Reach Out To The Truth(3) ◆dGUiIvN2Nw
◇◇◇
【??? 監視部屋】
【??? 監視部屋】
「なるほど。これは想像以上に厄介ですね」
監視部屋。いくつものモニターが映像を映し出している。そこには今、二人の者が対峙していた。
一人はどこかひ弱そうなイメージのある長髪の男、セフェラン。もう一人は、道化師のような格好をしたマルク。
しかしどこかマルクの様子がおかしい。いつもの快活な様子はなく、彼はずっと押し黙っている。
マルクに添えるように杖を掲げていたセフェランは、彼にしては珍しい複雑な表情だった。
これで邪魔者はいくらか排除できる。しかし……
そんなことを考えていると、突然後頭部に堅い何かが押しつけられる。
「そいつを離せ」
冷たく凍てついた声。
頭を銃で突き付けられていることに気付くのに時間はいらなかった。
どうやら彼は、本気で怒っているようだ。いつ頭を撃ち抜かれてもおかしくない。
「……別に危害を加えていたわけではありません」
「じゃあ今の状況はなんだ? 明らかにマルクは異常をきたしている」
「心配には及びません。少し記憶を見せて頂いていただけですよ」
掲げていた杖をマルクから離す。
すると、先程までずっと沈黙を守っていたマルクがぱちくりと目を瞬かせた。
「あ! ボスがいるのサ! いつの間に入って来たのサ」
「……ついさっきな」
セフェランを睨みつけたまま、ボスは言った。
「銃なんか持ってるのサ! 喧嘩はよくないのサ!」
セフェランはマルクの背に合わせるように屈み、微笑んだ。
「私も少々困っていたところなのです。マルクからもボスを説得してくれませんか?」
マルクはオーケー! と元気よくサムアップすると、ボスに向かい合った。
「ボス! 喧嘩は駄目なのサ!」
ボスはそれでもセフェランを睨み続けるが、当の本人は悠々とそれを受け流している。
しばらくして、ようやくボスは銃を下ろした。
「喧嘩じゃない。銃のメンテナンスをしていただけだ」
「メンテナンス中に銃口を人に向けちゃ駄目なのサ! そんなの僕でもわかるのサ!」
「ああ。そうだな」
「ボスはダメダメなのサ」
「あー、ほら。わかったからさっさと行け。俺はセフェランと話があるんだ」
しっしっ、とまるで動物を相手しているかのように軽くあしらう。
「ボスは自分勝手なのサ! 僕だってセフェランとお話し中だったのに」
文句を言うマルクを無理やり黙らせ、部屋から出て行かせた。
恨んでやるのサー、と叫ぶマルクを無視してドアを閉める。
監視部屋。いくつものモニターが映像を映し出している。そこには今、二人の者が対峙していた。
一人はどこかひ弱そうなイメージのある長髪の男、セフェラン。もう一人は、道化師のような格好をしたマルク。
しかしどこかマルクの様子がおかしい。いつもの快活な様子はなく、彼はずっと押し黙っている。
マルクに添えるように杖を掲げていたセフェランは、彼にしては珍しい複雑な表情だった。
これで邪魔者はいくらか排除できる。しかし……
そんなことを考えていると、突然後頭部に堅い何かが押しつけられる。
「そいつを離せ」
冷たく凍てついた声。
頭を銃で突き付けられていることに気付くのに時間はいらなかった。
どうやら彼は、本気で怒っているようだ。いつ頭を撃ち抜かれてもおかしくない。
「……別に危害を加えていたわけではありません」
「じゃあ今の状況はなんだ? 明らかにマルクは異常をきたしている」
「心配には及びません。少し記憶を見せて頂いていただけですよ」
掲げていた杖をマルクから離す。
すると、先程までずっと沈黙を守っていたマルクがぱちくりと目を瞬かせた。
「あ! ボスがいるのサ! いつの間に入って来たのサ」
「……ついさっきな」
セフェランを睨みつけたまま、ボスは言った。
「銃なんか持ってるのサ! 喧嘩はよくないのサ!」
セフェランはマルクの背に合わせるように屈み、微笑んだ。
「私も少々困っていたところなのです。マルクからもボスを説得してくれませんか?」
マルクはオーケー! と元気よくサムアップすると、ボスに向かい合った。
「ボス! 喧嘩は駄目なのサ!」
ボスはそれでもセフェランを睨み続けるが、当の本人は悠々とそれを受け流している。
しばらくして、ようやくボスは銃を下ろした。
「喧嘩じゃない。銃のメンテナンスをしていただけだ」
「メンテナンス中に銃口を人に向けちゃ駄目なのサ! そんなの僕でもわかるのサ!」
「ああ。そうだな」
「ボスはダメダメなのサ」
「あー、ほら。わかったからさっさと行け。俺はセフェランと話があるんだ」
しっしっ、とまるで動物を相手しているかのように軽くあしらう。
「ボスは自分勝手なのサ! 僕だってセフェランとお話し中だったのに」
文句を言うマルクを無理やり黙らせ、部屋から出て行かせた。
恨んでやるのサー、と叫ぶマルクを無視してドアを閉める。
「……どういうことか聞かせてもらおうか?」
「先程言った通りですよ。彼の記憶を見せてもらっていた。ただそれだけです」
「……副作用はないんだろうな」
「先程のやりとりを見てもらえれば分かるでしょう? 安心して下さい。彼には何も危害を加えていませんよ。記憶の改竄もしていません」
一瞬迷うが、すぐにセフェランを信じることにした。
この男は決して嘘をつかない。それは今までの付き合いからもわかる。
「記憶を見せてもらったと言ったが、何故今更そんなことを?」
「今だからです。ようやく八意永琳の術が解けたところですからね」
「術?」
質問と同時にボスは察する。彼女の急変は、おそらくその術が破れたことを察知したのだろう。
「八意永琳は、私がマルクを使って情報を得ようとすることを予測していました。だからそれに対する防衛策を講じていた。協力者に対して保険をかけていたということです」
マルクはその境遇からか監視組と仲が良い。それを利用して永琳は情報を集めていただろう。
そして、イザナミの目を盗むためにも二人が別行動を取るという作戦はそれなりに迷彩になったはずで、実際によく行われていた。
しかしそうなれば、当然マルクというアキレス健ができてしまう。
記憶を読まれる。
ただそれだけで永琳は圧倒的に不利になる。自分一人なら問題はないが、マルクにはそれに対抗する力がない。だからこそ保険を掛けていたのだ。
万が一にも記憶を読まれないように。
「しかし結局、それも無意味だったわけですが」
「……やはり何かやらかしていたか」
「やらかすどころの話じゃありません」
ゲーム機の存在は決して無視できるものではない。
参加者を助けられるだけのアイテムが殺し合い会場にある。それはセフェラン達にとって由々しき事態なのだ。
「俺もそのあたりを詳しく聞きたい。一体どうなっている。何故嬢ちゃんは俺達を敵だと認識しているんだ?」
イザナミはこの空間から出られない。いわば籠に買われた鳥。そんな彼が協力者として永琳を呼んだ。
が、“永琳にはここから出られなくするような制限はかけていない”。
何故なら、そもそも自分がこの場所から出られなくなることを提案したのは、イザナミ本人なのだから。
「円卓の神々はあまりに力の差があり過ぎる。だから制限を掛けよう。そう言いだしたのは、確かイザナミでしたね」
イザナミの持つ力を女神がある程度封印する。そうすることで女神の力も弱まり、円卓内の力を拮抗させる。それでようやく円卓は成立するのだ。均等な力を持った神達の集まりとして。
「イザナミはあまりに強過ぎた。だからこそそれを危惧するゼロに対し、力の制限と、ここから出られなくなることを提案した」
イザナミの役割は殺し合いの現場作りと監修。要するに、計画の全てを彼一人が仕切っている。
それは一番割に合わない役割ではあったが、それも仕方がないことなのだ。
そもそも彼の目的は、自分が世界を創ることではなく、“他の神が創った世界を観察すること”なのだから。
「先程言った通りですよ。彼の記憶を見せてもらっていた。ただそれだけです」
「……副作用はないんだろうな」
「先程のやりとりを見てもらえれば分かるでしょう? 安心して下さい。彼には何も危害を加えていませんよ。記憶の改竄もしていません」
一瞬迷うが、すぐにセフェランを信じることにした。
この男は決して嘘をつかない。それは今までの付き合いからもわかる。
「記憶を見せてもらったと言ったが、何故今更そんなことを?」
「今だからです。ようやく八意永琳の術が解けたところですからね」
「術?」
質問と同時にボスは察する。彼女の急変は、おそらくその術が破れたことを察知したのだろう。
「八意永琳は、私がマルクを使って情報を得ようとすることを予測していました。だからそれに対する防衛策を講じていた。協力者に対して保険をかけていたということです」
マルクはその境遇からか監視組と仲が良い。それを利用して永琳は情報を集めていただろう。
そして、イザナミの目を盗むためにも二人が別行動を取るという作戦はそれなりに迷彩になったはずで、実際によく行われていた。
