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ニューヨーク連銀のガウティ・エガートソンによるこのサーベイは短期名目金利がゼロという流動性の罠に対する現時点での一つの回答を示している。その回答とはリフレーション(reflation)である。その考え方の基本はアービング・フィッシャーに遡り、実際にルーズベルトによって実行に移され成功を収めた政策である。ここでは期待への働きかけを重視する現代的で精緻化されたリフレーションが提示される。これはまた、1977年にKydland and Prescottによって提示された動学的不整合(Dynamic Inconsistency)への回答でもある。翻訳はnigth_in_tunisia

流動性の罠

Gauti B. Eggertsson

流動性の罠は短期名目金利がゼロの状況として定義される。かつてのケインジアン(The old Keynesian)は流動性の罠にはまった状況ではマネーサプライの増加は効果がないため、金融政策が無効になってしまうと論じた。近年の研究では対照的なことに現在のマネーサプライの増加が効果がないとしても、金融政策はゼロ金利で効果がないなどということは全くないといことが強調されている。しかしながら重要なことは現在のマネーサプライではなく、利子率がプラスとなった未来のマネーサプライについての期待をコントロールすることなのである。

流動性の罠は短期名目金利がゼロの状況として定義される。この場合、多くの識者がマネーサプライの増加は産出にも物価にも影響しないと論じている。流動性の罠は元々ケインジアンの考えであり、貨幣数量説 --- おおざっぱに言うと物価と産出がマネーサプライに比例しているという説 --- と対置されるものである。

ケインジアンの理論によれば、マネーサプライは名目金利を通じて物価と産出に影響を及ぼすとされる。マネーサプライの増加は貨幣需要方程式を通じて金利を引き下げる。引き下げられた金利は産出と支出を刺激する。しかしながら短期名目金利はゼロ以下になることはない。なぜなら少なくとも100ドルのリターンがないのに、100ドル貸す人はいないという基本的な裁定の論理が成立するからである。これはしばしば短期名目金利の「ゼロ下限制約」と呼ばれる。よってケインジアンは短期名目金利がゼロになってしまうほどマネーサプライが増えると、それ以上いくらマネーサプライを増やしても産出や物価に影響を与えることない、と論じるのである。

流動性の罠の根底にある考え方は大恐慌のさなかに発見された。その時(大恐慌時)、短期名目金利はほとんどゼロであった。例えば、1933年の始めに、アメリカの短期名目金利(3ヶ月国債)はわずか0.05%であった。幾人かの研究者が流動性の罠について研究したものの、大恐慌の記憶が遠のくにつれて流動性の罠は理論的な興味を誘う程度のものと考えられるようになった。

1990年代になると流動性の罠は新たな事例の登場とともに再び注目を集めることになった。90年代の後半の日本で短期名目金利がゼロ近くまで下落したのだ。さらに日本銀行(BOJ)は物価を上昇させ需要を刺激する手段として伝統的および非伝統的手法を用いてマネタリーベースを倍以上に増加させた。2001年から2006年に行われた「量的緩和」を一例に取ると当該期間にマネタリーベースは70%以上増加した。しかし、最も好意的に解釈しても物価に対する影響はわずかであった。(量的緩和が始まって5年たった時点でCPI(消費者物価指数)とGDPデフレータはやっとプラスに向かって動き始めた程度であった。)

現代の流動性の罠への考え方

現代における流動性の罠の捉え方は伝統的なケインジアンほど単純ではない。現代の視点は総需要が現在の利子率にのみ依存する旧来のケインジアンのモデルとは異なり現在のみならず未来の実質金利にも依存する確率的動学一般均衡モデル(Intertemporal Stochastic General Equiliburium Model)に依拠している。現代のフレームワークでは、中央銀行が利下げによって充分対応できなくなるような大きなデフレショックが発生し短期名目金利のゼロ下限に直面する時、流動性の罠は発生する。

