「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 舞い降りた大王-X03

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hayata0328

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~~~黄泉への道~~~


 死にゆくものが通る道。

 今、ギリシャ神話が死の神・タナトスと会話している少年、黄昏正義は、この道の果てへと歩もうとしていた。



タナトス「―――少女からの伝言は伝えた。少年の伝言も必ず伝えよう。
     私から渡すものも、もう無い。せめて案内だけでもさせてくれ。」
正義「うん、ありがとう。一人じゃ不安だもんね。」
タナトス「安心しろ。【閻魔大王】も悪い人ではない。
     悪人には厳しいが、少年のような人間なら親しく接してくれるだろう。」
正義「そうなんだ。へぇ……。」
タナトス「……妙に意外そうだな。そんなに【閻魔大王】に恐ろしい印象があるのか?」
正義「ううん、タナトスが他の都市伝説と仲がいいって事に驚いてた。」
タナトス「あぁ。……おかげ様でな。」



 タナトスには気付かれなかったようだが、一番の不安は、勇弥達の安否だった。
 しかし、いつまでも地上の事を気にしてはいられない。
 また会う日まで、こちらの世界で暮らしていこう。正義は心の中でそう誓った。

 気持ちを新たに、正義は早く行こうとタナトスを急かす。
 タナトスは正義に微笑みかけた……。






 次の瞬間、タナトスの表情が変わり、ある方角へ向きを変える。
 正義もそちらを覗くが、何も感じ取ることはできなかった。

正義「……どうしたの?」
タナトス「恐ろしいほど膨大なエネルギーだ。この黄泉という異世界でも感じられるほどに。
     いったい、外で何が起きている……?」












~~~世界~~~


 正義のやり残した事を。
 【太陽の暦石】を倒すため、いや、麻夜を救うため、勇弥達は今、戦闘を決意した。
 しかし【太陽の暦石】が呼び出したジャガーの群れが、勇弥達の行く手を阻む。

 勇弥達は3つに別れて戦闘を開始する。



勇弥「さてと、こいつらの処理が先だな。」

 ジャガーの大群が勇弥を睨みつける。しかし勇弥は気にもかけず、自分の周りに0と1の線を引いていく。

勇弥「よし、ざっとこんなもんだな。」
ジャガー「「グワァァァ……!」」

 ジャガーの大群が勇弥に跳びかかる。無数の鋭い爪や煌めく牙が勇弥に襲いかかる。

 その瞬間、ジャガー達の周りが大爆発を起こした。煙が晴れると、そこには見るも無残な姿のジャガーの残骸が残っていた。


勇弥「言い忘れていたが、俺の前にある空間に近づかない方が良いぞ。
   その辺りの窒素の発火点は、黄リンのそれと同じ摂氏30度に変えさせてもらった。
   少しの摩擦で発火する温度だ。ん、もう手遅れか。」

 知能のほどは不明だが、この惨状を目の当たりにし、勇弥との戦闘は不利と判断したのだろう。残ったジャガーは目標を奈海や楓に変更し、走っていく。

勇弥「あ、大事なことを言うの忘れていた。」

 勇弥がそう言いかけると同時に、ジャガー達はまた爆発に巻き込まれた。

勇弥「お前達の左右にも、全く同じ処理を施した空間があるぞ。
   下手に動かない方が……。まったく、人の言うことを聞かない困ったやつらだ。」



―――その頃、楓は。

 ジャガーに囲まれ、圧倒的に不利な状況に見える。

楓「どうした?それが精一杯か?」
ジャガー「「グルルル……!」」

 しかしこの状況で、楓は一切の攻撃を受けずに今まで立ち回っていた。
 楓の腕時計は、ただ刻々とカウントダウンを続けていた。

楓「“3、2、1”カウントオーバー。一気に決める!」

 腕時計が電子音を鳴らす中、楓は攻撃を始める。
 まずはジャガーを1匹、上空へ投げ飛ばす。
 投げ飛ばされたジャガーはそのまま落下し、受け身も取れずに他のジャガーへと激突する。
 同時に、その激突による衝撃が何倍にも増幅され、またもやジャガー達を吹き飛ばす。

楓「まだだ!」

 やっと身の危険を察知した一部のジャガーは、逃げようと身を翻す。
 しかし楓はその隙を与えなかった。
 楓は4匹のジャガーに狙いを定め、柔道とは異なる構えで構える。

楓「十文字流……奥義!」


楓「壱!」
ジャガー「ぎゃん!」

 まず懐に入ってきたジャガーに。

楓「弐!」
ジャガー「グォン!」

 次に左手より攻めてきたジャガーに。

楓「参!」
ジャガー「ギュイ!」

 さらに上空より襲い掛かってきたジャガーに。

楓「四!」
ジャガー「ぎゃん!」

 最後に右手より牙を向けてきたジャガーに、正拳突きをした。

楓「南十字正拳!」

 そう叫んだ瞬間、4体のジャガーが吹っ飛び、それに他のジャガーも巻き添えを食らう。