しかしそうなれば、当然マルクというアキレス健ができてしまう。
記憶を読まれる。
ただそれだけで永琳は圧倒的に不利になる。自分一人なら問題はないが、マルクにはそれに対抗する力がない。だからこそ保険を掛けていたのだ。
万が一にも記憶を読まれないように。
「しかし結局、それも無意味だったわけですが」
「……やはり何かやらかしていたか」
「やらかすどころの話じゃありません」
ゲーム機の存在は決して無視できるものではない。
参加者を助けられるだけのアイテムが殺し合い会場にある。それはセフェラン達にとって由々しき事態なのだ。
「俺もそのあたりを詳しく聞きたい。一体どうなっている。何故嬢ちゃんは俺達を敵だと認識しているんだ?」
イザナミはこの空間から出られない。いわば籠に買われた鳥。そんな彼が協力者として永琳を呼んだ。
が、“永琳にはここから出られなくするような制限はかけていない”。
何故なら、そもそも自分がこの場所から出られなくなることを提案したのは、イザナミ本人なのだから。
「円卓の神々はあまりに力の差があり過ぎる。だから制限を掛けよう。そう言いだしたのは、確かイザナミでしたね」
イザナミの持つ力を女神がある程度封印する。そうすることで女神の力も弱まり、円卓内の力を拮抗させる。それでようやく円卓は成立するのだ。均等な力を持った神達の集まりとして。
「イザナミはあまりに強過ぎた。だからこそそれを危惧するゼロに対し、力の制限と、ここから出られなくなることを提案した」
イザナミの役割は殺し合いの現場作りと監修。要するに、計画の全てを彼一人が仕切っている。
それは一番割に合わない役割ではあったが、それも仕方がないことなのだ。
そもそも彼の目的は、自分が世界を創ることではなく、“他の神が創った世界を観察すること”なのだから。
「イザナミは円卓の中でも浮いた存在でした。他の神によって作られた世界。それを、自分の世界を維持する上での参考にしたい。それが彼の言い分でしたから」
「そうだ。奴にとって、俺達の願いを叶えることが自分の願いを叶えることだった。だからこそ、自分にとってマイナスになるような提案も進んで呑んだ」
「それが私達の知る真実。しかし、八意永琳には歪んだ情報が手渡されていた」
「なに?」
ボスが思わず顔をしかめて、セフェランを見つめる。
「その内の一つが、“自分も神達に囚われている身なのだ”という嘘」
「おい! それは一体どういうことだ!!」
身を乗り出してセフェランに詰め寄る。しかし、セフェランはいつも通り澄ましている。
「そのままの意味ですよ」
その冷静な口調に、ボスも平静を取り戻そうとセフェランから背を向ける。
葉巻を取り出し、それを口にくわえる。
煙を一気に吸い、そして吐く。
それだけで、だいぶ気分は落ち着いた。
「しかし……それはあまりにおかしいぞ。そもそも嬢ちゃんを呼んだのはイザナミの指示だ。それは嬢ちゃんがイザナミの手下だからだろう?」
イザナミは計画の準備も中盤辺りに差しかかった頃、八意永琳の力を借りたいと言ってきた。イザナミ自身は明言しなかったが、その言葉に誰もが彼女とイザナミは通じていると考えていた。
「私達は全員そう思っていました。しかし真実は違う。イザナミは彼女を脅していたんです。しかも、自分はあくまで“対主催”だと偽って」
蓬莱山輝夜を人質にされれば、八意永琳は必ず言う事を聞く。そしてその人質が、イザナミ以外の神によって連れて来られたのだと知れば、当然永琳は彼らに敵対心を抱く。
「自分は被害者面で、嬢ちゃんを操ってたってわけか……!」
「そうしてイザナミは、彼女に殺し合い会場を作らせた。本当はお姫様の命など、誰も関心を示していないのに」
イザナミでさえ、あの人質達に手を出すことは許されていない。円卓の神達からすれば、彼らは貴重な参加者候補である。不手際で連れて来られたからといって、今後絶対に不必要になるとは限らない。
そして、そもそも円卓の神達には参加者の生命などに興味はない。殺す意味も、生かす意味もないのだ。自分の世界以外のことなどどうでもいいと考えている。
だから八意永琳は、いつでも輝夜を連れて逃げることができた。
「だが、一体どうやってお姫様を連れて来たんだ? あいつはここに閉じ込められている。お姫様を連れて来ることなんてできない。だからこそ嬢ちゃんもそれを信用した」
「……つい数時間前の事件。もうお忘れですか?」
その言葉に、ビッグボスも勘付いた。
「おいまさか……!」
「自分に力を与えてくれた者が、ちょっとした頼み事をする。その者が不当な扱いを受けていることに不満を持っている者なら、さしたる手間もかからないことに首を横に振る訳がない」
「ゼムスか! あいつを使って人質を!!」
ミュウツーとゼムス。厳密に言えば、彼らは神と呼ばれる存在ではない。今はただ、その力をイザナミに与えられているだけだ。
日本の神には分霊という性質がある。自らの力、その神威を衰えることなく無限に増やすことができるというものである。
実は、ミュウツーとゼムスの身体にも、分霊によってその神威を分け与えられていた。要するに、彼らの身体にはイザナミの神霊が宿っているのだ。
魂振りという、魂の活力を上げる儀式を行うことで、その肉体の持つ外来魂、つまりはその力を底上げしている。
「おそらくは、その意図を何も伝えずに、あくまでゼムス本人の意思で動いてもらったのでしょう。
ここから動けない身で、話し相手の一人も欲しいと言えば、イザナミに恩のあるゼムスは気を利かせて連れて来てくれる。やり方次第では、その話し相手を蓬莱山輝夜一人に限定することは容易い」
「そうだ。奴にとって、俺達の願いを叶えることが自分の願いを叶えることだった。だからこそ、自分にとってマイナスになるような提案も進んで呑んだ」
「それが私達の知る真実。しかし、八意永琳には歪んだ情報が手渡されていた」
「なに?」
ボスが思わず顔をしかめて、セフェランを見つめる。
「その内の一つが、“自分も神達に囚われている身なのだ”という嘘」
「おい! それは一体どういうことだ!!」
身を乗り出してセフェランに詰め寄る。しかし、セフェランはいつも通り澄ましている。
「そのままの意味ですよ」
その冷静な口調に、ボスも平静を取り戻そうとセフェランから背を向ける。
葉巻を取り出し、それを口にくわえる。
煙を一気に吸い、そして吐く。
それだけで、だいぶ気分は落ち着いた。
「しかし……それはあまりにおかしいぞ。そもそも嬢ちゃんを呼んだのはイザナミの指示だ。それは嬢ちゃんがイザナミの手下だからだろう?」
イザナミは計画の準備も中盤辺りに差しかかった頃、八意永琳の力を借りたいと言ってきた。イザナミ自身は明言しなかったが、その言葉に誰もが彼女とイザナミは通じていると考えていた。
「私達は全員そう思っていました。しかし真実は違う。イザナミは彼女を脅していたんです。しかも、自分はあくまで“対主催”だと偽って」
蓬莱山輝夜を人質にされれば、八意永琳は必ず言う事を聞く。そしてその人質が、イザナミ以外の神によって連れて来られたのだと知れば、当然永琳は彼らに敵対心を抱く。
「自分は被害者面で、嬢ちゃんを操ってたってわけか……!」
「そうしてイザナミは、彼女に殺し合い会場を作らせた。本当はお姫様の命など、誰も関心を示していないのに」
イザナミでさえ、あの人質達に手を出すことは許されていない。円卓の神達からすれば、彼らは貴重な参加者候補である。不手際で連れて来られたからといって、今後絶対に不必要になるとは限らない。
そして、そもそも円卓の神達には参加者の生命などに興味はない。殺す意味も、生かす意味もないのだ。自分の世界以外のことなどどうでもいいと考えている。
だから八意永琳は、いつでも輝夜を連れて逃げることができた。
「だが、一体どうやってお姫様を連れて来たんだ? あいつはここに閉じ込められている。お姫様を連れて来ることなんてできない。だからこそ嬢ちゃんもそれを信用した」
「……つい数時間前の事件。もうお忘れですか?」
その言葉に、ビッグボスも勘付いた。
「おいまさか……!」
「自分に力を与えてくれた者が、ちょっとした頼み事をする。その者が不当な扱いを受けていることに不満を持っている者なら、さしたる手間もかからないことに首を横に振る訳がない」
「ゼムスか! あいつを使って人質を!!」
ミュウツーとゼムス。厳密に言えば、彼らは神と呼ばれる存在ではない。今はただ、その力をイザナミに与えられているだけだ。
日本の神には分霊という性質がある。自らの力、その神威を衰えることなく無限に増やすことができるというものである。
実は、ミュウツーとゼムスの身体にも、分霊によってその神威を分け与えられていた。要するに、彼らの身体にはイザナミの神霊が宿っているのだ。
魂振りという、魂の活力を上げる儀式を行うことで、その肉体の持つ外来魂、つまりはその力を底上げしている。
「おそらくは、その意図を何も伝えずに、あくまでゼムス本人の意思で動いてもらったのでしょう。
