ガンダムビルドファイターズエロパロ

 

『世界大会の陰で』

 

 

 

 

 

 

 

  1

 

 

「それにしても今日はいつもよりだいぶ早く終わったな」

 会場のエントランスホールにある時計を見上げたレイジがそう言うと、セイ、チナ、ラル──残りの全員もその視線を追った。時計の短針は真上を差したばかりであった。

「まさか昼に終わってしまうとはワシも思わなかったよ」

「俺、試合の最中アクビしてたわ」

「玉を投げ入れてただけだったからね……」

 呆れたような顔のレイジに苦笑しながら合いの手を入れるセイ。この日も本戦前の前哨戦とも言うべき予選の第五ピリオドが行われたのだが、その競技内容はなんと玉入れだったのだ。

「でも運動会を見てるみたいで楽しかったよ」

 チナが微笑みながらそう言うと、セイはトホホとため息をついた。

「見てる方は楽しかったかもしれないけど……個別にポイントを争ってるのに、まさかざっくり二手に分かれて紅白戦をやらされるなんて……」

「まあしかし、どんなバトル方式が飛び出てくるかわからないのが予選ピリオドの面白さでもあり、怖さでもある」と、ラルがフォローするように言う。「戦争も二つの陣営に分かれて戦う場合が多い──敵と味方が明確でなければ何と戦っているのか分からなくなるからな。兵器としての設定があるガンプラとしては、集団を大まかに二つに割る競技を入れてくるのも理解できなくはない」

「なるほど……」

と感心したセイは、表情を引き締めた。

「そっか……でも、改めて思いました。これまでもそうだったけど、予測できない変則的なバトルが次々と来る……。やっぱり世界大会は一筋縄じゃいかないって……」

 セイの真摯な言葉にラルはうんうんと頷く。

「初日のような勝ち抜き戦、その翌日のロワイヤルとまっとうなバトルが来るかと思えば、一昨日の野球一騎打ちや今日のような集団玉入れ……世界中から集まった強者達をふるいに掛けるため、どんな形式のバトルが飛び出してくるかまったく予測が付かない。だが重要なのはそこではない」

「と言うと……?」ごくりとつばを飲むセイ。

「トーナメント形式の決勝とは違い、世界の強豪を相手にするのは一度では済まないということだよ。何日にも渡って何度も鎬を削り合う。しかも、日を追う毎に本戦に駒を進める力を備えた者だけが厳選されてゆき、勝負はますます苛酷になってゆく……。ある意味、決勝よりもタフな消耗戦、持久戦を強いられるのがこの予選だと断言してもいいぐらいだろう」

「そうか……そうですよね、本当……油断大敵……ですね」と、セイはグッと拳を握って見つめた。「油断してるつもりはないけど、気を抜いたらあっという間に何もかも終わってしまう……そんな気がします」

「イオリくん……」

 チナは心配そうにセイを見つめた。だが次の瞬間、

「なーに辛気臭えこと言ってんだよっ!」

と、いきなりレイジがセイに飛びかかり、相棒の首をがっちり締め抱えた。

「ウリウリウリ!」

「なっ、ちょっ、ぐへ、レイジ……!?」

「俺達は今日も勝ったんだぜ!? もっと喜べ、もっと自信を持て!」抱えた頭を揺さぶるレイジ。「勝ったのに負けたような台詞言ってんじゃねー!」

「ぐ、ぐるしい…………か、勝って兜の緒を締めよって言葉があってね…………!」

「知るかンな言葉! 悩んでも始まらねえんだよ、勝負っつうのは」

 レイジはやっとセイの首を放し、揚々と腕を振り回した。

「それよりメシだメシ! パーッと何か美味いモン食いに行こうぜ!」

「あいたた……まったくレイジときたら…………」

「イオリくん……」

 締められていた首を抑えるセイにチナが近寄った。

「委員長?」

「レイジくんの言うこともわかる気がする。あんまり色々考えすぎても何も進まない時があるから……余計なことを考えずに素直な気持ちに従うのも大事だって……」

「うん、僕もわかってるよ。レイジの言いたいこと」

 チナの心配顔がパッと晴れる。

「……セイ君ならきっと大丈夫。だって、あんなにすごいガンプラ作れるんだもの。ここまでも順調に勝ち進んでて。私も……もっともっと応援する。だから、セイ君も弱気にならずに頑張ってね」

