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****ハレ×グゥ第1話.2(一:>89-96) <<1-6>> 「うわぉ、ゴージャス…」 屋根裏を見渡し、思わず感嘆の声を上げる。 さすがと言おうかやりすぎと言おうか、ただ閑散としてほこりまみれなだけだったはずの屋根裏部屋は見事に生活空間として改装… 否、改造されていた。 床にはぴっちりとふかふかのカーペットが敷かれ、壁際に大きな化粧台や箪笥が並んでいる。中央には背の高いテーブルに椅子が二対。 全てなんだか妙にお洒落で高級そうなデザインのものばかりだ。 さすがに電気機器の類は置いていないが、下手したらここはこの村で一番ゴージャスな部屋かもしれない。 その中でも一際目立つのがこの屋根裏のスペースの3割を占める巨大なベッド。 他のものに比べて装飾や色彩は地味ではあったが、シーツの生地の滑らかな手触りやマットの柔らかさは一階のものとは比較にならない。 ほのかに残る独特な香水の匂いは、確かに記憶にあるこの部屋の主のものと一致する。都会での日々を思い出し、少し感傷的な気分になる。 使用人の分際でなんて贅沢な暮らしをしていたのか…と妙な悔しさを覚たりもしたが、 しかしよくぞ残して行ってくれたという感謝の気持ちの方が今は遥かに大きい。 「ほらほらグゥ!すごいよこのベッド!」 ベッドの上でポヨンポヨンと跳ねるハレ。 確かに、単純にテンションも上がってはいたが、先ほどのことを考えると無邪気に喜んでもいれらない。 だけど今は、落ち込んでいるグゥを元気付けるために出来るだけ大げさにはしゃいで見せた。 「ほら、グゥも疲れたろ。ここなら保険医もいないしさ、ゆっくり寝よ」 「…うん。だがグゥはあっちで寝る」 そう言うと、すたすたとベッドの反対方向に歩いて行く。 そこには人一人分くらいのスペースにゴザが敷いてあった。そこだけ見事にカーペットが途切れ、ご丁寧にその一角を仕切るカーテンまで取り付けられている。 そこが誰の寝床だったかを考えると涙が溢れそうになるが、今は考えないでおこう。…とにかく、そんなところにグゥを寝させるわけにはいかない。 「駄目だよグゥ!せっかく良いベッドがあるんだからあっちで寝ようよ」 強引にベッドに連れ戻そうと、手をぎゅっと握る。 ──そう、ただ手を握っただけだ。それだけなのに…。 「ヒッ───!!」 耳に鋭い叫び声が響いた。グゥを掴んでいたはずの手は中空をさ迷い、なぜかジンジンと痛んだ。 一瞬、目の前の少女が誰なのか解らなくなった。 「グ、グゥ…?」 「い、いいから放っといてくれ…今は一人になりたいんだ」 聞いたことの無い声で、見たことの無い表情で、自分から逃れようとするこの少女をかつて自分がグゥと呼んでいた少女と 認識することに戸惑いを覚える。 こういう場合、しばらく言うことを聞いて一人にさせてやるほうが良いのかもしれない。でもこのグゥはちょっと異常すぎる。 どうしてもこのまま放って置いてはいけない気がした。 「いいからこっち来いよ!」 「やっ…!やだって言ってるだろ!!」 少女を力づくでベッドまで引っ張り込もうとするハレ。それを拒絶しジタバタと暴れるグゥ。 傍から見たら間違いなく誤解される上に釈明も出来ないような光景だったが、気にしてはいられない。 「ひゃっ──!?」 ハレは暴れるグゥの肩と両足を持ち上げ、両腕で抱きかかえた。いわゆる『お姫様だっこ』というやつだ。 グゥは見た目も小柄だが、その見た目から考えてもずっと軽い。 同程度の体格のハレでも小脇に抱えられるほどなのでこの体勢になるとほとんど抵抗が出来なくなってしまう。 「や、やめろ!降ろせ!降ろせー!」 「この…暴れるなって!!」 それでも必死でその腕から逃れようと身体をバタバタと揺する。 その姿にいつもの不敵さや嫌味なほどの余裕ぶりは微塵も感じられない。 「何がそんなに嫌なんだよ!そんなに嫌なんだったらなんであの時…!!」 なぜか、腹が立った。自分でも何に怒っているのかわからなかった。 こんなに嫌がっているんだ。一晩くらいそっとしておいてやった方が良いじゃないか。 確かに、普通ならそう結論付けるだろう。オレだってそうするはずだ。…それが、グゥ以外なら。 「なんであの時、そうやって保険医に抵抗しなかったんだよ…!!」 「───ッ」 自分でも驚くほど、大きな声が出た。 次の瞬間、その声に怯えるかのように全ての音が消え、ただ静寂のみがこの空間を支配した。 グゥの抵抗も止み、ただ怯える様に俯く。 …いつでも余裕で、何が起きてもぜんぜん動じなくて、オレをいじることばっか考えてて、口から出るのは皮肉ばかり。 でも、いつしかそんなグゥが側にいるのが当たり前になっていて。 なんでもいつもと同じ調子で話せて、なんでもその余裕な顔で聞いてくれる。 …オレは、グゥのそんなところがすごく安心できて、すごく大好きだったんだ。 それなのに、そんなグゥがこんなに…あんなやつのせいで、こんなに変わってしまうなんて。 「オレは…オレは誰だよ?オレはあんなやつとは違う。グゥを傷つけたりなんか…するワケないだろ?」 「…ち、違う…」 「それとも…オレってそんなに信用無いのかよ。グゥはオレのことそんな目で──」 「──違う!!」 キィンと、張り裂けるような鋭い声に言葉が遮られる。 ハレには、俯きの自分の胸に顔を押し当てているグゥの表情はわからなかった。ただ、その肩の震えだけが伝わる。 「違うんだ…」 「グゥ…一体、どうしたってんだよ…」 「………」 グゥはしばらく考えるように黙した後、観念したかのようにはぁ、と小さなため息を吐く。 その身体にはすでに力無く、ハレに身を任せるようにしなだれかかっている。 しかし表情を読み取られたくないのか、顔は頑なに俯いたままだった。 「ハレ…グゥは決してあいつに身を預けていたのではない。それだけは解って欲しい…」 「う、うん…言われなくても、わかってるよ。それは信用してる」 グゥは静かに、祈るように声を吐き出す。 その言葉に、当然だ、とは思ったが、その口からはっきりと言質を取れてほっとする。 しかしまだ全ての疑問は解消されていない。 少女の傷口に手を入れるようで心苦しく思えたが、納得しなければ気がすまない部分もある。 ハレはなるべくグゥを刺激しないように、話を先に促す。 「でも、いつからあいつにそうされてたのかは知らないけど、さ。なんで、あいつに抵抗出来なかったの?」 「…実は、あいつの手がグゥの身体に伸びてからハレが目を覚ますまで、1分も経っていないんだ。  ハレはグゥのピンチにすぐに駆けつけて、グゥを救ってくれたんだぞ?」 「そ、そうなんだ。でもあいつ、そんな短い間にグゥをあんなに…その、服まであんなに乱すなんて…やっぱり許せないよ…」 少し、安心する。時間なんて問題ではないとはいえ、10分も20分も長々続けられるよりはマシなはずだ。 1分足らずであそこまでするクライヴにも腹が立ったが、一気にあそこまで侵入されてはグゥも戸惑ったかもしれない、 となんとか納得出来る。 …だが、次のグゥの言葉でそれは撤回される。 「…あれは、自分でやったんだ」 「な──!?」 カッと頭に血が昇る。 まさか、自らクライヴの誘いに乗ったとでも言うつもりか。 「か、勘違いするな?あいつのためじゃないからな?」 