0193:夢、幻の如く





「ねーマミークン!少し休もうよ~っ!」
「ちっ…またかよ、勝手にしな。もういちいち待ってられねー、俺は先に行くぜ」
「お願ぁい…!置いてかないでよぉ…」
「…じゃあな」
「…マミークン…!」
「………」
「マミークゥン…」
「……くそっ!」

ヨーコのか弱く懇願するような心細い声に足を止めさせられ、さらにすがるような視線を背後からひしひしと感じ、
疲れて草むらにへたり込んで涙目になっているヨーコの元へと、苛立った様子でとぼとぼと口をとがらせながら引き返す。

「何度目だよ、休憩」
「……ごめんね。凄く足手まといだよね…」
「んなつまらねえ事言って落ち込んでる前に、さっさと休んでさっさと出発するぞ」
「うん…」

歩き慣れないアスファルトの固い地面に足の疲労を早めさせられているヨーコはたびたび休みを取らざるを得なかったが、
そのたびにマミーはグチりながらも、毎回足を止めてはヨーコのペースに合わせて律儀に休息に付き合っていた。

(ったく、こんな女置いてさっさと行っちまえばいいのに…俺らしくもねぇよなぁ…)

自分らしくないと伏し目がちに小さくため息を吐きつつも、結局ヨーコの事を放ってはおけずに今に至る。


「マミークン、結構移動してるのに…全然誰にも会わないよね?もしかしてこの世界にいるのって…ボクたちだけだったりして…」

視線を地面に向けたまま、小さなタンポポの花を人差し指でツンツンと軽く弾きつつ、小さく不安げな声でぽつりとマミーに向けて問いかける。

「…さあな。少なくとも最初に集められた広間には見た感じ百人以上いたのは事実だろ」
「そうだけど…やっぱり不安になっちゃうよ。マミークンに会えなかったら…今でも独りぼっちだっただろうし…」
「…『会えなかったら』なんて意味ねえ。現に出会っちまってるんだから」
「出会っちまってる……って事は、やっぱりボクとなんて…出会いたくなかったって…事?」
「………もう休憩はいいだろ、行くぞ」
「あ、待ってよ…!」


答えを避けるかのように背を向けてスタスタと歩き出すマミーの姿を急いで追うヨーコ。
間に流れる気まずい空気を感じ、それ以上言葉を続ける事も出来ず無言でマミーの後ろを歩く。

(…知るかよ、会いたくなかったかどうかなんて。俺にもよくわかんねぇんだから)

考えても、頭が整理できずモヤモヤが募る。
確かにヨーコを完全に足手まといに感じていて、内心ウザがっているのも事実である。
しかし、彼女を見捨ててとっとと先を急ぐという選択肢を選びたくない自分がいるのも事実。
そんなよく理解できない自分の感情をうまく把握できず、結局口数も少なくなってしまっていた。

「…わっ!?痛いじゃないマミークン!」

落ち込んでなかば放心状態で歩いていたヨーコは、無言のまま突然足を止めたマミーの背に額をボフ、とぶつけ、何事かと少し不満げに顔を見上げる。


「こんにちは、お二人さん。ちょっといいかしら?」

マミーの前には、長身で落ち着いた笑みを携えた謎の女性が何の前触れもなく突然姿を現していた。

「…何だあんた?」
「あら?ご挨拶ね?私はロビン。あなた達はどうやらこのゲームに乗ってないみたいだったから、声をかけてみたの」
「えっ…!?どうしてボクたちが…乗ってないって?」

少し警戒しながらも、目の前の女性の発言が腑に落ちず、たどたどしくもヨーコが眉をひそめて聞き返す。

「だって…フフ、どうみても並んで歩いてる雰囲気が『お姫様とその姫を護るナイト様』って感じですもの。違うかしら?」
「ナイト様ぁ!?ふざけた事言ってんじゃねえよてめえ…」

ロビンと名乗った女性の歯に衣着せぬ言いぐさにカチンと来てしまい、相手が女性といえども思わず襟元に掴みかかろうと詰め寄る。

「マミークン!?乱暴はダメッ!!」

とっさにマミーを制止しようと言葉を荒げるヨーコだが、しかしその時目の前に信じられぬ光景が映り、思わず息を飲む。

「…“四輪咲き”」

「ぐ…!!?何…ッ!?」
「手、手が生えた!!?…マミークン!!」

突如マミーの体に細い腕が四本生え、マミーの両腕関節を押さえて体の自由を奪う。

「騒がないで。素直に質問に答えてもらえたら、危害を加える気はないわ」
「ぐっ…!何が目的だてめえ…!」

ギリ、と歯を食いしばりつつ突き刺すように鋭い眼光をロビンに向けながら出方を窺う。

「ごめんなさいね。話が済んだら離してあげるから…少し我慢してね。あなたも下手なことさえしなければ、彼の安全は保障するわ」
「卑怯だよ…そんなの」
「知ってるわ。でも一番効果的でしょ?安全に話をするには」
「…悲しい人だね、あなた」
「…悲しい…人?」
ヨーコのその何気ない言葉に思わずピクッと小さく顔を強ばらせ、動きを止めるロビン。

