「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 舞い降りた大王-X02

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hayata0328

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タナトス「遅かったか。」

 正義が息を引き取ってすぐに、どこからか【タナトス】が現れる。

勇弥「タナトス……!」
楓「タナトスさん。」
奈海「タナトス。どうしてここに……?」

 タナトスは正義の亡骸を見つめていた。

タナトス「既に逝ったか。もう少し早ければ……。」
大王「……正義……。」

勇弥「今頃来やがって……。お前が来てたら、まだ助かったかもしれないのに……。」
奈海「勇弥くん……。」






勇弥「そうだ、お前が消えれば……。」

奈海「ッ!!?」
コイン「ちょっと、勇弥くん!?」
楓「日向、それは……!?」



―――【タナトス】の伝承はとても少ない。
 タナトス自身、【死神】のイメージを高めて【死神】の力を手に入れたほどである。

 だが、数少ない元々の設定に、こんなものがある―――



―――【ヘラクレス】に奪い返された話や、冥府に運ぶはずのシーシュポスに騙されて取り押さえられ―――






―――それからしばらく、『人が死ねなくなった』―――






 勇弥は空気の形状と性質を剣のそれに変換し、振りかぶる。
 その刃は、少し動かせばタナトスの首を刎ねかねないところまで近づいていた。

楓「タナトスを封印すれば、この世の人間すべてが『死ねなくなる』。
  そうすれば黄昏も死なないかもしれないが……。」
奈海「正義くんのために、他人を犠牲にするつもり……?そんなの八つ当たりだよ!」
コイン「それに、倫理的かは分からないけど、病気なんかで酷い苦痛を受けている人はたくさんいるの。
    そんな人達まで、死ねずに苦しみ続けることになるのよ!」

 勇弥の眼は、タナトスを見ているというより、虚空を見つめているように見えた。

タナトス「気が晴れるならやるがいい、元々そのつもりで来た。だが今やっても少年は帰ってこない。」
勇弥「何……?」
奈海「どういう事?」

 勇弥が剣を下し、ゆっくり退く。

タナトス「私がここへ来たのは他でもない。
     少年が助かる方法を見つけるまで、俺を半殺しにしてもらうためだ。」
楓「そんな……黄昏のためだけに……?」
タナトス「しかし少年はもう黄泉への道を歩み始めた。ここから還すのも不可能ではないが
     この状態の人間を呼び戻すのは冥府ではルール違反となっている。
     例え恩人やその友と言えども、それに逆らうのは無理な願いだ。」
奈海「……うぅん、良いの。他にも亡くなった人を生き返らせてほしいって願う人はいるもの。
   私達だけ、特別にだなんて。言えるわけないよ。」
タナトス「……すまない。では私は少年の元へいく。最期に礼をしなければな。」
奈海「あ、あの!」

奈海「正義くんに、―――って、伝えてくれませんか?」
タナトス「……それだけでいいのか?」
奈海「本当は、卵焼きでも焼いてあげたいんだけど、今すぐは無理だし。」
タナトス「……そうか。」

 タナトスは正義を抱かえ、自身の白い翼を広げる。

タナトス「最後のチャンスだ。今から私を追えば、正義を助ける事もできるかもしれないぞ。」
奈海「早く行って。そうしないと私達、あなたをコロしかねないから。」

 タナトスは、微笑むような、悲しそうな顔をして、飛び立とうとする。
 しかしふと止まり、振り返って呟くように話す。

タナトス「……最後に言い訳をさせてくれ。私が遅れた理由は2つある。
     1つは、神にとっての時間の流れは人間よりも遅い。
     単純に寿命で考えても解るだろう。それ故に反応が遅れてしまった。」
コイン「もう1つは?」
タナトス「……モイラ様の予言では、正義は死から逃れるとなっていた。
     私はそれを聞き、注意が疎かになっていた。
     いや、これは言い訳にもならないな。」
コイン「あいつは『予言通り』って言ってた。あいつは【モイラ】の予言より上をいってるの?」



