第2回口頭弁論期日(2009年10月7日):被告準備書面(1)


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第2回口頭弁論期日(2009年10月7日)
陳述書面:被告準備書面(1)
http://watashinim.exblog.jp/10324862/


平成21年(ワ)第19716号
原告 金 光翔
被告 株式会社新潮社 外2名

準備書面(1)

東京地方裁判所
  民事第5部合議係 御中

平成21年9月30日

上記被告等訴訟代理人
 弁護士 岡田 宰 
  同  広津 佳子
  同  杉本 博哉


第1 本件記事の「公共性」.「公益性」

1 原告は岩波書店の社員であり、その意味では一私人である。

 ところで、本件記事にもあるとおり、自らの刑事第一審判決を機に幅広く執筆活動を始めた被告佐藤優が、今や論壇を席巻する勢いの存在であることは周知の事実である。

 こうした中、原告は雑誌「インパクション」160号に自ら実名で投稿し、論壇の上述した状況を「佐藤優現象」と名付けた上、こうした「佐藤優現象」の下、「硬直した左右の二項対立図式が打破され、論壇が化学反応をおこし、改憲後の国家体制に適合的な形にりベラル・左派が再編成されていくプロセスである」とし、この現象を批判的にとらえる35頁に亘る論文を発表し、公的論争に自ら実名をあげ参加した。

 このように、公的な論争に自ら参加し、それによって同時に批判にさらされる「危険」を引き受けた原告も「公的人物」である(松井茂記大阪大学名誉教授も、「ニューヨーク・タイムズ判決の法理の再検討」(民商法雑誌)で、「一足の公的論点にみずから自発的に身を投じた「限定的公的人物」であり、この場合には、その公的論点との関わりで限定的にのみ公的人物と認められる。『自発的限定的公的人物』と呼ばれる」としている)。

 以上のとおり、「公的人物」と化した原告のこの公的論争にかかわる報道は、公衆の正当な関心事として「公共の利益に関する事実」として「公共性」がある。


2 又、本件記事掲載の目的は、原告の上述した公的論争と関係づけられた、原告の論文の内容、原告の経歴、原告の岩波書店内における立場等を報ずることにあり、これと無関係な原告の人身攻撃にあるのでないことは明白であるから「公益性」がある。


第2 本件記事の伝える意味

1 訴状・請求原因・第2・2・(1)について

 本件記事のこの部分は、「“反総連の記事はけしからん!”、“なぜ佐藤を連載に使うのか!”などと抗議をしたり」とあるとおり、原告が主張するように、原告はこれまで被告佐藤の多くの論点に関する発言を問題とし、「世界」編集部に抗議をしてきた。そして、本件記事は、このうち朝鮮総連に対して批判的な立場をとる佐藤の発言に対する原告の抗議をその例証の一つとしてとりあげ報じたものである。このことは、本件記事中の「などと」という表現よりしても明らかである。

 「一般読者の普通の注意と読み方」からすれば、この部分を原告の「世界」編集部に対する抗議内容の全てとしてはとらえるものではなく、あくまでも原告の抗議内容の一例示としてとらえるものであることは明らかである。

 よって、この部分はそもそもなんらの原告の社会的評価を低下させるものではなく、名誉毀損性はない。

2 訴状・請求原因・第2・2・(2)について

(1)「世界」編集長も(原告を)「持て余し、校正部に異動させたのです」とある部分が、原告の社会的評価を低下させるものであることは認める。


(2)しかしながら、この部分は真実もしくは真実と信ずべき相当な理由がある。

 原告は自ら、2006年12月6日に異勅願を「世界」編集長に出したのであるから、本件記述は事実に反しているとする。被告も、原告が異動願を出していたことは耳にしていた。然しながら、従業員が「異動願」を出せば必ず希望どおり異動になるものではないことは改めて言及するまでもない。
 