「…どういう意味…かしら?」
「そのままの意味。あなたって…人を信じられない、悲しい人」
「……」
「そんな事…しなくても、ちゃんと話してくれれば、ちゃんと答えるのに」
「……」

少しの沈黙。
ロビンの考えていた予定とは違う、ヨーコからのその意外な返事を受けて…言葉を探すように目を伏せ、そして…

「ぐ…ゲホッ!…はぁ…はぁ……」
「マミークン!」

ふとマミーを見ると、彼を押さえていた四本の腕は消えていた。自由になりよろめくマミーを慌てて両手で支える。

「フフ、やりにくいお嬢さんね…悪かったわ。貴女の言う通り、普通に聞く事にするわ…」

何か思うところがあったのか…意外にもロビンは素直にヨーコの言葉を受け入れ、
マミーを自由にした後に『悪かったわ』との言葉を表すかのような、少し困ったような微笑を浮かべて言葉を連ねた。

「…イヴって子、知らない?」

さらに予想外な、このようなゲームの中では極めて普通であり人道的な『人探し』の質問をロビンが…
目の前の『危険な人物』かと思われた女性が投げかけてきた言葉に、違う意味で面食らってしまい、拍子抜けしたように肩の力が抜ける二人。

「イヴ?…知らない。私たち、今まで他には誰にも会ってないから。そうだよね?」
「……ああ」

マミーに同意を求めようと顔をのぞき込み、マミーも未だ完全には警戒は解いていないが小さく首を縦に振る。

「そう……ならもういいわ。じゃあね」
「…待ちな、こっちにもあんたに質問がある」
「…?何かしら?」
早々と二人に背を向けようとするロビンにマミーが顔を上げて太い声で問いかける。

「あんた…ゲームには乗ってねえのか?」
「……私には難しい質問ね。イエスかノーかで答えるなら…多分イエスになると思うわ」
「煮え切らねぇ答えだな。『殺し合う』つもりは無いんだな?」
「…ええ。死ぬつもりは無いけれど、向こうがその気でない限り…命は取ったりするつもりは全く無いわ」
「……向こうがその気なら…殺す事も躊躇わねえ、って風にも聞こえるけどな」

両者の間に一瞬走る緊張。
ヨーコはその緊張感に飲まれてしまい、口を挟めない。

「…まあいい。なら聞くが……そこの茂みに隠れてる奴は、あんたの知り合いか?」
「あら、バレてたのね」

マミーが指差した先の腰くらいまでの高さの茂みに『えっ!?』といったような驚きの顔で視線を向けるヨーコ。

「…悪いが、やっぱりあんたは信用ならねえな。『普通に聞く事にする』ってんなら…そんな布石を打つような真似、するもんじゃねえ」
「そんなつもりは無かったの。言うタイミングが無かっただけよ…スヴェン、出てきていいわよ」

茂みに顔を向けて冷静な声で姿をまだ見せていない人物を呼ぶロビン。

「……」

「……?スヴェン?」


しかし…出てこない。
マミーとヨーコはともかく、ロビンさえも困惑の眼差しを向ける。

「…私の言う事が、聞けないの?」


「……ああ。そんな言いぐさじゃあ…いくらレディーの願いとはいえ、素直に聞く気にはなれないな」
「!!?」

ガサ、と草の擦れる音を立てて姿を現した一人の男…スヴェン。
しかし滅多に取り乱したりはしないロビンには珍しく、
動揺が隠せずに冷や汗を額に浮かべて『信じられない』といった驚愕の表情で、その返事をした男に目を見開く。

「…話は聞かせてもらった。しかし腑に落ちないな…何故俺はこんな所にいるんだ?それに…」

紳士さを象徴するような帽子をクイ、と指で上げ、ロビンに真っ直ぐに視線を投げかける。

「あんたにはいろいろと聞きたいことがあるが……なんでイヴを探している?」


ロビンは現在のスヴェンの様が全く理解できず、返答できずにただスヴェンの顔を眺めながら頭を整理し続ける。

(何故!?降魔の剣の効力が消えてしまったというの!?…理由は分からないけれど、そうとしか考えられない!)

