若き警部と幼き『森の母』 ◆rnjkXI1h76



「本当に、どういうことなんだこれは?」
 赤坂衛が最初に思い、口にしたことがそれだった。

 目を覚ましたら見知らぬホールにいて、その後いきなり殺し合いを強制され、さらに気がつけば自分はまたしても見知らぬ森林の中――――
 いったい何がどうなっているのか、超常的な現象とは馴染みが無い赤坂には本当にわけが分からなかった。悪い夢でも見ているんじゃないか、とすら思ってしまう。
 試しに自分の頬を思いっきり引っ張ったり抓ってみる。――すごく痛かった。ということは、これは夢ではないということだ。

「確か僕は美雪と北海道に行って……そこで七年ぶりに大石さんに会って……」
 とりあえず赤坂は落ち着いて自身が覚えているまでの記憶をゆっくりと遡ってみることにした。
「……そして梨花ちゃんの死――――!?」
 そこで思考がピタリと止まる。
「梨花ちゃん……そうだ。結局僕は梨花ちゃんを守ることが出来なかったんだ……!」
 赤坂は悔しさのあまり近くに生えていた木に拳を叩きつけた。

(――大石さんの話だと梨花ちゃんは雛見沢のガス災害が発生する前に何者かに殺されていた……それも生きたまま腹部を開腹させられて…………。
 そうだ。彼女はあの時から予言していたじゃないか……自身の死のことを、そして……昭和58年までに起きた一連の怪死事件のことも…………)
 震える拳を下ろしながら、赤坂は大石から聞かされた古手梨花の死の真相と、かつて梨花が自身に言っていた予言の内容、そして、あの時のことを少しずつ思い出していった。

 ――――そうだ……梨花ちゃんは僕に助けを求めていたじゃないか……。それなのに、僕は気づくことが出来なかった…………。
 それだけじゃない。雪絵の死も教えてくれたのに、僕はそれにすら気づけなかった……!
 あの時、僕が彼女の警告を真に受け止めていれば、雪絵を、梨花ちゃんを救うことが出来たかもしれないのにッ……! 僕は、僕は……!)

「うああああああああああああああああああああああああ!!」
 叫び声を上げながら、赤坂は何度も何度も木に己の拳を叩き込んだ。内心自分の不甲斐無さを呪いながら。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 月明かりが照らす森の中をアルルゥは一人歩いていた。
 片手でデイパックをずるずると引きずりながら、アルルゥは先ほどのホールでの出来事を思い出していた。
「おとーさんやおねーちゃんたちもいた……」
 見知らぬ少年と少女が死んだということよりも、アルルゥにとっては同じ場所に家族がいたということのほうが重要であった。
 それもそうだろう。今まで戦場でムックルを駆り、敵兵を一人二人と殺めてきたことがある彼女だ。見知らぬ人間が一人、二人死んだところで大して気には留めない。
 ――――怖くはあったが。
 だからアルルゥは一刻も早く家族――すなわちトゥスクルの城で一緒に暮らしている者たちのことだ――の誰かと合流しようと森を歩いている。
 いくら数多くの戦場(いくさば)を潜り抜けてきた彼女とはいえ、普段はやはり歳相応の少女である。一人はさすがに心細かった。


 ――それからしばらく歩いたところでアルルゥは一度ピタリと足を止め、自身が今まで引きずって持ち運んでいたデイパックへと目を向けた。
 そういえば、まだ中に何が入っているのか確認していなかったということに気づいた彼女は、早速デイパックを開けて中身を確認してみることにした。

 まず最初に出てきたのは地図やコンパスなど、この殺し合いの場で生きるために必要な最低限の品々。
 しかし、アルルゥには地図と水、食料以外の品物はどういうものなのかさっぱり分からない(彼女の世界とこの世界の文明のレベルが違うからだ)。ゆえに、自身にとって不要なもの、分からないものはこの場に全て置いていくことにした。

 次にデイパックから出てきたのは参加者名簿だった。読んでみると自分の名前も載っていたし、その近くにはハクオロやエルルゥといった家族の名前もちゃんと載っていた。
「おおー……」
 載っていたのは参加者の名前だけとはいえ、その名簿に記されていた内容の細かさにアルルゥは圧倒される。
 ――――実はその名簿の内容は全てこの世界の日本語で書き記されていたのだが、アルルゥはそれをなぜ自分が読むことが出来るのか、などと疑問に抱くようなことはまったくなかった。