 原告が異動させられたのは、自ら「異動願」を出したからではなく、それまでの原告の言動(なぜ佐藤を連載に使うのかとして「世界」編集部に抗議をしたことなど)を編集長ももて余したからである。


(3)又、原告は、原告が「ブログ」を開設したのは2006年12月4日であるから、ブログによって原告が異動させられたという記述も事実に反する旨主張する。

 しかし、ブログに関する本件記事の記述は、「世界」編集長が原告を持て余した理由の例示の一つとして掲載されているにすぎない。

 ブログの内容が持て余した理由の一であろうとなかろうと、そのこと自体は原告の社会的評価にかかわるものではない。この部分の真実性・相当性の立証の対象は、原告の言動を「世界」編集長が「持て余し異動させた」のかどうかの点であると考えるべきである。


3 訴状・請求原因・第2・2・(3)について

(1)馬場公彦氏が原告の直属の上司ではなかったことは事実である。

 然しながら、本件記事も馬場氏のことを、「原告の直属の上司」とは記述しておらず、単に「原告の上司」と記述しているにすぎない。一般に組織上本人より上の職位についている者のことを広く「上司」と総称することもあるから、この部分はなんら事実に反するものではない。
 

(2)又、馬場氏が原告の直属の上司であろうが、なかろうが、そのことは原告の社会的評価になんらかかわりのないことであるから、その部分の記述にはなんら名誉毀損性はない。

 原告は事実と相違する記述を即名誉毀損と短絡し、曲解している。


4 訴状・請求原因・第2・2・(4)について

(1)本件記事のこの部分は、「組合報」一般が「社外秘」であるとしたものではない。原告も訴状5頁下から9行目岩波書店労働組合より抗議されたことを自認しているとおり、(脱退届を提出するまでは原告も所属していた)岩波書店労働組合が「社員として知り得た情報を無断で社外に公表する文書に引用する」ことを問題としている事実を、要約して「社外秘のはずの組合報まで引用されているのですから、目を当てられません」と記述したものにすぎない。


(2)従って、そもそも「組合報」が「社外秘」なのかどうかとか、原告が「論文『佐藤優現象』批判」の中で引用した「壁新聞」の中に「社外秘」とすべき記述が存在するのか否か、に関する原告の主張は的はずれである。

 ましてや、「馬場公彦氏と佐藤優が昵懇の関係にあることが『社外秘』である」(訴状・7頁・1行目から7行目)などとは、本件記事はなんらふれていない。


5 訴状・請求原因・第2・2・(5)について

(1)この部分は、被告佐藤の発言内容である。

 この部分の佐藤の発言は、

①私が言ってもいないことを、さも私の主張のように書くなど滅茶苦茶な内容です。

②言論を超えた私個人への攻撃であり、絶対に許せません。

③そして、『IMPACTION』のみならず、岩波にも責任があります。社外秘の文書がこんなに簡単に漏れてしまう所とは安心して仕事が出来ない。今後の対応によっては、訴訟に出ることを辞しません。

の大きく三つに分類される。

 原告は、「また、被告佐藤は、『私が言ってもいないことを、さも私の主張のように書くなど』と、論文中に、あたかも被告佐藤が『言ってもいないこと』をさも被告佐藤の主張のように書いた箇所以外にも、『滅茶苦茶な内容』の箇所があることを示唆しているが」(訴状・7頁下から5行目から3行目)、と主張する。

 然し、この部分は佐藤発言の分類①に相応するものであるが、被告佐藤は「言ってもいないことをさも私の主張のように書く」ことを「滅茶苦茶な内容」と言っているのであって、それ以外に滅茶苦茶な内容の部分があるとはなんら発言していない。被告の主張は佐藤発言の曲解に基づくものである。
 
 そして、佐藤発言①は真実である。


(2)原告は、「被告佐藤は、論文を『言論を超えた私個人への攻撃』だと主張しているが、論文は社会通念上の『言論のルール』に反しておらず、『言論を超えた』個人への攻撃ではない」(訴状・7頁・下から3行目から1行目)とする。

