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「求め」 ◆/Vb0OgMDJY


先ほど通った別れ道付近に差し掛かって、思わずブレーキを掛けた。
急ブレーキだったけど、沙羅は特に何も言わなかった。
…何故なら、
「……何さね……ありゃあ?」
「……何かしら…ね…?」
意味不明なものが、見えたから。

あー、うん、あれだ。
自慢じゃないけど、私はこの島に来てからそれなりに変なものは見てきたよ。
魔法やら、実物は見てないけど動いてる死体だったのやら、変な仮面やら、全裸や女装の変態。
明らかに人間離れした奴も見たし、さっき見た透明なのなんて極めつけだろうさ。
でもさ、
でもさ、アレは無いだろう?
あの馬鹿みたいにデカイのは…何だろうねえ?

「あー、沙羅……言ってもいいかい?」
「うん、ということは……とりあえず、私の見てる幻ってわけじゃ無い訳ね」
「幻だって言えば幻にはならないかね?」
「うーん、とっても魅力的だけど……無理ね」
「あ、やっぱりかい」
「うん、そうね」
そうして、向き合って、とりあえず笑った。
沙羅はスッゴクいい笑顔だった。
多分私も同じ位いい笑顔なんだろうなー。

……さて、

「で、だ、あれはロボットでいいのかね」
「多分……ね」
お互い真剣な顔になって会話を再会してみた。
逆に真剣になるのが馬鹿らしい気もしなくもないがね…。
てか、
「どう見ても巨大ロボットとか呼ばれる代物、にしか見えないものが山頂付近に見えます」
とか言われたら、まず言った奴の正気を疑うね、私なら。
で、それを私と沙羅が見ちまっていると。
とりあえず…妄想とかそういう代物では無い、不本意だがね。

「……あー、まああれが仮に巨大ロボットだとして、なんであそこにそんな物があるのかね?」
何となく答えは分かる気がするけど、あえて聞いてみた。
「…言わなきゃ、駄目?」
「ん……まあ、言われなくても大体分かってるんだけどね」

護衛…ってことだろうねえ。

そして、
「で、私の目にはアレは大絶賛大暴れ中に見えるんだけどね」
「奇遇ね、私にもそう見えるかな」
なにやら両手を振り回して大暴れしている。
時たま木の枝?みたいなものが宙を舞っている。
てか、あんだけデカイ割には随分と機敏に動いてるように見えるね…

「何してるんかねえ?」
「うーん……何かと戦ってる…とか?」
「何かって何とさ?」
「うん…まあ言ってみただけ」
まあ、そう見えない事もないんだけど、
あんなもんと何が戦えるって?

「…あれ……?」
「ん? どうかしたのかい?」
「待って……!」
というと沙羅は後部座席からデイパックを引っつかみ、中をあさり始めた。
そうして取り出したのは……ホテルで貰ってきた双眼鏡。
それで…なにやら真剣な雰囲気であのデカイのの方を見つめていた。
「……」

そうして、待つこと数秒……
「……アセリア!」
は?
アセリアっ言えばアレだ。
あの物凄く強いお嬢さん。
あの子が……どうしたって?

「アレと…戦ってる……」
はい?
「……マジかい……?」
「うん! 間違いない!
 あんな青い髪で羽根の生えた人なんて他に居るはず無いもの!!」
羽根?
思わず突っ込みそうになったけど、止めといた。
私に向けられる沙羅の瞳も、声も、真剣そのものだったから。

「戦ってるって事は、戦えてるってことかい?」
「……うん…よくは見えないんだけど、何とか無事みたい…」
「……そうかい……」
驚いた…
強いって事は知っていたけども、まさかあんなの相手に出来る程とは思ってなかったね。
つまりあの時は正に九死に一生レベルだった訳だ。

まあ、そんな過去の事はどうでもいいさね。
問題は、
「で、どうするかい、沙羅?」
「え……?」
「正直言って、今回ばかりは私らが行ってどうにかなる相手じゃ無いよ。
 あんなの相手じゃプチッと潰されるのがオチさね」

車で突っ込んでも効くかどうか怪しそうな相手だし、そもそも私らも無事じゃすまない。
手持ちの道具の中でも、せいぜいさっき造った爆弾くらいしか効き目は無さそうだしね。
それは、沙羅にだって判る筈。
それを踏まえた上で、どうするのか。
「アセリアが戦えてるっていうなら、多分私らが行っても邪魔にしかならない。
 だから…私らはどうするべきかね?」
「それは……」

