19521111・15回衆 - 法務委員会(犬養法務大臣答弁)

説明:(中央更生保護委員会事務局長、外務事務官)齋藤三郎

答弁:(法務大臣)犬養健

○田嶋委員長
 次に平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関し、政府より説明を聴取することといたします。なお政府側の説明が終りましたら、委員の方よりの発言を許すことにいたしますから、あらかじめ委員長のもとまで発言者は御通告を願いたいと存じます。それでは政府の説明を聴取いたします。齋藤説明員。

○齋藤説明員
 巣鴨在所者のことにつきまして、私からもつぱら赦免、仮出所、減刑等の勧告等のことにつきまして、御説明を申し上げたいと思います。
 巣鴨におられるところの戦犯者につきましては、平和条約第十一条によりまして、日本国が戦争犯罪法廷の科した刑を受諾し、その刑を執行する。それからこの在所者の仮出所、減刑、赦免等につきましては、平和条約十一条によりまして、日本国が勧告し、関係国、すなわち裁判をやつた国が、それに同意する決定をした場合に、初めて日本政府がそれぞれのさような措置をとり得る。こういう条約に相なつておる次第でございます。かかる条約がございますので、政府といたしましては、平和条約発効後、それらの赦免なり減刑なり仮出所の手続に関する法律といたしまして、法律第百三号を国会にお諮りをして御審議を願いまして、成立いたしまして、そうして四月二十九日、平和条約発効の日にそれを施行いたした次第でございます。ただちに政府といたしましては、その勧告に必要な調査を開始いたしまして、同時にまたこの手続について、関係国の同意を求めました。調査完了次第、仮出所その他の勧告をいたして参つたのでございます。今日までに仮出所につきましては、仮出所の資格を有する人についてはほとんど全部勧告を関係国にいたしてございます。その数はお手元に差上げてごらんをいただいております表の三のところにございますように、仮出所の適格者の総数三百九十六名のうち、仮出所の勧告済の者が三百五十八、目下その手続が進んでおり、近いうちにその手続が完了するという者が三十八、こういうことになつております。と同時に先国会において衆参両院におかれまして、政府に対してこれらについての赦免、その他の寛大な措置をとるように関係国に勧告するなり、その他あらゆる措置をとるようにという決議がございますし、また国民からの多数の署名運動等もございまして、今日までに全面赦免の勧告をいたしております。
 まず最初に、表の第四にございますように、六月三十日、これはこの表をつくりましたのが、私の方の局で、その手続についてつくりましたので、結局それが外務省に参りまして、関係国に勧告になりましたのはその後でありますが、とにかく六月の末、フランス関係、これは七月の十四日がフランスの革命記念日でございまして、フランスとして非常に大きい国家的な喜びごとでございますので、その際にフランス関係の戦犯者三十九名全員について、フランス政府に対し赦免なり、赦免がもしどうしても不可能な場合には、できるだけ短い刑期に減刑するようにという勧告をいたしたのでございます。と同時に巣鴨に入つておりますところの朝鮮及び台湾の人がございます。これは総数三十人ございます。これらの人々は、平和条約の発効によりまして、日本の国籍を失い、かつ国内的に朝鮮の動乱その他非常な変動もございますが、巣鴨におりますために、直接行つて家族に会うこともできないというような非常に気の毒な事情もございます。またこれらの人々が非常に赦免を切望し、最高裁判所に人身保護法による救済を申し出たというような非常に窮迫した事情も察知せられますので、これら三十人全部について、米、英、濠州に対し赦免の勧告をいたしたのでございます。この表の説明に相なりまするが、これは三十人に対して三十五の勧告が出ておる勘定になつております。イギリスが二十名、オランダが十名、濠州が五名、こういうことになつておりまして、三十人に対して三十五の勧告をしたような表になつておりますが、これは実は戦犯者の特殊事情といいますか、イギリス関係の戦犯者で同時に濠州関係というふうに考えられる、どちらの関係国か、濠州なのか、イギリスなのか、はつきりわからない、こういうものがございまして、それらについては、両方に勧告いたしましたので、結局かような実数よりも多い勧告数におります。ただいま申し上げておりますのは表の第四であります。
