鉄道 (平井喜久松,岩波書店,1936年 第1刷,1949年 第7刷) > 第一編 鉄道線路 第一章 線路一般

『鉄道』平井喜久松の著書で,岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行された。
このページには「第一編 鉄道線路 第一章 線路一般」を収録。

目次


第一編 鉄道線路 (p. 4)

第一章 線路一般 (p. 4)

§1. 総説 (p. 4)

1. 鉄道線路 (p. 4)

列車または車輛の通路の総称であって,軌道(track)とこれを支持するに必要な路盤,構造物を包含している地帯を言うのである。
軌道は軌条,枕木および道床から成り立っている(第1図)*1


2. 法規 (p. 4)

鉄道線路および運転保安に関する主たる法規は次の如きものである*2
第1表
国有鉄道 地方鉄道 軌道 (道路に敷設した鉄道)
建設規定 建設規定 建設規定
軌道整備心得 運転信号保安規定 運輸規定
運転規定 運転保安規定
信号規定

3. 建築限界 (p. 4)

車輛の運転に支障のないように,軌道上に一定の空間を保たせるために設けられた限界を建築限界(construction gauge)と言い,種々の建造物はこの限界内には造ってはならないと言う制限を与えるものである。その大きさは運転する最大車輛の外側に相当の余裕空間を存したものである(第2図)*3


第2図 建築限界 (単位 mm)
凡例

一般の場合に対する限界
— - - - - — 架空電車線により電気運転をなす区間において架空電車線およびその懸吊装置を除きたる上部に対する限界(本限界は橋梁,隧道,雪覆,跨線橋およびその前後において必要ある場合には — - - — - - — をもって示す限界まで,乗降場上家庇の部分において必要ある場合には — xx— xx— をもって示す限界までこれを縮少し,また停車場構内において必要ある場合には — - - - — - - - — をもって示す限界までこれを拡大するものとす)
-|-|-|-|-|-|-|- 乗降場または荷物積卸場に対する限界
—●—●— 信号標識並びに特種の隧道および橋梁に対する限界
—○—○— 遷移転轍器に対する限界
* * * * * 側線および貨物列車のみの発著する本線路において架空電車線支持柱を側線において構内照明灯支持柱を四線路以上毎に建つる場合に対する限界(本限界は既設停車場において一般の場合に対する限界によること困難なる如き場合に限りこれを適用す)
+ + + + + 側線および貨物列車のみの発著する本線路において燃料搭載,給水の設備および信号柱に,側線において転車,計重,洗車の設備車庫の門路およびその内部の装置並びに軌道間に建つる荷物積卸上家の支柱に対する限界
— — — — 転轍器および轍叉に対する限界
— x— x— 歯軌条に対する限界
第2図 建築限界 (単位 mm)

4. 路盤および施工基面 (p. 6)

路盤(road bed)とは軌道を支うるために天然地盤を加工して造った路である。
施工基面(formation level,略字 F.L.)とは線路の中心において路盤の高さを示す基準面である(第3図)*4

施工基面の幅は我国では建設規定で定められ(第2表),路盤の横断形状は土工定規で示している(第4図)*5


第2表 施工基面幅

国有鉄道 築堤高 施工基面幅B (mm)
甲線 乙線 丙線 簡易線
6m未満 4,800 4,500 4,200 3,800
6〜9m 5,100 4,800 4,500 4,100
9〜12m 5,400 5,100 4,800 4,400
12m以上 5,700 5,400 5,100 4,700

曲線軌道の場合,下の寸法だけ外方へ増加する
甲乙丙線 カント 50mmを超えない場合 100mm
 〃  50mmを超える場合 300mm
簡易線 カント 40mmを超えない場合 100mm
 〃  40mmを超える場合 200mm

地方鉄道 軌間 0.762m 3,020mm以上
1.067m 3,660mm以上
1.435m


5. 軌間 (p. 7)

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軌条頭部の最短距離を軌間(gauge)と言う。
軌間には広軌狭軌の別がある。我国においては国有鉄道の軌間は 1.067mであって,これを狭軌と称し,1.435mのものを広軌と呼んでいる。しかし諸外国では 1.435mを標準軌間(standard gauge)と称し,これよりも大なるものを広軌(broad gauge),小なるものを狭軌(narrow gauge)と呼んでいる*6
広軌および狭軌の各利点の主なるものは次の如くである*7
第3表
広軌 狭軌
1) 機関車大きく重心を下げ得るから高速度で運転できる。 1) 建設費,用地費が少額である。
2) 輸送力大である。 2) 急曲線を回り易いから自由に建設費の少なる路線を
選定し得る。
3) 列車の安定を増し動揺を少なくすることができる。
4) 車輪を大きくし得るから回転数少く走行距離を
大にすることができるから車輪の損傷が少ない。

