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牢獄の剣士 ◆0Ni2nXIjdw



―――――いいか、舞。答えがイエスなら『はちみつくまさん』、ノーなら『ぽんぽこたぬきさん』と言うんだ。
―――――あはは~、ほら、舞~、タコさんウィンナーですよ~。


そんな日常が、かつてあった。
屋上での三人だけの食事。そんな温かい風景は確かに存在した。


―――――ほぉら、舞。牛丼だぞぉ、うまいぞ。
―――――佐祐理は舞のこと、好きですよ~。


私は中空に浮いたまま、鏡を見ていた。
その向こう側には日常が広がっている。きっと、その中には入れれば温かなんだろう。
けれど鏡の中には入れない。当然だ、鏡とは写し合わせの虚構の世界。それを覗くことは出来ても、決して世界には入れない。

もう戻れない日常を映し出す鏡。
鏡の中では楽しい日々が当たり前のように回転している。歯車は決して狂わない。
私はその中には入れない。鏡を見ている私は檻の中、ただその光景を眺めているだけ。


―――――失いたいのかっ!! 佐祐理さんや俺や、一緒に作ってきた色んなものをっ……!


かつて、そんな叫びがあった。
かつてそう言われたこともあった。全てを失うだけだぞ、と。そんなことを伝えようとした人もいた。


―――――答えろっ、舞っ!!


だけど、それこそが虚しい。
だって、もうとっくに全部失ってしまったから。
だから私は檻の中、歯車はがらがら、音を立てて崩れていく。

いらない。
もう戻れない光景なんていらない。
私には佐祐理さえいればいい。失いかけた大切な人を護るためならば。


―――――砕けろ。


手に持っていた剣でその鏡を叩き割った。
ガラスが砕ける音もない、砕いた感触さえ残らない、ただ無音の世界が私に残された。
無常な静寂が耳を打つ。日常を失うとはそういうこと……私の手には剣と銃、非日常の象徴しか残らない。

それでも、私は佐祐理を取り戻したい。

その代償として失ったもの。
その結果が正しいなんてわからないまま……私は、この憧憬から立ち去るしかなかった。




     ◇     ◇     ◇     ◇



「……んっ……う……」

目が覚めたときには、既に明け方だった。
少し休憩を取るついでに仮眠をとったつもりだったのだが、数時間も意識を失ってしまったようだ。
この間に襲われなかったことは僥倖と言っていいだろう。おかげで体調は万全、疲労はほとんど取れてしまった。

舞は無表情のまま立ち上がる。
こんなところで休んでいる場合ではない。まだ自分は一人しか殺していないのだから。
誰の声ももはや届かない。
助けたい、と言った男の声も。あのときから出逢っていないことりの声も、そして夢の中に一瞬だけ現れた幻想も。

「…………」

あの銀髪の女の蹴りで受けた傷は回復したが、全身の至るところは軋んだ痛みを訴える。
関係ない、と舞は断ずる。一刻も早くゲームを終わらせて佐祐理を助けなくてはならないのだから。
そのためなら腕の一本、足の一本失うことだって躊躇いはない。ただ大切な親友が帰ってくるのなら、舞はこの非日常に浸り続ける。

地図を取り出して今後の方針を考える。
何時間も休眠を取っているのに、誰も接触してこない。それはつまり、この近辺には誰も参加者がいないことを如実に示していた。
現在地点は博物館の周辺。最後に千影と出逢ってから二時間以上が経過している。
参加者がいそうな場所といえば、この新市街の他にもいくつかある。

「ホテル……それから、病院」

そうだ、戦って傷ついた参加者はどんな思考を取るだろう。
自分のように休む場所を確保したいはず。もしくは病院で治療薬を求める可能性だって有り得る。
ならば禁止エリアを迂回し、山頂を超え、そしてホテルと病院を経由するほうがいいだろう。

決まれば、行動は早かった。
舞は荷物を纏めて立ち上がる。握る武器は永遠神剣『存在』、そして懐にはニューナンブM60を保険として。



     ◇     ◇     ◇     ◇



それは山を超え、ようやく下りに入っていた頃のことだった。
すでに時刻は早朝、太陽が二日目の朝を告げるとき、耳にノイズがかかる。
それが放送の合図だと悟り、舞は立ち止まった。禁止エリアによっては道を変える必要があるし、死者の数も知りたかった。

