19550704・22回衆 - 内閣委員会(川崎厚生大臣等答弁)

質問:床次徳二、森三樹二、田原春次

答弁:(厚生大臣)川崎秀二

○床次委員
 過般審議中に一度質問いたしたのでありますが、厚生大臣がおらなかったために答弁をあとへ回していただいたのでありますけれども、実は今回の恩給法の改正案がいろいろ検討せられまして、旧軍人に対し、また遺家族に対しまして相当従来の懸案が解決せられんとしつつあることはまことに喜ばしいことと思っておるのでありますが、ただしこの中にわが日本人にあらざるところの旧日本軍人というものがなお日本におったのでございまして、この旧日本軍人、現在外国人てあります者の処遇に関しましては、結局恩給法におきましてもこれは取り扱うべきものではないのであります。ために今回の改正法におきましてももちろん対象の外に置かれておるわけであります。しかし現実においてこれらの者に対しては何らかの措置をしなければまことに気の毒であるという状態については、争われない事実なんであります。この問題に対しましては、結局援護局すなわち厚生当局において御心配をいただかなければならぬ問題であると思うのであります。現在戦犯として相当の数の者がおるのでありますが、これらの者があるいは刑期を終えました後におきまして本国に帰るにいたしましても、本国政府といたしましては、いろいろの外交上の理由からこれに対して受け入れを拒むという状態であり、またこれらの者が日本において生活すること自体に対しましても、全く身寄りの少い立場にありますので、困難を感じておる状態であります。旧軍人という立場から申しますならば、日本人の軍人に対してそれぞれ応急の措置があったのでありますが、それとふさわしいところの処置があってしかるべきものと思うのでありまして、これらの者につきまして政府に対して善処を要望したいと思いますが、政府当局の御意見をこの機会に承わりたいと思う次第であります。

○川崎国務大臣
 過ぐる大東亜戦争、太平洋戦争と申しますか、第二次大戦におきまして、日本のために雇用人、軍属として従軍をいたしましたる朝鮮、台湾の同胞が、その後不幸にいたしまして戦争裁判にかかり受刑をするというような悲しいできごとになりましたことは、われわれといたしましても何とかその釈放後の措置あるいは国へ帰りまする際におきまして十分の手当をしなければならぬことは、常々考えておるわけでございます。今日まで政府のいたして参りました第三国人の戦争裁判受刑者に対しましては、次のような援護を行なっております。
 第一に、第三国人の戦争裁判受刑者は、旧特別未帰還者給与法におきまして、特別未帰還者とみなされておりましたので、未帰還者留守家族等援護法の附則におきましても、その実績を保障する意味合いにおきまして、これらの者を未帰還者とみなしまして、本人とその留守家族に対し、同法による援護を行うこととなっております。具体的に申し上げれば、本人が拘禁されておる間は、内地に居住するその留守家族に対し二千三百円の留守家族手当を毎月支給いたしております。しかしながらこれは大体例外的なものでありまして、本邦に居住していない留守家族の者が多いわけでありますから、そういう者につきましては、第二に、留守家族手当を支給することができませんので、年に二回六千円ずつ見舞金を支給いたしております。
 第三には、釈放された場合には、旧法によりまする未支給の給与を最低一万五千百円、それから帰還手当を一万円、未帰還者留守家族等援護法による帰郷旅費をその距離に応じて千円ないし三千円それぞれ支給をいたしております。また釈放された者が本国に帰る場合には、その運賃を全額国庫で負担をいたしております。しかしながら、これはつけ加えて申し上げますけれども、なかなか今日の情勢におきましては、こういうものはほとんど例外的なものでありまして、事実本国に帰るというようなことは不可能なような情勢にも追い込められておるわけであります。なお出所の際は以上のような政府からの給与のほかに、戦争裁判受刑者世話人会から二万円、日韓善隣協会から一万円をそれぞれ支給いたしております。
 それから第四に、内地に定着しようという者に対しましては、一般引揚者に準じて落ちつき先の提供、またはあっせんについてでき得る限りの便宜を取り計らっております。
 先般来これらの問題につきましては、当委員会の委員の方々におかれましても、非常に融資的にごあっせんを願い、厚生省といたしましても法務省と連絡をいたしまして、従来のような措置だけではいかぬのではないか。五月の十三日でありましたが、閣議に回ってきました書類の中に台湾人ニ名の釈放ということが、オランダ関係の戦犯釈放というものが決定しながらその要求に十分応ずることができませんので、そのために二名の戦犯者が今なお巣鴨におるというような問題も出ておりまして、これらの解決につきましては、政府といたしましても早急に何らかの手を打たなければならぬというので、官房長官、厚生大臣並びに主管大臣でありまする法務大臣におきまして鋭意努力中でございます。
 以上が大体今日の第三国人の戦争受刑者に対して行われておる援護措置並びに最近の状況でございます。

○森(三)委員
 今一応の御答弁がありましたが、巣鴨の戦犯第三国人、主として朝鮮並びに台湾本島におられた方方だそうですが、この方々が五十八名かおるそうです。これらの方々が仮釈放になって、仮釈放という形においては完全な釈放でないために本国に帰るわけにもいかない。やはり一般的に日本の領土内にいなければならぬ。そうしますと、帰るわけにはいかないし、こちらにいなければならない、その間やはり生活をしなければならぬ。そうしてまた落ちつく先がなければ結局どこへ行く、安定した居住する家屋とか設備がない。あなたは今若干の配慮をしようとか、あるいはその他のめんどうを見ていくと言われておりますけれども、根本的に生活ができるという対策を立てなければ問題の解決はできないのではないかと思うわけなんです。それにつきましては、やはり所管のあなたの方でも根本的な対策をお立てになっておるかどうか。御答弁を願いたいと思います。