 この部分は、佐藤発言の分類②に対応するものである。そもそも分類②は、分類①の事実を前提とする論評であり、前提事実①の真実性ないし相当性が認められる限り、「公正な論評」として免責される。「言論を超えた」、「攻撃」などと強い表現の部分もあるが、この佐藤発言は、原告論文による佐藤批判に対する応酬であること考えれば違法性を欠くというべきである(言論の応酬の抗弁)。


(3)原告は、「また、論文によって、『社外秘の文書』が漏れたとの証拠を示しているが、前4項で述べたようにそのような事実はない」(訴状7頁最下行から8頁1、2行)とするが、この部分は佐藤発言の分類③に相応する。

 この部分は前述したとおり、岩波書店労働組合が、原告の論文を、「社員として知り得た情報を無断で社外に公表する文書に引用(した)」ことを問題にしている事実を、岩波書店の社員から「社外秘のはずの組合報まで引用され問題になっている」と耳にした被告佐藤が、その事実を前提とした所感を述べているものである。

 この部分は被告佐藤の岩波書店に対する記載を述べたもので、原告に対する認識を述べたものではないから、なんら原告の社会的評価を低下させるものではない。


6 訴状・請求原因第4・1について

(1)原告は本件記事中の「“反総連の記事はけしからん!”“なぜ佐藤を連載に使うのか!”などと抗議をした」との記述は、一般読者の普通の注意と読み方からすれば、「原告が朝鮮総連の熱心な構成員もしくは同調者であり、だからこそ被告佐藤の起用に反対し、また論文において被告佐藤を批判しているかのように、原告の「世界」編集部における編集活動および論文執筆が、公正な立場から使われたものではないと読む者をして思わせしめるものである」旨主張する(訴状8頁)

 然しながら、一般読者は本件記事の該当部分を読んだだけでは、原告を朝鮮総連の熱心な構成員もしくは同調者であるとまでは思わない。原告の主張は独自の思い込みに基づくものという他はなく失当である。


(2)又原告は、本件記事中の「世界」編集部への抗議やブログでの佐藤や斎藤貴男氏への批判の記述をとらえ、「あたかも、原告が非理性的で、自分勝手で、非常識な人間であると読む者をして思わしめる」とか、本件記事中の原告の上司も批判されているとの記述をとらえ「あたかも、原告が私怨を込めて論文を書くような人間であると読む者をして思わしめる」とか、佐藤発言の分類③をして、「あたかも原告が他人の主張を握造し、社会通念上の言論のルールを逸脱した攻撃を行う人間であり、かつ「社外秘」を社外に漏らすという、社会通念上、社会人としてふさわしくない人間であるかのように読む者をして思わしめる」などと主張する。

 いずれの点も原告の独自の思い込みに基づくものという他はなく、失当である。


(3)又、本件記事中「論文」の筆者たる原告の実名を出した上で、『岩波関係者』の発言として、F金さんは、実は現役の岩波書店の社員」、「中途で入社し、宣伝部を経て「世界』編集部に配属されました。当初は通名でしたが、何時の間にか韓国名を名乗るようになった」とある部分が原告のプライバシーの侵害である」と主張する。

 冒頭で本件記事の「公共性」に関し述べたとおり、原告は「インパクション160号」に論文「『佐藤優現象』批判」を投稿し、公的論争に自ら実名をあげ参加した。このように公的な論争に自ら参加し、それによって同時に批判にさらされる「危険」も引き受けた者は「部分的限定的公人」として、この公的論争と関係づけられた原告の論文の内容、原告の経歴、原告の岩波書店内における立場は「社会の正当な関心事」であり、またその表現内容表現方法もなんら不当ではないから、表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー侵害とはならないというべきである。


以上
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