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翻訳はnight_in_tunisia


Avoiding Liquidity Traps

Jess Benhabib
Stephanie Schmitt-Grohé
Martín Uribe

名目金利のゼロ下限を考慮に入れるとテイラータイプの金利フィードバックルールは意図せぬ自己充足的に減速的なインフレ経路をもたらし、予想のいかなるの見直しによってもマクロ変動をもたらす。これらの望まれぬ均衡は流動性の罠の本質的な特徴を表している。なぜなら、金融政策は産出と物価の安定に関する政府の目標の実現に置いて機能しないからである。この論文ではテイラールールの望ましい特徴---インフレ目標近傍での均衡の局所一意性など---を保存し、流動性の罠へと誘う収縮的な予想形成を排除するようないくつかの財政及び金融政策を提示する。

I. Introduction

近年、金利フィードバックルールの形態をとる金融政策のマクロ経済的帰結を研究する実証及び理論的研究が復活している。この再注目の原動力の一つは過去20年間に渡ってアメリカがそのようなルールに従っていると上手く説明できるという実証研究に見いだすことができる。具体的には、大きな影響を与えた Talyer (1993) が、インフレ率と産出ギャップにそれぞれ1.5と0.5の係数をかけて足し合わせた一次式として政策金利を設定するシンプルなルールに従うものとして連邦準備を特徴づけた。テイラールールはおおまかにいってインフレ率の上昇に対して中央銀行が金利を上げることを意味する、1より大きいインフレ率への係数の役割を安定化の重要な役割として強調した。彼のこの独創的な論文以降、この特徴を持つ金利フィードバックルールはテイラールールとして知られるようになった。テイラールールは他の先進国の金融政策の適切な説明になっていることも示されている(例えば、Clarida, Galí, and Gertler 1998 を見よ)。


同時に、理論的研究の蓄積によってテイラールールはマクロ経済の安定に貢献したことが明らかになってきた。研究者達は異なる道を辿ってこの結論に達した。例えば、Levin, Wieland, and Williams (1999) は非最適化の合理期待モデルを用いてテイラールールがインフレ率と産出の目標レベルからの乖離の損失2次関数を最小化する、という意味において最適な金利フィードバックルールであることを示した。Rotemberg and Woodford (1999) は動学最適一般均衡モデルと政策評価のための厚生条件を用いて同じような結論に達した。Leeper (1991), Bernanke and Woodford (1997), and Clarida et al. (2000) はテイラールールがマクロ経済の安定に貢献したと論じている。なぜなら、テイラールールは合理期待均衡の一意性を保証しているからである。他方で、受動的金融政策としても知られる、1よりも小さいインフレ率係数を持つ金利フィードバックルールは経済を不安定にすることを示した。なぜならそれは均衡を不決定にし、期待主導的な変動を許すからである。

方法論的に多様な研究の中でも二つの重要な要素は共有されている。一つはインフレターゲットレベル周辺の局所的な動学または小さな変動に関心を制限していること。もう一つは名目金利の下限がゼロに制約されているという事実を考慮に入れていないことである。これらの二つの単純化はマクロ経済の安定に関する重要な結果をもたらしている。

名目金利のゼロ下限と大局的な均衡動学が考慮に入れられた時に起こる問題の本質は次の二つのシンプルな関係を考えることで明確にすることが出来る。一つ目は名目金利Rがインフレ率\piの非負増加関数R=R(\pi)として表される金利フィードバックルールである。二つ目は定常状態でのフィッシャー方程式R=r+\piである。これは名目金利が実質金利rとインフレ率\piの合計と等しくならなければならないことを要求している(図1を見よ)。
ターゲットインフレ率\pi^*で金融当局がR'(\pi^*)>1という意味でのテイラールールタイプの、またはアクティブな、金利政策に従っていたとしよう)。このとき、名目金利のゼロ下限の存在と金利ルールがインフレ率の増加関数であるという仮定から明らかに二つ目のフィードバックルールとフィッシャー方程式が交差するインフレ率\pi^Lが存在することがわかる。この二つ目の交差点でインフレ率は低位、場合によっては負の値をとり、名目金利も低位、場合によってはゼロ、になり、金融政策はR'(\pi^L)<1という意味でパッシブになる。Benhabib, Schmitt-Grohé , and Uribe (2001b)で、我々はDGEモデルの文脈で名目硬直性の有無にかかわらず意図せざる定常状態\pi^Lは局所的に不定であることを示した。その近傍においてインフレ率、金利、マクロ経済が予想の非ファンダメンタルな見直しに反応して変動するような均衡が存在する。より重要なことに、二つ目の定常状態はターゲットであるインフレ率(\pi^*,R(\pi^*))のどれだけ近くからスタートしても(\pi^L, R(\pi^L))に収束してしまうような均衡経路の存在を引き起こしてしまう。

