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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-59

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


XIV 生命の運び手・調整者の娘/統合


三度、独り廊下に立っていた

広く、長い廊下、一直線に奥へと続くその廊下は、果てが無いかの様に見える

振り向くと、扉

「まぁ、今回は予想通り……かな……」

図書館の部屋を出る時に、こうなるだろうとは思っていたのだ

そして今度は───

       XIV

 生命の運び手・調整者の娘

       統合

───と刻まれていた

「14……でいいんだっけ?……でも、どうやったら戻れるんだろう」

ため息を吐いて、心を落ち着かせ、扉を押す

隙間から漏れ出てくる、その眩しい光の中へと身を滑り込ませ───

*



「ヤァッ……ハッ!」

掛け声と共に、床を蹴る音が響く

稽古だ
竹刀が勢い良く振り抜かれ、ブンッとうなりを上げる

道場らしき板張りの床、壁に掛けられた竹刀
体格から判断して中学生くらいの少年が独り
型をなぞっているのであろう
その正確な太刀筋は基本に忠実であり過ぎるのか、どこか硬さが目立つ

場内を見回すと、今は一人だけで他に門下生はいない様だった

「誰だ?!」

急に剣先が向けられ、ひやりとする

「ん……キミは……?!」

こちらを見て、警戒した様な……ムッとした様な表情が浮かぶが真意は判らない

その意志の強そうな眼差し……
どこかで見たことのある様な顔立ちだと思った

「どこの誰かは知らないが……それは……余りにも酷くはないだろうか?」

こちらへと声を掛けてくるが、その響きには鋭さがある様に思う

彼は苛立ちを抑える様に目を瞑る
しばらくして、また目を開き……こちらへと視線を送ってくる
再び渋面、現実であると確認した……といった体だ
視線を追うと、こちらの足元を注視しているのが判った

「えっ?!ボク?……あっ!!……これは……その……」

靴を履いていた
道場内で
板張りの床の上で

彼の苛立ちの原因が判り、納得すると同時に……血の気がサーっと引く
そして、今度は突沸するかの様に顔が熱くなる

「ゴメンナサイッ!!」
「……」
「えーと、えーと……その……ああ……どうしよう……」
「まぁ……その……落ち着いて……深呼吸だ……」

申し訳なさと、恥ずかしさでパニック状態に陥っていたが
彼の言葉に、深呼吸をし息を整えていく

靴と靴下を脱ぎ、出入り口にある下足入れへと収めて戻り

「すみませんでした」
「……」
「雑巾とバケツを借りたいのですが、良いですか?」
「ん……そうか……うん……その脇の戸から出ると井戸があって、そこの辺りにある」
「井戸ですね……行って来ます!」

自分の行いを正す為、場内全体を雑巾掛けする
一心不乱
そんな言葉が思い起こされる

しばらくして雑巾がけが終わると、彼が声を掛けてきた

「誠意は見せてもらったよ」
「本当にすみませんでした!」
「まぁ、悪気があったわけではなかった様だしな……許されると思うよ」
「ありがとうございます!」
「しかし……」
「……?」
「いや……突然現れたので、不思議だな……と」
「……ぁ……ハハハ……ソノ……ナントイウカ……」
「集中していたからだろうか……全く気が付かなかった……」
「……そう!……凄く……集中している様に見えました!」
「そうか……そうかもしれない、型もやっと修めたところなんだ」
「はい!凄く正確な動きだったと思います!」
「ん……型が分かるのかい?」
「……その……まぁ、剣術を少し習っていますので……」
「……何だか、話しにくそうだね……敬語は別にいいよ、オレも崩して話すから」
「……えーと……うん」

空気が和らぐのを肌に感じ、ほっとする

「剣は、どこの流派を?」
「流派……たぶん、カシマ流……なのかな?」
「鹿島流?……でも、キミはここの門下生ではないだろう?」
「え?!……そうか……ここは鹿島流の……じゃあ、貴方は……カシマ……さん?」

どこかで見たことのある様な顔立ちだと思うのも道理だった
カシマさんの少年時代と思って見ればそうとしか思えない

「鹿島?……いや、オレは香取だが……ん?そうか、鹿島クンと間違えているのか……」
「カトリ……さん?」

香取……つまり婿入りする前のカシマさんの姓だと思い至る

「鹿島クンは、あまり道場には顔を出さないんだ……才能があるだろうに残念なことだよ」
「……そうなんだ……じゃあ、貴方は香取さんなんだね」
「ああ、香取だ……しかし、間違えるということは……鹿島クンとは知り合いではないのか」
「知り合いでは……ないんだけれど……どちらかというと……いや……でも……」
「どうも歯切れが悪いな……何か事情でもあるなら聞かないでおくよ」
「……助かります……ホントに……」

流石、カシマさんだ
こんな頃から気遣いの出来るヒトだったんだな……と心の中で呟かずにはいられない

「で、鹿島流の話だが……どこの道場で?」
「う~ん……道場があるわけじゃなくて……個人指導を受けているだけだし……」
「そうか、鹿島流の人から教えを受けているといったところか……」
「そうだね……だから、正確には鹿島流ではないと思う」

