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オンリーワン◆7NffU3G94s


辺りの景色が大分肉眼でも判断しやすくなっていた、それは太陽の光がこちら側に当たり始めたからだろう。
目立たない茂みの奥で、鉄乙女は自分の膝に頭を預け熟睡する少女の頭を静かに撫でた。
余程緊張していたのだろう、あどけないその寝顔に見える疲労の色に乙女の胸が微かに痛む。

「ん~……ゆういち、く~ん……」

むにゃむにゃと口を動かす様が可愛らしい。
ふと、この幼い少女の顔立ちから連想された蟹沢きぬの姿が、乙女の脳裏に浮かび上がった。

(蟹沢は大丈夫だろうか、変な物食べてはいないだろうか……)

テンションの高いきぬの明るさが恋しくなる、大事な弟分である対馬レオやその他面々のことも気にかかり乙女の心中は複雑であった。
あれから辺りを少し探索した乙女だが、森に入ったところで目をしょぼつかせる少女の体力を気遣ってか今はこうして隠れるように休憩を取っていた。
少女、月宮あゆの幼い体つきはこの過酷になるであろうロワイアルの中で果たしてどこまで持つのか。乙女の不安は尽きなかった。
……年齢的には、あゆも乙女とほぼ同年代なのだが、さすがの乙女もそれを察することはできないようである。





あゆが目覚めたのはそれからすぐのことだった。
自分だけ惰眠を貪ってしまったことに対しひたすら頭を下げるあゆに笑みを浮かべながら、乙女はどこへ向かうかをコンパスと地図を取り出し確認しだす。
乙女とあゆが出会った草原地帯から、二人は真っ直ぐ南下してきた。
そして森林地帯に入ったことから、現在地はE-3、もしくはF-3辺りだと乙女も想像自体は簡単につける。
さらに詳細な判断を下すには、そう――地図上でも目立つ施設に、当たりをつければよかった。
住宅地に図書館など、東へと進路を取ればこれだけ分かりやすいヒントが転がっている。
とにかく森を抜けることが先決であろう、乙女はあゆの手を取り迷わず歩き出そうとした。

「……」
「え、乙女さん?」

しかし、乙女の足はいきなりその場で動きを止める。
ただ一点、茂みの奥を睨みつけながら乙女はその場で固まっていた。
いきなりのことであゆが動揺の言葉を漏らそうとも、乙女が動き出す気配はない。
どうしたのか、不安そうにこといらを見やるあゆの視線に答えることなく乙女は叫ぶ。

「そこ、出て来い! 隠れてることは分かってるぞ」

ガサッと草木が音を立てる、思わず小さく悲鳴を上げるあゆを背後に庇いながら乙女は手にする槍を構え直した。
睨み合う、一分にも満たない僅かな時間が過ぎた後。
隙を見せることのない乙女の前に現れたのは、目を真っ赤に腫らした一人の女子学生だった。

「稟くんが……いないん、です」

枯れた声、鼻を啜りながら言葉を漏らす少女の様子に乙女も思わず拍子抜けする。
何事かと乙女の背中にしがみついていたあゆも、思わずと言った感じでひょっこり顔を出してきた。

「どうしてですかぁ、どうしていないんですかぁ……私は、稟くんにとって必要のない存在なんですかぁぁ……」

少女は、そのまま膝を崩しわんわんと泣き出してしまった。
周りを顧みず大声を出す少女に対し、さすがの乙女も慌てて彼女をあやしに行く。
背中を撫で、何があったのかと訊ねる乙女の声にも少女は答える気配がなかった。
おずおずと手を出してくるあゆと二人、乙女はしばらくの間そうやってずっと少女の体を撫ででいた。
落ち着いてきたのか、少女のしゃくりあげる様子も大分収まってきた所で乙女は改めて彼女に対し疑問を投げかける。
あくまで優しく焦らせぬよう配慮されたの問いかけに対し、少女もぽつりぽつりと口を開いた。

