【ひぐらしのなく頃に・怪】
「錵崩し編」TIPS(1)
[事件後の一杯]

沙都子が寝静まった夜中、私は布団から抜け出し、隠してあったボトルを出した。
ワイングラスに半分まで注ぎ、まずは匂いを確かめると自然と笑みが。
「あうあうあう……」
余計なノイズが入り、不快な色が顔に浮かんだだろう。
「今日みたいな日くらい、いいでしょう?」
私はグラスの中身を一口飲み込んだ。今度こそ笑みが浮かんだ。
月を見ながら飲む私の横に、頼りない神様が正座して座る。
「今日はお疲れ様なのです」
まったくだわ。あんなに投げ飛ばされたのは生まれて初めてよ。
木の枝に引っ掛かって命拾いしたけど、宙づりよ?宙づり!!

私はグイっと飲み干した。
しかし、この時期スネークが殺される世界が何度かあったけど、まさかあんな怪物が潜んでいたとは……。
次の世界ではスネークに注意と対策を促したほうがいいわね。
「羽入!あれはなんだったの!?雛見沢に鬼がいたっていうの!?」
「あうあう……」
「ったく……なんとか倒せたからよかったけど、死ぬかと思った」
私はニ杯目に口を付けた。
「絶妙なタイミングで雷が落ちてくれたわね。まさにサイコロの6が出たように」
「あう☆みんなが頑張って戦っていたのをカミナリさまが見ていて下さったのですね」
「…………」
「カミナリさまへ感謝の気持ちにシュークリームを5つ贈呈するべきなのですよ☆あうあうあう☆あうあうあう☆」
「ちょっと羽入、なんでカミナリさまにシュークリームなのよ」
「…………あう!!」
しまった。羽入はそんな顔をして固まった。
「まさかあんた……あんたが雷を落としたの!?そんな力を隠し持ってたの!?」
「し、知らないのです!ボクにそんな力は無いのです」
「正直に言わないと鉄拳制裁よ」
「あうあう……梨花はボクに触れないのですから、鉄拳は無理なのです」

私は冷蔵庫から、瓶を取り出した。
瓶の横には赤い文字で【激辛キムチ!鉄拳制裁!!】と書いてある。
「あうあうあう!!あうあうあうあう!!鬼!悪魔!魔女ッ!」
「そうよ、私は百年を生きる魔女」
そう言って私は、鉄拳制裁を口に放り込んだ。

【ひぐらしのなく頃に・怪】
「錵崩し編」TIPS(2)
[羽入の昔話]

「あう…あうあう…」
ひっくり返って、死にかけのゴキブリのように手足をひくひくさせている神様を無視して、私は三杯目に突入していた。
「それで……あの鬼はなんだったの?」
羽入は仰向けの間々、話し始めた。
「昔……鬼ヶ淵村の時代、鬼になった女の人がいたのです」
「鬼に……なった?詳しく話してよ」

羽入は遠い目をして話し始めた。
その昔、鈴職人の家系がおり、古手神社の大きな鈴を作ったり、お祭の時は鈴のお守りや、玩具などの出店もしていたらしい。

鈴職人には2人の息子がいて、その次男坊が村の女性と恋仲だったそうだ。
二人はとてもお似合いで幸せだった。
けれど、そんな二人を引き裂く悲しい事件が起きてしまった……。
鈴職人の長男坊が次男の恋人を無理矢理襲ってしまったのでした。
「襲ったって……?」
「あうあう……」
そう言って羽入は真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「わかった!わかったわ!話を続けてちょうだい」
たく……うぶな神様ね。何年生きてんのよ。
次男は事を知り、激怒して長男と喧嘩になってしまい、その時、事故なのか故意なのか、長男は次男を殺してしまったそうだ。
女は恋人の死に悲しみ、長男に殺意的な怨みを抱いた。
そして女は毎夜、丑の刻参りを行い、ついに鬼人と化した。
「ちょっと待って!なんで丑の刻参りで鬼になるのよ?」
「梨花は古手の家なのにそんなことも知らないのですか!?まったく……オヤシロ様の生まれ変わりが聞いて呆れ……」

私は鉄拳制裁をチラつかせた。
「はい。すいませんでしたです。説明させて頂きますです」
「よろしい」
「丑の刻参りは、人に呪いを掛ける呪術と思われていますが、鬼になる儀式なのです。白い着物姿で頭に蝋燭を立てる。あの蝋燭は鬼の角を模しているのです」

鬼人の力を手に入れた女は、長男を殺して復讐を果たし、恋人の仇を討ったのだった。
「その鬼が今回の事件の鬼だったの?」
「たぶん……そうなのです。レナの持っていた鈴は、その次男からの贈り物だったのかもなのです」
なるほど……恋人の形見を取り返しに来たわけか。
私は悲恋の話に涙ぐんでしまった。
「梨花!?泣いているのですか!?梨花にも悲劇の恋話で泣く一面があったのですね。可愛いらしいのです!レナの代わりにボクがお持ち帰りィ~♪」
私はすかさず鉄拳制裁を口に放り込んだ。

【ひぐらしのなく頃に・怪】
「錵崩し編」TIPS(3)
[なぜスネーク?]

「あう、あう…」
仰向けに倒れて、死にかけの金魚のように口をパクパクしている神様を無視して、私は四杯目に突入した。
「そういえば、灰になるまで燃えたのはどういうこと?」
羽入はよだれの着いた口を拭った。

「なんでも西洋の魔術士を雇って、満月の夜に、魔力が強くなるという大きな木に封印したそうです。でも、日本の樹木と魔力が噛み合わないらしく、雨の日になると木を肉体にして出て来てしまうそうなのです」
「ああ、そういえば昨日と今日と二日連続で雨が降ったわね。成る程、木の肉体だったのね。それでも、あんなに一瞬で燃えたりしないけど」
私はグラスから一口飲み、チーズにかじりついた。
「それで、雨の日に現れては人を殺す殺人鬼だったの?」
「人を襲うような事はしなかったみたいなのです。鬼が出たような騒ぎはなかったですから」
「あれ?じゃあスネークは何で襲われたのよ」
「……あうー」
「なによ」
「……スネークが、鈴職人の長男に似ているのです。それで襲われたのでは……」
「はいいい!?」
「たぶん、長男が生き返ったか、殺し損ねたと思ったのではないでしょうか。祟殺し編の圭一が、殺したはずの叔父がまだ生きてると知った時と同じ心境、とでも言いますでしょうか」

はあ~、スネークも不憫な人ね。よりによって長男と顔が似るなんて。
私はグラスの四杯目を飲み干した。
「さて、そろそろ寝るわよ。明日はレナのお見舞いに行かないと」
私はボトルを隠し、布団の中に入った。
「おやすみなさいなのです」
「おやすみ、羽入」

(終)

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最終更新:2008年02月20日 22:34