ここから動けない身で、話し相手の一人も欲しいと言えば、イザナミに恩のあるゼムスは気を利かせて連れて来てくれる。やり方次第では、その話し相手を蓬莱山輝夜一人に限定することは容易い」
ゼムスは月の民である。月の民で、蒼き星に住む人間達を皆殺しにしようとした悪人である。しかし、彼には彼なりの正義があった。
彼は月の民を愛していた。月の民であることにプライドを持っていた。
蒼き星の文明が月の民の文明に届いていない。だから届くまでの間眠っていよう。そんなことが月の民の間で話し合われた時、最初にゼムスの心に宿ったのは確かに不満だ。しかし、月の民の存続を危惧したのも確かなのだ。
蒼き星が月の民と同じ文明を持った時、こちらの移住を彼らが許可してくれるだろうか。そんな疑問がゼムスにはあった。
文明に開きがある今なら、たとえ反逆行為を受けても楽に対処できる。しかし、その技術が月の民と変わらない頃になれば。その無視できない技術を持った蒼き星の人間達が、こちらの存在を脅威に思い刃を向けてきたら。
月の民の損害は計り知れないものになる。それは彼にとって苦痛以外の何物でもなかった。
彼は月の民を愛していた。月の民であることにプライドを持っていた。
蒼き星の文明が月の民の文明に届いていない。だから届くまでの間眠っていよう。そんなことが月の民の間で話し合われた時、最初にゼムスの心に宿ったのは確かに不満だ。しかし、月の民の存続を危惧したのも確かなのだ。
蒼き星が月の民と同じ文明を持った時、こちらの移住を彼らが許可してくれるだろうか。そんな疑問がゼムスにはあった。
文明に開きがある今なら、たとえ反逆行為を受けても楽に対処できる。しかし、その技術が月の民と変わらない頃になれば。その無視できない技術を持った蒼き星の人間達が、こちらの存在を脅威に思い刃を向けてきたら。
月の民の損害は計り知れないものになる。それは彼にとって苦痛以外の何物でもなかった。
そもそも彼にとっての力とは、月の民としての力なのだ。個の力ではなく、あくまで月の民の力を誇示していた。それほどに彼は月の民を愛し、その住人であることを誇りに思っていた。
長きに渡る眠りは、月の民の進化を妨げるものである。それは肯定できない。月の民に被害が及ぶ可能性があるのなら尚更だ。
今は無知で、しかし今後脅威となりかねない蒼き星の住人を、ゼムスが良いように解釈することは不可能だった。
ゼムスは頭が良い。現実主義者だ。
だからこそ、彼の決断は蒼き星の人間達を滅ぼすこととなった。
確かにその行為は乱暴そのもの。彼がしてきたことも、決して善とはいえない。
彼は悪人だ。それは変わらない。
だがしかし、彼は極悪人ではない。
恩ある者に対し、それを平気で踏みにじるような者ではないのだ。
長きに渡る眠りは、月の民の進化を妨げるものである。それは肯定できない。月の民に被害が及ぶ可能性があるのなら尚更だ。
今は無知で、しかし今後脅威となりかねない蒼き星の住人を、ゼムスが良いように解釈することは不可能だった。
ゼムスは頭が良い。現実主義者だ。
だからこそ、彼の決断は蒼き星の人間達を滅ぼすこととなった。
確かにその行為は乱暴そのもの。彼がしてきたことも、決して善とはいえない。
彼は悪人だ。それは変わらない。
だがしかし、彼は極悪人ではない。
恩ある者に対し、それを平気で踏みにじるような者ではないのだ。
「なら、他の人質二人は……」
「囮でしょうね。良い具合に迷彩になっていると思いますよ。神達は参加者のプロフィールまで詳細に調べようとしない。
調べても、誰と誰が知人だとか、その程度でしょう。そういった観点からみればあの三人は、今回の参加者との関係などから言ってもまったく同列の者達です」
「ただ一つ。嬢ちゃんへの影響を除けば、か。あの中に嬢ちゃんの知り合いが一人くらいまぎれても、そしてそれに気付いたとしても、誰も気に止める者はいない」
人質達が破格の待遇だということも迷彩になっただろう。たとえ輝夜と永琳が家族同然の仲だと知られても、単純に新たな世界の住人として永琳が連れて来たのだと考えるのがオチだ。
ここにいる者達は全員が何らかの役割を担わされている。その中で何の役割もない者が出歩くのは感心できない。
そのために体裁として牢屋に入ってもらい、世界が構築されるまで大人しくしていてもらう。どこにも矛盾はない。
八意永琳は円卓に座る権利があった。それを知る者達からすれば、蓬莱山輝夜の存在は、どうしても永琳が主体的に動いた結果だとしか思えないのだ。
事実、セフェランもビッグボスもそう信じ込んでいた。
「イザナミは予定通りお姫様を手中に納めた。しかし、それを知られるのは少々厄介。まずないとはいえ、ゼムスがイザナミの意向に沿う為に人質を連れて来たと誰かに言う可能性もある。だからこそあの離反があった」
「死人に口なしってわけか」
ボスが吐き捨てるように言った。
「八意永琳にはゼムスが邪魔だったから排除したと説明したようですが、そもそも彼を呼んだのはイザナミです。危険思想を持っているというのなら、最初から呼ばなければ良い話。
なのに招き寄せたということは、何らかの利用価値があったということです。何も行動を起こしていない段階で、イザナミがゼムスを排除するわけがない」
「囮でしょうね。良い具合に迷彩になっていると思いますよ。神達は参加者のプロフィールまで詳細に調べようとしない。
調べても、誰と誰が知人だとか、その程度でしょう。そういった観点からみればあの三人は、今回の参加者との関係などから言ってもまったく同列の者達です」
「ただ一つ。嬢ちゃんへの影響を除けば、か。あの中に嬢ちゃんの知り合いが一人くらいまぎれても、そしてそれに気付いたとしても、誰も気に止める者はいない」
人質達が破格の待遇だということも迷彩になっただろう。たとえ輝夜と永琳が家族同然の仲だと知られても、単純に新たな世界の住人として永琳が連れて来たのだと考えるのがオチだ。
ここにいる者達は全員が何らかの役割を担わされている。その中で何の役割もない者が出歩くのは感心できない。
そのために体裁として牢屋に入ってもらい、世界が構築されるまで大人しくしていてもらう。どこにも矛盾はない。
八意永琳は円卓に座る権利があった。それを知る者達からすれば、蓬莱山輝夜の存在は、どうしても永琳が主体的に動いた結果だとしか思えないのだ。
事実、セフェランもビッグボスもそう信じ込んでいた。
「イザナミは予定通りお姫様を手中に納めた。しかし、それを知られるのは少々厄介。まずないとはいえ、ゼムスがイザナミの意向に沿う為に人質を連れて来たと誰かに言う可能性もある。だからこそあの離反があった」
「死人に口なしってわけか」
ボスが吐き捨てるように言った。
「八意永琳にはゼムスが邪魔だったから排除したと説明したようですが、そもそも彼を呼んだのはイザナミです。危険思想を持っているというのなら、最初から呼ばなければ良い話。
なのに招き寄せたということは、何らかの利用価値があったということです。何も行動を起こしていない段階で、イザナミがゼムスを排除するわけがない」
今回の事件で不服そうにしていたのは女神アスタルテのみだ。確かにイザナミはゼムスの反乱を伝えることが遅れたかもしれない。しかし、彼のフォックスダイがなければ、まず間違いなくゼムスには逃げられていた。
ゼムスはイザナミの力によって既に神となっている。しかし、神を倒せるのは神、というわけではない。神の加護を受けたヒト。もしくは、ヒトの創りだした文明だけである。
そして文明とは、要するに人の作り出した武器である。
女神アスタルテは、神の加護を受けた武器でないと傷をつけることはできない。そしてそれはゼムスも同じなのだ。
彼の耐久力は凄まじいものがある。そうなれば、自然人間の武器で殺すには時間が掛かる。そのための時間稼ぎに、どうしてもフォックスダイのような身体の動きを鈍らせるものが必要だった。
ゼムスの離反に勘付いた直後にそれを他の神達に伝えたのでは早計も早計。まさに愚行とも呼べる行為。
しかしその点、イザナミの行動は称賛に値する。ゼムスを泳がせ、フォックスダイをうまく注射し、足止めのための準備をしてからゼムスの離反に備えさせる。
まさに非の打ちどころのない完璧な対処法だ。だからこそ、頭の固いアスタルテだけがイザナミに怒りを覚え、他の者達は逆に褒め称えたのだ。
セフェランでさえもそれは同じで、だからこそアスタルテに対してイザナミに不備はなかったと懸命に説得し、どうにかその態度を改めさせたのだ。
結局、それもイザナミの仕組んだことだったのだとたった今判明したのだが。
ゼムスはイザナミの力によって既に神となっている。しかし、神を倒せるのは神、というわけではない。神の加護を受けたヒト。もしくは、ヒトの創りだした文明だけである。
そして文明とは、要するに人の作り出した武器である。
女神アスタルテは、神の加護を受けた武器でないと傷をつけることはできない。そしてそれはゼムスも同じなのだ。