「自分の名前、言えるか?」
「芙蓉楓、です……」
「芙蓉か。それで何があったんだ、誰かに襲われでもしたのか」
「稟くん、が……ひっくっ、稟……くんがぁ……」

土見稟、乙女に取っては全く聞き覚えのないその人物が楓にとっては何よりも大切な存在であった。
楓は稟の捜索を始めてから出会った人物、『春原陽平』から聞いた稟についての事のあらましを鼻声混じりで話し出す。
男に襲われ、その場から稟が逃げたということ。『春原陽平』曰く、稟は図書館へ逃げ込んだということ。

「私、すぐに向かったんです! 春原、さんに……聞いて、から……なのに、稟くんいなくて、どこにもいなくて……」

再び目じりに大粒の涙が浮かび上がる、何か拭く物でもあればと鞄を探るものの気の効いた物は特になく乙女は小さく舌を打った。
その間も、楓はぽろぽろと涙を流しながらひたすら嘆き続けている。

「どうして待っててくれなかったんですかぁ……稟くぅん……」

楓の訴えにより彼女がどれだけ悲しんでいるかというのは、乙女にも痛いほど伝わったようだった。
少し首を動かせばあゆの横顔も視界に入る、乙女はあゆに対し目配せをしどうしたものかと首を傾げる。
楓の言い分は細かいようで大雑把としか表し様がない面があり、さすがの乙女にも具体的な事項について推測の域を出るものが出せず少々考えあぐねていた。
あゆもと言うと、眉を八の字に寄せるだけでどう対処すればいいか困っているようだった。

「なんだ、その……その稟くんとやらが、図書館で待っていると言ったのか?」
「! 稟くんは誰かに襲われたんですっ。そんな、待ってるだなんて悠長なこと……」
「待ってるのではなくその場しのぎだとしたら、長時間そこに留まるとは思えないが」
「で、でも春原さんが……ふぇ……」

その時、何か思い出したのか楓の表情が真顔になった。
ごくりと唾を飲むあゆの様子が乙女の目にも入る、そのまま乙女は楓が言葉を綴りあげるのをひたすら待った。
しかし一向に楓が口を開く気配が現れない、おどおどとした視線に込められた迷いに乙女は苛立つ思いを隠せなかった。

「しっかりしろ!!」
「……っ」
「私はお前がどういう状況に陥っているのかさっぱり分からないんだ、月宮もだ。
 ちゃんと説明してくれないと答えも出せないだろう、黙っていては伝わらないんだ」
「ふぇ……っ」

少し強い乙女の言葉に、再度楓の目じりに水が湧き上がる。
だが俯いて泣き出そうとする楓の頬をぐっと持ち上げ、乙女はしっかりと彼女の目を見ながら顔を近づけこう口にした。

「芙蓉をいじめようとしてるんじゃない、私は事を的確に捉えたいだけなんだ。
 安心するがいい、私はお前の味方だ。……さあ、教えてくれ」

言い終えると、乙女は人を安心させる柔らかい笑みを頬に浮かべた。
どっしりとしたその構え、器の大きさを表すかのような乙女の態度に楓もぽかんと口を開ける。
ふと気づいたのか、乙女は垂れ落ちそうになる楓の涙を拭うべく彼女の目じりへとそっと指を伸ばした。
一回では取りきれなかったのか、なるべく擦らないようにと乙女は楓の目元を優しくさすり続ける。
そんな行為に対し楓はというと、特に嫌な顔をすることもなく終いには気持ち良さそうに目を閉じてしまう程だった。

「……じゃ……」

一通り拭いきった所で乙女も指を引く、それと同時に呟かれた楓の言葉に乙女は再度耳を澄ます。

「神社に、ほとぼりが冷めたら……待ち合わせ、を……春原さん……稟くんと、待ち、合わせてるって……」
「そうか、なら神社に向かえばいいじゃないか。よしよし、焦って間違えてたんだな」
「……」

楓の頭を撫でていた乙女の胸に、ぽふっと当の本人である楓が飛び込んでくる。
乙女は嫌な顔一つせず、ぎゅっとその体をかき抱いた。
年頃の少女らしい体つき、柔らかさの中にか弱いと表せる華奢な作りに乙女は胸が痛くなる。
そのまま静かに、乙女は楓が満足するまでずっとその背中を撫で続けるのだった。





