夕方の学校。
明日の授業の内容をまとめて、俺は職員室を出た。
やっぱり仕事が終わると気が楽だ。
鼻歌を歌いながら外に出てみる。
すると物置のほうから声が聞こえた。
「む・・・?なんだ?」
せっかくいい気分だったのに、台無しだ。
渋々物置のほうへ行ってみる。
そこにあった光景は俺の背筋を凍らせた。
「あっ、スネーク先生だ」
などと富田が言った。
彼の手には、俺の拳銃が握られていた。
いや、握られているだけならまだいい。
彼は、マガジンの入った拳銃の、コッキング部分に手をかけていた。
「とととと富田・・・そ、そんな物持って何をしているんだ・・・?」
「え?これですか?物置で見つけたから出してみたんです」
ガシャっと音がした後、富田はトリガーに指をかけた。
「いやぁ、すごいですよね、最近のモデルガンは。本物みたいに重いです」
拳銃の銃口は地面の的に向けられている。
ヤバイ。あの銃を何とかしないと、本当にヤバイ。
トリガーが引かれようとした瞬間、
「やめろ!それは俺のだ!」
と叫んだ。
富田は
「うわ!」
と驚いた後、拳銃を落とした。
「え、そうだったんですか?でも、何で先生がこんなところにモデルガンなんか置いているんですか?」
「い、いや、その、家にはそんな数の銃を置いておく場所なんてないからな、その、貸してもらっていたんだ」
富田から銃を奪って、箱に入れて、ついでに残りの銃やRPG-7などを別々の箱に入れた後、
「じゃあな富田。また明日、学校で」
と言って一目散に逃げた。
もちろん、このようなものが存在した痕跡など残さずに。
「あ、ちょっと待ってくださいよスネー・・・」
全速で走っていたので、富田の声はすぐ聞こえなくなった。
何を言おうとしていたのかわからないが、重要なことではないと決め付けて、テントまでとにかく走った。


      • 今思えば、彼の言葉を聞いていれば、こんな惨劇はなかったのかも知れない・・・。

学校から歩いて三十分。
やっとテントについた。
溜め息を漏らして座り込む。
「疲れたなぁ・・・」
学校からここまでは、普通に歩いていればそんなに時間はかからない。
しかし、銃器の入った箱を持ちながら歩いていたとすると、非常にストレスがたまる。
道を歩いていると、周りの人たちから妙な目で見られて、
人気のないところを進もうとすると、大体道に迷う。
それで元来た道を戻ると、陰口を叩いている奴がたくさんいて、また逃げるように走って。
思い出すだけでも、ストレスがたまる。
この村はうわさが広がりやすいから、俺のサバゲー好きも村中に広がっているだろう。
箱の中に入っていたのは本物の銃器だが。
「まぁここまで持ってくれば誰にも見つからないだろう」
そう自分に言い聞かせて中の銃器を全部取り出した。
すると、妙な違和感に襲われた。
俺は全部で30個の銃器を持ってきていたはずだ。
しかし何度数えても、そこには29個しか入っていなかった。
そして、実弾の入ったマガジンも、消えていた。

ない。
ない。
銃が。
俺の銃が。
慌てふためく俺。
どこにもない。
実弾の入ったマガジンもない。
挙句の果てには、実弾の箱を五個もすられているではないか。
ヤバイ。
やばすぎるぞ俺。
もしも盗んだ奴が銃を使える奴なら。
この村は血に染まる・・・
なんとしても、それだけは止めなければ・・・!
とりあえずまずは持ってきた箱の調査だ。
もしかしたら穴があいていて、そこから落ちただけなのかも知れない。
でもそれは無駄だ。
俺自身知っているじゃないか。
穴が開いていてそこから落ちたなら、かなり大きな音が鳴ることを。
だから銃がなくなっているならば、そいつは倉庫の中に侵入し、盗んで行ったということだ。
今日唯一倉庫のところにいたのは富田だけだ。
じゃあ、犯人はあいつだ。
とりあえず俺の銃を取った罪として、三日間は拷問攻めだ。
そうと決まれば行動あるのみ!
一番最初の目的地はあいつの家だ!