 次に日華条約の発効によりまして、中国関係九十一名の赦免が可能になりましたので、国内法の手続として一応勧告をして勧告の決定をいたしたのが九十一名でございます。これが表の第四の七月十七日の欄にございます九十一名中国関係、これでございます。これは発効の即日釈放いたしたのでございます。
 次に残つております人について八月八日国内の熾烈な赦免の要請にこたえるべく、B、C級全部についてそれぞれ関係国に赦免の全面勧告をいたしたわけでございます。
 次に十月二十日になつておりますのは、今回の立太子の礼にあたり、できるだけ巣鴨におる人について寛大な措置をとつてあげたい、かような意味から赦免の勧告決定をいたし、数日前に外務省において関係国にそれぞれ赦免の勧告をいたしております。なお八月八日と若干違いますのは、八月八日の際にはBC級だけでございましたが、今回はA級の十二名についても赦免の勧告をいたしたのでございます。従いまして重ねてあるいは二度、三度というふうな赦免の勧告がなされており、人によつてはたとえば朝鮮の人、あるいはフランス関係の人は七月にも六月末にもいたし、八月にもいたし、また今回立太子の礼にあたりましても勧告いたした、こういうようなことになつております。これらの勧告によりまして、外務省はそれぞれの機関を通じ、あらゆる機会を利用して勧告の進行するように、実効をあげますように努めて参つたのでございますが、最近までその実を得なかつたことはまことに私どもも残念と存じておつたのでございます。ただ幸い十月の二十八日アメリカ政府から初めてアメリカ関係の戦犯者二名について、仮出所を許す決定がございまして、ただちに仮出所の手続をとつたのでございます。そうしてその後続いて最近まで二回四名、五名全部合せまして三回にわたり十一名の仮出所の決定がございまして、それぞれ適当な保護態勢を整え、家族の出迎えとかその他の準備をいたしまして仮出所をいたしております。
 なお続いて米国関係においては仮出所の決定が来るもの、その点については明るい見通しを持つているような事情でございます。その他の英国、オランダ、フランス等につきましても、アメリカのかような好意的な措置は必ずよい影響を与えているものと存じておりますが、政府といたしましても、積極的に赦免なり、減刑なり、あるいは仮出所なりの決定を得るように極力努力をいたしたい。かように存じております。なお巣鴨の在所者にとりまして、一つ大きな問題といいますか、問題は一時出所という制度の運用でございます。この法律の第二十四条をごらんいただきたいと存じますが、お手元に差上げてある資料の九ページでございます。これは条約には何も規定はございませんで、私どもの考えといたしましては、刑の執行の一態様として本人の両親やその他密接な関係のある人が危篤であるとか重傷であるという場合には、人道的な見地から短期間その人を仮に一時出所させるという制度でありまして、アメリカもこの制度を実施いたしておりまして、この法律についても同意をいたしておるのでございます。この制度はさような緊急の事態でございまするし、執行の一態様であるというような考え方から、日本側の機関だけの決定で実行ができるようにいたしてございます。この制度の運用をかような事態に間に合うように適正に実施いたして参つておりまして、その数も相当の多い数になつております。ただこの法律の規定がきわめて固定的に書いてありまするために、たとえば両親はないが、両親と同じように自分をはぐくんでくれたおじいさんがある。そのおじさんが危篤であるとか、なくなつたという場合には、この規定だけでは出し得ないような規定になつておりますので、これにつきましては、目下これを適当なる限度に改めたいと考えまして、いろいろと研究いたし、この国会に御審議をお願い申し上げたい、かように存じておるのでございます。
 以上きわめて概略でございましたが、巣鴨の赦免なり、減刑なり、それらの勧告に関しますことにつきまして御説明申し上げた次第でございます。