「すみませんでした、私ってば取り乱してしまって……」
「いいさ、気にするな。こんな所に投げ込まれて錯乱しない気持ちも分からないでもない」
「本当に、ありがとうございました」

あれからしばらく経った後、楓もすっかり落ち着きを取り戻すことができたようだった。
深々と頭を下げてくる楓の様子に、乙女も安心して優しい笑みをはんなりと返す。
そう、今の楓には乙女と出会った時のような不安定さは他者から見ても全く感じられないだろう。
泣き腫らしたことによる目元の赤みは消えていない、しかし楓の瞳に迷いは見えず乙女は満足そうに頷いた。

「いいか。焦ることで仕損じ、そこでミスが生まれた場合は全てが自分に返ってくると思うがいい。
 これだけ面積のある島で知人を探すのは大変なことだ、しかしそれで自分を見失うことだけはしちゃダメだ」
「はい」
「芙蓉は焦ると、本当に混乱してしまうようだからな。
 気をつけろ、とにかくこれだけは基本だという考えをもっと明確に持った方がいいな」
「はい、分かりました」
「なに、迷いを持たずに目的意識をちゃんと頭に置いとけば大丈夫さ。
 それに、芙蓉の稟くんとやらを思う熱い思いがあれば何だってできるだろ」
「……はい!」

元気の良い楓の返事、体育会系のノリについてきてくれるのが嬉しいらしく乙女の頬はさらに緩んだ。
「私にも弟がいるんだ、心配する気持ちは分かる」
「そうなんですか?」
「ああ、自慢の弟さ」

楓は「稟くん」の居場所を知る情報を得ている、そのような意味では乙女は彼女が羨ましくて仕方なかった。
弟達の居場所など検討もつかない乙女にとって、いつ再会できるかなどの目処がつかないことに対する不安は決っして小さいものではない。

「乙女さん、本当にありがとうございました」

物思いに耽りかけた乙女の意識が現実に戻される、はっとなった乙女の視界に映ったのは改めて頭を下げる楓の姿だった。
どこか舌っ足らずな可愛らしさの残る楓の声、ぐっと両手で拳を作り力強さを表している彼女の様子は傍から見ても微笑ましいものである。

「乙女さんに教えていただいたことは決して忘れません。頭の整理もできました、ばっちりです」

肩にかけている支給されたデイバッグ、それをしょい直す楓から視線を外し乙女はあゆへと目を向けた。
ちょうどタイミングよくあゆも横目でちらっとこちらを見やってくる、乙女が小さく頷くとあゆは元気よく話しだした。

「あの、楓さん。よかったらボク達も一緒に……」

一緒に、神社までお供しようか。あゆが続けようとした言葉は、多分そのような類のものであったろう。
それは乙女とも思うところは同じなものであった、特に目的地を定めていない二人にしてもここで楓と別れる理由というのが特になかったからである。
また、乙女としても楓がこれだけ入れ込んでいる「稟くん」という人物に対し興味が沸かないわけでもなかった。

「私、決めました。その……混乱すると見境がなくなってしまいますし、時間も無駄にしてしまうということもよく分かりましたし。
 だからもっと、考えを単純化させなくちゃって思ったんです。稟くんを守るためにも、稟くんへの危険を消すためにも」
だがそんなあゆの話を途中で遮り、楓は照れながらも笑って言葉を綴っている。
あゆはと言うと、タイミングの悪さに出鼻を挫かれてしまい乙女の後ろへと引っ込んでしまう。
まだ、楓の話は終わっていなかったのだ。
空気を読み間違えたことに対し、あゆは気まずさや恥ずかしさといった微妙な感情に苛まされたらしく乙女の背中にしがみつく。
思わず浮かんでしまう苦笑いを抑える気もなく、乙女はあゆの分も楓の口上を真摯に聞いてやろうと改めて彼女の方に目を向けた。