「ん~?」
 その後に出てきたのは――アルルゥ自身はまったく見たことも無い形をした鉄の塊であった。
 細長くて結構な重量のあるソレはアルルゥの頭の上にいくつものハテナマークを浮かべさせるには充分な代物であった。
 カルラが使っているあの鉄塊のような大きな剣みたいなものかな、と最初は思ったが、試しに持ってみた結果、どうやら違うということに気づく。
「んん~~~?」
 しばらくソレの正体を考えてみたアルルゥであったが、いくら考えてみてもソレが結局何であるかは分からなかったし、自身が持つには少々重いということもあったのでソレはここに置いていくことにした。
 ――しかし、アルルゥは気づいていなかった。デイパックの中にはまだソレの正体と使用法が記してある説明書と、ソレが使用する散弾が入っていたということに……


「……ん」
 必要な荷物だけをデイパックにまとめ終えた(というより、適当にぶち込んでしまった)のを確認すると、アルルゥはデイパックを手に再び薄暗い森の中を歩き始めた。
 ――そして、アルルゥが立ち去った後、そこには彼女が置いていったコンパスと時計とランタン――――それと一丁のショットガンが残された。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「…………」
 一通り軽く暴れまわってすっきりした後、赤坂は一本の木を背にぼーっと夜空を眺めていた。
 木を殴り続けていたせいで、彼の両手はところどころが真っ赤になっていた。
「……さて、これから僕はどうしようかな?」
 そんなことをボソリと呟くと、自身の手元にあるソレに目を向ける。
 ――トンファーと椅子。それが赤坂に与えられた支給品であった。
「トンファーはともかく……本当になんなんだ、この椅子の説明書に書かれていた『神の王すら倒す威力を誇る武器』ってのは?」
 赤坂は椅子に付いていた説明書の内容の意味を何度も理解しようと頭を捻らせる。
 ――分かっている者はもう分かっていると思うが、この椅子の正体はリシアンサスが暴走した父、神王を沈静化させるために使っていたあの椅子である。そのため、武器としても非常に優秀な代物……だと思われる。
「まあ、考えても埒があかないか……。とりあえず持っていこう。――あ。そういえば、まだコレ読んでなかったな」
 そう言うと赤坂は椅子をデイパックにしまった代わりに、今度は参加者名簿を取り出した。

「誰か知り合いの名前が載っていたりして……。いや、まさかな…………」
 そう言いながら赤坂は名簿のページをペラペラとめくっていく。
「えっ!?」
 そして、あるページを開いたところで彼の手は止まり、それと同時に赤坂は己が目を疑った。

 ――――古手梨花。
 そう。二年前に死んだはずのあの少女の名前が……赤坂が守ることが出来なかったあの女の子の名前がそこには載っていたからだ。

「なっ……なんで梨花ちゃんの名前がここに載っているんだ!?」
 赤坂は思わず、声に出して叫んでいた。
(そんな馬鹿な。梨花ちゃんは二年前に死んだはずだ。それなのに、なんでここに名前が載っているんだ?
 いや待て。落ち着くんだ赤坂衛。もしかしたら同じ名前をした別人かもしれないだろう? そうだ。そうに違いないっ!)
 自分にそう言い聞かせる赤坂であったが、それでも気になるものはやはり気になってしまうというのが人のサガである。
「くっ……だけど、本当に僕の知っている梨花ちゃんかどうかなんて分からないじゃないか……!」
 そう毒づくも、赤坂は立ち上がり、早速行動を開始することにした。

「大石さんもいるみたいだし(まさか本当に知り合いがいるとは思わなかったけど……)、まずは人が集まりそうな場所へ行ってみよう。
 何か手がかりが見つかるかもしれないし、大石さんと連絡が取れる方法があるかもしれない……!」
 そう言うと赤坂はデイパックを肩に提げ、薄暗い森の中を歩き出そうとした。
 ――その時、背後からガサリと草木を掻き分ける音がした。
「!? 誰だっ!?」
 赤坂は咄嗟にトンファーを手に身構える。
 すると、彼の視界の奥――薄暗い闇の中に、一人の少女のシルエットが映った。
「!? まさか…………」
 梨花ちゃんか、赤坂のその言葉が出るよりも先に少女は闇の中へと駆け出していた。
「あっ……。待って! 待ってくれ!」
 すぐさま赤坂は少女の後を追うために駆け出した。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 アルルゥは未だに森の中を歩いていた。
 あれからずっと歩き続けたが、森は一向に抜けられそうな気配は無い。
 ――それもそのはず。実はアルルゥは新市街のある北ではなく、その逆の南――つまり森の奥へと進んでしまっているからだ。彼女がコンパスの正体と使い方さえ知っていれば、起こりはしなかった失敗である。
 そんなことをアルルゥが気づくはずもなく、引き続きデイパックを引きずりながら森の中を進んでいく。

