「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 魔法少女銀河-22

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【不思議少女シルバームーン第九話 第一章「異形」】

「エレベーターは止まっているか……。」
「そうみたいね。」
「魔女のおねーさんよぉ」
「え、なぁに?」
「これから階段上って上行きたいんだけどさあ。」
「うん。」

 爆音が鳴り響く。
 上の階に到達すると同時に戦闘に巻き込まれる可能性がある。
 上田明尊は冷静に判断した。

「前言撤回だ、やはり下準備をしてから上に行くぞ。
 お互いに能力を確認しておこう。カイトちゃん……だったっけ?
 男みたいな名前だな。」
「あはは……気にしないで。」
「そうだな、名前なんて些細なことだ。
 それでもまず自己紹介、俺の名前は上田明尊。
 事情が有って身体が滅茶苦茶丈夫。
 最近まで契約していた都市伝説を無くしてしまって今は蜻蛉切と正宗の二重契約。
 正宗の加護によるバリアと村正の加護を受けた蜻蛉切による必中の投擲が武器だ。」
「私はカイト・クローバー。
 どこにでも居る普通の魔女よ。
 得意なのは雷を呼んだりする呪文と……薬の生成とか得意ね。
 惚れ薬から毒薬までなんでも来いよ。
 今は心の力も回復させる薬が四本有るわね。」
「回復薬はありがたいな、どれほど消耗するかも分からないし。」
「じゃあお互いの手持ちの戦力が解ったところで……」

 二人は階段を駆け上がる。
 生き物の気配の感じられないビルの中に二人の足音だけが木霊する。

「待って待って!そこの君たち!」

 大量のイルカ兵士が彼らを取り囲む。
 階段の上と下を完全に塞がれてしまった。

「この能力…………ドクか!」
「イエス!やはり裏切ったみたいだねシンクタンク!」
「裏切ってなど居ない!最初からお前らの味方だった覚えもない!」
「へー……そう。」
「ちょっと、あいつは何の能力もってるのよ!」
「あいつは放射能で生き物を改造する能力を持っているんだ。」
「ふーん……サンジェルマンの劣化かしら。」
「そんなところだ。」
「シンクちゃん、君と仲良くしていた双子の子供が居たよね!」
「だからどうした!」
「あの子達も今このビルに居るんだけどさ……見てよこれ。」

 ドクと名乗る少年が懐から突然生首を取り出す。

「これ、なーんだ?」
「貴様!」
「か、勘違いしないでよね!やったのは僕じゃない。
 ―――――侵入者だよ。」
「ここは戦場だ、油断した……そいつらが悪い。」
「シンクちゃんひっどーい。」
「貴様こそ死体を冒涜するとは中々残忍ではないか。」
「うん、それなんだけどね。」

 突然生首から身体が生える。
 只の身体ではない、見慣れた人間の胴体に蜘蛛のように手足が八本。
 化物だ。

「そこらへんに転がっていた都市伝説と融合させちゃった。」

 明尊は顔面を蒼白にしてその場に立ちすくむ。
 いくら修行を積んだ才能ある戦士であっても彼はまだ中学生。
 こんな悍ましい物を見て平気で居られるわけがない。

「キシャアアアアアアアアアアアア!」

 “それ”は人間とは思えない奇声をあげて近くに居るイルカ兵士を喰らい始める。

「リゾートバイトって怪談が有ってねえ。それを模倣した人工都市伝説さ。
 僕達を裏切ったことへの仕返しだと思って精精楽しんでよね。」

 そういってドクはその場から逃げ出す。
 立ちすくんだ明尊に伸びる異形の手足。
 カイトは素早く雷を呼び出してその手足をはじき飛ばす。

「…………。」
「明尊くん!」
「…………。」

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出すイルカ兵士。
 だが次々と影のような物に囚えられて捕食される。
 捕食された後からは次々とイルカ兵士に似た真っ黒い影が生み出される。
 カイトの目にチラリとうつむいていた明尊の表情が映る。

