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連載 - プレダトリー・カウアード-20

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uranaishi

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プレダトリー・カウアード 日常編 20


 黒が駆ける。銀白色の光の中で踊るように。
 ダンスのパートナーは僕だ。動と共に暗闇を縦横無尽に走る青の軌跡と戯れ遊ぶ。
 黒い鬼が舞うのに対し、僕は地べたを這いずり回る。
 本当のダンスなんてしたことはないけれど、きっとこれ以上に難しくはないだろう。
 ダンスの失態は足踏み程度。僕の失態は死を意味する。
 黒が飛び青が交錯する中を、身を投げ放って転がして、命からがら逃げ延びる。
 曲目不明。故にフィナーレは存在しない。
 あるとすれば片両いづれかの棄権か死。
 そして勿論、主役は棄権を許さない。

(まずいなぁ……………)


 眼前の床に青い影。身をひねって強引に抜ける。
 タッチの差で、脚が青を正確にトレースした。
 間一髪。後一秒でも気づくのが遅ければ、きっと僕の身体は足蹴にされていただろう。
 先程からずっとこうだ。
 青が動き吸血鬼が追随、そして僕は青から逃れ、吸血鬼は空を裂く。
 そんなイタチゴッコが続いている。
 優位にあるのは吸血鬼。
 理由は単純。僕の最終目的が逃走であり、彼の最終目的が殺人だから。
 ここに来て、完全に主客は逆転している。
 狩る側は僕ではなく吸血鬼。狩られる側は迷いようもなく僕。
 明快な上下関係が、そこにある。

 逃亡は未だ叶わない。
 元より速さはあちらに分があるのだ。
 僕がどれ程頭を滾らせ惑っても、その差が見せるのは絶望一択。嫌になりそうだ。
 そして現状は体力勝負の根競べ。
 如何に頭の悪い僕といえど、その先が見えないほどには愚かじゃない。
 既に息は切れ切れ。足は笑うし脳は悲鳴を上げている。
 後何度、僕は拳を躱せるだろう。
 後何度、僕は青から脱せるだろう。
 身体と相談するまでも無い。
 可能な回数は後――――

「………………死ね」

 ――――0回だ。

 メキリ、と嫌な音。
 炸裂した吸血鬼の脚が、今度こそ僕を捉えていた。
 歯を食い縛る。意識が明滅する。
 その一撃を以ってして、僕の身体は沈みこむ。
 最早限界。これ以上の戦闘続行は不可能。
 硬い床へと倒れこむ。吸血鬼の足だけが視界に映る。
 身体は微塵も動かない。
 寒気が襲う。戦闘によるマナの大量消費のツケがここに来て回ってきた。
 闘いの最中は小刻みに吸血鬼のマナを喰らってごまかしていたが、それも今は身体の再構成に全てが回され、僕の「器」はすっからかんだ。
 ……ミス。その単語が脳裏をよぎる。
 こんな一方的な戦闘になるのであれば、せめて一度でも「限界」を無視して吸血鬼のマナを喰らってみるべきだった。

「言い残す事は」

 影が視界を覆う。
 声は出せない。いや、出せたとしても何を言っただろう。
 完全な敗北。「狩り」は初めてだから仕方ない、なんて言い訳を使ってみてもいいけれど、残念ながら「戦闘」は二度目だ。
 最早これまで。侍ならば切腹でもする場面かもしれない。

「………………同士の仇だ。悪く思うなよ」

 ……「同士」、つまりは仲間。
 「復讐」なんて単語を聞いた時点である程度の推察は出来ていた。
 この吸血鬼は僕が殺したあいつと同類。どれだけかは知らないけれど、交流だってあったのだろう。
 だから復讐。仲間の弔いと私情を兼ねて、この吸血鬼は僕を殺す。

 視界の隅で影が動く。
 拳か、脚か。いづれにせよ、マナの枯渇した今の身体の事だ。脆くも崩れ去るだろう。

 吸血鬼からマナが溢れる。僕にだけ見える輝きは、一条の光となって頭部へ向かう。
 流石にそこを砕かれ生き残るほどのマナは所持していない。
 光を追う黒い拳が目に入る。
 心残りといえば、姉ちゃんに感謝の一言も伝えられなかった事か。
 そう考えて、けれど全く別の疑問がその時沸き起こった。

 ……そういえば、この吸血鬼はどうして仇が「僕」だと知っていたのだろう。
 考えても仕方がないはずの疑問。
 時間がない。そんな時間など、どこにも。
 覚悟した。生を絶つことを。覚悟して尚、恐れ、後悔し、慄き、震えて――
























 ――打撃音が、工場を満たした。

(………………え?)

 ――――――ただし、それは上方。吸血鬼の頭部付近。僕の遥か上空で。
 疑問、困惑、混乱。
 パニックに陥りかけた脳が、けれど次の「声」に完全に色を失った。

「私の弟だぞ貴様。一体何をしてくれる?」

 ――――姉ちゃんの、声だった。

【Continued...】




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