冷静に考えれば、ここで見てるのが一番賢い方法だろうね。
というか、そうしたい。
あんな物の傍まで行きたいなんて思えない。

けれど……
「でも……ここで見てるだけなんて……出来ない」
沙羅は、言った。

(はあ…)
「ああ…やっぱりかい」
答えは予想していたので、呆れた声を出す。
でも…思わず笑ってしまったね。

「そう言うと、思ってたよ」
自分でも、嬉しそうだと分かる声を出して、アクセルを踏み出す。
沙羅も、笑った。
「うん、ここで何もしなかったら、確実に後悔するよ」
「まあ…そうさね」
徐々に加速しながら、答えた。

「今更、気圧されるなんて私…いや、私ららしく無いね」
私らしい、いつもの自信を込めて、告げる。
「うん…何か、やれることはある筈だよ」
沙羅も、似たような顔だ。

その顔に、心強さを覚えて、アクセルをさらに踏みしめる。

(しかし、私も甘くなったものさね…)
その内心の呟きは、とても心地よかった。




唸りを上げてなぎ払われる左腕を少し上に飛んで回避。
瞬時にやや右寄りに前進、相手の左肩付近に移動、
威力よりも手数を重視して、腕の力だけで斬り付ける。
首、
顔、
首、
肩、

四閃放った時点で真っ直ぐ後ろに離脱。
裏拳気味に放たれた左腕を回避。
連続して放たれた次撃、一歩前進しながら直線に放たれた右の突き、
を「求め」の刀身で受け、衝撃に逆らわずに後退。
その進行方向にあった木にぶつかる直前、
空中でバク転気味に半回転し、両足で木に横向きに着地。

両膝で衝撃を吸収し、反動を利用して再び―今度は相手の足元に向けて―飛ぶ。
(!!)
その勢いに合わせるように、相手の右蹴りが放たれ―
(オーラフォトンシールド!)
瞬時に発動した神剣魔法で軽減しながら受ける。
(…)
少し痺れたが、問題は無い。
だが、勢いを利用し一度離脱。
丁度あった木の枝に着地して…改めて相手を観察する。

何度か突撃と離脱を繰り返したけど、一向に効いている様子が無い。
硬い外殻は、どれだけ攻撃すれば破れるのか検討も着かない。
たとえこの場に「存在」があったとしても、打ち破れるかどうか。

では、その間の稼動部はどうなのか。
正直、よく分からない。
首を中心に上半身の稼動部には一通り攻撃してみたのだが、確かにそこなら斬れる。
事実、何箇所にも傷跡が存在し、そこから赤黒い体液?が漏れ出ている。
ただ、それがどの程度効いているのかが判らない。
以前戦った龍は、血を流せばそれなりに苦痛の色をみせたのだが…

(どうしよう)
流石に、切断すれば効くとは思うのだけど…
(無理)
相手には、中々隙が見つからない。
攻撃時に生じる隙だけでは、そこまでのダメージを与えるのは難しい。
攻撃し続ければ、いつかはそこまで持っていけるかもしれないけど、多分その前にマナが尽きる。
万全の状態なら或いは…といったところ。

(……こせ…)
ん?

アレ?と思った瞬間。
前方から銃声と、
「瑞穂! 南!!」
リカの叫びが聞こえた。




(くそっ! ちょこまかと鬱陶しい!!)
ヒラリ、と木の上に降り立ったアセリアを目にして、ハウエンクアの苛立ちは頂点に達しようとしていた。

最初こそ何も出来ずに引いていくしかない相手に、爽快感を覚えていたのだが、
戦いが長引くにつれて、徐々に苛立ちが増してきた。
こちらは無傷ではない…まあ致命的な傷はないが。
それに対して、相手には未だに有効な一撃を与えられていない。

大抵避けられるか、剣で防がれる。
時たま当たっても、不思議な光で大して効果が無い。
あんなちっぽけな羽虫なんぞ当たればイチコロだと思っていたのだが、どうやら考えを改める必要がありそうだ。

