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単発 - 我ら、口裂け女三姉妹2

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kemono

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「煌々と照る太陽よ!」
「我らを見下しせせら笑うか!」
「ならば我らの抗う姿、輝く眼でとくと見よ!」
「「「いざ行かん!!冷涼溢るる水源へ!!!」」」
「…勝手に行って下さいよ。」

 路上でポーズを決めつつ宣言する口裂け女三姉妹に、青年は冷たく言い放つ。

「そうは言ってくれるがな、我らは水着を持っていない!」
「ついでにプールの券もない!」
「ありていに言えば金がない!」
「「「さあ!大人しく財布をよこせ!!!」」」

 すらり、と得物を取り出す三姉妹。
 その鎌、大鋏、包丁の切っ先は、青年に真っ直ぐ向けられている。

「…拒否権は?」
「死体が財布を持っていても意味はあるまい。」

 青年は無言で財布を差し出す。
 長女が一瞬で眼前に迫り、ひょいと財布を取り上げた。
 中の紙幣をごっそり抜き取り、財布を青年に投げて返す。

「「「確かに金は頂いた!さらばだ青年!!!」」」

 高笑いをしながら去っていく三姉妹をただ見送る青年。

「…今月…どうやって食っていこう……。」

 ため息と呟きが、やけに空しく響いた。


*



   ・
   ・
   ・

 ―――― 翌日、とあるプールにて

「プールだぞ!」
「プールです!」
「プールだー!」

 プールサイドで歓声を上げる三姉妹。
 つい昨日、善良な市民から頂戴した金を使い、全員分の入場券と水着を買い揃えていた。

 三女はかわいらしいフリルのワンピースに浮き輪装備。
 次女はホルターネックのビキニにスカート。
 そして長女は三角ビキニの上にパーカーを羽織っている。
 三人とも赤をあしらったデザインで、並んでいると統一感がある。

 ちなみに口裂け女である三姉妹だが、三女は口が裂けていないため問題なし。
 次女は口の片側が裂けているが、大き目の白い絆創膏で隠している。
 では口の両側が裂けている長女はというと、相変わらずのマスクである。

「さあ妹たちよ、存分に楽しむがいい!」
「お姉様は泳がないのですか?」
「さすがにマスクをつけて泳いでたら目立つだろう。それに、万が一外れると…な。」

 衆人環視の中、裂けた口をさらすのは得策ではない。
 追い出されるだけならまだしも、万が一契約者や「組織」にでも見つかれば、それだけでは済むまい。
 折角涼を求めに来たというのに、そんな結果は御免だ。

「おねーさまは一緒じゃないの…?」

 三女が悲しげな表情を浮かべる。

「ああ、そんな顔をするな三女よ。私はお前たちが楽しんでる姿を見るのが一番楽しいんだ。」
「ほら、お姉様もそう言っていますし、お姉様の分も三女ちゃんが代わりに楽しんであげましょう?」
「…うん!じゃあちゃんと見ててね、おねーさま!」
「ああ、ちゃんと見てるぞ。思いっきり楽しんで来い!」
「あっ、三女ちゃん待って!プールで走ったら危ないわよ!」

 笑顔で手を振りプールへ駆け出す三女と、それをあわてて追う次女。
 それを見送りつつ、長女はマスクの下で静かに微笑む。

「うむ、やはり三女には笑顔がよく似合うな。」

 備え付けのビーチチェアに腰掛けながら、プールを眺める。
 プールにぷかぷかと浮かびながら戯れる妹たち。
 その様子を見て、ついつい頬がほころぶ。
 思えばずっと人間を襲ってばかりで、このような体験をさせたことはなかった。
 これからは口裂け女としての本質を忘れない程度に、こういった機会を増やしてやろう。