彼の耐久力は凄まじいものがある。そうなれば、自然人間の武器で殺すには時間が掛かる。そのための時間稼ぎに、どうしてもフォックスダイのような身体の動きを鈍らせるものが必要だった。
ゼムスの離反に勘付いた直後にそれを他の神達に伝えたのでは早計も早計。まさに愚行とも呼べる行為。
しかしその点、イザナミの行動は称賛に値する。ゼムスを泳がせ、フォックスダイをうまく注射し、足止めのための準備をしてからゼムスの離反に備えさせる。
まさに非の打ちどころのない完璧な対処法だ。だからこそ、頭の固いアスタルテだけがイザナミに怒りを覚え、他の者達は逆に褒め称えたのだ。
セフェランでさえもそれは同じで、だからこそアスタルテに対してイザナミに不備はなかったと懸命に説得し、どうにかその態度を改めさせたのだ。
結局、それもイザナミの仕組んだことだったのだとたった今判明したのだが。
「これで万が一にもイザナミの企みはばれない。しかも、その行為のどれもが自分の株を上げるもの。ふざけてやがるな」
怒りを放出するかのように、ボスは葉巻の煙を吐いた。
「本当は人質としての価値などない蓬莱山輝夜を、イザナミはまんまと人質として利用した。八意永琳からすれば、イザナミは自分と同じ境遇の、ある意味では味方。実際に力を封じられているイザナミの言葉を、おそらく彼女は半分以上信じたでしょう」
月の頭脳とまで言われる永琳だ。イザナミに何らかの枷が施されているのなら、それを見破るのは容易い。
彼女からすれば、それは円卓にも一種のヒエラルキーが存在することの証。そしてそうなれば、その一番下位に位置するのはどう考えてもイザナミ以外にいないのだ。
「しかし、そんな回りくどいことをする必要があったのか? イザナミが計画を進めるのに必要な人材だと言えば、お姫様は人質として活用されたはずだ」
ボスの疑問はもっともだ。
永琳に嘘をつき、神達を騙す必要はイザナミにはない。ただ一言、輝夜を人質として連れて来て欲しいと言えば、それで済む話しなのだ。
「実はあるんですよ。自分を対主催だと偽り、架空の人質を利用して彼女を使う理由が」
ボスは少しだけ考えてみる。が、まったく思いつかなかった。
「イザナミは、八意永琳に参加者を助けて欲しかったんです」
「なっ!?」
ボスは思わず絶句した。
それはイザナミの言っていた目的と相反するもので、自分達の目的と正面から対立するものだった。
「そう考えれば辻褄があいます。イザナミはその役割上、八意永琳と共に行動しなければならないことが多かった。八意永琳からすれば、もしもイザナミがお姫様を人質にとる憎き敵だとしたら絶対に反抗できない。しかし」
「同じ境遇の味方なら別。参加者を援助しても、見逃してもらえるってわけか!」
怒りを放出するかのように、ボスは葉巻の煙を吐いた。
「本当は人質としての価値などない蓬莱山輝夜を、イザナミはまんまと人質として利用した。八意永琳からすれば、イザナミは自分と同じ境遇の、ある意味では味方。実際に力を封じられているイザナミの言葉を、おそらく彼女は半分以上信じたでしょう」
月の頭脳とまで言われる永琳だ。イザナミに何らかの枷が施されているのなら、それを見破るのは容易い。
彼女からすれば、それは円卓にも一種のヒエラルキーが存在することの証。そしてそうなれば、その一番下位に位置するのはどう考えてもイザナミ以外にいないのだ。
「しかし、そんな回りくどいことをする必要があったのか? イザナミが計画を進めるのに必要な人材だと言えば、お姫様は人質として活用されたはずだ」
ボスの疑問はもっともだ。
永琳に嘘をつき、神達を騙す必要はイザナミにはない。ただ一言、輝夜を人質として連れて来て欲しいと言えば、それで済む話しなのだ。
「実はあるんですよ。自分を対主催だと偽り、架空の人質を利用して彼女を使う理由が」
ボスは少しだけ考えてみる。が、まったく思いつかなかった。
「イザナミは、八意永琳に参加者を助けて欲しかったんです」
「なっ!?」
ボスは思わず絶句した。
それはイザナミの言っていた目的と相反するもので、自分達の目的と正面から対立するものだった。
「そう考えれば辻褄があいます。イザナミはその役割上、八意永琳と共に行動しなければならないことが多かった。八意永琳からすれば、もしもイザナミがお姫様を人質にとる憎き敵だとしたら絶対に反抗できない。しかし」
「同じ境遇の味方なら別。参加者を援助しても、見逃してもらえるってわけか!」
殺し合いの監修という貧乏くじを引いたのも、イザナミの策略の内だった。敢えてそれを引くために、自分が不利になる条件を次々と呑んでいったのだ。
力の制限。ここから出られないという足枷。それらは、疑い深いゼロの目をも欺いた。
今回の計画を一番よく知るイザナミは、殺し合いの監修に一番向いている者だ。
外に出られないというのなら、下手なことをしても数に任せて返り討ちにできる。そうゼロが考えるのは自然なこと。
しかし、そう考えさせることこそイザナミの目的だった。
もしかしたら、能力の拮抗を主張したゼロの思惑さえ、イザナミの策略の一つだったのかもしれない。
ボスは、思わずぞっとした。
力の制限。ここから出られないという足枷。それらは、疑い深いゼロの目をも欺いた。
今回の計画を一番よく知るイザナミは、殺し合いの監修に一番向いている者だ。
外に出られないというのなら、下手なことをしても数に任せて返り討ちにできる。そうゼロが考えるのは自然なこと。
しかし、そう考えさせることこそイザナミの目的だった。
もしかしたら、能力の拮抗を主張したゼロの思惑さえ、イザナミの策略の一つだったのかもしれない。
ボスは、思わずぞっとした。
「八意永琳の視点で見れば、イザナミは自分と完全に敵対するようなことはしないはず。何故なら、彼女の持つ情報から考えられるイザナミは、自分と同じ境遇なのです。そんな者が唯一の味方を敵に回す必要性など皆無。
たとえイザナミの目的が世界創世だとしても、自分を縛る神を倒すことを優先するはずだと八意永琳は考えた。
だからこそ、殺し合い会場から脱出するためのアイテムを参加者へ支給することができた。たとえばれてもほとんどノーリスク。八意永琳からすれば、神達を倒す最高の手というわけです」
実際、永琳は多くのアイテムを参加者に支給している。
ipad、マスターボール、ゲーム機。
そのアイテムの多さは、やりすぎと言っても過言ではない。しかし永琳からすれば、それはばれてもリスクの少ないもの。敵の敵はいるに越したことはない。そうイザナミが考えると見越していたのだから。
しかしイザナミの考えは違った。そのように永琳が考えること、それ自体がイザナミの思惑だった。
参加者にアイテムを支給する必要性を感じ、それを八意永琳にさせるだけの環境を作った。
もしもそれがばれたとしても、糾弾されるのは永琳。何故ならイザナミは、実際に何も行動を起こしていないのだ。
そんなことしているとは思わなかった。そう言うだけでいい。物的証拠が挙がらない以上、誰も彼を糾弾できない。
彼の非といえば、反乱分子を連れて来てしまったということくらいだろう。しかしそれも、彼女にしかできない仕事があったと言えば、誰も強く責めることはできない。
たとえイザナミの目的が世界創世だとしても、自分を縛る神を倒すことを優先するはずだと八意永琳は考えた。
だからこそ、殺し合い会場から脱出するためのアイテムを参加者へ支給することができた。たとえばれてもほとんどノーリスク。八意永琳からすれば、神達を倒す最高の手というわけです」
実際、永琳は多くのアイテムを参加者に支給している。
ipad、マスターボール、ゲーム機。
そのアイテムの多さは、やりすぎと言っても過言ではない。しかし永琳からすれば、それはばれてもリスクの少ないもの。敵の敵はいるに越したことはない。そうイザナミが考えると見越していたのだから。
しかしイザナミの考えは違った。そのように永琳が考えること、それ自体がイザナミの思惑だった。
参加者にアイテムを支給する必要性を感じ、それを八意永琳にさせるだけの環境を作った。
もしもそれがばれたとしても、糾弾されるのは永琳。何故ならイザナミは、実際に何も行動を起こしていないのだ。
そんなことしているとは思わなかった。そう言うだけでいい。物的証拠が挙がらない以上、誰も彼を糾弾できない。
彼の非といえば、反乱分子を連れて来てしまったということくらいだろう。しかしそれも、彼女にしかできない仕事があったと言えば、誰も強く責めることはできない。
「……しかし、それならイザナミの目的は何だ? 俺達に世界を創らせることが目的じゃないのなら、何故こんな手の込んだ計画を?」
「……わかりません。全ての情報を集めれば、イザナミの目的が別にあることを指している。しかし、その指し示す方向はひどく曖昧です。先程私は、参加者を助けるのがイザナミの目的だと言いました。しかし、彼はそれを妨害している節もあるのです」
「妨害?」
「脱出のキーとなるアイテムの効果。それを発揮する条件をわざと厳しいものにしているのです。それに、そのアイテム自体を入手困難な方向へと持って行ったりもしている。おかげで参加者はかなりの人数が死ぬことになりました」
