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――よく耐えた。流石は世界一有名なネズミだ。
唐突に聞こえた声と共にパレードを中から光が薙いだ。
その半数程が消し飛んだパレードの中、中央付近に先程パレードに呑まれた青年たちの姿があった。誰一人として欠けてはいない。
「なぜ取り込まれない?」
老人が眉を顰めていぶかしむ。
「そりゃまあ、あんたをしっかり倒さなければ勝手に餌になってもらった町の皆々様に申し訳がたたんからな」
青年は顔に笑みを浮かべて言う。そうしながら足は≪夢の国≫の契約者とミッ○ーの方へと向いていく。
「黒服さんに庇ってもらってなんとか生きのびたんだけどな」
「あぶなかったの」
少し青ざめた顔で人形を頭上に乗せた青年の契約者が青年の後についていく。視線は周りのパレードを見てせわしないが、まだ元気そうだ。
「それを言うならこのパワーストーンをくれた彼女に感謝しなければなりませんね。≪夢の国≫への耐性時間内では脱出は不可能でしたから」
黒服が銃を老人に向けて牽制しつつ後退しながら言う。
青年は近づこうとするパレードに光弾を一発くれて牽制すると、片腕、片足、首が欠損して倒れているミッ○ーに歩み寄る。
「お前の意志のままに生きることができるなら。それは幸せなことだろう?」
そう言って青年は光る手に握った水晶をポン、とマスコットの肩に置いた。
水晶が光り、≪夢の国≫の創始者の支配も媚薬の蠅の影響も消し去る浄化の力が彼を炙る。
ミッ○ーの体は崩れ、しかし、再び構成される。そして彼は、
≪夢の国≫の契約者の傍らに跪いた。
「……え?」
呆然としている≪夢の国≫の契約者に青年は言う。
「こいつの自由意思はあんたを≪夢の国≫の王と認めたようだな。≪夢の国≫の契約者」
「他の皆さんにもあのクソ爺とこの子と、どっちに付きたいか訊いてみたいもんだな」
青年と契約者が≪夢の国≫の契約者を見て言う。
「訊ねてみるかね?」
老人が言う。老人のいる位置を黒服が持った銃から放出された光線が通過。老人は次の瞬間には別の場所に移っている。
「そうですね、子供たちはもう無理でしょうが、黒服とマスコットになら話を聴いていただけるかもしれませんね」
銃を構え、老人に銃口を向けたままの黒服の言葉を老人は鼻で笑う。そして青年に顔を向け、訊ねる。
「そのマスコットが小娘に付くのもそちらの策かね?」
青年はマスコットが立ち上がるのを確認すると老人に振り返り不敵に笑う。
「その通り。と言いたいところだが」
「超棚ボタだよな」
青年の契約者がため息交じりに言う。
老人はうなずき、
「フム、なるほど。苦心し、偶然すら味方につけたわけだな。さて、そんなに心を砕いて正気を取り戻させたところ悪いが」
次の瞬間、≪夢の国≫の契約者の背後に老人が移動していた。
「双方、返してもらおうか」
そう言って≪夢の国≫の契約者とミッ○ーの頭を掴む。
とたんに二人の顔が苦悶に歪み始める。
「洗脳か!」
「またその子を操るつもりですか!」
「きったねぇ、ついさっき殺そうとしてたくせに」
妨害しようと走り寄る彼等を見て老人は面白そうに言う。
「人にとられると思うと急に惜しくなるものなのだよ」
そう言って支配を得ようとする。
「……や……だ」
老人の手の下、≪夢の国≫の契約者は抗おうとする。
「い……や…………だっ」
拙い反抗を行う≪夢の国≫の契約者を見て老人は嘲る。
「契約者風情ではどうしようもないのだよ! おとなしく私の手足に、道具に戻るがいいっ!」
≪夢の国≫の契約者とマスコットを取り返そうとする彼等から逃れるために老人は二人ごと転移。住人を楯にする。
「わたしは……」
老人の手の中で≪夢の国≫の契約者は必死に言葉を紡ぐ。
「わたしは、あなたの、契約者じゃないっ!」
「ハハハッ!ではなんだというのだ?」
笑いが止まらないとでもいうかのような老人。白光が住人の壁を突き抜けて向かってくるが当たったと思われる次の瞬間には老人は移動している。
「わたしは……」
≪夢の国≫の契約者、彼女は思い出す。かつて自分が思ったことを。
その半数程が消し飛んだパレードの中、中央付近に先程パレードに呑まれた青年たちの姿があった。誰一人として欠けてはいない。
「なぜ取り込まれない?」
老人が眉を顰めていぶかしむ。
「そりゃまあ、あんたをしっかり倒さなければ勝手に餌になってもらった町の皆々様に申し訳がたたんからな」
青年は顔に笑みを浮かべて言う。そうしながら足は≪夢の国≫の契約者とミッ○ーの方へと向いていく。
「黒服さんに庇ってもらってなんとか生きのびたんだけどな」
「あぶなかったの」