出来れば自分が労せずして、参加者には消えてもらいたい。
まだ参加者は自分を除けば20人、それらを一人で片付けることは至難の業だ。
こうして休んでいる間にどれほどの数が命を落としたのか。少し瓦礫やらが激しい地域であったにも関わらず、舞は岩に腰掛けた。


『それでは禁止エリアを伝える。聞き忘れた者、二度も言うつもりはない。聞き逃さないように。
8時より、E-5地点。10時より、B-5地点だ。
暗記したか? それでは続いて死亡者の発表に入る。第四回放送から今までの6時間、死亡した者は――――



白河ことり
水瀬名雪
前原圭一


以上、4名。

やはり人数が落ちているが、それも詮無きこと。
参加者は見せしめに殺害した人間を含め、これで40名以上が命を落としたのだ。そう焦ることはない――――』



「…………………………」

人数はやはり、落ちていた。
前回の放送でも少ないとは思っていたが、今度はさらに少ない。理由は考えるまでもないだろう。
自分はこの時間帯でも一人も殺していない。そうした怠慢があったからこそ、ここに来て人数が落ち込んでいるのだ。

そう焦ることはない、という放送者の声も遠い。
舞はただ呆けているだけ。必要事項は聞き取れた、それ以上、主催者の言葉に耳を傾けることもないだろう。
問題は呼ばれた人物の名前。この島で初めて出逢い、友達とも呼んだ人物の死。

「…………ことり」

どこか、安堵している自分がいることに驚いた。
佐祐理のためなら誰であろうと殺す、と。そう誓ったはずなのに……どういうわけか、軽く息を吐いていた。

「……ああ」

ようやく舞は思い至る。自分は安心したのだ。
再びことりと出逢ったとき、この引き金を引けるのか、という不安から解放された。かつての友達を自分の手で殺さないで済んだ。
日常を捨てた彼女が考えたのは、たったそれだけ。かつての友人の死を伝え聞いても感慨深いものはその程度だった。

もう十分に少女は壊れていた。
この島は存在する全ての存在の人生を狂わせる。きっと少女もまた、檻に閉じ込められたままなのだ。
ただそれでも、どうやら僅かに……本当に僅かによぎった悔恨が、少女の内から湧き出していた。

「………………」

涙は流さない、表情すら変えない。
ただ一瞬、何も考えられなくなっただけ。たったそれだけ。友人の死は舞の思考を僅かに絡め取ったに過ぎない。
それこそが致命的な隙だった。


からん……


「…………」

最初の異変に気づけなかった。
これに異常を感じていれば、きっと避けられただろうが。結果的に彼女は気づかなかった。


からん……からん、からん……がたたたっ……!


「…………?」

ここでようやく、音に気がつく。
小石が転がってくる音だけではない。ごろごろと轟音のような唸り声が舞の耳に届いた。

(えっ……!?)

それはまったくの偶然だった。
ただ山頂の岩盤に脆いところがあって、それがちょっとした衝撃で一部が崩れてしまっただけ。
それが坂道を転がり、真っ直ぐに舞に襲い掛かってきたのだ。気づいたときには、すでに瓦礫は目の前へと近づいてきていた。
もしも直撃すれば無事ではすまない。もしも頭に当たれば致命傷だって有り得るだろう。

がらんっ、がらん……がらがらがらがらっ!!

回避は―――不可能。ここで横っ飛びに避けても、本当に僅かな時間が足りない。直撃する。
反撃は―――不可能。キャリバーを持ち出す時間もなければ、銃を撃つような暇さえない。素人に早撃ちなど出来ない。
もっとも、銃による弾丸程度では意味がない。そんなことで瓦礫は止まらない、と分かっている。

諦める気は―――もちろん、皆無だった。
彼女の手には剣がある。ずっとこれに頼って生きてきたのだ。
これも持たない舞は弱い、と自分自身が思っている。逆に考えれば……これさえあれば、舞は最強の一人となれる。

「……!」

舞は『存在』を構えてから、その心強さに気づいた。
この剣に何か秘密があるのは手に取ったときから気づいていた。千影の反応からその想いは強くなっていた。
そして今、ようやくその意味が分かった。やっとその繋がりに気づいた。
忌むべきあの力、誰もが恐れた自分の異能……その流れが剣と連結している。そうすることで剣は頼もしさを強くしていく。



「……つぁぁあッ!!」


ウォーターシールド。
舞は『存在』を振り下ろしながら叫ぶ。
魔法は剣が教えてくれる、そんな感覚が舞のなかにもあった。それを迷うことなく行使する。
身体から流れる喪失感と同時に、瓦礫と自分の間に水の盾が現れた。それはまさに神秘と言える。

