19550609・22回衆 - 内閣委員会(中尾法務事務官等答弁)

質問:田原春次、(発言)辻政信

答弁:(法務事務官(矯正局長))中尾文策

○田原委員
 法務省設置法の一部を改正する機会に、法務省に巣鴨の第三国人の扱い方について二、三質問をいたしたいと存じます。
 御承知のように、戦時におきまして、朝鮮出身並びに台湾出身の多くの青年を、軍の徴用あるいはその他の用途に立てまして、広く各地に日本軍について出征さしておったのであります。これは現地で戦死した者もあるし、病死した者もあるし、それから終戦後捕虜となって内地に回送されて、現に巣鴨にいまだに残っておる者もあるのです。しかるにこれらの人々に対しての釈放、仮釈放並びに仮釈放後における生活保障等において、まだ政府の方針がはっきり徹底していない点がある。この点についてこの機会に法務省の方針を聞いてみたいと思います。われわれ日本民族からいたしますと、敗戦後にそれ相応のいろんな跡始末をせなければならぬわけでありまして、特に朝鮮は独立をいたし、戦時中日本に協力しておりました朝鮮人も、一応は本国に帰らなければならぬことになるのでありますが、あるいは出身地が北鮮であるから、あるいは南鮮であっても、南鮮の今の政府はこれを受け入れない場合が多い。そういうようなうわさが飛んでおる。お前たちは日本軍に協力したんじゃないかというわけです。出所しても直ちに本国へ帰れない、さればといって東京で釈放されても知り合いもない、特技もない、長年の出征並びに捕虜生活でたくわえもない、そういう意味で仮釈放の時期が来ておっても仮釈放ができない者もある。こういうことがわれわれ議員の間にも多数の陳情があるのであります。日本民族といたしましては、こういう、現在は第三国人になっておりますけれども、かつて日本の戦争に協力しておった人、その人に責任も何もないわけでありますから、こういう方々は数からいっても多数でありませんから、仮釈放の促進と、それから仮釈放と決定したならば、直ちにさしあたっての東京での住居、それからさしあたっての東京における生活、最低の、まあ三十万か五十万くらいは用意してあげなければならぬと思います。進んでは職業のあっせん、本国に帰還する時期がくれば、これに対して本国に交渉して、安んじて残る一生を送れるようにしてあげることは国家の当然の義務であると思います。これはひとり法務省の直接の問題ではないでありましょうけれども、ただいまは法務省の所管にあることでありますから、法務省はこれに対して親切に、なお一人一人に、予算を伴うものは国としてその措置をいたしまして、感謝をもってそういう若い第三国人の今後の生活に対して幾分なりでも協力するようにしたいという気持を持っておるわけであります。以上の問題について法務省の見解をまずお尋ねいたしたい。

○中尾政府委員
 途中から参りましたので、あるいは私聞き漏らしたことがあるかもしれませんが、今回の二人の韓国人の方々の仮釈放のことでありますが、御承知のように、せっかく許可が参りましても釈放までに少し手間取りましたので、その点はたいへん気の毒に考えております。何分にも満期釈放の場合はあらかじめ出られるときがわかっておりますので処置がとれるわけでありますが、御承知のように、仮釈放の許可は突然参ります関係上、突然に直ちに住居の世話をするということがむずかしかったわけで、そういう点で今まで遅れておったわけであります、住まいの点は、幸い都の方に交渉いたしまして、都の方で引き受けてくれましたので、大森の方の引揚寮にきまりました。なお就職の点も二人とも内定いたしておりますので、その二つの点は解決いたしておりますが、ただ生業資金の三十万円という点でありますが、これはもちろん多く差し上げたいのはやまやまでありますが、また多いほどいいわけでありますが、しかしいろいろな関係もございまして、とてもそれだけの金は出すわけには参りませんので、いろいろかき集めまして、大体六万二、三千円という金が出るようになっております。その金は日本人が出ます場合にもほとんど一文も持って出ることができないわけであります。それだけの努力は、私たちといたしましてやっているわけでありまして、現在のところではそれで一ぱいでございます。その程度でがまんをしていただいて、近く出ていただくようにいたしたい、こう考えておるわけであります。

○田原委員
 この二人だけの問題ではないのでありますが、この二人につきましても解決しない問題がある。もちろん仮釈放は突然の命令だということは想像できますけれども、しからば仮釈放が来たならば、直ちに釈放してやるというための扱い方としては、刑務所と一般社会との中間的な生活のできる、同じ構内でも、出所準備なり用意のための住居等も、計らい方によってできるわけであります。それから二名だけでなく、旧台湾国籍の者からも、多数陳情が来ております。これもそこに入っておるはずであります。そこで法務省の予算の範囲で、六万円でも贈られるということは大へんなことだと思いますけれども、今日の物価の問題、それから長い間日本の生活になれていない人ですから、それだけの金額ではなかなかうまくいかぬ。われわれは日本の軍人その他官吏の諸君の恩給についても、この貧乏な日本で、できるだけ配慮しようという気持はあると同様に、かつて日本の国籍でありました朝鮮、台湾の人たちであり、しかも軍務に従事されて危険なところに行っておって、かれこれ十年前後も協力して、牢につながれて六万円やそこらで出すということはいかにも貧弱で、国民としてはまことに気の毒に思うのです。ですから、この増額については、法務省として許せる最大限度の努力をするということのほかに、いま一度大蔵省あるいはその他と交渉して、可能なる財源を見つけて、たとい即金ではなくて何回かに分けてもやるとか、あるいはまた住居を用意してやるとか、就職については優先的にあっせんしてやるという努力をすべきじゃないか。こういう点についてもいま一段の努力を願いたい。これに対するお考えを重ねて承わりたい。

