いつもの交差点で、信号が変わるのを待っていた。
唯「信号…待ちでーす」
どうにも落ち着かない。隣で信号を見つめる顔が見られない。
唯「青になりましたー」
紬「じゃあ唯ちゃんまた明日」
声につられてやっと顔を向けると、いつもの笑顔が見えた。
唯「うん、またね」
そんなことを言いながら手を振ってるなんて。
こんなところまで来て、まだ迷ってる。
どうするの?信号が変わっちゃうよ。
どうするの?信号が変わっちゃうよ。
点滅する信号に急かされるままに、私はその背中を追いかけた。
紬「唯ちゃ、」
唯「急いでムギちゃん、もう赤になるよ!」
立ち止まったままの左手をつかんで気付いたら、横断歩道の向こう側にいた。
紬「はぁ…びっくりした…」
唯「えへへ、ごめんね」
驚いた顔をしたのはほんの数秒で、今はもうわくわくに目を輝かせてる。
紬「ねぇ唯ちゃん。どこに連れてってくれるの?」
唯「え、えーっとね…」
でも私はまだどこか逃げ腰で、弱気な質問をする。
唯「ムギちゃん、駅はどっちに行くの?」
紬「駅は…そうね。ここをまっすぐ、かしら」
唯「おっけー。送ってくね」
紬「でもね、唯ちゃん。今日はここを曲がってみたいな」
唯「え…?」
いいの?なんて尋ねなくても、もう私たちは手をつないだまま歩き出していた。
唯「どこか行きたいとこあるの?」
紬「うん、知らないところ」
唯「よーし、行ってみよう!」
――――
そして見事に道に迷った私たちは、どこか知らない喫茶店に。
唯「やっぱり迷っちゃったねー」
紬「そうね。でもなんか楽しいねっ」
ムギちゃんは、知っているのかな。
私が必要以上に紅茶をくるくるかきまぜている理由を。
私が必要以上に紅茶をくるくるかきまぜている理由を。
唯「ムギちゃん、お茶飲まないの?」
紬「じゃあそろそろ…」
そう言ってティーポットから紅茶を注いで、手を延ばした先は。
紬「とってもおいしいわ。唯ちゃん」
唯「あ…うん!よかったぁ」
ムギちゃんは、スプーンに何の願い事をかけるの?
私とおんなじかな。だったら嬉しいな。
私とおんなじかな。だったら嬉しいな。
紬「さぁ次は唯ちゃんの番。召し上がれ」
でもなんにもかきまぜないまま、紅茶を差し出そうとするムギちゃん。
唯「え、え、私はあんなに…」
つい悔しくなって言った言葉に、返ってきたのは満面の笑み。
紬「だってね。もう叶っちゃったの」
紬「唯ちゃんが追いかけてこないかなって、ずっと考えてたんだよ」
切なさも願いも悩みも迷いも、全部ぜんぶとかしきった透き通った紅茶。
最後の仕上げに笑顔から、ぽとんと一粒透き通った雫が落ちた。
おしまい
もちろん元ネタはあの曲です