「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 舞い降りた大王-06

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Retsuya

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これは正義達が小学5年生から6年生になろうという、春休みの頃のお話。

勇弥「よし、今日もパトロールだ!」
正義「おぉー!」
奈海「またやるのぉ?飽きないわねぇ。」

彼らはパトロールを行っていた。歩道で騒いでも許されるのは、その実績と正義がいるおかげだろうか。
しかし、奈海だけは不機嫌な様である。

奈海「年に4体とか言っときながら、去年も結局あまり出なかったじゃない。」
勇弥「ちょっとサバを読んだかな。調子が良いと4体出るんだぞ。」
正義「平和が1番。それに都市伝説を倒すだけがボク達の仕事じゃないし。
   去年は盗難事件10件、強盗1件、あとは迷子20件と」
奈海「もういい、分かったから。でも都市伝説の相手するのが契約者の仕事じゃない?」
勇弥「まぁどちらにせよ、人の役に立っているならオレは良いんだけどな。」

笑いながら勇弥は言う。それを後押しするのか、嘲笑するのか、勇弥の言葉に【恐怖の大王】が続く。

大王「全く、少女のおかげでどれほど迷子の相手が楽になったか。」
奈海「え、前からやってたの、このパトロール!?」
勇弥「あぁ、2年生の時からだな。あの頃は大変だったなぁ。」
大王「何時間もかけて親やペットを探すんだからな。おかげでいい運動だよ。」
正義「そういえば、2年生の時は4体出たよね。」
勇弥「ん、【テケテケ】【トコトコ】【赤マント青マント】【注射男】・・・だな。」
正義「あぁ【テケトコ】、元気かなぁ。」
奈海「・・・もぅ、なんであんた達そんなに都市伝説を相手にしているのよ!
   あーぁ、都市伝説出てこないかなぁ。」

寂しく感じたのか、思い出に浸っていた2人を、奈海が叩き出した。
ふと奈海の持つお守り袋の中から【コックリさん】のコインが上機嫌で現れた。

コイン「まぁ良いじゃない、私たちなりに役に立ってるんだからさ。
    それにいざ出てきたら困るの奈海じゃない?」
奈海「なんでよ?私に不安な要素でもあるの?」
大王「能力は強いんだが、身体能力が欠けるな。このチームの中でまず最下位だろうな。」
奈海「うっ。」
勇弥「そういや、【言霊】といって、『言った事が本当になる』って話があるぞ。もう手遅れかもな。」
奈海「・・・なによ。出てきなさぁーい、都市伝説!私が相手になってあげるから!」
コイン「うわぁ、本当になっても知ぃーらないっと。」

やけになったかのように吠え出した奈海が面白くなったのか、大王が追い打ちをかけようとする。

大王「そんな事を言っていると
   そこのマンホールから何かが“ズァパァァ・・・ン”、ザパーンと、・・・。」

今までの楽しい会話は、たった一瞬の出来事に喰い千切られた。
マンホールの下から濁流と共に3mはあろうかという巨大なワニが現れた。突然の出来事に一同は唖然としている。

正義「ワ、ニ・・・?」
勇弥「まさか、これ・・・。」
奈海「え?わ、私のせいじゃない、よね?」
コイン「あわ、わ、わぁー、食べられちゃうぅ、ぅ・・・。」ブルブル
大王「今回ばかりは喰われるかもな。」

不意に濁流の向こうから声が聞こえてくる。

???「ヒハハハハハ!ワニィ!そして契約者共ォ!ここであったが・・・。」
大王「(チッ、さらに追加か。やっかいな。)」
正義「あ、お兄ちゃん。」
???「そう、俺がお前の・・・、ハ?」

2人の会話と3人の不安を余所に、謎のワニは何故かマンホールの下に帰っていった。
全員、視線をさっきの声に向ける。
そこには春に合わない黒系の服を着た謎の少年と、その後に黒いローブをまとった、人のような何かが居た。