タナトス「……既に、『神』を超えているかもしれん。」



 ぼそりと呟き、タナトスは大空へと飛び立った。あっという間に、その姿は空へと消えていった。



楓「……本当に良かったのか?」
奈海「さっきも言ったでしょ。特別扱いはよくないって。
   それにさ……そんなやり方って『不正』じゃない。」
コイン「奈海……。」

 勇弥はしばらくうつむいたままだった。
 ふと振り返ると、うずくまるように嘆く大王の姿があった。

大王「お前はどんな事態にも屈せず、己の信念を貫いていただろう?
   そんなお前が、こんなところで……!
   正義……これがお前の『夢』の果てだというのか……!?
   お前の『正義』はこんなものなのか……!?」

 不意に、勇弥は大王を殴りつける。大王の身体は、簡単に地面へ倒れた。

コイン「ちょっ!ちょっと勇弥くん! なんなのよ!」
楓「大王様! 大丈夫ですか!」
勇弥「らしくねぇぜ、大王さん! アンタらしくねぇ!」

 普段なら、大王の怒りを買って恐ろしい事態となるであろう状況だった。
 しかし大王はそのまま勇弥の言葉に耳を傾けた。

勇弥「大王さん、あんたタナトスにこう言ってたよな。『お前は未来を恐れている』って……!
   【死神】が人間の未来を恐れているなら、
   世界を滅ぼそうとしている【太陽の暦石】は、『世界の未来』を恐れているんじゃないか!?
   予言なんて、情報をまとめた結果出た1つの可能性に過ぎない。
   少し情報が増えたり、変わったりするだけで、予言は大きく狂っていくはずだ!」
大王「……。」
勇弥「正義は死んだんじゃない、未来を救ったんだ!
   たしかにたった1人かもしれない、しかしそれが未来を大きく変えるかもしれない!
   奈海に、コインちゃんに、俺に、陰に、十文字さんに、カウントに……
   オレ達にはまだ、できる事が何か残っているはずだ!
   大王さん、こんなところで嘆いている場合じゃないだろ!
   一緒に見せつけてやろうぜ! 世界の、未来を!」



奈海「大王さん……!」
コイン「大王……!」
楓「大王様……!」



 しばらく顔を上げていたが、また大王はうつむいてしまった。
 勇弥は、【太陽の暦石】のいる方を見、大王を措いて駆けてゆく。
 奈海達は大王を気にかけながらも、勇弥を追いかけていった。



――――――



 勇弥達の目の前には、ジャガーの大群が立ちはだかっていた。
 その向こう側では、赤い閃光が惑うように点滅して見えた。
 【太陽の暦石】はあそこにいる。考える必要はなかった。



勇弥「なぁ、差し支えなかったら教えてほしいんだが……。」
奈海「え?」
勇弥「正義は最期に、なんて言ったんだ?」
奈海「……あぁ、そうね。」



(正義「やくそ、ま、れなッ。」ゴホッゴホッ! )