「じゃ、じゃあなんで自分で…」 そんなハレの心を察したのか、すぐに訂正を入れるグゥ。 ハレはそれを聞きホっと胸を撫で下ろすが、また別の疑問が残る。 クライヴに関係なく、何のために自ら衣服を肌蹴させたと言うのか。 「…だから、それはその……間が、悪かったんだ…」 突然口ごもり、あとは自分で考えろ、とでもいいたげに、まるで謎かけのようにそれだけを言い黙り込むグゥ。 …ハレはこれまでの情報を元に思考を巡らせる。 クライヴに触られてるのに、何で自分で服をまくって……いや、違う。 普段ならグゥに手を伸ばした時点で、クライヴは朝まで目覚めない程度の直接的な抵抗を受けていただろう。 服をまくる以前の問題だ。 だとしたら、グゥは最初から服を肌蹴させていたってことだ。クライヴが触る前から…。 じゃあ何のためにっていったら…そりゃあ……。 「も、もしかして最初は一人で…その…」 女の子にこんなことを確認するのも気が引けたが、今更話を止めるわけにもいかない。 そんな失礼な質問にもグゥは素直に、ただ無言で小さく頷いた。 表情は見えなかったが、グゥの顔が押し当てられた部分に熱が灯るのがはっきりとわかった。 「────ッ」 言葉が詰まる。自分の体温もグゥと同じくらい上昇しているのがわかる。 まさか、グゥがそんなことをしてたなんて。 あのとき、現場を見た瞬間の勘違いもあながち間違いではなかったのだ。 少し起きるタイミングが早ければ、また今とは別の展開になっていたことだろう。 ただ、そちらの方がずっと穏便に解決できたであろうことが悔やまれた。 (でも…) そう…でも、それでも抵抗くらい出来るだろう。なぜずっとクライヴに好きにさせていたのか。 …その疑問を察したように、グゥがゆっくりと口を開く。 「ハレ、まだ忘れてないか、今日の風呂でのこと…」 「そ、そりゃ覚えてるけど…ちゃんと謝ったろ?」 ほんの数時間前のことだ。忘れようにも頭から消えてくれない。 …そう、思えば、あの時のグゥの様子も、何かおかしかった気がする。 「うん。それは素直に嬉しかったのだが…本当は気が気でなかったのだ。  …一体いつからあそこにいたのだろう、と」 「いつからもなにも、オレが脱衣所に入った瞬間グゥが出てきたんだよ。  の…覗いてなんかないからな」 「そうか…。しかし風呂から出たときは驚いたぞ。あの時は少しだが、声も出していたからな」 「声?」 回りくどい言い方に首を捻る。 しかし今度はこちらが考える暇も無く、少しの間を置いてグゥがすっぱりとこちらの疑問を解いてくれた。 「…あの時も、していたのだ。風呂の中で、一人で」 「───ッ」 またしても、言葉に詰まる。今日1日で2度そんな現場とニアミスを起こしていたと言うのだ。 「だからびっくりした。グゥが呼んだから、来たのかと思った。いつの間にか声が大きくなっていたのかとな」 「そ、それって…つまり…」 「ハレの名を…だ」 思考が乱れる。顔が火照り、どこまでも体温が上昇する。もしかしたら頭から煙の1つでも出ているのではないか。 つまり…だ。それってのはつまり…オレの名前を呼びながら、一人でシテいた…と? 「あの後、ハレの前で平静を装うのが大変だったぞ?」 (そんなの、オレだって…) そう、ハレとてあの時は、平静を装うのに必死だったのだ。 グゥも平気そうな顔に見えてはいたが、あの上気した顔は風呂のせいだけではなかったのかもしれない。 「だからハレが風呂に入った後すぐに枕になったんだ」 「そうか、枕に」 「ああ、枕に」 問題ない、問題ない。ここはスルーしていい場面だ。 もはやこの程度のことはツッコムに値しないことなのだと思っておきたい。 「でもそれじゃ…しつこく頼んだオレが言うのもなんだけど、あのまま枕に戻ってくれて良かったのに」 「それは…」 またも口ごもるグゥ。 (…ってかさっきからオレ、グゥに恥ずかしいことばかり言わせてる気がする) もう、これ以上聞くのはしのびなく思えてきた。 グゥがクライヴにされてたことが本意じゃないというのはもうはっきりと解ったのだし、この話はもう切り上げてもいいのではないか。 「なあ、もういいよ、グゥ。こんなこと、女の子に聞くことじゃ…」 「だめだ!…それじゃあグゥの気がすまない。ちゃんと話すから、聞いてくれないか」 ハレの気遣いは空しく、ピシャリと差し止められる。 グゥの、先ほどまでの狼狽が嘘のように凛とした眼光に見据えられ、ハレはそれ以上何も言う事が出来なくなってしまった。 「それに、ハレが悪いんだぞ。ハレがあんなこと言うから…」 「あんなこと?」 「…グゥと、一緒に寝たいって…」 聞いて、ボボ、とさらに顔が燃え上がる。もう煙どころじゃあない、額で目玉焼きでも焼けそうだ。 聞きようによっては、もう誘ってるとしか思えないような言葉だ。自分の軽率さに呆れてしまう。 「もうその後はハレに何を言われても恥ずかしくてな…顔を伏せたらハレにくっついてしまって…もうどうしたらいいか解らなくなった」 「グゥ…」 ハレは、グゥに今まで抱いたことの無い感情を芽生えさせていた。 あのいつも冷静沈着なグゥが、あのときの自分と同じ…否、それ以上に気持ちを昂らせていたというのだ。 鉄面皮と思っていた少女に隠された、実に女の子らしい感情に触れ、心が強烈な親近感で満たされて行く。 「結局、ハレが寝たのを確認してから顔を起こしたんだが…ハレの寝顔を見てたら…その」 「……」 一瞬、なぜそこで話が詰まるのか解らなかった。自分の寝顔なんぞに、そのような価値があるとは到底思えなかったからだ。 しかしグゥの沈黙が、何よりもハレの想像が正しいことを雄弁に語っていた。 …やっと、話の核心に入ったのだ。だがこのまま、グゥ一人に話を続けさせてはまた余計な恥辱を受けさせるはめになりかねない。 「…そしたら、保険医の手が?」 「……」 その部分はもう解ったから、と言うように、とりあえず話を先に進めようと誘導する。グゥもそれを察し、こくんと小さく頷く。 「…最初は、すぐ振り払おうと思ったんだ。でもハレにあんな姿、見られたくなかったからな…  なるべく気づかれぬようにクライヴを朝まで眠らせるつもりだった」 (…やっぱり) クライヴ本人にしても、その方がよっぽど平和的に解決されただろうに、と妙な同情心を覚える。 クライヴにとっても、やはり間が悪かったと言えるのだろう。 「しかし、その……」 「…?」 またも、妙なところで話が詰まる。今度はハレにもその理由がわからず。ただグゥの次の言を待つことしか出来なかった。 グゥはまた顔を伏せ、何かに堪えるようにググ、と身を強張らせると、意を決したように重く声を吐き出す。 「ハ、ハレのことを想いながら、ハレの顔を見ながらしていたから…その手が…ハレのもののように思えてきて…暫く浸ってしまったんだ…っ」 「……」 (なんだか、さっきからオレの中の「グゥから見たオレの評価」ってやつがぐんぐんとうなぎ上りに急上昇しているように感じるのだが……) あまりにも現実感が無さ過ぎて、本当の自分はまだ1階のベッドで普通に寝ているのではと思えてくる。 ただこれが本当に夢だったとしても、もうグゥに今までと同じ気持ちで接することは出来ないことは確かだった。 ハレの中の『オレから見たグゥの評価』も、同じように急上昇しているからだ。 それも、現在進行形で伸び率が上がっているのでは無い。 