奈海「なんだったの?あのワニ?」
勇弥「あれはおそらく」
???「【下水道に棲む白いワニ】だ。その名の通り下水道に住んでる。そんな事よりお前なんで」
正義「お兄ちゃんなんでここに居るの?」

もうお気づきの方もおられるだろうが、謎の少年の正体は正義の兄[黄昏裂邪(たそがれレツヤ)]であった。

裂邪「俺が聞きてぇわ正義!そしてその背後のおっさん誰!?」
大王「(少年の兄か。一時はどうなる事かと。しかし契約していたとは、って)おい待て、おっさんだと!?」
裂邪「それだけじゃない!その傍ら!お前らも契約者か!?」
正義「お兄ちゃん落ち着いて!ゆっくり説明するから。」
裂邪「手短にしろ!ワニを追いたい!」

正義「まずこれが大王で(中略)【口裂け女】が現れて(中略)
   勇弥くんが【電脳世界=自然界論】と(中略)レジェンドスリー!(中略)
   パトロールして(中略)家はどこって聞(中略)
   奈海ちゃんも[コインちゃん]っていう(中略)【透明警備員】を倒(後略)。」
大王「おい、日が暮れるぞ。パトロールの内容は省け。」

奈海「あれが正義くんのお兄さん?感じ悪いね。」ヒソヒソ
コイン「全然似て無いじゃん。感じ悪いよぉ。」ヒソヒソ
勇弥「オレも会った事無かったな。感じ悪いな。」ヒソヒソ
大王「前に少年と世界征服について論争していた。感じ悪いぞ。」ヒソヒソ

無駄も多かったが、正義は数十分で何とか言い切った。話の後半で、裂邪はボーっとしている感じだったが。

正義「分かった?!だから世界征服なんか企んでも、ボク達が止めるからね!」はぁ、はぁ
勇弥「おーい、俺も巻き込まれてるのかぁ?まぁ手伝うと思うけど。」
奈海「私もかな?手伝うけど。」
コイン「えぇー、私もぉ?手伝おうかな。」
大王「世界征服するのは俺だ。無論、手伝うぞ。」

こちらの説明が終わったので、次は質問に移る。

正義「ところで、お兄ちゃんの隣にいるのは?」
シェイド「【シャドーマン】ノ[シェイド]ダ。」
正義「お兄ちゃんも契約してたんだ。お兄ちゃんにも悪い都市伝説と戦うっていう・・・聞いてる?」
裂邪「・・・。あ゛~!チクショウ!はらわたが煮えくり返りそうだ!俺はもう行くぞ!」
正義「何処へ?」
裂邪「ハァ?さっきの見たろ!?ワニを消しに行くんだよ!おいシェイド!追うぞ!」
シェイド「イヤ、エナジーガ離レスギタ。モウ追エンダロウ。」
裂邪「この野郎、お前が余計な事もダラダラと・・・。」
勇弥「よし、ここは奈海とコインちゃんの能力で。」
奈海「えぇ、何で私がやるのよ?」
正義「奈海ちゃんボクからもお願い。」
奈海「仕方ないわねぇ。こっくりさんこっくりさん、【下水道に棲む白いワニ】の居場所を教えてください。」
勇弥「(分かりやす!そしてオレ頼んだ意味ねぇな。)」ガァーン
コイン「はぁーい!」

奈海がポケットから十円玉を取り出し、お決まりの呪文を呟くとコインは十円玉の中へと消えていった。
瞬間、ワニの明確な位置が奈海の頭に流れ込む。

正義「よし、追おう!」
裂邪「待て、どうせなら下水道に入っちまおうぜ。」

裂邪は懐中電灯を光らせてみせた。それに賛同し、一同はマンホールから下水道へと入っていった。

―――下水道内―――それは人が嫌う世界。それは暗闇の恐怖、そして―――

一同「「くっさー!」」

この激臭である。どうしてここに入る必要があろうか、何故ワニはここに住めるのか、今はその疑問を留めておく事にした。

大王「不便だな。人間は。」
シェイド「全クダ。」
裂邪「黙れ!後で都市伝説にも効くような悪臭をネットで調べ尽くしてやる!」
奈海「本当に、正義くんのお兄さん?」ヒソヒソ
正義「うん、そうだけど?」
勇弥「血ィ繋がってねぇんじゃないのか?外道過ぎるぞ?しかしくせェ」ヒソヒソ
奈海「全く、コインちゃんはこの中だしなぁ。ずるいよ。」
勇弥「あ、そうだ。このマスク、試作品だけど貸すよ。空気がきれいになると思うぞ。」

