Reach Out To The Truth(1) ◆dGUiIvN2Nw
【月と地上の狭間 とある高原の邸宅】
「……と、いうわけよ。協力お願いできるかしら?」
優雅にティーカップに口をつけ、八雲紫は不敵に微笑む。
その向かいに座っている女性、依姫は、どこか渋い顔をしながらも彼女の話を聞いていた。
「はっきり言って、あなたの話はまったく信用できる要素がない」
「そうね。確かに証拠として提示できるものは何もない。でも、何かが起こっていることは確実よ」
それを聞いて、依姫の隣で桃を頬張っていた豊姫が、場の空気に似合わぬ天真爛漫な笑顔を見せる。
「その何かに八意様が関わっている証拠くらいは見せてほしいところねぇ~」
(へらへらしている割に、押さえるべき点をよく分かっている。さすがに月を束ねる姉妹なだけはあるか)
もぐもぐと口を動かし、「ん~、おいしい」などと呟いている豊姫を見て、紫は思う。
やはり一筋縄ではいかない様子だ。しかし、だからこそ味方になれば心強い。
「月を欠けた満月に置き換えて、月と地上の道を閉ざそうとする異変が以前起こった。その異変を解決した者は、誰が異変の犯人だったのか、その存在をまるきり忘れてしまっている」
「……確かに。そんなことをしようとするのもできるのも、八意様くらいね。けれど、私達はその存在が消えるということ自体を疑っているの。また何か適当なこと言って、月の都を荒らそうとか考えてるんじゃないの?」
カップを傾け、紅茶を啜る。
あくまでも自分のペースを崩さぬように、ゆっくりとした動作でカップを置くと、紫は口を開いた。
「私の見解はこうよ。誰かが世界に無理やり干渉したことで、世界が無理やり修復作業を行った。全ての事象は繋がっているの。どこか一つが狂えば他の全てが狂ってしまう。その狂いを治す一番の方法が、存在をなかったことにするというもの」
「世界の意思でってこと?」
依姫は思わず眉をひそめる。
「ごく自然な現象ってことよ。世界が世界として成り立つためのね。この世が三次元であることをあなたは説明できる?」
世界というものがどういう仕組みで動いているのか。それは月の民であろうと理解できないもの。
何故存在が消えるのか。その疑問は、何故地球が三次元的な物体であるのかを解説するに等しい疑問だ。
優雅にティーカップに口をつけ、八雲紫は不敵に微笑む。
その向かいに座っている女性、依姫は、どこか渋い顔をしながらも彼女の話を聞いていた。
「はっきり言って、あなたの話はまったく信用できる要素がない」
「そうね。確かに証拠として提示できるものは何もない。でも、何かが起こっていることは確実よ」
それを聞いて、依姫の隣で桃を頬張っていた豊姫が、場の空気に似合わぬ天真爛漫な笑顔を見せる。
「その何かに八意様が関わっている証拠くらいは見せてほしいところねぇ~」
(へらへらしている割に、押さえるべき点をよく分かっている。さすがに月を束ねる姉妹なだけはあるか)
もぐもぐと口を動かし、「ん~、おいしい」などと呟いている豊姫を見て、紫は思う。
やはり一筋縄ではいかない様子だ。しかし、だからこそ味方になれば心強い。
「月を欠けた満月に置き換えて、月と地上の道を閉ざそうとする異変が以前起こった。その異変を解決した者は、誰が異変の犯人だったのか、その存在をまるきり忘れてしまっている」
「……確かに。そんなことをしようとするのもできるのも、八意様くらいね。けれど、私達はその存在が消えるということ自体を疑っているの。また何か適当なこと言って、月の都を荒らそうとか考えてるんじゃないの?」
カップを傾け、紅茶を啜る。
あくまでも自分のペースを崩さぬように、ゆっくりとした動作でカップを置くと、紫は口を開いた。
「私の見解はこうよ。誰かが世界に無理やり干渉したことで、世界が無理やり修復作業を行った。全ての事象は繋がっているの。どこか一つが狂えば他の全てが狂ってしまう。その狂いを治す一番の方法が、存在をなかったことにするというもの」
「世界の意思でってこと?」
依姫は思わず眉をひそめる。
「ごく自然な現象ってことよ。世界が世界として成り立つためのね。この世が三次元であることをあなたは説明できる?」
世界というものがどういう仕組みで動いているのか。それは月の民であろうと理解できないもの。
何故存在が消えるのか。その疑問は、何故地球が三次元的な物体であるのかを解説するに等しい疑問だ。
「しかし私も姉様も、そしてあなたも、八意様のことを覚えている」
「私は世界の外にいたから干渉を免れた。あなたたちはすでに彼女との関係は希薄なものとなっているわ。この世に運命というものがあって、それを辿るようにして私達は生きているとするなら、おそらくあなた達は金輪際彼女と出会うことがなかったということよ」
綿月姉妹が幻想郷と関わることが金輪際ないのであれば、八意永琳の存在を忘れる必要などない。世界の観点で見て矛盾は起きないし、辻褄合わせをする手間も省ける。
「荒唐無稽だわ」
依姫の言う通り。紫の説にはあまりにも空想が多過ぎる。
「けど、実際問題できなくはないわよ? 龍神様だって、やろうと思えばそれくらいできるだろうし」
確かに紫の説は空想の産物だ。しかし、絶対ないとは言い切れない。少なくとも一割は可能性がある。
「それに、どちらにせよ存在が消えているという事実は変わらない。説明はできなくても、これが異変だということは変わらないわ。まぁ信じるか信じないかは、あなた達で勝手に下調べでもしてちょうだい。それこそ、私がとやかく言っても仕方のないことだし」
「あなたは幻想郷の住人や八意様が、別世界に拉致されたと考えているのね」
豊姫はテーブルに置かれた籠の中から、よりおいしそうな桃を厳選し、それを手に取る。
「その通り。そしてそれは、あなた達からしても無視できないことのはず」
紫はおもむろに椅子から立ち上がった。
何をするつもりかと綿月姉妹が身構える。が、紫は意外にも、その地面に手をつけただけだった。
「お願いします。私は、幻想郷を失うわけにはいかない。あなた方の力が必要なのです」
依姫と豊姫は思わず互いに見つめ合った。
そして、どちらからとも言わず薄く微笑んだ。
まるで、合格だと言わんばかりに。
「私は世界の外にいたから干渉を免れた。あなたたちはすでに彼女との関係は希薄なものとなっているわ。この世に運命というものがあって、それを辿るようにして私達は生きているとするなら、おそらくあなた達は金輪際彼女と出会うことがなかったということよ」
綿月姉妹が幻想郷と関わることが金輪際ないのであれば、八意永琳の存在を忘れる必要などない。世界の観点で見て矛盾は起きないし、辻褄合わせをする手間も省ける。
「荒唐無稽だわ」
依姫の言う通り。紫の説にはあまりにも空想が多過ぎる。
「けど、実際問題できなくはないわよ? 龍神様だって、やろうと思えばそれくらいできるだろうし」
確かに紫の説は空想の産物だ。しかし、絶対ないとは言い切れない。少なくとも一割は可能性がある。
「それに、どちらにせよ存在が消えているという事実は変わらない。説明はできなくても、これが異変だということは変わらないわ。まぁ信じるか信じないかは、あなた達で勝手に下調べでもしてちょうだい。それこそ、私がとやかく言っても仕方のないことだし」
「あなたは幻想郷の住人や八意様が、別世界に拉致されたと考えているのね」
豊姫はテーブルに置かれた籠の中から、よりおいしそうな桃を厳選し、それを手に取る。
「その通り。そしてそれは、あなた達からしても無視できないことのはず」
紫はおもむろに椅子から立ち上がった。
何をするつもりかと綿月姉妹が身構える。が、紫は意外にも、その地面に手をつけただけだった。
「お願いします。私は、幻想郷を失うわけにはいかない。あなた方の力が必要なのです」
依姫と豊姫は思わず互いに見つめ合った。
そして、どちらからとも言わず薄く微笑んだ。
まるで、合格だと言わんばかりに。
「顔を上げなさい、地上に住む穢れ多き妖怪よ。元より、あなたの言う異変は私達も感知していた」
「今回の件は、少しあなたを試していたのよ。私達も協力者を探していた。自力で異変に勘付き、その本質をも見抜けたあなたなら、協定を結ぶに十分な人材だわ」
「あらそう?」
先程までとは違い、軽い調子で立ち上がり髪を靡かせる。
「ああよかった。こちらとしても、これくらいのことに気付けない相手なんて協力に値しないから」
「……敢えてこちらの思惑に合わせていたってわけね。ほんと、地上の住人は食えないわ」
「あら。あなた達ほどじゃないと思うけど?」
そう言ってクスクスと笑う。
これで力は確保した。あとは道だけ。敵の居所さえ見つかれば、一気に叩ける。
「それじゃあ、戦力の方はあなた達に任せるとしましょうか。月の民が本気を出せば、大抵の輩は潰せる」
「そこは信用してもらいたいところね。力なら、誰が相手でも負ける気がしない。問題は敵の居場所だけど、それも姉様とあなたがいれば問題はなさそうだわ」
「その通り」
頷く二人。そこには確固たる自信があった。月の民であるプライドと、千もの時を生きる妖怪としてのプライドが。
紫は、机に置かれたティーカップを掲げた。
