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連載 - 三面鏡の少女-79

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Elfriede

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三面鏡の少女 79


ディランを助けてくれた男は、なにやらキッチンに引っ込むと何処かへ連絡を取っているようだった
声は小さいが真面目な雰囲気であるのは伝わってくるし、盗み聞きをする趣味は無いので大人しくディランが横たわるベッドの傍らに座り込む
繰り返し、繰り返し謝罪の言葉を漏らし続けるディランの姿に、まるで自分が責められているかのような不安すら覚える
かつて佳奈美に対して行ってきた数々の悪行
二人の友人と結託し、クラスメイトを様々な方法で黙らせ、巻き込み、彼女を廃人寸前まで追い詰めた
幸いにして繰は許された
自ら謝罪をし、佳奈美がそれを受け入れてくれた事で
だが佳奈美と向かい合う事を恐れ逃げ回った友人は、一人は心臓発作で死に、一人は未だに病院から出てきていない
果たして自分は、彼女達のような『罰』を避けうるほどの謝罪をしたのだろうか
親友の優しさに甘えているだけで、本当は反省など何一つしていないのではないのだろうか
そんな不安が胸中で渦巻くが
一転してこの気弱で人の良過ぎる教師が、これほどまでに悔いるほどの悪行をするものなのだろうかと疑問に思う
勘違いか、冤罪か、そんなものではないのだろうかと
そして、例えそうでなくとも
本当に罪を犯していたとしても
これほどまでに悔い、謝罪を続け、他の誰かのために身を尽くす彼を、苦しめ裁く必要が何処にあるのだろうか
不安はベクトルを変え、彼をここまで追い詰める者への理不尽な怒りへと変貌する
「あのガキ……また襲ってくるようだったら、次は」
容赦せず、殺す
そう呟きが漏れかけた、その時
ベッドの上のディランの手が、繰の手に触れる
まるで赤子が触れるものを探すように、弱々しい力で
触れた繰の手を、その指を、遠慮がちにきゅっと握る
途端に殺意も思考も湯気となって頭の天辺からぼしゅうと抜けていった
「せ、せんせ……?」
少しだけ、ほんの少しだけ
苦悶に喘ぐその表情が和らいだような、気がした
その様子に、繰は怖々と両手でディランの手を包み込み、そっと握る
「英語の勉強もまだ途中だし、今まで教えてもらった分のお礼とかしてないんだからね……途中で放り出したりは絶対にさせないんだから」

―――

ヘンリーが連絡を済ませたところを見計らったように、玄関の扉がそっと開かれる
ひょいと顔を覗かせたのは、犬耳のメイドが一人
「まったく、この町は本当に厄介事には事欠かないな」
ぶつぶつと呟きながら、足音を立てずに勝手に部屋に上がり込むパスカル
「ヘンリー、用事は済んだろ。これからお前はどうするん……?」
室内の様子は既に設置した『耳』で把握している
ベッドには少しだけ落ち着いた様子で眠るディランと、その傍らで手を握りベッドの縁に突っ伏した繰の姿
内情を知らなければ微笑ましい光景に、邪魔者は退散と言わんばかりにヘンリーを連れてさっさと帰りたくなったのだが
視線は、部屋の中にある数少ない調度品である写真立てに釘付けになっていた
「どうした、乙女?」
「乙女言うな」
パスカルは顔を顰め、どかりとその場に腰を下ろすと携帯端末を一心不乱に叩き始める
「俺程度の下っ端がアクセスできる情報でどこまで判るのやら」
視線は端末に向けたまま、パスカルはヘンリーに手招きする
「情報の擦り合せがしたい。知ってる、言える範囲で良いから俺の質問に答えてくれ」
「膝枕、してもいいか?」
「好きなだけしていい、だから早いとこ情報を確認するぞ」
パスカルは後に、この時の台詞を後悔したという
好きなだけという時間は、状況の進展により活動を余儀なくされるまで続いたのであった

―――

「くしっ」
小さく可愛いくしゃみ
布団に押し込まれたニーナは、腋に挟んでいた体温計を抜き取って星に渡す
「こないだ濡れたり、寒い中で倒れてたりしたからだろ。風邪だ風邪」
体温計を確認した星は、そう言ってニーナの頭にタオルと氷嚢を乗せる
温かい室温と布団で火照った身体に、布越しにひんやりとした感触が気持ち良い
「本当に風邪デスか? 別にそんなに体調が悪いようには」
「くしゃみしてたろ。それに『体温計見たら38度って表示されてる』ぞ? 自覚は無くても熱はあるんだろ、ほら寝た寝た」
星がニーナに見せた体温計の液晶は、確かに38度と表示されていた
だがそれは星がそう言うまでは、36度5分という至って健康的な体温を表示していたのだ
「でも……ずっと探していた、あいつを。やっと見つける事ができたのに」
「事情は知らないけど、風邪引いて何するつもりだよ。何かしたいならちゃんと万全の状態になってからにしろって」
「むう……」
「治ったら、また探すのを俺も手伝ってやるから。今は大人しく寝ておけよ」
そう言って星は、ニーナの部屋の戸をぱたんと閉める
「さて、今のうちだな」
星は小さく咳払いをすると、精神を集中させる
「本気でやるのは久し振りだな……まずは」
全身に黄金色の輝きと甘い林檎の香りを纏い、星は高らかに宣言する
「『俺、手塚星はいかなる時でもニーナ・サプスフォードに危機が迫れば即座に全身全霊を以って守護をする』」
その言葉を承認するかのように、黄金色の輝きは力を増す
「『ニーナ・サプスフォードの為に、真に倒すべき相手を俺は見分ける事ができる』」
星は、ニーナが何をしようとしているのか、過去に何があったのかなどは知ろうとしない
彼女が話す必要がないのなら、話したくないのなら、知る必要はないと思っている
だから、出来る範囲での最良を選択する
それをニーナが受け入れるかどうかは、彼女自身が決める
「カナお姉ちゃん以外にこんなにマジになるのって、初めてだな」
想い人の為に捨てた家族との絆
両親が仕事で忙しいために我慢してきた、家族との団欒
それを一時でも与えてくれた少女を守りたい
「妹がいたら、こんな風に守りたくなるのかもな」
かつて守護を誓った年上の少女の時とは違う
奪うためにではなく、守るために力を奮う
「そういや、あの髪が伸びる女……どっかで見たな。誰だっけ?」
佳奈美の親友である繰の存在は多少なりとも見知っていたが、ぶっちゃけ眼中に無かったため印象が薄かった
『組織』の内部事情にも興味が無かった為、同じ『組織』に所属しているなどという事情も全く知らない
「あ、そういや『組織』の方って今どうなってんだろ。ニーナの事ばれたらやばいかなと思って報告とか全然してなかったっけ」
せめて直属の上司ぐらいには報告でもしておこうかと電話を掛ける星
『組織』の黒服にありがちな適当、雑、無責任、自己中といった行動を少々反省したわけではなく、ニーナを守っているという事実だけを伝え敵味方をはっきりさせておこうという魂胆であった
彼女を害するような意図が見えれば、対峙しても容赦無く叩きのめせる
そうでなければ味方として協力を取り付けられる
後者の場合、今までのサボりを咎められる可能性は高いが、味方が増えずとも敵にならないのが確認できれば充分である
実年齢が小学生の割には随分な思考と性格ではあるが、この町の子供なんて大体こんなもの
下手をすれば大人などよりよっぽど円熟した性質の悪さを発揮するのであった


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