五分間全力疾走すると、さすがに俺でも息が上がる。
まずはノックして、と。
「は~い、どちら様ですか?」
と言いながら富田の母親が出てきた。
「あの、○○くんの先生のスネークですが。○○はいますか?」
「あ、先生だったのですか。家の○○はまだ帰ってきていませんが。それがどうしたんですか?」
「あ、そうですか。○○と授業のことで話したかっただけですので。お邪魔しました」
と言った後、俺は歩き出した。
富田が家に帰ってないとすると、まだ学校にいるかもしれないな。
そう思って歩き出した瞬間。
乾いた発砲音が村全体に響き渡った。

「これは・・・!」
俺の銃に違いない。
発砲音は学校のほうからだ。
さっきの疲れなんて忘れて走り出す。
早くしないと、犯人が逃げてしまう。
運よく富田の家は学校の近くだ。
これなら三分もかからずにたどり着ける。
俺は走った。
何も考えずに、ただあの銃を撃った奴を捕まえることに夢中だった。
学校に着いたとき、あたりは静まり返っていた。
「む・・・?おかしいな・・・」
まだ夜じゃないのに、まるで人の気配がない。
とりあえず倉庫のほうへ歩いた。
その途中、ペチャっと足が何かぬれたものに触れた。
一歩踏み出すたびに、ペチャペチャっと音が。
その気持ち悪さに下を見た。
最初は誰かが水をぶちまけたのかと思った。
でも、足元には。
―――アカイ、エキタイガ、ソコラジュウニ・・・
血。
おびただしい量の血。
その血が流れ出てくるところを見ると。
うつぶせのまま倒れている子供がいた。
近づいて、ひっくり返してみる。
―――俺はこの瞬間、自分の行動に後悔した。
それは、
今日、
ここで、
一緒にいた、
富田だった。

「そんな・・・」
富田の体は冷え切っていた。
もはや血は全て抜き出ていて、何ももれてこない。
撃たれたところは、左わき腹。
ここからはかなりの量の血が出る。
出血多量のショック死もありえるが、極度の苦痛で死んだのだろう。
ガサガサッと後ろの草が揺れた。
「誰だ!」
俺は叫んだ。
その怒声はとてもヒステリックだった。
隠れていた奴はびくびく震えながら、
「ぼぼぼ僕です、岡村です」
と言った。
おそらく友達の死のショックが大きいのだろう。
ものすごい量の涙があふれている。目の前で起きた惨劇に、思考は停止した。
岡村が。
目の前で。
頭を撃たれて。
死んだ。
頭からあふれ出る血は当分止まりそうにない。
手が血に染まっていく。
何とかそのあふれ出る血を止めないと。
でも。
その前に。
あの犯人を捕まえなくては。
二人も殺した犯人を捕まえて謝罪させねば。
いや、それだけでは生ぬるい。
あいつにはこれを一生後悔するような苦痛と恐怖を与えねば。
俺の怒りは収まりそうにない・・・!
岡村の遺体を地面に置いて、力いっぱい走り出した。
目的は、あの木の裏に隠れている犯人。
ちっ、と舌打ちが聞こえた後、
「岡村の野郎・・・裏切りやがって・・・」
などと恨み言が聞こえた。
しかし、岡村はもう死んでいる。
そんなことを言っても、彼の復讐は終わっているのだ。
今更そのようなことを言っても、何も変わらない。
そんなことを考えているうちに、犯人は逃げ出した。
「待て!」
などと言ってみるが、当然止まらない。
俺も後を全速で追いかけていく。

五分が経った。
相手は一向に疲れる気配がない。
人間死に物狂いになれば何でもできると言う。
彼も今、そんな状況だろう。
そして彼の走り方から推測すると、彼はここに前からすんでいるようだ。
木のよけ方や走るルートの選び方がうまい。
さすがにサバイバル慣れした俺でも、彼を捕まえることは困難だ。
少しづつ相手が俺から離れていく。
自己嫌悪に陥りそうになった瞬間、
俺の体は中に浮いていた。
しかも相手はどんどん走っていく。
「待て!待つんだっ!止まれぇ!」
まだ走っている。
「止まれ!止まらないと俺は・・・」
なにも、できないじゃないか。
俺は誰かが設置したトラップの網の中で、無様に吊られている。
今までこんなことはなかったのに・・・
もう本当に、恥ずかしい。
犯人と怒りを忘れて、俺は自己嫌悪と恥ずかしさで一晩中そこにいた。