ただ、グゥに対する自分の本当の気持ちに気付かされてしまっただけなのだから。 「だから…決してあいつに、その身を委ねていたわけじゃ…ない…それだけは、解って欲しかった…ん…んんっ…」 「グ、グゥ?」 ──泣いているのか、と思った。 先ほどから押し殺すように重い声で喋っていたグゥだったが、ここに来て低い呻き声が混じり、身体を強張らせてぎゅっとしがみついてきたのだ。 しかしその様子は、ただ泣いているだけにしては少しおかしかった。 額に玉の汗を浮かべ、ふ、ふ、と小さな吐息を漏らす。自分の胸に埋もれた顔は、明らかに上気しているのがわかる。 …よく見ると、低いうめき声に合わせて腰がもじもじと動いていることに気付く。 そちらにふ、と目を向けた瞬間───ドクンと、視界が揺れた。 「グゥ、な、何やって…っ」 グゥは、ハレの身体に面している側の手を服の上から自らの股間にあてがい、密やかに指で秘所を擦っていた。 その動きに合わせ、しゅ、しゅ、という衣擦れの音が小さく聞こえる。 …眩暈がした。それはハレにとっては初めて見る光景だったが、容易に理解できた。 いつからそうしていたのか、グゥは、ハレに抱かれながら自分を慰めていたのだ。 「す、すまない…もうちょっとだけ、もうちょっとで終わるから…我慢…してくれ…」 ハレに気付かれたと解ると、ずっと悟られぬよう静かに動かしていたのであろうその指の動きを激しくさせる。 スカートの上から当てられていた指は、今はゴソゴソとその内部に侵入し更に敏感な刺激を与えている。 ちゅぐ、ちゅぐと粘液をこねるような音が周囲に響く。ハレは、ただその様子を凍りついたように硬直したまま眺めるしかなかった。 「んっふ、うんんっ……ふぁ…は、あ……っ」 「……っ」 もう誰はばかる事も無い、というように、押し殺していた声を開放し息を荒げるグゥ。 …眩暈が酷くなる。全身の力が抜け、立っていられない。不意にグゥを腕の中からずり落としてしまいそうになった。 ハレにしがみ付いている少女の手がそれを感じ、必死に服に爪を立てる。 「お願いだ、このまま抱いていて…これっきりにするから……すまない…すまない……」 …解らなかった。 グゥが何を言っているのか。なぜ泣いているのか。何を謝っているのか。自分はどうすればいいのか。 この少女に何を言えばいいのか。…何も考えられなかった。 ──ただ…無性に腹が立った。 ハレは突然、グゥを抱いたままドサ、とベッドの上に倒れ込んだ。 柔軟性の高いマットにその衝撃は吸収されたが、いきなりのハレの行動にグゥはフッ、と息を詰まらせる。 「ハ、ハレ…?」 グゥはハレに肩を抱かれたまま、あお向けに寝そべる状態になっている。 首の後ろに回された手は肩をがっしりとつかみ、身体を動かすことが出来ない。 グゥはぽかん、と少し不安げな表情でハレを見上げる。 「ひっ──!?」 突然、敏感な部分に刺激が入りビクンと身体を引きつらせるグゥ。 先ほどまで自分で弄っていた秘所に、ハレの指がぐいぐいと押し付けられているのだ。 ハレの予期せぬ行動に、グゥはカッと顔に血を昇らせ抵抗しようとするが、やはり肩を抑え込まれ身動きが取れない。 出来る事と言ったら、足をじたばたさせることくらいだ。 「やっ!な、なにを───んむぅっ!?」 足をぎゅっと閉じ抵抗するグゥに、静かにしろ、と言うかの様にその唇を奪う。 ただ自分の唇をぐいぐいと押し付けるだけの稚拙なキスだったが、グゥには効果覿面だったようだ。 すぐにその身体からは力が抜け、瞳をトロンととろけさせる。 頑なに閉じていた足も弛緩し、グゥの下半身はいとも容易くハレの手に落ちた。 「んっ…ちゅ、ん…ふんんっ……ふ…」 狭い空間に、グチュ、グチュと淫靡な音が響く。 秘所に直にあてがわれたハレの指が動くたびに、グゥはピクンピクンと身体を跳ねさせる。 下半身を保護していた薄布はすでに剥ぎ取られ、足首に申し訳なさげにひっかかっていた。 ハレの動きは、既に溢れ出ていた愛液を潤滑液にし、全体を揉みこねながらただズリュズリュと強引に肉を擦り上げるだけの 乱雑なものだったが、それでもグゥにとっては待ち望んだハレとの行為なのだろう。 ただハレに全てを任せ、ひたすらその快楽に身を預けている。 唇はなおもハレに奪われたままの状態だったが、今はグゥからも積極的にその唇に吸い付き、淡い感触を愉しんでいた。 ──だが、そんないじらしい少女の姿も、今のハレには不快に映る。 「ふんむぅ゛っ!?ふひゅっう゛う゛う゛う゛っっ!!」 急に、ハレの指の動きが激しくなる。 その動きはもはやただ激しいと言う言葉では済まされないくらい乱暴になり、もう揉んでいるのか抓っているのか、擦っているのか掻いているのかも解らない。 押し潰された柔肉は、その厚ぼったいほっぺに保護されていた粘膜を露出させ、赤くテラテラと光るその敏感な部分を直接こすり上げられてしまう。 あまりの強烈な刺激に反射的に足をギュッと閉じるが、まるで果実を絞るように次々とあふれ出す愛液の滑りでその侵略を妨げることが出来ない。 むしろ秘所に押し当てられた自らの足がなおその刺激を増幅させ、少女の下半身を焼き尽くして行く。 塞がれた唇の隙間からはコポコポと唾液が噴出し、ぎゅっと瞑られた瞳からも雫が零れる。 少女はハレの暴虐を、ただ黙って耐えるしかなかった。 「っはぁ…!  グゥは…グゥはいつだってそうだ!自分で勝手に何でも決めて、オレの事なんて考えないで…グゥは、自分さえよけりゃそれでいいんだろ!!」 「そ、そんな…そんな、ふあっ……つもり、じゃ…んんっ…!」 ぷは、と、ようやく唇が離れた…と思ったら、ハレの唇による責め苦は別の形でグゥに降り掛かる。 ──グゥは、一人で今日の出来事を全部背負うつもりだった。 自分に打ち明けた想いも、全部明日になったら、すっぱりと忘れたそぶりでいつものグゥに戻るつもりだったんだろう。 一人で、勝手に。…それが、許せなかった。 「…こんなにグチャグチャにして…!保険医にされてたときも、こうなってたんだろ!?オレのことなんか、ホントはどうだっていいんだろ!」 「…ち、違う…!ひぅぅっ…そんなわけ…ない…グゥはハレが…ハレのこと…っっ」 グゥへの責め苦に、なおも言葉を重ねる。 それを必死に否定するグゥの姿に愛おしさも感じたが、それに比例するようにグゥに対する苛立ちも増していく。 グゥが自分に好意を寄せてくれていることへの嬉しさがそのまま、 自分の手よりクライヴの手の方が先にグゥの身体を知ったことへの苛立ちという、身勝手な独占欲に塗り潰される。 たとえ自分と重ね合わせていたとはいえ、クライヴの指に一時でもグゥの身を奪われてしまったことは、今のハレには耐えがたい屈辱だった。 「うそ吐け…!オレの指、あいつみたいに上手くないからつまんないと思ってるだろ!?」 「そ、んな…はぁっ…ハレのが…いい……ハレじゃなきゃ…やだ……」 グゥは、今や完全にハレに従順になっていた。期待通りの返答を返すグゥに、ハレの支配欲が満たされる。 ハレの指は今も乱雑にグゥの秘所を蹂躙していたが、その動きは幾分優しくなり落ち着きを取り戻つつある。 グゥに対する理不尽な苛立ちも少しずつ薄れ、その感情を支配する天秤はただ愛情へと傾きつつあった。 「そう…オレにこんなことされるの想像しながら、一人でここ弄ってたんだな…勝手に人のことオカズにしてたんだな…!!」 