ポケットから、少し変わったマスクを取り出す。おそらく勇弥が都市伝説の能力で作ったものだろう。

奈海「お、だいぶ臭くなくなったわ。」
正義「ありがとう。大王もいる?」
大王「いらん。俺は必要でない時は無駄な五感は省く。人間もこれぐらいできないと」
勇弥「出来るかァ!中途半端なところだけ都市伝説して、身体能力は人並みなのにな!」
大王「人並みではない!常人以上だ!」
勇弥「飛べると思ったらすぐへばるのに『常人以上』?オレならもっと長く飛べるだろうがねぇ。」
奈海「なぁんだ。私の身体能力をどうこう言っておきながら、自分も酷いんじゃない?」
大王「うるさい!飛ぶのは地を走るより疲れるんだ!」
正義「大丈夫、大王にはボクがいるから。」
大王「フォローになっていないぞ!」

奈海「そういえば【下水道に棲む白いワニ】ってなんなの?役に立つ勇弥。」
勇弥「お、よくぞ聞いてくれました。」

【下水道に棲む白いワニ】とは、怪事件の1つで、
『飼い主が持て余し下水道に捨てられた仔ワニが、暖かく栄養も豊富な下水の環境に適応し巨大に成長してしまった』という話。
動物にまつわる異常な出来事を研究していた人類学者が、
1843年から1973年までの間に考えられない場所でワニに出会った事例を70件以上も報告していて、その中で下水道でワニにあった事例として記事を挙げている。
これによれば、ワニはマンハッタンの東123番通りにある地下道において雪をマンホールに捨てにいった少年達により発見され、レスキュー隊により射殺された。
なお、なぜ下水道にワニがいたのかは不明とされている。

大王「実話に近い話、という事か?」
勇弥「らしいね。でも今回は、町で噂になっていた『白いワニが人を襲う』ってやつだと思う。」
奈海「ふーん。あ、そろそろよ。大王さん、疲れたなら言いなさいよぉ?」

大王は舌打ちをし、一同は急に早足になった奈海の後を着いていく。
大王自体は強く頭も良い、しかし正義や周りと比べると見劣りするのだ。
この環境は大王を抑制するのかより強くするのかは、まだ誰にも分からない。
下水道を進んでいると、“バシャバシャ”と水の音が聞こえてきた。まるで水の中で何かが暴れるような音。
裂邪がその音の方に懐中電灯を向けると、白い物体があった。
その正体は言うまでも無いだろう。戦闘開始だ。

正義「よし、皆!行くよ!」
勇弥「おぅ!」
大王「あれを、やるのか?」
奈海「いいわよ、ノってあげる。」
コイン「いっくよー!」

勇弥「『勇気』と『知性』の伝説融合、[ブレイブ・レジェンド]!」
正義「『正義』と『剣術』の伝説融合、[ジャスティス・レジェンド]!」
大王「こ、『黒雲』と『奇跡』の伝説融合、[キング・レジェンド]・・・。」
奈海「『波間』と『魅惑』の伝説融合、[オーシャン・レジェンド]。」
コイン「『硬貨』と『記憶』の伝説融合、[フォックス・レジェンド]!」
勇弥&正義&奈海&コイン「「5人合わせて、[レジェンドファイブ]!」」
大王「・・・ィブ。」