「ああ、岡村か」
と言い返した。
その後、俺たちは少しの間、何もしゃべらなかった。
その沈黙を破ったのは岡村だった。
「あの・・・スネーク先生・・・」
岡村は少しづつ落ち着いてきたようだ。
「む・・・?どうしたんだ?」
「あの・・・僕・・・富田を殺した犯人を・・・知っています」
「え・・・?」
少し驚く。
「だ、誰なんだ?犯人は!」
少し声を荒くする。
「実は、その犯人はクラスの中にいます・・・」
「ま、まさか・・・何でうちのクラスの奴なんかが富田を殺すんだ!?」
「それは僕にもわかりません・・・ただ犯人を知っています・・・」
「岡村、誰なんだ!?そいつの名前は!?」
「犯人は・・・ま
名前を言いかけた岡村の声をさえぎる銃声。
そして。
頭から血を出しながら。
ゆっくりと、地面に落ちていく岡村。
ゆっくりと地面は濃い真紅の液体で染められていった。

目の前で起きた惨劇に、思考は停止した。
岡村が。
目の前で。
頭を撃たれて。
死んだ。
頭からあふれ出る血は当分止まりそうにない。
手が血に染まっていく。
何とかそのあふれ出る血を止めないと。
でも。
その前に。
あの犯人を捕まえなくては。
二人も殺した犯人を捕まえて謝罪させねば。
いや、それだけでは生ぬるい。
あいつにはこれを一生後悔するような苦痛と恐怖を与えねば、
俺の怒りは収まりそうにない・・・!
岡村の遺体を地面に置いて、力いっぱい走り出した。
目的は、あの木の裏に隠れている犯人。
ちっ、と舌打ちが聞こえた後、
「岡村の野郎・・・裏切りやがって・・・」
などと恨み言が聞こえた。
しかし、岡村はもう死んでいる。
そんなことを言っても、彼の復讐は終わっているのだ。
今更そのようなことを言っても、何も変わらない。
そんなことを考えているうちに、犯人は逃げ出した。
「待て!」
などと言ってみるが、当然止まらない。
俺も後を全速で追いかけていく。

五分が経った。
相手は一向に疲れる気配がない。
人間死に物狂いになれば何でもできると言う。
彼も今、そんな状況だろう。
そして彼の走り方から推測すると、彼はここに前からすんでいるようだ。
木のよけ方や走るルートの選び方がうまい。
さすがにサバイバル慣れした俺でも、彼を捕まえることは困難だ。
少しづつ相手が俺から離れていく。
自己嫌悪に陥りそうになった瞬間、
俺の体は中に浮いていた。
しかも相手はどんどん走っていく。
「待て!待つんだっ!止まれぇ!」
まだ走っている。
「止まれ!止まらないと俺は・・・」
なにも、できないじゃないか。
俺は誰かが設置したトラップの網の中で、無様に吊られている。
今までこんなことはなかったのに・・・
もう本当に、恥ずかしい。
犯人と怒りを忘れて、俺は自己嫌悪と恥ずかしさで一晩中そこにいた。

朝。
強い日差しが俺を目覚めさせる。
どうやら誰かのトラップにつかまったまま寝てしまったらしい。
おそらく平和ボケしているのだろう。
少し背中を伸ばしてみる。
しかし、ネットにつかまったままなので、満足に動けない。
すこし溜め息を吐く。
太ももについているナイフを取って、ロープを切ってみる。
驚くぐらい簡単に切れて、あっけないなと思った瞬間、
足元にあったはずの地面が消えていた。
「なっ・・・!」
落ちながら上を見ると、そこには無数の竹やりが束になったものがぶら下がっていた。
「ひぃ!」
悲鳴が漏れた。
体をひねって竹やりと穴をかわすが、立った瞬間また違うトラップが発動した。
このトラップの連鎖・・・間違いない。
作ったのはあの北条沙都子だ。
容赦ないトラップの海は彼女の狂気さえ感じさせる。
にしても・・・
こんな数のトラップの集大成が一箇所に集まってたら、FOXも壊滅するんじゃないか?
そう思いながら爆竹トラップをよけた瞬間、
後ろに、でかくてしなった木の枝が、当たっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら吹っ飛んでいく俺。
まったく、まだあんなに小さいのに、どうやったらこんなすごいトラップを作れるんだ。
今度勧誘してみようかな?