「…や…あぁっ!…ご…ごめんなさい……うくっ……ごめんなざいぃ……」 ついに、グゥはぽろぽろと大粒の涙を零し泣き崩れてしまう。 ハレの腕の中で赤ん坊のようにハレにすがりつき、ただひぐ、ひぐと嗚咽を漏らす。 それでも、何も抵抗しない。ハレを拒絶もしない。 自分が何故こんな責め苦を受けているのかも解らないだろうに、少女はただハレの身に頬を寄せ、懺悔するようにその恥辱に耐える。 その姿があまりに痛々しくて、あまりに愛おしくて、ハレの心は何かが反転するかのように、ぐるんとその感情の色を変えてしまう。 「ハ…レ……?」 ハレは自分でも知らぬ間に、グゥの身体を力一杯抱きしめていた。突然のハレの変容に、グゥの涙もピタリと止む。 (グゥは、どうしようもなく一人なんだ。これだけ自分をさらけ出しても、これだけオレに責められても、自分一人の問題だと思ってるんだ。  オレは、グゥがいつまでもオレに心を開いてくれないことにムカついてたのか。  でもそれじゃ駄目なんだ…グゥには、オレから近寄っていかなきゃだめなんだ。  それなのにオレは自分のことしか考えずに、グゥに酷いことを…) ──刹那にして、あれだけ心を焼き尽くしていた炎があまりにもちっぽけなものになってしまった。 代わりに本来の、この少女に対する純粋な想いが津波のように少年の心に押し寄せる。 「…グゥ!!」 グッと、両肩を抱きまっすぐにグゥを見つめ、ハレは意を決したように、口を開く。 (…今度はオレが、懺悔する番だ。) 「…オレも、だよ」 「──え?」 「オレもグゥのこと、オカズにしてた…今日も、お風呂でグゥの裸思い出して……」 「……」 突然のハレの告白に、目をパチクリとさせ呆然とハレを見やるグゥ。 ハレにとっては華厳の滝からダイブするが如く勇気を振り絞った告白であったがしかし、グゥの耳には届いているのかいないのか、 ただぼう、と虚ろにハレを見据える。 「なん…で…?」 「へ?」 「…ハレは、グゥのことなんかぜんぜん興味無いと思っていた…」 グゥは本当に、一点の曇りも無くそう思い込んでいたのか、『信じられない』といった感情を満面に湛え、平坦な声でそう呟くように答える。 そんな様子にハレはあんぐりと呆けてしまったが、ごほん、と一つ咳を払い呼吸を整えるとさらにグゥに踏み込むように言葉を重ねる。 「そ、そんなことないって…オレだってグゥのこと、すげー興味深々ってゆーか…とにかく、気になってた。  …オレもグゥとほとんど同じだよ。グゥの身体見ちゃったあとも、ベッドでも、ずっとドキドキしてた」 「……ッッ!」 頭をポリポリと掻きながら、顔を真っ赤にしてぽつぽつと言葉を重ねるハレ。そんなハレの言葉1つ1つに、グゥの表情にあらゆる感情が灯る。 嬉しいような、悲しいような、困ったような、複雑な感情がぐるぐると体中を駆け巡っているようだ。 わたわたと狼狽するグゥの姿がまた物珍しくて、悪いと思いながらも苦笑してしまう。 グゥはしばらく顔を伏せたあと、感情を整理するように大きく深呼吸をすると、その感情を一息にごくんと飲み込む仕草をし、突然ふらりとハレに倒れ込んで来た。 「グ、グゥ…?」 向かい合った姿勢のままトン、と身体を預けられ押し倒されたハレは、そのまま身体の上に寝そべり真っ直ぐに見つめて来る少女の瞳に釘付けにされる。 そこには、いつもの不敵な輝きが爛々と蘇えっていた。 「…ハレはぶっちょー面の皮肉屋なんかに女の魅力なんて感じないんじゃなかったのか?」 「う…あ、あれはいつものツッコミだろ~…グゥもそんな台詞よく覚えてるな~」 突然の反撃。少し拗ねたような、それでいてどこか愉しんでいるようなその表情や声からは先ほどまでの暗い影は見当たらず、 いつもの調子が戻ってきているように見えた。 ただその少女の纏う空気は昨日までのそれとは違い、どこか暖かく、穏やかに感じられるのは己の気持ちに気づいてしまったが故の欲目というやつだろうか。 「グゥはハレにもらったものは全部大事に保管してるからな。ハレがグゥにくれた言葉もよく覚えているぞ」 「っ……!  お…お前なあ、いきなりそんなこと言うの卑怯だぞ…」 …どうやら、変わったのは自分だけでは無いようだ。グゥの中でも何かが吹っ切れたらしく、えらくこっ恥ずかしいことを言ってくる。 こんな言葉を年中交わしているとあるバカップルにはうんざりさせられたものだが、その言葉が自分に真摯に向けられるとこんなにも響きが違うものとは。 オレって単純だな、と思いつつ、つい心が小躍りしてしまう。さすがにあの2人みたいには出来ないけど、なんとなくその気持ちは解る気がした。 「と、とにかく…!その、オレもグゥにちゃんとオレの気持ち、伝えなきゃって思ったんだ。  ぜんぜん釣り合わないし、これでおあいこってワケにもいかないけど…さ」 言いながらハレは、恥ずかしさと先ほど自分がグゥに強いた行為による後ろめたさから、ついグゥから顔を背けてしまう。 そのままハレは動けなくなってしまい、ただグゥからの返答を待つ。 「………」 …沈黙が耳に痛い。この部屋に時計でもあれば秒針の音もしたのだろうが何故かそれらしいものは無く、どれだけこの沈黙が続いているのかも解らなかった。 恐らくは数十秒も経ってはいないのだろうが、それが何分にも何時間にも感じる。 沈黙に耐え切れず、グゥの方に向き直ろうとした矢先、不意に両頬に何かが触れた。 それがグゥの手であることを認識した瞬間、ぐりんと強引に顔をグゥの方に向き直されてしまった。 コキ、と首の間接の音が聞こえた気がしたが、気にしないことにしておこう。 …いや、たとえ首の骨が折れていたとしても、今はきっと気付かなかっただろう。 少年の身体の全神経は今、唇に集中しているのだから。 再びこの部屋は沈黙に包まれ、ん、ちゅ、という湿った音だけがかすかに響く。 先ほどのような激しいものとは違い、今は穏やかに互いが互いを求め合い、ちゅくちゅくとその唇を愛撫し合っていた。 すでにグゥの手はハレの頬から離れ、逆にその少女の頬に少年の手が優しく添えられている。 ──ハレにはこれが、グゥとのはじめてのキスのように感じた。 怒りに任せ強引に奪ってしまったそれと同じとは思えぬほど、その感触はずっと柔らかく、優しく、温かかった。 …どれだけの時間、そうしていただろう。二人は最後にくちゅ、とその唇を鳴らし、どちらからと言うでもなく自然にその顔を離す。 ハレは、ほのかに頬を赤く染め自分を見つめる少女の、その真っ直ぐな微笑みに抱かれ不思議な安らぎに身を包まれる感覚に浸っていた。 「…仲直り」 「…うん。ありがと」 本当の、仲直り。今やっと、本当にグゥと言う少女の心の入り口に立てた気がする。もっと…もっとグゥに近づきたい。 もっと、自分の知らないグゥを見付けたい。ハレの心が、一人の少女への想いで満たされていく。 …でも、足りない。心を満杯まで満たすには、まだまだグゥというパーツが足りない。少年はそれを埋めるべく、再び少女を求める。 少女は少し照れたような、困ったような顔を浮かべた後、静かにその瞳を瞑る。 二人はぺたんとベッドに尻をつけ、互いの両手をきゅ、と握り合った姿勢のままもう一度、優しく穏やかに口付けを交わした。
