残されたもの~case:八重桜~
「えへへ……思い切って買っちゃった。やっぱり迷ったら買え、だよね。 ん~、もふもふ~……あれ?」
自分の背と同じくらいあるんじゃないかと思える位の大きなぬいぐるみを抱え、うきうき気分で家路に付いていた私は、
丁度通りかかった公園に見知った子がいるのを見つけて足を止めた。
「あれ? あのブランコに座ってる子、もしかしてリムちゃん……?」
リムちゃんことプリムラちゃんは稟くんの家で預かっている魔族の女の子だ
先日開かれた稟くんと神界のお姫さまの祝賀記念パーティーにお呼ばれした時に紹介してもらった子で、
口数こそ少なかったけど、純粋な良い子で、天使みたいな可愛い笑顔が印象的だった覚えがある。
だけど、今のリムちゃんの顔は遠目で見ても分かるくらい、暗く沈んでいた。
陰欝な表情でブランコを漕ぐわけでもなく、ただ腰掛けたまま、じっと地面ばかり見つめている。
知らない子じゃないし、放っておいてはいけないような気がした私は、空いているブランコにぬいぐるみを乗せてから、リムちゃんに話し掛けてみた。
「リムちゃん……? どうしたの? 何かあったの?」
「桜……?」
ゆっくりと顔を上げて私を見たリムちゃんの瞳は一目で分かるくらい不安と、絶望感に満ちていた。
稟くんたち曰く、普通の人じゃ表情を読むのが難しい。とか言ってたけど、今のリムちゃんなら読み違えることの方が難しいんじゃないかと思えるくらいだ。
何となくそんな予感はあったけど、やっぱりただ事じゃないみたい。
私は少しでも不安を和らげられるように、努めて笑顔で話し掛ける。
「どうかしたのかな? あっ、もしかして無くしものとか? それなら私も一緒に探して……」
「…………稟と楓」
「えっ?」
リムちゃんのあまりにも予想外の答えに私は思わず固まった。
あまりにも予想外すぎて一瞬、話がかみ合ってないんじゃないかと思ったぐらい。
だけど、話がかみ合ってない訳でも聞き間違いでもないみたいで、リムちゃんは視線を落とすと、話を続けた。
「……稟と楓、いなくなった……一昨日から帰ってこない」
「えっ、ええっ!? 稟くんと楓ちゃんが!?」
訳が分からなかった。
パーティーのときに見た稟くんたち3人はまるで本当の家族のようで、二人とも実の娘か兄妹・姉妹のようにリムちゃんを可愛がっていた。
あまりにも可愛がるから、それを見た稟くんの彼女さんであるシアちゃんが思わず拗ねてしまうという一幕があったくらいだ。
それなのに、リムちゃん一人を置いて、それも何も言わずにいなくなるなんて私にはとうてい信じられなかった。
それが事実だというのなら、それは二人の意思などではなく……。
嫌な想像が脳裏を過り、私は思わずブランコの支柱に寄りかかった。多分、今の私の顔はこれ以上無いほど真っ青になっていると思う。
うぅん、それは間違いだ。まだこんなものでは済まなかった。
私はこの後、この上から冷水を浴びせられたのではないかと思える程、衝撃的な言葉を聞いてしまったのだから……。
「それから、シアとネリネと亜沙もいなくなった……。やっぱり一昨日から連絡がとれない……」
「なっ!?」
リムちゃんの言葉に今度こそ私はその場に崩れ落ちた。
稟くんと楓ちゃんだけでなく亜沙先輩たちまでいなくなった……。
間違いなくただ事ではない。むしろ、こんな大人数が同時に居なくなったと言うことは、つまりそういうことでしかありえない。
稟くんたちみんなはなんらかの事件に……。
「……桜、大丈夫?」
「!?」
はっとして顔を上げると、私の顔を心配そうに覗き込むリムちゃんの姿が、そこにあった。
私を映すリムちゃんの瞳はやっぱり不安で揺れていて、その不安がさっきよりも大きいように感じるのは気のせいじゃないはずだ。
だって、リムちゃんをもっと不安にさせる要因が今この場に、あるのだから……。
不安げなリムちゃんが心配で励まそうと思って声をかけたのに、いつの間にか逆に心配をかけている。
このままじゃいけない。私は、両足にぐっと力を込めて立ち上がった。
ともすれば不安に押しつぶされそうになる弱い心を叱咤して、不安が表情に出ないよう。笑顔を作る。
「だ、大丈夫だよ。ただちょっと驚いただけ、だから……」