「月と地上の住人による、最初で最後の協定。その勝利と成功を祈って」
綿月姉妹も紫に合わせてカップを掲げる。
酒は自粛した。これからやらなければならないことがたくさんある。
そう。酒ならいつでも飲めるのだ。この異変が解決すれば。
紫は澄ました顔でカップに口をつける。
名前も顔もわからない。しかし、必ず引きずり出し、生きてきたことを後悔させてやる。そう強く思いながら。
「今回の件は、少しあなたを試していたのよ。私達も協力者を探していた。自力で異変に勘付き、その本質をも見抜けたあなたなら、協定を結ぶに十分な人材だわ」
「あらそう?」
先程までとは違い、軽い調子で立ち上がり髪を靡かせる。
「ああよかった。こちらとしても、これくらいのことに気付けない相手なんて協力に値しないから」
「……敢えてこちらの思惑に合わせていたってわけね。ほんと、地上の住人は食えないわ」
「あら。あなた達ほどじゃないと思うけど?」
そう言ってクスクスと笑う。
これで力は確保した。あとは道だけ。敵の居所さえ見つかれば、一気に叩ける。
「それじゃあ、戦力の方はあなた達に任せるとしましょうか。月の民が本気を出せば、大抵の輩は潰せる」
「そこは信用してもらいたいところね。力なら、誰が相手でも負ける気がしない。問題は敵の居場所だけど、それも姉様とあなたがいれば問題はなさそうだわ」
「その通り」
頷く二人。そこには確固たる自信があった。月の民であるプライドと、千もの時を生きる妖怪としてのプライドが。
紫は、机に置かれたティーカップを掲げた。
「月と地上の住人による、最初で最後の協定。その勝利と成功を祈って」
綿月姉妹も紫に合わせてカップを掲げる。
酒は自粛した。これからやらなければならないことがたくさんある。
そう。酒ならいつでも飲めるのだ。この異変が解決すれば。
紫は澄ました顔でカップに口をつける。
名前も顔もわからない。しかし、必ず引きずり出し、生きてきたことを後悔させてやる。そう強く思いながら。
◇◇◇
【殺し合い会場 D-4】
【殺し合い会場 D-4】
全員が放心していた。
それだけゼルギウスの語った話は想像を絶していた。
正の女神、アスタルテ。負の女神、ユンヌ。
人を作り、世界を作った二神。
暴走し、人を絶滅の危機に追いやったユンヌをメダリオンに封印したアスタルテ。
彼女が目覚める時、人が未だに争い、戦火に塗れているというのなら、人を滅ぼすことを明言した女神。
「……私は。私の主は、彼女を目覚めさせ人を滅ぼそうとしていた」
それは、漆黒の騎士からすれば相当の勇気がいる告白だっただろう。
せっかく手にした仲間が、この告白で自分を拒絶するかもしれないのだ。
「私は人に絶望していた。誰からも疎まれ、自分の居場所を作ることができなかった私に、主セフェランは居場所をくれた。主に仕えること。それが私にとって、ただ一つの生きる糧だった。
……許してくれなんて言わない。今ここで、自害してもいい。何の償いにもならないだろうが」
全員が黙っていた。
もしかしたら。漆黒の騎士がセフェランを止めていたら、この殺し合いは開催されなかったかもしれない。
それは誰にも肯定できないことで、しかし誰にも否定できないことだった。
「……あーもう! 暗いのやめ! なしなし!!」
千枝が立ち上がりぶんぶんと手を振る。
「漆黒さんが何をしようとしてたかとか、そんなんもう関係ないよ。漆黒さんは仲間! んで、今は私達を助けてくれてる。それだけわかれば万事OKっしょ」
千枝は満面の笑みで漆黒にそう言った。
その明るい笑顔が、皆にも広がっていく。若干、本当に若干、不安そうに見守っていた咲夜も頬を緩める。
皆の自分を受け入れてくれる笑みが、漆黒の騎士に眩しく映った。
眩し過ぎて、涙が出てくるほどに……。
「……ありがとう」
今はこんな言葉しか送れない。
しかし、漆黒の騎士は誓った。
咲夜だけじゃない。千枝も、そしてここにいる全員も、私は守らなければならないと。
騎士として、仲間として、彼らを守り抜こうと。
それだけゼルギウスの語った話は想像を絶していた。
正の女神、アスタルテ。負の女神、ユンヌ。
人を作り、世界を作った二神。
暴走し、人を絶滅の危機に追いやったユンヌをメダリオンに封印したアスタルテ。
彼女が目覚める時、人が未だに争い、戦火に塗れているというのなら、人を滅ぼすことを明言した女神。
「……私は。私の主は、彼女を目覚めさせ人を滅ぼそうとしていた」
それは、漆黒の騎士からすれば相当の勇気がいる告白だっただろう。
せっかく手にした仲間が、この告白で自分を拒絶するかもしれないのだ。
「私は人に絶望していた。誰からも疎まれ、自分の居場所を作ることができなかった私に、主セフェランは居場所をくれた。主に仕えること。それが私にとって、ただ一つの生きる糧だった。
……許してくれなんて言わない。今ここで、自害してもいい。何の償いにもならないだろうが」
全員が黙っていた。
もしかしたら。漆黒の騎士がセフェランを止めていたら、この殺し合いは開催されなかったかもしれない。
それは誰にも肯定できないことで、しかし誰にも否定できないことだった。
「……あーもう! 暗いのやめ! なしなし!!」
千枝が立ち上がりぶんぶんと手を振る。
「漆黒さんが何をしようとしてたかとか、そんなんもう関係ないよ。漆黒さんは仲間! んで、今は私達を助けてくれてる。それだけわかれば万事OKっしょ」
千枝は満面の笑みで漆黒にそう言った。
その明るい笑顔が、皆にも広がっていく。若干、本当に若干、不安そうに見守っていた咲夜も頬を緩める。
皆の自分を受け入れてくれる笑みが、漆黒の騎士に眩しく映った。
眩し過ぎて、涙が出てくるほどに……。
「……ありがとう」
今はこんな言葉しか送れない。
しかし、漆黒の騎士は誓った。
咲夜だけじゃない。千枝も、そしてここにいる全員も、私は守らなければならないと。
騎士として、仲間として、彼らを守り抜こうと。
漆黒の騎士の話が終わり、誰が何を言うこともなく休息をとることになった。全員が疲労困憊の中、次の放送くらいまでは体力回復に努めるべきだと誰もが思っていたのだ。
全員が、横になってすぐに寝息を立て始めた。それだけ先程の戦いは厳しいものだったのだ。
全員が、横になってすぐに寝息を立て始めた。それだけ先程の戦いは厳しいものだったのだ。
瀬多が目を覚ました時、起きていたのはアドレーヌだけだった。
見れば、皆きちんと治療されている。全てアドレーヌがやってくれたのだろう。
「……どれくらい眠っていた?」
目頭に手を添え、瀬多は聞いた。
「二時間くらいだと思います……」
幽香の亡骸があった場所は土で盛り上がっている。
その隣には少しだけ小さな墓が二つ。おそらく、ベトベトンとカービィのものだろう。
どの墓にも、小さな花が添えられていた。
「幽香さんには……ひまわりを、添えてあげたかったんですけど」
アドレーヌは泣いていなかった。
ぎゅっと手に力を込め、涙を耐えていた。
「そうか……」
そっと、優しく抱きしめてやる。アドレーヌの身体の震えが、瀬多にも伝わってきた。
(辛いよな。辛いに決まってる)
瀬多自身だって、少し気が緩めば崩れ落ちるくらいに泣き喚く自信がある。
だというのに、自分の大切な人がこうも立て続けに目の前で死んで、辛くない訳がない。自分以上の悲しみを、アドレーヌは背負っているのだ。
「ノロケならからかってやろうかと思ったんだがな」
木の影で横になっていたレミリアが唐突に言った。
「起きたのか」
「ついさっきな」
むくりと起き上がり、手を広げたり握ったりしている。身体の調子を確かめているようだ。
動かす手を眺めながら、レミリアは口を開いた。
「また随分、人が死んだな」
軽く言うレミリアに、瀬多は押し黙った。
そう。死に過ぎた。あまりにも酷い結果だ。
「自分のせいだ、なんて思ってるのか? 相変わらず」
「……俺が魔理沙に固執しなければ、こんなことにはならなかった。イザナミの思惑に気付いていれば、こうはならなかった」
足立がどういう人間かは分かっていた。有無を言わさず再起不能にしていれば、少なくとも幽香とベトベトンは犠牲にならずに済んだ。
「アドレーヌにも言えることだが、お前達人間は少し物事を背負い過ぎる傾向があるな。出来もしないのに勝手に背負って押し潰れる。まったく、馬鹿みたいじゃないか?」
レミリアらしい理屈だと思う。
だが
「背負わずには……いられないんです」
アドレーヌが言った。
「人は弱いから。悲惨な現実を受け入れられないから。その現実を、少しでも良くしようって考えて。そうしたら、けっきょく背負うことになっちゃうんです」
「……人間というのも面倒な生き物だな」
レミリアのことだから、馬鹿丸出しだとでも言って切り捨てられるだろうと考えていた瀬多にとって、その言葉は意外なものだった。
ゴルベーザに対する怒り。幽香の死に対する怒り。それらは妖怪特有のものであったとしても、最初に出会った頃のレミリアからは少し考えられないことだった。
(レミリアも、成長してるってことか)
人間を知り始めている。人間に感化されてきている。
それが良いことなのか悪いことなのか。……いや、きっと良いことなのだろう。