 そしてそれらの衝撃はすぐさま何倍にも増幅され、ジャガー達は完全に沈黙した。



勇弥「十文字さん!助けに……来る必要はなかったか。なんだ、さっきの技は?」
楓「十文字家は星に由来する。4つの星が最も空で輝く星になるようにと
  十文字家は4つの道を別々に歩み、極める事になった。……ご先祖様の遺志でな。」
勇弥「じゃあ、十文字さんのお父さん以外にも、3つの道場があるって事か?」
楓「あぁ。柔道以外の、な。……おっと、心星はどうした?」

勇弥「やべっ、そっちを優先するべきだった。コインちゃんもいるから大丈夫だと思うが……。」
楓「冷静さを失って、無理をしていなければいいが……。」
勇弥「……急ごう!」



 勇弥達は全力で奈海の方へと向かう。

楓「な、なんだ、これは……?」
勇弥「な、奈海は……!?」

 そこには、筆舌に尽くしがたい光景が広がっていた。
 ジャガーの群れがただ苦しそうに横たわって、もがくものもいれば固まったものもいた。
 勇弥達の目には、その辺りだけ空気がどんよりとして濁っているように錯覚して見えた。

 その地獄のような光景の向こう側に、奈海はいた。
 ただ、ゆっくりと、前進していた。

楓「心星!」
勇弥「待て十文字さん!行っちゃだめだ!」
楓「なっ!?いったいなんだ日向!」
勇弥「『疫病』だ!あの付近では疫病が蔓延している!」
楓「なんだと!?」

勇弥「おそらくコインちゃんの呪いで免疫力を低下させたんだ。
   おまけにジャガーに同士討ちをさせて、より病原体が成長しやすい環境になっている。
   奈海にそこまで考える事はできないだろうから、
   ただ我武者羅にやって、ああなったんだろうけどな。」
楓「信じられん……。」

勇弥「俺や十文字さんよりも倒してるぜ、これは……。
   病原菌の駆除はオレの手で何とかするよ。十文字さんは行くか?」
楓「いや。あまり能力を連発すると、長い時間力を蓄える必要があるからな。
  すぐにでも駆けつけたいが……なにより、かけてやる言葉がない。」
勇弥「……まったく、揃いも揃って危険ら連中だぜ。」



―――その頃、奈海は。

 ただ一点を見つめて、一歩、また一歩と進んでいく。
 その先になるのは怨念か、復讐か、いや―――『希望』。
 その望みのため、彼女は自分の全てを懸ける。

コイン“「奈海、本気でやるの?」”
奈海「可能性は0じゃないんでしょ?ならやらなきゃ、後悔する。」
コイン“「……分かった。」”

 【太陽の暦石】は今にもローゼの息の根を止めようとしていた。

奈海「待ちなさい!」

 そう言いながら、奈海は『コインシューター』の引き金を引く。
 その銃口から十円玉が飛び出し、【太陽の暦石】へと向かってゆく。
 十円玉は【太陽の暦石】の鎧に命中したが、カンと空しい音を立てただけで地面に落ちた。

麻夜「小娘か、まだうろついていたとはな。」
奈海「……。」

 奈海は黙々と銃の部品を組み替える。
 いつの前にか、拳銃のようなサイズから一回りも大きい銃へと変貌していた。
 そのシルエットはまさに……ガトリング銃と呼んでも差し支えない。

奈海「空間転送式・反動制御装置付きのなんちゃって機関銃よ。
   一秒間に二千円の出費だけど、勇弥くんの口座から出てるらしいから
   十時間は撃ち続けても怒られないかしらね……。」

銃口を【太陽の暦石】に向け、息を整える。

奈海「……いっけぇぇぇ!」

 引き金を引いた瞬間、一斉に大量の十円玉が銃口から飛び出す。
 しかし、奈海の腕は反動によって押されそうになったり、何故か逆に引かれそうになった。
 その度に照準がブレてしまい、乱れ飛ぶその様はまさしく十円玉の波。

奈海「ああああああ、何が『反動制御装置』よ!すっごくブレるんですけど!」
コイン“「全くブレないって意味じゃないから!それが無かったら持てないんだからね、その銃!」”
奈海「あぁ痛い!でも、これだけ撃てば!」

 反動のせいで照準が定まらずとも、コインの能力で十円玉は標的を狙い続ける。
 地面にぶつかる、相殺し合うなどで推進力を失わない限り、十円玉は【太陽の暦石】を目掛けて飛んで行く。

麻夜「その程度では我に傷一つ付けられんぞ。」

 そのまま【太陽の暦石】は十円玉の波に飲まれていった。
 そのまま数秒経ったかと言う時に、奈海はやっと引き金から指を離した。

奈海「くっ、つぅ……。」

 十円玉が止まり、だんだんと十円玉が地面に落ち、積もっていく。
 そこには……予言通り、傷一つ付かずに立つ【太陽の暦石】の姿があった。

麻夜「終わりか?」
奈海「……えぇ、終わりよ。あなたのね。」

 ふと、【太陽の暦石】の様子がおかしくなる。何か苦しんでいるように見えなくもない。ただ若干震えながら、固まっていた。

麻夜「小娘……いったい何をした?」
奈海「呪いをかけたのよ。あなたじゃなくて、麻夜ちゃんにね。」



 除染活動をしながら、遠巻きに眺めていた勇弥達は、やっと奈海の狙いを理解していた。

勇弥「なるほど、麻夜ちゃんか!」
楓「力が強くて呪いが全く効かないのは【太陽の暦石】であり、
