。
このまま逃げ回っているだけでは、いずれ直撃を受けてしまうだろう。

「…………そこっ!」

優のS&W M500が弾切れを起こした瞬間に、瑞穂は直ぐ様反撃へと転じた。
相手の胴体部にしっかりと照準を定めて、ベレッタM92Fのトリガーを数度引き絞る。
人体で最も面積が広い箇所を狙っての射撃は、十分に敵を仕留め得る攻撃だろう。
敵が、只の人間ならば。

「――――ッ!?」

眼前で繰り広げられた光景に、瑞穂の表情が大きく歪んだ。
優は凄まじい速度で左右へとステップを踏み、瑞穂が放った銃撃を一発の例外も無く躱したのだ。
その恐るべき身のこなしは、明らかに瑞穂のソレを上回っている。

「狙いが単純過ぎるわね。その程度の腕じゃ、何発撃っても当たらないわよ?」

冷たい視線で瑞穂を一瞥しながら、優はS&W M500に新たなる銃弾を装填してゆく。
キュレイキャリアである優は、生物の限界すらも凌駕した不死性と、常人では及びも付かぬ程の身体能力を併せ持っている。
銃の扱いに関しては素人に過ぎない瑞穂が、そのような強敵に銃撃を命中させられる訳が無い。
銃弾を装填し終えた優は、再び二挺拳銃による連撃を開始した。

「っ――――あ――――」

瑞穂は上体を大きく捻ったものの、完全には躱し切れなかった。
猛り狂う銃弾が左肩を軽く掠めて、負傷箇所から生暖かい血が滲み出す。
だが痛みに悶えているような暇は無い。
優の攻撃は間を空ける事無く、それこそ際限無く降り注ぐ雨のように襲い掛かって来る。

「こ、の―――――!」

痛みを強引に噛み殺して、瑞穂は一度二度とベレッタM92Fを撃ち放った。
しかし敵の攻撃を回避しながらでは碌に照準も定められず、銃弾はあらぬ方向へと飛んでいくに留まった。
その間にも優の銃撃は決して止まず、瑞穂を確実に追い詰めてゆく。
手数の多さでも射撃の正確性でも、瑞穂は完全に圧倒されていた。
――このままでは負ける。
そう直感した瑞穂は、一も二も無く、傍にあったコンテナの陰へと飛び込んだ。

(どうすれば……どうすれば良い?)

焦る心を懸命に抑え込みながら、何とか打開策を見出そうとする。
正面からの銃撃戦では勝ち目など無い。
これは最早、疑いようの無い事実。
ならば、別の戦い方を模索するしか無い。

瑞穂は剣道・空手・合気道・フェンシング等、接近戦に関する技術は一通り習っている。
出来れば得意の接近戦に持ち込みたい所だが、嵐のようなあの銃撃を掻い潜るのは困難だろう。
どう考えても、距離を詰め切る前に殺されてしまう。
やはり最大のネックは、瀑布の如き勢いで放たれる銃撃。
それを如何にして防ぐかが、現状に於ける最大のポイントだった。
瑞穂は何か良い方法が無いか、倉庫中を見渡して――ある事に気付いた。
この劣勢を覆し得る、唯一の要素に。
作戦を思い付いた瑞穂は、跳ねるようにしてコンテナの陰から飛び出した。


「――沈みなさい!!」

瑞穂が再び姿を現すや否や、優は二丁の拳銃を交互に撃ち放った。
無作為に銃弾をばら撒くような愚行は犯さない。
ある時は一直線に瑞穂の身体を狙って、ある時は相手の進路を先読みするような形で、多種多様な軌道の銃撃を仕掛ける。
銃撃戦を続けるに連れて、徐々に瑞穂の動きも読めて来た。
もう少しで致命傷を叩き込む事が出来る。
それは優にとって、絶対の確信。
敵の反撃など問題にもならない。
瑞穂が苦し紛れに向けて来た銃口から、素早く身を躱して――そして優は、大きく目を見開いた。

「……っ、照明を!?」

優を狙おうとしているかに見えた瑞穂だったが、唐突に銃口を上方へと向けて、照明を打ち抜いた。
瑞穂は尚も銃撃を止めようとせず、コンテナの陰から陰へと移りながら、照明を一つずつ破壊してゆく。
程無くして照明が全て砕かれ、倉庫の中は深い暗闇に包まれた。

「一体、何を考えているの?」

視界を封じられた優は、迷わず傍にあったコンテナの陰へと飛び込んだ。
つぐみと違い、純粋なキュレイ種で無い優は、赤外線視力など持ち合わせていない。
暗闇の中では、碌に敵の姿を捕捉する事すら出来ない。
しかしそれは敵も同じ条件の筈。
故に優は、物陰に身を隠した時点で、当面の安全を確保したと思っていたのだが。

「…………ッ!?」

突如優の背筋が、ぞくんと総逆毛立った。
考えているような暇など無い。
浮かび上がった悪寒に身を任せ、S&W M500の銃身を背後へと一閃する――!

