19910404・120回参 - 予算委員会(下条厚生大臣他答弁)

質問:竹村泰子

答弁:(厚生大臣)下条進一郎、(外務大臣)中山太郎、(大蔵大臣)橋本龍太郎、(外務省条約局長)柳井俊二、(法務省刑事局長)井嶋一友

○竹村泰子君
 (前略)
 私は四月一日の質問で、B、C級戦犯の方々のことに触れました。九百二十七人の戦犯の方があの当時巣鴨プリズンにおられました。その中で二十九人の韓国・朝鮮籍の人と一人の台湾の人がおられたわけです。一九五二年七月この人たちが、私たちは日本の国によって強制的に連行され働かされたが、日本人ではないとして、人身保護法による釈放請求の裁判を起こしました。この変則的でいきなり最高裁という裁判で、どのような理由でどのような判決が行われたでしょうか。

○政府委員(井嶋一友君)
 昭和二十七年七月三十日に出ました最高裁判所の請求棄却の判決の理由でございますが、いわゆる平和条約十一条が日本で拘禁されている日本国民に対して極東軍事裁判所等が科した刑を日本が執行することとしているところ、同条による刑執行の要件としては刑が科された当時日本国民であれば足り、その後日本国籍を喪失しても日本の刑執行義務に影響を及ぼさないことを判示したものでございます。

○竹村泰子君
 平和条約発効後の国籍の喪失または変更も罪には影響がなかった、右の義務には影響を及ぼさなかったわけですね。
 日韓請求権協定によって最終解決が図られたといいますけれども、この協定を受けて韓国で制定されました対日民間請求権申告法では、在日の人たちの取り扱いはどうなっておりますか。

○政府委員(柳井俊二君)
 お答え申し上げます。
 一つお断りいたしたいのでございますけれども、御質問の通告をいただきましてから韓国側にこの正文の確認をする時間がなかったものですから、私とりあえず手持ちの仮訳に基づいて御説明させていただきたいと思います。
 ただいま御指摘の法律は一九七一年に公布されたものでございまして、その第二条におきましてこの請求権申告の対象の範囲を規定しているわけでございます。二つの面から規定しております。第一点は人的な範囲でございまして、第二点はこの請求の権利の範囲でございます。
 まず、人的な範囲につきましてはこの第二条第一項におきまして、この法律の規定による申告対象の範囲は、一九四七年八月十五日から一九六五年六月二十二日まで日本国に居住したことのある者を除いた大韓民国国民となっております。
 次に、権利の範囲でございますが、そのような大韓民国国民が一九四五年八月十五日以前、その後括弧はちょっと飛ばさせていただきますが、八月十五日以前に日本国及び日本国民に対して有していた請求権等で次の各号に掲げるものとするとございまして、次の各号というのが第一号から九号までございます。そこで、一号から八号までは、例えば日本銀行券でございますとかあるいは有価証券、預金、海外送金、寄託金、保険金というようなものを挙げまして、九号のところで、日本国によって軍人軍属または労務者として召集または徴用され一九四五年八月十五日以前に死亡した者というものを挙げているわけでございます。
 したがいまして、この法律におきましては、私、外国の法律でございますから有権解釈はできませんけれども、少なくとも文理上はいわゆる在日韓国人の方々は除かれておりまして、そして請求の権利の対象という面におきましては、この九号におきまして四五年八月十五日以前に亡くなった方だけが対象になっておりますので、一九四七年以降日本に居住した在日韓国人というのはこの面でも落ちているわけでございます。
 なお、具体的なことは別途また大統領令において定められております。

○竹村泰子君
 対日民間請求権申告法が在日の人を除外した規定と、日韓協定二条二項(a)の表現とは全く一致しているのではないでしょうか。外務省、厚生省両方にお尋ねいたします。

○政府委員(柳井俊二君)
 いわゆる韓国との請求権・経済協力協定の規定との関係でございますが、もとよりこの協定の方は日韓間の条約でございますので、韓国側の国内法とは趣旨、目的等において若干の相違がございますので、この規定の表現ぶりが完全に一致するというものではないわけでございます。
 ただ、ただいま御指摘の点につきましては、御案内のようにこの協定の第二条におきまして、この括弧書き的なところはちょっと飛ばさせていただきますが、一項で「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、」「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」と規定しておりまして、第三項で、長くなりますから省きますが、要するに、この財産、権利、利益につきましては、お互いに他方の締約国の管轄下にあるものに対してとられた措置についてはいかなる主張もしない。また、財産、権利、利益に当たらないような請求権につきましては、同日、同日というのはこの協定の署名の日、署名の日以前に生じた事由に基づくものに関してはいかなる主張もすることができない。いわゆる請求権放棄という形で処理をしているわけでございます。
 ただ、第二条の第二項におきましてそのような処理の例外というものが二つ挙げてございまして、ただいま御議論をされておられます在日韓国人に直接関係ございますのは二項の(a)というところでございます。二項の(a)は「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益」というふうに挙げてございまして、こういうものについては第二条の一項、一項は最終的な解決でございますから適用があるといえばあるのでございますが、三項のようないわゆる請求権放棄あるいは国内措置に対する請求権の放棄というものは適用がない、そういう例外になっておるということでございまして、この部分の表現は確かに対日民間請求権申告に関する法律の先ほど読み上げました表現と一致しているわけでございます。