見れば、皆きちんと治療されている。全てアドレーヌがやってくれたのだろう。
「……どれくらい眠っていた?」
目頭に手を添え、瀬多は聞いた。
「二時間くらいだと思います……」
幽香の亡骸があった場所は土で盛り上がっている。
その隣には少しだけ小さな墓が二つ。おそらく、ベトベトンとカービィのものだろう。
どの墓にも、小さな花が添えられていた。
「幽香さんには……ひまわりを、添えてあげたかったんですけど」
アドレーヌは泣いていなかった。
ぎゅっと手に力を込め、涙を耐えていた。
「そうか……」
そっと、優しく抱きしめてやる。アドレーヌの身体の震えが、瀬多にも伝わってきた。
(辛いよな。辛いに決まってる)
瀬多自身だって、少し気が緩めば崩れ落ちるくらいに泣き喚く自信がある。
だというのに、自分の大切な人がこうも立て続けに目の前で死んで、辛くない訳がない。自分以上の悲しみを、アドレーヌは背負っているのだ。
「ノロケならからかってやろうかと思ったんだがな」
木の影で横になっていたレミリアが唐突に言った。
「起きたのか」
「ついさっきな」
むくりと起き上がり、手を広げたり握ったりしている。身体の調子を確かめているようだ。
動かす手を眺めながら、レミリアは口を開いた。
「また随分、人が死んだな」
軽く言うレミリアに、瀬多は押し黙った。
そう。死に過ぎた。あまりにも酷い結果だ。
「自分のせいだ、なんて思ってるのか? 相変わらず」
「……俺が魔理沙に固執しなければ、こんなことにはならなかった。イザナミの思惑に気付いていれば、こうはならなかった」
足立がどういう人間かは分かっていた。有無を言わさず再起不能にしていれば、少なくとも幽香とベトベトンは犠牲にならずに済んだ。
「アドレーヌにも言えることだが、お前達人間は少し物事を背負い過ぎる傾向があるな。出来もしないのに勝手に背負って押し潰れる。まったく、馬鹿みたいじゃないか?」
レミリアらしい理屈だと思う。
だが
「背負わずには……いられないんです」
アドレーヌが言った。
「人は弱いから。悲惨な現実を受け入れられないから。その現実を、少しでも良くしようって考えて。そうしたら、けっきょく背負うことになっちゃうんです」
「……人間というのも面倒な生き物だな」
レミリアのことだから、馬鹿丸出しだとでも言って切り捨てられるだろうと考えていた瀬多にとって、その言葉は意外なものだった。
ゴルベーザに対する怒り。幽香の死に対する怒り。それらは妖怪特有のものであったとしても、最初に出会った頃のレミリアからは少し考えられないことだった。
(レミリアも、成長してるってことか)
人間を知り始めている。人間に感化されてきている。
それが良いことなのか悪いことなのか。……いや、きっと良いことなのだろう。
「それに今回の件は、誰がどう見ても私のせいなんです」
その確信があるような言い方に、思わず二人ともアドレーヌを見つめた。
「あのメダリオン。……本当は、私が持っていたんです。最初に支給品を見せ合った時に、見落としていたんです。放送があった時、私はあれを見つけてました。……それを、……もっとはやく、瀬多さんに……」
瀬多はメダリオンのことを知っていた。だから、瀬多に知らせてさえいれば、こんなことにはならなかった。
それはアドレーヌにとって、どうしようもなく深い後悔だった。
「メダリオンに触ったのか?」
「……はい」
攻略本に載っていた情報では、メダリオンに触れることができる人間は正の気が強い人間だけだった。
アドレーヌも生の気が強かった。だからこそ、触れても何も異変が起こらなかった。ならば、今回の件はアドレーヌのせいとは一概には言えない。
自分が触って何ともなかったのだ。まさか触れただけでその人物が凶暴化するような恐ろしいものだとは思えない。
必然的に、そのメダルの優先度は下がり、いつしか忘れてしまう。おそらく、そういった効果も考えて、イザナミはこれを支給したのだろう。
「俺はアドレーヌを怒らないといけない」
しかし、瀬多は敢えてそう言った。
「アドレーヌ。皆が君に逃げろと叫んだあの時。足立に殺されかけたあの時。君は、自分を諦めただろ。自分が生きることを諦めた。それは、絶対にしちゃいけないことだった」
アドレーヌは何も言わない。何も言わず、ただ俯いている。
「たとえ今回の騒動がアドレーヌのせいだったとしても、それでも生きることを諦めちゃ駄目だ。それは……死んでいった大勢の人を裏切る行為だ」
裏切る、という言葉にアドレーヌは震えた。
たとえどれほど辛くても、苦しくても、死んだ人達の意思を裏切ること。それだけはしてはいけないことなのだ。
「俺達は生きなくちゃいけない。どんなことがあっても、強くあらなければいけない。それが、死んだ人達を生かすことになる。無駄なんかじゃなかったっていう証になる。
彼らの強さと生き様を、俺達は後世に伝えていかないといけない。伝えることで、きっと彼らは生き続けるんだ」
そう思い続けることで、立っていられる。
だからきっと、彼らの死は価値あることだったんだ。
そう信じたい。いや、信じると決めたのだ。
その確信があるような言い方に、思わず二人ともアドレーヌを見つめた。
「あのメダリオン。……本当は、私が持っていたんです。最初に支給品を見せ合った時に、見落としていたんです。放送があった時、私はあれを見つけてました。……それを、……もっとはやく、瀬多さんに……」
瀬多はメダリオンのことを知っていた。だから、瀬多に知らせてさえいれば、こんなことにはならなかった。
それはアドレーヌにとって、どうしようもなく深い後悔だった。
「メダリオンに触ったのか?」
「……はい」
攻略本に載っていた情報では、メダリオンに触れることができる人間は正の気が強い人間だけだった。
アドレーヌも生の気が強かった。だからこそ、触れても何も異変が起こらなかった。ならば、今回の件はアドレーヌのせいとは一概には言えない。
自分が触って何ともなかったのだ。まさか触れただけでその人物が凶暴化するような恐ろしいものだとは思えない。
必然的に、そのメダルの優先度は下がり、いつしか忘れてしまう。おそらく、そういった効果も考えて、イザナミはこれを支給したのだろう。
「俺はアドレーヌを怒らないといけない」
しかし、瀬多は敢えてそう言った。
「アドレーヌ。皆が君に逃げろと叫んだあの時。足立に殺されかけたあの時。君は、自分を諦めただろ。自分が生きることを諦めた。それは、絶対にしちゃいけないことだった」
アドレーヌは何も言わない。何も言わず、ただ俯いている。
「たとえ今回の騒動がアドレーヌのせいだったとしても、それでも生きることを諦めちゃ駄目だ。それは……死んでいった大勢の人を裏切る行為だ」
裏切る、という言葉にアドレーヌは震えた。
たとえどれほど辛くても、苦しくても、死んだ人達の意思を裏切ること。それだけはしてはいけないことなのだ。
「俺達は生きなくちゃいけない。どんなことがあっても、強くあらなければいけない。それが、死んだ人達を生かすことになる。無駄なんかじゃなかったっていう証になる。
彼らの強さと生き様を、俺達は後世に伝えていかないといけない。伝えることで、きっと彼らは生き続けるんだ」
そう思い続けることで、立っていられる。
だからきっと、彼らの死は価値あることだったんだ。
そう信じたい。いや、信じると決めたのだ。
突然、右手がうずいた。
「どうかしました?」
「……例の発作だ。休憩はもう十分だと言いたいんだろうな」
果てしなく面倒な呪いをかけられたものだと、内心愚痴る。
だが、これは自分も合意の上での契約だ。文句も言っていられない。
「この発作は、俺の意思に反応する仕組みになっているらしい。つまり、俺がイゴールに近づく行為だと認識すれば発作は引いていく。別に動き回らなくてもいいってことだ」
瀬多は立ち上がり、回収したオタコンのバックからゲーム機を取り出した。
「二人とも、悪いが少し付き合ってもらうぞ」
「どうかしました?」
「……例の発作だ。休憩はもう十分だと言いたいんだろうな」
果てしなく面倒な呪いをかけられたものだと、内心愚痴る。
だが、これは自分も合意の上での契約だ。文句も言っていられない。
「この発作は、俺の意思に反応する仕組みになっているらしい。つまり、俺がイゴールに近づく行為だと認識すれば発作は引いていく。別に動き回らなくてもいいってことだ」
瀬多は立ち上がり、回収したオタコンのバックからゲーム機を取り出した。
「二人とも、悪いが少し付き合ってもらうぞ」
ゲーム機を操作し、例の選択肢を画面に映し出す。
好きな情報を教えてくれるというイザナミからの褒美である。
主催者は誰か。目的は何なのか。そして、ここはどこなのか。
「なんだこれは?」
「イザナミからの情報提供だ。この三つのどれかを教えてくれるらしい。オタコンはこの答えを保留していたらしいが、こんなところでぐだぐだやってられるほど俺達に余裕はない。さっさと決めて、ゲームをクリアしなくちゃいけない」
「……その口ぶり。既にどれを選ぶかは決めているというわけか」
漆黒の騎士が身体を起こし、そう言った。
「身体は大丈夫なのか?」
「今のところ問題はない。……話を続けてくれ。瀬多の決断力がどれほどのものか、確認しておきたい」