6. 線路の長さ (p. 8)

中心線に沿う水平距離を言う。単位は国によってメートルまたはマイル,チェーン式を用いている*8
  • 日本,ドイツ,フランス:メートル式(例 59km 355.16m)
  • 英国,米国:マイル,チェーン,リーグ式(例 59M 51C 95L)

7. 曲線 (p. 8)

曲線は普通円曲線を用うる。一般にその曲度は曲線の半径をもって表す(例R = 300mの曲線)。ただし米国等では 100フィートの弦を挟む中心角をもって表す(例 3°curve)。
曲線半径と中心角との関係(第6図)
&html(<span style="margin-left: 10em">R = 50 / sin(1/2)d ‥‥‥‥(フィート)
円曲線にはその組合せによって次の3種がある(第7図)*9
  1. 単曲線(simple curve)
  2. 複心曲線(compound curve)
  3. 反向曲線(reversed curve)
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曲線半径の最小限度は軌間,車輛の固定軸距,列車の速度等によりて異なるが鉄道省では次の如く定めている*10
第4表の1 曲線半径の最小限度
甲線 (m) 乙線 (m) 丙線 (m) 簡易線 (m)
本線路 300 (400) 250 200 160
本線路の分岐附帯曲線 160 160 100 100
本線路のホームに沿う部分 500 400 300 200
側線 100 100 100 100

反向曲線ではその方向急変のため,列車運転上円滑を欠くからこの間に相当の直線を挿入する必要がある。本線路では緩和曲線の間に 10m以上の直線を挿入する(第8図)*11


8. 勾配 (p. 9)

勾配は水平距離と高低差との比をもって表す。
我国では水平距離 1000に対する高低差即ち千分率(例 10‰勾配)で表す。ただし英国では高低差1を分子とし,これに対する水平距離を分母とする分数(例 1/100勾配),米国では水平距離 100に対する高低差即ち百分率(例 1%勾配)で表す。前進方向に上っている勾配を上り勾配,下っているものを下り勾配と言う*12

第4表の2国有鉄道における勾配の制限 (‰)
停車場外 電車専用線
(甲,乙,丙線に共通)
停車場内
甲線 乙線 丙線および
簡易線
最短分岐器および
列車停車区域内
車輛の解結をなさず,
かつ列車発著に支障なき場合
25 特別の線路 25 特別の場合
10 30 35 35 3.5 10 15
側線では,3.5。ただし車輛を留置せざる場合はこれによらなくてもよろしい。

9. 軌道の中心間隔 (p. 10)

並行している2つの軌道の中心間の距離を中心間隔と言う*13


§2. 構造物 (p.10)

1. 築堤,切取 (p. 10)

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左右の斜面を法(ノリ)と言い,その勾配は(水平距離:高さ)で表し,これを何割何分と言う。例えば(水平距離:高さ)が(1.5:1)のものは1割5分と言う。築堤の法は土の場合は普通1割5分,切取の法は普通1割である。

築堤は沈下するから餘盛を行う(第10図)。

法面の保護は普通築堤では筋芝を施し,切取では張芝を施す。普通築堤の法尻,切取の施工基面両側に線路の排水をなすために側溝(side ditch)を設ける(第4図)*14

2. 石垣,擁壁 (p. 11)

主として築堤,切取における土砂を支えるために設ける。また時には河川に面している築堤を防護するためにも設ける(第11図)。
材料によって分類すれば次の如くである。
  • 石垣:間知石垣,割石積,玉石積(各々空積,練積の2主がある)。
  • 擁壁:煉瓦造,コンクリート造,鉄筋コンクリート造,木造,鉄矢板造

練積石垣,コンクリート擁壁等では壁の背面から表面を貫通する排水孔を所々に設けることが特に必要である*15

3. 伏樋 (p. 11)

鉄道線路が用水路,悪水路その他小なる水路を横断する場合の径間90cm未満のものを伏樋と称する。伏樋には土管,開渠,暗渠,架樋,サイフォンの5種がある*16

土管は一種の陶器であって直径20cm〜45cm,長さ61cmのものを普通とする(第12図)。近来鉄筋コンクリート管が使用せらるるに至り,直径も相当大きいものができてきた。何れも承口を上流に向けて伏設する*17

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開渠は水路に施工基面からあまり深くない時に用い,石造,コンクリー造,煉瓦造のものであって,径間45cm以上の場合は古軌条桁または小さなI形桁を架ける(第13図)*18

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暗渠は築堤高が高き場合に用うるもので,函渠と拱渠との2種がある。構造はコンクリート造,煉瓦造等がある(第14図)*19

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架樋は水路が線路の施工基面よりも高く建築限界外にあるときに用うるもので,構造は木造,古軌条造,鉄筋コンクリート造等がある(第15図)*20