しばらく思案に耽る香取

「良ければ型を見せてくれないか?」
「え……型を?……でも……なんで?ボクの型なんかを?」
「キミは相当鍛えているだろ?」
「う~ん……どうだろう……」
「雑巾がけしている時に、足腰のブレが殆どなかった」
「……」
「あれは、重心が取れないと足がヨタヨタとするものだし」
「……」
「瞬発力も相当なもの……それに、立てる足音にも一定の間が保たれていた」
「……」
「たぶん、オレよりも体の使い方や呼吸法を理解しているのだと思うんだ」
「……」
「だから、見せてもらえないか?」
「……」

香取が向ける真摯な眼差しはどこか
逃げるという選択肢を思わせない様な、そんな気にさせる清涼感がある

「じゃあ……少しだけ……」
「ありがとう!」

*



竹刀を受け取り、礼
構える

相手を想定
自分よりも30cmほど背の高い男
まだ、筋肉は成長の途上にある
先ほどの動きを見た限りでは
実力は……自分よりも下の可能性が高い

斬り掛かって来る相手の竹刀を受け、流す
頭へは遠く、狙えば隙が大きくなる
よって、まずは腕への斬撃が入れやすい型から
身を退く相手
追撃、突き、届かない
右に回り込まれる
後退、右手だけで竹刀を繰り、相手の刀を払う、もしくは避けての牽制となったはず
左手を添え、崩れた重心をリセットする
間合いは相手が長く、こちらが不利
飛び込み、鍔迫り合えば力負けする
だが、相手の動きは硬い、流れが止まる一瞬がある
よって、競り合わず、下から上へと突く
身長の高い相手の懐へ、頭上からの一撃よりも早く、速く、疾く

刀を収め、礼

*



「……ふぅ」

振り返ると、香取が目を見開いていた

「……あ……ありがとう……ございました」

ようやく、それだけを口にして、呆然としている

「どういたしまして」
「今……自分が敗れるのを……感じた」
「まぁ、今のはカシ……じゃなくて、香取さんを想定してやったからね」
「凄いな……キミは……まるで、実戦だ」
「……」
「確かに鹿島流の型の連携のハズなのに……オレと……こうも違うのか……」
「たぶん、改良してあるんだと思う……実戦向きにね」
「そう……なのか……そうだ、キミの師の名は?」
「……ごめん……それは、言えないんだ」
「悪い、事情があるのだったな……だが、これは……まるで……」
「何?」
「オレの理想とした連携の……答えを見ているかの様だった」
「?!……理想的な……うん、そうかも、ボクの師匠は凄い人だからさ」
「ああ、キミの師匠は本当に凄い……」
「強いだけじゃなくてさ、凄く良い人なんだよね」

誇らしげに胸を張り、言ってみせる

本人による本人の未来に対する言葉に、また本人を前にしての自分の言葉に
何だか笑ってしまいそうになるのを堪え、香取さんの言葉を待つ

「そうか……いや、それを出来るキミも凄い……オレはやっと……」

その凄いと思える様な、過去の自分がそう思える様な人
理想の自分に向かって進んで行ける人
そんな香取さんが一番凄いと思う

「ボクは型の意味を、連携の想定を教えてもらっていたからね」
「……」
「香取さんは、そういう事を道場で教わっていないでしょ?」
「ああ……そうだけど……それにしたって……」

落ち込んでいるのが見て取れる
あのカシマさんにもこういう時期があったとは……正直、意外だった
でも、だからこそ……カシマさんはあんなに強いんだと思う
努力の上に立っている人なんだと思う

そう思うと、感動すら覚える
努力というものの素晴らしさが心に重く響く

「大丈夫、香取さんなら出来るよ!今のボクなんてすぐに追い越していける!」
「……そう……だろうか……」
「こんな少し見たくらいで、理解したんでしょ?」
「理解するのと、実践するのとは違うよ」
「そうだね……でも、その為の鍛錬だよ!」
「鍛錬……か」
「香取さんはこの先もずっと鍛錬して強くなるよ、絶対!」
「キミの様に……なれるだろうか……」
「ボクどころか、ボクの師匠の様にだってなれるさ!」
「そうなりたい……いや、そうなる為に鍛錬を重ねるよ」
「うん!」

心を清涼感が満たす

「いつか……オレが強くなったら手合わせをしてもらえるかな?」
「え?」
「駄目だろうか?」

この約束は、果たせるのだろうか?
この世界は、この過去は、自分が元の世界へと戻った時にどう影響するのだろうか?
だが、必ず出逢えるはずだ

「もちろん良いに決まってる!その時を楽しみにして待ってるよ!」
「ああ、待っててくれ……必ず、キミの相手をするのに相応しい実力をつけるから」
「待ってるよ!……ずっと、ずっと……待ってるから!」

ずっと先で、何十年も先の未来で
カシマさんが、自分に出逢ってくれる事を楽しみに待っている

出逢いの契機は悲しい事件だった
けれど、今はとても大切な、尊敬する師だ

「じゃあ、もう行くよ……またどこかで!必ず!」

たぶん、これでココの世界は終わりだ
道場の戸を開け

「ああ、また逢おう!必ず!」

香取の、カシマの声を背中に、飛び出す───


*


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