今の言葉が、人の心の機微を巧みに読み取れるリムちゃん相手にどれ程の効果があるのか、まるで検討もつかない。
それでも私の言葉で安心してくれたのか、それとも空気を読んでくれたのか、リムちゃんは安心したように小さな溜息をついた。
「それで、警察に捜索願とかは出したの?」
私が尋ねるとリムちゃんは小さく首を縦に振る。
「……麻弓や樹も探してくれてるし、神王や魔王も軍隊総動員して探してる」
「そ、そうなんだ……」
思わず漏れそうになる苦笑を私はどうにか抑える。
どちらも気さくで馴染みやすいからつい忘れそうになるけど、シアちゃんとネリネちゃんは神界と魔界の王女さまなのだ。
その捜索に神魔界の軍隊が動員されてもなんらおかしくは無い。
「あれ? それじゃあもしかして、リムちゃん今、稟くんの家に……」
「……」
皆まで言わずとも察してくれたのか、リムちゃんはわずかながらも頷く。
「魔王が家に来いって言ってるけど、あそこは私と稟と楓の家だから……」
「そう、なんだ……」
稟くんの家はあの辺りでは決して大きいとはいえない。
でも、そんな家にリムちゃんのような子がたった一人で、というのは危ないし何より心細いはず。
「……信じてるから」
「えっ?」
まるで私の心の内を読んだような言葉に私はリムちゃんを見た。
リムちゃんは笑っていた。寂しげな、不安を滲ませた様な無理して作った笑顔だったけど、それでも笑って見せていた。
「稟も楓も、絶対帰ってくるって信じてるから……」
「リムちゃん……」
本当なら心細くて、今に不安に押しつぶされてしまってもおかしくない筈なのに、それでもリムちゃんは稟くんたちを信じて待ち続けている。
心の中の寂しさや不安を表に出さないようにぐっと堪えながら……。
「……決めた! リムちゃん、今夜から稟くんの家にお泊りしてもいい?」
「えっ?」
今度はリムちゃんが私のほうを見る番だった。
私は作ったようなそれではなく、なるべく自然な笑顔になるよう心がけながら言った。
自分の背と同じくらいあるんじゃないかと思える位の大きなぬいぐるみを抱え、うきうき気分で家路に付いていた私は、
丁度通りかかった公園に見知った子がいるのを見つけて足を止めた。
「あれ? あのブランコに座ってる子、もしかしてリムちゃん……?」
リムちゃんことプリムラちゃんは稟くんの家で預かっている魔族の女の子だ
先日開かれた稟くんと神界のお姫さまの祝賀記念パーティーにお呼ばれした時に紹介してもらった子で、
口数こそ少なかったけど、純粋な良い子で、天使みたいな可愛い笑顔が印象的だった覚えがある。
だけど、今のリムちゃんの顔は遠目で見ても分かるくらい、暗く沈んでいた。
陰欝な表情でブランコを漕ぐわけでもなく、ただ腰掛けたまま、じっと地面ばかり見つめている。
知らない子じゃないし、放っておいてはいけないような気がした私は、空いているブランコにぬいぐるみを乗せてから、リムちゃんに話し掛けてみた。
「リムちゃん……? どうしたの? 何かあったの?」
「桜……?」
ゆっくりと顔を上げて私を見たリムちゃんの瞳は一目で分かるくらい不安と、絶望感に満ちていた。
稟くんたち曰く、普通の人じゃ表情を読むのが難しい。とか言ってたけど、今のリムちゃんなら読み違えることの方が難しいんじゃないかと思えるくらいだ。
何となくそんな予感はあったけど、やっぱりただ事じゃないみたい。
私は少しでも不安を和らげられるように、努めて笑顔で話し掛ける。
「どうかしたのかな? あっ、もしかして無くしものとか? それなら私も一緒に探して……」
「…………稟と楓」
「えっ?」
リムちゃんのあまりにも予想外の答えに私は思わず固まった。
あまりにも予想外すぎて一瞬、話がかみ合ってないんじゃないかと思ったぐらい。
だけど、話がかみ合ってない訳でも聞き間違いでもないみたいで、リムちゃんは視線を落とすと、話を続けた。
「……稟と楓、いなくなった……一昨日から帰ってこない」
「えっ、ええっ!? 稟くんと楓ちゃんが!?」
訳が分からなかった。
パーティーのときに見た稟くんたち3人はまるで本当の家族のようで、二人とも実の娘か兄妹・姉妹のようにリムちゃんを可愛がっていた。
あまりにも可愛がるから、それを見た稟くんの彼女さんであるシアちゃんが思わず拗ねてしまうという一幕があったくらいだ。