○川崎国務大臣
 この問題につきましては、厚生省としても十分配慮をいたしておりまして、たとえば住宅の問題につきましてはただいま二名の戦犯釈放者に対しては大森寮という引揚者の寮がありますが、そのうちの一室を開放いたしまして、これが受け入れ態勢を整えつつあるわけであります。しかしこの間もその受刑者と同じ運動をせられておる方々に会ったのでありますが、どうも大森寮のへいの上にはバリケートがついておる、あるいは外に出ようとするときに当って、営門みたいに門番がついておるというようなことを言っておるのであります。しかし私は一昨日会いまして、大森寮というのは十分に調査をしてみると、バリケードではない、門の上に、いわゆる昔金持ちがどろぼうが入られると困るのでガラスの柱みたいなものを立てた、あれを立てておるだけであって、十分施設もあるのだから、その点はお互いに話し合いで進めてもらいたいということを申し上げたわけであります。お名前を申し上げて恐縮でありますが、社会党の田原さんもその際においでになられまして、そういうことについては今後できるだけあっせんをするから、従って話し合いにはやはり応じてもらいたいということを申しておるような次第でありまして、住宅はもとよりそれから職業のあっせん等も厚生省が主体になってやろうと思っております。これは、戦争の犯罪にかかった者の跡始末につきましては、大体法務省が主管のような形になっておりますが、どこで主管をするというようなそういう窮屈な考え方ではなしに、生活その他の問題につきまして、厚生省がむしろ主体になってやってもいいのじゃないかというふうにさえ、積極的に私は思っておる次第でありますが、今日解決しておらないのはむしろ生業資金の方の問題なのです。これを一人三十万円ずつ出してくれというのでありますが、これをやりますと、またただいま御指摘の通り五十八人もいるわけでありますから、相当な金額に上るわけであります。これを国民金融公庫あたりから多少の融通をしてもらおうと思って、最初にはこういうことも考えたのでありますが、今日これは日本人庶民を相手にしておるものでありますから、これも出ないということになりまして、非常に内閣としても苦慮いたしておるのでありますが、何とか三十万円そのものが出なくとも、政府としてもできるだけのことをいたしたいと思いまして、ただいま厚生大臣である私の方から官房長官に、間に立ってくれて、一つ大蔵大臣との問を取りまとめてくれないかということを、けさ実は申し出たような次第であります。ただいま仰せのことにつきましては、万全の努力をいたすつもりでございますので、一応これをもって答弁といたします。

○森(三)委員
 生業資金を貸付してやるようにお骨折り下さっておるのはたいへんけっこうなのですが、私は生業資金を三十万円とか幾らとかの金を出すだけでは危険ではないかと思うのです。やはりその金でもってほんとうに生業につき、仕事そのものが成り立っていくような、そこまでの指導というか、めんどうを厚生省で見てやらなければ、ただ金を貸してやった、これをやってみたところが失敗してしまったというのでは何にもならないと思うのです。だから厚生省としてはそこをあたたかい気持でもって手を差し伸べてあげていただきたい、かように思うわけでありますが、そういうこともお考えになっていらっしゃいますかどうか。

○川崎国務大臣
 先般もすでに受刑を終えて出てこられた人々が見えましたが、その方々を見ると、やはりかつて兵隊さんでありましたから、今日では三十五、六才から四十四、五才に該当せられる方だと思うので、少し休養期間を与えれば十分にあらゆる職業に耐え得るだけの肉体条件を持っておる、こう私は考えましたので、職業のあっせんにつきましては十分努力をいたすつもりでございます。

○田原委員
 厚生大臣が、第三国人の巣鴨出所後における生活の問題について非常に心配しておられることはわれわれも認めるのであります。ただいまの御答弁の中にも、住宅と職業については最大限のめんどうを見るということでありますが、その生業資金の問題でありますけれども、これも厚生省が中に入りまして御協力願えるならば、その道も多々あると思うのであります。たとえば台湾にしても朝鮮にしても、御承知のように、漁業ができますから、これは農林漁業金融公庫からの貸付を受けることができる。生産者組合というものがありまして、実際に魚を取る者が七名以上で漁業に従事するということになれば、漁業資金は一種の連帯保証で貸し付けることができるということになるので、これも一つの方法だろうと思います。
 それから内地にとどまって、いまさら本国に帰れないというので出所者だけで何か小さな商売をやろうということになると、中小企業金融公庫並びに商工中金の規定によると、現実に仕事をする四人以上の者が共同して店舗を張って商売をやる場合には、資金を借りることができるようになっておるが、問題は外国人であるかどうかということにあるのでありまして、これも引き続き日本におるという意思があれば、帰化等の点も考慮してやっていただきたい。何しろ戦争期間中十数年にわたって日本に協力した方々でありますし、人間の数も五十八名とか百名という大した数ではありませんので、彼らがほんとうに日本人になるというのなら、その帰化の手続についても積極的に出入国管理庁等にもごあっせんを願う、こういうふうにして足らざるを補う努力をしてくれるならば、私は彼らも満足して働いてくれると思いますので、どうかこの点に対して御努力していただきたいと思いますが、これに対する大臣のお考えを聞かせてもらいたい。

○川崎国務大臣
 ただいまは、田原委員から生業資金の問題につきまして、むしろいろいろな借り方についての御教示を願ったと思っております。私の方としましても、もとより十分研究はいたしておりますが、なお足らざる点もあるかと思いますので、ただいま御教示願ったようなことについては十分研究いたしまして善処いたすつもりでございます。

 

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最終更新:2010年03月17日 01:35
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