奈海「たぶんだけど―――」












~~~黄泉への道~~~


 人が命を落とすと、逝くべきところ。

 逝くべき場所は3種類。



 1つ、死後の楽園。天国、極楽。善人はそこで永遠の命を得る。


 1つ、死後の監獄。地獄、煉獄。悪人はそこで永遠の裁きを受ける事になる。


 1つ、無。ただ、何もない世界。そこに送られたものは、完全に消え失せる。



 その世界へ続く道。その3つの門を守るのは、多くの都市伝説たち。

 【閻魔大王】率いる【鬼】たち、【ハデス】が総べる地の世界が待つ地獄の門か、
 【仏陀】や【大天使】が守る、神や仏が待つ天国の門か、
 はたまた、それらを信じず目にする事ができないものが開ける事になる、無の世界への門か。



 そこへ、成人にもなれない少年が1人、朦朧とした意識で歩いていた。






 どこからか、その首を狩らんとする巨大な鎌が現れる。






タナトス「エウタナジア、少年。」
正義「『良い死を』か。君らしい挨拶だね。」

 今から冥府の審判を受ける少年、正義は、タナトスの言葉で改めて意識を取り戻す。

正義「ここは……?ボクは死んだんじゃなかったの?」
タナトス「いや、残念ながら死んだ。ここは冥府への道。
     この果てで審判を受け、お前の逝く世界が決まる。」
正義「そう……天国か地獄かって事?」
タナトス「あるいは『無』。お前なら天国に行けるだろうが……。」

 そう言いながらタナトスは懐から何かが書かれた紙を取り出す。

タナトス「これを持って行け。これがあれば、おそらく天国へ逝けるだろう。」
正義「いいの?こんな事して、怒られたりしない?」
タナトス「安心しろ。それ自体が貰い物だ。……少年のおかげで
     こちらの世界にも知り合いができてな。その知り合いから貰ったんだ。」
正義「へぇ……。」
タナトス「少年には返せないほどの恩がある。
     本当は助けたかったんだが、こんな事しかできない。」

 なら、と微笑みかけながら正義は願いを言う。

正義「じゃあ、勇弥くん達と戦ってよ。タナトスがいれば心強いよ。」
タナトス「……それはできない。」
正義「……ごめん、いくら恩と言っても、『もう世界に介入しない』なんてルールは破れないか。」
タナトス「違う。私達は既に【太陽の暦石】と戦い……負けたのだ。」
正義「……え?」

 ふとタナトスの目を見つめる。その瞳にはその時の状況が映っているように見えた。

タナトス「最初は私1人で立向かった。ギリシャの神の代表として、な。
     しかし結果は惨敗。奴の能力の前に手も足も出なかった。
     【クロノス】のおかげで助かり、そのまま全ての神が対峙した……。
     が、逃げるのがやっとだった。」
正義「そうか……。予言と言えばモイラだけど……。」
タナトス「モイラ様は戦士ではない。対抗できるとは言い切れない。」
正義「……分かった、ありがとう。」

 また黄泉の道へと戻ろうとした時、ふとある事を思い出す。

正義「あ、そうだ。1つお願いしていいかな?」
タナトス「……可能な事なら。」
正義「奈海に言いたい事があったんだけど、ちゃんと言えなかったから。
   それだけ伝えてくれないかな。」
タナトス「その程度でいいのか?」
正義「うん。」
タナトス「……よし、では内容は?」






正義「『約束が守れなくてごめん。今までありがとう。』って。」












~~~世界~~~


勇弥「―――『約束』?約束ってなんだ?」
コイン「私も知らない。私と契約する前の話?」
奈海「うん、もうずっと前の話よ。」



(正義「ナミちゃん、ボク、おおきくなって つよくなって)
(   ボクが ナミちゃんを 守ってあげる。ずぅーとね。」)



奈海「憶えてて、くれてたんだ……。」



 最初、正義くんが戦っているところを見た時、私は嬉しかった。
 正義くんは私との約束を憶えていて、そのために強くなろうとしているんだと思って。

 でも、時間が経つと、だんだんそれが不安に変わっていった。
 急にちゃん付けで呼ばなくなったり、少しツンケンしだしたり、戦いや修行に夢中だったり……。
 それにもう昔の話だったし、正義くんは忘れてしまってたんじゃないかと、ずっと思ってた。

 そして今日、こんな形で、憶えていてくれた事を知った。
 嬉しい以上に、悲しかったから……。






 何が「約束を守れなかった」よ!私だって―――






(奈海「なにいってるのよ、チビすけの くせに。フフフ。)
(   じゃあ、せいぎくんが おとなに なるまで、わたしが しっかり まもってあげる。)



(正義「チビすけじゃない!すぐ おおきく なるもん!」)
(奈海「わかった。じゃあ きょうも、のこさず しっかり たべるのよ?」)
(正義「はぁーい。」)



(奈海「……やっぱり まだまだ こども じゃない。」ボソッ)






―――私だって、約束を守れなかったじゃない!