「あ……ありがとう、委員長…………」

 見つめ合う二人──が、一秒もしないうちにお互いにハッと息を呑んで頬を真っ赤に染め、しどろもどろに俯いてしまった。そんな初々しい二人を、

(あーケツがかゆいかゆい……)

と、尻のかゆみを耐えながらラルは生ぬるい目で見守っていたが、

(それにしても……こんなに可愛くて気立ての良い子に見初められるとは、セイ君も実に果報者だな……)

と、つくづくチナを眺めた。

 アウターキャミソールとデニムのミニスカートという夏の薄着姿は小学生にも思える子供っぽい服装だ。だが、リン子のような成熟した女性が好みのラルであったが、この野暮ったい眼鏡をかけた大人しく目立たない少女が、実はとびきりの美少女と言って差し支えないレベルのスペックを秘めているのにはとっくに気付いている。

 まだ抜け切らない幼さと垢抜けていない私服が子供らしい可愛らしさを演出しているが、眼鏡の下の素顔は子供離れした端麗とも言っていい鼻筋の通った顔立ちであった。躰は細いが痩せすぎず、肉付きに貧相さは感じられない。胸も控えめだが魅力的なバストの形と言えよう。この年頃は膨らみすぎていないのが当然なのだ。腰のラインは厚みのあるスカート越しでも柔らかな丸みを描いているのが容易に判別できる。そしてそれは女性特有のむっちり感が早くも感じられる尻や太ももに続いているのである。脚の長さも申し分ない。

 全体的にまだお子様な雰囲気は拭い去れていないにしても、服装や齢だけで子供と決め付ける“色眼鏡”を外して観察すれば、そのプロポーションは十分な女性的魅力を感じさせるまでに育っていた。中一でこのスタイルの完成度なのだから、将来性は実に大きかった。恋が少女を美しくさせているのかもしれない。

(今時の女子はこんな年齢から経験してしまうマセた子も少なくないらしいからな……女子は男子より成長が早いと言うし。この二人の仲がいきなりそこまで進むとも思えんが、少なくともチナ君は男を受け入れられる腰つきをしている──)

と、そこでハッとしたラルはぶんぶんと激しく首を振った。

(いかんいかん、何を考えているだワシは!)

 大人の悪い癖だ、とラルは自省した。いくら美しい娘とはいえ、キスもまだであろう少女に性的な魅力を感じてしまうとは……これも夏の薄着が為せる技なのか。恋する乙女の発するフェロモンなのか。

(まだまだワシも若いな……じゃなくて、このラル一生の不覚。ワシがこの二人にできることがあるとしたら、大人として若者の恋を支援することではないか)

 そこまで考えた時、ラルはふと何かを思い出した顔つきになった。

「そうだ。どうかね三人とも。まだ日も高いし、食事だけでは暇を持て余してしまうだろう。ここはひとつ、遊園地にでも行ってみるかね?」

「「「遊園地?」」」

 セイとレイジ、そしてチナも頓狂な声を上げて顔を見合わせた。

「……ってなんだ?」

「そこなのっ!?」ずっこけるセイ。「てか遊園地知らないって……」

「うむ……セイ君達も連日の戦いでそろそろ疲れが溜まって来た頃だろうし、時間も十分ある。ここいらで気分転換を図るのもいいかもしれないと思ってね」

と、ラルはズボンの尻ポケットにしまわれていた冊子を抜き取り、手の甲で軽くパンと叩いた。表紙にはガンダムのMSと共に観覧車やジェットコースターなどの絵が描かれており、どうやら遊園地のパンフレットのようであった。

「有名だから君達も知ってるかな? 近年の爆発的なガンプラブームに乗って、ここガンプラの聖地には一大アミューズメントパークが新たに誕生しておる。ワシが滞在している市内ホテルのロビーにもこんなパンフレットが置かれてあってね。こういう事もあろうかと一応取っておいたのだよ」

「ふーん……それってただおっさんが行きたいだけじゃねーの?」

「ふぐうっ!」

 レイジの鋭い指摘にラルは声を詰まらせた。このパンフレットを手にした一番の理由は、

『もしセイ君達が本戦まで勝ち進めば、リン子さんが応援に駆けつける可能性もあるだろう……。そうしたらリン子さんも一日中セイ君の傍につきっきりというわけにもいかんだろうし、デートする時間があるかも知れんな……!』