「なーんでこうなっちゃうかなあ……。」

 戦意喪失。
 よりによってこのタイミングで。
 明尊は才能も、努力も、追随を許さない戦士である。
 しかしながらその精神は、恵まれすぎた環境と才能故に、あまりに脆かった。
 今の彼には何も見えない、何も聞こえない。

「タスケテ……タスケテ……」
「助けて欲しいなら襲いかかって来ないでちょうだい!
 魔術結界展開!」

 カイトが魔術で結界を形成して蜘蛛の化物を押しとどめている。
 だがしかし、先程の植物の破壊に心の力を使ったせいで全力を出し切れていない。

「明尊くん!早く目を覚ましなさい!このままじゃ私たちやられちゃうわよ!」
「俺は…………!俺は…………!
 俺は悪くない、俺は悪くない、でもそれでも……!」
「明尊くん!」
「え?」

 蹲る明尊の襟を掴みカイトは彼の顔を自らの側に引き寄せる。

「何を……むぐううううううううう!?」

 カイトは明尊を抱きしめて彼の唇をおもいきり吸う。
 明尊は突然の甘い髪の香りと柔らかな唇の触感に戸惑う。
 視界が開ける。
 自らが今何処にいるのかを認識する。

「あれが貴方の仲良しだったかなんだったかは知らないけど!
 それが戦わない理由になるの?
 仲が良かったんなら……切りなさいよ!
 切ってあげるのが情けでしょう!
 ああなってしまったら!ああいうふうになるしかなかったなら!
 こんな所で萎えてるんじゃないわよ!それでもあんた男なの?」
「え、あ、う……ごめんなさい。」
「どうやら正気を取り戻したようね。」
「お、おかげさまで……。」

「タスケテ……」

 異形は涙を流しながら周囲のものを手当たり次第壊して回っている。
 見るに耐えない。
 明尊も正直耐えられない。
 でも、それでも彼は戦わなければならなかった。
 彼自身も戦おうと思った。
 上田明尊の本性は善、救いを求めるものを見捨てるなんてできない。

「聞こえるわね!あの子の声!」
「はい!」
「助けを求めているわね!」

 黒い影が二人めがけて殺到する。
 カイトの結界が打ち砕かれる。

「正宗!」

 影から二人を守るようにして刀から白い光のカーテンが現れる。

「蜻蛉切!」

 明尊の右手から黒い光が一筋の矢のようになって放たれる。

「キシャアアアアアアアアアアアア!」
「邪魔しちゃ駄目駄目!来なさい守護霊!」

 イルカの姿をした影が蜻蛉切と異形の間に立ちふさがる。
 しかしそれを薙ぎ払うようにしてカイトの召喚した蛸の使い魔が蜻蛉切の道を作っていく。

「鞭!鞭よ!しなっちゃうわあん!」

 八本の手足を奮って蛸に対抗する異形。
 その隙間を縫って蜻蛉切が異形の額に飛翔する。
 だが異形はそれを易々躱して明尊へも襲いかかる。

「危ない明尊くん!」

 カイトは咄嗟に明尊をかばおうとして……

「いや、大丈夫ですから。」
「ですよねー」

 明尊に止められた。
 明尊は自らに伸びる異形の腕を掴みとり、握りつぶす。
 激痛に悲鳴をあげる異形。

「今だカイトさん!」

 躱された筈の蜻蛉切が空中で向きを変える。
 それと同時に蛸の八本の手足が異形を絡めとる。

「タスケ……」

 音もなく、貫く。
 “それ”は本来の子供の姿に戻りながら光の粒になっていく。

「安らかに眠れ……。」
「今は祈っている暇もないわ。急ぐわよ。」
「はい!」

 こうして二人は再び階段を駆け上がり始めた。




――――――――――――――――――――――――――――





「……さて、設置完了。」

 眼の前には時限爆弾。
 彼女の上司である上田が組織の研究所の協力を得て自ら作成した時限爆弾。
 通称“紅薔薇”
 この薔薇はシンプルな爆発ではなく爆縮を起こし、周囲に損害を起こさずして建物を完全破壊することを目的にしている。
 また、機動と同時に周囲に高濃度の魔力を垂れ流しにすることによって、
 悪魔系統の都市伝説と契約していない人間や通常の都市伝説に強烈な中毒症状を引き起こす能力もある。
 これは笛吹探偵事務所に所属する多くの人間が悪魔系統の都市伝説と契約していることから発想された彼なりのアレンジだ。
 魔力は数分で大地に吸収されるので爆発時に側に居なければ何ら問題は起きない。
 魔女などであればむしろ爆発直後には膨大な力を使えるという意味ではユニークな兵器であると言えるだろう。