(中略)

○田嶋委員長
 速記を始めてください。
 それでは犬養法務大臣から戦争犯罪人の取扱いに関する巣鴨プリズンの最近の状況はどうなつておるか、それから特に国内の普通犯罪人と処遇をどういうふうに異にしておるか、これが赦免、仮出所等にどういうふうに政府は努力を払つておるか等について簡単にひとつ。犬養法務大臣。

○犬養国務大臣
 お答えいたします。いわゆる巣鴨プリズンに在所しております戦犯者諸君の問題につきましては、私も任官以前からあすこにあがりまして実情を拝見したこともございますし、まことに胸に迫る思いをいたしておるのでございます。御承知のようにあすこに入つておられる人も講和をきつかけとしてもつと釈放問題が促進するのではないかという期待を持つておつたのでありますが、講和以前は御承知のようにGHQの取扱いでありまして、すぐに同じ東京都内で話がつく。講和後はアメリカ政府の大統領直属の委員会に移りまして、自然問合せ等も時間もかかる。また同じ東京都内で話を伺うのとは、多少遠隔地のために、率直に申して、問合せ、連絡等の点について歯がゆい点もございます。そんなことで中におられる方々は大分心持としてあせつておられるところを私も拝見して参りました。また留守家族の人たちも大分生活問題なんかありまして、これは一日も早く何かの手を打たなければならぬということを痛感しておるのでございまして、去る四月講和発効と同時に必要な調査を即刻始めまして、今日までに仮出所の資格を認める、許すに至つた方々についてはすべて関係国に対して仮出所の勧告をいたしておるのでございます。それをやりました事例について申し上げたいと思いますが、去る七月十四日フランス共和国の記念日にあたりまして、フランス関係戦犯の全部に対しまして、赦免または減刑を勧告いたしたのでございます。また講和の発効に伴いまして、日本の国籍を失いました韓国と中国人の戦犯全員、ちようど三十名ほどでございますが、これについても、これらの関係国でありますイギリス、オランダ、オーストラリアの各政府に対して、私どもは全面赦免を勧告いたしました。また八月に至りまして、B、C級全員の全面赦免を関係国に勧告いたしております。その次に、今回の立太子の礼を挙行されるにあたりまして、まことに国民をあげてのおめでたい日でございますから、こういう機会にやはりこのおめでたい日の陰に泣いておられる同胞のためと存じまして、さらにこれを全部勧告をいたしたわけでございます。その次は、A級戦犯全員に対しても、関係国に対して赦免の勧告をいたしているのでございます。
 こういうようにあらゆる機会をとらえて、外務省を通じて勧告をやつておりますが、なかなか個々の問題がはかどらないので、私ども実は憂慮いたしていたのでございます。ところがアメリカの方の大統領直属の委員会でも、全部をいきなり赦免するということについては、そういうような議がまだまとまらないのでございますが、一人一人の方の場合については、私どもの関知する限り、きわめて好意を持つてやつておるように存じます。その結果、十月二十八日に初めて二名の戦犯者についてアメリカ政府から仮出所の決定通知がございまして、それから引続き二度にわたりまして、九名の仮出所を認めて参りました。ちようど十一名、アメリカ政府の処置による仮出所が行われているのでございます。私どもとしましては、B、C級及びその次はA級戦犯全部を釈放してくれ、こういうことを申しているのでありますが、今の状態におきましては、一人々々の場合を調査して、できる限りの努力をもつて仮出所を認めるという方針でやつているのでございます。
 そういうわけでありまして、遠隔の地で行われていることに対して、戦犯者の御家族方もさぞかし焦慮と憂慮の心持が深いことと思いますが、今後とも全力をあげてこのことに努力いたしたいということをここにお約束申し上げたいと存じます。

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最終更新:2010年03月17日 01:59
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