勇弥「ってこら、『荒波』と『雷鳴』の、だろうが!それに『魅惑』はセーラーのなんだぞ!」
奈海「『荒波』と『雷鳴』って私の性格が荒々くて怒りっぽいみたいじゃない!だいたいセーラーって誰よ!」
正義「もぅ、さっさと行くよ!」
大王「おい少年、武器を忘れているぞ!」

後で裂邪がボーっとしている事も正義は白ワニに向かっていく。
無論白ワニも黙って見るわけもなく、水から飛び出し正義に噛み付こうとする。

勇弥「正義、危ない!」

勇弥はとっさに正義の前に空気の壁を作る。これでワニの攻撃を防げる、とでも思ったのだろうか。
ワニは大口を開けて壁に噛み付く。
その隙に後へ退避し、勇弥がワニの歯が折れる様を眺めようとした時、壁が、破壊され、ワニは水の中に戻った。

勇弥「なんでだよ!オレの骨と同じぐらいの堅さのはずだぞ!?」
大王「ワニは普通でも強い顎を持つ。都市伝説なんだから鋼鉄も簡単に砕けるだろう。」
正義「じゃあ攻撃は全部避ける前提で。奈海、任せたよ。大王は武器を。」
奈海「分かった。コックリさんコックリさん―――」
大王「最初から持っていけば良かっただろう。」

奈海が念じるとまたコインが十円玉の中へ入っていく。
大王は上方に生成した紫がかった黒雲から剣を3本降らせ、
正義、勇弥、大王が剣を取り、白ワニに斬りかかる。
白ワニも負けじと水から飛び出し応戦する。

勇弥「よし、行くぞ!」
正義「うん!」
奈海「・・・んッ!来るわよ大王!」
大王「言われなくとも!」

【白ワニ】の攻撃を大王は軽々と避け、【白ワニ】の背中に剣を振る。
しかし見事にはじかれ、尻尾で跳ね返される。

大王「く、ワニの皮膚も丈夫だったか。普通に相手もできんな。少年!手はあるか!」
正義「待って、今考えるから!」

今、刃物が通じない事が分かったから、鉄球で攻撃する?いや、高さが足りないから効果が薄い。
炎で攻撃する?いや、ここは狭いから危険が大きい、別の方法だ。
雷?少し早すぎて狙いが定まりそうにない、味方に当たると危険だ。
今は堅い皮を柔らかくする方法だ。柔らかく―――。ここまで10秒。正義は精一杯考える。

奈海「アンタも考えなさいよ!正義くんがいないと何も出来ない大・王・さん!」
勇弥「おい、流石にそれは・・・。」

その時、奈海は大王の逆鱗に触れてしまった。

大王「なんだと・・・、俺が何もできないだと・・・。
   ふざけるな!見ていろ!俺の能力の恐ろしさを見せてやる!」
奈海「あらあら雷ィ?私の助け無しで当たるのかしらァ?」

黒雲にスパークが走る。
雷は―――【白ワニ】をそれて隣へ落ちる、それぐらいコインの能力ですぐに分かる事だった。

奈海「ほらほらやっぱり“ドゴォォォ・・・ン”、はずれ、・・・。」
白ワニ「シャアァアァ、ァ・・・!」ビリビリ

一同、その光景に呆然とした。雷が下水道の水を伝って【白ワニ】に命中したのだ。
普通の水は電気を通す、こんな常識が何故出てこなかったか。
もっとも、この非常識だらけの世界で、常識は混乱するであろうが。
かくて雷が命中した【白ワニ】は、気を失ってしまった。

大王「・・・、どうだ!何も出来ない訳ではないぞ。」はぁ、はぁ
奈海「ひっ、・・・ごめんなさい。」

よほど怒りを込めたのか、大王は疲労していた。
だが伊達に【恐怖の大王】は語れず、恐ろしい剣幕は健在で、奈海もあまりの怖さに恐れおののいてしまった。

正義「さすが大王、せっかく溶かす方法を考えていたのに。」
勇弥「『塩酸』で溶かす気だったか。それもいい方法だったんだがな。」
正義「あとは勇弥くんに柔らかくしてもらうしかなかったね。」
勇弥「だったらオレ死ねるな。しかし見事な威力だなぁ。何か別の使い道無いかな?」