そう、ハウエンクアが考えた時、
後方から銃声と、
「瑞穂! 南!!」
女の叫びが聞こえた。




アセリアが有利に戦いを進めていたのには、いくつか理由が存在する。

まず、地形。
巨体であるアヴ・カムゥと、小柄なアセリアでは、森の中での敏捷性に大きな差が生じる。

次に、心持ち。
最初から相手を侮っているハウエンクアと、
万全で無いが故に全力で相手するつもりのアセリア。
それが、更に戦力の差を生む。

更に、目的の違い。
時間稼ぎを視野に入れているアセリアと、殲滅が目的なハウエンクア。
危険が無理をせずあれば離脱するアセリアを、ハウエンクアは捉えられない。

そして、最も大きな要因である、経験。
ハウエンクアとて、左将軍の地位にある以上、戦闘経験は豊富だ。
だが、素早い相手、空を飛ぶ相手と戦った経験はあるが、その両方を備えているのはアセリアが初めてだ。
それに対してアセリアにはアヴ・カムゥと同程度の大きさの相手との戦闘経験が存在した。

主な要因として、この三つが存在した。
だが、

まず、経験とは戦いの場において蓄積されるもの、
戦闘経験の差という要因は、徐々に縮まりつつある。
次に、相手を強敵と判断したハウエンクアからは、侮りが消えた。
それが、更に差を縮める。

元より万全では無いアセリアと、完全な状態であるハウエンクア。
この時点で、戦力はほぼ同等。

では、仮にそこで残る二つ、
地形の有利と、目的の違いを取り払えば、
…どうなるのだろうか。


(くくく、なるほどね)

思うように、攻撃が当たる。
まあ、どれも軽いし、上手く受け流されているけど、気にならない。
と、その時、振るった腕の衝撃を利用して、女は少し距離を取る。
そこで笑みを浮かべ、
女を追撃せずに塔の方向に前進。

慌てた様に、女はこちらに飛んでくる。
それを待って攻撃。
それを避け、女はボクの進行方向に移動し、剣を構える。
(つまり、囮だったわけだ)

構わずに前進。
動かない女に右腕を振るう。
受けた。
すかさず左。
またも受ける。
右、受ける。
左、受ける。
右、左、右、左、右、
そこで、女は受けきれずに左側に吹っ飛ぶ。

それを見て、再び前進しながら。
「ホラホラ、そんなところで寝てるんなら、ボクは先にいっちゃうよ?」
女を挑発する。
その声を最後まで聞かずに、女は再度ボクの前に移動する。
その表情に、苦痛の色が混じっているのが見える。
ひどく、気分が良かった。
進もうと思えば進めるけど、
わざと止まって相手をしてやった。

先ほどまでの無表情が、今や悲壮感すら漂わせている。
(さあ、ボクをコケにした代償は、高いよ)


◇「…愚問ですね」

漸く、瑞穂が口を開いた。
最も、こちらの質問に答えるというよりは、ことみの安全の為だろうが。

「愚問か?
 少しぐらいは納得したんじゃないか?」
まあ、答えてくれるというなら文句は無いのだが。
「…………」
またダンマリか。

「かつて、お前は厳島貴子の為に、他人を殺すことを決意しただろう?
 もう一度、同じことをすればいい。
 直接手を下すんじゃない分、楽だろ」
「ふざけるな!!」

激昂。
まあ、予想通りだが。
「まあ、そう怒るな。
 ところで話は変わるが、カルネアデスの板って知ってるか?」
「……?」
いきなり話題を変えた事に、瑞穂が戸惑う。

「一ノ瀬、お前なら知ってるよな。
 教えてやってくれないか」
知らなそうだと判断して、とりあえずことみに話を振る。
ややあって、
「……古代ギリシアの哲学者、カルネアデスが出した問題と言われているの。
 別名「カルネアデスの舟板」
 古代ギリシャで、船が難破し、乗組員は全員海に投げ出された。
 ある男が命からがら、一片の板切れにつかまったが、そこへもう一人、同じ板に掴まろうとする者が現れた。
 しかし、二人も掴まれば「板が沈んでしまう」と考えたその男は、後から来た者を突き飛ばして、溺れさせてしまった。
 男は助かり、この事で裁判にかけられたが、罪には問われなかった。
 …刑法で言う、『緊急避難』にあたるの」
硬い声で説明してくれた。
言いたい事がわかっているのだろう。

同様に悟った瑞穂が、こちらを睨む。
「まあ、言いたい事はわかるよな。
 今度は、罪にも問われないぜ……多分な」
その視線を受け流しながら、
「ああ、ついでだ、アルキメデスの原理についての説明も頼む。
 公式とかはいらんぞ」
ことみにもう一度問いかける。
「……アルキメデスが発見した物理学の法則。
 水中の物体は、その物体がおしのけた水の重量だけ軽くなる、というものなの」
ことみが答える。
先ほどよりも、怪訝そうな声だが。