少し青ざめた顔で人形を頭上に乗せた青年の契約者が青年の後についていく。視線は周りのパレードを見てせわしないが、まだ元気そうだ。
「それを言うならこのパワーストーンをくれた彼女に感謝しなければなりませんね。≪夢の国≫への耐性時間内では脱出は不可能でしたから」
黒服が銃を老人に向けて牽制しつつ後退しながら言う。
青年は近づこうとするパレードに光弾を一発くれて牽制すると、片腕、片足、首が欠損して倒れているミッ○ーに歩み寄る。
「お前の意志のままに生きることができるなら。それは幸せなことだろう?」
そう言って青年は光る手に握った水晶をポン、とマスコットの肩に置いた。
水晶が光り、≪夢の国≫の創始者の支配も媚薬の蠅の影響も消し去る浄化の力が彼を炙る。
ミッ○ーの体は崩れ、しかし、再び構成される。そして彼は、
≪夢の国≫の契約者の傍らに跪いた。
「……え?」
呆然としている≪夢の国≫の契約者に青年は言う。
「こいつの自由意思はあんたを≪夢の国≫の王と認めたようだな。≪夢の国≫の契約者」
「他の皆さんにもあのクソ爺とこの子と、どっちに付きたいか訊いてみたいもんだな」
青年と契約者が≪夢の国≫の契約者を見て言う。
「訊ねてみるかね?」
老人が言う。老人のいる位置を黒服が持った銃から放出された光線が通過。老人は次の瞬間には別の場所に移っている。
「そうですね、子供たちはもう無理でしょうが、黒服とマスコットになら話を聴いていただけるかもしれませんね」
銃を構え、老人に銃口を向けたままの黒服の言葉を老人は鼻で笑う。そして青年に顔を向け、訊ねる。
「そのマスコットが小娘に付くのもそちらの策かね?」
青年はマスコットが立ち上がるのを確認すると老人に振り返り不敵に笑う。
「その通り。と言いたいところだが」
「超棚ボタだよな」
青年の契約者がため息交じりに言う。
老人はうなずき、
「フム、なるほど。苦心し、偶然すら味方につけたわけだな。さて、そんなに心を砕いて正気を取り戻させたところ悪いが」
次の瞬間、≪夢の国≫の契約者の背後に老人が移動していた。
「双方、返してもらおうか」
そう言って≪夢の国≫の契約者とミッ○ーの頭を掴む。
とたんに二人の顔が苦悶に歪み始める。
「洗脳か!」
「またその子を操るつもりですか!」
「きったねぇ、ついさっき殺そうとしてたくせに」
妨害しようと走り寄る彼等を見て老人は面白そうに言う。
「人にとられると思うと急に惜しくなるものなのだよ」
そう言って支配を得ようとする。
「……や……だ」
老人の手の下、≪夢の国≫の契約者は抗おうとする。
「い……や…………だっ」
拙い反抗を行う≪夢の国≫の契約者を見て老人は嘲る。
「契約者風情ではどうしようもないのだよ! おとなしく私の手足に、道具に戻るがいいっ!」
≪夢の国≫の契約者とマスコットを取り返そうとする彼等から逃れるために老人は二人ごと転移。住人を楯にする。
「わたしは……」
老人の手の中で≪夢の国≫の契約者は必死に言葉を紡ぐ。
「わたしは、あなたの、契約者じゃないっ!」
「ハハハッ!ではなんだというのだ?」
笑いが止まらないとでもいうかのような老人。白光が住人の壁を突き抜けて向かってくるが当たったと思われる次の瞬間には老人は移動している。
「わたしは……」
≪夢の国≫の契約者、彼女は思い出す。かつて自分が思ったことを。
『やっぱり私には、王様は、無理なのかな』
その弱音を思い出す。既にその頃にはある程度意思に介入されて老人の求めるままに人々を襲っていたのが今の自分には自覚できる。老人の、≪夢の国≫の創始者の力は強大だ。抗しきれるか分からない。だが今、彼女は決意する。そう、彼女は、
わたしは――
わたしは――
「私は、≪夢の国≫だっ!」
その宣言と共に、彼女の存在が変質した。
洗脳作業が強烈に拒否され、弾かれるのを老人は感じた。
「ハッハハ、これはどういうことか、小娘が≪夢の国≫だと?」
同じように老人から弾かれたミッ○ーが≪夢の国≫をかっさらう。
向かう先は青年たちの所だ。どうやら洗脳には失敗したのだろう。
そう判断して住人をマスコットにけし掛けながら老人は嗤う。
「これはいいっ! 都市伝説に自ら取り込まれたかっ!?」
「それなら何故彼女――≪夢の国≫が他の≪夢の国≫関連の都市伝説のよう貴方に支配されていないのかを考えるがいいさ。御老体」
青年と黒服が追撃してくる住人を撃ち抜きミッ○ーを援護する。
そうだ。あの小娘が≪夢の国≫に取り込まれて都市伝説になったのならば、わざわざ洗脳などという手順を踏むまでもない。≪夢の国≫は老人の持ち物なのだ。彼が望めばつい先程まで人間だった少女もそれに忠義立てするマスコットもすぐに堕ちるはずだった。
だがマスコットも少女も老人の意思に従う気配がない。
どういうことだ?