****ハレ×グゥ第1話.2(一:>89-96) <<1-6>> 「うわぉ、ゴージャス…」 屋根裏を見渡し、思わず感嘆の声を上げる。 さすがと言おうかやりすぎと言おうか、ただ閑散としてほこりまみれなだけだったはずの屋根裏部屋は見事に生活空間として改装… 否、改造されていた。 床にはぴっちりとふかふかのカーペットが敷かれ、壁際に大きな化粧台や箪笥が並んでいる。中央には背の高いテーブルに椅子が二対。 全てなんだか妙にお洒落で高級そうなデザインのものばかりだ。 さすがに電気機器の類は置いていないが、下手したらここはこの村で一番ゴージャスな部屋かもしれない。 その中でも一際目立つのがこの屋根裏のスペースの3割を占める巨大なベッド。 他のものに比べて装飾や色彩は地味ではあったが、シーツの生地の滑らかな手触りやマットの柔らかさは一階のものとは比較にならない。 ほのかに残る独特な香水の匂いは、確かに記憶にあるこの部屋の主のものと一致する。都会での日々を思い出し、少し感傷的な気分になる。 使用人の分際でなんて贅沢な暮らしをしていたのか…と妙な悔しさを覚たりもしたが、 しかしよくぞ残して行ってくれたという感謝の気持ちの方が今は遥かに大きい。 「ほらほらグゥ!すごいよこのベッド!」 ベッドの上でポヨンポヨンと跳ねるハレ。 確かに、単純にテンションも上がってはいたが、先ほどのことを考えると無邪気に喜んでもいれらない。 だけど今は、落ち込んでいるグゥを元気付けるために出来るだけ大げさにはしゃいで見せた。 「ほら、グゥも疲れたろ。ここなら保険医もいないしさ、ゆっくり寝よ」 「…うん。だがグゥはあっちで寝る」 そう言うと、すたすたとベッドの反対方向に歩いて行く。 そこには人一人分くらいのスペースにゴザが敷いてあった。そこだけ見事にカーペットが途切れ、ご丁寧にその一角を仕切るカーテンまで取り付けられている。 そこが誰の寝床だったかを考えると涙が溢れそうになるが、今は考えないでおこう。…とにかく、そんなところにグゥを寝させるわけにはいかない。 「駄目だよグゥ!せっかく良いベッドがあるんだからあっちで寝ようよ」 強引にベッドに連れ戻そうと、手をぎゅっと握る。 ──そう、ただ手を握っただけだ。それだけなのに…。 「ヒッ───!!」 耳に鋭い叫び声が響いた。グゥを掴んでいたはずの手は中空をさ迷い、なぜかジンジンと痛んだ。 一瞬、目の前の少女が誰なのか解らなくなった。 「グ、グゥ…?」 「い、いいから放っといてくれ…今は一人になりたいんだ」 聞いたことの無い声で、見たことの無い表情で、自分から逃れようとするこの少女をかつて自分がグゥと呼んでいた少女と 認識することに戸惑いを覚える。 こういう場合、しばらく言うことを聞いて一人にさせてやるほうが良いのかもしれない。でもこのグゥはちょっと異常すぎる。 どうしてもこのまま放って置いてはいけない気がした。 「いいからこっち来いよ!」 「やっ…!やだって言ってるだろ!!」 少女を力づくでベッドまで引っ張り込もうとするハレ。それを拒絶しジタバタと暴れるグゥ。 傍から見たら間違いなく誤解される上に釈明も出来ないような光景だったが、気にしてはいられない。 「ひゃっ──!?」 ハレは暴れるグゥの肩と両足を持ち上げ、両腕で抱きかかえた。いわゆる『お姫様だっこ』というやつだ。 グゥは見た目も小柄だが、その見た目から考えてもずっと軽い。 同程度の体格のハレでも小脇に抱えられるほどなのでこの体勢になるとほとんど抵抗が出来なくなってしまう。 「や、やめろ!降ろせ!降ろせー!」 「この…暴れるなって!!」 それでも必死でその腕から逃れようと身体をバタバタと揺する。 その姿にいつもの不敵さや嫌味なほどの余裕ぶりは微塵も感じられない。 「何がそんなに嫌なんだよ!そんなに嫌なんだったらなんであの時…!!」 なぜか、腹が立った。自分でも何に怒っているのかわからなかった。 こんなに嫌がっているんだ。一晩くらいそっとしておいてやった方が良いじゃないか。 確かに、普通ならそう結論付けるだろう。オレだってそうするはずだ。…それが、グゥ以外なら。 「なんであの時、そうやって保険医に抵抗しなかったんだよ…!!」 「───ッ」 自分でも驚くほど、大きな声が出た。 次の瞬間、その声に怯えるかのように全ての音が消え、ただ静寂のみがこの空間を支配した。 グゥの抵抗も止み、ただ怯える様に俯く。 …いつでも余裕で、何が起きてもぜんぜん動じなくて、オレをいじることばっか考えてて、口から出るのは皮肉ばかり。 でも、いつしかそんなグゥが側にいるのが当たり前になっていて。 なんでもいつもと同じ調子で話せて、なんでもその余裕な顔で聞いてくれる。 …オレは、グゥのそんなところがすごく安心できて、すごく大好きだったんだ。 それなのに、そんなグゥがこんなに…あんなやつのせいで、こんなに変わってしまうなんて。 「オレは…オレは誰だよ?オレはあんなやつとは違う。グゥを傷つけたりなんか…するワケないだろ?」 「…ち、違う…」 「それとも…オレってそんなに信用無いのかよ。グゥはオレのことそんな目で──」 「──違う!!」 キィンと、張り裂けるような鋭い声に言葉が遮られる。 ハレには、俯きの自分の胸に顔を押し当てているグゥの表情はわからなかった。ただ、その肩の震えだけが伝わる。 「違うんだ…」 「グゥ…一体、どうしたってんだよ…」 「………」 グゥはしばらく考えるように黙した後、観念したかのようにはぁ、と小さなため息を吐く。 その身体にはすでに力無く、ハレに身を任せるようにしなだれかかっている。 しかし表情を読み取られたくないのか、顔は頑なに俯いたままだった。 「ハレ…グゥは決してあいつに身を預けていたのではない。それだけは解って欲しい…」 「う、うん…言われなくても、わかってるよ。それは信用してる」 グゥは静かに、祈るように声を吐き出す。 その言葉に、当然だ、とは思ったが、その口からはっきりと言質を取れてほっとする。 しかしまだ全ての疑問は解消されていない。 少女の傷口に手を入れるようで心苦しく思えたが、納得しなければ気がすまない部分もある。 ハレはなるべくグゥを刺激しないように、話を先に促す。 「でも、いつからあいつにそうされてたのかは知らないけど、さ。なんで、あいつに抵抗出来なかったの?」 「…実は、あいつの手がグゥの身体に伸びてからハレが目を覚ますまで、1分も経っていないんだ。  ハレはグゥのピンチにすぐに駆けつけて、グゥを救ってくれたんだぞ?」 「そ、そうなんだ。でもあいつ、そんな短い間にグゥをあんなに…その、服まであんなに乱すなんて…やっぱり許せないよ…」 少し、安心する。時間なんて問題ではないとはいえ、10分も20分も長々続けられるよりはマシなはずだ。 1分足らずであそこまでするクライヴにも腹が立ったが、一気にあそこまで侵入されてはグゥも戸惑ったかもしれない、 となんとか納得出来る。 …だが、次のグゥの言葉でそれは撤回される。 「…あれは、自分でやったんだ」 「な──!?」 カッと頭に血が昇る。 まさか、自らクライヴの誘いに乗ったとでも言うつもりか。 「か、勘違いするな?あいつのためじゃないからな?」 「じゃ、じゃあなんで自分で…」 そんなハレの心を察したのか、すぐに訂正を入れるグゥ。 ハレはそれを聞きホっと胸を撫で下ろすが、また別の疑問が残る。 