モデルの前提となる総需要の関係は通常、代表的家計の最大化問題から導かれるオイラー方程式として表現される。生産された財が全て消費されるという前提のもとでオイラー方程式は次のように近似される。

latex-image-1.jpg

ここで、Latex-Image-1-1は定常状態の産出量からの逸脱量、Latex-Image-2-1は短期名目金利、Latex-Image-3-1は物価上昇率(インフレ率)、Latex-Image-4-4は期待値作用素(expectation operator)、Latex-Image-5-1は外生的なショック過程である。この方程式は現在の需要が将来の期待産出量と名目金利と期待インフレ率との差である実質金利に依存することを示している(なぜなら支出は期待所得に依存し、低い実質金利は将来の支出に対して現在の支出を有利にするからである)。この方程式を再帰的に代入することで次の方程式が得られる。

Latex-Image-2

この式は需要が現在の短期金利のみならず将来の全ての時点の金利と期待インフレ率に依存していることを示している。長期金利が現在と未来の長期金利の予測に依存しているため、この方程式は需要が長期金利に依存していると解釈することも可能である。このモデルでは金融政策は短期名目金利を通じて機能するが、短期名目金利をゼロ以下にすることが出来ない事実によって制約を受けている。Latex-Image-3

ケインジアンの静的なフレームワークとは対照的に、このモデルでは現在の短期名目金利がゼロになったとしても金融政策は効果を発揮することが出来る。しかしながらそのためには拡張的な金融政策がゼロ下限制約を受けなくなる未来の金利に対する人々の期待を変えるものでなくてはならない。ゼロ下限制約を受けなくなる時点とはデフレショックが収斂すると考えられるだけの期間のあと、といえるかもしれない。流動性の罠にはまった状態での金融政策の成否を分けるポイントは、デフレ圧力が収まったあとも未来の名目金利を、(訳注: その時点の)任意の所与の物価水準に対して、より低く保つ約束をすることである(例えば、Reifschneider and Williams 2000、Jung, Teranishi and Watanabe 2005、Eggertsson and Woodford 2003、Adam and Billi 2006を見よ)。

これがBOJが2003年の秋にCPIがゼロ以上になる見通しが立ち、デフレ圧力が収まるまで金利を低く保つと約束した理由であった。また、FRBが2003年の中頃に「当面の間」利子率を低く維持すると宣言した理由の根底をなすものであった(そのころアメリカでデフレが懸念されていたのである。2003年の春に大恐慌以来となる低利子率に達し、何人かのアナリストがデフレの危機を主張した)。

ここで考察されたモデルでは名目金利とマネーサプライには直接の対応関係が存在する。これには(消費に関するオイラー方程式(1)ど同様に)代表的家計の最大化問題から導出される実質貨幣残高の需要方程式が根底にあるのである。この需要方程式は名目金利とマネーサプライの関係として表現することが出来る。

Latex-Image-4-3

ここで、Latex-Image-6-1は名目貨幣残高、Latex-Image-7-1は物価水準である。財と流動性がどちらも(訳注:所得の上昇によって需要が減るような下級財ではなく)通常財ならば、不等式は貨幣需要は利子率の減少関数、産出の増加関数となることを示している。しかしながら、名目金利がゼロに低下すると、貨幣需要は定義できなくなる。なぜなら家計は貨幣とリスクのない短期国債を区別しなくなるからである。どちらも利子のつかない政府の債務であることからこれらの二つは完全な代替財なのである。これを別の表現で言い表すならば、(所与の物価水準に対して未来の名目金利を低位に保つ約束が担保された)有効な金融政策は再び金利がプラスに転じた将来においてもマネーサプライを増加させることにコミットすることを必要条件とする、といえる(例えば、Eggertsson 2006aを見よ)。