疑問を抱く老人を光弾が襲った。
老人はいつものように転移して避けようと――
「っ!?」
老人は驚愕する。疑問が浮かぶがそれを口にする前に光弾が右腕を撃ち抜いて消滅させる。
「っぬ、なぜ転移できん!?」
右腕を再生させながら疑問を叫ぶ老人に問いかけがなされた。
「ねぇ、知ってる?」
それは老人がつい先程まで見下していたモノの声で、
「王様は一人しか居ないけどね、世界中のどこにも居るんだよ」
今まで何度も聞いた問いかけとそれに連なる答えを言う。
――でも、
「今、王様は二人いるよね?」
「なんだと」
眉を顰める老人、
「いま、ふたり? おじいちゃんと、もうひとりは――」
「! 嬢ちゃんか!」
青年の契約者がハッとした顔で叫ぶ。
「その通り」
青年が光弾を用意しつつ言う。
「あなたが」
黒服の声に≪夢の国≫は応じる。
「そう。私は、≪夢の国≫の、王様」
己の横に世界一有名なネズミを控えさせ、彼女は言う。
「王を騙る悪者から≪夢の国≫を取り戻す、王様」
「小娘風情が!」
老人の呼び出した残りのパレードが≪夢の国≫ごと青年たちも呑みこもうとする。
しかし、
「破ぁ!!」
青年が用意していた光弾がそれらを撃ち滅ぼす。
「やれやれ」
青年が己の内に溶けた都市伝説に≪夢の国≫の悪夢を消し去れたら幸せだよな。と幸せへの道を語り、光弾をまた生みだしながら己の発言を訂正する。
「ハッハハ、これはどういうことか、小娘が≪夢の国≫だと?」
同じように老人から弾かれたミッ○ーが≪夢の国≫をかっさらう。
向かう先は青年たちの所だ。どうやら洗脳には失敗したのだろう。
そう判断して住人をマスコットにけし掛けながら老人は嗤う。
「これはいいっ! 都市伝説に自ら取り込まれたかっ!?」
「それなら何故彼女――≪夢の国≫が他の≪夢の国≫関連の都市伝説のよう貴方に支配されていないのかを考えるがいいさ。御老体」
青年と黒服が追撃してくる住人を撃ち抜きミッ○ーを援護する。
そうだ。あの小娘が≪夢の国≫に取り込まれて都市伝説になったのならば、わざわざ洗脳などという手順を踏むまでもない。≪夢の国≫は老人の持ち物なのだ。彼が望めばつい先程まで人間だった少女もそれに忠義立てするマスコットもすぐに堕ちるはずだった。
だがマスコットも少女も老人の意思に従う気配がない。
どういうことだ?
疑問を抱く老人を光弾が襲った。
老人はいつものように転移して避けようと――
「っ!?」
老人は驚愕する。疑問が浮かぶがそれを口にする前に光弾が右腕を撃ち抜いて消滅させる。
「っぬ、なぜ転移できん!?」
右腕を再生させながら疑問を叫ぶ老人に問いかけがなされた。
「ねぇ、知ってる?」
それは老人がつい先程まで見下していたモノの声で、
「王様は一人しか居ないけどね、世界中のどこにも居るんだよ」
今まで何度も聞いた問いかけとそれに連なる答えを言う。
――でも、
「今、王様は二人いるよね?」
「なんだと」
眉を顰める老人、
「いま、ふたり? おじいちゃんと、もうひとりは――」
「! 嬢ちゃんか!」
青年の契約者がハッとした顔で叫ぶ。
「その通り」
青年が光弾を用意しつつ言う。
「あなたが」
黒服の声に≪夢の国≫は応じる。
「そう。私は、≪夢の国≫の、王様」
己の横に世界一有名なネズミを控えさせ、彼女は言う。
「王を騙る悪者から≪夢の国≫を取り戻す、王様」
「小娘風情が!」
老人の呼び出した残りのパレードが≪夢の国≫ごと青年たちも呑みこもうとする。
しかし、
「破ぁ!!」
青年が用意していた光弾がそれらを撃ち滅ぼす。
「やれやれ」
青年が己の内に溶けた都市伝説に≪夢の国≫の悪夢を消し去れたら幸せだよな。と幸せへの道を語り、光弾をまた生みだしながら己の発言を訂正する。
「国落としのつもりが、革命になったな」