昨年末、メディアでも頻発していた「派遣切り」という言葉。不況になると、必ず見直されるといっても過言ではないのが「派遣労働者の雇用」です。
とはいうものの、職場は仕事の分業化がすすみ、事務系・販売系、エンジニア系など幅広い職種で派遣社員(スタッフ)が活躍しています。もはや正社員だけでは会社がまわらないのが実態です。その結果、派遣社員と正社員が隣同士で席を並べて一緒に仕事している職場は珍しくはありません。
しかし、雇用形態の違う社員同士が一緒に働くことは、様々なギャップを生む原因となります。では、どのようなギャップが生まれているのでしょうか。今回は、お互いのおかれた状況を踏まえて、日常起きているギャップとその解消法について考えてみましょう。
派遣社員は常に正社員とのギャップを感じている
近年「新入社員の3割が3年以内に辞める」とよく言われていますが、派遣スタッフが1つの会社で仕事をするのは平均すると半年以内。つまり、同じ職場で3年働く可能性はほとんどありません。
それは、企業も、働く派遣スタッフも短期間の仕事依頼が前提となっていることが大きな原因です。そのため、正社員のように育成機関はなく、職場環境にすぐ慣れることも含めた“即戦力”としての活躍が期待されます。会社によって職場の雰囲気や仕事の依頼の仕方もまちまちですから、派遣スタッフは『環境適応力』が求められる仕事と言えるかもしれません。
また、10年前と比較して派遣可能な業種や職種は拡大しています。企業はコスト削減のため、事務系職の採用などを取りやめ、その業務を派遣スタッフに移譲し始めました。そのため、派遣スタッフが正社員と同じ机の並びに席を置いて仕事をしている職場も増えています。
先日、お邪魔した食品商社の職場では、貿易事務や受注登録関係の派遣スタッフと正社員が机を並べて仕事していました。職場を眺めると誰が正社員で誰が派遣スタッフか見分けはつきません。
昔は多くの企業で、事務系社員は制服、総合職社員は私服と分かれていました。特に金融機関や大手メーカーなどで多く見られました。しかし、最近は雇用形態を服装で見分けるのは不可能です。
このように、今や一目では正社員との違いがわからない派遣スタッフですが、雇用形態は正社員と大きく違います。派遣スタッフは、大抵3ヶ月に1回のペースで、派遣元と働く職場(派遣先)の仕事を継続するか否か、の面談をします。
そうした面談の機会に、
「職場環境に不満があるから契約延長したくない」
と申告して職場を変えることを繰り返している派遣社員も少なくありません。
「職場環境に不満があるから契約延長したくない」
と申告して職場を変えることを繰り返している派遣社員も少なくありません。
中には、「正社員の転職回数と違って、派遣先の数が増えると経験が豊富だと次の派遣先で時給が上がるかも」と考え、職場を転々とする方もいらっしゃるかもしれません。
一方で、職場をドンドン変えることを望んでいるスタッフばかりではありません。長く同じ職場で働くことを望むスタッフも少なくないのが現状です。
「職場を変えると、何かと面倒だから…」
と、正社員志向ではないものの同じ職場での契約延長を望むスタッフもたくさんいます。ところが不思議なことに、長く同じ職場で働くことを望むスタッフに限って、正社員との距離を置く傾向が出ています。
と、正社員志向ではないものの同じ職場での契約延長を望むスタッフもたくさんいます。ところが不思議なことに、長く同じ職場で働くことを望むスタッフに限って、正社員との距離を置く傾向が出ています。
派遣スタッフに聞くところによれば、
「正社員が派遣スタッフに対するデリカシーが低いから」
とのこと。どうやら、お互いの間には“見えざるギャップ”があるようです。では、このギャップの本質について掘り下げていきましょう。
「正社員が派遣スタッフに対するデリカシーが低いから」
とのこと。どうやら、お互いの間には“見えざるギャップ”があるようです。では、このギャップの本質について掘り下げていきましょう。
「長く働きたいから…」正社員との距離を置きたい