○中尾政府委員
 ただいま申し上げましたように、私たちといたしましては、最大限度できるだけのことをやっておるつもりでございます。現在のところ、これ以上のことはできかねるだろうと思います。ただしかしこの就職なんかの点につきましては、これまであまり就職できなかったことはございませんし、必ずこれはあっせんできる自信を持っております。なおまた住居のことにつきましても、一ぺんにそれだけの方がまとまって出られるわけではありませんので、多少日本の方に比べて日数はかかるかもしれませんが、この方もその都度解決していくということには自信を持っております。この点につきましては、なお一そうの努力をいたしたいと考えております。

○辻(政)委員
 関連して。田原委員の質問に対しては、私もある程度は傾聴すべき点があると思います。私のところへも巣鴨に在監中の朝鮮人が、三十万円の金をよこせとか何とか陳情を持って参りました。いろいろその内情を探ってみますと、次のようなことが出てきている。それは巣鴨の戦犯の人たちは、大部分は非常にまじめな人たちですが、ごく少数の赤色グループもおりまして、それがかなり朝鮮人を扇動しておるという事実であります。朝鮮人のりっぽな人は、少しも差別をしないで、そうしてむしろ日本人よりもあたたかい気持でもって国がめんどうを見てやるということは、趣旨においては異存がありませんが、この運動の影に糸を引いておる者があるということを、十分御承知の上善処していただきたい。
 それからいま一つは、朝鮮がもうすでに独立しまして、韓国代表団があるのであります。出た後の世話について、韓国の代表団が自分の同胞として相当めんどうを見るように、法務省の皆さんからも外務省からも交渉なさったらいい。日本だけで処理すべきものではない。その努力もあわせて講じていただきたい。同時にこの努力をされるときには、そういう内部の情勢を考慮に入れられ、善処されんことをつけ加えて申し上げておきます。

○田原委員
 これは四月二十三日の韓国出身戦犯者一同の代表の広村鶴来という人の請願書に基いて申し上げます。現在巣鴨拘置所にいる者が二十人、すでに出所して日本に居留している者が五十人、大体わかっている者は七十人であります。私は出所後の一定期間の生活保障の問題についてただいまお尋ねしているのでありますが、自分たち第三国人の日本における社会生活がどんなに苦しいものであるかは、容易に想像してもらえると思う。自分たちは日本人からは冷眼視され、ときには同胞からも誤解されることがある。かつて紅顔の青少年として徴用された自分たちは、長い戦場生活と牢獄生活のために、今では四十台前後の中年となって、多くの者は何らの手職もない。それでせっかく釈放されても、失業と飢餓のみが自分たちを待っている状態である。そこで次の六点について一つ考えてもらいたいという請願であります。第一は住宅、就職のあっせん(公営住宅または無料で貸与できる住宅)、第二は被服、寝具の支給、これはもとより当然だと思います。第三は一時生活資金の支給、これは先ほどの三十万円というような数字を計算しております。第四は官費による罹病者の治療並びに療養、これまた当然のことではないかと思います。国内には生活保護法という法律もあるくらいでありますから、当然のことだろうと思います。第五が家族の生活援護、これは戦犯としてシベリヤ方面から帰る者に対しては、これがたとい共産党員であれ何であれ、日本政府としては一律にやっておりますので、かりに一、二扇動する者ありといたしましても、それは一々思想の調査もできません。日本政府としては可能な、最大限の生活援護をするのは当然だと思います。第六点は一時帰国の許可、これもおそらく南鮮なり北鮮政府が、このままでは帰国のための出国なり先方への入国を認めるということについて、支障があると思うからでございましょう。以上の六点ですが、これは思想問題ではないと思う。あくまでも日本民族として、朝鮮民族、台湾民族に対する戦時中の協力に対する感謝の意味で、今さらこういう人々から請願を受けなくても、これらのことは当然考えなければならないことだろうと思います。今辻委員の御意見もありましたが、思想の問題は、これは日本人の中にも共産党員がいるのでありますから、朝鮮人の中にもいることは当然だと思います。また扇動という事実もあるかもしれません。しかしそれは事前に先回りをして、十分親切を尽してこれらのことを解決しておけば、扇動ということはなくなるのです。それをじんぜん予算がないとかその他手続をおくらすことは、かえって無色の者も思想的に影響される場合もあると思いますから、そういう思想問題を離れまして、法務省としては生活保護の関係で厚生省と、あるいは予算等の処置の関係で大蔵省などと折衝され、最大限の努力を願いたい、そういう意味で私は申し上げているのであります。これは大臣の答弁を願いたいのですが、担任している法務省の出席されている方から、はっきりした決心を伺いたいと思います。

○中尾政府委員
 家族の援護などの点につきましては、別に日本人と差別待遇を法制上いたしているわけではございませんので、内地におります家族に対しましては、やはり内地人と同じように保護を受けているわけであります。ただ外地におります者の家族に対しては、事実上保護を受けることができない場合があるわけであります。しかしそういう場合のマイナスを考えまして、特別に第三国人の人だけに対して、大した額ではありませんが、見舞金のようなものを差し上げているのであります。なお病気の場合の医療というものは、これはもちろん所内ではいたしております。なおまた外に出られた場合には、これは一般の社会保障の方法によって保護を受けているわけでありまして、できる限りの力をいたしているつもりでございますが、なおまた一そうよく研究してみることにいたします。

 

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最終更新:2010年03月17日 02:11
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