 ──だったからである。

 そんな彼の胸中を見抜いたのかどうか、セイがなんだかジト目になってラルを見上げる。

「い、いや、バカなことを言うものではないよレイジ君、はっはっはは、ゴホンゴホン」大仰に両手を振って否定し、わざとらしく咳き込むラル。「チナ君も来たことだし、君達を遊ばせるにはうってつけの場所と思ったのだよ。なあに、言い出したワシが金を出すから心配はいらん。君達は思い切り羽根を伸ばせばいい。どうだい、チナ君」

 少女に顔を向けたラルは少年たちに目立たぬようそっとウィンクを送った。

「えっ……あ、は、はい。喜んで!」

 イオリくんと一緒に遊園地で遊べる──思いも寄らなかった素晴らしい提案にチナは内心舞い上がるような喜びを感じた。ガンダムパークならセイとの会話も尽きないだろう。まさに夢のようである。

(もしかしてラルさん、私のために……?)

「ま、俺は別に構わないぜ。おっさんの言う通り、確かにメシ食ったら暇を持て余すしな。時間が潰せりゃ何でもいいや」

「う、うーん……レイジと委員長がそう言うなら…………」

 セイだけはどこか歯切れの悪い口調でそう返答した。

 

 

 

 

  2

 

 

「やっぱり……僕はやめとくよ」

 ドームに隣接する屋内駐車場まで来てラルのジープに乗り込もうとしていたところで発せられたセイの言葉に、残りの三人は、えっ、と驚いて一様に振り向いた。

「イオリくん、なんで?」

 残念そうな顔をしてチナが問うと、

「うん──」と、セイは自分の心中を吐露した。「やっぱり……油断できないからさ。明日どんなバトルが来ても対応できるよう、スタービルドストライクの各部チェックや動作確認を怠りなくやっておきたいんだ」

「っつってもセイ、今日は玉投げてただけじゃん」レイジは納得いかない表情で反論した。「ん? そういや一昨日も同じように球投げてただけか……でもよ、今日はダメージらしいダメージもねーんじゃねーの? 異常があるとも思えねーけど」

と、チナの寂しそうな横顔に目をやりながら言う。

「そうじゃなくて──」

「お前の気持ちもわかるけどよ……にしてもだ、ちょっとぐらい遊ぶ時間は取れるんじゃないか? 夕めし前に帰っても十分なぐらいにさ。操縦してても特におかしい手応えは感じなかったけどな……」

「そうだけど──」

「いや……セイ君の言うことももっともかもしれんな。要はそれぐらいの意志と用心深さがなければ世界大会は勝ち抜けんということだよ」

「おっさん、あんた言い出しっぺだろ。……ま、いーや。じゃ、俺もやーめたっと」

「えっ?」予想外という風に頓狂な声を出すラル。

「いいよ、レイジは行ってきなよ。試合後も仕事があるメカニックと違って、パイロットは気分転換が必要だよ」

「自分の気分ぐらい自分で管理できるさ。別に疲れてもねーし。それよりもそこまで気になるってんなら、俺も付き合うぜ」

「いいの? レイジが動かしてる時の感触を尋ねたい箇所も幾つかあるんだ」

「だと思ったぜ。んじゃ、戻るとするか。メシは何か買って部屋で食えばいいし」

「うん! あ──」

 セイはそこでラルとチナをすっかり放置していたことに気付き、申し訳なさそうな顔になって二人に振り向いた。

「ごめん、ラルさん、委員長……。せっかく僕たちのために誘ってくれたのに……」

「う、ううん。イオリくんが謝らないで」

 頭を下げるセイに慌てて首を振ったチナは、しょうがないという風な微苦笑を浮かべた。

「大会中だもんね、しかたないよ。明日だってあるし」

「うん……でもそのかわり、委員長は遊んできてよ」

「えっ……そんな、できない。私だけなんて……」

「ダメだよ委員長、それは」

 それはチナがびっくりするほどの抗議であった。

「僕に遠慮しないで。──って、なんかこないだもこんなこと言った気がするけど。あはは」と、最後は語気を和らげるように照れ笑うセイ。

「う、うん…………」

「せっかく委員長と遊べる機会を、僕は僕の我儘で……」

「そんな……我儘なんかじゃないよ……」

「ありがとう……でも、だからと言って委員長が僕に遠慮して自分も遊ばないなんて心苦しいというか……だからこそ委員長が楽しく過ごしてくれた方が嬉しいというか……僕とレイジの分までさ」

