◆引きこもりの若者の就業体験、マイクロソフトが受け入れ
◇自信取り戻すきっかけに 「固定観念崩れ意欲持てた」/先生役にもいい影響
ニートや引きこもりの若者たちをインターンシップ(就業体験)で受け入れたり、正社員として採用する企業が出てきている。米マイクロソフト(MS)日本法人(東京都渋谷区)は昨年末、若者たちを1カ月間、インターンシップで受け入れた。職場で経験を積むことで、自信を取り戻し、働く意欲を持つのだという。MSの社員も、前向きな影響を受けているという。活動の様子をのぞいた。【中村美奈子】
高校卒業後、オンラインゲームにはまって都内の自宅に引きこもっていた本多祐樹さん(30)は昨年11月からのMSのインターンシップに参加した。12月半ばまでの間、マーケティング部門に配属され、先生役の松本雅紀さんの助言を受けながら同社の港区への移転に伴う資料整理やデータベース作成を担当した。
最初は「きちんとした言葉遣いをしないといけない」と考えすぎて、言葉が出てこなかった。しかし、インターン最終日の報告会で本多さんは「社会に出るのが怖かったが、実際の職場は明るくて雰囲気がよく、働く人は皆ピリピリしているという固定観念が崩れた。世界規模の企業に通うことができて自信がついた」と心境の変化を語った。さらに、「同年齢の人が働いているのを見て、悔しくなり、すぐにでもアルバイトを探して働きたい」と決意を示した。
大学卒業後、5年間自宅に引きこもっていた男性(27)は当初、自己紹介で自分の名前さえ言うことができなかった。しかし、営業部門の先生役の社員と取引先に同行したり、会議やITイベントに参加するうちに声が出るようになった。仕事にも慣れ、社内の宴会やカラオケにまで参加するようになった。
この取り組みは、MSが首都圏のNPO法人と連携して10年から実施している「若者UPプロジェクト」の一環。同社はこれまでにも、農家の主婦やDV(ドメスティックバイオレンス)の被害女性にITスキルを身につけてもらう就労支援事業に取り組んできた。引きこもりなどの若者を対象にしたインターンの実施は今回が初めてで、首都圏に住む26~30歳の男性6人を受け入れた。インターン後は本多さんら5人がアルバイトなどを見つけて、働き始めた。
先生役を務めた松本さんは「助言すると『はい、わかりました』と素直に返事をして、すぐ実践する。私たちもあのくらいピュアでなければ、と思った」と話し、受け入れ側にもプラスの効果があったようだ。同社の伊藤ゆみ子法務・政策企画統括本部長は「ビジネスでは組織内が同質になりがちだが、違う立場の人を受け入れることで、社員も自分を見つめ直す機会になった」と語る。
また、ITネットワーク事業のアイエスエフネット(東京都港区、従業員約1700人)は雇用による社会貢献を企業理念に掲げて、00年の創業当時から、10代後半から30代後半のニートや引きこもりの若者たちを、正社員として採用している。パソコンの知識がない人でも、基礎から教えてネットワークエンジニアとして育成するという。管理部門の正社員として働くようになった元引きこもりの若者もいる。本橋誠採用推進部長は「本人の意欲さえあれば、未経験者でも働くことができる」と語り、仕事の経験がない若者でも、やる気さえあれば積極的に採用する方針だ。