大手リース会社で働く派遣スタッフの女性Cさんは、営業部の事務として仕事内容に大きな不満を持つことなく1年近くを経過しました。働く前に聞いた条件と仕事内容は相違なく、残業もゼロに近いので、仕事上の不満はほぼ無い状態です。ところが、仕事を離れた人間関係で多少の悩みを抱えています。それはプライベートでの正社員と距離の置き方です。
Cさんはこれまで、職場の飲み会や休日のレクレーションのお誘いを受けると、
「田舎の家族が上京しているので」とか
「急に妹が風邪をこじらせたて、看病しないといけないので」
と断っていました。
「田舎の家族が上京しているので」とか
「急に妹が風邪をこじらせたて、看病しないといけないので」
と断っていました。
ところが実際、このような理由や用事はありません。断るために“ウソ”をついているのです。Cさんは、ウソをついていることに心痛めているのですが、お誘いを断ると、
「今回は参加出来ないのですね。残念です。では、次回は絶対に参加してください。楽しみにしています」と言われ、毎回断ることが難しい状況になってきました。
「今回は参加出来ないのですね。残念です。では、次回は絶対に参加してください。楽しみにしています」と言われ、毎回断ることが難しい状況になってきました。
さて、職場で普通に仕事をするだけなら大きな不満は無いにも関わらず、何故誘いを断るのでしょうか?
それは、
「正社員の人は、派遣スタッフの気持ちがわからない」
と日々感じているからだといいます。なので、「正社員が近づいてくると、避けてしまう」との答えが返ってきました。
「正社員の人は、派遣スタッフの気持ちがわからない」
と日々感じているからだといいます。なので、「正社員が近づいてくると、避けてしまう」との答えが返ってきました。
更に、お誘いに対して、
「いかに気分を害さないように断るのか、考えるのに一苦労」
と本音を話してくれました。やはり、この職場では正社員と派遣スタッフの間に見えざる大きなギャップ生じているようです。では、何が原因でギャップは生じてしまったのでしょうか?
「いかに気分を害さないように断るのか、考えるのに一苦労」
と本音を話してくれました。やはり、この職場では正社員と派遣スタッフの間に見えざる大きなギャップ生じているようです。では、何が原因でギャップは生じてしまったのでしょうか?
正社員には“思いやり”と“デリカシー”が無い?
正社員と派遣スタッフには、雇用環境に大きな違いがあります。まず、正社員が給料制であるのに対し、派遣スタッフは時給制です。また、福利厚生の仕組みは正社員だけが対象ですし、(派遣元で準備していますが)目先の待遇面で比較してみると正社員の方が優遇されているのは明らかです。
さらに、景気が不透明な昨今のような状況だと
「今後も派遣で働いて、仕事があるのか不安を感じる」
など、比較的長期的な雇用の守られた正社員のワークスタイルが「うらやましい」と感じる派遣スタッフは増えています。
「今後も派遣で働いて、仕事があるのか不安を感じる」
など、比較的長期的な雇用の守られた正社員のワークスタイルが「うらやましい」と感じる派遣スタッフは増えています。
ところが正社員の多くは派遣スタッフの苦悩に気づかないため、一緒に長時間いると派遣スタッフが傷つけられるような発言がボンボン出てきます。
「今年のボーナスで何を買おうか?」
この発言もボーナスの無い派遣スタッフにすれば嫌味に聞こえる可能性があります。
この発言もボーナスの無い派遣スタッフにすれば嫌味に聞こえる可能性があります。
また、、
「会社の積み立てで社員旅行に行くのだけど…」
「福利厚生費で飲み会企画したので参加してね」
「福利厚生費で飲み会企画したので参加してね」
などと、正社員には当たり前でも、派遣スタッフには無い特典に気づかないで“KYなお誘い”を平気でする人もいます。こうした正社員の感覚が「耐えられない」と感じる気持ちを助長させてしまうのかもしれません。
更に、Cさんのケースの別の職場で、正社員が取り返しのつかない爆弾発言をしたことで、派遣スタッフをひどく傷つけたという事件がありました。
言われたこと以上を期待されても困る派遣スタッフ