漆黒の騎士、ゼルギウスは知将である。その高い戦闘力と類稀なる知略でベグニオンの将軍の座についた。
グループのリーダー格の男がどれほどのものか。それを確認する必要があると考えるくらいの知性は、漆黒の騎士も優に備えていた。
そんな漆黒の騎士の考えを理解しているからこそ、瀬多は彼を無視して話を続ける。
「この選択。俺は二番、主催の目的を知る為に使おうと思っている。信頼性に欠ける不確かな情報だが、真実を教えてくれると言うのなら、これが一番知りたい」
当然のことながらクレームが飛んだ。
「はあ!? そんなもの知ったところでどうなるってのよ! ここは断然三番でしょうが!」
「……お嬢様。どうかしたのですか?」
そのレミリアの声に、咲夜が目を覚ましたようだった。遅れて千枝も目を擦りながら身体を起こしている。
せっかくなので全員に集まってもらい、話を進めることにした。
好きな情報を教えてくれるというイザナミからの褒美である。
主催者は誰か。目的は何なのか。そして、ここはどこなのか。
「なんだこれは?」
「イザナミからの情報提供だ。この三つのどれかを教えてくれるらしい。オタコンはこの答えを保留していたらしいが、こんなところでぐだぐだやってられるほど俺達に余裕はない。さっさと決めて、ゲームをクリアしなくちゃいけない」
「……その口ぶり。既にどれを選ぶかは決めているというわけか」
漆黒の騎士が身体を起こし、そう言った。
「身体は大丈夫なのか?」
「今のところ問題はない。……話を続けてくれ。瀬多の決断力がどれほどのものか、確認しておきたい」
漆黒の騎士、ゼルギウスは知将である。その高い戦闘力と類稀なる知略でベグニオンの将軍の座についた。
グループのリーダー格の男がどれほどのものか。それを確認する必要があると考えるくらいの知性は、漆黒の騎士も優に備えていた。
そんな漆黒の騎士の考えを理解しているからこそ、瀬多は彼を無視して話を続ける。
「この選択。俺は二番、主催の目的を知る為に使おうと思っている。信頼性に欠ける不確かな情報だが、真実を教えてくれると言うのなら、これが一番知りたい」
当然のことながらクレームが飛んだ。
「はあ!? そんなもの知ったところでどうなるってのよ! ここは断然三番でしょうが!」
「……お嬢様。どうかしたのですか?」
そのレミリアの声に、咲夜が目を覚ましたようだった。遅れて千枝も目を擦りながら身体を起こしている。
せっかくなので全員に集まってもらい、話を進めることにした。
「どうして二番を、という意見が出たが、他の皆はどうだ? もし選ぶとしたらどれにする?」
千枝、咲夜の二人が迷わず三番の『この島がどこにあるのか』を選んだ。アドレーヌは首を傾げて決めかねている様子で、漆黒の騎士は元より意見を言うつもりはないようだ。
普通に考えて、主催の正体も開催理由もこちらには何の関係のない話だ。そんなものを聞くよりも、ここがどこかを知った方が脱出に有利のはずである。
「何故二番なのか。その答えは簡単だ。他の選択肢は、この三択を迫られた時点で簡単に推測できるからな」
どよめきが起こる。漆黒の騎士だけが、じっと瀬多を見つめている。
「……おい。本当にわかるのか? ここがどこなのか」
レミリアの静かな問いに、瀬多は頷いた。
「イザナミは殺し合いを進めなければならない。どういう目的があるにせよ、それは確かだ。だというのに、脱出のキーである情報を渡すなんておかしいとは思わないか?」
自分達を助けようとしている助っ人が主催側にいることを理解した今、イザナミの目的はあくまで殺し合いを進めることにあると見ていい。
そうなると、場所を特定するような情報をおいそれと参加者に渡すとは考えづらい。
何故なら自分達のいる場所というのは、そこから脱出する者にとって必ず突き止めねばならない障害で、逆を言えばそれさえ分かれば様々な解決策を編み出すきっかけとなるのだから。
千枝、咲夜の二人が迷わず三番の『この島がどこにあるのか』を選んだ。アドレーヌは首を傾げて決めかねている様子で、漆黒の騎士は元より意見を言うつもりはないようだ。
普通に考えて、主催の正体も開催理由もこちらには何の関係のない話だ。そんなものを聞くよりも、ここがどこかを知った方が脱出に有利のはずである。
「何故二番なのか。その答えは簡単だ。他の選択肢は、この三択を迫られた時点で簡単に推測できるからな」
どよめきが起こる。漆黒の騎士だけが、じっと瀬多を見つめている。
「……おい。本当にわかるのか? ここがどこなのか」
レミリアの静かな問いに、瀬多は頷いた。
「イザナミは殺し合いを進めなければならない。どういう目的があるにせよ、それは確かだ。だというのに、脱出のキーである情報を渡すなんておかしいとは思わないか?」
自分達を助けようとしている助っ人が主催側にいることを理解した今、イザナミの目的はあくまで殺し合いを進めることにあると見ていい。
そうなると、場所を特定するような情報をおいそれと参加者に渡すとは考えづらい。
何故なら自分達のいる場所というのは、そこから脱出する者にとって必ず突き止めねばならない障害で、逆を言えばそれさえ分かれば様々な解決策を編み出すきっかけとなるのだから。
「脱出されるのは奴だって嫌なはずだ。なのに、そのキーとなり得る情報を無償で教えようとしてる。それは、絶対に破られない自信があるからだ。……さて、それならここは一体どこだ?」
瀬多の問いに、千枝は口元に手をやって考える。
「えーっと……、太平洋のど真ん中……とかは駄目だよね。首輪を外せたら出られるし」
「……もしかして、結界が張ってあるの? それなら場所を知られても何の問題もない」
「まあ、そんなものがあるのなら当然施しているだろうな。だがそれはあくまで保険だ」
そう。イザナミが用意した呪縛はそんなものではない。結界だって壊せばそれで済むはずなのだ。絶対に破られないというわけじゃない。
「絶対に逃げられない場所。それは、逃げ場のない場所だ」
「逃げ場所がない……?」
「世界だよ」
全員の思考が一瞬止まった。
「ここは殺し合いの世界。人が殺し合うためだけに存在する世界なんだ。だからたとえ海を渡ろうと、待っているのはこの島のみってわけさ。まぁおそらく、それを知られないように何か細工はしているだろうが」
ここにいる全員が、驚きで声を出せなかった。
「ちょ、ちょっと待って! それってつまり……、ここは小さな地球ってわけ?」
「その通り。だから俺達は逃げられない。何故なら、世界を渡り歩く力も技術も、神ではない俺達は持ち合わせていないからな」
千枝は思わず放心する。咲夜は動揺を隠そうと必死だし、アドレーヌは先程から驚いてばかりいる。レミリアは無表情だが、元々脱出に関しては瀬多任せだ。大した危機感もないのだろう。
「イザナミが絡んでいる時点でだいたい想像はついていた。だが、今回の件で確信した。俺達は世界を移動しない限り、奴らの顔すら拝めない」
世界を越えて集められた参加者。国産みによって日本を創世したイザナミ。これらの要素は瀬多の推理を補強するものだった。
そして、ここにきて現れた三択の情報提供。その自信に裏打ちされた行為は、これくらいのハンデがなければまずしてこないだろう。
「主催の正体は神に他ならない。そしてここは、神が用意した殺し合いの世界だ」
有り得ない。という言葉は誰も使わなかった。
何故なら、彼らは既に有り得ないことに巻き込まれている。そして、それを実現できる神を、既に二人も知っているのだ。
瀬多の問いに、千枝は口元に手をやって考える。
「えーっと……、太平洋のど真ん中……とかは駄目だよね。首輪を外せたら出られるし」
「……もしかして、結界が張ってあるの? それなら場所を知られても何の問題もない」
「まあ、そんなものがあるのなら当然施しているだろうな。だがそれはあくまで保険だ」
そう。イザナミが用意した呪縛はそんなものではない。結界だって壊せばそれで済むはずなのだ。絶対に破られないというわけじゃない。
「絶対に逃げられない場所。それは、逃げ場のない場所だ」
「逃げ場所がない……?」
「世界だよ」
全員の思考が一瞬止まった。
「ここは殺し合いの世界。人が殺し合うためだけに存在する世界なんだ。だからたとえ海を渡ろうと、待っているのはこの島のみってわけさ。まぁおそらく、それを知られないように何か細工はしているだろうが」
ここにいる全員が、驚きで声を出せなかった。
「ちょ、ちょっと待って! それってつまり……、ここは小さな地球ってわけ?」
「その通り。だから俺達は逃げられない。何故なら、世界を渡り歩く力も技術も、神ではない俺達は持ち合わせていないからな」
千枝は思わず放心する。咲夜は動揺を隠そうと必死だし、アドレーヌは先程から驚いてばかりいる。レミリアは無表情だが、元々脱出に関しては瀬多任せだ。大した危機感もないのだろう。
「イザナミが絡んでいる時点でだいたい想像はついていた。だが、今回の件で確信した。俺達は世界を移動しない限り、奴らの顔すら拝めない」
世界を越えて集められた参加者。国産みによって日本を創世したイザナミ。これらの要素は瀬多の推理を補強するものだった。