だが、それには構わず、
「あるところに、一組の男女がいました。
 その男女は、ある危険な経験に会いましたが、それを経て結ばれ、その危険を退けました」
昔話を始める。
細かいところは省くが。
「ところが、退けていざ愛の逃避行というところになって、問題が起きました。
 二人の乗った潜水艇は、浮力の不足で海上までたどり着けないのです」
二人とも困惑顔だが、構わずに続ける。
「その時、男の頭に浮かんだのは、アルキメデスの原理でした。
 二人乗っていては重すぎるのだと。
 さて、その時男はどうしたでしょう?」
多少は脚色してあるが、まあいいだろう。
本筋は正しい。

しばし沈黙。
「……男は、その潜水艇から降りた」
ややあって瑞穂が答える。
「正解だ」
まあ、ここで間違えるような奴なら、こんな質問はしていない。
問題は次。

「さて、あるところに別の男…少年が居ました。
 少年は男女たちと同じ場所で危険に遭遇しました。
 その中で、少年は自分を励ましてくれたある少女の事を、とても大事に思うようになりました」
しばしの、追憶。
「その後少年は、男女の活躍もあって危険から逃れることが出来ました。
 ですが、その時少女は偶然から危険の中に取り残されてしまったのです」
今でも、まるで昨日の事のように思い出せる
「少年は、他の仲間と共に、いつの日か少女と男を助ける事を誓いました。
 少女は最も大事な人、男は仲間であり、その英雄的行動は幼い少年の中では憧れとなっていました」
瞬きのように過ぎた時間。
「そうして月日は流れ、成長した少年と仲間は、二人を助ける事に成功したのでした」
そうして訪れた、幸福。
だが、

「めでたしめでたし、と言いたいが続きがある」
そこで終わっていれば、どんなに幸福だっただろうか。
「その少年達に、新たな危険が訪れました。
 男女か少女、少年はどちらかを選ばなければならなくなってしまったのです」
考えても仕方が無いが、つい考えてしまう。
「そうして少年は、少女を選びました。
 めでたくなしめでたくなし」
他に道は、無かったのだろうかと。

「……貴方は……まさか」
少しして、瑞穂の声。
その響きは、先ほどとは異なる。
「カルネアデスの板だな。
 片方が自分、片方が大切なものなら、男の行動で相手は助かる」
さて、
「だが、片方が大切なもの、もう片方も大切なものだとしたら…
 宮小路瑞穂……お前ならどうする?」

お前なら…
アイツなら…
どうした?
俺は……どうするのが最良だったんだ?

「……私は……」

だがその答えは、聞けなかった。



初めて見たとき、僅かに違和感を覚えた。
その時は、それっきりで、その後は気にしてもいなかった。

けど、
語る男の姿に、再び違和感を覚える。
似ている…のだ。
口調、
仕草、
雰囲気、
酷似とは言わない、だが、どこか共通点がある。

そして、結ばれたというある「男女」
その男とは……
「……貴方は……まさか」

「カルネアデスの板だな。
 片方が自分、片方が大切なものなら、男の行動で相手は助かる」
返事の変わりに、新たな問いかけ。
「だが、片方が大切なもの、もう片方も大切なものだとしたら…
 宮小路瑞穂……お前ならどうする?」
その質問には、今までに無い色が篭っている気がした。

僕は……
僕なら……どうするのか。
一度、僕は選んだ。
その時は、貴子さんを。
でも、今は、

「……私は……」

そこまで言った時、
目の前に何かが落ちた。



(銃……だと?)
突如、俺と瑞穂の中間辺りに、銃が落ちてきた。
思わず、停止する。
この場にはもう一人、古手梨花がいる事は理解していたが、
それでも、その出来事は予想外だった。

反射的に銃を確保しようと動いて、
視界の右端に、小柄な人影を捉えた。
(くっ!)
すかさず、左に転がる。
直後、銃声。

いつの間にか、古手梨花が南に回りこんでいたようだ。
我ながら迂闊ではあったが、それでも問題は無い。
視界の端に、動き出す瑞穂を捕らえ……迷う。

動けないことみとの距離は、大体50メートル。
狙いを付けるには、1、2秒は必要になる。
恐らくその間に、瑞穂はこちらに銃を向ける筈だ。

(まあ、仕方が無い)
再びことみを人質に使う選択を、あっさり放棄する。
そもそも、今までが上手く行き過ぎていただけなのだから。
何と言おうとしたのかは気になるが、それに拘るわけにはいかない。

