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たとえ、愚かな考えだとしても ◆jWwIlynQcU



時刻が正午に近づく中、春原陽平はひたすら東に逃げ続ける。
その状況は数時間前、鳴海孝之が二見瑛理子に手を引かれ、朝倉音夢の前から逃げた時の状況に似ていた。
「死にたくない」という生への渇望も、「誰かに守って欲しい」という願望も。
両者が異なるところを挙げるなら、彼には孝之の様に手を引いて逃げてくれる人間がいなかったことぐらいか。

「ハァ……ハァ……あ……あれは……」

何もかもを放り出して逃げ続けた陽平がたどり着いた先、そこは映画館――。

ここならば身を隠せる。そう思った陽平は映画館の入り口扉を開き中に侵入する。
フラつきながらもロビーを抜けて、座席の一つに腰をおろす。

「誰も……いないよな……。ここなら……少し休める」

自分しかいないガランとした映画館の中、陽平は呼吸を落ち着けながら、ここまでの事を思い出していた。
瑞穂との出会い、手錠で繋がってしまった茜との時間、博物館での国崎往人との遭遇……。

そして、仲間を見捨てての逃亡行――。

「僕は……」

回想の最中、陽平は呟く。

「なんで……僕はあの時逃げてきたんだ!」

死の恐怖から逃れ、落ち着いた今の陽平にあるのは仲間を見捨てた事に対する激しい後悔の念だった。
思えば、あの時自分以外の誰が逃げようとしただろうか。
茜もアルルゥも、そして瑞穂も死にたくなかったはずだ。
だが、自分を除く全員が、あの男――国崎往人――に立ち向かっていった。
今考えれば自分も立ち向かっていれば、皆と力を合わせていればあの男に勝てのかもしれない。

「だけど……もう手遅れだよな……今頃皆は……」

そう、あの男は銃を持っていた。
それに対して、こちらが持っていたのはせいぜい投げナイフとあの鉄パイプぐらい。
どうやっても勝てるはずが無いだろう。

今更博物館へ戻ったところで、瑞穂達は冷たい骸となって博物館の中に転がっているはずだ。
仮にあの男を撃退し、勝利していたとしてもそこへ戻れば白眼視されるのは分かりきっている。
だとすれば、自分だけ逃げたのも間違ってはないかもしれない。

何よりもうすぐ2回目の定時放送が流れる。
そうなれば全てはっきりするだろう。
誰が死に、誰が生き残ったかが……。

だが、そこまで考えた陽平の脳裏に嫌な考えが浮かぶ。

(もし、瑞穂さん達の名前が呼ばれて、そこに加えて岡崎の名前が呼ばれたら……そしたら僕はどうしたらいいんだ……)

瑞穂達が助からないのはほぼ確実だろう、だが友人である岡崎の名が呼ばれたなら自分は果たして耐えられるだろうか。
いや、恐らくは耐えられないだろう。

せっかくこの島で出来た仲間は自分から見捨ててしまった。
この上、ここへ連れて来られる以前からの友人が死んだなら、自分にあるのは孤独だけである。

(嫌だ……そんなの、僕は嫌だ……)

陽平は自然と身震いしていた。
恐ろしかった。

そう、この島で一人になるのはあまりにも恐ろしかった。


そして、いくらかの時間が経過した。

(疲れも少しは抜けたんだ。こんなとこ、さっさと出よう……)

入ったときは気にしなかったが、幾分落ち着いた今となっては誰もいない映画館に自分ひとりだけというのも不気味すぎる。
もし、あの男がここにやってきたら次こそ自分は助からないだろう。
陽平は隣の座席に放り出していたディパックを手にすると足早に映画館を後にしようとする。