吹っ飛んだ先は、テントから三十メーターほど離れたところだ。
もちろんあの木の枝でここまで飛んだわけじゃない。
あの後十六回連発でトラップを受けたのだ。
強い。強すぎる。
とりあえず弱った体でテントに戻る俺。
さすがに学校へは行けなさそうだ。
理由は沙都子が大半だが、昨日の放課後のこともある。
今日ぐらいは休んでいいだろう。
      • 昨日の放課後?
昨日は確か学校で部活メンバーとゲームをして、ぼろ負けしたんだっけ。
それで校長先生に呼ばれて、自分の仕事を片付けなさいって言われて。
終わって学校から出ようとしたら富田がいて、
あいつの手には俺の銃が・・・
俺の、銃?
富田と岡村?
ああ、やっと思い出した。
そうだ。
昨日、富田と岡村は殺されたんだ。
それで、俺は犯人を追いかけてて、
それで裏山に逃げ込んだあいつを追って吊られてんだ。
      • ちょっと待て。
犯人は裏山に逃げ込んだんだ。
あそこは沙都子のトラップ地獄だ。
知っている奴以外あそこに入ったら、俺みたいな結果になるはず。
でも、あいつはトラップを全て回避して、逃げ切った。
―――つまり。
犯人は部活メンバーの中にいる。
そして名前がまから始まる奴はひとりしかいない。
「前原、圭一・・・」
そうか・・・
拳銃を箱から取り、学校へ向かう。
これから圭一を説得しに行く。
ダメならば、無力化する。
抵抗するならば、そのときはその時だ。
始末すれば良いだけの事。
いつも裏切られてきた俺だ。
もう友人殺しは簡単な事になってしまった。
心は痛まない。
涙も流れない。
思い出は忘れれば良い。
英雄と呼ばれた俺は、仲間殺しの果てに作り上げられた想像にすぎない。
だから殺す。
殺らないと殺られる。
そんな世界でしか生きられない俺だ。
部活メンバーにあとで謝らないとな。
こんな俺ですまない、とな。
俺自身、この生き方は不器用だと思う。
どこかの独裁者みたいに、敵を消して。
邪魔者も消して。
いつの間にか、戦場に生き残っている。
だから不器用。
他人を殺す事でしか、生きてられない。
まるで獣の様だ。
そして殺すたびに、敵を作る。
―――いつから俺は自分の尾を食う蛇になったんだ。
無限に同じ連鎖をして、
無限に同じ直し方を実行する。
だから決めた。
銃を握るのはこれで最後にすると。
――ーあとで大佐に謝んないとな。
覚悟を決めて歩き出す。
弟と思っていた者を殺すために。

学校につく。
いつの間にか雨が降り出していた。
そしてグラウンドは、
銃殺された、死体で、いっぱいだった。
もはや雨は透明ではない。
土は紅色に染まり、そこにたたずむ者は五人。
部活メンバーだ。
しかし四人は座っている。
そして一人の手には、俺の銃が握られていた。
すべての元凶、前原圭一。
「圭一・・・」
もう手遅れだった。
放心状態になっている三人。
世界はもう終わっていると言う絶望の目で俺を見る一人。
そして笑ったまま、俺を見る、殺人狂。
「ようスネーク。どこに居たんだ?探していたんだぜ」
ククク、と笑う圭一。
「ありがとうなスネーク。こんな物を持って来てくれて。おかげで昔を思い出したぜ」
ゆらりと圭一が動く。
「あの、楽しい時をなぁ!」
銃口を俺に向けて発砲した。
即座に横に転がり、弾丸をかわす。
「やめろ!何故こんな事をする!何故お前が!」
「何故?何故だと?ふざけた事を聞くな!知っているだろう!?何故人は人を殺すのか!何よりお前がこんな物を持っているんだからなぁ!」
人がかわったように言い返す圭一。
「銃は物を殺す為にある!それがこれの唯一の存在理由!物を殺すためだけに作られ、物を殺すためだけに研究される!」
また発砲する圭一。
反応が少し遅れたのか、靴底をかする弾丸。
「お前は人を殺すのが好きなんだろう!?違うのか!?ならば何故これを持つ!?人を殺さぬ者には銃は持てない!」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!貴様には俺の事はわからない!俺の苦しみを!俺の人生を!」
連射する圭一。
走る俺。
響く銃声。
まるでここが一つの戦争の中心部のような、死の気配。
「いや・・・わかっているさ、スネーク。お前の事を・・・」
弾丸の嵐が止む。
圭一の死の気配はあり得ないぐらい大きくなっている。
―――そしてその気配は似ていた。
いや、似すぎていた。
この撃ち方。
この気配。
そして、俺をまっすぐ見つめて離さない、その眼差し。
呪ってやる、と。
それしか思っていない目は、俺にある男を思い出させた。
「お前・・・リキッド、か・・・?」
圭一の口が少しつり上がる。
「ひさしぶりだな、ソリッド。地獄から舞い戻って来てやったぞ」
そいつは、俺が殺した、同じ細胞から作られた、俺の、弟だった。
「さあ、再会しようか。この宿命の戦いを・・・!」