金融政策が無効となる場合

上述した現在の考え方では金融政策は将来の期待マネーサプライ(=未来の名目金利の経路)を変えることが出来た時のみゼロ金利での需要を増加させることが出来る。而してケインジアンの流動性の罠は中央銀行が期待を動かすことができないときにのみ真の罠となるといえるのである。いくつかの興味深い条件の下で期待に影響を与えることが出来ず、金融緩和が無効となるケースが存在する。これらの「無効性」は2001年から2006年のBOJの「量的緩和」によるマネタリーベースの増加が、貨幣数量説の支持者達が考えていたほどにはインフレ及び期待インフレへの効果がなかったことの一つの説明になるであろう。

例えばKrugman(1998)はゼロ金利においては、金利がプラスに転じるやいなや中央銀行がマネーサプライをある一定水準に復帰させることを人々が予想するならば量的緩和は無効となることを示した。この場合にはマネーサプライをどれだけ増やしてもその後の引締めが予想されるため、産出と物価に変化は起こらない。

Eggertson and Woodford(2003)は、中央銀行が(実際に先進国の多くの中央銀行が従っていると考えられている)テイラールールに従っているならば、同様に金融政策が無効となることを示した。テイラールールに従っている中央銀行は経済が目標とするインフレ率と潜在成長率を上回ると金利の引き上げを行う。逆に、ゼロ下限制約が有効にならない限りにおいては、目標インフレ率と潜在成長率を下回る時には利下げを行う。中央銀行がテイラールールに従っていると人々が信じているならば、暗黙に了解されているインフレ目標を上回るインフレ圧力が加わった場合、直ちに人々は金利の引き上げを予想する。このことは、仮に目標が物価安定と認識されているならば量的緩和は効果がないことを意味する。なぜならばテイラールールへのコミットメントはマネタリーベースのいかなる増加もデフレ圧力の減衰とともに逆転されることを意味するからである。

Eggertsson(2006a)は中央銀行が裁量的、すなわち未来の政策を確約できないならば、そしてインフレ率と産出ギャップに依存する標準的な損失関数を最小化しようとするならば、このときもまた中央銀行はゼロ下限においてインフレ期待を増加させることが出来ないであろう。なぜなら中央銀行は事後的なインフレを達成するためのインフレへの確約や充分な量的緩和の約束を反古にするインセンティブをいつも持っているからである。このデフレバイアスは先に述べた二つの無効性命題が示すものとと同じ含意を持っている。すなわち、人々はデフレ圧力が去るや否や中央銀行はマネーサプライの増加を逆転させることを予想する、ということである。デフレバイアスは、次節で示されるようにいくつかの方程式を追加することで示すことが出来る。

デフレバイアスと最適コミットメント

デフレバイアスは式(1)、(2)、(3)を起点とするモデルの残りを補うことで示すことが出来る。企業はランダムに価格を変更すると仮定することから、このモデルでは価格は伸縮的ではない。これによって供給関数 ---しばしば「ニューケインジアン」フィリップス曲線と呼ばれる--- を得る。これは企業の利益最大化問題のオイラー方程式から得られる(例えばWoodford 2003を見よ)。

Latex-Image-5

ここでLatex-Image-8-1は(定常状態からの逸脱量としていの)産出の自然水準である。これは諸価格が完全に伸縮的なときに生産されたとする「仮想的な」産出量である。Latex-Image-9は家計の現在価値割引率、パラメターLatex-Image-10-1は選好と技術パラメターの関数である。この方程式は全ての企業が価格を直ぐに調整できないためインフレによって自然率を上回る産出量に増加させることが出来ることを表している。

政府がその最大化を目的とする代表家計の効用関数は次のように近似される。

Latex-Image-6

ここでLatex-Image-11は産出の目標水準、しばしば「効率的水準」もしくは「最善水準」と呼ばれるものである。Kydland and Prescott(1977)で最初に提示された標準的な「インフレバイアス」は自然率が効率水準を下回る状況、すなわちLatex-Image-12で発生する。