「そう……だね…………」

「ごめんね……じゃ、じゃあ、僕らはもう行くね。宿舎はこっから歩いてすぐなんだ」

 そう言うとセイとレイジの姿は駐車場から消え、チナとラルだけがそこに取り残された。

「……なかなかどうして、セイ君も立派な戦士になってきたじゃないか」

「…………」

「あ、んー、オホン……さてどうするね、チナ君。遊園地はまた後日にして、親戚の家へ戻るかい? それでも構わんし、もちろん遊園地に行きたいなら行こうではないか。そこはセイ君の言う通り、せっかくの機会だしな。ワシにも遠慮せんでもいいのだよ。すごいらしいぞ、あの遊園地は! どんな驚きが待っているかワシも楽しみなぐらいだ」

「な、なんか本当に楽しそうですね…………」

と、一瞬呆気に囚われたチナだったが、すぐに表情を無くした。

「……はい、行きます……イオリくんの分まで楽しみます」

 セイの背中が消えた駐車場の出入口に顔を向けながら、楽しみにしている者とは思えない抑揚のない声音でチナはそう答えた。

 

 

 

 

  3

 

 

 ガンダムのテーマパークはガンプラバトル世界大会会場となっている人工島からそう離れていない場所に、やはり海上にある人工島まるごと一つが使われて建設されていた。来る者全ての耳目を驚かせる大掛かりなアトラクションやあらゆるガンダムエンターテインメントが揃った夢の一大テーマパークなのである。その規模や集客力は飛ぶ鳥を落とす勢いで、ここより東にある某同業施設が持つ日本一の座を狙うほどであった。相乗的な効果もあってガンプラバトルに負けない人気を誇り、ガンプラバトル選手権世界大会が開催されている現在は来場者数も鰻登りを極めていた。毎日敷地内のどこを歩いてもなかなか人混みから抜け出せない程の活況を呈していた。

 フードエリアで腹ごしらえを済ませた二人は早速アトラクションエリアに足を運んだ。此処に来るまでは沈んでいたチナの目は輝きを取り戻し、すっかり子供らしい表情になって楽しんだ。人気施設は一時間以上待たせるものもあったが、それでも二人は満足のいく数のアトラクションを体験でき、ラルなどはチナが引くほどはしゃぎすぎてすっかりヘトヘトになったために空いていたベンチに腰掛け、その間にチナが飲み物を求めに行った。

「いやあ、満足、満足……。実物大モビルスーツを油圧駆動させまるで本当に戦っているように魅せるガンダムコロシアムにも驚いたが、ア・バオア・クーの凄まじい大規模戦闘をあれほどまで臨場感たっぷりに楽しめるシュミレーターがあるとは度肝を抜かれたわ。本物のモビルスーツに乗り込んで本物の宇宙戦争に身を投じているパイロットの気分になったようだった」

「ふふ、すごい喜びようでしたね……はい、飲み物です」

「おお、ありがとうチナ君。いくらだい?」

「あ、いいんです、これぐらい出させて下さい」

「すまんね」

 チナが差し出したオレンジジュースのカップを受け取ると、ラルはストローを啜って美味しそうに喉を鳴らした。

「ふうー……。一汗かいた後の飲み物は格別だな」

 人心地つくと、ラルは隣に座って自分の分を飲み始めたチナに話しかけた。

「良かったよ、チナ君も楽しんでるようで」

「え?」と、顔を上げるチナ。

「いや、ここに来るまではあんまり楽しそうな顔をしていなかったからね。彼らが来ないんではそれも当然だが。しかもワシのようないい年をしたおじさんと二人きりでは楽しみもさらに減るだろう、ははは」

「そんなことは……」

「せめてレイジ君だけでも来てくれれば良かったんだがな。せっかく君達三人が一緒に遊ぶ機会を提供しようと思ったんだが……思い付きで行動するものではないな」

 頭を掻きながらラルはそう言った。確かにリン子を想定した邪な皮算用もあったが、セイ達への支援になればと慮ったのも偽りではなかった。ラルは腕組みをして自責の念に囚われたように頭を垂れる。