ある中堅の広告代理店での話です。入社3年目で正社員のGさんが派遣スタッフに仕事を依頼しました。
「この資料を今日中に1枚にまとめてくれる?」
と10枚ほどある会議議事録を渡しました。この議事録を経営会議に提出するためにまとめてほしい・・・という依頼です。
「この資料を今日中に1枚にまとめてくれる?」
と10枚ほどある会議議事録を渡しました。この議事録を経営会議に提出するためにまとめてほしい・・・という依頼です。
ところが、派遣スタッフが議事録を読んでみると、1枚にまとめることがかなり難しい内容でした。会議の議題が5つあり、討議の内容やメモされた内容を整理してみたところ3枚にまとめるのが限界でした。その派遣スタッフの方は大いに悩みました。
案1:内容の一部を飛ばして、1枚にまとめる
案2:依頼内容を無視して、2枚以上で整理する
案2:依頼内容を無視して、2枚以上で整理する
選択肢は2つありますが、依頼した社員は外出して連絡がつきません。派遣スタッフは依頼趣旨を忠実にこなすべく、多少は内容を飛ばして1枚にまとめました。
時刻も夕方になりGさんが帰社しました。メールを開くと依頼した1枚の資料がスタッフから添付で送られていました。添付内容を開封して確認したところで、Gさんは顔を赤くしてスタッフに近づき、叱り始めました。
「君、この内容じゃ意味無いよ。幾つも議事録の内容が飛ばされているじゃないか。1枚が無理なら2枚以上になってもよかったのだし。それくらい考えて欲しいな。」
努力して1枚にまとめたにも関わらず、お叱りを受けてしまったのです。更に、
「言われた通りにすればいいとは限らないのだぞ。少しは考えて仕事してくれよ」
「言われた通りにすればいいとは限らないのだぞ。少しは考えて仕事してくれよ」
このGさんの一言で、派遣スタッフの心は大変傷つきました。
「派遣スタッフとして仕事を全うしていることをわかってくれない」
これが本音です。
これが本音です。
ところが、周囲にいた正社員の同僚も派遣スタッフに対して何のフォローも行いませんでした。いや、フォローが無かったのではなく、正社員の1人がこの派遣スタッフに対して、
「次からはもっと考えて仕事してくれればいいから」
と的外れなフォローをしただけでした。
と的外れなフォローをしただけでした。
この出来事は派遣スタッフと職場との関係を決定的に悪化させる出来事となり、この派遣スタッフの方は数週間後に契約満了前に職場を離れました。
派遣スタッフの役割を理解することができるか?
正社員であれば、言われたこと以上の成果を期待することは決して無謀ではありません。それは、お互いが長期間同じ職場で働く前提、仕事を職場で学びながら成長する前提・・・が正社員にはあるからです。ただ、雇用形態の違う派遣スタッフが正社員と同じ価値観で働いていると考えるのは大間違いです。
「正社員と同じ仕事の仕方を求められても困る」
これが派遣スタッフの本音です。期間を定めて限定された仕事をする立場からすれば【業務範囲】があいまいな仕事ほど困ります。正社員が依頼した仕事を柔軟にこなして当たり前と期待するなら、お互いの立場にギャップが大きく開くことは間違いないでしょう。
{正社員:派遣スタッフに的確に指示をする
派遣スタッフ:指示された仕事を的確にこなす}
派遣スタッフ:指示された仕事を的確にこなす}
この関係が前提です。
ギャップが生まれないために大切なのは、正社員が派遣スタッフの状況を把握して仕事を依頼することです。ときに同じ職場で仕事していると、雇用形態の違いを忘れてしまいがちです。ですが、雇用形態が違えば仕事に対する価値観は大きく違ってきます。この点を気をつけさえすれば、同じ職場でもお互いを思いやり、円滑に仕事をしていくことができるのです。
ソース:Diamond Online http://diamond.jp/series/imadoki/10009/
【コメント欄】
- それくらいで傷付いてやめていては、仕事はできない。正社員でも強く言われれば傷つくし、言われたとおりにやって怒られれば嫌なこともある。 -- 名無し (2011-11-24 10:56:18)