クライヴに関係なく、何のために自ら衣服を肌蹴させたと言うのか。 「…だから、それはその……間が、悪かったんだ…」 突然口ごもり、あとは自分で考えろ、とでもいいたげに、まるで謎かけのようにそれだけを言い黙り込むグゥ。 …ハレはこれまでの情報を元に思考を巡らせる。 クライヴに触られてるのに、何で自分で服をまくって……いや、違う。 普段ならグゥに手を伸ばした時点で、クライヴは朝まで目覚めない程度の直接的な抵抗を受けていただろう。 服をまくる以前の問題だ。 だとしたら、グゥは最初から服を肌蹴させていたってことだ。クライヴが触る前から…。 じゃあ何のためにっていったら…そりゃあ……。 「も、もしかして最初は一人で…その…」 女の子にこんなことを確認するのも気が引けたが、今更話を止めるわけにもいかない。 そんな失礼な質問にもグゥは素直に、ただ無言で小さく頷いた。 表情は見えなかったが、グゥの顔が押し当てられた部分に熱が灯るのがはっきりとわかった。 「────ッ」 言葉が詰まる。自分の体温もグゥと同じくらい上昇しているのがわかる。 まさか、グゥがそんなことをしてたなんて。 あのとき、現場を見た瞬間の勘違いもあながち間違いではなかったのだ。 少し起きるタイミングが早ければ、また今とは別の展開になっていたことだろう。 ただ、そちらの方がずっと穏便に解決できたであろうことが悔やまれた。 (でも…) そう…でも、それでも抵抗くらい出来るだろう。なぜずっとクライヴに好きにさせていたのか。 …その疑問を察したように、グゥがゆっくりと口を開く。 「ハレ、まだ忘れてないか、今日の風呂でのこと…」 「そ、そりゃ覚えてるけど…ちゃんと謝ったろ?」 ほんの数時間前のことだ。忘れようにも頭から消えてくれない。 …そう、思えば、あの時のグゥの様子も、何かおかしかった気がする。 「うん。それは素直に嬉しかったのだが…本当は気が気でなかったのだ。  …一体いつからあそこにいたのだろう、と」 「いつからもなにも、オレが脱衣所に入った瞬間グゥが出てきたんだよ。  の…覗いてなんかないからな」 「そうか…。しかし風呂から出たときは驚いたぞ。あの時は少しだが、声も出していたからな」 「声?」 回りくどい言い方に首を捻る。 しかし今度はこちらが考える暇も無く、少しの間を置いてグゥがすっぱりとこちらの疑問を解いてくれた。 「…あの時も、していたのだ。風呂の中で、一人で」 「───ッ」 またしても、言葉に詰まる。今日1日で2度そんな現場とニアミスを起こしていたと言うのだ。 「だからびっくりした。グゥが呼んだから、来たのかと思った。いつの間にか声が大きくなっていたのかとな」 「そ、それって…つまり…」 「ハレの名を…だ」 思考が乱れる。顔が火照り、どこまでも体温が上昇する。もしかしたら頭から煙の1つでも出ているのではないか。 つまり…だ。それってのはつまり…オレの名前を呼びながら、一人でシテいた…と? 「あの後、ハレの前で平静を装うのが大変だったぞ?」 (そんなの、オレだって…) そう、ハレとてあの時は、平静を装うのに必死だったのだ。 グゥも平気そうな顔に見えてはいたが、あの上気した顔は風呂のせいだけではなかったのかもしれない。 「だからハレが風呂に入った後すぐに枕になったんだ」 「そうか、枕に」 「ああ、枕に」 問題ない、問題ない。ここはスルーしていい場面だ。 もはやこの程度のことはツッコムに値しないことなのだと思っておきたい。 「でもそれじゃ…しつこく頼んだオレが言うのもなんだけど、あのまま枕に戻ってくれて良かったのに」 「それは…」 またも口ごもるグゥ。 (…ってかさっきからオレ、グゥに恥ずかしいことばかり言わせてる気がする) もう、これ以上聞くのはしのびなく思えてきた。 グゥがクライヴにされてたことが本意じゃないというのはもうはっきりと解ったのだし、この話はもう切り上げてもいいのではないか。 「なあ、もういいよ、グゥ。こんなこと、女の子に聞くことじゃ…」 「だめだ!…それじゃあグゥの気がすまない。ちゃんと話すから、聞いてくれないか」 ハレの気遣いは空しく、ピシャリと差し止められる。 グゥの、先ほどまでの狼狽が嘘のように凛とした眼光に見据えられ、ハレはそれ以上何も言う事が出来なくなってしまった。 「それに、ハレが悪いんだぞ。ハレがあんなこと言うから…」 「あんなこと?」 「…グゥと、一緒に寝たいって…」 聞いて、ボボ、とさらに顔が燃え上がる。もう煙どころじゃあない、額で目玉焼きでも焼けそうだ。 聞きようによっては、もう誘ってるとしか思えないような言葉だ。自分の軽率さに呆れてしまう。 「もうその後はハレに何を言われても恥ずかしくてな…顔を伏せたらハレにくっついてしまって…もうどうしたらいいか解らなくなった」 「グゥ…」 ハレは、グゥに今まで抱いたことの無い感情を芽生えさせていた。 あのいつも冷静沈着なグゥが、あのときの自分と同じ…否、それ以上に気持ちを昂らせていたというのだ。 鉄面皮と思っていた少女に隠された、実に女の子らしい感情に触れ、心が強烈な親近感で満たされて行く。 「結局、ハレが寝たのを確認してから顔を起こしたんだが…ハレの寝顔を見てたら…その」 「……」 一瞬、なぜそこで話が詰まるのか解らなかった。自分の寝顔なんぞに、そのような価値があるとは到底思えなかったからだ。 しかしグゥの沈黙が、何よりもハレの想像が正しいことを雄弁に語っていた。 …やっと、話の核心に入ったのだ。だがこのまま、グゥ一人に話を続けさせてはまた余計な恥辱を受けさせるはめになりかねない。 「…そしたら、保険医の手が?」 「……」 その部分はもう解ったから、と言うように、とりあえず話を先に進めようと誘導する。グゥもそれを察し、こくんと小さく頷く。 「…最初は、すぐ振り払おうと思ったんだ。でもハレにあんな姿、見られたくなかったからな…  なるべく気づかれぬようにクライヴを朝まで眠らせるつもりだった」 (…やっぱり) クライヴ本人にしても、その方がよっぽど平和的に解決されただろうに、と妙な同情心を覚える。 クライヴにとっても、やはり間が悪かったと言えるのだろう。 「しかし、その……」 「…?」 またも、妙なところで話が詰まる。今度はハレにもその理由がわからず。ただグゥの次の言を待つことしか出来なかった。 グゥはまた顔を伏せ、何かに堪えるようにググ、と身を強張らせると、意を決したように重く声を吐き出す。 「ハ、ハレのことを想いながら、ハレの顔を見ながらしていたから…その手が…ハレのもののように思えてきて…暫く浸ってしまったんだ…っ」 「……」 (なんだか、さっきからオレの中の「グゥから見たオレの評価」ってやつがぐんぐんとうなぎ上りに急上昇しているように感じるのだが……) あまりにも現実感が無さ過ぎて、本当の自分はまだ1階のベッドで普通に寝ているのではと思えてくる。 ただこれが本当に夢だったとしても、もうグゥに今までと同じ気持ちで接することは出来ないことは確かだった。 ハレの中の『オレから見たグゥの評価』も、同じように急上昇しているからだ。 それも、現在進行形で伸び率が上がっているのでは無い。 ただ、グゥに対する自分の本当の気持ちに気付かされてしまっただけなのだから。 「だから…決してあいつに、その身を委ねていたわけじゃ…ない…それだけは、解って欲しかった…ん…んんっ…」 「グ、グゥ?」 ──泣いているのか、と思った。 先ほどから押し殺すように重い声で喋っていたグゥだったが、ここに来て低い呻き声が混じり、身体を強張らせてぎゅっとしがみついてきたのだ。 しかしその様子は、ただ泣いているだけにしては少しおかしかった。 額に玉の汗を浮かべ、ふ、ふ、と小さな吐息を漏らす。自分の胸に埋もれた顔は、明らかに上気しているのがわかる。 …よく見ると、低いうめき声に合わせて腰がもじもじと動いていることに気付く。 そちらにふ、と目を向けた瞬間───ドクンと、視界が揺れた。 「グゥ、な、何やって…っ」 グゥは、ハレの身体に面している側の手を服の上から自らの股間にあてがい、密やかに指で秘所を擦っていた。 その動きに合わせ、しゅ、しゅ、という衣擦れの音が小さく聞こえる。 …眩暈がした。それはハレにとっては初めて見る光景だったが、容易に理解できた。 いつからそうしていたのか、グゥは、ハレに抱かれながら自分を慰めていたのだ。 「す、すまない…もうちょっとだけ、もうちょっとで終わるから…我慢…してくれ…」 ハレに気付かれたと解ると、ずっと悟られぬよう静かに動かしていたのであろうその指の動きを激しくさせる。 スカートの上から当てられていた指は、今はゴソゴソとその内部に侵入し更に敏感な刺激を与えている。 ちゅぐ、ちゅぐと粘液をこねるような音が周囲に響く。ハレは、ただその様子を凍りついたように硬直したまま眺めるしかなかった。 「んっふ、うんんっ……ふぁ…は、あ……っ」 「……っ」 もう誰はばかる事も無い、というように、押し殺していた声を開放し息を荒げるグゥ。 …眩暈が酷くなる。全身の力が抜け、立っていられない。不意にグゥを腕の中からずり落としてしまいそうになった。 ハレにしがみ付いている少女の手がそれを感じ、必死に服に爪を立てる。 「お願いだ、このまま抱いていて…これっきりにするから……すまない…すまない……」 …解らなかった。 グゥが何を言っているのか。なぜ泣いているのか。何を謝っているのか。自分はどうすればいいのか。 この少女に何を言えばいいのか。…何も考えられなかった。 ──ただ…無性に腹が立った。 ハレは突然、グゥを抱いたままドサ、とベッドの上に倒れ込んだ。 柔軟性の高いマットにその衝撃は吸収されたが、いきなりのハレの行動にグゥはフッ、と息を詰まらせる。 「ハ、ハレ…?」 グゥはハレに肩を抱かれたまま、あお向けに寝そべる状態になっている。 首の後ろに回された手は肩をがっしりとつかみ、身体を動かすことが出来ない。 グゥはぽかん、と少し不安げな表情でハレを見上げる。 「ひっ──!?」 突然、敏感な部分に刺激が入りビクンと身体を引きつらせるグゥ。 先ほどまで自分で弄っていた秘所に、ハレの指がぐいぐいと押し付けられているのだ。 ハレの予期せぬ行動に、グゥはカッと顔に血を昇らせ抵抗しようとするが、やはり肩を抑え込まれ身動きが取れない。 出来る事と言ったら、足をじたばたさせることくらいだ。 「やっ!な、なにを───んむぅっ!?」 足をぎゅっと閉じ抵抗するグゥに、静かにしろ、と言うかの様にその唇を奪う。 ただ自分の唇をぐいぐいと押し付けるだけの稚拙なキスだったが、グゥには効果覿面だったようだ。 すぐにその身体からは力が抜け、瞳をトロンととろけさせる。 頑なに閉じていた足も弛緩し、グゥの下半身はいとも容易くハレの手に落ちた。 「んっ…ちゅ、ん…ふんんっ……ふ…」 狭い空間に、グチュ、グチュと淫靡な音が響く。 秘所に直にあてがわれたハレの指が動くたびに、グゥはピクンピクンと身体を跳ねさせる。 下半身を保護していた薄布はすでに剥ぎ取られ、足首に申し訳なさげにひっかかっていた。 ハレの動きは、既に溢れ出ていた愛液を潤滑液にし、全体を揉みこねながらただズリュズリュと強引に肉を擦り上げるだけの 乱雑なものだったが、それでもグゥにとっては待ち望んだハレとの行為なのだろう。 ただハレに全てを任せ、ひたすらその快楽に身を預けている。 唇はなおもハレに奪われたままの状態だったが、今はグゥからも積極的にその唇に吸い付き、淡い感触を愉しんでいた。 ──だが、そんないじらしい少女の姿も、今のハレには不快に映る。 「ふんむぅ゛っ!?ふひゅっう゛う゛う゛う゛っっ!!」 急に、ハレの指の動きが激しくなる。 その動きはもはやただ激しいと言う言葉では済まされないくらい乱暴になり、もう揉んでいるのか抓っているのか、擦っているのか掻いているのかも解らない。 押し潰された柔肉は、その厚ぼったいほっぺに保護されていた粘膜を露出させ、赤くテラテラと光るその敏感な部分を直接こすり上げられてしまう。 あまりの強烈な刺激に反射的に足をギュッと閉じるが、まるで果実を絞るように次々とあふれ出す愛液の滑りでその侵略を妨げることが出来ない。 むしろ秘所に押し当てられた自らの足がなおその刺激を増幅させ、少女の下半身を焼き尽くして行く。 塞がれた唇の隙間からはコポコポと唾液が噴出し、ぎゅっと瞑られた瞳からも雫が零れる。 少女はハレの暴虐を、ただ黙って耐えるしかなかった。 「っはぁ…!  グゥは…グゥはいつだってそうだ!自分で勝手に何でも決めて、オレの事なんて考えないで…グゥは、自分さえよけりゃそれでいいんだろ!!」 「そ、そんな…そんな、ふあっ……つもり、じゃ…んんっ…!」 ぷは、と、ようやく唇が離れた…と思ったら、ハレの唇による責め苦は別の形でグゥに降り掛かる。 ──グゥは、一人で今日の出来事を全部背負うつもりだった。 自分に打ち明けた想いも、全部明日になったら、すっぱりと忘れたそぶりでいつものグゥに戻るつもりだったんだろう。 一人で、勝手に。…それが、許せなかった。 「…こんなにグチャグチャにして…!保険医にされてたときも、こうなってたんだろ!?オレのことなんか、ホントはどうだっていいんだろ!」 「…ち、違う…!ひぅぅっ…そんなわけ…ない…グゥはハレが…ハレのこと…っっ」 グゥへの責め苦に、なおも言葉を重ねる。 それを必死に否定するグゥの姿に愛おしさも感じたが、それに比例するようにグゥに対する苛立ちも増していく。 グゥが自分に好意を寄せてくれていることへの嬉しさがそのまま、 自分の手よりクライヴの手の方が先にグゥの身体を知ったことへの苛立ちという、身勝手な独占欲に塗り潰される。 たとえ自分と重ね合わせていたとはいえ、クライヴの指に一時でもグゥの身を奪われてしまったことは、今のハレには耐えがたい屈辱だった。 「うそ吐け…!オレの指、あいつみたいに上手くないからつまんないと思ってるだろ!?」 「そ、んな…はぁっ…ハレのが…いい……ハレじゃなきゃ…やだ……」 グゥは、今や完全にハレに従順になっていた。期待通りの返答を返すグゥに、ハレの支配欲が満たされる。 ハレの指は今も乱雑にグゥの秘所を蹂躙していたが、その動きは幾分優しくなり落ち着きを取り戻つつある。 グゥに対する理不尽な苛立ちも少しずつ薄れ、その感情を支配する天秤はただ愛情へと傾きつつあった。 「そう…オレにこんなことされるの想像しながら、一人でここ弄ってたんだな…勝手に人のことオカズにしてたんだな…!!」 「…や…あぁっ!…ご…ごめんなさい……うくっ……ごめんなざいぃ……」 ついに、グゥはぽろぽろと大粒の涙を零し泣き崩れてしまう。 