「大会中の選手が勝負に対する緊張感を失ってはいかんというのに、誘惑の強い遊園地なんぞに来させて危うく彼らの集中力を散らしてしまうところだった。まったく、このワシとしたことが不覚であったよ」

「そんな……ラルさんだって良かれと思って誘ってくれたんじゃないですか」

「そう言ってくれると助かるよ」

 ラルは感謝の眼差しをチナに送った。

「しかしまあ……君も大した女の子だね」

 いきなり自分のことに話を振られ、「えっ……私、ですか?」と戸惑うチナ。

「いやなに、親戚の家を頼れたとはいえ、女の子一人で何日も外泊できる許可を親御さんから貰ったんだろう? なかなかどうして、大した行動力の持ち主だよ、チナ君」

「それは……イオリくんに応援しに行くって約束しましたから……」と、チナは照れたように言った。「それに一人じゃありませんよ。イオリくんやレイジくん、それにラルさんだっているじゃないですか」

「そうか、ハッハッハ、それは光栄だね」

 若く可愛い娘に頼りにされて満更でもないラルであった。

 鎖骨と脇まで覗かせたアウターキャミソールのせいでチナのからだの輪郭から胸の緩やかな膨らみ具合まで容易に視認できる。そしてミニスカートとニーソックスの間に覗くすべすべの光沢も眩しい生の太もも……。恥ずかしがらずに堂々とポーズを決めれば、そこいらのジュニアアイドルに引けをとらないスタイルの良さだろう。

 夏の薄着少女の危険極まりなさと言ったら。こうして注意を払ってみると、少女特有の清々しくもどこか女性(にょせい)の匂いが仄かに嗅ぎ取れるフェロモンが漂って来るではないか。

 このコウサカ・チナという娘、本人が自覚していないだけで、既に男を誘う要素は整備されている──

(……む? むむ、いかん、いかん、いかんぞワシ! まーたおかしなことを考えおって……)

 思わずつばを飲み込みそうになったラルは内心の動揺を抑えつつチナから視線を外し、慌てて立ち上がって言った。

「ウォッホン……日が暮れるまでまだ少し時間がある。イオリ君達がいないのは残念ではあるが、もう帰ってしまうのも勿体ない。他にも遊びたい施設があれば遠慮なく言ってくれたまえ。ワシなんかで良ければチナ君の思い出の一ページ作りに喜んで付き合おうじゃないか」

「あ……はい! ありがとうございます、ラルさん」

 自分に向けられていた邪心などまったく気付いていない輝く笑顔で少女はラルを見上げた。

 

 

 

 

  4

 

 

 夕日が西空の下に隠れた頃、ガンダムパークを後にしたジープは湾岸沿いの街道を走っていた。チナは来た時と変わらぬ大人しい姿勢で窓の外に顔を向け、宵闇の塗装が始まった昏(くら)い海景色をぼんやりと眺めていた。

「帰ったらもう夕食の時間だね」

「……そうですね……」

 外の風景と同じ寂寥としたチナの横顔を見て、(遊園地では楽しんでいたようだが、やはり心はここにあらずか)──と、ラルは少女の心中を察した。

「そうだ。遊園地はダメだったが、夕飯ぐらいなら問題ないんじゃないか?」

「え?」

「イオリ君達と夕食を共にするというアイデアはどうかね? ワシが泊まってるホテルの最上階に雰囲気の良い店があってな。食事は美味いし、この駿河湾を望む夜景も最高だ。カジュアルOKだから普段着で問題なく入れるしね」

「あっ……いいですね!」

 夜景と聞いて途端に目の色を変えるのはさすがに女の子だな、と、微笑ましく思うラルであった。

「はっはっは、ようし、そうと決まったらまずはイオリ君達を迎えに行かなくてはならないな」

「はいっ。……あ、あの……」

「ん? なんだね?」

「その……私なんかに色々と気を使ってくれて……本当にありがとうございます、ラルさん」

と、頬を染めながらチナは感謝の言葉を口にした。

「なあに、このぐらいどうということはない。青春、青春さ。ワッハッハッハ!」

「せ、青春……?」哄笑するラルに若干引くチナだったが、それはすぐ温かい視線に変わった。「……ラルさんて良い人ですね」

「えっ?」

「だって毎日私を送り迎えしてくれるし、イオリくん達もここまで連れて来てくれたし。今日の遊園地だって……それに、こないだの旅行でも地上げ屋の人達を相手に私たちの前に立ってくれて……。私、ラルさんみたいに優しくて頼もしい大人の人、好きです」

