第一回定時放送 ◆tu4bghlMIw


「……鷹野様、もう少しで時間です」
「フフフ、分かってるわよ。急かさなくても大丈夫……。最初の定時放送は私の仕事……忘れてないわよ」

巨大戦艦のブリッジのような場所に、多数のモニターとソレを監視するオペレーターが所狭しと動き回っている。
司令部は今まさに〆切寸前の雑誌の編集部のような有様だった。
通信関係の責任者から、防衛担当の長まで、各部門のトップがこの空間に集結しているのだ。

定時放送。
この殺し合いにおける、ターニングポイントとも言えるイベントが、刻一刻と迫っていた。


特に、参加者一人一人を追っているオペレーターの忙しさはピークに達していた。
首輪から送られてくる映像や音声は彼らの手によって選別され、司令部の中央に設置された巨大モニターに拡大して流される。
映像に関しては、特定の建造物や、重要なポイントにはカメラが設置されているものの、更に監視衛星の力を借りても死角が生まれてしまう。
そのためこの六時間の出来事にしても、全てを追うことは出来ていなかった。
とはいえ各参加者がこのような条件下において、まず初めにどのような行動を取るか、という点は非情に興味深い議題である。

故に彼らには不可能な事を「無理」と否定する権利は与えられていなかった。
ただひたすら、能力の限りを尽くすのみ。そこに人の意志は必要ない。



そんな司令部の中心、大きな背もたれが付いた椅子に座していた鷹野が満を持して立ち上がった。
一歩、また一歩と放送用のマイクに向かって足を進める。

「準備は出来ているの?」
「はい、C-5を中心に全エリア、回線は良好。いつでも行けます」

メインオペレーターが鷹野の質問に応える。
鷹野はそう、と留意の台詞を軽く舌の上で転がすとメインモニターの手前に設置されたマイクの近くまで歩いて行く。
コツコツ、という硬質な靴の音が床とぶつかり合ってはじける。
室内にいる、彼女を除いた全ての人間の視線が集中した。

――無言。
彼女はモニターを見つめたまま何も言葉を発そうとはしない。
それは短いようで、とてつもなく長い空白だった。


一人の傍らに控えていた部下が、沈黙に耐えられなくなったのか、彼女に声をかけようとした。
瞬間。
六時を告げるベルが室内に鳴り響いた。


「……六時になったわね。それじゃあ始めましょうか。全チャンネル、開いて」


黙り込んでいた鷹野がようやくその重い口を開いた。
第一回定時放送の時間だ。




一日目、朝六時。
漆黒に染まっていた空は既に青く、日輪も半ば顔を出し、陽光が大地を照らしていた。
遥かなる大空はまだら雲さえ見えない完全な晴天。
あと数時間もすれば、真夏日のようにギラギラと熱い太陽がこの島を包み込むことだろう。
凄惨な殺し合いが行われているこの空間に、これほど似合わない天気があっていいものだろうか。

参加者に与えられた時計、それの短針が丁度文字盤を半周し、そして止まった。
島の中央、山頂部分に設置された電波塔から、各エリアに数台設置されたスピーカーへ連絡が回る。
奇妙なミミズが這い回っているかのように気味の悪いノイズが走った。

――放送が、始まる時間だ。

移動しているもの、眠っているもの、食事をしているもの、様相は人それぞれ。
だが意識のあるものは須らくその声に耳を傾ける。
そして祈った。
最愛の恋人、最良の友人、肉親。
その誰の名前を呼ばれないように、と。




――皆、もう待ち切れないって感じね。
フフフ、あなたたちの顔、ちゃんと見えてるわ。
そんな怖い顔しないで……最初の定時放送の時間よ。
今回は私、鷹野三四が放送を担当させて貰うわ。


最初に説明した通り、禁止エリアとコレまでの死者数を、伝えるつもりよ。
忘れていた、じゃ洒落にならないわ。
しっかりとメモを取っておいた方がいいでしょうね。


――まず禁止エリアは八時からC-2、十時からF-7。
エリアに踏み込んだ瞬間、首輪が爆発するわけじゃない、けど……安易に近づくのはお勧めできないわ。
最初に首輪が爆発したあの子みたいにはなりたくないでしょ?
こちらとしてもそんな無様な死に方は面白くないもの……。


……ちゃんと聞いていたかしら。
誰が死んだのか、気になるのは分かるわ。
だけど禁止エリアを蔑ろにするのは感心できないわね……フフフ。



――それじゃあ発表しましょう。

開始から今までの六時間の間、既に命を落としたのは、

エルルゥ
カルラ
倉田佐祐理
涼宮遙
水澤摩央
藤林杏
四葉
対馬レオ
竜宮レナ
園崎詩音
白鐘双樹

以上、十一名。
彼ら、いえ彼女ら、と言った方がいいのかしらね。
男の子の死亡者は一人しかいないんだもの。
……駄目じゃない、女の子はしっかりと守ってあげなくちゃ。


この中に知り合いの名前はあったかしら?
大嫌いな相手が早くも命を落として、喜んでいる人もいたりしてね……フフ。


いいわ、素晴らしいペースよ。
全参加者の二割近くがこの六時間で消えたんだから。
……未だに殺し合いを拒否しているあなた。
次に出会う人間が、既に何人も人を殺している殺人者だという可能性があること、忘れないで。

――さてと。
次の放送は今から六時間後、正午の時報代わりってことになるわ。
あなたたちのカンフル剤になるような結果が待っている……かもしれないわね。
それじゃあ、また。
次の放送で会えることを祈っているわ。




「……こんな感じかしら」
「鷹野様!!お疲れ様です」
「フフ、そんな大したことはしていないわ。
 ああ、コレを聞いて影響が出そうな人物はリストアップしてあるでしょ?
 彼らからは目を離さないこと。……これからが本番よ」

彼女は笑った。
その場にいる人間、全ての背筋を凍りつかせるような冷徹な笑みを顔面に浮かべて。

――鷹野三四のゲームはまだ始まったばかりだ。



【残り52名】


071:未知との遭遇 投下順に読む 073:陽のあたる場所(前編)
071:未知との遭遇 時系列順に読む 073:陽のあたる場所(前編)
000:オープニング 鷹野三四 113:第二回定時放送







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