羽根あり道化師

10章 俺サマと愉快な仲間たちの最後の決断

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vice2rain

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世界最高峰の頂に世界最凶のメンバーが集まってしまった。
まるで、その戦いが予期されていたものだといわんばかりの、闘技場のような台座の上で、3つの戦いが繰り広げられている。

ひとつはプリアラとその主人との。

ひとつは俺とその宿敵との。

そして最後ひとつはレオンと大気圧との。

ってオイィィィィ!レオン!てめっ、最後の最後までいいとこなしで終わっていいのか!仮にも王子様だろうがアァァァ!




10章 俺サマと愉快な仲間たちの最後の決断



「お喋りしている暇は差し上げませんよ。」
「うおッ!?危ないなー、紳士はスマートにいくもんだろッ?!」
「相手があなたでは余裕がございませんから。」
「くっ…」

まずいな…完全に後手に回ってしまっている。
相手は闇魔術師。俺が一番苦手な相手だ。
光魔術を当てれば結構なダメージを与えることはできる。
この場所の条件もいい。
ついでにほとんどの魔術師っていうのは物理攻撃にたいして弱い。
だが…こつからはいやな気がする。
俺の予感はあたっているだろうか?確かめるためにとりあえず

「喰らえッ!」

ナイフを思い切り、ありったけの力で投げた。
とはいえしっかりコントロールしたはず。
やった、左胸を貫いた。いや、いやいや、喜んでいる場合じゃない。
並の魔術師ならもう即死、魔術師じゃなくても即死なんだろうけど…だが、こいつはどうかな?

「…ホッホッホ……ワタクシの秘密にお気づきで?」
「そりゃアンタがヒントをくれたんだろうが。寿命を延ばすためにさまざまな手段を使った。ってな?しかも闇魔術師。アンデッド化してるんじゃねーかなーって思ってね~?」

アンデッド。いわゆるゾンビだ。
ただこいつの体は腐ってはいない。なんというか、自然治癒力がかなりたかいゾンビといえばいいだろうか。
だが、アンデッドにはかなりのリスクがある。昼間行動できないこと、そしてよく内臓をなくすこと。いや…内臓がないぞーとかシャレになりませんから、マジに。
とにかく、アンデッドにはそれ以外にもいろいろなリスクがあるんだ。
それを逆手にとって攻めれば勝てないこともないんだろうが…

「きゃあッ!」
「プリアラ…私の元へお戻りなさい。今ならあなたを許してさしあげますよ。」
「いやよ…絶対に戻るものですか!」
「プリアラ!無茶すんな!お前にフィルシアは倒せない!レオン~!お前何やってんだよ!」
「す、すいません~!」
「すいませんじゃなくて助けなさいよ!」
「…だいじょぶそーだね。っていうかマジにピンチなのは俺のほうかい?」

ヴォローザの手には黒い魔法弾が渦を巻いていた。避けきれるような数じゃない。これはもう相殺するしか方法は…だけど一度にそんな魔力を使えば形勢も不利になるだろうな。
不利になるのとここで死ぬの、どっちだ?そんなの決まってる。
とりあえず生きろ。

「ほう…、これだけの魔法を相殺するとはさすがですね。」
「そりゃどうも。……あ?」

手にはナイフが戻ってきていた。そりゃ便利なこって…と思ったのもつかの間。俺の頭に神降臨!

「思いついたアァァァ!」
「…なにがです?」

ヴォローザは半ばあきれた表情をしていた。
このジジィにあきれられるのはかなり悔しい気がするけど仕方ない。もしここで俺が取り乱して策を読まれてしまえばすべてが台無しになる。だが、ここでヴォローザを倒すことが出来ればプリアラの加勢ができる!

「…クククッ……天が呼ぶ!地が呼ぶ!海が呼ぶ!気になるあの子も俺を呼ぶ!この無敵ウルトラワンダーボーイヴァイス様の真の力を見せてやるぜ!覚悟しなヴォローザ!今日はお前の命日だアァァァァ!ギャハハハハ、ゲホッ…む、むせた…。と、とにかくだな、今日をもってお前の人生を終わりにしてやる…」
「最初はテンションが非常に高いのに終わりごろには枯渇していますね。あなたの魔力のようです。ワタクシにはわかりますよ。先ほどの相殺でかなりの魔力を失ったように見えますが?」
「フン、そんなんかりそめの力さ。俺の最強魔法はこれだ!」

最後に残った魔力を振り絞って俺は指先に意識を集中させた。ヴォローザの顔に一瞬焦りが浮かぶ。何か反対魔法の準備をしているようだが、やはり俺が何を唱えるかは予想できないようだ。口元を緩ませて俺は魔法弾を放った。

「…ッ!…?フフフ…ホッホッホ!なんともなりませんよ?!ずいぶんな魔法でございますな!」
「……チクショーーー!オイオイオイ、マジかよ!?えぇ?!そんなに俺魔力弱ってたっけエェェェェ!?こうなりゃ物理攻撃だコンニャローがあぁぁ!」
「物理攻撃など私には効きませんよ、おわかりでしょう。ワタクシはアンテッド…なッ?!」

俺はナイフをヴォローザに軽く刺した。そう、軽くでいい。
なぜか?俺の作戦はこうだった。

まずヴォローザはアンデッドになっている。
アンデッドというのは自然治癒力が非常に高い。なぜならば闇の治癒魔法がいつもかかっているからだ。
それを利用することにした。
俺が全身全霊の力を振り絞って使った呪文は最強魔法でもなんでもない。ただの初級魔法。初級も初級、普通じゃ何につかえばいいんだよ、というようなどーでもいい魔法。魔法の効果を逆にしてしまう魔法だ。
もうお分かりだろう。自然治癒力がマイナスになったアンデッドにかすり傷をつけるとどうなるのか?

