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単発 - 忠犬白墨

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kemono

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忠犬白墨


 我輩は犬である。名前は白墨。
 今はご主人と散歩に興じている最中である。

「あ、みてみて白ちゃん。ちょうちょだよー。」

 ご主人よ、そちらは車道だ。
 散歩ひもを咥え、蝶を追おうとするご主人を引き止める。
 蝶が飛んでいって残念そうな顔を浮かべるこの少女が我輩のご主人だ。
 ご主人はどこか抜けている……言葉を選ばなければ、頭が足りていない。
 これで我輩と同じ16年を生きているというのだから、にわかには信じがたい。
 もっとも我輩は拾われた身ゆえ、正確な年齢ではないのだが。

 ともすれば道行く猫にでもついていこうとするご主人を引き止めつつ、我輩とご主人は公園にたどり着いた。
 ご主人はあたりを見回すと何かを見つけ、我輩を連れてそちらに駆け寄る。
 そうして向かった先には長いすがあった。
 なるほど、今日はここでのんびりと過ごそうというわけか。偶にはそのような趣向も――――

「すぐ戻るから、ちょっとここで待っててねー。」

 そう言うとご主人は散歩ひもを長いすに結びつけ、公園の厠に入っていった。
 他の犬の話を聞く限り、そういう行為は散歩前に済ませておくものだと認識しているのだが……やはりご主人はどこか抜けている。
 半ば呆れてため息を吐く。ふと、我輩の鼻がある”臭い”をとらえた。
 この”臭い”、近くに何かがいるな。ご主人が巻き込まれる前に追い払うか。
 ご主人が戻らないことを確認して首輪を前足で何度か引っかくと、するりと首輪が外れ落ちた。
 首輪を外すのにもすっかり慣れたものだ。……さて、ご主人が戻る前に片を付けてしまおう。

*



 公園から出て少し走ると、先ほどの”臭い”の元らしき男が居た。
 後ろ手に注射器を持ったその男に背後から駆け寄る。
 男が我輩に気付いて振り返るが、我輩は既に男の手目掛けて飛び掛っていた。

「ぎゃああああああああああああ!!?」

 我輩の牙が右手四指を噛み千切り、男は何が起こったのかわからない様子で右手を押さえている。
 口腔内の指を吐き捨て、再び男に飛び掛って左手に喰らいつく。
 男は我輩を振り払うが、振り払ったその左手からは三指が消えた。
 左右合わせて七指を奪われ、男は苦悶の表情を浮かべつつ我輩を睨みつけている。

「な、何だ……お、俺の指が……ッ!」
『その手では得物は握れまい。咽笛噛み切られたくなくば、早々に立ち去るがよい。』
「ぐうぅ……貴様、次に会ったら命は無いものと思え!」

 そう言い放つと男はきびすを返して走り去っていった。
 ご主人などの人間とは違い、あのような存在には言葉が通じるので楽でいい。
 我輩の友曰く、我輩は「ちょーきんぐどーべるまん」なるものと存在を一にしているらしい。
 実のところよく理解していないが、ご主人の身を守ることが出来るのならば、そのような些細なことはどうでもよいのだ。
 ……そうだ、ご主人の元へ早く戻らねば。我輩を探して妙なことをされては困る。

「白ちゃーーん!どこいったのーー!」

 そう考えた途端、先ほどの公園の方からご主人の声が聞こえてきた。
 間に合わなかったことに無念を覚えながら、我輩は公園へと急いだ。

*



「しーーろーーちゃーーーん!!でておいでーーー!!」

 公園内にある、格子が折り重なってできた塔の最上部。そこで、ご主人が大声で我輩の名を呼んでいた。
 ご主人よ、確かに効果的ではあるが、高所から名前を連呼するのは妙な行為であると犬の我輩にも理解できるぞ。
 やはり我輩のご主人は、どこか抜けている。
 急いでその塔の根元に駆け寄ると、我輩を見つけたご主人はあろうことか最上部から飛び降りた。
 ご主人の腰布がふわりと舞い、思わず声を上げそうになるが、ご主人は難なく地面に着地した。
 そしてその手についた土を払いながら我輩に歩み寄ってきた。

「もー、急にいなくなっちゃダメでしょ?心配したんだよー。」

 ご主人よ、あの高さから飛び降りるのは危険だ。我輩の心臓にも悪いのでやめてくれ。
 そういった抗議の念を込めてご主人を見上げるが、ご主人は意にも介さず我輩に笑顔を向ける。

「でも白ちゃんが無事でよかったよー。じゃあ、散歩の続きへしゅっぱーつ!」

 ご主人は我輩の首輪を嵌めなおすと、公園の外へと歩き出した。
 こうして今日も我輩の散歩は、何事もなく続いていく。

 ……だからご主人よ、そちらは車道だ。



【終】




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