それなのに、リムちゃん一人を置いて、それも何も言わずにいなくなるなんて私にはとうてい信じられなかった。
それが事実だというのなら、それは二人の意思などではなく……。
嫌な想像が脳裏を過り、私は思わずブランコの支柱に寄りかかった。多分、今の私の顔はこれ以上無いほど真っ青になっていると思う。
うぅん、それは間違いだ。まだこんなものでは済まなかった。
私はこの後、この上から冷水を浴びせられたのではないかと思える程、衝撃的な言葉を聞いてしまったのだから……。
「それから、シアとネリネと亜沙もいなくなった……。やっぱり一昨日から連絡がとれない……」
「なっ!?」
リムちゃんの言葉に今度こそ私はその場に崩れ落ちた。
稟くんと楓ちゃんだけでなく亜沙先輩たちまでいなくなった……。
間違いなくただ事ではない。むしろ、こんな大人数が同時に居なくなったと言うことは、つまりそういうことでしかありえない。
稟くんたちみんなはなんらかの事件に……。
「……桜、大丈夫?」
「!?」
はっとして顔を上げると、私の顔を心配そうに覗き込むリムちゃんの姿が、そこにあった。
私を映すリムちゃんの瞳はやっぱり不安で揺れていて、その不安がさっきよりも大きいように感じるのは気のせいじゃないはずだ。
だって、リムちゃんをもっと不安にさせる要因が今この場に、あるのだから……。
不安げなリムちゃんが心配で励まそうと思って声をかけたのに、いつの間にか逆に心配をかけている。
このままじゃいけない。私は、両足にぐっと力を込めて立ち上がった。
ともすれば不安に押しつぶされそうになる弱い心を叱咤して、不安が表情に出ないよう。笑顔を作る。
「だ、大丈夫だよ。ただちょっと驚いただけ、だから……」
今の言葉が、人の心の機微を巧みに読み取れるリムちゃん相手にどれ程の効果があるのか、まるで検討もつかない。
それでも私の言葉で安心してくれたのか、それとも空気を読んでくれたのか、リムちゃんは安心したように小さな溜息をついた。
「それで、警察に捜索願とかは出したの?」
私が尋ねるとリムちゃんは小さく首を縦に振る。
「……麻弓や樹も探してくれてるし、神王や魔王も軍隊総動員して探してる」
「そ、そうなんだ……」
思わず漏れそうになる苦笑を私はどうにか抑える。
どちらも気さくで馴染みやすいからつい忘れそうになるけど、シアちゃんとネリネちゃんは神界と魔界の王女さまなのだ。
その捜索に神魔界の軍隊が動員されてもなんらおかしくは無い。
「あれ? それじゃあもしかして、リムちゃん今、稟くんの家に……」
「……」
皆まで言わずとも察してくれたのか、リムちゃんはわずかながらも頷く。
「魔王が家に来いって言ってるけど、あそこは私と稟と楓の家だから……」
「そう、なんだ……」
稟くんの家はあの辺りでは決して大きいとはいえない。
でも、そんな家にリムちゃんのような子がたった一人で、というのは危ないし何より心細いはず。
「……信じてるから」
「えっ?」
まるで私の心の内を読んだような言葉に私はリムちゃんを見た。
リムちゃんは笑っていた。寂しげな、不安を滲ませた様な無理して作った笑顔だったけど、それでも笑って見せていた。
「稟も楓も、絶対帰ってくるって信じてるから……」
「リムちゃん……」
本当なら心細くて、今に不安に押しつぶされてしまってもおかしくない筈なのに、それでもリムちゃんは稟くんたちを信じて待ち続けている。
心の中の寂しさや不安を表に出さないようにぐっと堪えながら……。
「……決めた! リムちゃん、今夜から稟くんの家にお泊りしてもいい?」
「えっ?」
今度はリムちゃんが私のほうを見る番だった。
私は作ったようなそれではなく、なるべく自然な笑顔になるよう心がけながら言った。
「学校も違うし、稟くんたちの捜索にはあんまり力になれないかもけど、稟くんたちが帰ってくるのを待つことぐらいは出来ると思うから……
うぅん、待ちたいの。一緒にあの家で待って、帰ってきたらお仕置きしてあげなくちゃ。家族や親友に心配かけた分、こってりと……ね?」
「桜…………うん」
一瞬、あっけに取られたような顔をしたリムちゃんは、次の瞬間、顔を綻ばせていた。
