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翻訳はnight_in_tunisia

Agency Costs, Net Worth, and Business Fluctuations

By BEN BERNANKE AND MARK GERTLER

Abstract

この論文では債務者のバランスシートの状態が産出の変動の原因となるようなシンプルな新古典派の景気循環モデルを構築する。債務者のもつ純資産の価値が高いほど設備投資資金調達のためのエージェンシーコストが軽減されるというのがメカニズムである。好景気は純資産の価値を高め、エージェンシーコストを減少させ、投資を増加させ、このためさらなる好景気を生むのである。また不況においては同様に不況を加速するのだ。(デットデフレーションで見られるような)純資産へのショックは変動のきっかけになりうるであろう。

Introduction

多くの景気循環論研究者が、企業や家計のバランスシートの状態(=債務者の支払能力や信用力)がマクロ経済活動の大事な決定要素であると主張してきた。例えばFrederic Mishkin (1978) と Ben Bernanke (1983) は債務者の毀損したバランスシートは大恐慌を悪化させる原因となったと論じている。また、Otto Eckstein and Allen Sinai (1986) は企業のバランスシートの科目を景気循環分析の中心に据えている。バランスシートの状態と家計や企業の支出の意思決定が関係していることを多くの研究が示している。

この論文で、我々は景気循環におけるバランスシートの役割を厳密に分析する。用いる枠組みはリアルビジネスサイクルモデルをベースにしたものであり、投資を企画し管理する企業家と彼らへの融資を行う投資家との間の情報の非対称性を特徴とするようなものである。具体的には、Robert Townsend (1979, 1988) にあるような「有償状態監査(costly state verification)」問題を考える。この情報の非対称性はモジリアーニ・ミラー定理の適用を不可能にし、実物と「会計」(つまりバランスシート)要因との間の興味深い関係の可能性を持ち込むのである。

バランスシートのいくつかの側面は潜在的にマクロ経済学者にとって興味を引くものだ。我々が特に注目するバランスシート科目は純資産である。純資産は次の理由で重要であると考えられる。借り手と貸し手の間に情報の非対称性がある時は常に、最適な契約は完全情報における最善の均衡に較べて死荷重(エージェンシーコスト)を引き起こす。これらのコストは「内部」資金に較べてより高い「外部」資金のコストであることの証拠となってしまう *1 。ここで使われているモデルや、ほとんどの標準的なプリンシパルエージェントモデルにおいて、潜在的な借り手の純資産が大きければ大きいほど最適契約によってもたらされるエージェンシーコストの期待値は小さくなる。よって、金融「困窮」の期間は投資のエージェンシーコストが相対的に高い期間でもある。

マクロ経済のレベルでは、借り手の純資産と投資のエージェンシーコストの逆相関は少なくとも二つの重要なインプリーケーションを含んでいる。第一に、借り手の純資産は景気循環に同調的(好況時には支払能力が高まる)になりがちなため、好況時にはエージェンシーコストは小さくなり、不況時には高まる。この論文ではこのことがエージェンシーコストがない時にはどちらの現象も起きないような環境に投資の変動と循環の持続性を導入するのに十分であることを示す。ある種の加速装置としての効果を生むのである。第二に、総需要とは無関係に起きる借り手の純資産へのショックは実質変動の原因となる。一つの解釈がIrving Fisher (1933) によって最初に分析されたデット・デフレーションである。デット・デフレーションの間、物価水準の予期せぬ下落のため(または借り手の担保、例えば農場、の相対価格の下落のため)、借り手の純資産価値の下落が起きる。これによって投資計画に最も直接的な関わりを持つ人々の信用力が突然低下してしまう(彼らに融資することに対するエージェンシーコストが高まる)。結果としての投資の減少は総需要と総供給の両方に負の影響を与える。次節以降で示すモデルを使って借り手の純資産へのショックのマクロ経済へ与える影響の予備的な分析を行う。

我々は第一原理のみに基づいた分析を行うように心がけた。具体的には、金融的合意の形式は全て内生的に導いた。また、混合戦略と抽選を排除しなかった。必然的にこのモデルはシンプルなものとなり、質的な洞察を導く試みととられるべきものであり、実際の金融情勢の実証的に現実見のある描写を提供するものではない。我々の論文と同様の手法で分析を進めているこの分野の他の論文はRoger (1984)、Bruce Greenwald and Joseph Stiglitz (1986)、Stephen Williamson (1987) などである。