そして、ここにきて現れた三択の情報提供。その自信に裏打ちされた行為は、これくらいのハンデがなければまずしてこないだろう。
「主催の正体は神に他ならない。そしてここは、神が用意した殺し合いの世界だ」
有り得ない。という言葉は誰も使わなかった。
何故なら、彼らは既に有り得ないことに巻き込まれている。そして、それを実現できる神を、既に二人も知っているのだ。
「ここまで言い切るとは。さすがだな、瀬多総司」
漆黒が薄く笑う。
「……そうだな。これはただの仮説。何の確証もないことは否定しない」
「だが、信じるに値する仮説だ。戦には絶対などという言葉は存在しない。そんな時に必要なのが、将の英断だ。今回の考察は、君にそれができるという証明になった。君の意見に従おう。ここは二番だ」
漆黒の意見に、反対する者はいなかった。
全員の顔を見つめ、その意を確認する。
「よし。じゃあ、二番を選ぶぞ」
瀬多は躊躇なくカーソルを二番に持っていき、ボタンを押した。
漆黒が薄く笑う。
「……そうだな。これはただの仮説。何の確証もないことは否定しない」
「だが、信じるに値する仮説だ。戦には絶対などという言葉は存在しない。そんな時に必要なのが、将の英断だ。今回の考察は、君にそれができるという証明になった。君の意見に従おう。ここは二番だ」
漆黒の意見に、反対する者はいなかった。
全員の顔を見つめ、その意を確認する。
「よし。じゃあ、二番を選ぶぞ」
瀬多は躊躇なくカーソルを二番に持っていき、ボタンを押した。
『ピンポンピンポンピンポーン! 大正解~~~!!!』
瞬間、イザナミの声が響き渡る。
『いやぁ、運がいいねぇ君。他の選択肢を選んでたら首輪爆発してたよ~』
さっと、アドレーヌが顔が蒼くなる。
「大丈夫。ただのはったりだ」
『その通りでーす! はったりでーす!』
まるでこちらの動向を察知しているかのようなタイミングでイザナミは言った。
『ちなみに、情報を教える気もありませーん! ただの時間稼ぎでーす!』
「は!? ちょ、ちょっと何言ってんのよこいつ! こっちは散々────」
「少し黙りなさい。声が聞こえない」
咲夜に無理やり口を押さえつけられ、うーうーと唸る千枝。
しかし、瀬多はじっとイザナミを見つめ、その言葉に全神経を集中させていた。
『当然だよねー。こんな重要なこと、主催者の俺が教えるわけないもんね☆ あ、怒った? ごめんごめん。まぁでも、実はヒントはあげてるんたよ。
間接キッスじゃないよ。ちゃぁんと、く・ち・う・つ・し・で☆ とある人物にだけ、だけどね。そいつを探し出して聞き出せば? まぁ、そいつも気付いているとは思い難いけどねー。所詮は小僧だから』
『いやぁ、運がいいねぇ君。他の選択肢を選んでたら首輪爆発してたよ~』
さっと、アドレーヌが顔が蒼くなる。
「大丈夫。ただのはったりだ」
『その通りでーす! はったりでーす!』
まるでこちらの動向を察知しているかのようなタイミングでイザナミは言った。
『ちなみに、情報を教える気もありませーん! ただの時間稼ぎでーす!』
「は!? ちょ、ちょっと何言ってんのよこいつ! こっちは散々────」
「少し黙りなさい。声が聞こえない」
咲夜に無理やり口を押さえつけられ、うーうーと唸る千枝。
しかし、瀬多はじっとイザナミを見つめ、その言葉に全神経を集中させていた。
『当然だよねー。こんな重要なこと、主催者の俺が教えるわけないもんね☆ あ、怒った? ごめんごめん。まぁでも、実はヒントはあげてるんたよ。
間接キッスじゃないよ。ちゃぁんと、く・ち・う・つ・し・で☆ とある人物にだけ、だけどね。そいつを探し出して聞き出せば? まぁ、そいつも気付いているとは思い難いけどねー。所詮は小僧だから』
(何だかんだと言いながら、色々教えてくれてるじゃないか)
小僧というからにはその人物は男で、おそらく高校生辺りだろう。
(……ん? 待てよ。これはひょっとして……)
『アイラブユーフォーエバー。でも俺は、ちゃぁんと人だって愛してまーす! というわけで、イザナミちゃんからの貴重な情報提供で・し・た☆』
そこでイザナミの姿は画面から消えた。
「どこまで人を舐めたら気が済むんだ。あの神は」
レミリアが毒づく。
「いや。……これは重要なメッセージだ」
必死で頭を働かせながら、瀬多は呟くように口を開く。
「アイラブユーフォーエバー。イザナミという名前。小僧。そして、口移しでヒントを与えたという言葉。わざわざ間接キスじゃないと言っているところを見ると、これは奴自身が直接ヒントを話したと言いたいんだろう」
「だから何だ? そんなことがわかったところでどうにもならないじゃないか」
「アイラブユーと言ったんだぞ。そして、続く言葉を見るに、これは人に対して向けられた言葉じゃない。人じゃない誰かに対する言葉だ。こんな回りくどい言い方、何の意味もなくするものじゃない。
このセリフは、誰か特定の人物を匂わせる言葉だ。そして、言う必要もないのにわざわざ自分の名前を明かした。これらの情報は、一人の参加者を指している」
「あ! そうか!!」
千枝が突然叫んだ。
「瀬多君のことだ! イザナギとイザナミ。世界を作った二人は夫婦だった。愛し合っていた!」
いつだったか、瀬多と二人、図書館で勉強していた時に日本神話について少しだけ調べたことがあった。自分達のペルソナが日本の神になぞらえられていることに気付いた瀬多が、興味本位で本を漁っていたのを、千枝は横で見ていたのだ。
「もしかして、クリスタルを手に入れた場所……ですか?」
「そうだ。それしかない。あそこで俺達は、思いもかけずヒントをもらっていた。そうイザナミは言いたいんだ」
イザナミの言葉がぐるぐると頭を回る。だが、何も思いつかない。
(なんだ。あいつは何を言っていた?)
小僧というからにはその人物は男で、おそらく高校生辺りだろう。
(……ん? 待てよ。これはひょっとして……)
『アイラブユーフォーエバー。でも俺は、ちゃぁんと人だって愛してまーす! というわけで、イザナミちゃんからの貴重な情報提供で・し・た☆』
そこでイザナミの姿は画面から消えた。
「どこまで人を舐めたら気が済むんだ。あの神は」
レミリアが毒づく。
「いや。……これは重要なメッセージだ」
必死で頭を働かせながら、瀬多は呟くように口を開く。
「アイラブユーフォーエバー。イザナミという名前。小僧。そして、口移しでヒントを与えたという言葉。わざわざ間接キスじゃないと言っているところを見ると、これは奴自身が直接ヒントを話したと言いたいんだろう」
「だから何だ? そんなことがわかったところでどうにもならないじゃないか」
「アイラブユーと言ったんだぞ。そして、続く言葉を見るに、これは人に対して向けられた言葉じゃない。人じゃない誰かに対する言葉だ。こんな回りくどい言い方、何の意味もなくするものじゃない。
このセリフは、誰か特定の人物を匂わせる言葉だ。そして、言う必要もないのにわざわざ自分の名前を明かした。これらの情報は、一人の参加者を指している」
「あ! そうか!!」
千枝が突然叫んだ。
「瀬多君のことだ! イザナギとイザナミ。世界を作った二人は夫婦だった。愛し合っていた!」
いつだったか、瀬多と二人、図書館で勉強していた時に日本神話について少しだけ調べたことがあった。自分達のペルソナが日本の神になぞらえられていることに気付いた瀬多が、興味本位で本を漁っていたのを、千枝は横で見ていたのだ。
「もしかして、クリスタルを手に入れた場所……ですか?」
「そうだ。それしかない。あそこで俺達は、思いもかけずヒントをもらっていた。そうイザナミは言いたいんだ」
イザナミの言葉がぐるぐると頭を回る。だが、何も思いつかない。
(なんだ。あいつは何を言っていた?)
────真実なんて虚構だ。君達が真実だと判断したこと。それこそが真実なのさ────
(……違う。一番それらしい言葉だが、何も思いつかない。このフレーズじゃない)
しかし、それ以外に奴が仄めかすように言っていた言葉などない。何かほんの少しでも違和感を覚えたフレーズはなかったか。
瀬多は長考する。しかし、いつまで経っても答えは見つからなかった。
「あ、そうだ」
五分程経っただろうか。千枝が咲夜の方を振り返った。
「みんなに教えとくべきじゃない? ほら、ゲーム機に触れたら味方が増えるってやつ」
(……ゲーム、機?)
「ああ、そうね。あんたもちょっとは頭が回るじゃない。……猿くらいの知能はあるのか」
「おいこらちょっと待て! 普通に聞こえてんぞ!! 猿くらいの知能はってなんだ! あたしは人間! 人間並みの知能しか持ってない!! つか、それ以前は猿以下だと思ってたってこと!?」
「そうね。まぁ犬くらいはあったんじゃない?」
「があああ!! むかつく!! まじむかつくこの女!!」
しかし、それ以外に奴が仄めかすように言っていた言葉などない。何かほんの少しでも違和感を覚えたフレーズはなかったか。
瀬多は長考する。しかし、いつまで経っても答えは見つからなかった。
「あ、そうだ」
五分程経っただろうか。千枝が咲夜の方を振り返った。
「みんなに教えとくべきじゃない? ほら、ゲーム機に触れたら味方が増えるってやつ」
(……ゲーム、機?)