結局、裂邪は何もせずにただこちらを見て立っているだけだった。
大王は気が済んだらしく、【白ワニ】の様子を訊ねる。

大王「・・・ところで、【白ワニ】はどうだ?」
正義「気絶、だね。じゃあさっそく起こして。」
勇弥「お、では。マズイ、ここで『クレンズ・ジャスティス』だと!?
   裂邪さん危ない、伏せて!」
裂邪「ハ?」
奈海「いや、ノってるだけですから。別に危ない要素無いです。」

気絶していた【下水道に棲む白いワニ】を正義はおもむろに叩く。すると【白ワニ】が目を覚ましたようだ。

裂邪「ハァ!?何をしている!さっさと止めを刺せ!」
正義「いいかい【下水道に棲む白いワニ】。
   キミは飼い主に捨てられたみたいだけど(中略)だからキミも(中略)これからは―――。」

ご存知の通り、説得である。やはり裂邪は説得を聞いて愕然としていた。

勇弥「くっ、裂邪さんも『クレンズ・ジャスティス』の影響を?!無理もない、このオレも立っているのが」
奈海「なんで説教で苦しむのよ!?たぶんお兄さんは驚いているだけだと思うわよ。この光景に。」

そこには、【白ワニ】の頭を撫でている正義の姿があった。
もう説教が終わった上に仲良くなったようだ。

正義「よし、じゃあもう帰るね。」
白ワニ「シャ?シャア・・・。」

その言葉を聞き悲しそうにしていたが、また会えると信じたのか、水の中へ帰っていった。

正義「『もう人は襲わない』って。」
勇弥「そうか。なら安心だな。」
奈海「えっ、それ、信用していいの?」
コイン「そうみたいよ。だいぶ穏やかそうに見えるし。」
大王「全く、どうしてそんな能力があるのやら。」

―――帰路につく前の楽しい会話を、邪な心が無残にも引き裂いた。―――

裂邪「シェイド!『闇誘拐』!」
シェイド「了解シタ。」

正義達が振り返ると、壁から黒い無数の腕が伸びて水の中の【白ワニ】を掴んでいた。

白ワニ「シャア!?シャアァァァ!」
裂邪「ヒハハハハ!足掻け足掻けェ!もがくほど闇に飲まれるぜェ?」
正義「お、お兄ちゃん!何をしているの?!」
裂邪「あぁ?こういう危険因子は潰すに限る!俺の世界征服の邪魔になるしなァ!
   だいたいお前ら甘すぎるんだよ!
   説得なんかして何になるってんだ!?見てるとはらわたが煮えくり返りそうになる!
   『正義』ぶるのも加減にしやがれ!」

裂邪が叫び終わった頃には、もう【白ワニ】の姿はそこに無かった。

奈海「ひどい・・・。」
裂邪「ご苦労シェイド。さて、帰るとするか。」

帰ろうとする裂邪の前に、正義が立ちふさがった。その眼はまっすぐ、裂邪の眼を見ている。

裂邪「なんだ?」
正義「お兄ちゃんは間違ってる。この世にいるのは悪い都市伝説だけじゃないんだ!
   もしそれが分からないんだったら、お兄ちゃんの世界征服は絶対にボクが止める。」
裂邪「ウヒヒヒヒ、ヒハハハハハハ!あぁ、やれるもんならやってみろ!」

正義の忠告も聞かず、裂邪は正義に体をぶつけ、そのまま帰っていくのであった。

勇弥「正義、もう少し前に裂邪さんの世界征服を止めるってお前が言った時、
   オレは『手伝うと思う』って言ったが、取り消してくれ。」
奈海「えっ?ちょっと!まさかあんた」
勇弥「『絶対に手伝う』。あいつの世界には絶対にさせないからな。」
奈海「・・・なんだ。裏切るのかと思った。もちろん私は最初から手伝うつもりよ。」
コイン「なんたって正義く」
奈海「うるさい!もう帰るわよ。」
正義「じゃあお兄ちゃん追いかけないと。懐中電灯持ってるのお兄ちゃんだけだし。」
勇弥「シャクだけど、そうするか。」

