「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代ーズ-07a

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07 三巴




 面白い人間を見つけた
 それが流石 丈(さすが たけし)の、“彼”に対する最初の印象だった
 前々から見かけることはあったが契約者である可能性に至ったのは最近だ

 不思議なことに“彼”からは全く気配を感じなかった
 いや、気配はあるはずだがかなり「薄い」のだろうと当初は考えていた

 だがそうではなかった

 見掛ける内の数度だけ、強い気配が放たれるのを察知したのだ
 違和が疑惑に変わり、流石は意を決して彼に接近することにした

 平日夕方の南区
 “彼”を見つけたとき、流石は一度だけすれ違うように歩いた
 最接近の機会に意識を集中させ“彼”の気配を感じ取るためだ

 そのときの“彼”の気配は至極「薄かった」
 だが、ごくわずかに都市伝説の気配がした


 “彼”は契約者かもしれない


 気配を断つことができる契約者はそう珍しいものではない
 それにこの町には大量の契約者が居住しているのだ
 珍しいことではない

 だが流石はわずかに感じ取った都市伝説の気配の中に何かを感じた
 是非手合わせをしてみたい、その思いを抱いたのは丁度そのときだ
 “彼”には何かがある、流石の直観はそう断じていた

 で、あれば
 いつ会うべきか
 これが問題だ

 “彼”は南区でよく見掛けたが、秋口より東区でも姿を見るようになった
 夜間に歩き回っている所を確認できたのは流石にとって僥倖だった
 流石も早速、夜間の徘徊を開始した






 そして

「何度か見かけた顔だ」

 夜中、東区中学の校庭にて

 初めて“彼”に話し掛けたとき、流石は歓喜と緊張で震えていた
 相対して分かったが、背は自分より高く、年齢は思っていたよりも近そうだった
 当初は成人しているのかと思っていたが、もしかしたら高校生くらいかもしれない

「不思議な気配だな、気配を殺したかと思えば微かに気配を滲ませる、それを不定期に繰り返している
 当初は何かの合図かとも思ったが、まあいい。契約者だな?」



 自分が何を話しているのかは最早どうでも良いことだ
 早く、早く手合わせがしたい

 普段はこういった衝動に衝き動かされることなど無い
 “彼”、目の前の男にはやはり何かがある
 流石はその答えが知りたかったのだ

「『組織』所属の契約者か?」
「いかにも」

 “彼”の声色は敵意を含んでいたが、契約者かという向こうの問いに、内心流石は打ち震えていた
 “彼”が契約者であるという確信があったわけではないが、これではっきりした
 “彼”は契約者とは何かを知っている

 更にだ、“彼”は自分が「組織」所属であることを見抜いていた
 やはりこの男は只者ではない! 早く仕合いたい!

 だが

「手合わせを願いたい」
「お断りだ!」

 あろうことか“彼”は逃げ出そうとした
 しかし、そのようなことは想定の内だった
 予め待機させていた契約都市伝説、「校庭に現れる落ち武者の霊」に“彼”の足止めをさせる

 怒りと喜びが腹の底を渦巻く
 逃げるとは何事だ、是非仕合せてもらう
 “彼”は怒っているようだが、それはこちらの話だ
 手合わせを放棄して逃げ出そうなど、決して許されることでは無い

 “彼”は憤慨したように、黒色の木刀状の物体を創造した
 間違いなく“彼”は契約者だ、それに加えて“彼”の気配は未だに微弱である
 通例、契約者が能力を発動する際、平時よりも気配が強くなるが、“彼”にはそれが無い
 やはりこの男、何かがある

 “彼”が先んじて木刀を振るってきた
 その一撃を受けてこちらも刃を向ける
 流石は昂る興奮を抑えることができない
 “彼”は油断なく立ち回り、距離を取ろうとする
 勝敗が決するまで、この男を離すわけにはいかない!

 不意に“彼”の姿勢が崩れる

 片手持ちで振るってきた木刀状のそれが変形した
 まるで鞭のように波打ちながら、自分の脚に直撃しようとする

「面白いな」

 この男、創造した物質を柔軟に変形させることもできるらしい
 中々の熟練者に違いない、思わず笑みが零れそうになる
 今度はこちらから攻めようと刀を構える
 それが自分が払うべき礼というものだ


 だが


「っ!?」

 あろうことか、“彼”は鞭と化した木刀で校庭の土砂を抉り飛ばしてきた
 飛散した石と砂から顔を庇い刀を構え直した時、既に“彼”は逃走し、武者の霊を転倒させていた

 頭に血が上った

 なんという奴だ
 仕合いを放棄して逃げ出すなど
 しかも目潰しなどと汚い手を使って


 その腐った性根を斬り殺してやりたい所だ


 奴は既に校庭のフェンスをよじ登っていた
 起き上がった武者の霊、直正衛門は手に持った槍を振り被って投擲
 槍は奴の横に直撃し、フェンスを揺さぶり、奴は奇声を上げてフェンスの向こう側へと転落した