「じゃあそれが目的というわけじゃないんだろ」
「では、一体何が目的なのでしょうか」
その言葉に、ビッグボスは押し黙った。
「八意永琳は、イザナミのことをこう評していました。自分にとって、唯一の敵だと」
それは永琳の立場からすれば有り得ない言葉。何故ならそれはイザナミ以外の敵を軽視する発言で、自分と同じ立場にあり、力を制限されて利害も一致している神に対して言う言葉ではない。
「彼女には、イザナミの目的だけがまったく分からなかったのです。だからこそ、彼女はイザナミをそう評価し、決して心を許そうとはしなかった。
私達は目的を知り得て初めてその者の行動を予測することができる。ゴールが見えて、初めてそのラインが見えてくるのです」
「しかし、イザナミにはそれがない……」
セフェランは頷いた。
「彼は確かに力を制限されている。鳥籠の中にいる。しかしその実、情報戦という観点で、イザナミはここにいる全員を圧倒しているのです」
ボスは思わずうなった。これは確かに無視できないものだ。
イザナミはどうにかして排除しなければならない。
「さて。これで今の状況はだいたい理解できたでしょう。その上で、あなたに聞いておきたいことがあります」
セフェランはビッグボスと向き合う。
今まで以上の真摯な瞳でボスを見つめ、口を開いた。
「あなたはこの情報を知り、どう動きますか?」
「……わかりません。全ての情報を集めれば、イザナミの目的が別にあることを指している。しかし、その指し示す方向はひどく曖昧です。先程私は、参加者を助けるのがイザナミの目的だと言いました。しかし、彼はそれを妨害している節もあるのです」
「妨害?」
「脱出のキーとなるアイテムの効果。それを発揮する条件をわざと厳しいものにしているのです。それに、そのアイテム自体を入手困難な方向へと持って行ったりもしている。おかげで参加者はかなりの人数が死ぬことになりました」
「じゃあそれが目的というわけじゃないんだろ」
「では、一体何が目的なのでしょうか」
その言葉に、ビッグボスは押し黙った。
「八意永琳は、イザナミのことをこう評していました。自分にとって、唯一の敵だと」
それは永琳の立場からすれば有り得ない言葉。何故ならそれはイザナミ以外の敵を軽視する発言で、自分と同じ立場にあり、力を制限されて利害も一致している神に対して言う言葉ではない。
「彼女には、イザナミの目的だけがまったく分からなかったのです。だからこそ、彼女はイザナミをそう評価し、決して心を許そうとはしなかった。
私達は目的を知り得て初めてその者の行動を予測することができる。ゴールが見えて、初めてそのラインが見えてくるのです」
「しかし、イザナミにはそれがない……」
セフェランは頷いた。
「彼は確かに力を制限されている。鳥籠の中にいる。しかしその実、情報戦という観点で、イザナミはここにいる全員を圧倒しているのです」
ボスは思わずうなった。これは確かに無視できないものだ。
イザナミはどうにかして排除しなければならない。
「さて。これで今の状況はだいたい理解できたでしょう。その上で、あなたに聞いておきたいことがあります」
セフェランはビッグボスと向き合う。
今まで以上の真摯な瞳でボスを見つめ、口を開いた。
「あなたはこの情報を知り、どう動きますか?」
◇◇◇
【殺し合い会場 D-4】
【殺し合い会場 D-4】
「で? 放送が終わったらどうするの?」
永琳からの情報を共有し終わると、咲夜が瀬多に聞いた。
ちなみに、自分が重要人物であると明言されたことは黙っていた。その可能性は低いと思ったこともあるし、何より下手な情報を教えて彼らの判断力を鈍らせたくなかった。
もしも瀬多が重要人物だという話を聞けば、皆瀬多を守ろうとする。もしかしたら、自分の命よりも瀬多を重要視するかもしれない。それは絶対にしてはいけないことだと、瀬多は感じたのだ。
それにこれから提案することを考えても、その情報は妨げにしかならない。
「……二つのグループに別れよう」
それは、イゴールとの接触を今まで以上に重要視したが故の結論だった。
全員が眉をひそめる。当然だ。瀬多自身、この提案が裏をみる可能性が高いことを否定できない。
これは一種の賭けなのだ。
「一応、理由を聞いておこうか」
極めて冷静に、漆黒は言った。
「六人という人数は確かに心強いし牽制にもなるだろう。しかし、混戦になればあまりにも弱過ぎる」
たった一人がチームをかき乱すだけで、こちらはおいそれと動けなくなる。敵にとって六人も固まった的は攻撃を当てるに苦労しないだろうが、こちらは違う。
仲間に攻撃が当たらないように常に注意しておかなければならない。その心の隙は、ここ一番という場面で必ず不利になる。
「二手に別れれば戦力は分散されるが、その分機動力が上がる。そうなれば、探索だって効率的に行える」
瀬多は名簿を取り出し、全員に見えるように広げた。
「現段階で確認できている敵はかなり多い。その中でも実力者はかなりの人数だ。しかし同時に、殺し合いに乗っていない可能性の高い者もいる。東風谷早苗、雷電、花村陽介の三人だ。彼らとはできるだけ早く合流したい」
時間が空けば空くほど、彼らが殺される可能性は高くなる。それは戦力になるだとか、そういう理屈抜きの考えだった。
「彼らが合流していると考えるのはあまりにも楽観的だし、支給品によって戦力増強が成されていると考えるのは論外だ。だからこそ、殺し合いに否定的なグループの中でも最大戦力と言ってもいい俺達が動く必要がある。
この殺し合いでもトップクラスの実力を持つ二人、レミリアと漆黒を中心にグループを編成し、仲間を早急に見つけて合流する。ベストとは言わないが、ベターではある」
「……少し私情が入っている気がする。花村陽介はお前の友人だったよな」
確かにレミリアの言う通りかもしれない。考えないようにはしていたが、無自覚に花村が生き残る確率の高い方法を選んでいるのかも。
だから、瀬多は敢えてそれを否定しなかった。
「そうだ。たぶん私情は入っている。だから反対したい者は遠慮なく反対してくれ」
本来ならば、私情が入っていようがいまいが、そんなことはどうでもいい話だ。たとえ私情が入っていたとしても、瀬多の言っていることは理に適っている。
作戦というからには、絶対の正解は存在しない。どんな作戦を選ぼうと、メリットデメリットは存在するのだ。
しかしそう言わないのは、自分が曲がりなりにもリーダーという役割を負っているから。皆の命運を預かる身としては、理屈だけでは動けない。
その作戦に命を張れる。そう言わせるだけの納得を皆にはさせなければならない。それは理屈とはまた違うものだ。
永琳からの情報を共有し終わると、咲夜が瀬多に聞いた。
ちなみに、自分が重要人物であると明言されたことは黙っていた。その可能性は低いと思ったこともあるし、何より下手な情報を教えて彼らの判断力を鈍らせたくなかった。
もしも瀬多が重要人物だという話を聞けば、皆瀬多を守ろうとする。もしかしたら、自分の命よりも瀬多を重要視するかもしれない。それは絶対にしてはいけないことだと、瀬多は感じたのだ。
それにこれから提案することを考えても、その情報は妨げにしかならない。
「……二つのグループに別れよう」
それは、イゴールとの接触を今まで以上に重要視したが故の結論だった。
全員が眉をひそめる。当然だ。瀬多自身、この提案が裏をみる可能性が高いことを否定できない。
これは一種の賭けなのだ。
「一応、理由を聞いておこうか」
極めて冷静に、漆黒は言った。
「六人という人数は確かに心強いし牽制にもなるだろう。しかし、混戦になればあまりにも弱過ぎる」
たった一人がチームをかき乱すだけで、こちらはおいそれと動けなくなる。敵にとって六人も固まった的は攻撃を当てるに苦労しないだろうが、こちらは違う。
仲間に攻撃が当たらないように常に注意しておかなければならない。その心の隙は、ここ一番という場面で必ず不利になる。
「二手に別れれば戦力は分散されるが、その分機動力が上がる。そうなれば、探索だって効率的に行える」
瀬多は名簿を取り出し、全員に見えるように広げた。
「現段階で確認できている敵はかなり多い。その中でも実力者はかなりの人数だ。しかし同時に、殺し合いに乗っていない可能性の高い者もいる。東風谷早苗、雷電、花村陽介の三人だ。彼らとはできるだけ早く合流したい」
時間が空けば空くほど、彼らが殺される可能性は高くなる。それは戦力になるだとか、そういう理屈抜きの考えだった。
「彼らが合流していると考えるのはあまりにも楽観的だし、支給品によって戦力増強が成されていると考えるのは論外だ。だからこそ、殺し合いに否定的なグループの中でも最大戦力と言ってもいい俺達が動く必要がある。
この殺し合いでもトップクラスの実力を持つ二人、レミリアと漆黒を中心にグループを編成し、仲間を早急に見つけて合流する。ベストとは言わないが、ベターではある」