この論文の方針は次の通りである。第1節でモデルの仮定を提示する。第2節でベンチマークとなる完全情報の場合分析する。この場合の均衡では景気循環は発生しない(投資は一定で産出変動は系列相関がない)。第3節で情報の非対称性とエージェンシーコストを導入する。第3節のパートAおよびBではこの場合における最適貸借契約と企業的投資の意思決定について考察する。マクロ均衡動学に関する洞察は第3節のパートCおよびDで与えられる。我々は、完全情報の場合とは対照的にエージェンシーコストが存在する経済では投資と産出に持続的な変動が起きることを示す。また(デット・デフレーションに見られるような)借り手と貸し手の間での所得移転が実質GDPへの影響があることを示す。「有償状態監視(costly state verification)」における最適契約の本質における追加的な結果は補遺に記す。

IV. Conclusion

この論文でシンプルな新古典派の内生的景気循環ダイナミクスのモデルを構築した。そこでは債務者のバランスシートが重要な役割を演じていた。もっとも重要な洞察は実物投資を行うためのエージェンシーコストは企業家ないし債務者の純資産と不可避的に関連しているという点である。結果として投資への加速効果が発現する。好況時の債務者のバランスシートの改善は投資需要を拡大させ、好況をさらに拡大させる。不況によって毀損したバランスシートは正反対の効果を持つ。生産性ショックのマクロ経済への影響は非対称的である。なぜならエージェンシー問題はダウンサイドにおいてのみ発生するからである。さらに、(デットデフレーションで起きるような)借り手のバランスシートに影響を与えるような再分配やその他のショックはマクロ経済への実質的影響を与える。

我々は関連する論文でこのアプローチの拡張について検討した。1987年の論文では投資過程のより豊かなモデルでのエージェンシーコストのマクロ経済的含意を考察した。そのモデルでは、(有償状態監査(costly sate verification)モデルに見られるような「事後」だけでなく)事前的にも異なるプロジェクトを扱った。借り手はエージェンシーコストを負うことでプロジェクトの質についての私的情報を獲得することが出来る。そして借り手はそのプロジェクトを評価し、それを進めるかどうかを決定しなければならない。そのモデルの分析は、マクロ経済変動に関連する「エージェンシーコスト」概念は本論文におけるモニタリングコストよりももっと幅広いものであることを示している。「エージェンシーコスト」という概念には(それが負債であろうと他のものであろうと)外部からの借入の必要性に付随した最善の結果からのいかなる乖離をも含まれるべきである。この結果はモデルを実証的に解釈するために重要である。また、我々の関連する論文は初期賦存量と情報構造についての仮定のバリエーションに対して、また、企業家の連携・結託に対して頑健性を立証した。

この論文では政策的含意に搗いては議論しなかった。ほとんどの世代重複モデルにおいてそうであるように、我々の経済モデルの競争的解はパレート最適であることを保証しないが、世代内という限定された意味において効率的である。効率性と政策の問題は我々の1987年の論文でより深く扱われている。特に、その論文では「債務者救済(貸し手から借り手への再分配)」政策が、純資産レベルが低い時には望ましいかどうかについて議論した。またそこで提示されたのは、エージェンシーコストは一般的に平均的に過剰投資をもたらすのか過小投資をもたらすのかという問題である。

最後に、長期間にわたる契約を債務者と債権者が結ぶ時にこの論文の定量的な結果が上手くいくかどうかを解明することが重要である。これはGertler (1988)によって行われた。n期間モデルで彼は「借り手の純資産」という概念は、(この論文のように)現在の初期賦存量だけでなく将来得られる利益の期待値の「最も安全な」部分をも含むように拡張されるべきものであることを示した。よって、エージェンシーコストは現在の資産のみならず、将来に予想される条件にも依存するのである。彼はこのことがさらに別の興味深い循環的なダイナミクスをマクロ経済にもたらすことができることを示した。

REFERENCES

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