 追跡し、叩きのめす


 流石と武者の霊は疾走した
 必ず捕らえて、そのふざけた精神に手合わせの何たるかを注入するのだ






 結果、流石と武者の霊は“彼”を見失った
 東区中学を抜けて街道を走り回った挙句、二人は三叉路に出ていた

「ふむ」

 先程よりも幾分か頭が冷めてきた
 “彼”と仕合うため、力量をはかるために挑んだのだが

「悪いことをしたか……?」

 顧みれば“彼”は手合わせに消極的だった
 いや、あからさまに嫌がっていたと見た方が適当だ

 むう、流石は思案する
 興奮のあまり激情に流され、結果として好機を逸したと見るべきだ
 万が一、次回“彼”に出会ったときは、今晩の非礼を詫びた方がいいだろうか

 一抹の申し訳なさを心の片隅に抱いた、そのとき


「ぬゥッ!?」
「……何者だ」


 夜道、前方に新たな影
 怪しい風体の二人組が立っていた



 見たところ、前の一人は麦わら帽子にコートという出で立ち
 だがコートから覗く体や腕には深紅の包帯が巻かれているではないか
 その後ろに控える者は羽織りも何もなく、露骨に全身を深紅の包帯で覆っている

「『トンカラトン』か?」
「如何にもッ!!」

 麦わらの者は低い声でそう唸ると、大仰な身振りで前へ歩み出る!

「おゥ、おゥおゥおゥおゥ! しッかと耳にするがいいッ!
 我が名は『朱の師団』四番隊副隊ちょ――つオッッ!?!?」


 不意に鋭い殺気
 直後、道路の舗装が爆ぜた


 即座に受け身を取り、コンクリート塀の陰に潜り込む
 気配は上方からだ、遮蔽物で身を庇いつつ様子を窺うと上空に何かが滞空していた
 大きな翼をはためかせているそれは、人の形をしているがそうでは無い

「あれは『モスマン』か?」
「ぬゥゥ! 名乗りの途中で不意打ちを仕掛けるなどッ! アヤカシの風上にも置けヌ奴ッ!!」

 大声で抗議する方を見やれば、先程の「トンカラトン」二人組も遮蔽物に身を隠し上空の狼藉者に怒鳴り散らしている
 それだけではない、二人組の内の一方は、どこから取り出したのか拳銃のような物を「モスマン」に向けているではないか

 乾いた発砲音が夜の静寂を切り裂く
 だが、「モスマン」は怯んだようには見えない
 それどころか、羽搏きを続ける翼が一瞬、不気味に揺れた

 大気を叩くような音と共に「トンカラトン」の近くのアスファルトが炸裂
 どうやら、上空の「モスマン」は何らかの射撃能力を持っているようだ

 ふと流石が横を向くと、武者の霊は新たな槍を創造し投擲の構えを見せていた
 流石が止める間もなく、武者の霊は槍を投擲
 しかし「モスマン」には到底届かない

「駄目だ、直正衛門。民家に被害が出る」

 流石は再度槍を投げようとした武者の霊を制した
 正面を切ってきた「トンカラトン」はともかく、上空の「モスマン」はまずい
 遠距離の攻撃方法を持たない我々では手の打ちようがない

 流石は携帯を取り出し、専用回線へ架電した
 これは迷うことなく流石が所属する「組織」の対処すべき事案だ

「こちら“オサスナ”、学校町東区で『トンカラトン』二体、『モスマン』一体と会敵
 位置情報は送信通りだ。現在、『モスマン』の攻撃を凌いでいる」

『位置を特定した。これより応援を送る
 「狐」の配下の可能性もある、十分に警戒せよ』

「了解」

 通信を切り、状況に備える
 “彼”のことは「組織」に報告する積りは無い
 あれは自分の失態であり、故に自分で片づけるべき件だ
 流石はそう判断して、目前の状況へと意識的に注意を払った

 我々と、「トンカラトン」、そして「モスマン」
 襲撃してきた「モスマン」の方は討伐するとして
 「トンカラトン」の方も、出方次第では捕縛が必要になるだろう
 流石は、能力によって創造された刀を引き寄せ、状況の観察を続ける

 少年の名は流石丈
 中学三年生の男子にして武者の霊の主
 そして、「組織」強硬派に所属する、「契約者」である





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