響く銃声。
飛び交う弾丸。
俺はもう戦場に慣れている。
ほとんどの敵は最初の五秒で死んでいるだろう。
しかし、相手はリキッドだ。
俺と同じ生き方をして、俺と正反対の人生を歩んだ男。
体はもう朽ちているが、その強靭な精神で生き返った不死身の男。
オセロットに憑いたとばかり思っていたが、まあ良い。
ようやく理由がわかったからな。
どうして圭一が狂い始めたかが。
これは俺がけじめをつけなくてはならない。
すべては俺が原因だったのだから。

「ちっ・・・!」
リキッドが舌打ちする。
慣れない体だからだろう。
動きがぎこちなくなって来ている。
しかし、それでもなお撃ち続けるリキッド。
弾丸はもはや俺に触れる事はない。
これを勝機と見て、懐に走り込む俺。
瞬間、すべてが終わった。
CQCを使い、リキッドを地面に叩き付ける。
「ガッ!」
圭一の口から血が飛び出る。
「終わりだなリキッド・・・!」
銃口をリキッドのこめかみに押し付ける。
引き金を引こうとした瞬間、
「スネー・・・ク・・・」
死んでいたと思った少年の、意識が戻った。
「圭一!?お前か!?本当にお前なのか!?」
「うるさいなぁ・・・耳元で叫ばないでくれよ・・・」
憎まれ口をたたきながら上半身を起こそうとする少年。
それは紛れもなく、本物の、前原圭一だった。
「そうだ、リキッドは!?あいつはどうしたんだ!?」
「そ・・・そいつは、今はおとなしく・・・気絶している・・・でも・・・」
また血を吐く圭一。
リキッドの精神とリキッドを殺したFOXDIEのせいだろう。
「もう喋るな!今直してやるからな!」
「いや・・・もう、ダメなんだ・・・遅すぎたんだ・・・」
「大丈夫だ!遅すぎる事なんて何もない!」
「もう・・・リキッドが目覚めようとしている・・・そうなれば俺はもう消えてしまう・・・」
俺の銃を握る圭一。
「俺が消えてしまう前に・・・せめて俺のまま・・・死なせてくれ・・・」

「な・・・」
はっきりと聞こえた。
少年は自分が消える前に。
俺の手で。
死にたいと、願った。
「馬鹿な事を言うな!リキッドが怖いならばそれ以上に強くなれば良い!自分が怖いなら同じ事が起きないように気をつければ良い!だから!」
涙を押し殺して言う。
「死にたいなんて悲しい事、言わないでくれ・・・」
今日まで本当に圭一を弟のように思って来た。
リキッドやソリダスのような戦場の兄弟ではなく、
平和な場所で一緒にいる、家族のような兄弟だと思っていた。
俺自身、FOXHOUNDから除隊した後はここに住もうと思っていた。
兵士が平和を求めて何が悪い。
ここは静かで良い場所だ。
空気は戦場と全く違って、きれいだ。
野生の動物は自由に走り回って、俺を怖がらずに近寄ってくる。
そして何より、俺は一人じゃなかった。
園崎姉妹、竜宮レナ、古手梨花、北条沙都子、そして前原圭一。
誰か一人でも欠ければ、俺の理想は壊れてしまう。
だから。
ここで圭一を殺す事は、俺自身を裏切る事に値する。
それが何よりも怖くて。
心を決めるのに、永遠のような時間がかかった。