(1対2、戦力としては古手梨花の方が劣る)
一秒程度の間に、方針を定めて、南側を向いて……固まる。
(ね、こ?)
なぜだか、梨花の頭に猫の耳が生えていた。

そうして、停止した次の瞬間。
視界を、赤が覆った。

10メートル程先の地点を、炎が覆っていた。
は?
…炎?
理解は不可能だった。
だが、反射的にその炎から回避行動をとる。
そうして、後退しながら、その炎が、生じた場所から動かず、数秒たって消えたのを見て、漸く状況を理解した。
(目くらまし!)

瞬間、立ち上がろうとして、
上から4つ、筒状の物体が降って来た。
咄嗟にいくつか確認、その内一つが他と異なる形状をしているのを見て更に後退。
二秒後、それらが、地面に落ちる

一秒、
二秒、
反応は無い。
(ちっ!)
これも囮。

そうして、南と東、どちらを追うか迷った瞬間。
(…これは)
唐突に訪れる、死の予感。

慌てて、その感覚の出所を探す。
(…後ろ!)
位置を察知し、振り向いた瞬間、
青い突風が映り…
(……は?)
光の塊が、視界を覆った。


南に駆け出しながら、心の中で礼を言う。
“トラップとは、相手の心に仕掛ける物ですのよ”
有り難う…沙都子…
あなたの言葉のおかげで、何とかなった。


森の中を移動しながら考える。
相手は、山狗の部隊長。戦闘のプロだ。
事実、瑞穂とことみが簡単に窮地に追い込まれた。
私がどうにか出来る相手じゃ無い。

でも、そこを何とかするしかない。
(皆なら、どうする?)
圭一なら、話術。
“いいか、そもそも以下略”
…無理。
レナなら…………
“お持ち帰りーー”
どう考えても無理。
みおn……
沙都子なら、トラップ。
“トラップとは、相手の心に仕掛ける物ですのよ”
……無理、では無い。

とはいえ、森の中に仕掛けても意味が無い。
何か道具を使う……これしかない。

(でも)
荷物を確認しながら思考を続ける。
私に使えるのは、精々ヒムカミの指輪と催涙スプレーのみ。
でも、この二つは接近しなければ意味が無い。
銃が二挺あるが、当たらなければ何の意味も無い。
その他の物は、役に立たないか、私では扱えない物ばかり。

それでも、何か無いかと調べて、
潤の荷物の中に、催涙スプレーと似たような缶を三つ発見。
“ゲルルンジュース”
……どうしろと…
とりあえず、心の中で潤に投げつけてやった。
…外れた。
と思ったら、破裂して足に掛かった、いい気味だ。

うん?
『破裂』
急いで、催涙スプレーを見直す。
…どう、かしらね?
成功率は、低いというかそもそもあるのか不明。
けど、別に成功する必要は無い。
……そもそも、相手には、これが何なのかはわからないはず。
よく見れば一目瞭然だけど、咄嗟にはわからない。
なら、少なくても隙は出来る。

(ていうか、そもそも)
役に立たないか、私では扱えない物
これは、男にはわからないのではないか?

(そう、ね)
決めた。
とにかく、派手にやって隙を作ってやる。


そうして、瑞穂の動きを確認して、
北から、アセリアが飛んできた。
後は、任せるしかない。
そう考えて、森に飛び込む。
そして、合流地点に向かうことにした。



ミズホ…!
コトミ…!

詳しい事は…わからない
でも、木々の隙間から僅かに見えた光景は、最悪に近かった。

でも、助けに行くことは、出来ない。
「あっはははは!
 さあ、どうするのさ!?」
コイツを何とかしない限り。
最大速度では私が上。
でも、ここからミズホ達の所まで行って、二人を助けて離脱するだけの差は……無い。
二人抱えた速度では、コレは振り切れ無い。

何とか……、30…いや20秒。
それだけ、こいつとの時間差があれば、二人を抱えて空に逃げられるのに。

そこで、また吹き飛ばされる。
相手はまた前進。
すかさず、進行方向に移動する。

(もう…持たない)
既に、両腕は限界だ。
全身に、細かい傷を負っている。
マナも、残り少ない。

そうして、もはや油断しきった相手の動きを見て
(やるしかない!)
覚悟を、決める。

「パッションッ!!」

神剣の力を解放する。
熱情のオーラは、攻撃力を上昇させる変わりに、防御力が激減してしまう。
だから、さっきまでは使わなかった。
(食らわなければ…それでいい!!)