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」

ひどい奇声を発しながらヴォローザの体は次々と裂けていく。肉片がこっちに飛んできたら気分が悪いのでおれはさっさとプリアラを助けにもう半分のステージへむかったのだった。
ちなみに。機動力をそがれたミルディアン兄弟はどちらもかなり衰弱しているものの生きてはいる。せりふが少ないからって死んだと思ってはいけない。

「プリアラ、大丈夫か!?」
「…な、なんとか…ね。でも、あなたが着てくれて助かるわ!」
「ごめ、俺も魔力が残ってなくて…オイ、レオン!加勢してくれよ!」
「…が、がんばります……」

ふらふらになりながらもレオンは立ち上がった。長剣をガタガタ震えながら抜き、なんとか構えている状態だが、大丈夫。アイツの実力なら此処は切り抜けるだろう。
それに、俺もいることだしね。

「私が二人を援護するわ。ヴァイス、レオン、頼むわよ!」
「りょーかい。」
「わかりました。」
「…私はヴォローザのようにはいきませんよ。」

確かにヴォローザのようにはいかないきがする。
いや、気が引けるんだよね…。敵とはいえ俺は女性を攻撃することができない。できないっていうか良心が傷つく。
だが、そんなことでは殺されてしまうだろう。

「レオン、左肩を狙ってくれ!」
「は…?はいっ」

プリアラの援護を受けて火の属性を帯びた俺のナイフとレオンの長剣はフィルシアにかなりのダメージを与えるようだ。だが、まだかすり傷程度。
こんなものじゃ倒れてくれはしないだろう。そのときだった。

「愚か者が…私の幻影ばかりを攻撃していると気づかずに。」
「なっ…」
「プリアラ!」
「ッきゃ……」

プリアラのみぞおちに氷の刃がヒットした。数メートル吹っ飛ばされ、プリアラは動かなくなってしまう。レオンは顔を真っ青にしてフィルシアに太刀を浴びせた。だが、フィルシアには全く通じていないようだ。氷の結界を張られているのか、剣がフィルシアに届く直前で止まってしまう。
俺はナイフをとろうとしたが、なにか変化に気がついた。
魔力だ。魔力が戻っている。もしかしてプリアラのやつ、吹っ飛ばされる直前に魔力を俺に…?!

「…お前……仲間をなんだと思っていやがんだアァァァ!」

俺の指先から放たれる炎魔法にフィルシアは油断したのだろうか、まともにダメージをうけたようだった。こんがり焼けたフィルシアはそのまま雪原に倒れこみ、動けないようだった。カームはあのとおりだから、もう戦う気はないだろう。

「…さて、プリアラ…生きてる?」
「バカね…感謝してよ。」
「ハイハイ。とっさの判断ありがとさん。レオン、だいじょぶか?」
「あ、は、はい!プリアラ、よかった~~~~~~~!本当に本当に本当によかっ」
「うるさいうるさい、もう…ヴァイス、治療してよね。」
「ああ。」

プリアラの治療を終え、レオンの治療を終えたあと俺たちは台座の真ん中に小さな凹みがあるのを見つけた。そこに星界の封印を差し込むとちょうどはまり、なにやら魔方陣が浮かび上がる。それに触れたとたんからだが急に高いところへ(もともと高いけど)引き上げられたような感覚の後、何かをすり抜けたような感覚を感じ、今度は地面に足が着く感覚がした。まちがいない、ここに神の力があるんだ!

「…あれ、か?!」
「えぇぇ、どうしよう…持ち帰れるものじゃないじゃないですか。」
「私望みなくなっちゃったんだけどな~…」


それぞれ違う思いを抱きながら近寄っていった神の力。
それは大きな木だった。草原の広がる、空の島、サガルマータその先にある場所にひとつだけ壮大に立っているこの木。絶対にこれに神の力が宿っているだろうとすぐにわかる。
どこからか声が聞こえる気がした。

『神の力は
人の命を操れません
人の気持ちを直接は変えれません
そして 悪しき者が使うと世界は悪く
良き者が使うと世界は良くなるでしょう
また願いはなんどでもかなえられます
ですが 叶えるたびにあなたが乗り越えなければならない試練も増えます
さあ あなたはいくつ願いをかなえますか』

「僕をミルディアンの王にしてください!」
『あなたはすでに王となる条件を満たしています。国に帰ればすぐに王になれるでしょう。あなたのお兄さんをつれてお行きなさい』
「では、兄の怪我をなおしてください!」
『わかりました。』
「じゃあ私は…サガルマータからミルディアンへみんなを安全に運んで欲しいわ。もちろん、ヴァイスの願いをかなえた後でね。」
『わかりました。』
「……俺の願い…」

ドラゴンキメラをやめること?
命を操ることはできないといった…
妹をよみがえらせることはもうできない。村の皆も。
そして、あの戦いに終止符をうつことも。

「じゃあ、世界の秘密を教えてくれ。知りたいんだ…この世界にまだある秘密…」
『お教えしましょう、あなたの知りたい秘密を…
あなたの唯一しらない秘密を…
世界の限界点はここでは…ありません。
このさらに先上空、竜の星があります。
竜がそこにすんでいます。
願えばそちらへお連れします。』
「…そうか、竜の世界はそこにあったんだ……。十分だよ、そのうちつれてってもらうけど。プリアラの願いをかなえてやってくれ。」
『わかりました』

次の瞬間俺たちは初めて顔を合わせたあの、ミルディアンの城下町にいた。レオン、プリアラ、そして…カームも。


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