ハレの腕の中で赤ん坊のようにハレにすがりつき、ただひぐ、ひぐと嗚咽を漏らす。 それでも、何も抵抗しない。ハレを拒絶もしない。 自分が何故こんな責め苦を受けているのかも解らないだろうに、少女はただハレの身に頬を寄せ、懺悔するようにその恥辱に耐える。 その姿があまりに痛々しくて、あまりに愛おしくて、ハレの心は何かが反転するかのように、ぐるんとその感情の色を変えてしまう。 「ハ…レ……?」 ハレは自分でも知らぬ間に、グゥの身体を力一杯抱きしめていた。突然のハレの変容に、グゥの涙もピタリと止む。 (グゥは、どうしようもなく一人なんだ。これだけ自分をさらけ出しても、これだけオレに責められても、自分一人の問題だと思ってるんだ。  オレは、グゥがいつまでもオレに心を開いてくれないことにムカついてたのか。  でもそれじゃ駄目なんだ…グゥには、オレから近寄っていかなきゃだめなんだ。  それなのにオレは自分のことしか考えずに、グゥに酷いことを…) ──刹那にして、あれだけ心を焼き尽くしていた炎があまりにもちっぽけなものになってしまった。 代わりに本来の、この少女に対する純粋な想いが津波のように少年の心に押し寄せる。 「…グゥ!!」 グッと、両肩を抱きまっすぐにグゥを見つめ、ハレは意を決したように、口を開く。 (…今度はオレが、懺悔する番だ。) 「…オレも、だよ」 「──え?」 「オレもグゥのこと、オカズにしてた…今日も、お風呂でグゥの裸思い出して……」 「……」 突然のハレの告白に、目をパチクリとさせ呆然とハレを見やるグゥ。 ハレにとっては華厳の滝からダイブするが如く勇気を振り絞った告白であったがしかし、グゥの耳には届いているのかいないのか、 ただぼう、と虚ろにハレを見据える。 「なん…で…?」 「へ?」 「…ハレは、グゥのことなんかぜんぜん興味無いと思っていた…」 グゥは本当に、一点の曇りも無くそう思い込んでいたのか、『信じられない』といった感情を満面に湛え、平坦な声でそう呟くように答える。 そんな様子にハレはあんぐりと呆けてしまったが、ごほん、と一つ咳を払い呼吸を整えるとさらにグゥに踏み込むように言葉を重ねる。 「そ、そんなことないって…オレだってグゥのこと、すげー興味深々ってゆーか…とにかく、気になってた。  …オレもグゥとほとんど同じだよ。グゥの身体見ちゃったあとも、ベッドでも、ずっとドキドキしてた」 「……ッッ!」 頭をポリポリと掻きながら、顔を真っ赤にしてぽつぽつと言葉を重ねるハレ。そんなハレの言葉1つ1つに、グゥの表情にあらゆる感情が灯る。 嬉しいような、悲しいような、困ったような、複雑な感情がぐるぐると体中を駆け巡っているようだ。 わたわたと狼狽するグゥの姿がまた物珍しくて、悪いと思いながらも苦笑してしまう。 グゥはしばらく顔を伏せたあと、感情を整理するように大きく深呼吸をすると、その感情を一息にごくんと飲み込む仕草をし、突然ふらりとハレに倒れ込んで来た。 「グ、グゥ…?」 向かい合った姿勢のままトン、と身体を預けられ押し倒されたハレは、そのまま身体の上に寝そべり真っ直ぐに見つめて来る少女の瞳に釘付けにされる。 そこには、いつもの不敵な輝きが爛々と蘇えっていた。 「…ハレはぶっちょー面の皮肉屋なんかに女の魅力なんて感じないんじゃなかったのか?」 「う…あ、あれはいつものツッコミだろ~…グゥもそんな台詞よく覚えてるな~」 突然の反撃。少し拗ねたような、それでいてどこか愉しんでいるようなその表情や声からは先ほどまでの暗い影は見当たらず、 いつもの調子が戻ってきているように見えた。 ただその少女の纏う空気は昨日までのそれとは違い、どこか暖かく、穏やかに感じられるのは己の気持ちに気づいてしまったが故の欲目というやつだろうか。 「グゥはハレにもらったものは全部大事に保管してるからな。ハレがグゥにくれた言葉もよく覚えているぞ」 「っ……!  お…お前なあ、いきなりそんなこと言うの卑怯だぞ…」 …どうやら、変わったのは自分だけでは無いようだ。グゥの中でも何かが吹っ切れたらしく、えらくこっ恥ずかしいことを言ってくる。 こんな言葉を年中交わしているとあるバカップルにはうんざりさせられたものだが、その言葉が自分に真摯に向けられるとこんなにも響きが違うものとは。 オレって単純だな、と思いつつ、つい心が小躍りしてしまう。さすがにあの2人みたいには出来ないけど、なんとなくその気持ちは解る気がした。 「と、とにかく…!その、オレもグゥにちゃんとオレの気持ち、伝えなきゃって思ったんだ。  ぜんぜん釣り合わないし、これでおあいこってワケにもいかないけど…さ」 言いながらハレは、恥ずかしさと先ほど自分がグゥに強いた行為による後ろめたさから、ついグゥから顔を背けてしまう。 そのままハレは動けなくなってしまい、ただグゥからの返答を待つ。 「………」 …沈黙が耳に痛い。この部屋に時計でもあれば秒針の音もしたのだろうが何故かそれらしいものは無く、どれだけこの沈黙が続いているのかも解らなかった。 恐らくは数十秒も経ってはいないのだろうが、それが何分にも何時間にも感じる。 沈黙に耐え切れず、グゥの方に向き直ろうとした矢先、不意に両頬に何かが触れた。 それがグゥの手であることを認識した瞬間、ぐりんと強引に顔をグゥの方に向き直されてしまった。 コキ、と首の間接の音が聞こえた気がしたが、気にしないことにしておこう。 …いや、たとえ首の骨が折れていたとしても、今はきっと気付かなかっただろう。 少年の身体の全神経は今、唇に集中しているのだから。 再びこの部屋は沈黙に包まれ、ん、ちゅ、という湿った音だけがかすかに響く。 先ほどのような激しいものとは違い、今は穏やかに互いが互いを求め合い、ちゅくちゅくとその唇を愛撫し合っていた。 すでにグゥの手はハレの頬から離れ、逆にその少女の頬に少年の手が優しく添えられている。 ──ハレにはこれが、グゥとのはじめてのキスのように感じた。 怒りに任せ強引に奪ってしまったそれと同じとは思えぬほど、その感触はずっと柔らかく、優しく、温かかった。 …どれだけの時間、そうしていただろう。二人は最後にくちゅ、とその唇を鳴らし、どちらからと言うでもなく自然にその顔を離す。 ハレは、ほのかに頬を赤く染め自分を見つめる少女の、その真っ直ぐな微笑みに抱かれ不思議な安らぎに身を包まれる感覚に浸っていた。 「…仲直り」 「…うん。ありがと」 本当の、仲直り。今やっと、本当にグゥと言う少女の心の入り口に立てた気がする。もっと…もっとグゥに近づきたい。 もっと、自分の知らないグゥを見付けたい。ハレの心が、一人の少女への想いで満たされていく。 …でも、足りない。心を満杯まで満たすには、まだまだグゥというパーツが足りない。少年はそれを埋めるべく、再び少女を求める。 少女は少し照れたような、困ったような顔を浮かべた後、静かにその瞳を瞑る。 二人はぺたんとベッドに尻をつけ、互いの両手をきゅ、と握り合った姿勢のままもう一度、優しく穏やかに口付けを交わした。 ****[[1>061231]]>2>[[3>061231_3]]>[[4>061231_4]]>[[5>061231_5]]

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