サイフォンは浅い切取の場合に設けるもので,構造は煉瓦造,鉄筋コンクリート造等がある(第16図)*21

4. 溝橋 (p. 13)

鉄道線路が河川,道路,他の鉄道等を横断する場合に設けるもので,便宜上台面間の距離0.9m以上5m未満のものを溝橋(culvert)と呼ぶ。
溝橋には伏樋の場合と同様に開渠暗渠との2種類がある。開渠には普通I形桁(I beam),槽状桁(trough girder)等を架渡する。暗渠に函渠とアーチの2種あることは伏樋の場合と同様である*22

5. 橋梁 (p. 13)

溝橋と同様の目的をなすために設けるもので,橋台面間の距離5m以上のものを橋梁(bridge)と言う。
橋梁は用うる材料によって木橋,鉄橋,鉄筋コンクリート橋,石工橋等に分類されるが,なお架設の目的,位置等によって分類すれば次の如くである。
  1. 鉄道橋(railway bridge)- これは鉄道線路が河川等を横断する場合架設する橋梁である*23
  2. 避溢橋(flood opening)- これは洪水の氾濫地内に線路築堤のある場合,氾濫した水の疎通を計るために設ける橋梁である*24
  3. 水路橋(aqueduct bridge)- これは河川の下を鉄道線路が横断する場合に線路上に架する通水のために設ける橋梁である*25
  4. 跨線道路橋(highway bridge over railroad)- これは鉄道線路上を越える道路用として架設する橋梁である*26
  5. 跨線橋(over bridge)- これは停車場構内等において,単に人のみが往来するために設けるものである*27
  6. 架道橋(railway bridge over road)- これは道路の上を鉄道が通る場合,道路を跨いで架せられた鉄道橋である*28


また構造によって分類すれば,
1) 桁橋(plate girder bridge)- これは支間8m〜30mの場合に用いられる(第18図)*29



2) 構橋(truss bridge)- これは支間30m以上に用いられ,我国における最大のものは支間93mである。鉄道橋には一般にプラット・トラス,ワーレン・トラス等を用いる(第19図)*30


3) 連続桁橋(continuous girder bridge)- これは1連の桁または溝桁が2径間以上に互つて架設されるもの(第20図)*31

4)片持梁式桁橋(cantilever bridge)- 連続桁橋構造において中途にヒンジを入れた橋梁(第20図)*32



5) アーチ橋arch bridge)- これは石造,煉瓦造,鉄筋コンクリート造,鋼アーチ等があり,相当大きな径間にも用いられるようになった(第21図〜第24図)*33





6) 吊橋(suspension bridge)- これは我国では鉄道橋にあまり用いられないが,米国では長径間の場合に用いた例がある*34

7) ラーメン - これは所謂 Rahmen と称し,鉄筋コンクリート施工法の発達に伴って近来盛んに用いられる(第25図)*35


8)可動橋(movable bridge)- 巨大な船舶の通る河川等に設けるもので,上部構造の動き得るもの。これは bascule,lift,swing等の種類がある(第26,27図)*36

軌道と桁との関係的位置からは,上路橋(deck bridge),中路橋(half-through bridge),下路橋(through bridge)の3種に分ち,また線路の数により単線橋(single-track bridge)および複線橋(double-track bridge)の2種に分たれる*37



6. トンネル (p. 20)

鉄道線路が山間を経由する時,規定の勾配で山岳を越ゆる事ができない場合に,これを貫通して線路を設けたものをトンネル(tunnel)と言う。普通切取の深さは20m以上になるとトンネルをうがつを得策とする。鉄道トンネルの横断面の大きさは建築限界を基準とし,これに電灯,電線の添加等に必要な余裕を見込んだものを含む隧道規定で定められる。これに甲型,乙型,新中間型等の種類がある*38


参考文献

(著者・編者の五十音順)

書籍
  • 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行

辞典
  • 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版


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更新日:2010年12月07日

最終更新:2010年12月07日 18:33
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*1 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 4

*2 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 4

*3 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 5,6

*4 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 6

*5 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 7

*6 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 7

*7 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 7

*8 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 8

*9 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 8

*10 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 9

*11 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 9

*12 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 9,10

*13 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 10

*14 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 10,11

*15 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 11

*16 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 11-13

*17 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 12

*18 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 12

*19 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 12

*20 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 13

*21 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 13

*22 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 13

*23 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 13

*24 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 13,14

*25 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 14

*26 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 14

*27 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 14

*28 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 14

*29 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 14

*30 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 14,15

*31 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p15

*32 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 15

*33 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 15

*34 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 15,16

*35 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 18

*36 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 18

*37 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 20

*38 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 20,21