031 ある日の京介さん

俺の名前は、高坂 京介。近所の高校に通う17歳。
自分で言うのもなんだが、ごく平凡な男子高校生である。

ってどこかで聞いたことのある出だしだが、まぁ聞いてくれ。

こ ん な こ と が あ っ た ん だ

ドタバタ続きの毎日も一旦落ち着きを見せてきたらしい。
電気を消した自室のベッドの上でボーっと光る携帯を眺めている。
知人との他愛もないメールのやり取りが
平凡な明日を迎える為の眠気を誘ってきやがった。
携帯の充電でもしとくかな・・・
・・・動くのめんどくせーな

・・・あ、返信してねーけど・・・朝でいっか・・・な・・・
まだ・・・23時・・・ね・・・み

心地よいまどろみの中、俺は眠りに落ちた。

夢ってのはどうしてこうも現実的なものばっかりなのだろう。

俺は身支度を終えて玄関で靴を履く。
家の中はお袋と桐乃が朝特有の忙しない音を立ててあちこち動き回る。
そんないつもの平日の朝って雰囲気のなか
誰に言うでもなくいつものように俺は家を出ようとした。
「・・・んじゃ いってきまーー」
玄関のドアに手を伸ばした。

「ガチャ」

勝手に開いたドアの向こうには麻奈実が立っていた。

疑問は無い。それが夢ってもんだろ?
まぁもともと幼馴染が俺の家のドアを勝手に開けたところで
大した問題にもならないがね。
学校に向かう過程は夢の中では割愛されてたな。

俺と麻奈実は学校の屋上に繋がる階段の踊り場にいた。

なぜこんなところにいるかなんて絶対疑問になんて思わないぜ?
・・・だから夢の中の話だからな?

俺は階段に腰掛けて、麻奈実は・・・そうだな
俺より一段下に腰掛けてたかな。
ちっとも窓拭きをしない曇った天窓から差し込む淡い明かりが
俺たちふたりを射していた。
麻奈実は俺の顔を下から覗き込んでにっこり笑った。
メガネの脇から見える麻奈実の裸眼は、くっきりした二重を覗かせていて
素直にかわいいと俺は思っちまった。
アイツの二重がくっきりしてるのを知ってる人間は多分、麻奈実の家族か
俺くらいだろうな。

麻奈実の頭がゆっくりと俺の下半身へと近づいてくる。
俺はもうズボンなんて履いちゃいなかった。
いつ脱いだかなんてどうでもいい。
ここは学校だとかなんて知ったこっちゃない。
たまたま見ちまった夢にいちいち突っ込みいれてもしょうがないだろ。

まぁそっからは想像にお任せするが
幼馴染にとんでもないことをさせちまった夢であることは間違いない。
だけど結論から言わせてもらうと
「めちゃくちゃ気持ちよかった」
この一言に尽きる。
至極平和で平凡な学生生活を送っている俺に
そんな「夢」のような経験なんてもちろんない。
とにかく17年間生きてきて、1度も感じたことが無い感覚を
夢の中で経験をした。

え?夢の話だけかって?

落ち着けって、これからなんだよこの話は。

まだこれが「夢」だって認識するのに
薄暗い天井を暫く見つめる時間が必要だったらしい。
そうかそうか・・・昨日は携帯いじってる間に
寝落ちしちまったんだな・・・と
まどろみから覚醒をはじめた脳ミソに
昨日の記憶が再び蘇ってきた。

夢・・・?そういえばすごくエキサイティングな夢を見たような気がする。
夢ってのは実は眠りから覚醒する直前のものしか覚えていないらしい。
そのクセ、その夢の内容を思い出すのに時間が掛かる。
俺の体には不思議にもその「夢」で得た感覚が生々しく残っている。
その残った感覚からどんな「夢」であったかを思い出してみる。

温かい。
自分以外の他人のぬくもり。
シャンプーの香り。
異性の汗の香り。
息遣い。

あぁ・・・すっげぇ夢みちったぜ。
我ながら小っ恥ずかしい夢だ。
下半身に残っている夢の名残が妙にそんな気持ちにさせた。
まさか高校生にして初めて「アレ」をしちまったのか?!
一瞬ヒヤっとした思いで
未だに重みすら感じる下半身に疑問を抱きながら
俺は布団をめくった。

「・・・?」

その時の心境を語るなら俺は何百文字にでもして綴れるだろうが
あえて割愛しよう。

そこにはほぼ裸の状態の桐乃がいた。




「・・・」
俺はとりあえず言葉が出なかった。

布団をめくられ、俺が起きたことを知った桐乃は
しばらく俺をみつめていたが、
こう言った

「兄貴、ゴメン

やっぱアタシ、

頭オカシクなっちゃったよ」





沈黙の後
俺は桐乃にこう言った







「肘・・・ももの上で立てんなよ
・・・いてぇよ」






後日、桐乃にあの日のことを聞いたら
こう思ってたらしい。


「今まで寝てたくせに何で起きてんのよ」



俺の妹はこんなにテクニシャンなわけがない

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最終更新:2011年05月20日 04:12