「なんだ、このメモ?」

座席の間を抜けて、会場からロビーへ出た彼の目にあるメモが見えたのはその時だった。
立ち止まり、メモを手に取った陽平はその内容に目を通す。

メモには書いた人間の名前と、彼らの移動先と共に探している人物について書かれていた。

「『私たちと同じ意思を持つ人はどうか私たちを追ってきてください』か……。名前を書いているということは殺し合いに乗ってないということだよな」

この様なメモを残した人間がいる事、他にもまだ殺し合いに乗ってない人間がいるという事実に思わずホッとする。

メモに書かれている場所へ行けば、この3人と会えるかもしれない。
だが、もう一度メモを見た陽平は、その中に見覚えのある名前があることに気が付く。

「神尾観鈴に……国崎往人だってぇ!?」

思わず声をあげる陽平。
国崎往人は忘れもしない。

あの銀髪と目つきは忘れようにも忘れられるはずがないだろう。
奴は今の陽平にとって恐怖の対象だ。

そして神尾観鈴は、あの男が探している人間の名前。
これは要するに、互いがこの近くにいるというのを知らないという事だ。

少し前まで混乱していた陽平ですらその事は理解できた。

「そうか……そういう事か……それなら」

メモを握り締める陽平は、ある事を思いつく。
恐らく、このメモを残した三人は少なくとも国崎往人が殺し合いに乗っている事、そして神尾観鈴を探している事を知らないはず。
ならば自分が教えてやればいい、その事実を。

あの国崎往人がどのような理由で神尾観鈴を探しているのかは知らない。
見つけ出して保護しようとしているのか、博物館で自分が思った様に殺すつもりなのか。

だが、あの男がこのゲームに乗った事実を伝えるのは悪い事ではないだろう。
自分を守ってくれるかもしれない人間ならば、なおさらだ。

特に、国崎往人が探している神尾観鈴という人物がその後どんな反応をするか。
両者の関係など陽平は知らないし、知ろうとも思わない。
だが、彼女に国崎往人が殺し合いに乗っていることを知らせれば、彼女があの男を止めてくれるかもしれない。

「でも……卑怯な発想だよな……」

ポツリと呟く陽平。
この期に及んで、地力で何とかせずに他人を頼ろうとするのは腰抜けだし、卑怯かもしれない。
瑞穂が知ればあの時と同様に「恥を知りなさい!」と言うだろう。

「だけど……だけど僕は……死ぬほうがずっと怖い……」

そう、誰だって死ぬのは怖い。
ましてや、こんな何処とも分からない場所で死ぬのはまっぴらだ。

その為、誰かに依存する事の何が悪いのか。

陽平はそう思うことで自分の不甲斐なさを心の片隅に押しやった。

「それじゃ、もう行くか」

暫くして、メモをジーンズのポケットにねじ込んだ陽平は映画館を後にする。
メモの最後に「このメモはもっていかないでください」とあったが、あの男がこのメモを見たらどんな行動をとるか分かったものじゃない。
ならばこれを持っていって悪い理由は無い。

春原陽平の行動は酷く愚かで醜いものだ。
しかし、彼の「死にたくない」という感情を誰が否定できるのだろうか。
いや、恐らくは誰も否定できまい。



【D-3 新市街・映画館北/1日目 昼】

【春原陽平@CLANNAD】
【装備:投げナイフ2本、映画館にあったメモ】
【所持品:支給品一式 ipod(岡崎のラップ以外にもなにか入ってるかも……?)】
【状態:肉体的には中度の疲労、精神的疲労中、恐怖と怯え、右手首に手錠、上はTシャツ、下はジーンズを着用】
【思考・行動】
基本:死にたくない
0:メモに書かれている場所へ移動し、メモを書いた3人に保護してもらう
1:神尾観鈴に国崎往人が殺し合いに乗っている事を知らせる。
2:岡崎を探し出して、助けて貰いたい
3:知り合いを探す
4:国崎往人に対する極度の恐怖

※メモに書かれている場所であるプラネタリウム、レジャービル、プール、工場へ移動します。


106:太陽をつかんでしまった 投下順に読む 108:やわらかい風の中で
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094:瞬間、心、重ねて/さよならの囁き(後編) 春原陽平 122:コンパスを失い道に迷った人間は、こんなにも愚かになるの






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