○竹村泰子君
 ですから、厚生大臣、この人たちは罪は日本人として受ける、けれども援護は本国からも日本からも受けられない、こういう谷間にある人々なのです。こういう人たちがいることを御存じでしたか。どのようにお考えになりますか。

○国務大臣(下条進一郎君)
 今外務省からお話がありましたように、日韓の関係につきましては一通り今のような筋道で整理をいたしておるわけでございます。したがって、韓国の方の援護に関しましては、これは御承知のように援護法は恩給法に準拠しておりますので、その面での対象はすべて日本国籍にある者ということに限定しておりますので韓国の方には適用されないということで、サンフランシスコ条約の規定に基づきまして韓国の方との間は日韓の協定で決める、こういうことになっておりますので厚生省関係の法の適用はない、こういうことになるわけでございます。

○竹村泰子君
 一つ例を申し上げます。川崎に住む石成基さんという方です。この人は日本海軍の軍属として徴用されて重傷を負い、今も入院生活を送っている在日の韓国人です。このほど県を通じまして国に対して戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく障害年金を求める行政審査請求をなさいました。石さんと同じ立場に立たされている在日の人たちは少なくありません。援護法の附則で「戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない。」とあるのは、例えば日韓間で問題が解決されるまでという意味なのでしょうか。石さんは、戦時中は日本国籍を強要され、戦後は一方的に日本国籍を剥奪された。それでいて日本国籍がないから援護法が適用されないというのはおかしいと言っています。
 また、石さんは、今の厚生大臣はいい人ですかと応対した県援護課の職員に聞かれたそうです。そして、日本政府は自衛隊機の中東派遣を人道上の問題と言っているが、四十年以上も放置されている在日韓国・朝鮮人の戦後補償は人道問題ではないのかと聞いておられます。こういうことを、人間として、厚生大臣、どう思われますか。

○国務大臣(下条進一郎君)
 石さんのお話は私も承っておりまして、戦時中に被弾をされて右の手をなくされたり、後また脳出血を起こされて大変に御苦労していらっしゃるお立場を重々伺いまして、御同情申し上げておりますし、また御病気が一刻も早くよくなられるようにと心から念願しているわけでございます。
 それで、今のお話でございますけれども、請求につきましては本年一月二十八日に神奈川県が受理いたしました。そして、二月四日に神奈川県の方から厚生省の方に進達されておりまして、現在厚生省において審査を行っているところでございます。具体的な処遇の内容についてはまだ申し上げられる段階ではございませんけれども、先ほどお話し申し上げたように援護法の規定によって行うということになるわけでございまして、援護法の規定は先ほど私が御説明したような形になっておるわけでございます。
 なお、大変お気の毒な事情でございますので、一般の社会保障の充実という形の中で何とか処理ができないものか、こう考えております。

○竹村泰子君
 何とか即却下するようなことではなくて温かい血の通った救出の道を考えるときではないかと思います。よいお返事を期待しております。
 アメリカとカナダは、日系人の強制収容問題について謝罪と補償を決断して実行しました。ソビエトもポーランドのカチンの森の事件を認知し、またシベリア抑留について歴史の見直しを進め、徐々に名簿も公表されております。こうした歴史の清算を通して新たな国際社会でみずからの正義の実現を自国の将来のためにもとったものと私は考えるんですけれども、日本は調査すらまともにしようとしていない。これは国際情勢の流れに反するものであり、日本は良心を持たない国なのかと私は思うわけですけれども、外務大臣、この姿勢をどう思われますでしょうか。

○国務大臣(中山太郎君)
 戦後日本は各国との賠償問題あるいは請求権の問題、いろいろと誠意を持ってやってまいりましたが、今委員から御指摘のように日本は良心を持っていないのかというお話でございますが、私は日本は良心を持って行動していると思っています。

○竹村泰子君
 最近外国人教員の採用拡大とか、また高野連が朝鮮学校の大会参加を認めるとか、うれしいニュースが幾つかございます。また、日韓二十一世紀委員会が歴史教育の再考を求めるという意向を出しております。
 これは八九年秋の世論調査で、日本人の五人に一人が植民地支配を知らなかった。私は、若い人たちだけの調査だと五人に四人は知らないのではないかと思いますけれども、日韓の歴史認識の大きな差が改めて取り上げられておりますが、文部大臣、これはしっかりと教育の分野でやっていただきたい。あなたの責任ですが、どう思われますか。

○国務大臣(橋本龍太郎君)
 確かに承りましたので、海部総理が帰国されたらそのとおりお伝えをいたしておきます。

 

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最終更新:2010年03月16日 21:38
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