「……少し私情が入っている気がする。花村陽介はお前の友人だったよな」
確かにレミリアの言う通りかもしれない。考えないようにはしていたが、無自覚に花村が生き残る確率の高い方法を選んでいるのかも。
だから、瀬多は敢えてそれを否定しなかった。
「そうだ。たぶん私情は入っている。だから反対したい者は遠慮なく反対してくれ」
本来ならば、私情が入っていようがいまいが、そんなことはどうでもいい話だ。たとえ私情が入っていたとしても、瀬多の言っていることは理に適っている。
作戦というからには、絶対の正解は存在しない。どんな作戦を選ぼうと、メリットデメリットは存在するのだ。
しかしそう言わないのは、自分が曲がりなりにもリーダーという役割を負っているから。皆の命運を預かる身としては、理屈だけでは動けない。
その作戦に命を張れる。そう言わせるだけの納得を皆にはさせなければならない。それは理屈とはまた違うものだ。
「わ、私は……それでもいいと思います……けど……」
瀬多を擁護するためか、アドレーヌが言った。語尾が小さく、自信がなさげなのは、戦力にならない自分が口を出す問題ではないと考えているからだろう。
千枝は無論、瀬多と同じ考えだ。レミリアも指摘こそしたが、どう転ぼうとさしたる興味はないらしく、あらぬ方向を見つめてぼーっとしている。
「……私情が入っていることについては、私は何も言わない」
意外にも、咲夜はそう言った。
「けど、それ抜きに考えてもリスクの高い作戦ね。混戦に弱いと言っても、場所を考えて歩けば問題はないでしょ?」
「二手に別れたい理由の一つには、クリスタルを早急に回収したいっていうのもあるんだ。……いや、それが最大の目的と言ってもいいかもしれない。
俺の勝手な思い付きなんだが、クリスタルはできるだけ早く、確実に回収しなければいけない気がする。根拠はかなり薄いんだが……」
「それでもいい。話してくれないか? 我々には聞く権利があると思うが」
漆黒に促され、瀬多は自分の考えを話した。イザナミとイゴールが決して協力関係を持っているわけではないということ。そして、もしかしたらイゴールが参加者側に協力的かもしれないことを。
「俺の勘でしかないが、クリスタルはおそらく最重要アイテムだ。それこそ、永琳の用意した脱出アイテムよりも重要なものかもしれない」
「よく言い切るな。お前がそう思う理由はなんだ?」
「イゴールの言っていた真実だよ。たぶんこれは、イザナミの目的に少なからず関係することだと思う」
イザナミの目的。それがわからず、永琳はかなり苦しんでいるようだった。
「永琳はイザナミとアスタルテ以外にも三人の神がいると言っていた。だが、その主催者達もイザナミの目的を把握してはいないんじゃないかと思うんだ。そしてもしそうだとするなら、全てが怪しくなってくる。
さっき俺が自信満々に喋っていた仮説。あれも全て、ブラフかもしれない。主催者達が勝手にそう思わされているだけで、実際は全然別の目的があるんじゃないか。
そう考え出すと、何もできなくなる。どう動けば奴の目的から外れるのか。それが分からないということは、結局ここから抜け出しても結果は同じなんだ。ただ奴の目的のために動かされ、死ぬだけだ」
瀬多を擁護するためか、アドレーヌが言った。語尾が小さく、自信がなさげなのは、戦力にならない自分が口を出す問題ではないと考えているからだろう。
千枝は無論、瀬多と同じ考えだ。レミリアも指摘こそしたが、どう転ぼうとさしたる興味はないらしく、あらぬ方向を見つめてぼーっとしている。
「……私情が入っていることについては、私は何も言わない」
意外にも、咲夜はそう言った。
「けど、それ抜きに考えてもリスクの高い作戦ね。混戦に弱いと言っても、場所を考えて歩けば問題はないでしょ?」
「二手に別れたい理由の一つには、クリスタルを早急に回収したいっていうのもあるんだ。……いや、それが最大の目的と言ってもいいかもしれない。
俺の勝手な思い付きなんだが、クリスタルはできるだけ早く、確実に回収しなければいけない気がする。根拠はかなり薄いんだが……」
「それでもいい。話してくれないか? 我々には聞く権利があると思うが」
漆黒に促され、瀬多は自分の考えを話した。イザナミとイゴールが決して協力関係を持っているわけではないということ。そして、もしかしたらイゴールが参加者側に協力的かもしれないことを。
「俺の勘でしかないが、クリスタルはおそらく最重要アイテムだ。それこそ、永琳の用意した脱出アイテムよりも重要なものかもしれない」
「よく言い切るな。お前がそう思う理由はなんだ?」
「イゴールの言っていた真実だよ。たぶんこれは、イザナミの目的に少なからず関係することだと思う」
イザナミの目的。それがわからず、永琳はかなり苦しんでいるようだった。
「永琳はイザナミとアスタルテ以外にも三人の神がいると言っていた。だが、その主催者達もイザナミの目的を把握してはいないんじゃないかと思うんだ。そしてもしそうだとするなら、全てが怪しくなってくる。
さっき俺が自信満々に喋っていた仮説。あれも全て、ブラフかもしれない。主催者達が勝手にそう思わされているだけで、実際は全然別の目的があるんじゃないか。
そう考え出すと、何もできなくなる。どう動けば奴の目的から外れるのか。それが分からないということは、結局ここから抜け出しても結果は同じなんだ。ただ奴の目的のために動かされ、死ぬだけだ」
「だが、真実を教えると言っているのはイザナミの手先だろう?」
「……実は、俺もよくわからない」
イゴールはイザナミの部下だとは一度も言わなかった。イザナミもそうだ。彼らの関係がどういうものか。それは瀬多にもわからなかった。
「イザナミの手先。そう考えた方が色々と納得がいく。だが、俺は少し違うと思う。イゴールは、マヨナカテレビの時も俺を手助けしていた。そして今回も、俺に味方をすると言っていた」
「だから手先ではないと? 少し楽観的過ぎないか?」
そう。楽観的だ。
先程助っ人を信用しない方がいいと言っていた自分が、その助っ人以上に不確定要素の多いイゴールを信じたいと思っている。
……いや。もしかしたら、あの場にいなかった彼女を信じたいと思っているのかもしれない。いつもベルベットルームにいて、困難な頼み事をしてきた彼女。
どれほどの発言権があるのかはわからないが、もしも彼女が進言してくれていたなら……。
瀬多が反論しようと口を開く。が、それを漆黒が手で制した。
「止めよう。この話はどこまでいっても水掛け論だ。今はそんなことを言い合っている時じゃない。
瀬多もわかっているだろうが、イゴールが味方だということを実証する証拠は何一つないんだ。それこそ、クリスタルを見つけ、イゴールから話を聞き出すまでは」
漆黒の騎士の言う通りだ。
しかしだからこそ、クリスタルは探す必要がある。瀬多の仮説が間違っているかどうか。それを判断する一つの材料になることは確かなのだから。
だが、瀬多はそう言わなかった。
そもそも、彼女が動いてくれているという考え自体が希望的観測でしかないことに気付いたのだ。
「……実は、俺もよくわからない」
イゴールはイザナミの部下だとは一度も言わなかった。イザナミもそうだ。彼らの関係がどういうものか。それは瀬多にもわからなかった。
「イザナミの手先。そう考えた方が色々と納得がいく。だが、俺は少し違うと思う。イゴールは、マヨナカテレビの時も俺を手助けしていた。そして今回も、俺に味方をすると言っていた」
「だから手先ではないと? 少し楽観的過ぎないか?」
そう。楽観的だ。
先程助っ人を信用しない方がいいと言っていた自分が、その助っ人以上に不確定要素の多いイゴールを信じたいと思っている。
……いや。もしかしたら、あの場にいなかった彼女を信じたいと思っているのかもしれない。いつもベルベットルームにいて、困難な頼み事をしてきた彼女。
どれほどの発言権があるのかはわからないが、もしも彼女が進言してくれていたなら……。
瀬多が反論しようと口を開く。が、それを漆黒が手で制した。
「止めよう。この話はどこまでいっても水掛け論だ。今はそんなことを言い合っている時じゃない。
瀬多もわかっているだろうが、イゴールが味方だということを実証する証拠は何一つないんだ。それこそ、クリスタルを見つけ、イゴールから話を聞き出すまでは」
漆黒の騎士の言う通りだ。
しかしだからこそ、クリスタルは探す必要がある。瀬多の仮説が間違っているかどうか。それを判断する一つの材料になることは確かなのだから。
だが、瀬多はそう言わなかった。
そもそも、彼女が動いてくれているという考え自体が希望的観測でしかないことに気付いたのだ。
「漆黒の言う通りだな。悪い。少し熱くなってた。今は二手に別れるべきかどうかだけを考えよう。千枝とアドレーヌは賛成してくれているようだが、他の三人はどうだ?」
「……まぁ事実がどうあれ、イザナミを出し抜くためにはどうしてもクリスタルが必要。そう瀬多が考えるのなら、二手に分かれるという作戦も私は別に異論ないぞ」