「―――――!」

だが、所詮は水で出来た代物。瓦礫はやすやすと破っていく。
これでは防げない、と舞は瞬時に判断した。

ならば、閉じ込めてしまえばいい。
自分と同じように、檻の中へと。そうすれば二度と動くことなど出来ないのだから。
舞の中に出来たイメージは牢獄。その形を躊躇うことなく解放した。


「っ……アイスバニッシャーッ!!」


叫んだ瞬間、氷の牢獄が瓦礫を包み込んだ。今度こそ確実に効果があった。
舞は横っ飛びに飛ぶ。これらの魔法は相手を仕留めるために存在するものではない、あくまで相手を一時的に拘束するもの。
ほんの数秒で氷の牢獄も砕かれた。それだけの時間があれば、舞も岩盤を避けるぐらい造作もない。

瓦礫は舞がさっきまでいた空間を押しつぶし、さらに転がっていく。
やがて乱暴な音を立てて、ホテルへと向かう道を存分に破壊し尽くして止まった。

「…………」

そんな災難にも舞は僅かに喜んだだけだった。
結果的に永遠神剣の意味が分かった。これは本当に素晴らしい武器だと内心では歓喜していた。
瓦礫を避けたときの、身の軽さ。身体能力の上昇をこの身で確かに感じ取った。これならば、この殺し合いでも勝ち残れる。
たとえ大人数を相手にしようとも、纏めて打ち倒せるほどの絶対的な力だ。ようやく舞はそのことを自覚した。

「これなら……」

佐祐理を助けることができる。
待ってて、と舞は呟いた。日常はもう帰ってこないけど、大切な親友は戻ってくる。そう一途に信じたまま。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「……困った」

ホテルへと続く山道が瓦礫で埋まってしまっている。
狭い山道なだけに塞がれるのは困る。さっきまで転がっていた瓦礫の上を越えていくというのが気が引ける。
ハンドアックスか『存在』で破壊しようかとも考えたが、それで他の岩盤まで崩れてきてはたまらない。

改めて地図を広げる。
ホテルへの道が塞がれた以上、別のルートを使う必要がある。この山頂に昇っても参加者に会うことはなかった。
こうなればホテルは諦めるにしても、病院には行きたい。包帯や傷薬を手に入れたいし、他の参加者も周囲に集まっているだろうから。

「……吊り橋、か」

塞がれた東の道を諦め、南方にある吊り橋を渡るルートが残されている。
ホテルには辿り着けないが、段々畑の近くを経由して病院には行ける。この道なら参加者とも遭遇できるはずだ。
あくまで病院は目的地。参加者を見つけたら……この永遠神剣と銃撃の雨で始末する。

見敵必殺、サーチ&デストロイだ。
人にあっては人を斬る。神にあっても躊躇うことはない。それが佐祐理救出を阻むのであれば殺し尽くす。

「……行こう」

この手がいくら血に染まろうとも。
この身体がどれだけ傷つこうと、壊れようと。
虚無と偽りの牢獄に閉じ込められた少女は歩く。かつり、かつり、足音はガラスを踏みしめるかのような音に似た。




【C-6 /二日目 朝】


【川澄舞@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"存在"@永遠のアセリア-この大地の果てで-、学校指定制服(かなり短くなっています)】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾15、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾80)、ハンドアックス(長さは40cmほど)、ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 】
【状態:肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、魔力残量70%、深い喪失感】
【思考・行動】

基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
0:吊り橋を渡り、そこから病院を目指す。
1:優勝を目指すため、積極的に参加者を襲う。
2:佐祐理を救う。
3:全ての参加者を殺す。千影であろうと誰であろうと関係ない。
4:多人数も相手にしても勝ち残れる、という自信。



【備考】
※永遠神剣第七位"存在"
 アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
 魔力を持つ者は水の力を行使できる。舞は神剣の力を使用可能。
 アイスバニッシャー…氷の牢獄を展開させ、相手を数秒間閉じ込める。人が対象ならさらに短くなる。
 ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
 フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
 他のスキルの運用については不明。
※永遠神剣の反応を探る範囲はネリネより大分狭いです。同じエリアにいればもしかしたら、程度。



185:どんなときでも、ひとりじゃない 投下順に読む 187:偽れぬ真実
185:どんなときでも、ひとりじゃない 時系列順に読む 187:偽れぬ真実
174:おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 川澄舞 191:世界で一番長く短い3分間






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