 最後の好きという言葉を発してからチナは何を言ったか気付いた表情になり、途端に瞬間湯沸し器のように顔を真っ赤にして慌てふためいた。

「ああっ!? あ、あのっ、好きっていうのはそのあの、えっとその! そっ、そういう意味じゃ! 嫌いじゃないとかお父さんみたいな感じで! ってえっああっなに言ってるの私! 違う、違うんです! そうじゃなくて、そうじゃなくて!」

「いやいやいや、わかってるから、わかってるから車の中で暴れるのはよしなさい」

 ラルはチナを落ち着かせようと片手ハンドルになり空いた方でどうどうと馬をなだめるような手振りを示した。そうしてしばらく間を空けてから、

「面向かって良い人なんて言われたらなんだかケツがムズ痒くなる、ハハハ。……それより食べて来るなら親戚の人に連絡を入れといた方がいいんじゃないか?」

と、さりげなく話題を別に移した。

「あっ、そっ……そうですね」

 まだ動揺が多分に残っているぎこちない仕草で携帯を取り出し電話をかけるチナの顔を横目に見ながら、ラルは内心やれやれと安堵しながら少年達がいる選手村へと車を走らせた。

 

 

 セイ達を呼ぶのはチナに任せると、ラルは目当てのレストランに今からでも予約を入れられるか確かめるために携帯を取り出した。携帯を耳に当てて窓の外を眺める。世界規模のガンプラブームによって静岡市も随分と発展した。海を挟んで向こう側に見える市街地のビル群は地方都市とは思えない威容を誇っている。彼らは逢魔時の闇に沈み、頭ひとつ抜けている高層タワーのシルエットが幾つか確認できた。その中の一つがラルが泊まっているホテルであり、上から数えた方が早い階に部屋を取っている。レストランの直接の連絡先を知らずともホテルのフロントと相談すればいいだろう。

 やがてチナの姿が宿舎から出て来るのが見えたが、行きと同じで一人だけであった。

「おや、二人は?」

「それが……」と、しょんぼりとしたチナがわけを話す。「イオリくん、ガンプラの調整にまだ納得いかない部分が出たから、ご飯は後にするって……レイジくんは少し前に買い出しに行ったらしくて……」

「むむ……そうか、それは困ったな。たったいまレストランの予約が取れたところなんだが……」

と、切ったばかりの携帯に目を落とすラル。

(やはり来る前に連絡を入れるべきだったか……)

 それを考えていなかったラルではない。ただ運転で両手が塞がっていたのでチナに頼もうと思ったのだが、先ほどの失言を気にして恥ずかしそうに俯きっぱなしの彼女に話しかけづらく、その時には既に会場のある人工島へ渡る橋の上だったので、ここまで来たらもう直に会って聞けばいいかと考え直したのだ。

「これもタイミングが悪かった、まあ仕方がない……。こうなったら私たちだけで食べに行こうじゃないか。遊園地はともかく、食事はちゃんと取らんといかんだろう。またワシと二人きりにさせてしまうのは申し訳ないが……」

「でも……イオリくんが……」

「いや、これ以上余計な気を使わない方がいいのかもしれん。彼は今、ガンプラバトル世界大会という非常に困難な試練に立ち向かっている真っ最中なのだ。その意志は最大限に尊重されるべきであろう。なあに、そう心配せずともセイ君なら自分の面倒ぐらい自分で見られるさ」

「そう……ですよね…………私がいなくたって…………」

 チナは寂しそうにそう言って俯いた。

 

 

 

 

  5

 

 