Eggertsson(2006a)はある状況においてデフレバイアスが存在することを示した。インフレバイアスは定常状態での減少であるのに対して、デフレバイアスは一時的なショックに対して発生する。インフレバイアスがLatex-Image-14である時の名目金利の解について考えよう。それは次のようになる。

Latex-Image-7

この方程式は充分に大きなデフレショック、すなわちLatex-Image-13が起きた時には満たされない。特にLatex-Image-1-2の時には、この解は名目金利が負になることを要求する。このケースでは裁量的な政策担当者は名目金利をゼロに設定するが、デフレ圧力がなくなり次第(つまりLatex-Image-16[訳注: 原文のママであるが、πの添字tは誤植と思われる]になり次第)インフレ率を「インフレバイアス」の解であるLatex-Image-14-1に設定することが中央銀行にとっての最適解である。もしショックLatex-Image-5-2が充分小さければ(すなわちデフレショックが充分に大きければ)、ゼロ下限制約によって「インフレターゲット」であるLatex-Image-14-2を実現する能力を中央銀行は失ってしまい、結果、過度なデフレを導くであろう。(ここで議論している研究ではデフレとゼロ金利は実物的なショックに起因するとされているが、流動性の罠をモデル化するもう一つの方法に自己充足的なデフレ期待をベースにするものがある。例えば、Benhabib, Schmitt-Grohe and Uribe 2001 を見よ。)

Liquidity Trap Eggartsson F

これを理解するために次のような思考実験を考えよう。予期せぬ負の外生的ショックLatex-Image-5-3が期間0に発生したとする(Latex-Image-17)。そして毎期ある一定の確率Latex-Image-23で発生する定常状態Latex-Image-24に戻るとする。簡単のため、Latex-Image-25と仮定すると、方程式(1)と(4)から上述した中央銀行の振る舞いと、さらに、仮定されたLatex-Image-5-4の過程から、産出とインフレ率の解が次のようになることが容易に確認できる(詳しくはEggertsson 2006aを見よ)。

Latex-Image-8

図1はEggertsson and Woodford(2003)で使われているモデルでカリブレートされた数値例の解を示している。(このカリブレーションの元ではLatex-Image-18Latex-Image-19Latex-Image-20、>Latex-Image-1-3である。なお、このモデルは四半期でカリブレートされている。)破線は15四半期で自然利子率がプラスに復帰するという条件での解を示しているが、名目金利の非負性のために14%のGDPの下落、年率10%のデフレがもたらされている。各四半期において次の四半期も外生的ショックが負のまま残るという確率が90%あるという事実が、将来の低産出の持続とデフレという期待を生み、それが(訳注: (1)式を通じて)さらなる(訳注: 現在の)不況とデフレを生み出すのである。中央銀行が短期名目金利をゼロに設定しても民間部門がデフレを予想するため実質金利はプラスである。インフレバイアス(Latex-Image-22)が存在するときも結果は同じであるが、その場合には産出の下落をもたらすような外生的ショックLatex-Image-5-5はそれに対応してより大きく負になる必要がある。

図1で示された解はEggertsson(2006a)が呼ぶところの、裁量的金融政策によるデフレバイアスである。この解がデフレバイアスを示すという理由はデフレと不況が最適な政策への適切なコミットメントによって大幅に回避することが出来るからである。実線は中央銀行が最適な政策にコミットできた場合の解を示している。この場合、デフレと産出の縮小は大幅に回避される。最適解においては裁量的政策の場合の解から示唆される期間を超える充分な期間、中央銀行は名目金利をゼロに保つのである。これはデフレショックLatex-Image-5-7がなくなった後も金利をゼロに保つということである。中央銀行はデフレショックが消えた後も経済の過熱を許容し、マイルドインフレを受け入れるのである。このようなコミットメントはいくつかの経路で需要を刺激しデフレを軽減させる。名目金利がこれ以上下げられないとしても将来のインフレの予測は実質金利を引き下げる。同じようなことだが、将来の(すなわちデフレ圧力が消え去った後も)名目金利を低位に保つというコミットメントは同じ理由によって需要を刺激する。最後に、景気が過熱すると予想されることでもたらされる将来の所得の増加予想は恒常所得仮説によって今日の支出を刺激する(この図の導出はEggertsson and Woodford 2003を見よ。また、別種のデフレショックプロセスに対する最適コミットメントの導出はJung, Teranishi and Watanabe 2005とAdam and Billi 2006を見よ)。

