「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - バールの少女・番外編-02

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バールの少女・番外編 02


ソレが『組織』「本部」へやって来たのは、午後のお八つの時間を回ってからだった。

黒服?「おいたわしや……」

頭部をガスマスクで覆った黒服は、少女化した先輩の黒服の近くまで歩み寄って来た。

黒服?「嗚呼こんな、こんな身体になってしまって。ああもう、可愛いアホ毛まで生やしちゃって」
黒服Y「だれだっけ?」

周囲の黒服達の視線を集めながら、
目の前のガスマスク黒服は、よござんす、とばかりにガスマスクに手を掛けた。

黒服?「ん、あれ? 外れない! あ、あれ、ここがこうなって……。 む、ぐ、ぐぐ」
黒服Y「……」

ガスマスクを外そうと躍起になる黒服、
その様子に突き刺す様な視線を送る周囲の黒服達、
そんな中、黒服Yはガスマスク黒服の様子を見ながら――

黒服Y「あ、もしかして"I"?」


黒服I「くおあああ! 外れない! 首、首が、しまるー!!」


* * *


黒服I「や、やあどうも、お久しぶりですY先輩」

数分の格闘の後、ガスマスクを脱ぎ捨てた黒服Iは
まさに窒息寸前といった体だった。

黒服Y「ホント久しぶりだね~。あ、そう言えば
    「辺境」に連絡入れたんだけど、誰も出てくれなくてさ。
    全員出払ってるの?」
黒服I「実は、その事込みでお話したいのですが……」

そう言って黒服Iはチラと周囲に視線を送った。
先程まで痛いほどの視線を送っていた周囲の黒服達は
ガスマスク黒服の正体がIだと分かると、何事も無かったように各自の仕事を行っている。

黒服Y「色々とアレな内容なんだね」

彼――尤も、今は彼女だが――の尋ねに、Iは小さく頷く。
黒服Yは黙ってIの袖を手に取ると、室外へとグイグイ引いていった。


黒服達の居るオフィス然とした部屋から出て、
無機質な印象を与える廊下を歩き、
黒服Yはとあるドアの前で立ち止まる。
すばやく左右を見回して、人の居ない事を確かめると
黒服YはIをドアの向こうへ引っ張り込んだ。

部屋の中は、使われていない小会議室のようだ。
この部屋には窓が無く、照明も切ってあるために
唯一の光は、床近くに設置された使途不明の青色ランプのみだ。

Yは後ろ手でドアを閉めた。

黒服Y「ねえ、後輩」
黒服I「どうしました?」
黒服Y「ワタシとアナタしか居ないからって、襲ったりしないでね」ウルウル
黒服I「……」

グーを作った両手を胸元に持っていき、やたら眼をウルウルさせるY。
黒服Iは口を真一文字に結んで、数秒の間両の眼頭を押さえた。
すぅぅぅぅ、と息を吐き出す。

黒服I「申し訳ありません、Yさん。その、何て言うか……
    悪ノリしてる時間が、あまり無くて、ですね……」
黒服Y「ごめん」

先程の表情から一転、Yは真剣な目つきでIを眼差した。

黒服Y「また、危ない事に巻き込まれたの?」

* * *

黒服Iは『組織』の中でも「辺境」という部分に属している。
無論それは「本部」の認可を受けたモノという訳ではなく、
事情を知る一部の間で通称として用いられている呼称だ。

「辺境」は――極端な物言いをするならば――『組織』から村八分を受けている。
そもそもの発端は、Iの上司である黒服Vが30年ほど前に「ある事件」に与した廉で
その制裁として村八分を受ける事になった、という話らしいが
黒服Iはその辺の事情に詳しい訳ではない。

そういった事情があって、「辺境」のオフィスは「本部」内には存在しない。
黒服達の中でも「辺境」という存在を知らない者は多く、
知っていたとしても無視するか厄介者扱いするかのいずれかだ。
まともな対応を行ってくれるのは、黒服Yか禿の黒服くらいなものだし、
実際、「辺境」が手を付けた事件に関わる事も多かったのは、これらの黒服だった。

時折、黒服Iが『組織』に"出向"しては定例報告をおこないに来るのだが
用が済めば早々に引き上げてしまう。
このようにして、他の黒服に接触を図る事自体、何かあるのだという事――。

* * *


黒服Yの真剣な眼差しに対し、Iは慌てた様に突き出した両手をブンブン振った。

黒服I「いやいや違うんですよ。いえ、確かに厄介事には現在進行形で巻き込まれてますけど。
    今回は、Yさんに渡す物があって来たんです」
黒服Y「渡す物?」

Iは懐から小さなガラス瓶、バイアルを取り出した。
差し出されたそれを黒服Yは黙って受け取る。
バイアルのラベルには黒字で"Rev-00.3(A-MG)"、
赤字で"対「マッドガッサー効果」用 「都市伝説」のみに使用する事"と記されている。

黒服Y「何これ」
黒服I「『マッドガッサー』のガス作用を解毒する薬剤です」
黒服Y「誰がつくったの」
黒服I「"マック"さんですよ」
黒服Y「ああ、黒服Mだね。なるほど……。
    気になったんだけど、この"Rev-00"ってアレの事だよね」
黒服I「はい、そうです。「侵食率抑制剤」の事ですよ」

