(隠されたNikkeijin:戦後フィリピン日系人のアイデンティティー形成)

飯島 真里子
上智大学一般外国語教育センター講師


  本報告では、1990年代になってようやく「日系人」としてのアイデンティティを確立したフィリピン日系人に焦点を当てる。南北アメリカの日系人とは異なり、戦中日本軍に占領されたフィリピンでは、残留した日系人のほとんどが戦後の激しい対日感情から身を守るため、「日本人の子孫(=日系人)であること」をひたすら隠し続けながら生きてきた。しかし、1990年に日本の入管法が改定、戦後の対比関係の改善などをきっかけに、フィリピン日系人が自らのルーツを積極的に捜し求めるようになった。
  では、なぜ近年になり、彼らは「日系人」としてのアイデンティティを確立する必要があるのか。その理由と一つとして日本への出稼ぎのチャンスの獲得が挙げられるが、本報告では経済的な理由だけではなく、政治的・社会的・歴史的な視点から以上の問いを考えていきたい。
  さらに、本報告では、フィリピン日系人の多様性についても取り上げる。フィリピンの日系人は、①戦後フィリピンに残留した人々、②終戦後フィリピンから引き揚げてきた人々、③戦後日本人とフィリピン人妻の間にできた子ども(=新日系人と呼ばれることが多い)に大別できる。フィリピン日系人自身がこの多様性をどのように捉えているのかを明らかにし、複雑化する日系人の背景が将来の日系人研究に与える新たなる視点・展望についても考察したい。

最終更新:2008年02月05日 21:02