「タイマーは正午……二分前。」

 霧雲霙は奇しくも明尊達にあの異形をけしかけたドクの部屋に入り込んでいた。
 理由の一つは爆弾の設置、ここが丁度爆縮させるのに丁度いい場所だったのだ。
 そしてもう一つはサンジェルマンの依頼で彼の持つ人体実験のデータを盗むことだ。
 爆弾さえ設置できてしまえば霙の仕事は半ば終わったようなものだったので行きがけの駄賃というやつだ。
 両親の治療費もあるし金は稼いでおくに越したことはない。

「おい霙、F-No.の管轄地域での戦闘の形勢が怪しくなってきた。
 ネバーランドの奴らが山林に潜んでゲリラ戦を挑んできたせいで動きが全く取れない。
 この調子だとお前の脱出の際のオペレーションができなくなるかもしれない。」
「え、ちょ、勘弁して下さいよ!?」
「このままだとサンジェルマン辺りが『枯葉剤つかってぶっぱぶっぱwwwww』とか言い出しかねん!」
「あ、そりゃ洒落になりませんね。
 でもラプラスによる支援があってこその私の潜入っぷりなんですけど。」
「ああ、そういうと思ってもう一つラプラスの魔を用意した。」
「へ?」
「ああーもしもし、聞こえてますか。」
「……え?」
「ラプラスの魔の契約者であるルル=ベルちゃんだ。
 ほら、挨拶はどうした?」

 何故だか橙の声が楽しそうである。

「先日は調子に乗った振る舞いをしてしまい申し訳ございませんでした。
 罪滅ぼしに精一杯支援させて頂きますのでどうかお赦しくださいませ……。」
「いやいや……え?」
「はっはっはー、こいつは捕虜にして私とサンジェルマンが洗脳してやったのだよ!」
「橙さん、私に事情を説明させてください……。」
「ぬふふふふ、橙さんでなくお姉様と呼んでもいいのだぞ。」
「え、なにその唐突な姉妹設定、何処の魔法少女ですかあたし聞いてない。」
「まあ黙って聞いてやれ霙、とりあえずあいつは前話したとおりシバキ倒してやったからおとなしいもんだぞ。
 ほーらこんなことしても……」
「きゅい!?何処触ってるんですか橙さん!」
「ふわっふわだなあおいこら!もっと揉んでやるよひゃっはー!
 抵抗したらどうなるか解っているんだろうなあ?」
「ひっ……ぐすっ……あぅっ!」
「すげえ!橙さんってゲス野郎だったんだ!(驚愕)」
「はっはっは!それほどでもないぞー!」
「と、とにかく……私がネバーランドに居たのは……」

 ルルは洗いざらい自らの事情を橙に話す。
 最初は訝しんでいた彼女も根が情にもろいためか途中からは割と聞き入っていた。

「ルルさん……あなた苦労人なのですね。」
「うぅ……。」
「オペレートの変更は了承してもらえるか?」
「まあF-No.の犠牲者が増えてしまうのもあれですし、爆弾はもう仕掛けましたから。」
「オッケー、それじゃあその前にルルと組んで敵を一体倒してもらおう。」
「へ?」
「聞いて霙ちゃん、一分後にその部屋にドクって少年が入ってくるわ。
 そいつは生き物を改造して都市伝説兵器にしちゃう危ないやつだから即座にぶっ殺しちゃって。
 入り口にワイヤーでブービートラップ作って、転んだら即座に四肢を落としてぐるぐる巻きにしばってから適当に拷問かけちゃって。
 そうしないと自分の体を改造して襲いかかってくるから。」
「わ、解りました。」
「隠れる場所は……そうね、天井に貼り付ける?」
「はい。」
「じゃあそこでお願い。」