「――――防が、れたッ……!?」
「あ、ぐぅぅぅ…………」

金属音が鳴り響き、優の手に強い衝撃が奔る。
振り向いた先には、刀を振り下ろした瑞穂の姿があった。
優は力任せに瑞穂を押し退けると、直ぐ様後方へと走り出した。

敵が仕掛けてきた奇襲は、こちらの姿を明確に視認していなければ不可能なもの。
だがこの闇の中、どうやって視界を確保したのかが分からない。
分からない事があるまま戦っては、幾ら実力で勝っていようとも、不覚を取ってしまう危険性がある。
故にまずは、現状把握を優先させる。
優は始めに懐中電灯を取り出して、次に倉庫の壁に付いてある非常電灯を全て点灯させた。
部屋の中に再び光が戻り、瑞穂の全貌が明らかとなる。

「……っ、そう……貴方は暗視ゴーグルを持っていたのね」

よくやく状況を把握した優が、納得した顔で呟いた。
何故、瑞穂が暗闇の中で奇襲を行えたのか――それは、暗視ゴーグルを装備したからに他ならない。
瑞穂は照明を破壊する事で、優の銃撃を封じ込んだ後、足音を殺して背後から刀で斬り掛かったのだ。
優も咄嗟の判断で奇襲を防いでみせたものの、手痛い損害を被ってしまった。

「……これはもう使えそうに無いわね」

そう云うと、優は銃身の折れ曲がったS&W M500を地面に投げ捨てた。
残る拳銃はベレッタM1951一丁のみしか無い上に、先程から一方的に攻め込んでいた所為で、銃弾にも余裕は無い。
このまま銃撃戦を続けても仕留め切れぬと判断し、優は一本の西洋剣を取り出した。

「…………」

瑞穂もまた暗視ゴーグルを取り外してから、日本刀――トウカの刀――を深く構えた。
剣道を嗜んでいた経験もある瑞穂からすれば、接近戦は寧ろ望む所。
不慣れな銃撃戦に固執するつもりなど、欠片すらも無い。
しかしそこで瑞穂は、とある事実に気付いた。

「……優さん、その指で未だ戦い続けるおつもりですか?」

瑞穂の眺め見る先で、優の右人差し指が不自然な方向に大きく折れ曲がっていた。
先の奇襲を受け止めた際、指をトリガーに掛けたままだった所為で、骨折してしまったのだ。
いかなキュレイキャリアの優と云えども、指一本を失ってしまっては、厳しい戦いを強いられるのは明白。
右手で銃撃を行うのは不可能になったし、剣を握り締める握力も激減してしまうだろう。
だというのに、優は一歩も引き下がろうとする素振りを見せなかった。

「……今更退ける訳が無いでしょう。娘の為に仲間を売った私にはもう、逃げ道なんて何処にもないの。
 それに、力を失ったのなら――別の所から補えば良いだけの事」

優は平然と言い放つと、鞄から奇妙な物体を取り出した。
般若の顔のような形をしたソレは、まるで――

「――それは、ハクオロさんの仮面?」
「原理は殆ど同じらしいけど、正確には複製品ね。これは鷹野から与えられた、悪魔の力。
 私を本物の悪魔へと変貌させる為の道具」
「悪魔へ……ですか?」

瑞穂が尋ねると、優はコクリと深く頷いた。
ハクオロの仮面の複製品であるという物体は、言葉では言い表せぬ程に禍々しい雰囲気を纏っている。


「……私は何も要らない! 娘さえ無事で居てくれれば、仲間も、人間としての生すらも要らないっ!!」
「――――ッ!?」


優は迷いを振り払うようにして、仮面を自らの顔へと叩き付けた。
瞬間、瑞穂の眼前で驚くべき現象が引き起こされた。
仮面から無数の糸が伸びて、優の首筋や頭部へと突き刺さってゆく。
その度に優の喉奥から奇妙な声が漏れて、身体が小刻みに痙攣する。
時間にして、ほんの十数秒程度の出来事。
首から上に掛けて無数に突き刺さった針、頭部を覆い尽くす異形の仮面。
正真正銘の『悪魔』が誕生した。



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