うぅん、待ちたいの。一緒にあの家で待って、帰ってきたらお仕置きしてあげなくちゃ。家族や親友に心配かけた分、こってりと……ね?」
「桜…………うん」
一瞬、あっけに取られたような顔をしたリムちゃんは、次の瞬間、顔を綻ばせていた。
愛想笑いでも、虚勢に満ちた作り笑顔でもない、心からの笑顔がそこにあった。
その笑顔からきらりと光るものが一粒零れたことは見なかったことにしよう。
「さて、そうと決まったらお泊りセットと制服、家から持ってこなくちゃ。リムちゃん運ぶの手伝ってくれる? 連れて行きたい子、いっぱい居るんだ」
連れて行きたい子って誰? などとリムちゃんが聞くことは無い。
逢って間もないとは言え同じぬいぐるみを愛する者同士(?)聞くだけ野暮というものだ。
「あっ、ついでだから夕飯の買い物もして行こっか。リムちゃん、何が食べたい? 楓ちゃんには敵わないと思うけど、リムちゃんの食べたい物、何でも作ってあげるよ」
「……ビーフシチューが良い」
「ビーフシチューだね。うん、任せて」
一時だけでも不安を忘れられるよう、なるべく明るい話題を振りながら、私とリムちゃんは家路についた。
夕陽はすでに大きく傾き、月や星もちらちらと見え始めた空を見上げながら私は心の中で同じ空を見ているかもしれない稟くんたちに呼び掛ける。
(稟くん、楓ちゃん、亜沙先輩……みんな、ちゃんと帰ってきてよね……)
その笑顔からきらりと光るものが一粒零れたことは見なかったことにしよう。
「さて、そうと決まったらお泊りセットと制服、家から持ってこなくちゃ。リムちゃん運ぶの手伝ってくれる? 連れて行きたい子、いっぱい居るんだ」
連れて行きたい子って誰? などとリムちゃんが聞くことは無い。
逢って間もないとは言え同じぬいぐるみを愛する者同士(?)聞くだけ野暮というものだ。
「あっ、ついでだから夕飯の買い物もして行こっか。リムちゃん、何が食べたい? 楓ちゃんには敵わないと思うけど、リムちゃんの食べたい物、何でも作ってあげるよ」
「……ビーフシチューが良い」
「ビーフシチューだね。うん、任せて」
一時だけでも不安を忘れられるよう、なるべく明るい話題を振りながら、私とリムちゃんは家路についた。
夕陽はすでに大きく傾き、月や星もちらちらと見え始めた空を見上げながら私は心の中で同じ空を見ているかもしれない稟くんたちに呼び掛ける。
(稟くん、楓ちゃん、亜沙先輩……みんな、ちゃんと帰ってきてよね……)
突然の事態に言い知れない不安に駆られながら、それでも稟くんたちはみんな無事に帰ってくる……。誰もがそう信じていました。
この時、既に取り返しのつかない事態にまで、ことが発展していたことなど、私たちは知る由もなかったのです……。
この時、既に取り返しのつかない事態にまで、ことが発展していたことなど、私たちは知る由もなかったのです……。
【光陽町・児童公園前/ロワ時間一日目・夕方ぐらい?】
【八重桜@SHUFFLE!(Really?Really!)】
【装備・なし】
【所持品・財布、大きなぬいぐるみ】
【状態・健康、不安】
【思考・行動】
0:稟たちの事が心配
1:必要な物を持って今夜から芙蓉家に泊まり込む
2:稟たちの帰りを待ちつつ、プリムラを励ます
3:稟たちが帰ってきたらプリムラと二人でたっぷりお仕置きする
【装備・なし】
【所持品・財布、大きなぬいぐるみ】
【状態・健康、不安】
【思考・行動】
0:稟たちの事が心配
1:必要な物を持って今夜から芙蓉家に泊まり込む
2:稟たちの帰りを待ちつつ、プリムラを励ます
3:稟たちが帰ってきたらプリムラと二人でたっぷりお仕置きする
【プリムラ@SHUFFLE!】
【装備・なし】
【所持品・白玉&黒玉】
【状態・健康、不安】
【思考・行動】
0:稟たちの事が心配
1:今夜から芙蓉家に泊まり込む桜の荷物運びを手伝う
2:芙蓉家で桜と稟たちの帰りを待つ
3:稟たちが帰ってきたら桜と二人でたっぷりお仕置きする
【装備・なし】
【所持品・白玉&黒玉】
【状態・健康、不安】
【思考・行動】
0:稟たちの事が心配
1:今夜から芙蓉家に泊まり込む桜の荷物運びを手伝う
2:芙蓉家で桜と稟たちの帰りを待つ
3:稟たちが帰ってきたら桜と二人でたっぷりお仕置きする