こちらから前進。
渾身の一撃が、相手の腕を弾く。
が、すぐさまもう片方の手が振るわれる。

そこを、さらに前進!!
懐に入り込み、
右に振った剣を反動を利用してもう一度斬り付ける。
(浅い)
でも、オーラの力を借りても、相手の外殻を破るには至らない。
(痛)
先ほどの接触時に、爪が少しかすった背中が痛む。
だが、気にせずに連続で斬り付ける。

「この! しつこいんだよ!!」
が、そこで、相手の巨体が迫る。
大きさを利用した体当たり。
この距離では……避けられない…

(くっ)
僅かに下がるが、対して意味が無い。
全身に衝撃が走り、後方に飛ばされる。
そして、そこに、

「うあっ!」
追撃、
振るわれた右の爪は…直撃。
弱まっているオーラの守りが破られ、左肩の鎧が砕け散る。
「くっ」
痛い
鎧で防ぎきれず、肩にも傷を負った。

「止めだあああぁぁぁぁぁぁ」
そこに更なる追撃。
それは、渾身の一撃。

それを
(待ってた!!)
振るわれる左腕を、僅かに下がりながら左に回転しながら、避ける。
そして、その勢いにオーラを乗せて。

相手の『左肘に』全力で横薙ぎの一撃を叩き付ける。
「なっっっっ!!」
渾身の一撃に私の全力を上乗せした腕の勢いに、
相手の体が流され、転倒する。

でも悠長に見ている暇なんて無い。

たたき付けた力に乗って。
反転。
全力で……飛ぶ!


そうして、塔を横目に進みながら状況を把握。
リカの行動で、ミズホは行動を開始している。

だが、男は未だに健在。
再びその力を振るおうとしている。


この距離で、わたしに出来る事は…
「マナよ、我が求めに応じよ」
唯一つ
「一条の光となりて、彼の者を貫け!」
残り少ないマナを、「求め」に集めて、

(ユート)

「オーラフォトン」

(力を貸して)

「ビームッッ!!」

神剣魔法が放たれた。
放たれた一撃は、ユートの一撃とは比べるべくも無い。
だが、人間相手にはそれで十分すぎる。

リカは、もう森の目前に居る。
ミズホは、コトミの方に駆け出している。
コトミも、既に起き上がっている。
ただ、動きが遅いので怪我は重いのかも。

念のために、目の前の男に追撃して、そのままミズホとコトミを抱えて離脱、なんとかリカと合流。

そう思い、男に突撃して、
(え?)
そこには、しっかりと両の足で立つ男。
そして、相手の突き出した剣に、わき腹を切り裂かれた。




化け物め…

あの一瞬、死を覚悟した。
具体的に何なのかは不明だが、兎に角、光の塊としか言えないモノ
(ふざ…けるな!)

ソレを見て、怒りが襲ってきた。
俺は、何の為にこんな所に居る?
ここで俺が死んだらココはどうなる?
何のために…武とつぐみを生贄に差し出した?

だが、
(間に、合わない…)
両腕で顔を覆うのが精一杯だった。
流石に、消し炭にされて治る自身は無い。
何とか命だけは永らえようとして、
その時、確かに不思議な力を感じた。
『何か』が俺の体を光から護った。

そして、光と同じ、赤色の輝きを放つ剣
(こいつの…力か?)

その剣を、腰から抜き、
相手に突き出した。

確かな手応えを感じた。


アセリアさん…

後方で、男の相手をしているアセリアさんが気になる。
だけど、今はそれよりも優先しなければならない事がある。

(ことみさん…)
立ち上がってはいるものの、その動きは遅い。
このままでは、森に逃げ切るまでに、再度攻撃されるかもしれない。
先に、ことみさんを助けないと…。

そう思い、走る。
(だが、片方が大切なもの、もう片方も大切なものだとしたら…
 宮小路瑞穂……お前ならどうする?)
男の声が、心の中で木霊した。



(ふん、生意気なんだよ!!)
折角このボクがわざわざ相手をしてやっていたというのに、
無視して行くなんて。

そうして、森を出て駆け出す。
鷹野の命令なんてもうどうでもいい。
あの生意気な女だけは、ボクの手で八つ裂きにしてやる。

そうして、その巨体が少し進んだところで、
(……そうだね、そうしてやろう)
左側に、面白いものを捉えた。



(永遠…神剣?)
突き出された、赤黒い、剣。

今なら、今になって、ようやく、その事を理解した。
(…何故?)
こんな近くに来るまで気付けなかったのか。
男の剣は、こんなにも禍々しいオーラを放っているというのに。

