19820401・96回衆 - 社会労働委員会(篠原法務省訟務局民事訟務課長等答弁)

質問:米沢隆

答弁:(法務省訟務局民事訟務課長)篠原一幸

○米沢委員
 先ほどから議論しておりますように、いわゆる戦死傷者の補償法が、現行法では国籍要件が入っておるから、平和条約の発効日に外国人宣言をされた台湾人あるいは朝鮮人等はその法の適用から締め出されておる、こういう大変不幸な状態にあるわけですが、ところが日本の法制上といいましょうか、まことに奇妙な手前勝手な法理が私はあると思うのです。
 たとえば、愛知県立大学の田中先生の論文を読みますと、「日本の戦犯に問われてスガモに拘留されていた朝鮮人・台湾人が、平和条約発効時に三十五名いた。」と言われるのですね。そして、同条約十一条によって、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が科した刑の執行は、日本政府に引き継がれたわけです。ところが、朝鮮人戦犯らは、平和条約ができておれたちは日本人でなくなったというのですから、条約発効直後に、人身保護法による釈放請求訴訟を起こされたわけです。事件はいきなり最高裁によって審理されまして、一九五二年七月三十日、大法廷は条約発効後における国籍の喪失または変更は刑の執行の義務に影響を及ぼさないとして、全員一致で請求を棄却した事件があるのですよ。
 大変不思議だと思うのは、日本人でなくなったのだから刑の執行は免除しなさいよというのはノーだ、元日本人で補償してくれと言ったら、元日本人なのだからだめだ。これは法解釈上、法理上きわめておかしい奇妙きてれつな法理がいまだに生きておるわけですね。そうでしょう。同じように元日本人であるならば、元日本人の取り扱いは公平に平等に扱ってもらわねば困りますね。しかし元日本人として戦った朝鮮人や台湾人の人たちは、その元日本人として戦った結果出てきた刑の義務というものは、日本国籍から離れたとしても、それはおまえは許されない、そのまま拘留する。ところがこのような場合、日本の国籍を失った、だから元日本兵だからといって補償をする必要はない。こんな司法判断は逆におかしいのではありませんか。
 法務省はどういう見解を持たれますか。

○篠原説明員
 ただいま先生から御指摘のございました判決は、最高裁の昭和二十七年七月三十日の大法廷判決であろうと思います。
 この判決は、戦犯として刑に処せられ、拘禁されていた旧朝鮮並びに台湾の方でございますが、平和条約発効と同時に日本国籍を喪失したのであるから、平和条約第十一条に該当することはなく、同条による刑の執行を受ける理由はないとされまして、人身保護法による釈放を求められた事案でございます。
 それに対しまして判決は、戦犯者として刑が科せられた当時日本国民であり、かつその後引き続き平和条約発効の直前まで日本国民として拘禁されていた者に対しては、日本国は平和条約第十一条により刑の執行の義務を負う。法は平和条約発効後における国籍の喪失または変更は右義務に影響を及ぼさないといたしまして、その請求を棄却したものでございます。
 この事案では、主として平和条約第十一条の規定の解釈が問題にされたものでございます。したがいまして、本件の東京地裁のせんだっての判決とは、事案の内容並びに適用法規を異にしているものでございます。先般の東京地裁の判決の中身は、先般来先生からもお話がございましたが、幾つかの論点のうちの一つは、原告ら台湾の人々に対しましては、援護法の附則二項、恩給法九条一項三号の各規定から両法ともその適用がないとされているところから、これらの適用除外規定が憲法十四条の平等原則に違反するかどうかということが争点になったわけであります。
 そういうふうなわけでございまして、この最高裁の大法廷の判決と本件の東京地裁の判決の事案とは、事案の内容、適用法規が異なりますので、一概に法理論上問題があるというふうには即断できないのではないかと考えております。

○米沢委員
 司法の判断だからあなた方が言いにくいことはよくわかる。また、違った事案の訴訟だから、同じ条項をこう解釈したという議論でないことも事実だろう。しかしながら、元日本兵として戦争に参加して戦犯に問われた方は、国籍を失った時点においても日本国民として政府は扱った。ところが、この補償の場合には、国籍がなくなったから、おまえは日本国民ではない、こう言われておるわけですから、単純に言ったらおかしいではありませんかと言うているんだ。そうでございますとおっしゃいよ。

○篠原説明員
 この事件は東京高等裁判所に係属中でございまして審理を受けておりますので、裁判所の判断を仰ぐべき事案と思いますので、意見を述べることは控えさせていただきたいと思います。

○米沢委員
 意見が述べられないということは、いま私が言ったのは当然だと思っているという証拠だな、そういうふうに理解しましょう。

 

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最終更新:2010年03月17日 03:17
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