 そう考えた直後、

 ドォォ―――ン
 どこからか、爆音が響いた。

「…ん?」

 やおら立ち上がり周囲を見渡す。
 が、やたらと広大なアミューズメントパーク、聞こえてきた方向すら定かではない。

「ふむ…まぁいつものことだ、大したことはなかろう。」

 そう思いなおし、再びプールの妹たちに目を向ける。
 が、先ほどの場所に妹たちの姿はない。
 どうやら周りを気にしていた隙に、見えないところへ泳いで行ってしまったようだ。

「しまった、見失ったか…。まぁ次女が付いていれば大丈夫だろう。」

 しかし、ちゃんと見ていると言った手前、三女に申し訳ない。
 妹たちを探すついでに、周囲の散策でもするか。
 そう考え、長女はパーカーをなびかせながらプールサイドを歩き出した。

*



   ・
   ・
   ・

 ―――― 一方その頃の次女三女

「おねーちゃん、次あっち行くー!」
「はいはい、あんまりはしゃぐとひっくり返るわよ?」

 はたから見れば、奔放な妹とその面倒を見る姉。
 そんなどこにでもある光景の一つとして、互いにプールを満喫していた。

 次女の頬には大きめの絆創膏が貼られているが、周囲はあまり気にしていないようだ。
 たまにちらりと視線を向けられるが、好奇の目で見られることはない。
 この分ならお姉様が一緒でも大丈夫だったかしら?
 などと考えつつ、ぱしゃぱしゃと水をかく三女を追いかける。

 タァーン、タァーン
 そのとき、唐突に近くで銃声が響いた。
 銃声のした方向を見ると、妙齢の女性が男性を銃撃していた。
 このプールは銃を持ち込んでもいいのかしら?
 と、どこかズレた思考を巡らせていると、その女性へ少女が近づいてきた。
 正確には、少女が水の上を猛然と走ってきた。

 その少女は一際強く水を蹴って飛び上がると、女性に綺麗な踵落しを決めた。
 女性は勢いよく水中へ沈むと、そのまま浮かび上がることはなかった。
 目の前の出来事を眺めていると、くいくいと腕を引かれる。
 見ると、三女が目を輝かせてこちらを見上げていた。

「すごい!あの子、水の上走ってた!ねぇおねーちゃん、おねーちゃんはさっきの子みたいに走れる?」
「うーん…傘で浮きながらだったらできると思うけど…お姉様だったらできるかもしれないわね。」
「おねーさまもおねーちゃんもすごーい!三女、あんなのできないよぉ。」
「そうね。三女ちゃんも大きくなれば、きっと出来るようになるわよ。」
「うん!じゃあ三女、はやく大きくなるー!」
「ふふっ、すぐになれるわよ。…ねぇ、今度は向こうに行ってみましょう?」

 三女の浮き輪を押しながら、ゆっくりとその場を離れる。
 ちらりと後ろに目をやり、次女は思案する。

 先ほどの少女はただの人間ではない…おそらくは契約者。
 自分たちの存在が知れたら、向こうから襲ってくるかもしれない。
 今日の私たちは人間を襲いたいのではない、純粋にプールを楽しみたいのだ。

「ねぇおねーちゃん、おねーさまは?」
「え?…あら、いつの間にかいなくなっちゃったわね。」

 はしゃぎながら気の向くままに泳いでいたら、いつの間にやら最初の場所から大きく離れていたようだ。
 プールサイドを見回してみたが、周囲に姉の姿は見えない。

「ぶー、おねーさま、ちゃんと見てるって言ったのにー。」
「そうねぇ…じゃあ、一緒にお姉様を探しましょう。どっちが先に見つけられるか競争よ?」
「わかった!一緒におねーさま探すー!おねーちゃんより先に見つけるんだから!」

 むくれ顔から一転、笑顔になった三女を見て、次女は微笑む。
 やっぱり三女には笑顔がよく似合う。
 今日一日、この笑顔が絶えないように思いっきり楽しませてあげよう。
 そう考え、次女は三女の浮き輪を引いて泳ぎだした。




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