裁量的政策の解が示していることは、それが望ましいにも関わらず、中央銀行が将来の政策を確約できないのならば最適コミットメントが実現不可能であるということである。裁量的政策立案者はデフレバイアスに呪われているのである。この呪いのロジックを理解するにはターゲットとするインフレ率と産出量からの逸脱を最小限にしようとする政府の目的(5)を考えれば良い。最適コミットメント政策が正のインフレ率と景気の過熱を要求する一方、裁量的政策でも15期目にはどちらのターゲットも達成できる。よって、中央銀行は約束したコミットメントを反古にし、ゼロインフレを目指し、産出量を最適レベルに保とうとするインセンティブをもつのである。民間部門はこれを正しく予想するため裁量的政策の元では式(6)と(7)で示されるものが解となるのである。これが裁量的政策のデフレバイアスである。

期待の形成

「無効性」条件から得られる教訓は、金融政策は期待に働きかけることが出来なければ機能しないということであるが、前説で示されたのはデフレショックに起因する産出の縮小およびデフレを最小化するためには、期待形成を正しい方法で行うことが非常に重要になってくる可能性があるということである。しかし、これは裁量的に振る舞うと考えられているような政府にとっては難しいことかもしれない。望ましい期待を形成するにはどのようにしたら良いのであろうか?

もっとも単純な方法は政府が政策ルールを公表して、将来の政策を明確にすることである。これはKydland and Prescott(1977)に始まる「ルール対裁量」研究からの教訓である。この研究はインフレバイアスを克服するためのものであったが、デフレバイアスについて持ち上がる動的不整合についてもそれが標準的なものとは異なるにもかかわらず同じロジックが適用できるのである。公表された将来の政策が信用されている限りにおいて、政策は大きな効果を持つ。デフレショックに付随する変動を最小化する様々な政策ルールについての膨大な研究が蓄積されている。その一例はEggertsson and Woodford(2003)とWolman(2005)である。彼らは、政府が物価水準目標政策をとるならば最適コミットメントによる解にきわめて近いか、(目標レジームの精緻度によっては)全くその通りの結果を生むことが出来ることを示した。そこで提示された政策ルールでは、中央銀行はある特定の物価水準に達する(これはデフレショックが消滅したかなり後になる)までゼロ金利を継続することを確約することになる。

もし、中央銀行と政府のどちらかが公表したことを実行すると信用されていなければ、新しい「政策ルール」の一環として行う将来の政策の公表は充分な効果を持たないであろう。これは特にデフレ環境においては少なくとも次の三つの理由から強くいえることである。一つ目はデフレバイアスは政府が将来の緩和政策および高めのインフレを約束し、実際にその時になれば約束を反古にするインセンティブをもつことを示しいているからである。二つ目は、このようなコミットメントが問題となるようなデフレショックは頻繁には起こらないため、このような状況での中央銀行の行動に対する評判をうまく形成することが出来ないためである。三つ目はゼロ金利下ではリフレーションのための新たなコミットメントを示す具体策(例えば、さらなる利下げなど)がとれないことが、この問題をさらに悪化させる。このことは多くの研究者にリフレーションの信用を高める(つまり、前節で述べた最適コミットメントを誘因整合的にする)ような(政府と中央銀行を一体と見る)統合政府における政策手段の研究へと向かわせるきっかけとなった。