裂邪の後を追い、出口までたどり着く。
マンホールの蓋に近づいた時に裂邪の姿が消える。正義は能力を使ったと踏み、気にせず蓋を開ける。

住人A「おぉ、出てきたぞ!やはりマサヨシくんか。【白ワニ】退治かい?」

そこには人だかりがあった。おそらく入るところを見られたのだろう。

正義「え?あぁ、はい・・・。」
住人B「そうかそうか、【白ワニ】は退治できたか?」
正義「えと、それは・・・。」
奈海「眩しっ!えっ、なにこの人だかり?」
勇弥「ふぅ、ん?あぁ!【白ワニ】はもう人を襲いませんよ。安心してください!」
住人A「そうか、では早速町中の人に知らせておくよ。」

その言葉で人だかりは散っていき、おそらくこの話を広めに行くのだろう。

奈海「あんな事言って良かったの?」
勇弥「不安を取り除く方を優先するべきだろう?それに今は感傷に浸っている場合じゃないからな。」

ふと奈海が正義の方を見ると、泣いている正義はそこにおらず、ただ前を向いていた。
しかしその表情は全てを隠す事などできていなかった。

勇弥「今はただ、【言霊】の存在を信じたいばかりだよ。」

一同は黄昏となった空を見て時を悟り、自分たちの家へと帰っていくのであった。
その帰りの道中、大王が話しかける。

大王「少年の兄にも一理ある。だから少年、自分だけが正しいとは思うな。」
正義「分かっているよ。でも、ボクはやるんだ、作ってみせる。誰も悲しまない、皆が楽しく暮らせる世界を。」

それは、大王が最も嫌う『正義』。あるいは、大王が最も好む『信念』。
それを否定する事は、大王でさえもできなかった。
黄昏にカラスの鳴き声がこだまする中、2人は家に帰ってきたのであった。

―――夕食時

光彦「皆に話がある。」

皆がテーブルに集まっているところに、不意に話題を振る。

正義「どうかしたの?」
光彦「お前たちも知っているだろうが、この町には中学校が無いだろ。1番近いのでもだいぶ時間がかかる。」
裂邪「あぁ、俺も丁度その事が訊きたかったんだ。引っ越すの?」
光彦「実は父さん今月、転勤する事が決まったんだ。」
一同「「えぇ!?」」

突然の出来事に、全員驚きの声を上げる。

光彦「最近、学校町で事件が多くてな。ぜひそこで勤務してほしいんだとさ。」
正義&裂邪「「学校町!?」」
光彦「ん?何か問題でもあるのか?お婆ちゃんもいるし、都合が良いだろ?」
正義&裂邪「「いや、と、特には・・・。」」

2人は口を濁す。それもその筈、あの場所で暮らす事が決まったのだから。

明美「でも、今からマサヨシを転校させるのは可哀想じゃない?」
光彦「そこでだ。しばらく正義はお母さんとこの町に残ってくれ。裂邪は俺と一緒に学校町に行く。」
正義「えぇ!?」
裂邪「え゛!?」

突然の別居の話に、正義は驚いたようだ。

光彦「明後日にはこの町を出る予定だ。裂邪は準備して置けよ。
   正義も寂しがるな、夏休みにでも会いに来てくれ。」

寂しがる正義と、それをなだめる母。そしてそれを戸の向こうから聞く大王。それを聞いて思う。
これからしばらく少年は修行できそうにないか。おとなしく回復を待つとするか。

―――世界征服への道は遠い。

しかし学校町か。都市伝説の無法地帯、そこで始まる生死を懸けた戦い、そして―――

―――俺の生まれ故郷、か―――

第6話「交錯する兄弟」―完―


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