「なっ……なんで梨花ちゃんの名前がここに載っているんだ!?」

 ――そんな時、ふと男の叫び声が森に響き渡った。しかも、声の主がいるのはアルルゥのいる場所からそう遠くはなさそうだった。
「おとーさん?」
 その声が自身が父と慕う青年ハクオロの声か、それとも友人の兄オボロの声かどうかまでは分からない。しかし、確かめてみる価値は充分あった。――それだけアルルゥは一人でいることが心細かったのだ。
 アルルゥは早速、男の声がした方へと歩いていった。



 声はアルルゥが一歩一歩進んで行く度にはっきりと聞こえてくるようになってきた。
 声の主に近づいている。やはり誰かが近くにいる、とアルルゥは確信した。
 ――――そして、アルルゥはついに声の主の姿を捉えた。

「大石さんもいるみたいだし、まずは人が集まりそうな場所へ行ってみよう。
 何か手がかりが見つかるかもしれないし、大石さんと連絡が取れる方法があるかもしれない……!」

 ――そこにいたのはハクオロでもオボロでもなく、見知らぬ装い(この世界の人間から見れば普通の格好だが、アルルゥの世界の人間から見れば当たり前ではある)をした若い男であった。
 見た感じのところ、歳はハクオロと同じくらい、もしくはそれ以上であろうか?

「ん~……」
 アルルゥは前方にいる男の様子をじっと見つめていた。
 彼女は知る人ぞ知る極度の人見知りである。見知らぬ相手に対しては、自分から一線以上近づこうとすることはまずない。
 ゆえに、前方にいる男の姿を確認した時、最初はさっさとこの場から離れようと思った。しかし、前にいる男はまだこちらの存在には気づいていない。
 ――そのため、アルルゥはしばらくの間はこの男を観察していようと思ったのであった。
 それは、あのハクオロがヤマユラの集落にやって来たばかりの時に自身がとっていた行動とまったく同じだったのだが、もちろんアルルゥはそんなこと知るわけが無い。
 もう少し男の様子を近くでじっくり見ようと、アルルゥはそっと男の方に近づく。
 すると――――

 ガサリ……
「!?」

 それが災いしたのか、運悪く着ていた服が近くの茂みに引っかかり、物音を立ててしまった。
「!? 誰だっ!?」
 男がアルルゥの存在に気づいたのか、持っていたトンファーを構える。
 ――しかし、それよりも早くアルルゥは男の前から逃走していた。


「あっ……。待って! 待ってくれ!」
 背後から男の声がする。
 アルルゥがちらりと後ろを振り返ると、男が自分の後を追ってきていた。
 しかし、そこは逃げ足の速いアルルゥ。いくら相手が大人の男でも二人の距離はなかなか縮まらない。
 もちろん、これには地の利――アルルゥのほうがこういった自然の生み出した道を走るのには慣れているというのもある。





「や、やっぱり、田舎育ちの子は足が速いな…………」
 赤坂衛は目の前を走り去っていく少女を必死に追いかける。
 今自分が追っている少女は、古手梨花ではなくアルルゥであると気づかずに。

 月の光が照らす森の中で、一人の男と少女の奇妙な追いかけっこが始まった――――



【B-5 森(南部)/1日目 深夜】

【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:目の前の少女を追う。
2:1の後、人が集まりそうな場所に行く。
3:大石さんと合流したい。
4:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
【備考】
※追っている少女が梨花だと思っています(というより、参加者の中には梨花以外に幼い少女はいないと思っています)。
※暇潰し編で大石から梨花の死の真相を聞いた直後からの参加です。


【アルルゥ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(コンパス、時計、ランタン以外)、ベネリM3の予備弾(12番ゲージ弾)×35】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:男(赤坂)から逃げる。
2:おとーさんやおねーちゃんたちと合流したい。
【備考】
※赤坂から逃げたのはただの人見知りによるものです。
※ナ・トゥンク戦後あたりからの参加です。


【作中備考】
以下のものがB-5北部の森林のどこかに放置されています。
  • 【ベネリM3(弾は装填されていません)】
  • 【コンパス】
  • 【時計】
  • 【ランタン】


004:月下の出会い 投下順に読む 006:男として
004:月下の出会い 時系列順に読む 006:男として
赤坂衛 046:みんなで広げよう勘違いの輪(前編)
アルルゥ 046:みんなで広げよう勘違いの輪(前編)







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