「お嬢様がそう言うなら私も認める」
レミリアが承諾し、咲夜も了承した。あとは漆黒だけだ。
「……本来なら、この作戦は拒否するところだ。この殺し合いという異常な環境の中で、戦力を二分するのは自殺行為に等しい」
漆黒は瀬多を見つめ、薄く微笑む。
「しかしそれ以上に、私は瀬多に敬意を表したくなった。だから、その敬意の証として君の作戦に乗ろう」
瀬多以外の全員が、漆黒の言葉の意味を計りかねて首を傾げる。
だが瀬多にはわかった。漆黒はこう言いたいのだ。
自分と仲間を天秤にかけ、自分が重要人物である可能性について言及しなかった。そのことに敬意を表する、と。
「……まぁ事実がどうあれ、イザナミを出し抜くためにはどうしてもクリスタルが必要。そう瀬多が考えるのなら、二手に分かれるという作戦も私は別に異論ないぞ」
「お嬢様がそう言うなら私も認める」
レミリアが承諾し、咲夜も了承した。あとは漆黒だけだ。
「……本来なら、この作戦は拒否するところだ。この殺し合いという異常な環境の中で、戦力を二分するのは自殺行為に等しい」
漆黒は瀬多を見つめ、薄く微笑む。
「しかしそれ以上に、私は瀬多に敬意を表したくなった。だから、その敬意の証として君の作戦に乗ろう」
瀬多以外の全員が、漆黒の言葉の意味を計りかねて首を傾げる。
だが瀬多にはわかった。漆黒はこう言いたいのだ。
自分と仲間を天秤にかけ、自分が重要人物である可能性について言及しなかった。そのことに敬意を表する、と。
イゴールが瀬多にだけ接触してきた。それだけで瀬多総司という人物の重要性はかなり高い。
それに、永琳は咲夜という知人がいると知っていながらも終始瀬多と会話していた。リーダーであるからと言えばそれまでだが、ああいう場合は普通知人同士で会話するべきところだ。その方が話もスムーズに進む。
なのにわざわざ瀬多と会話していた。そこから、永琳も瀬多を重要視しているところがあると推測したのだろう。そして、永琳がそう考えているのなら、そのことを瀬多に伝えないはずがない。
だから漆黒はこう推理した。瀬多は、自分が重要人物だと言われながらも、それを黙っていたと。
それに、永琳は咲夜という知人がいると知っていながらも終始瀬多と会話していた。リーダーであるからと言えばそれまでだが、ああいう場合は普通知人同士で会話するべきところだ。その方が話もスムーズに進む。
なのにわざわざ瀬多と会話していた。そこから、永琳も瀬多を重要視しているところがあると推測したのだろう。そして、永琳がそう考えているのなら、そのことを瀬多に伝えないはずがない。
だから漆黒はこう推理した。瀬多は、自分が重要人物だと言われながらも、それを黙っていたと。
本来この情報を伝えることは決して卑怯なことではない。むしろ、正確な情報を伝えなかった瀬多の判断に非があるともいえる。が、それでも、確証のない情報で皆を撹乱させることを避けた瀬多の決断を、漆黒は評価してくれたのだろう。
(……まったく。大した将軍じゃないか)
どうして自分がリーダーなんてやっているのか不思議なくらい、この男は将として、人の上に立つ者として、非常に優れた人間だ。
「じゃあ二つのグループに分けるぞ。主軸はレミリアと漆黒。一グループ三人編成だ。どちらのグループに入るかは個人で決めてくれ」
瀬多の言葉を受け、全員が動きだした。
(……まったく。大した将軍じゃないか)
どうして自分がリーダーなんてやっているのか不思議なくらい、この男は将として、人の上に立つ者として、非常に優れた人間だ。
「じゃあ二つのグループに分けるぞ。主軸はレミリアと漆黒。一グループ三人編成だ。どちらのグループに入るかは個人で決めてくれ」
瀬多の言葉を受け、全員が動きだした。
◇◇◇
【??? 監視部屋】
【??? 監視部屋】
ボスは、しばらくじっと動かずにいたが、やがて小さくなった葉巻を捨てた。
新しいものを取り出し、口にくわえる。煙を吐き出し、ゆっくりと口を開いた。
「どうするとは?」
「これだけの情報を得て、あなたはどう対処すべきだと思うか。それを聞きたいのです」
ボスは黙って葉巻をくわえる。
「イザナミの目的は確かにわかりませんが、その目的の足掛かりとして参加者を我々と同じ土俵に立たせる必要があった。自分は安全圏にいたままそれを成し遂げる。そのために八意永琳を呼び、彼女を動かしてまんまと罪を着せた。おそらくはそれが彼女の役割だったのでしょう」
「……だとしたら、こんなふざけた話もない。人質を取られ、必死に今の状況を打破しようとして、結局はそれが全て自分の首を締めているとは」
「八意永琳の持つ情報は、全てイザナミを経由しなければならなかった。だからこそ彼女は、イザナミをある程度信用し、またある程度疑わなければならなかった。
彼女が唯一信じることができたのは、円卓の神達の目的が世界創世であったことと、ここにお姫様がいること。つまり、人質を取られているということだけです。様々な仮説をたてることはできても、全ては憶測。それでも、最悪を想定して動く必要があった」
全てを信じれるほどイザナミは信用における者じゃない。かといって、疑ってばかりもいられない。疑い出せば全てが疑わしいのだ。
結局永琳が信じれるものは、不確かでも存在する理のみだ。
新しいものを取り出し、口にくわえる。煙を吐き出し、ゆっくりと口を開いた。
「どうするとは?」
「これだけの情報を得て、あなたはどう対処すべきだと思うか。それを聞きたいのです」
ボスは黙って葉巻をくわえる。
「イザナミの目的は確かにわかりませんが、その目的の足掛かりとして参加者を我々と同じ土俵に立たせる必要があった。自分は安全圏にいたままそれを成し遂げる。そのために八意永琳を呼び、彼女を動かしてまんまと罪を着せた。おそらくはそれが彼女の役割だったのでしょう」
「……だとしたら、こんなふざけた話もない。人質を取られ、必死に今の状況を打破しようとして、結局はそれが全て自分の首を締めているとは」
「八意永琳の持つ情報は、全てイザナミを経由しなければならなかった。だからこそ彼女は、イザナミをある程度信用し、またある程度疑わなければならなかった。
彼女が唯一信じることができたのは、円卓の神達の目的が世界創世であったことと、ここにお姫様がいること。つまり、人質を取られているということだけです。様々な仮説をたてることはできても、全ては憶測。それでも、最悪を想定して動く必要があった」
全てを信じれるほどイザナミは信用における者じゃない。かといって、疑ってばかりもいられない。疑い出せば全てが疑わしいのだ。
結局永琳が信じれるものは、不確かでも存在する理のみだ。
「イザナミはともかく、他の神達は絶対に信用できない。参加者達を殺し合わせるような連中が、まさか人質の殺害に躊躇するなど彼女は思わない。ましてお姫様の存在、自分の存在が神達にとってどうでもいいものだなどと、そんな楽観的な考え方はできない」
永琳にとって、神の行動は未知数だ。だからこそ、用のなくなった自分達がどのように処理されるのか、その一点に関しては最悪を想定しなければならない。
殺すことに躊躇しない者達なら、協力者の殺害というのは一番リスクの少ない対処方法なのだから。
永琳にとって、神の行動は未知数だ。だからこそ、用のなくなった自分達がどのように処理されるのか、その一点に関しては最悪を想定しなければならない。
殺すことに躊躇しない者達なら、協力者の殺害というのは一番リスクの少ない対処方法なのだから。
神は殺人に忌避感を覚えない。だからこそ永琳は従順であるべきで、しかし反旗を翻す下準備も進めなければならなかった。
「神達が不仲だということも、八意永琳からすれば決して自分で判断できるものではないのです。何故なら、それを知る程に彼女は他の神達と面識がない。
漠然とそれを感じ取っていたとしても、それを想定して動くにはあまりにリスクが高過ぎる。彼女は、彼女の意思に関係なく、イザナミの言葉があって初めて動くことができるのです」
神と下手な接触を取るのは、永琳からすれば一番避けたい行為だ。
神は傲慢で気まぐれ。それはつまり、必ずしも利害で行動するわけではないということだ。
少し自分のことを気に入らないと思えば、即座に人質を殺すくらいのことをしてきてもおかしくない。
自分と相手に圧倒的な立場の差があると誤認している永琳にとって、どんなことで輝夜を殺されるかまったくわからないのだ。
「神達が不仲だということも、八意永琳からすれば決して自分で判断できるものではないのです。何故なら、それを知る程に彼女は他の神達と面識がない。
漠然とそれを感じ取っていたとしても、それを想定して動くにはあまりにリスクが高過ぎる。彼女は、彼女の意思に関係なく、イザナミの言葉があって初めて動くことができるのです」
神と下手な接触を取るのは、永琳からすれば一番避けたい行為だ。
神は傲慢で気まぐれ。それはつまり、必ずしも利害で行動するわけではないということだ。
少し自分のことを気に入らないと思えば、即座に人質を殺すくらいのことをしてきてもおかしくない。