「ああ、そうね。あんたもちょっとは頭が回るじゃない。……猿くらいの知能はあるのか」
「おいこらちょっと待て! 普通に聞こえてんぞ!! 猿くらいの知能はってなんだ! あたしは人間! 人間並みの知能しか持ってない!! つか、それ以前は猿以下だと思ってたってこと!?」
「そうね。まぁ犬くらいはあったんじゃない?」
「があああ!! むかつく!! まじむかつくこの女!!」
────これも、ゲームを面白くするためだ────
イザナミの言葉。それと同時に別の言葉が浮上する。それはイザナミのものではなく……
────最高のゲームとは、何でしょうか────
瞬間、瀬多の中で何かが符号した。
「そうだ! 確か、……確かイゴールも!」
喧嘩を始めていた咲夜達が止まる。それを止めようとしていた漆黒の騎士も、慌てていたアドレーヌも、愉快そうに見ていたレミリアも、全員が瀬多を見つめる。
「くそっ! そういうことだったのか! イゴールとの会話があったから違和感に気付かなかった。……いや違うな。イゴールとの会話の時点で、気付くべきだったんだ」
「瀬多。少し落ち着いて、私達にもわかるように説明してくれ」
漆黒の騎士にそう諭され、瀬多は慌てて頷いた。
大きく深呼吸。
(落ち着け。今は冷静になるところだ。この情報を受け、冷静に相手の真意を読むべきところだ。浮かれるところじゃない)
瀬多はそう自分に言い聞かせ、慎重に口を開いた。
「……イザナミは、この殺し合いをゲームだと言った。自分がゲームマスターだと明言した。しかし今思えば、あれは失言中の失言なんだ。イザナミからしてみれば」
ゲームマスターとはゲームの中心に位置する存在だ。その存在を通して、全員がゲーム内の役割を果たす。
「あいつは、ゲームのキャラクターが本当は喋るべきところだと言っていた。しかし、そのキャラクターはマルクという主催者だ。これはマルクの存在を軽視しているということで、そもそもあの段階で言うべき言葉じゃなかった」
自分をゲームマスターだと例えたイザナミが、マルクをゲームのキャラクターとして比喩するということは、彼がゲームの駒だということを意味する。要するに、マルクは参加者である自分達と同等の存在だと明言したことになるのだ。
しかしそれは矛盾している。何故なら、イザナミは主催者をマルクだと偽っていたのだ。自分が裏にいることを隠し、マルクこそが諸悪の根源だと思わせていた。
だからこんなところで、自分の口から自らがゲームマスターだと語ることは、とんでもなく作為的な行為なのだ。
喧嘩を始めていた咲夜達が止まる。それを止めようとしていた漆黒の騎士も、慌てていたアドレーヌも、愉快そうに見ていたレミリアも、全員が瀬多を見つめる。
「くそっ! そういうことだったのか! イゴールとの会話があったから違和感に気付かなかった。……いや違うな。イゴールとの会話の時点で、気付くべきだったんだ」
「瀬多。少し落ち着いて、私達にもわかるように説明してくれ」
漆黒の騎士にそう諭され、瀬多は慌てて頷いた。
大きく深呼吸。
(落ち着け。今は冷静になるところだ。この情報を受け、冷静に相手の真意を読むべきところだ。浮かれるところじゃない)
瀬多はそう自分に言い聞かせ、慎重に口を開いた。
「……イザナミは、この殺し合いをゲームだと言った。自分がゲームマスターだと明言した。しかし今思えば、あれは失言中の失言なんだ。イザナミからしてみれば」
ゲームマスターとはゲームの中心に位置する存在だ。その存在を通して、全員がゲーム内の役割を果たす。
「あいつは、ゲームのキャラクターが本当は喋るべきところだと言っていた。しかし、そのキャラクターはマルクという主催者だ。これはマルクの存在を軽視しているということで、そもそもあの段階で言うべき言葉じゃなかった」
自分をゲームマスターだと例えたイザナミが、マルクをゲームのキャラクターとして比喩するということは、彼がゲームの駒だということを意味する。要するに、マルクは参加者である自分達と同等の存在だと明言したことになるのだ。
しかしそれは矛盾している。何故なら、イザナミは主催者をマルクだと偽っていたのだ。自分が裏にいることを隠し、マルクこそが諸悪の根源だと思わせていた。
だからこんなところで、自分の口から自らがゲームマスターだと語ることは、とんでもなく作為的な行為なのだ。
「イザナミにアスタルテ。もはや主催者候補は完全に出揃っている。そこにマルクが付け入る隙は、まぁなさそうね」
マルクはただのピエロだ。ギャラティックノヴァを使って騒動を起こしはしたが、それ単体では何の力も持っていない。そんな者が主催者だと考えるよりは、神であるイザナミが主催者だと考えた方がしっくりくる。
しかし、それをイザナミが隠していたこともまた事実。
「自分を神と断言した時点で容易く論破されることではあるが、それでもわざわざ言う必要はなかった。つまり、イザナミはゲームという言葉を使う必要がなかった」
「何だそれは? まるでその言葉を使いたいがために、敢えてマルクを傀儡だと教えたとでも言いたいようじゃないか」
「その通りだレミリア。その通りなんだ。あの段階で、イザナミにどんな思惑があったのかはわからない。わからないが、その目的の一つがそれであることは間違いない」
「ゲームという言葉が、どんな意味を持つんですか?」
「正確に言えば、ゲームじゃない。奴は、ゲームという言葉から、“遊び”という言葉を連想させたかったんだ」
イゴールの言い回しも、今思えば不自然だった。
遊びにルールを付与したものがゲーム。そして、ゲームがこの殺し合いだと言う。
しかし、言葉の定義としては若干それは違う。遊びにもルールは存在するし、そもそもそうでなくては遊びではない。あの時は何とも思わなかったが、今思うと、その矛盾は異常なほどに際立っている。
マルクはただのピエロだ。ギャラティックノヴァを使って騒動を起こしはしたが、それ単体では何の力も持っていない。そんな者が主催者だと考えるよりは、神であるイザナミが主催者だと考えた方がしっくりくる。
しかし、それをイザナミが隠していたこともまた事実。
「自分を神と断言した時点で容易く論破されることではあるが、それでもわざわざ言う必要はなかった。つまり、イザナミはゲームという言葉を使う必要がなかった」
「何だそれは? まるでその言葉を使いたいがために、敢えてマルクを傀儡だと教えたとでも言いたいようじゃないか」
「その通りだレミリア。その通りなんだ。あの段階で、イザナミにどんな思惑があったのかはわからない。わからないが、その目的の一つがそれであることは間違いない」
「ゲームという言葉が、どんな意味を持つんですか?」
「正確に言えば、ゲームじゃない。奴は、ゲームという言葉から、“遊び”という言葉を連想させたかったんだ」
イゴールの言い回しも、今思えば不自然だった。
遊びにルールを付与したものがゲーム。そして、ゲームがこの殺し合いだと言う。
しかし、言葉の定義としては若干それは違う。遊びにもルールは存在するし、そもそもそうでなくては遊びではない。あの時は何とも思わなかったが、今思うと、その矛盾は異常なほどに際立っている。
「千枝。遊部、という言葉を聞いたことはないか?」
「え? あ、あたし!? うーん……わかんない」
突然名指しされ、慌てながらもきっぱりと千枝は言った。
「古代、朝廷で神事に奉任した役職の一つだ。その役どころを簡単に説明すると……、魂を鎮める職業」
それは、漆黒の騎士もアドレーヌも知るはずのない情報だ。何故ならこれは、日本史に関する知識がなければ知り得ないものなのだから。
「遊びという言葉の起源がそれだ。そしてそこから生まれたのが神遊び。いわゆる、神楽舞いってやつだ」
思わず漆黒の騎士がストップをかける。
「ま、待ってくれ。聞いたことのない話ばかりでついていけない。まず神楽舞いというのはなんだ?」
「別名、神楽。神座という言葉が転じた言葉で、神事を行う際に行われる歌舞だ。以前は神憑りを行い託宣することを目的としたものだったが、今では神事の際における神の奉納の舞いとされている」
全員が首を傾げているところを、千枝と咲夜だけが「聞いたことはある」といった様子で、頷いていた。
「天の岩戸伝説というものがある。太陽の神である天照大御神が岩に閉じこもり、世界が闇に閉ざされた時、天宇受女命は舞いを踊ることで岩から出すことに成功した。
その踊りが神楽、神遊びの起源だといわれている。天宇受女命の子孫、猿女君が宮中で鎮魂の義を携わっており、このことから神楽の元々の意味は招魂・鎮魂・魂振を行う為の儀式だと考えられているんだ」
「……要するに、イザナミのゲームマスターという言葉は、その鎮魂とやらを取り仕切る立場にある、と言いたかったわけか?」
漆黒が腕を組みながら呟く。瀬多は思わず微笑んだ。
「知識なしでついてくるのは厳しいんじゃないかと思っていたが、さすがだな」