経済がこのようなタイプの減速するインフレ動学に陥ると、場合によっては物価と産出の安定という政府のゴールを達成するための金融政策が無効になってしまうような負のインフレ率とゼロ金利の状態の向かっていってしまう。このような状態は、物価の下落に際して金利を比し下げることで金融緩和を行うというタイプの金融政策を行う中央銀行が無力になるという流動性の罠の本質的な性質を全て備えている。

この論文の中心的な問題意識はテイラールールの有効性を保ち、ターゲットのインフレ率と産出レベルの近傍で望ましい全ての局所的性質を備え、同時に流動性の罠へと導くような均衡動学を排除する財政・金融政策のデザインにある。

流動性の縄を避けるための大きく分けて二つの方法を示す。一つ目のものでは、流動性の罠は金融政策がいつでも金利ルールに従うという条件の下での財政政策によって排除される。提示される安定化政策はインフレ率が低下し始めると自動的に発動される強い財政刺激を特徴とする。特に、財政ルールはインフレが落ちつくと税率を下げるインフレ率に感応的な予算スケージュールとなる。経済が流動性の罠に近づくにつれ、財政赤字は低インフレ定常状態が財政的に持続不可能となり、合理期待均衡として支持されなくなるほど大きなものになる。財政的に持続不可能にすることで流動性の罠の均衡を排除するというアイディアの基本的な洞察はWoodford (1999) による。

よって、流動性の罠を避ける最初の我々の方法は最近の---特に米財務省から出されている---政策提案を理論的に支持するものである。これは既に名目金利がゼロに近いため金融政策の余地がないような国---たとえば日本---は流動性の罠を抜けるために財政支出を行うべきという提案である。しかし、我々はまったく異なる理由からこの政策を推薦する。財政政策は通常いわれるような乗数効果を通じてではなく、むしろ政府の動学的予算制約への効果を通じて流動性の罠を排除するのである。流動性の罠を排除するチャンネルはピグーが論じた流動性の罠の非現実性に関する議論とむしろ同種のものである。閉鎖経済においては、政府の動学予算制約は代表的家計の動学予算制約の鏡像である。減税は家計の可処分所得を増加させる。これによって財に対する超過需要が生まれる。結果として、物価は財市場の均衡を回復するため上昇しなければならない。

二番目の方法は金利ルールから貨幣成長ルールへの変更が自己充足的なデフレ経路を断つというものである。この代替案は人気があって、政策論争において良く言及される。低インフレ均衡(またはデフレ均衡)に陥ったときには政府は経済をジャンプスタートさせるために単に貨幣を刷れば良いのである。例えば Krugman (1998) は日本の現在の不況から救い出すための方法としてこのタイプの政策を力強く主張する。しかしこの提案は通常付随する財政政策には触れずに行われる。Woodford (1999) にあるように、貨幣成長率ルールは「正しい」財政政策と組み合わされた時のみに、流動性の罠の回避および脱出に有効な手段となる。例えば、貨幣成長ルールに変更された時に採用されている財政政策レジームがあらゆる場面で財政の持続性が保証されているものならば、貨幣の増刷はむしろデフレスパイラルを加速させる反生産的なものになってしまうのだ。一般的に言って、貨幣成長率ルールへの変更を成功させるポイントは名目金利がゼロに向かうにつれ政府の動学予算が債務不履行に向かうような財政政策を伴うことである。