「わかった・・・それがお前の望みなら」
俺は引き金に指を掛けた。
「さよならだ。お前と一緒に入れてよかった」
引き金を引く。
その一瞬、圭一がかすかに喋った。
「あ・・・りが・・と・う」
そして少年は息絶えた。
弾丸は圭一のこめかみを貫き、撃たれた所からは血がドクドク出ている。
誰がどう見ても、前原圭一は死んでいる。
俺は圭一をそっと下に置き、トランシーバーを手に取った。
「オタコン、聞こえるか」
「ああ聞こえるよスネーク。どうしたんだい?こんな時間に」
「作戦は失敗した。ヘリを送ってくれ、帰還する」
「えっ!?」
驚いたオタコンの声が向こうから聞こえた。
「何を驚いているんだ。人間誰だって失敗する。俺の場合、それが今日だったという事だ」
それに納得したのか、オタコンは少し黙った後、素直に
「わかったよ、スネーク。裏山のてっぺんに来てくれ。ああ、ちなみに荷物は他の隊の奴らが取っていくから大丈夫だよ」
と言った。
「ありがとうな」
とだけ言って、俺はトランシーバーを切った。
そうだ、最後に一度だけ部活メンバーに挨拶してこよう。
謝罪と、お別れを言うために。
しかし、まともに喋れそうなのは梨花だけだ。
だから梨花にだけ喋ろうとして近付いたら、
「あぅあぅあぅ・・・」
と困った声が後ろから聞こえた。
即座に後ろに振り向く。
そこには、角の生えた、見た事のない少女が居た。

「あぅあぅあぅ・・・」
「誰だ!?さっきまではいなかったはずだ!」
「え・・・?まさかスネーク・・・あなた・・・」
梨花が何か言った。
「む?梨花の友達か?クラスにはいなかったが・・・」
「スネーク大丈夫なの!?首は!?痒くない!?」
俺の首を触ってくる梨花。
ものすごい取り乱し方だ。
なぜか口調も変わっている。
「あ、ああどこも痒くない。それより、この子は?」
「何故なの?なんでスネークは羽入が見えるの?」
あの角の生えた不思議な子は羽入と言う名前らしい。
「いや、何故と聞かれても・・・彼女を見るのは今日が初めてだ」
考え込む梨花。
どうしても納得できないらしい。
「とにかく、羽入は何者なんだ?角が生えている人なんて聞いた事がないぞ?」
「それはそうよ。だって羽入は神様なんだもの」
「神・・・様?」
こんなのが?
梨花と年もあまり変わらないこの子が神様だと?
あり得ない。
しかし、梨花の表情を見ると、彼女はまったく嘘をついていない事がすぐわかる。
「その神様とやらはいったい何の神様なんだ?俺には全くわからん」
聞いた所によると、仏教はすべての物に神が居ると信じているらしい。
「羽入はここ、雛見沢の守り神よ。オヤシロ様って知っているでしょう?それの元が羽入よ」
梨花は少し黙り込んだ後、
「あなたには、すべてを話せるかもしれない・・・」
などと言った。
「えっ?何の事だ?」
「梨花!駄目なのです!そんな事に期待しちゃ!期待して裏切られたら、梨花は・・・」
「わかっているわよ、羽入。でももう疲れたのよ。何もせずに殺され続けるのは・・・!」
えっ?
梨花は何を言っているんだ?
殺され続ける?
そんな事はあり得ない。
だって梨花が殺され続けているなら、ここに居る梨花は誰なんだ?
「スネーク・・・私を信じてくれる?」
梨花は本気だ。
これから言う事はすべて本当なのだろう。
ならば俺のするべき事はただ一つ。
「わかった。それがすべて本当ならば、信じよう」
それが俺の義務なのだから。
「よかった・・・」
梨花の顔がさっきまでの絶望の顔から、笑顔になった。

「私はあと数日で殺されてしまう。これはあらがえない事実なの。私は毎回殺されるたびに羽入の力で時間をさかのぼってやり直しているの」
あと数日だと・・・?
なぜ彼女に残された時間はそんなに短いのだろう。
それではあまりにも不幸だ。
「この世界は多分もうすぐ終わってしまう。あなたには何もする事はできない。そして、次の世界のあなたはこの事を知らない」
「じゃあ、なんで今の世界の俺にそんな事を言っているんだ?全くの無駄だろう」
「いいえ、これは無駄じゃないの。羽入の力はもうすごく弱くて、私は今日の数日前ぐらいにしか戻れない。でも、羽入は人に大事な事を気づかせてくれる」
「どういう事だ?大事な事を気づかせる?」
「羽入は次の世界のあなたにこの事を教えてあげられるわ。でも、それは断片的のしか気づかせられない」
「でも、もし次の世界の俺がそれに気づかなかったらどうするんだ?」
「いいえ、あなたならきっと気づける。あなたが私を助けたいと思うなら、きっと奇跡は起きるわ」
強い目で俺を見据える梨花。
梨花を助けたいと思う、か。
「それだけで良いのか?」
「ええ、それであなたは気づく。そしてあなたの意思が強ければ強いほど、奇跡は起きやすくなる」
「だから信じてくださいなのです」
横から羽入が言った。
「僕もスネークの事を信じますです。だからスネークも僕の事を信じてほしいのです」
二人で俺を見る。
「信じるだと?フフフ・・・」
「スネーク?どうしたの?」
「あぅあぅあぅ・・・もしかして信じてくれないのですか?」
「ハッハハハハハハ!」
笑い出す俺。
「おいおい、俺が信じないと思ったか?」
「スネーク・・・」
「言っただろう?信じてやるって。俺にはお前が嘘をついてるだなんて思えない。だから俺も信じる。そして俺が言うからには、お前を死なせはしない!」
胸を張って言う。
もう誰も死なせはしない。
もう誰も悲しませたりはしない。
もう、惨劇は起こらせはしない・・・!