 霙は即席の罠を扉に設置し始める。
 それが終わると彼女は靴に隠された特殊なスパイクを使って天井に張り付いて息を殺す。
 しばらくすると白衣の少年が中に入ってきた。
 携帯電話で誰かと話している。

「ああ!解ってるよ!もう足止めはした!
 君のお目当てのスバルだったかももう倒したんだろう?
 じゃあ君の計画はほぼ成功したものだろうさ。
 これで僕も僕の理論が実証されるのかと思うと……え?
 用済みってどういうこ―――――」

 それと同時に扉に仕掛けられていたワイヤーがドクの足に絡みつく。
 霙は天井から飛び降りて額をしたたかに地面に打ち付けたドクを踏みつける。
 そして予め準備していた拳銃で彼の関節を撃ち、ナイフで床に釘付けにする。

「ぎゃああああああああああ!」
「やれやれ……ルルさんこんな感じですか?」
「ああ、それでいい。」
「その声はルル!?お前なんで……始末された筈じゃ!?
 くそっ!侵入者がいたぞ!誰か!誰かこい!」
「安心しろ霙、そいつはもうとっくにジャックに見捨てられている。」
「え?」
「ジャックはな、研究者ってのが大嫌いなんだよ。自分の親友を人体実験の実験台に使われたからな。」
「なんだ、急造のコンビにしてはいい仕事じゃないか。
 お前ら明尊さえ居なければ結構仲良くやってけるんじゃないの?」
「…………。」
「…………。」
「あ、ごめん余計なこと言っちゃったね。私F-No.の支援行ってくるわ。」
「くそっ!なんで誰一人としてこっちに来ないんだ!」
「とりあえず霙ちゃん、そいつ黙らせて。」

 霙はドクの顔面を蹴り飛ばす。

「そいつ、ジャックの計画に使われる都市伝説能力増幅器の開発に携わっていた筈なんだ。」
「ま、待ってくれルル=ベル!僕達仲間だったよな!?」
「それを聞き出せばいいんですね?」
「ええ。そいつはクソ外道だからどんな方法で話させても構わないけど……。
 時間の都合上十分で全部こなしてくれるかしら?」
「くそ、こうなったら能力で……!」
「霙、爆炎でそいつの全身焼いて細胞の変化を止めてから、骨を一つ一つ爆発させて。
 それで全部吐くわ。」
「なるほど……。」

 霙は迷うこと無くドクの身体に爆炎を叩きつける。

「というわけです、命乞いして死にますか?それとも死を懇願して死にますか?」

 霙はそれはそれは愛らしく微笑んだ。

――――――――――――――――――――――――


 さて十分後。
 霙は部屋から出て明尊やカイト等の奮戦により無人になっていた廊下を歩いていた。

「ル、ルルさん?」
「な、なんでしょうか?」
「私別に気にしてませんからね?敵と味方だったからあれってだけですし……。」
「いやでも私が撃っちゃったのは事実で……」
「今はそういうの言いっこ無しでいきましょう!」
「は、はい。」
「ちなみにルルさん幾つですか。」
「一応十五です。」
「じゃあ私のほうが年下なんでタメで良いですよ。」
「ま、まあぼちぼちそうしてみます。」
「ちなみに私は次にどちらに行けば良いですか。」
「橙さんだったらこのまま退避を命令するんでしょうけど……。」
「けど?」
「最上階に行ってください。十一時半くらいに到着すれば完璧だと思いますから。」
「解りました、じゃあルート指示お願いします。」
「はい、まずは先ほどきた道を引き返してエレベーター用の通路から行きましょう。
 そこだと敵も居ないし貴方のラペリングの技術で十分登っていけると思うんで。」
「了解です。それじゃあボチボチ行きますか。」

 かくして霙は最上階へと進む。
 残る役者は後一人。

【不思議少女シルバームーン第九話 第一章「異形」】

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