「稟くんを襲った可能性のある方は皆殺しにすればいいんですよね。
 つまり、この島にいらっしゃる春原さん以外の男性を全て排除すればそれは全うできます。簡単ですね」

……場の空気が、一瞬で凍りつく。
乙女も、そしてあゆも今楓が何を口にしたか瞬時には理解できなかっただろう。
一人、楓だけがこの期に及んで笑顔を浮かべていた。

「神社で会った時に稟くんに確認をとるのが正確なんでしょうけど……その前に出会ってしまったら、仕方ないですよね?」

楓の疑問符に、答える者はいない。
その笑顔の先からして乙女が口を開くべきなのだろうが、あまりの突拍子の無さに乙女もすぐの対応ができないでいた。

「ただ、困りまして……ここで問題が出てしまいました」

ごそごそとスカートのポケットへと手をつっこむ楓、呆然となる乙女はふと着用している制服が引っ張られる感覚を受ける。
乙女が背後に目をやると、後ろに回っていたあゆが力いっぱいセーラーの布地を掴んでいる様がその視界に入った。
あゆの表情、怯えに満ちたそれが驚愕へと変わると同時に乙女は嫌な気配を察知し、すぐさま視線を正面へと戻した。

「すみません、乙女さんは先ほど弟さんがいらっしゃるとおっしゃいましたね……私は、可能性を潰すためにその方をも手にかけてしまうかもしれないんです」

悲しそうな声、楓のものである。
その手には銃が、彼女の持ち物でもあるベレッタが握られていた。

「恩を仇で返すような真似をしてしまいすみません。でも敵になる前に始末できれば、後々の面倒にはなりませんよね。効率的です」

両手でしっかりと銃を構えながら、にっこりと微笑む楓。
……理論的に楓の行動を導けるほどの時間はない、とにかく目の前の奇行を止める必要があると瞬時に乙女は判断する。

「あ、外れてしまいました。難しいですね」

しかし乙女が一歩踏み出そうとしたところでその顔の真横を銃弾が飛んでいった。
楓は、何の躊躇もなくその引き金を引いていた。
その現実に、乙女も思わず唖然となりかける。

「芙蓉! お前……」

低い乙女の唸り声、それでも楓が笑顔を崩す気配はなかった。
とにかく楓を止めなければ、手にしていた槍を握り直し乙女は楓へ特攻をかけようとする。
銃を構えてきた所で楓の狙う照準がそこまで正しいものにならないのは先ほどのことで検討はついていた、乙女は妙に重い腰を無視して走り出す。

「うぐぅ!!」

声は、腰の辺りから聞こえた。
何事かと乙女が目をやると、いまだ彼女の腰にしがみついたままであるあゆが乙女に引きずられる形でぶら下がっていた。
膝を擦りむく痛みにあゆが再び声を上げる、乙女は謝罪を口にしながら慌てて足の動きを止めた。
あゆを気遣う乙女の思い、しかしそれは隙以外の何物でもない。

「ぐあっ?! な……っ」

響く銃声、今度は二発。
慌てて体を捻るものの、腰にあゆを抱えていては乙女も大きな動きをすることはできない。
ましてや、この島に来てから乙女の体には妙な『負荷』がかけられていた。
そんな乙女の体を抉るもの、それは楓が放ったもの。

「あ、今度は当たりました~」

嬉しそうなその声に、憎悪が滲み出すのを乙女は止められなかった。
途端、力が抜けていく体に対しても苛立ちを抑えられず乙女は唇を強く噛む。
膝をつき、地に倒れるその感覚。乙女に被弾したという現実を、嫌でもそれは押し付けてくる。





地面に落ちる、叩きつけられる。
あゆは咄嗟にそれを避けるべく、今まで掴んでいた布地を手放した。
頼るものがなくなり手には一抹の寂しさが残る、しかし感傷に浸る暇などない。
そのような、状況ではない。

「可能性は一つではないかもしれません、その中で考えればこれが最善のことだと思うんです」

舌足らずな可愛らしい、あの声。楓のものであるそれが耳に入りあゆはゆっくりと顔を上げる。
楓は、相も変わらずにっこりと微笑み続けるだけだった。

「敵にまわる可能性のある方は皆殺しにすればいいんですよね。
 つまり、乙女さんと同じデザインの制服を着ていらっしゃる方を排除すればそれも全うできます。簡単ですね」