リフレーションに信用を与えるもっとも手っ取り早い方法は政府が国債を発行すること、例えば赤字財政、かもしれない。国債はインフレをもたらすインセンティブを生むことは多くの研究で知られている(例えばCalvo 1978を見よ)。政府が将来インフレを起こすと約束し、さらに1ドル分の国債を印刷したとする。もし政府がインフレにするという約束を破ったならば、その1ドル分の国債の実質価値は同額分だけ増加しているだろう。そして政府は実質価値の増加した負債を返済するために増税を余儀なくされるであろう。課税が費用を伴うものであれば、デフレ圧力が消えた後も物価を上昇させるという約束破るという理由がなくなるであろう。このコミットメントの方法はEggertsson(2006a)で考察されており、デフレと戦うための効果的なツールであることが示されている。

Jeanne and Svensson(2006)とEggertsson(2006a)は、為替介入も非常に似た議論によって同じ効果があることを示している。為替介入が政府のバランスシートをリフレーション政策が誘因整合的なものに変えるからである。これは政府が国債や貨幣といった名目債券を発行して外貨を購入すれば、インフレを起こさなければバランスシートロスを招いてしまうからである。バランスシートロスが起きるのはインフレを起こすという約束の反故が通貨の増価をもたらしポートフォリオのロスになるからである。

この他にもデフレと戦うための武器庫には様々な武器が残っている。実物財やサービスの購入といった実質政府支出もこの場合効果的である(Eggertsson 2005)。もしかしたら最も驚嘆に値する方法は自然産出水準Latex-Image-8-2を一時的に引き下げることで、均衡産出量を増加させることが出来るというものだろう(Eggertsson 2006)。その真に驚嘆すべき理由は、自然産出水準の抑制が物価の実際のリフレーション及び期待リフレーションを生み、これは実質金利に影響を与えるので、産出の回復をもたらすのに十分な効果を持つからである。。

結論: 大恐慌と流動性の罠

冒頭で述べたように、流動性の罠に関する古い研究は大恐慌がきっかけであった。現在の研究はここで議論された日本やアメリカの事例に光を差すのみならず、アメリカの大恐慌からの回復過程にも新たな考察を与えるものである。この調査論文はデフレショックが存在する時にリフレーション政策が産出を著しく増加させることが出来ることを示す理論的な帰結を振り返った(図1の実線と破線を較べよ。一方の均衡から他方の均衡への移動が著しい産出の増加をもたらしている)。興味深いことにフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)は、彼が大統領に着任した1933年に、大恐慌以前の物価水準へのリフレーション政策を宣言した。リフレーションを達成するためにFDRはリフレーションの狙いを明確にしただけでなく、実際にこの狙いを信用に足るものにするためにいくつかの政策を実行した。FDRはここで概観してきたような政策、巨額の赤字財政、莫大な政府支出、為替介入、そして自然産出水準の抑制さえも行ったのである(the National Industrial Recovery Act and the Agricultural Adjustment Act: Eggertsson 2006bを見よ)。Eggertsson(2005、2006b)で論じられたように、これらの政策は大恐慌の幕引きに大きく貢献した。FDRの大統領就任後(そしてまさにリフレーション政策を発表したその時)すぐに状況はターニングポイント迎え、1933年から1937年の間に産出は39%増加した。しかし1937年に政府はレフレーション政策とそれを補助する刺激策を---機が熟していないにもかかわらず大恐慌への勝利宣言をして---放棄した。これは1年足らずで工業生産が月に30%も減少した1937年から1938年の景気後退の原因となった。政府が再びリフレーション政策へのコミットを発表すると経済も回復した(Eggertsson and Puglsey 2006を見よ)。流動性の罠の現代的分析は、ゼロ金利はこの期間におけるマネーサプライの一時的な変化を無効にしたが、将来にわたるマネーサプライの成長と金利の期待形成が総需要を決定する重要な要素となっていることを示した。よって、最近の研究は大恐慌の際に金融政策が効力を失ったというにはほど遠く、むしろ主に期待を通じてよく機能したことを示している。

参考文献

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