自分と相手に圧倒的な立場の差があると誤認している永琳にとって、どんなことで輝夜を殺されるかまったくわからないのだ。
ビッグボスもセフェランも、それぞれの神に通じている。セフェランは言うまでもなくアスタルテの意思に従っているし、ビッグボスもゼロの理想の世界のために協力している。
ビッグボスとゼロは不仲だ。互いに互いをまるきり信用していない。しかし、ゼロが自ら犯した愚を再び犯そうと考えるとはビッグボスも思っていない。そう確信できるくらいには、ビッグボスはゼロの人柄を理解していた。
ビッグボスとゼロは不仲だ。互いに互いをまるきり信用していない。しかし、ゼロが自ら犯した愚を再び犯そうと考えるとはビッグボスも思っていない。そう確信できるくらいには、ビッグボスはゼロの人柄を理解していた。
要するに、彼女が信用できる者は、神と通じていないと確信できるマルクただ一人だけだったのだ。
「……正直、私ならこんな環境耐えられませんね。自分よりも大切な者を人質にとられ、情報のほとんどがただ一人の者からしか与えられない。それがどれほど不安なものか。頭の良い者であればあるほど、底なしの恐怖に襲われ続ける。
情報を得ようと思えば、ただ一人の者に頼るしかない。それはつまり、裏を取る術がないということで、その者が敵ならば自分は思うように動かされるしかない。
……そんな地獄のような環境の中、よくあれだけ平静でいられたものです。その精神には、私も感服します」
聞けば聞くほど、永琳はイザナミに絡め取られている。誰かを助けようという願いさえも、イザナミによって操られている。
ビッグボスは、血が出るかと思うほどに手を握りしめた。
「……正直、私ならこんな環境耐えられませんね。自分よりも大切な者を人質にとられ、情報のほとんどがただ一人の者からしか与えられない。それがどれほど不安なものか。頭の良い者であればあるほど、底なしの恐怖に襲われ続ける。
情報を得ようと思えば、ただ一人の者に頼るしかない。それはつまり、裏を取る術がないということで、その者が敵ならば自分は思うように動かされるしかない。
……そんな地獄のような環境の中、よくあれだけ平静でいられたものです。その精神には、私も感服します」
聞けば聞くほど、永琳はイザナミに絡め取られている。誰かを助けようという願いさえも、イザナミによって操られている。
ビッグボスは、血が出るかと思うほどに手を握りしめた。
「彼女はもはや放ってはおけません。殺し合いを妨害する以上、彼女はこちらで排除しなければいけない」
思わず、ビッグボスはセフェランを睨みつけた。
「ふざけるな! そんな不条理な話があるか! それに、お前の言ったことはイザナミの目的に加担することになる。それだけはあってはならない!」
イザナミの目的が何かはわからない。しかしこちらにその意図を隠す以上、確実に自分達にとってデメリットの生じる目的なのだ。
「わざわざ彼女を消す必要はない。事実を伝えれば、それで済む話だ」
「私達を敵だと認識している彼女が、それを信じると思いますか? 考えてもみてください。今までの人生で最悪の窮地を迎えていた。それが実は何でもなかったなんて、逆に誰も考えられません。それが長寿で、しかも人並み外れた知能を持つ者なら尚更」
「……俺は認めない」
「ボス! 今はそんなことを言っている場合ではありません! 我々の真の敵はイザナミです。それを忘れては────」
「忘れているのはお前だ、セフェラン。仲間は多い方がいい。彼女をこちらに引き入れる」
「下手なことをすればこちらの優位が崩れかねません! 我々がここまで情報を掴んでいることを、イザナミは知らないんですよ!
もしも八意永琳が裏切れば、もしくはイザナミに勘付かれたら、それでまた振り出しに戻ってしまう。思い出して下さい! あなたは、大義のためにこの殺し合いを終わらせなければならないのですよ!」
思わず、ビッグボスはセフェランを睨みつけた。
「ふざけるな! そんな不条理な話があるか! それに、お前の言ったことはイザナミの目的に加担することになる。それだけはあってはならない!」
イザナミの目的が何かはわからない。しかしこちらにその意図を隠す以上、確実に自分達にとってデメリットの生じる目的なのだ。
「わざわざ彼女を消す必要はない。事実を伝えれば、それで済む話だ」
「私達を敵だと認識している彼女が、それを信じると思いますか? 考えてもみてください。今までの人生で最悪の窮地を迎えていた。それが実は何でもなかったなんて、逆に誰も考えられません。それが長寿で、しかも人並み外れた知能を持つ者なら尚更」
「……俺は認めない」
「ボス! 今はそんなことを言っている場合ではありません! 我々の真の敵はイザナミです。それを忘れては────」
「忘れているのはお前だ、セフェラン。仲間は多い方がいい。彼女をこちらに引き入れる」
「下手なことをすればこちらの優位が崩れかねません! 我々がここまで情報を掴んでいることを、イザナミは知らないんですよ!
もしも八意永琳が裏切れば、もしくはイザナミに勘付かれたら、それでまた振り出しに戻ってしまう。思い出して下さい! あなたは、大義のためにこの殺し合いを終わらせなければならないのですよ!」
殺し合いの完遂。それが世界創世の要。
ザ・ボスの考える理想の世界を創る、これが最後のチャンス。そんなことは、ビッグボスにだってわかっている。
だが、ボスの脳裏にちらついて仕方がないのだ。先程の、嘆願する永琳の必死な姿が。
「……俺は、時代や世界のために戦っていた。それこそ政府や誰かの道具のようにな。間違いも多く犯した。何人もの罪なき人を死に追いやった。今思えば、正義も何もないただの殺戮だ。だけどな。……俺はいつも、自分の意思で戦ってきた」
何が正しいのか。そんなことは、今のボスにはどうでもよかった。
自分の意思。自分が何をしたいと思うか。それに従うことが、ボスにとっての正義だった。
ザ・ボスの考える理想の世界を創る、これが最後のチャンス。そんなことは、ビッグボスにだってわかっている。
だが、ボスの脳裏にちらついて仕方がないのだ。先程の、嘆願する永琳の必死な姿が。
「……俺は、時代や世界のために戦っていた。それこそ政府や誰かの道具のようにな。間違いも多く犯した。何人もの罪なき人を死に追いやった。今思えば、正義も何もないただの殺戮だ。だけどな。……俺はいつも、自分の意思で戦ってきた」
何が正しいのか。そんなことは、今のボスにはどうでもよかった。
自分の意思。自分が何をしたいと思うか。それに従うことが、ボスにとっての正義だった。
扉へとボスは駆ける。
慌ててセフェランが杖を構えるが、一発の銃声とともにそれは空を切り、地面へと転がる。セフェランが持つ杖を、ボスが銃弾を当てて弾いたのだ。
「俺は悪の元凶だ。諸悪の根源だ。それは今も同じで、だから罵倒されても何をされても、俺は何とも思わない。
だが俺の意思だけは、誰にも否定させない。誰にも邪魔はさせない。俺は自分の意思で戦う。ただそれだけだ。……処罰なら、あとできっちり受けてやる。悪いな、セフェラン」
それだけ言うと、ビッグボスは扉から出て行った。
セフェランはため息をついた。
まったく厄介な相棒を持ったものだと嘆きながら。しかし、だからこそセフェランは薄く笑った。
彼は自分に似ている。人の悪意を許容できず、世界に流されることを許容できず、自分の意思だけを頼りにここまでかなぐり進んできた。ただただ純粋であったがために、人に、世界に毒され、苦しんできた。
そんな彼だからこそ、セフェランは絶対の信頼を寄せているのだ。だからこそ、自分はこの真実をボスに話したのだ。
自分もビッグボスと同じだ。自分も、自分の意思に従う。
セフェランは、できるだけ遅い所作で杖を拾うと、女神の所へとリワープで移動した。
慌ててセフェランが杖を構えるが、一発の銃声とともにそれは空を切り、地面へと転がる。セフェランが持つ杖を、ボスが銃弾を当てて弾いたのだ。
「俺は悪の元凶だ。諸悪の根源だ。それは今も同じで、だから罵倒されても何をされても、俺は何とも思わない。
だが俺の意思だけは、誰にも否定させない。誰にも邪魔はさせない。俺は自分の意思で戦う。ただそれだけだ。……処罰なら、あとできっちり受けてやる。悪いな、セフェラン」
それだけ言うと、ビッグボスは扉から出て行った。
セフェランはため息をついた。
まったく厄介な相棒を持ったものだと嘆きながら。しかし、だからこそセフェランは薄く笑った。
彼は自分に似ている。人の悪意を許容できず、世界に流されることを許容できず、自分の意思だけを頼りにここまでかなぐり進んできた。ただただ純粋であったがために、人に、世界に毒され、苦しんできた。
そんな彼だからこそ、セフェランは絶対の信頼を寄せているのだ。だからこそ、自分はこの真実をボスに話したのだ。
自分もビッグボスと同じだ。自分も、自分の意思に従う。
セフェランは、できるだけ遅い所作で杖を拾うと、女神の所へとリワープで移動した。