「要点だけだ。話は半分も理解していない」
「それだけわかれば十分だ」
瀬多は改めて漆黒の騎士の有能さに感心した。
参加者内でもトップクラスの力を持ち、さらに頭脳明晰。
天は二物を与えるとはこのことか。
そう考え、その天に喧嘩を売ろうとしているかもしれないことを思い出して苦笑する。
「え? あ、あたし!? うーん……わかんない」
突然名指しされ、慌てながらもきっぱりと千枝は言った。
「古代、朝廷で神事に奉任した役職の一つだ。その役どころを簡単に説明すると……、魂を鎮める職業」
それは、漆黒の騎士もアドレーヌも知るはずのない情報だ。何故ならこれは、日本史に関する知識がなければ知り得ないものなのだから。
「遊びという言葉の起源がそれだ。そしてそこから生まれたのが神遊び。いわゆる、神楽舞いってやつだ」
思わず漆黒の騎士がストップをかける。
「ま、待ってくれ。聞いたことのない話ばかりでついていけない。まず神楽舞いというのはなんだ?」
「別名、神楽。神座という言葉が転じた言葉で、神事を行う際に行われる歌舞だ。以前は神憑りを行い託宣することを目的としたものだったが、今では神事の際における神の奉納の舞いとされている」
全員が首を傾げているところを、千枝と咲夜だけが「聞いたことはある」といった様子で、頷いていた。
「天の岩戸伝説というものがある。太陽の神である天照大御神が岩に閉じこもり、世界が闇に閉ざされた時、天宇受女命は舞いを踊ることで岩から出すことに成功した。
その踊りが神楽、神遊びの起源だといわれている。天宇受女命の子孫、猿女君が宮中で鎮魂の義を携わっており、このことから神楽の元々の意味は招魂・鎮魂・魂振を行う為の儀式だと考えられているんだ」
「……要するに、イザナミのゲームマスターという言葉は、その鎮魂とやらを取り仕切る立場にある、と言いたかったわけか?」
漆黒が腕を組みながら呟く。瀬多は思わず微笑んだ。
「知識なしでついてくるのは厳しいんじゃないかと思っていたが、さすがだな」
「要点だけだ。話は半分も理解していない」
「それだけわかれば十分だ」
瀬多は改めて漆黒の騎士の有能さに感心した。
参加者内でもトップクラスの力を持ち、さらに頭脳明晰。
天は二物を与えるとはこのことか。
そう考え、その天に喧嘩を売ろうとしているかもしれないことを思い出して苦笑する。
「この殺し合いは、神遊びをさせるためのもの。俺達は、世界という巨大な神楽殿の中で、神楽を踊らされているってことだ」
イゴールの定義でいえば、遊びにルールが付与されたものがゲーム。ここでいうゲームが殺し合いで、遊びが神遊びなのだとしたら。
殺し合うというルールが加えられた神遊び。それがこの殺し合いの正体。そう瀬多は考えたのだ。
「私達は、誰かの魂を鎮めるための生贄ってわけ? 要は、墓への供え物として私達の魂を必要とした」
「じゃあ、その死んじゃった人ってのは誰? すんごい偉い神様?」
咲夜と千枝の言葉に、瀬多は首を振った。
「違う。二人とも鎮魂という意味を勘違いしている。鎮魂は、決して死者に対して行われるものじゃない。元々、生者に対して行われるものだったんだ」
鎮魂、と聞いて一番に連想するのは、死者を鎮めるというものである。現在の風習では確かにその認識は間違っていないが、元々の意味合いとしては少し違う。
「日本は古来から、魂を不定着なものとしてきた。ほら、昔話でよくあるだろ。魂が身体から抜け出すって話が」
「ああ、確かに」
千枝が頷く。
小学校の図書館に置いてあるような怪談話に、そういう話がよく出てきたことを千枝は思い出していた。
おじいさんが眠っている間に魂が抜き出て、浮遊霊となって彷徨う。確かそんな話だった。
「生者であろうと、魂は出たり入ったりするものなんだ。そこで鎮魂の儀式というものがある。要は、出たり入ったりする魂を元々の身体に押し込もうっていう考え方だ。
鎮魂祭という行事があって、それは天皇の魂を体内に納め、活力を高めるために行われている。毎年の恒例行事なんだが、それほど日本人は魂を不定着なものとして見てきたんだ」
鎮魂とは、魂を鎮めるのではなく、肉体に魂を定着させるもの。それが本来の意味なのである。
「……要するに瀬多は、この殺し合いがとある肉体に魂を定着させるものだと言いたいわけか?」
漆黒の言葉に、瀬多は頷いた。
イゴールの定義でいえば、遊びにルールが付与されたものがゲーム。ここでいうゲームが殺し合いで、遊びが神遊びなのだとしたら。
殺し合うというルールが加えられた神遊び。それがこの殺し合いの正体。そう瀬多は考えたのだ。
「私達は、誰かの魂を鎮めるための生贄ってわけ? 要は、墓への供え物として私達の魂を必要とした」
「じゃあ、その死んじゃった人ってのは誰? すんごい偉い神様?」
咲夜と千枝の言葉に、瀬多は首を振った。
「違う。二人とも鎮魂という意味を勘違いしている。鎮魂は、決して死者に対して行われるものじゃない。元々、生者に対して行われるものだったんだ」
鎮魂、と聞いて一番に連想するのは、死者を鎮めるというものである。現在の風習では確かにその認識は間違っていないが、元々の意味合いとしては少し違う。
「日本は古来から、魂を不定着なものとしてきた。ほら、昔話でよくあるだろ。魂が身体から抜け出すって話が」
「ああ、確かに」
千枝が頷く。
小学校の図書館に置いてあるような怪談話に、そういう話がよく出てきたことを千枝は思い出していた。
おじいさんが眠っている間に魂が抜き出て、浮遊霊となって彷徨う。確かそんな話だった。
「生者であろうと、魂は出たり入ったりするものなんだ。そこで鎮魂の儀式というものがある。要は、出たり入ったりする魂を元々の身体に押し込もうっていう考え方だ。
鎮魂祭という行事があって、それは天皇の魂を体内に納め、活力を高めるために行われている。毎年の恒例行事なんだが、それほど日本人は魂を不定着なものとして見てきたんだ」
鎮魂とは、魂を鎮めるのではなく、肉体に魂を定着させるもの。それが本来の意味なのである。
「……要するに瀬多は、この殺し合いがとある肉体に魂を定着させるものだと言いたいわけか?」
漆黒の言葉に、瀬多は頷いた。
「こいつを見てくれ」
攻略本のとあるページを開いて、瀬多は皆に見せた。
カービィの英雄伝。ギャラティックノヴァを悪用するマルクを倒す話だった。
「ギャラティックノヴァ。何でも願いを叶えてくれる星、だそうだ」
「おいおい。そんなものがあるのなら、それこそ主催の目的なんてどこ吹く風じゃないか。これを使って叶えればそれでいい」
「それはおそらく不可能なんだ。何故なら、ギャラティックノヴァの力を使ったマルクは、カービィに一度負けている」
そう。それはギャラティックノヴァが不完全なものだという証明に他ならない。
「もしもだ。もしも、ギャラティックノヴァを肉体に見立て、そこに魂を集めていたとするならどうだ?
不定着な魂を、肉体を破壊することで完全に追い出し、本来の身体とは違う別の肉体に移し替えていたとするなら。そしてそれがギャラティックノヴァという入れ物だとするなら、こういう考え方はできないか?
主催者の目的は魂の収集。この殺し合いは、輪廻転生の世界を作るための足掛かりだと」
その言葉に全員がぎょっとした。
「世界を作る!? そんな馬鹿げたこと────」
「を、したんだろう? 女神アスタルテは」
漆黒の騎士は黙って頷いた。
「イザナミの目的ははっきり言って不明だ。しかし、アスタルテの目的はわかる。もしも彼女がこの殺し合いに一枚噛んでいるのなら、その目的は世界創世に他ならない。そうだな、漆黒?」
「ああ。確かにその通りだろう。女神は人間を滅ぼすべきだと考えているが、同時に人間を愛していた。闘争もなく、平和のみを考える人間だけが暮らせるより良い世界を作ることが、女神の目的だと考えて間違いない」
全員が押し黙る。これで、瀬多の仮説は少なくとも馬鹿げたものではなくなった。
攻略本のとあるページを開いて、瀬多は皆に見せた。
カービィの英雄伝。ギャラティックノヴァを悪用するマルクを倒す話だった。
「ギャラティックノヴァ。何でも願いを叶えてくれる星、だそうだ」
「おいおい。そんなものがあるのなら、それこそ主催の目的なんてどこ吹く風じゃないか。これを使って叶えればそれでいい」
「それはおそらく不可能なんだ。何故なら、ギャラティックノヴァの力を使ったマルクは、カービィに一度負けている」
そう。それはギャラティックノヴァが不完全なものだという証明に他ならない。
「もしもだ。もしも、ギャラティックノヴァを肉体に見立て、そこに魂を集めていたとするならどうだ?
不定着な魂を、肉体を破壊することで完全に追い出し、本来の身体とは違う別の肉体に移し替えていたとするなら。そしてそれがギャラティックノヴァという入れ物だとするなら、こういう考え方はできないか?