この論文の残りは5つの節からなっている。第II節はモデルと基本となる金融・財政政策レジームを提示する。第III節では均衡の局所的な振る舞いを考察する。第IV節では金融政策がテイラールールタイプの金利フィードバックルールを採用しているときに、経済がどのようにして流動性の罠に陥るかを明らかにする。第V節と第VI節では流動性の罠均衡を排除する財政・金融政策で用いられる手法について論じる。第VII節ではこの論文の結論を述べる。そこでは名目硬直性や時間の離散的な扱い、流動性の罠を避ける方法として関連する研究で示唆されているGesell税を適用した場合などを取り入れたモデルに対する本論の結果の頑健性を示す。


VII. Discussion and Conclusion

名目金利のゼロ下限は金利フィードバックルールの形をとる金融政策を採用している経済を意図せざる均衡へと導きやすくさせる。このような望ましくない状況が発生すると、金融当局は政府の目的を達成することができなくなる。インフレ率や産出と物価の変動などの重要なマクロ経済変数に影響を与えることができないという、まさに流動性の罠の本質が現れるのである。

名目金利のゼロ下限の明示的な考慮を別にすれば、我々のモデルとテイラールールの望ましさを強調するモデルとの顕著な違いは名目変数の伸縮性にある。しかしながら、テイラールールタイプの政策の結果として流動性の罠へ陥る可能性はこの論文で示されたシンプルな伸縮的環境に限定されない。Benhabib et al. (2001b) で我々はテイラールールが価格調整が粘着的な環境でも流動性の罠を生じさせることを示した。このタイプのモデルでは、流動性の罠は本論文で示されたようなインフレ率と実質貨幣残高の不定性だけでなく、総需要の水準も不定になる。第V節と第VI節で示した流動性の罠を根絶するための政策は粘着価格の場合でも効果がある。なぜならばそれらの提案は経済が流動性の罠に落ちるような時には横断性条件を満たさなくなるようなものだからだ。長期的な制約の違反は短期の名目価格の硬直性とは独立なモデルの内生変数の非対称的な行動に依存しているのだ。

この論文と関連した研究での理論的な環境のさらなる違いは時間を連続変数として扱っていることにある。繰り返しになるが、テイラールールを適用することで持ち上がる流動性の罠の存在や提案された救済方法の効果はいずれも重要ないかなる点においてもこの仮定によって変わるものではない。Schmitt-Grohé and Uribe (2000) は現金と信用財を使った離散時間におけるキャッシュインアドバンスモデルを分析して、名目金利に下限がある場合にはテイラールールは意図せざる流動性の罠の問題を生じさせることを示した。この望ましからぬ均衡の本質は、本論で述べられたものと同一のものである。連続時間のモデルで流動性の罠を回避させる長期的な制約は離散時間でも適用可能である。

本論文で考察された政策はテイラールールの下で発生する悪性な動学を排除することを意図したものと見ることができる。これらの政策が効果を持つためには、悪性動学の下ではインフレ率は意図したターゲットから永久に離れ続けることが重要である。Benhabib et al. (2000) で我々は本論で考察したものとは別の本質を持つ意図せざる動学をテイラールールが生じさせることを示した。これらの動学の下では、中央銀行が意図した均衡の近傍---潜在的にはかなり「広い」近傍---で変動するものの、本論で考察したような自己充足的なデフレや、もしくは流動性の罠に陥ることはない。よって、インフレ率が恒久的に低位に収束することに依存しているために本論で説明した特定の政策はカオス的な均衡を排除できないかもしれない。

Buiter and Panigirtzoglou (1999) はGesell税(貨幣保有への課税)を流動性の罠の回避方法として提案している。Gesell税は貨幣へのマイナス金利と考えることができる。貨幣保有の機会費用は債券の名目金利と貨幣の差として与えられるため、Gesell税は政府証券の名目金利をマイナスにすることで貨幣保有の機会費用をプラスにすることが出来るのだ。よって、流動性の罠が貨幣の保有コストがゼロになることと解釈するならばGesell税は流動性の罠を排除することにはならないことは明らかであり、単に債券の名目金利をゼロ以下に押し下げるだけである。流動性の罠に陥る可能性として重要なことは名目金利の(ゼロとは限らない)下限が存在するときのテイラールールタイプの金利ルールの組み合わせなのだ。この下限がプラスであろうとマイナスであろうゼロであろうと関係はないのだ。

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