何故、こんな平和そうな顔をしてこれだけ残虐なことが吐けるのだろう。
あゆの中での楓像が崩れていく、いや、そもそも「楓像」とはどのようなものを指したものだったのか。
ぐるぐると考えあぐねるあゆの様子に気づいたのか、楓も少しだけ笑顔を崩してくる。

「どうしました、あゆさん?」

ガクガクと震える膝を、あゆは抑えられなかった。
いまだ銃を手にしたままの楓、彼女が何を考えているのか理解できなくあゆは彼女に対し畏怖しか抱けないでいる。
きっと、楓もそれを読み取ったのかもしれない。
怯え、泣き出しそうになるあゆとの距離をゆっくりと詰めるよう楓はとぼとぼと前進しだした。

「ああ、あゆさんは乙女さんのお友達ですよね。
 乙女さんの敵討ちを考えられましたら困りますね、敵にまわる可能性のある方は皆殺しです。
 ん? それでしたらもっと早い方法がありますよね。そう、稟くん以外の方を皆ご」
「しない! ぼ、ボクは楓さんの敵には……ならない!」

とんでもない事を口にしようとする楓を止めるべく、震える声を隠さぬまま大声で叫ぶあゆ。
ここで楓の思考を変な方向へ持っていったとしたら、どうなるか。ただそれを恐れその場限りの言葉をあゆは口にした。
走って逃げ出したかった、しかし楓は銃を持っている。乙女も、放っておくわけにはいかない。
何が最善かなどあゆがすぐに思いつけるはずはない、とにかく今を凌ぐべくあゆはそのまま言葉を続けた。

「ほ、本当だよ! 約束するよっ、ボクは楓さんも稟さんも……絶対、傷つけたりなんかしない!」
「信じます」
「嘘じゃな……え?」
「信じますよ。あゆさんがそうおっしゃるなら、そうですよね」

それは、あまりにもあっけらかんとしたものだった。
ごそごそとベレッタをスカートのポケットに仕舞い直し、楓は改めてにこりと微笑む。
そこに邪気はない。
何が何だか、何がどうなってるのか。やはりあゆに伝わることはなかった。

「それでは、失礼します。私が言える義理ではないことは承知の上ですが、よろしければ乙女さんの埋葬をお願いします」

小さく会釈をして去っていく楓の背中を、あゆは見送ることしかできなかった。




「……ごめん、乙女さん」

その場に残されたあゆが漏らす、涙混じりの謝罪の言葉。
へなへなと座り込み、地に伏せる乙女へとあゆはそろそろと手を伸ばした。

「ボク……それでもボクは、殺されたくなかったんだよ……」

ただの言い訳である、その利己的な考えにあゆの良心が悲鳴をあげる。
この島に来て最初に会った参加者でもある国崎往人に襲われたあゆは、乙女のおかげで生き残れることができたと言っても過言ではなかった。
あゆが居眠りをしてしまった際も、乙女はあゆを守り続けていた。
そのあゆが足かせとなり、乙女をこのような状況へと追いやった。

「ボクなんかいなければ、乙女さんは……!」

怖かった、恐怖で固まった体をあゆは動かすことができなかった。
また、あゆは乙女を頼りにしすぎていた。
確かに乙女は先導を切るタイプではある、しかしそれにあゆは甘えすぎている面もあった。
あの時、目の前に頼れる背中を見つけたあゆが咄嗟に掴み続けた乙女の制服。
そう、あそこであゆが乙女の制服を掴んでいなければ状況は変わったかもしれないのに。

「恩を仇で返したのはボクもだよ……っ」
「そんなことないぞ、月宮……」
「乙女さん!?」

零れそうになる涙を必死に抑えていたあゆの耳に、弱弱しくもはっきりとした乙女の言葉が入り込む。
慌てて乙女の顔を覗きこむあゆ、乙女は薄目を開けたまま確かに意識を保っていた。

