夢 前編
手が届かない…
離れていく…
少しずつ、私のそばから…
朝日がやけに眩しすぎる。
「……ん…。」
目覚めが非常に良くなかった。
むしろ、悪かった。
朝っぱらから憂鬱になる。
大切な人が、私の傍を離れていくような、
手を伸ばしても、届かないような、
そんな夢をみていた気がして…。
「楓…?」
ふと、自分の口から、「大切な人」を呼ぶ声がした。
「龍宮、どうかしたのか?」
憂鬱なまま、朝食をちびちびつつく。
ルームメイト、桜咲刹那が心配そうにこえを掛けてくる。
「いや、特になんでもない」
「それならいいが…あまり無茶するなよ?」
じゃ、私はこのかお嬢様と一緒に行くから、とだけいいのこし、部屋から去っていった。
(いったいなんなんだ…。このモヤモヤというか、憂鬱感は…)
いつもは楓(ついでに双子)と学校へ行っているが、今日はだるくて、学校に行く気さえしなかった。
(…さぼってみるのも、悪くはない…)
刹那に電話を掛け、頭痛と適当なうそをつけ、ベッドに寝転がる。
楓にも同じようなメールを送った。
瞳を閉じ、頭をからっぽにすると、数分で眠りについた。
「うぅ…んぅ…」
離れていってしまう…
私の手が届く事のない場所に…
行かないで…!もう…
ヒトリニシナイデ…
カチャカチャ…、トントン…
そんな音に目が覚めた。
おかしい…、今この部屋には、私しかいないはず…。
手に武器を持ち、息をひそめて音のする場所へ向かう。
…台所?…なんだ?あの緑色のしっぽ…?
音を立てた主は、気配に気づいたのか、ぱっと後ろを振り返る。
条件反射で、さっと真名は隠れてしまった。
「真名、起きたでござるか」
よく知っている声。
よく知っている口調。
「楓…?」
「ん?」
なぜここにいる、と聞こうとしたのを遮られ、
「学校を早退し、看病にきたでござるよ♪」
知りたかった答えを、聞く前に自分から答えてきた。
「メール、見てなかったのでござるか?鍵も開いていた故、ちょっと台所を借りていたでござる」
「楓…、お前それは、日常的な用語では不法侵入と言うのだぞ…」
「細かい事は気にした時点で負けでござるよ♪」
なぜか楓は、私に目を合わせてくれない。
するといきなり「回れ右」をさせられ、
「病人はおとなしく寝てるでござるよ」
背中をおされ、ベッドに寝かされた。
(別に風邪なんかひいてないのにな…)
自分のためにここまでしてくれる楓の心遣いが、素直にうれしかった。
…あれ?
なぜ私は、いつもの寝巻きを着ているのだろう。
朝は確かに制服に着替えていた。
私は一度も起きる事はなかった筈…
そういえば楓は、私に目を合わせようとしていなかった…。
「直視」できない…?
…まさか!!!
真名の顔が、一気に熱くなった。
「真名~どうかしたでござるか~?ってうあぁぁあ!!!ちょっ…リモコンを投げたら危ないでござるよ!!拙者が!!お粥が!!!」
「うるさいうるさい!!お前、私に…、その…な、なにをした!!!」
「制服がぐしゃぐしゃに濡れていたから着替えさせただけでござろう!!あのままだったら、余計症状が悪化するでござるよ!!」
言われてみればそうかも、と真名が納得したところで、楓は作りたてのお粥を真名にさしだした。
「つくりたてのホクホクでござるよ♪心して食すでござる!!」
「ふん、のぞむトコロだ」
「それとも拙者が「あ~ん」してやってもいいでござるが」
「なっ…さすがにそれはちょっと…」
他愛のない話をして、二人は盛り上がった。
すると、楓が突然、真っ直ぐな目を真名に向けた。
「真名…、今日はなぜ、学校を休んだのでござる?理由があるならば、聞きたいのだが…」
…ばれていたか。
「いつから気づいてた?」
「普通風邪ならパジャマでござろう?」
当たり前すぎる答え。
「それに、夢にうなされていた…でござる。真名…辛そうな表情でござった…」
「ほぉ~。楓は私の寝顔も覗き見ていたのか…」
「ちちち違うでござる!!!…まぁ、それもあるけど」
聞こえないよう、ぽつりとつぶやく。
後編へ続く
最終更新:2009年04月06日 16:48