 まだ高校生にもなってないのに。早すぎるよ、正義くん。



 ずるいよ、私を守って死んだくせに、ごめんなさいだなんて。
 今になって気付いたの。私は正義くんに守られ続けてきたって。
 ずっと、私が正義くんを守っていたと思ったのに。



 私はずっと、正義くんの笑顔に、支えられて、守られていたんだね。






 ごめんね、正義くん。



 でも、最後の言葉が『ごめん』だなんて辛すぎるから……。
 最後の最後に、変なわがままして、ごめんなさい。正義くん。






―――ありがとう―――






楓「日向、心星!」
勇弥「ん!」
奈海「え、はい!?」

楓「ボク達は黄昏にはなれないだろう。どれだけ頑張ってもな。
  それだけ、黄昏のやってきた事は、難しい事だったからだ。」
勇弥「……。」
楓「ボク達はきっと少しだけでも、黄昏の影響を受けたところがあると思う。」



勇弥「あるぜ!」


―――正義がいなければ、今頃オレは―――



奈海「決まってるじゃない。」


―――正義くんのおかげで、私は―――



コイン「私も、かな。」


―――今思い出すと、昔の私って憎たらしかったなぁ―――



楓「無論、ボクもだ。」


―――黄昏のおかげで、今のボクがいる―――



楓「だから、『正義』の遺志を継ごう。
  黄昏の言葉を、願いを、いつまでも胸の中に留めておこう。
  いつかきっと、それに救われる日が来るだろう。」

奈海「……うん!」

コイン「心配しなくても、忘れる方が難しい頭だから。」

勇弥「言われなくとも!」






勇弥「ところで、終始一人称が『ボク』でした。」
楓「あ。」

奈海「……もう『ボク』のままで良いんじゃないかしら。」
コイン「最近はボクっ娘というものが流行ってるらしいよ。」
楓「よし、明日から考えておこう。」
勇弥「明日、か……。」






 ふと、コインが辺りを見まわる。

コイン「大王、来ないね。」
楓「大王様、大丈夫でしょうか?」
奈海「勇弥くん、言い過ぎたんじゃない?」
勇弥「大王さんがあの程度で挫けるわけ無いだろ。」

 その言葉を聞き、全員が勇弥の方へと視線を向ける。

勇弥「はっきり言って今のオレ達では【太陽の暦石】は倒せない。
   『さらに麻夜ちゃんを助ける』なんて、以ての外だ。
   正義がいない今、そういう作戦を立てる事ができるのは、大王さんだけだ。」
奈海「……そうね。今までそういうところ、正義くんに頼ってたし。」
勇弥「きっと大王さんなら、いざって時に助けてくれるさ。」

 すると、コインが覗き込むように勇弥の顔を見て話しかける。

コイン「だからって、八つ当たりした言い訳にはならないよ。」
勇弥「……。」
コイン「勇弥くんだって、あの時泣きたかったんでしょう?
    ずっと、正義くんのそばにいたかったんでしょう?
    でも、正義くんなら『世界を守る』方を優先する。
    だから、自分の気持ちを押し殺して……。」
勇弥「……理屈では分かっていても、本能は従ってくれないものだな。」

 恩というのはどう返せばいいのか。
 ただ延々と泣いていれば恩返しになるのか、違う。
 そう分かっていても、今も眼の前がぼやけて見えなくなりそうになる。

 でも、もう心は揺るがない。勇弥は、心の中で大王に謝罪と感謝の念を送った。

奈海「倒さなきゃね、正義くんのためにも。」
勇弥「あぁ!」
楓「また、明日を迎えるために!」












大王「……俺に、できる事……?」






―――そうだ、まだある―――












―――俺にはまだ、『力』がある―――






マヤの予言編第X2話「ケツイ」―完―



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