「じゃあスネーク、僕の手を取ってくださいなのです」
俺は羽入の手を取った。
「これだけで良いのか?」
「はい、それだけなのです」
羽入がもう片方の手を俺のにかぶせてくる。
「ちょっと妙な感じがするですけど、我慢するのです」
次の瞬間、
「うおっ!?」
地面の感覚がなくなった。
周りの景色は何か歪んだ紫色のものになり、俺と羽入以外のすべてが消えた。
しかし、次の瞬間にはすべて元通りになっていた。
「む・・・何だったんだ?今のは・・・」
「大丈夫なのです、スネーク」
羽入が言った。
「大丈夫って、何がだ?」
「次の世界のスネークにこの事を伝えられたのです。だからもう大丈夫なのです」
「じゃ俺は何をすれば良い?梨花が頼めば俺はここに居てもいいが・・・」
「いや、帰ってスネーク」
後ろから梨花が喋りだした。
「なんでだ?このままじゃ死んでしまうんだろう?ならば俺が居た方が良いと思うんだが・・・」
「私が望むのは誰も死なずに、みんなでこの夏を乗り越える事・・・だから圭一の死んだ世界は無意味なの。だから私はやり直すために、死なないといけないわ」
彼女の目は苦しそうだった。
しかし、彼女自身が死ぬ事を望んでいる。
ならば俺は無理に彼女を生かす事はできない。
「そうか・・・」
無言で俺は立ち上がって裏山の方へ歩き出す。
「じゃあな」
それだけ言って、俺は走り出した。

裏山のてっぺんに着く。
そこにはオタコンとヘリがあった。
「遅かったね、スネーク。乗って、すぐに出るから」
オタコンがヘリに乗った。
「?どうしたんだい?乗らないか?」
「・・・梯子を出してくれ」
「え?なんで梯子を?」
「良いから出してくれ。大丈夫だ、逃げる訳じゃない」
「そういうならいいけど・・・」
オタコンが梯子をたらした後、ヘリは上昇した。

上から俺は学校を見下ろした。
息を深く吸って、叫んだ。
「梨花ぁ!」
何か小さな陰が動いた。
「仲間を信じろぉ!俺はお前と羽入を信じる!だからお前も仲間を信じろぉ!そうすれば絶対奇跡は起きる!」
下から梨花が何か叫んでいるようだが、聞こえない。
「次の世界でまた会おう!」
それだけ言って、俺は空高くあがった。

それから数週間が経った。
梨花の予言通り、彼女は死んだ。
俺はそれには動じない。
だが気がかりなのは次の点だ。
「雛見沢、火山ガスにより崩壊・・・」
これは梨花の予言には入ってなかった・・・
人為的な物か、それとも本当に偶然か・・・
それとも、メタルギアが・・・
しかし、もうすぎてしまった事だ。
俺にはもう関係ない。
そこで、大佐から、通信があった。
「スネーク、アメリカでまたメタルギアが発見されたようだ。至急、現場に向かってくれ」
「了解した、大佐」
俺はまだFOXHOUNDを辞められていない。
しかし、これは自分で決めた事だ。
俺は惨劇を起こさせない。
さすがに、俺には昔に戻る力なんてない。
だから、俺はできる事をするだけ。
この世界で、もう俺のような子供は作らせない。
だから戦う。
それが梨花と約束した事だから・・・!

撃殺し編・完

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最終更新:2008年02月20日 22:21