だが、考えている暇は無い。
放たれた突きを、咄嗟に「求め」で受ける。
そこで、男は右前に前進しながら、今度は横なぎの一撃。
肩の怪我のせいで、「求め」を右腕一本で持っていた為、僅かに遅れる。
そのまま、男は、二撃、三撃と様々な角度から攻撃してくる。
両腕で放たれる一撃は、重く、鋭い。
加えて、男はわたしと変わらないくらいに……速い!

仕方無しに、両腕で「求め」を握るが、傷ついた左腕では、相手との差が埋めきれない。
男の連撃に、徐々に後退させられる。
(くっ)
斬られた右のわき腹が、痛む。
鎧があったわき腹だったのは、唯一の幸いか。
他の場所なら、とうに終わっていたかもしれない。

だが、いずれにしても、この傷では長くは持たない。

だがそこで、はたと気付く。
(何故、わたしはここから引かないんだ?)
男は速い。
だが、直線の速度ではわたしに及ぶ筈が無い。
そもそも、本来のわたしの戦い方は、距離を取って速度を生かした物であり、
このように近距離で斬りあうものでは無い。

なのに、何故、今まで引くと言う選択をしなかった?
(何か、おかしい)
そう、考えた時。

(「誓い」を、砕け)

声が、聞こえた。




(…おかしい)
俺は何故、アセリアと『剣で』戦っているんだ?
無論、アセリアは、確実に脅威になる相手ではある。
そして今、手傷を負い、心を乱す要因も多い。
倒すなら、絶好の機会だ。

だが……
銃を併用する。
ハウエンクアの方に誘導する。
強敵と正面から戦う必要なんて、これっぽっちも無い筈だ。

それに、気がつけば俺の振るう剣は、相手の体では無く、『剣』を狙っている。
何故だ?


この剣は……




桑古木には、神剣の声は聞こえない。
彼は、あくまで外付けの魔力で神剣を使用しているのであり、
その内に魔力を秘めてはいないから。

彼の失敗…あえてそう表現するのであればだが…は一つだけ。
アセリアを、
スピリットを斬ってしまった事だ。
スピリットとは、マナの塊であり、神剣とはマナを食らうモノ。

その時、「誓い」はスピリットの傷からマナを吸収し、その余分なマナは、弱まっていた封印の効力を、打ち破った。

そうして目覚めた「誓い」の目前に、「求め」があった。
そして「求め」に「誓い」の波動が触れた。

そして、二つの神剣は本能に従った。



「ことみさん…行って下さい」
「そんな!」

瑞穂さんの真剣な声。
でも、納得出来ない。
いくら瑞穂さんでも、『アレ』を相手に出来る筈が無い。

北から迫る鋼の巨体。
その速度は、今の私達よりも遥かに上。
何とか森の中までは来れたけど、そう簡単に逃げられる相手じゃない。
アセリアさんは、男と交戦中。
(…まさかあそこまで強いなんて思わなかったの)

そして、私の足では、そんなに遠くには行けない。
どう計算しても、逃げ切れない。
でも、
「私を…置いて逃げて!!」
瑞穂さん一人なら、可能性はある。
私がホンの数秒でも足止めすれば、その確率は上がる。
でも、
「瑞穂さん!!」
私の頼みを聞かず、瑞穂さんは『アレ』に向かう。
……馬鹿、なの。

涙を抑えきれない

ここで守られても私じゃあ逃げられないの。
瑞穂さんの……犠、牲……は無駄なの。
私が残れば、瑞穂さんが助かる可能性はあるの。
一人死ぬか、二人死ぬか。
考える必要なんて……無いの。

嗚咽が漏れる。

でも、私も、多分同じことをする。
立場が逆なら、私だってああするの。

一歩、また一歩、痛みを無視して歩く。
無駄だろうと考えながらも、僅かな可能性に掛けて。
瑞穂の…犠牲を、無駄にしない為に。

そうして、少し、一分も無かったかもしれない。

「アッハッハッハッハッハ!!!」
背後から高く響く嬌声。
振り向くと、倒れ付す瑞穂さんと、そこに迫る凶刃。

咄嗟に、…無意味と知りながら…銃を向けようとして、

(え?)