「えっと…どういう事?マミークン?」
「…知るかよ」

二人には事態が全然把握できない。
頭に?マークを付けたヨーコとマミーは顔を見合わせてロビンとスヴェンの二人の様子を窺う。

「確かあんた…ロビンって言ったか?あんたと戦って、宇宙人みたいな奴があんたの加勢をしたせいで剣みたいな物で斬られて…」

「…そして、貴方は私の…『仲間』になったのよ」

そこで初めて重い口を開くロビン。

「仲間?どういう事か全部説明してもらいたいな」

「…いいえ、その必要は無いわ。もう仲間じゃないみたいだから…さよなら、紳士サン」

表情を隠すように全員から顔を背け、足を踏み出す。

「おい!ちょっと待て!」

「…そうだ、最後にお嬢さんに忠告しておくわ」
「…え?」

表情を見せず背を向けたまま足を止め、ヨーコに対して話しかける。

「そのケース、そんなに大切そうな物…不用心に持ち歩くべきじゃないわ。じゃなきゃ…」


ヒョイ

「あっ!!?ボクの…!!」

地面に腕が生え、ヨーコが右手に下げていたアタッシュ・ウエポン・ケースを素早く奪うと、
空中で弧を描きロビンの元へ飛んでいって両腕でキャッチする。

「じゃなきゃ…私みたいな人間に、盗まれちゃうわよ?」

「か!返してよ!ボクのだよ!!」
「おい…待て、そいつはオレの相棒だ!」

ケースを見るなり、スヴェンも口を揃えて所有権を主張する。

「じゃあね」

それだけポツリと呟くと、軽やかに駆けていくロビン。
三人が追おうとするが既に周辺からロビンの気配は消え、取り残された三人は追跡を諦めざるをえなかった。



「…いったい、何がどうなってやがる?あんた、あの女の仲間じゃなかったのか?」
「悪いが、オレにも現状がよく理解できない」
「???…さっぱり分かんないよ。何がどーなってるの!?」

スヴェンに詰め寄る二人だが、当のスヴェンにも説明のしようがなかった。

マミーとヨーコを発見して接触を試みる前、ロビンの命でスヴェンはもしもの時に援護できるようにそばの茂みに隠れていた。

しかし偶然にもそのすぐ後、降魔の剣による妖怪化の効力が消失して本来の意識が戻り、
はっきりしない意識のままでスヴェンは三人の会話を聞きながら様子を見ていたのだ。

降魔の剣自体が既にラオウの手により砕かれていたためか、それとも主催者による不思議な制限を受けて効力が弱まっていたためか…
とにかく、その呪縛は既に完全に解けていたのだ。
しかし妖怪化していた間の記憶は無く、自分に起こっていた出来事は全く覚えていない。

「まあとにかく…オレは彼女を追う。あのケースは元々オレの持ち物だし、それに…」
「そうだったの!?…それに…何?」
「……」

「…泣いてるレディーを追いかけるのは、男の義務だからな」





「……行っちゃったね。一体何だったんだろう、あの二人?」
「さあな。こっちには関係ねえ事だ。関わるのもゴメンだしな」
「…冷たいんだね、マミークン」
「……」

不愛想に吐き捨てるマミーの言葉に口を膨らませて反抗するが、マミーからは相変わらず気の利いた返事は無い。


「…ったく、ほら行くぞ、ヨーコ」
「!!!?」

不意に名を呼ばれ、全身が固まるヨーコ。
「ん?何だ?」
「………うんッ!!さ!行こッ!!マミークン!」
「…?何なんだよ…」

いきなり上機嫌になったヨーコに疑問を持つも、特に気にする事も無く再び道を進み始める。

(やっと…マミークンが名前で呼んでくれたよ!るーしぇクン!)

そんな他愛もない小さな喜びを胸に宿し、彼女も再びその足を踏み出した。


「『ヨーコお姉さん』って、呼ばなきゃダメだよ!マミークン!」





【茨城県/昼(放送前)】
【マミー@世紀末リーダー伝たけし!】
 [状態]健康
 [装備]フリーザ軍戦闘スーツ@DRAGON BALL
 [道具]荷物一式(食料・水、一食分消費)
 [思考]1:ヨーコを信頼
    2:たけし・ボンチューと合流

【ティア・ノート・ヨーコ@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
 [状態]移動による疲労
 [道具]荷物一式(食料・水、一食分消費)
    大量の水が入った容器
 [思考]1:マミーを護ってあげたい
    2:るーしぇ(D・S)と合流

【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
 [状態]健康
 [装備]千年ロッド@遊戯王
    アタッシュ・ウエポン・ケース@BLACK CAT
 [道具]荷物一式(二人分)
 [思考]1:逃げる
    2:アイテム・食料の収集
    3:死にたくない

【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
 [状態]疲労(妖怪化から回復)
 [道具]荷物一式(支給品不明)
 [思考]1:ロビンを追う
    2:トレイン・イヴ・リンスと合流

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65:Scar Face マミー 248:日輪の如く、巨星の如く
65:Scar Face ティア・ノート・ヨーコ 248:日輪の如く、巨星の如く
110:生き残るために ニコ・ロビン 209:掃除屋達の慕情【前編】
110:生き残るために スヴェン・ボルフィード 209:掃除屋達の慕情【前編】

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最終更新:2024年02月06日 03:13