「ははっ、これ……くらいで死ぬほど、やわじゃ、ない……」

ぎりぎりで致命傷だけはかわせたようであるが、それでも乙女が受けたダメージは決して小さいものではないだろう。
被弾箇所は左腕と脇腹部であった、出血自体は止まっていないものの弾は無事貫通しているようでそれだけは乙女にとっても救いだった。

「内臓は、無事さ……」

微笑む乙女のそれには、しかしついさっきまでの威勢の良さは見当たらない。
ただただそれが悲しくて、あゆはボロボロと涙を零した。

「月宮……すまない、お前に負担をかけることになるが」

乙女の言葉。
力弱いそれがただ悲しく、しかしあゆは一言一句漏らさずよう泣きながらも耳だけはすませていた。

「私を、助けてくれるか?」

頼りになる存在、頼りにしていた乙女からあゆが受けたもその言葉。
今度はあゆが「頼りにされる」。
何の異議を持つこともない、あゆは、大きく頷いた。





「リンさんや亜沙先輩は、味方です。お二人が稟くんを傷つけることなんてありません」
一人、黙々と歩きながら呟く楓の言葉に答える者はいない。
その手にはベレッタが、目標を見つけたらすぐに行動にできるよう今の楓には余念がなかった。
一度しまったものの、素早く行動に移るとしたら常に手にしていた方が利便的だと楓が判断したからである。

「稟くん……早く会いたいです。稟くんをお守りするのは私の役目です」

せかされるような思いを必死に抑えながら、楓は真っ直ぐに神社へと向かって行く。

―― 人を疑うことの無い、純粋な少女が取った道
そこに含まれる矛盾、だが楓はまだ気づかない。

―― 信用する、確かにそう口にしたあゆの姿がすり抜ける
もう、楓の脳裏からは「月宮あゆ」の面影など瞬時に掻き消されていた。

―― そこにあるのは、ただ一方的で清らかなる思い
「稟くん、待っていてくださいね。稟くんに害為す人は、私が消してみせますから」

―― 愛する者へ募る思いは深く、そこに込められた因縁は楓自身をも雁字搦めに縛り付ける
楓がそこから抜け出せる気配は、今の所皆無だった。

【F-3 森 1日目 早朝】

【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/18+1)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:とにかく稟を探す】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(神社へ)
2:稟を襲った可能性があるので、男性の参加者は皆殺しにする
  (岡崎朋也の話を信用しているので彼は除くが、朋也の顔は忘れているのであくまで『春原陽平』を信用している)
3:その男性に知人がいる場合、分かる範囲でその人物も殺す
  (竜鳴館のセーラー服を着衣している者は殺す)
4:できればネリネや亜沙とも合流したい

【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒→男性の参加者は稟と朋也(春原)以外全員警戒
鉄乙女は死んだと判断する
月宮あゆは自分に敵対しないと信用する(興味がないため顔は忘れた)

【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:槍】
【所持品:支給品一式】
【状態:重傷。左腕、脇腹部に被弾】
【思考・行動】
基本方針:ゲームに乗るつもりは皆無、マーダーは容赦無く殺す
1:あゆに助けを求める
2:あゆを守る
3:生徒会の仲間達、相沢祐一の捜索
4:ゲームに乗った人間を見つけたら始末する
5:タカノを絶対に倒す

【備考】
乙女が持っている槍は、何の変哲もないただの槍です(長さは約二メートル)
乙女は自分の身体能力が落ちている事に気付いています(その理由までは分かっていない)
芙蓉楓を危険人物と判断


【月宮あゆ@Kanon】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテムの内容は不明】
【状態:精神的疲労】
【思考・行動】
1:乙女を守る、乙女の怪我を何とかする
2:祐一と会いたい
3:往人を説得したい

【備考】
芙蓉楓を危険人物と判断


062:それぞれの失敗? 投下順に読む 064:信じる声-貫く声-偽る声
062:それぞれの失敗? 時系列順に読む 064:信じる声-貫く声-偽る声
052:許せる嘘か? 許されざる嘘か? 芙蓉楓 076:暁に咲く詩
020:鉄の乙女と人形使い 鉄乙女 085:Sacrifice of maiden
020:鉄の乙女と人形使い 月宮あゆ 085:Sacrifice of maiden




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