  契約者とはいえ一般人の彼女には呪いは有効!考えたな。」
勇弥「よし、さっさと除染を終わらせて、応戦しに行くぜ!」



麻夜「くっ、動け……!」
奈海「無駄よ、いくらやっても。これで……勝てる!」

 奈海は勝利を確信し、銃口を【太陽の暦石】に向ける。【太陽の暦石】はただ動かない身体を必死に動かそうとしていた。






麻夜「なんちゃって。」



奈海「え?」
コイン“「奈海!危ない!」”



 コインの声に反応して、ふと上空を見ると……火球が奈海に目掛けて降ってきていた。



麻夜「第三の破滅……『トロメア』。」



 とっさにコインが突き動かし、間一髪で避ける事ができた。

奈海「きゃあ!……そんな、いつの間に……。」
コイン“「奈海、怪我はない!?」”



 呪いの効果が切れて動けるようになった【太陽の暦石】は、満足げに微笑む。



麻夜「……予言通り。」



 奈海はとっさに銃を構え、引き金を引く。しかし十円玉を数十発放った後、動かなくなった。

奈海「え、そんな……!?」
コイン“「さっきの衝撃で壊れたの!?」”

 かろうじて飛んだ数十発は、【太陽の暦石】に避けられ、当たったのは鎧のみだった。

麻夜「小娘、さっきの虚勢はどうした?」
奈海「くぅ……。」

 もう打つ手もない奈海に、【太陽の暦石】はゆっくりと迫ってゆく。
 奈海は先端部分を捨て、元の拳銃型に戻す。
 そして後退しながら、1発、また1発を撃つ。
 しかし【太陽の暦石】に命中してしまい、麻夜にはどうしても届かない。

麻夜「そろそろだな。」

コイン“「奈海!上!」”

 言われた通りに上空を見ると、またもや火球が落ちようとしていた。それも、先ほどのように1つではなく、流星のように多くの火球が。

奈海「コインちゃん!」
コイン“「うぅ、こっち!」”

 コインに突き動かされながら、奈海は火球から逃げ回る。
 常に数秒前にいた場所に火球は落ち、一瞬でも遅れたらと奈海の精神を削っていく。






 もう、体力も精神も使い果たしてしまったのだろう。






奈海「きゃあ!」
コイン“「奈海!」”






 奈海は足首を挫き、その場に倒れてしまった。

 その上では、火球が奈海を目掛けて降ってくる。



楓「1!」

 その声と同時に、火球の動きが止まる。

勇弥「奈海!今の内だ!」



 勇弥の声に反応し、奈海は這うように進んでいく。
 ただ、とてもではないが3秒では足りそうにない。



楓「(こうなったら一か八か、もう一度15秒コースだ!)2!」
勇弥「(くっそ、焦るな焦るな焦るな何も考えずに!範囲指定間に会え!)」



 奈海も立ち上がろうとするが、何もかもがボロボロだった。
 もう何も、彼女には残されていない。



楓「(カウント、耐えてくれ!)3!」
勇弥「(集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ!)」



麻夜「絶望する期間が数秒長くなっただけか。」



“COUNT OVER!”
楓「(しまった!ジャガー戦で使い過ぎた!?)」
勇弥「(くっそぉ間に合わねぇ)ちっくっしょおおおおお!」










麻夜「第三の破滅……『トロメア』。」










 火球は地面についたと同時に爆発した。



 そこへ追い打ちをかけるように、もう1つ火球が落ちてゆく。



 爆風による砂煙のせいで、周りは全く見えなくなった。



 だが、結果は見えていた。






麻夜「………やひゃっ………やっひゃひゃひゃひゃひゃ……。
   全て予言通り。お前達の力なぞ、我の前では塵に等しいということだ。」






 高笑いする【太陽の暦石】。その惨状を前に、楓は膝から崩れ落ちた。

楓「守れなかった……。心星も、黄昏も……。もう、どうする事もできないのか……。」
勇弥「じゅ、十文字さん……。」










勇弥「あれ……。」






楓「……あれは……!?」






麻夜「………やっひゃひゃひゃひゃひゃ………やひゃっ……。」






 砂煙が晴れていくと、そこには――――――






―――真っ赤なマントをたなびかせ―――






―――頭にはきらびやかな装飾の王冠をかぶり―――






―――まさにその様は、どこかの王のようだった―――










―――その腕には、火球から助からなかったと思われた奈海がいた―――










―――奈海は目を開けると、その王の顔を見て―――










―――静かに、こう呟いた―――




















奈海「……正義、くん……?」















正義「奈海……。」






―――ただいま―――






マヤの予言編第X3話「サトリ」―完―



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