主催者の目的は魂の収集。この殺し合いは、輪廻転生の世界を作るための足掛かりだと」
その言葉に全員がぎょっとした。
「世界を作る!? そんな馬鹿げたこと────」
「を、したんだろう? 女神アスタルテは」
漆黒の騎士は黙って頷いた。
「イザナミの目的ははっきり言って不明だ。しかし、アスタルテの目的はわかる。もしも彼女がこの殺し合いに一枚噛んでいるのなら、その目的は世界創世に他ならない。そうだな、漆黒?」
「ああ。確かにその通りだろう。女神は人間を滅ぼすべきだと考えているが、同時に人間を愛していた。闘争もなく、平和のみを考える人間だけが暮らせるより良い世界を作ることが、女神の目的だと考えて間違いない」
全員が押し黙る。これで、瀬多の仮説は少なくとも馬鹿げたものではなくなった。
「世界創世。この仮説を前提に考えると、面白い符号が続々と出てくるんだ。たとえば、さっき説明した天の岩戸伝説。太陽の象徴である天照大御神を呼び戻すための方法が神遊びだったわけだが、元々太陽というのは生命の象徴として使われている。
それを踏まえれば、これはこういう風にもとれないか? 神遊びを行うことで、命をなくした世界を再び生命の住む場所へと変えた。要するに、生命溢れる世界の再構築。これは世界創世の構図だった」
「天の岩戸伝説に則り世界を創世する。そのための舞台役者が私達……」
聞けば聞くほど荒唐無稽な話だ。しかし、それを否定する要素はどこにもない。
「この天の岩戸伝説。一説によれば日食現象を表したものだともいわれている。そして、日食現象というのは死と再生を表す隠喩。太陽を司る天照大御神が岩戸に隠れるということは、その存在の死を意味する。それが神遊びによって生を得て、世界を再び照らし出した。
俺達参加者が滅んだ時世界は暗黒となり、また俺達の死の舞いによって天照大御神は姿を現すっていうわけだ」
岩戸に隠れた太陽。それが参加者の全滅を表している。そして、ギャラティックノヴァへと昇る魂、鎮魂こそが天宇受賣命による神遊びで、天照大御神の復活はその神遊びによって作られた世界のことを表す。
天の岩戸伝説を見立てた世界創世。それがこの殺し合いの正体。
確かにそれは、まったく矛盾なくこの殺し合いの本質を説明していた。
それを踏まえれば、これはこういう風にもとれないか? 神遊びを行うことで、命をなくした世界を再び生命の住む場所へと変えた。要するに、生命溢れる世界の再構築。これは世界創世の構図だった」
「天の岩戸伝説に則り世界を創世する。そのための舞台役者が私達……」
聞けば聞くほど荒唐無稽な話だ。しかし、それを否定する要素はどこにもない。
「この天の岩戸伝説。一説によれば日食現象を表したものだともいわれている。そして、日食現象というのは死と再生を表す隠喩。太陽を司る天照大御神が岩戸に隠れるということは、その存在の死を意味する。それが神遊びによって生を得て、世界を再び照らし出した。
俺達参加者が滅んだ時世界は暗黒となり、また俺達の死の舞いによって天照大御神は姿を現すっていうわけだ」
岩戸に隠れた太陽。それが参加者の全滅を表している。そして、ギャラティックノヴァへと昇る魂、鎮魂こそが天宇受賣命による神遊びで、天照大御神の復活はその神遊びによって作られた世界のことを表す。
天の岩戸伝説を見立てた世界創世。それがこの殺し合いの正体。
確かにそれは、まったく矛盾なくこの殺し合いの本質を説明していた。
「……その面白い符号とやらはまだあると?」
瀬多は頷いた。
「誰かが世界を創世したいと考えたとしよう。しかし、その力を持っていても必ず世界は悪い方向へ向かってしまう。人間は争いを止めず、自分の思う世界が作れない。どうにかしたい。そう考えた時に、ギャラティックノヴァを見つけた」
漆黒の騎士の目が大きく開かれる。
「……まさか」
「だがギャラティックノヴァには、悪い人間、負の闘争というものが認識できない。何故なら、それはあまりにも漠然としたもので、人によって定義が変わるからだ。ギャラティックノヴァは言葉通りにしか受け取らない。言葉という不完全な伝達手段を用いて願いを叶える。
だからたとえ正に満ちた世界を、正の気しか持たない人間を作ろうとしても、それはギャラティックノヴァが厳選したもので、自分の意に当てはまるものではない可能性があった。それを解消するには……」
「……認識、させればいい。……そうか。それが殺し合いを開いた理由。私達の闘争を、自分の世界にはいらない事象を抹消させるための……!」
殺し合い。それは時に、戦争よりも大きな負の感情と悲劇を生む。
疑心、殺意、利己心。
この場所は、確かに人間の醜さの集大成といえた。
その集大成を認識させ、あるいは自分達の価値感に合わせて厳選し、そんなことが起こらないような世界を作ってくれと願えば、理想の世界は創世される。
「実は、千枝の言っていた仮説は一見的外れなようで、かなり真実に近い仮説だったんだ」
「へ!? わ、私なんか言ってたっけ?」
「ゲーム機の機能だよ。助っ人は一体どうやって自分達を助けるつもりなのかっていう話になっただろ?
あの時、魂だけを取り出して新しい肉体に移し替えるんじゃないかって言ってたじゃないか。あれが実はこの世界自体の機能で、しかもその魂の入れ物、新しい肉体は既に決まっていた。ギャラティックノヴァという、どんな願いも叶えられるスペックを備えた星に」
図らずも、千枝はこの殺し合いの本質を突いていたということだ。
それを指摘した本人が一番驚いているようだが。
瀬多は頷いた。
「誰かが世界を創世したいと考えたとしよう。しかし、その力を持っていても必ず世界は悪い方向へ向かってしまう。人間は争いを止めず、自分の思う世界が作れない。どうにかしたい。そう考えた時に、ギャラティックノヴァを見つけた」
漆黒の騎士の目が大きく開かれる。
「……まさか」
「だがギャラティックノヴァには、悪い人間、負の闘争というものが認識できない。何故なら、それはあまりにも漠然としたもので、人によって定義が変わるからだ。ギャラティックノヴァは言葉通りにしか受け取らない。言葉という不完全な伝達手段を用いて願いを叶える。
だからたとえ正に満ちた世界を、正の気しか持たない人間を作ろうとしても、それはギャラティックノヴァが厳選したもので、自分の意に当てはまるものではない可能性があった。それを解消するには……」
「……認識、させればいい。……そうか。それが殺し合いを開いた理由。私達の闘争を、自分の世界にはいらない事象を抹消させるための……!」
殺し合い。それは時に、戦争よりも大きな負の感情と悲劇を生む。
疑心、殺意、利己心。
この場所は、確かに人間の醜さの集大成といえた。
その集大成を認識させ、あるいは自分達の価値感に合わせて厳選し、そんなことが起こらないような世界を作ってくれと願えば、理想の世界は創世される。
「実は、千枝の言っていた仮説は一見的外れなようで、かなり真実に近い仮説だったんだ」
「へ!? わ、私なんか言ってたっけ?」
「ゲーム機の機能だよ。助っ人は一体どうやって自分達を助けるつもりなのかっていう話になっただろ?
あの時、魂だけを取り出して新しい肉体に移し替えるんじゃないかって言ってたじゃないか。あれが実はこの世界自体の機能で、しかもその魂の入れ物、新しい肉体は既に決まっていた。ギャラティックノヴァという、どんな願いも叶えられるスペックを備えた星に」
図らずも、千枝はこの殺し合いの本質を突いていたということだ。
それを指摘した本人が一番驚いているようだが。
「最後の符号を教えよう。マナという言葉を聞いたことはあるか? 超自然的な力の概念で、映画やゲームにもよくでてくるものなんだが、要は世界に宿る生命エネルギーのようなものだ。日本神道ではそのマナを外来魂と言うらしい」
千枝も、マナという単語は耳にしたことがあった。
「依り代という言葉があるように、日本では古来からあらゆるものに神や精霊が宿るとしてきた。海、山、大地、太陽、といったものにな。その神や精霊のことを、総じて外来魂と呼ぶんだ」
あらゆるものに外来魂が宿る。そして、その外来魂がマナと呼ばれる生命エネルギー。この世にある全てのものは、その生命エネルギーがあって存在することができるということだ。
「あらゆるものに宿るエネルギー、力が外来魂と言うなら、こういう考え方もできないか?
俺達の肉体にもそのエネルギー、外来魂は宿っているはずだと。そして、それが俗に言われる魂であるとするなら、俺達の魂は海や大地の外来魂の代替物として使えるんじゃないかって」
魂という世界を創世するためのエネルギー。それを集めるのが、この殺し合いの目的の一つなんじゃないか。そう瀬多は言いたいのだ。
千枝も、マナという単語は耳にしたことがあった。
「依り代という言葉があるように、日本では古来からあらゆるものに神や精霊が宿るとしてきた。海、山、大地、太陽、といったものにな。その神や精霊のことを、総じて外来魂と呼ぶんだ」
あらゆるものに外来魂が宿る。そして、その外来魂がマナと呼ばれる生命エネルギー。この世にある全てのものは、その生命エネルギーがあって存在することができるということだ。
「あらゆるものに宿るエネルギー、力が外来魂と言うなら、こういう考え方もできないか?
俺達の肉体にもそのエネルギー、外来魂は宿っているはずだと。そして、それが俗に言われる魂であるとするなら、俺達の魂は海や大地の外来魂の代替物として使えるんじゃないかって」
魂という世界を創世するためのエネルギー。それを集めるのが、この殺し合いの目的の一つなんじゃないか。そう瀬多は言いたいのだ。
「……世界創世を企む者にとって、私達の魂は最高のエネルギー体ってわけね」
「神も認めない濁った魂はマナとして世界の礎にしてしまえば効率が良い。神が良しとする魂は、転生される魂の候補としてギャラティックノヴァに仕舞い込んでしまえばいい。
そうして厳選された魂と、使用者の望まぬものを認識したギャラティックノヴァに再度お願いをするんだ。より良い世界を作って下さい。……まさに大団円だな」
全員が押し黙った。
そのあまりに壮大なスケールに、皆が圧倒されていた。
天の岩戸伝説になぞらえた殺し合い。負の感情を認識させる殺し合い。魂を収集するための殺し合い。
瀬多が提示した三つの仮説。その全てが一つの目的を指し示している。
世界創世という、これ以上にない程の強大な目的を。
「神も認めない濁った魂はマナとして世界の礎にしてしまえば効率が良い。神が良しとする魂は、転生される魂の候補としてギャラティックノヴァに仕舞い込んでしまえばいい。
そうして厳選された魂と、使用者の望まぬものを認識したギャラティックノヴァに再度お願いをするんだ。より良い世界を作って下さい。……まさに大団円だな」
全員が押し黙った。
そのあまりに壮大なスケールに、皆が圧倒されていた。
天の岩戸伝説になぞらえた殺し合い。負の感情を認識させる殺し合い。魂を収集するための殺し合い。
瀬多が提示した三つの仮説。その全てが一つの目的を指し示している。
世界創世という、これ以上にない程の強大な目的を。