 海を一望できる窓際の席に案内されると、「わあ……」とチナは感嘆の声を漏らし、眼鏡が当たりそうなほど窓ガラスに顔を寄せて外を眺め回した。

「こんな素敵な夜景、見たのはじめて……」

 街、路、橋、島、船、月──宵闇のカンバスを彩る様々な光彩は夜の海を美しく綾(あや)なしていた。

 その景色を楽しめるよう店内の照明は暗めにされており、テーブルランプが最も明るい光源であった。

 二人はテーブルを挟んで談笑を交えながら出てくるコース料理を楽しんだ。

「お父さんのより美味しいかも」

「おや、チナ君の父上も料理人なのかい?」

「はい、私の実家はイタリア料理店で……あ、でもこんな格調高いお店じゃなくて、街の小さなレストランです」

「小さくとも自分の店を構えているならば、立派な一国一城の主だよ。……それにしても今日は色々とすまなかったね、チナ君」

「え?」と、チナは肉切れを口に運ぼうとしていたフォークを皿に戻した。「なんでラルさんが謝るんですか?」

「いや……遊園地の件にしても、この食事の件にしてもだ。セイ君達を誘えなかったのは、ひとえにワシの配慮が至らなかったせいだ」ナプキンで口を拭いながらそう説明するラル。「誘うにしてもTPOをわきまえなければいかんな。そのせいで君をガッカリさせる結果になってしまって、たいへん心苦しい限りだ。この通り、謝らせてもらう」

「そ、そんな、ラルさんが頭を下げないでください……」

 困ったように微苦笑したチナはすぐに表情を和らげ、どこか真摯な目つきで頭(かぶり)を振った。

「……いいえ。今日はとっても楽しかったです。本当にありがとうございました。遊園地に連れて行って貰えたり、こんな素敵な場所で食事させて貰ったり……」

 そう言ってチナは窓の外に視線を移した。海岸からそう離れていないホテルからは黒い鏡のように凪いだ海原に月の道が生まれていた。そして長大な橋で本土と繋がった二つの人工島がよく見える。夜の帳が下りても両方ともライトで明るく粧飾され華やかに浮かび上がっているからだ。

「イオリくんとは遊べなかったけど……それは仕方ないことですから。嫌な思いなんて全然してません」

「そうか……君には何度も救われるな」

と、ラルはワイングラスを取り、軽く乾杯の仕草をした。チナもフルーツジュースのグラスを傾けてそれに合わせた。チン、と軽い音が立つと、微笑み合う二人の間に今までよりも親密な雰囲気が漂った。

 そのとき、チナはテーブルの端で所在なげに佇む空のワイングラスに気付いた。

「……? そのワイングラス、使わないのに置いてあるんですか?」

「ん? ああ。そういえばワインが来た時にグラスを二つ持って来たな。ボトルで頼んだからチナ君をよく見ずに頭数だけで判断したんだろう」

「私の分もですか? まだお酒飲める年じゃないのに……」と、そこで気が変わったようにチナの口調が転じた。「あ、でも……ちょっとだけなら飲んでみたいかも」

「ええ? チナ君にはまだ早いぞ」

 驚いたように言うラルにチナはふふっと微笑み返した。

「赤く透き通ったワインって綺麗だなあって前々から思ってたんです。うちのメニューの中にもあるから……。赤ワインが注がれたグラスって、それだけで何かインテリアが一つ増えたようなお洒落感があるじゃないですか。他のお酒とちょっと趣きが違うっていうか、高貴な気品があるっていうか……」

「ふむ……」

と、ラルは自分の飲んでいるワイングラスの脚を抓んで持ち上げ、しげしげと眺めた。照明の光を通して見る鮮やかな赤い液体と洗練された曲線のガラスは、確かに個性的な存在感を強く主張している。

「どうやらチナ君は美的感覚にも優れているようだね。まったく、こんなに可愛くてセンスもある子に惚れられるなんて、セイ君も羨ましものだ」

「え……やだ、そ……そんな………………」

 カーッと赤面したチナは恥ずかしそうにモジモジと俯いてしまった。

 予想以上の反応に、ラルの方も大いに慌ててしまった。

「あ、ああ、こりゃ失敬、どうも年を取ると恥ずかしい台詞を気障ったらしく言うようになる。ははは、じゃあちょっとだけ試してみるかい、ちょっとだけなら大丈夫だろう」

と、ごまかすように彼はワインボトルを掴んで空いていたグラスに四分の一ほど注ぎ、チナの前に差し出した。

「全部は飲まんでいいよ、ほんのちょっとだけな」

 自分から鼻を近づけようとする少女にステムを持ってグラスを近づけ揺らして嗅ぐように言う。その通りにしてワインの香気を吸い込んだチナの眉間がほわっと緩み、感慨深げに瞳を開いた。

「わあ……見た目の色でどこか葡萄ジュースっぽい印象を持ってたんですが……やっぱりお酒なんですね、すごくアルコール臭が強い……でもそれでいてフルーティーな香りは……なんか若々しくて華やいでる感じもする……」