アレ――つまり、"Rev-00"とは「辺境」の事情を知る黒服達の間で
他言無用とされている薬剤である。

都市伝説と「契約」をおこなった「能力者」の中に
「取り込まれる」といった状態になる者がある事はよく知られている話である。
この「"Rev-00 侵食率抑制剤"」は「都市伝説」に「取り込まれ」、
「末期症状」に陥った「能力者」への使用を想定して作成された薬剤だ。
その名称こそ「抑制剤」だが、実態は「末期症状」にある「能力者」の
「都市伝説からの侵食率」を強制的に低下させるといったものだ。

黒服Mによると、『投薬試験のバイト』『脳は10%しか使われていない』といった
都市伝説から捻り出した代物らしいのだが、「辺境」の方針で『組織』へ報告はおこなっていない。
それ故に、その存在を知る黒服達もまたこの事を秘密にしている。

加えて、"Rev-00"の使用に際しても様々な禁忌や副作用が付いてまわる。
運用が非常に厄介な薬剤なのである。

黒服Y「確か、これって都市伝説自体への投与は危ないんじゃ?」
黒服I「ええ、"Rev-00"そのものは都市伝説への投与は禁止されています。
    ただ、この薬剤"00.3"は"Rev-00"を基に作成された解毒剤でして
    "Rev-00"とは組成が全く違うから大丈夫らしいんですよ」
黒服Y「へぇー」

因みに、この薬剤を作成した黒服Mもまた「辺境」の一人である。
更に言うと、「辺境」のスタッフは上司であるV、部下のM、Iの3名のみである。

黒服I「この解毒剤の使用に関してなんですけど、2つ注意点があります。
    まず1つは、「都市伝説」に対してしか投与出来ません。
    そして、あと1つは――」

そこまで言うと、唐突にIの顔面の陰影が濃くなっていく。
背後からは「ゴゴゴゴゴ」という効果音まで響き始めた。

黒服Y「何だよ、早く言ってよ」

そして、緊張感が極限まで達した、その時。

黒服I「――臨床試験を、一切、おこなっておりません」パンパカパーン
黒服Y「……すごく危ないね、それ」
黒服I「あ、でも安心して下さい。"マック"さんが言うには大丈夫だそうですよ」
黒服Y「何故だろ、Mの言葉がすごく信用できない」

黒服I「とにかく、イザという時の為に取っておいて下さい」
黒服Y「くれると言うならなら貰っておくよ、ありがとう」
黒服I「あ、あとコレを」

そう言って、Iは再び懐へ手をやった。
黒い正方形のボックスを渡してくる。

黒服I「精神感応金属【オリカルクム】を含有するゴム弾です。64発しか用意出来ませんでしたが」
黒服Y「わあ、これが」
黒服I「"マック"さんの能書きでは、対象を一撃で昏倒させられる様ですね」
黒服Y「頭部か頸部、背骨に命中させさえすればね」
黒服I「あと効果は未知数ですが、霊体系の都市伝説にも有効だとか」
黒服Y「【オリカルクム】って入手しづらいからねー。
    Mにありがとうって伝えておいて」
黒服I「あ、あとそれから」
黒服Y「なになに? まだあるの?」

黒服I「こちらは8発しか作成出来なかったらしいのですが、硝酸銀内臓の特殊弾丸です。
    『マリ・ヴェリテ』に効果があれば良いんですけど。
    ゴム弾と同様、殺害する事には向きませんが、無能力化する事は可能なはずです」
黒服Y「ありがとう。使うかどうかは別としてだけど。
    使わないままであれば一番なんだけどね……」

黒服I「そう言えば、先程「辺境」に連絡を入れたとか何とか」
黒服Y「ああ、うん。
    今マッドガッサーとかコーク・ロアとかで忙しいから
    「本部」と一緒に動けないかなって思ったんだよ」
黒服I「そういう事だったんですか。
    いやあ、実は「辺境」一同、辺湖市にいまして」
黒服Y「えー、自分達だけ避難したのー? 一緒に仕事しようよ」
黒服I「いえそれがですね、実は、知らない内に都市伝説と契約してしまったという
    一般人の方がいましてですね、何やらパニック起してるようなんで
    とりあえず私達で落ち着かせてるという……」
黒服Y「そっかー、僕達じゃ辺湖に入りづらいからねー。
    『イルミナティ』の目もあるみたいだし」


黒服I「実は……、その方の契約した都市伝説、『災厄を招く彗星』なんですよ。
    最悪、彗星が地球に突っ込んで来ます。
    そうなったら――"マック"さんの計算では地球の半分が消し飛びます。
    悪い事に、その契約者の方、精神状態がかなりよろしくなくてですね……。
    現地のフリーの「能力者」の方と説得をおこなってるんですけど……」


黒服Y「あはは、頑張れ。地球の命運は君達の仕事にかかってるぞ」 ポムポム
黒服I「いや笑い事じゃないですから!
    それ言うならYさんもメンドくさいとか言わないで頑張って下さいよ!
    私達は支援に行けるかどうか分かりませんからね!」

それでは失礼しますよ、と黒服Iは暗い部屋から立ち去ろうとして――

黒服Y「 I 」

呼び止められた。
Yは親指と人差し指を立て拳銃の形を取ると、Iに向けた。

黒服Y「死ぬなよ、後輩。――誰も殺すなよ?」

Yの言葉にをIはきょとんとした様子だったが、
やがて、ふ、と笑い、その言葉は先輩にもお返ししますよ、と応えた。




今度こそ失礼します、と言って、彼は「本部」を去った。
Yは依然、Iと秘密の会話を交わした暗い部屋に居た。
背中を壁にあずけ腕を組んだまま、目を閉じている。

黒服Y「分かってるさ、後輩。僕はちゃんと、分かってる」

彼は、少女の声で、そう小さく呟いたのだった。




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