私の意識は、突然の閃光にかき消された。



「私を…置いて逃げて!!」
ことみさんの言葉に、反射的に駆け出す。

「瑞穂さん!!」
後ろから聞こえる声には、答えなかった。

ことみさんの言葉は正しい。
でも、
(だから、何だって言うんですか!)
そんな事、出来る筈が無い。

(カルネアデスの板だな)
男の言葉がよみがえる。
(片方が自分、片方が大切なものなら、男の行動で相手は助かる)
確証は無い、でも、多分そうなんだろう。

駆け出しながら、思う。
男の最後の問いには、未だに明確な答えが出ていない。

(でも、)
一つ、気付いた。
男の質問は、前提が間違っている。
“彼”の頭には、そんな計算なんて無い。

ただ、そうしたかった。

それだけの事なんだと。



(やれやれ、全く愚かだね)

こちらに向かってくる女を見て思う。
恐らくは、足止めのつもりなんだろう。
無意味な事だ。
本当だったら、のんびりといたぶってやるんだが、今はあの女を苦しめるのが先だ。

そう思い、一気に加速する。
女の持つ銃が撃たれるが、無視。
そのまま、突撃。
女は横っ飛びにかわすが、そこであえて追撃をせず、
森を進もうとする。

その行動に、女は慌てて駆け寄り、
振るった左手が、女の胸に命中した。

「アッハッハッハッハッハ!!!」

なんて愚かなんだろう。
こうも簡単に引っかかるなんて。
どっちみち、もう一人の女だって、逃がさない。
無駄死にだ。

(オヤ?)
とそこで気付く。
まだ、起き上がろうとしている。
しぶといな、思い、今度こそ止めを刺そうとして、

次の瞬間、ハウエンクアの意識は消えた。




まさか…これに命を救われるなんてな…。
胸を、強打されて、吹き飛んだ。

ただ、鋭い爪はギリギリ届かなかった。
(運が……いいのかな……)
胸にいつもいれてあったアレが、僅かに、爪を防いでいた。

とはいえ、全身打撲状態だが。

(……まだだ)

一分でも、一秒でも時間を稼ぐ
力を振り絞って、起き上がろうとする。

そこに影が差した。
相手が、腕を振り上げている。
(ここ、までか……)

諦めるつもりは無い。
ただ、理解は出来た。

(梨花さん……どうかご無事で)
もう、何も出来ないと。
(ことみさん……頑張って下さい)
それでもせめて、
(アセリアさん……約束、果たせませんでした)
少しでも、持たせようとして、

その瞬間、光が視界を埋め尽くした。



(「誓い」を、砕け)

体が、勝手に動く。
目の前の男と、
いや、男の手にある剣「誓い」と、戦い続ける。

(求め……!)

心の中で叫ぶ。
だけど、体が自由に動かない。

(やめてくれ……)

こんなことをしている暇なんて無い。
ミズホと、コトミを助けに行かないと
視界の遠く、二人をあのキカイが追っているのが見える

(「誓い」を、砕け)

「求め」の声は変わらない。

再び「誓い」と刃を交える。
力の限り、相手を押し、
男も、同様に押し返してくる。

と、そこで、
(え…?)

森の木々の間、吹き飛ぶミズホの姿が見えた。

(「求め」……!!)

(「誓い」を、砕け)
その言葉に、絶望する。
キカイが腕を振り上げた。
もう、どう頑張っても、間に合わない。



(…………そうか、わかった)
だから、その声に、応えた。
(「誓い」を、砕く)
(ユートの変わりに、わたしが義務を果す)
(…どんな代償でも構わない)

ガラスが割れるような高い音

(力を…貸して!)
(わたしは…皆を守る!)

澄んだ音と共に、『誓い』にヒビが入り、

(今度こそ……大切な人を……救うんだ!)

アセリアは、飛んだ。



妖精の、叫びが聞こえる。
純粋なる、求めを、
力を、願っている。

かつての契約者は、既にマナへと還ったのか…
我の内に、僅かにだがその残滓を感じた。

……劣化存在たる妖精には、契約者たる資格は、あった。

不都合は、無い。
ならば、その求めに応じよう。
汝を、新たな契約者として認めよう。


ただ、一つだけ誤りがある。
(否)
(我は……『  』)


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