「ふむ……さすがだな」と、ラルはワインボトルのラベルに目をやった。「ワインと言えばまろやかで落ち着いた芳醇な味わいが醍醐味だが、今日はまだ若いワインを頼んだんだよ。それでも値段相応のことはあって香りだけでも楽しめる。ワインも果実酒だから香りは甘い。でもだからってジュースを連想して飲んでみると──」

 グラスの端に唇を付け、赤い液体を少し口に流し込んだチナ。途端にぎょっとしたように目が丸くなり固まった──が、そのままごくんと喉が動いた。

 さすがにラルの目つきが心配そうなものに変わる。

「アルコールがキツくなかったかね?」

「い、いえ……思ったほどじゃ……」

 多少戸惑ったようにチナは残りのワインを見つめたが、急に何か決心したような表情になったかと思うと、一気にグラスをあおいだ。

「!?」

 ラルが制止する前に全部いっぺんに飲み干してしまった。

「チナ君!?」

 唖然とするしかないラル。

 チナは苦虫を噛み潰したような顔でグラスを下ろした。「……確かにニガくて……あんまり美味しくない…………」

「い、いや、そう判断できただけでも試した意味はあるが……だからってそんなやけな飲み方をしてはいかんよ」

「……私、ホントはちょっと期待してたんです」

「へ?」

 唐突に語り始めたチナに、その表情があまりに思い詰めた様子であったため、ラルは思わずキョトンとして次の言葉を待ってしまった。

「別に……ガンプラバトルを放り出して私と遊んでとか、私のことを優先してとか思って此処に来たたわけじゃなくて……本当に応援したかったから来たんです。……ただ、イオリくんと一緒にいられる時間も少しあればいいなって……期待してました。そんなにいけないことですか、ラルさん?」

「え? い、いや、そんなことはまったくないな、うん」

「そうですよね? でも、イオリくんは遊びに来たわけじゃない……なのに、私、イオリくんと遊園地で遊んだり、こんなレストランで食事できればとっても素敵だなって……思いました」

(遊びに来たことに間違いはないが……まあいいか)

 ラルは相槌を打ちながらチナの好きなように喋らせることにした。

「イオリくんはガンプラバトルの真剣勝負をしにここへ来たのに……私はイオリくんと一緒に旅行しに来てるみたいに思えたらいいな……なーんて妄想したりして、内心ウキウキしてたんです」チナの表情がどこかとろんとしてきていた。頬杖を突いて何か思い返すように窓の向こうを見やる。その目線の先にはライティングされたドーム会場をバッグに遠く小さく映る選手村があった。「イオリくんが遊園地行くの断った時、さっきも食事断られた時……思いました。私なにやってるんだろう……って。私はいけない子だって」

「う、うむ──あ、いや、チナ君は悪くないよ。ワシが悪いんだ」

「いえ、私は悪い子です。だってイオリくんの邪魔をしたもん。イオリくんはガンプラバトルに集中したいのに……私はお邪魔虫になろうと…………」

「いやいや、そこまで思いつめるほどのことではないさ」

「そんなことないです!」涙を溜めながらチナは激しく頭(かぶり)を振った。「イオリくんに嫌われちゃうところだった!」

 止める間もあらばこそ少女の腕が伸びてワインボトルの首をむんずと掴んで引き寄せるとグラスにどぼどぼと注ぎ、

「ちょ、ちょ、ちょ!?」

とラルが目を丸くする前で瞬く間に呑み干してしまった。

「うー! 苦い! なんですか?」

 ダンと音を立ててグラスを置いた少女は、据わった目でラルをギロッと睨み付けた。

(しまった、これは……酔ったのか?)

 アルコールの回りが早過ぎるとも思ったが、酒に対する体質には個人差がある。ビール一杯で前後不覚になってしまう人間もいる。ラルがチナの顔色を伺うと、もともと白い少女の肌が店の低照度下でも明らかに変色しているのが分かった。

「チ、チナ君に罪はないよ。だから──」

「ラルさん!」

「はいっ!?」

「貴方も悪いんですよ!」

「ええっ!?」

「ラルさんが遊園地とか食事とか言い出さなければ! 私もこんな気まずい思いしなくて済んだのに!」

「ええー! ゆ、許してくれたんじゃないの!? あ、ああ、いや、だからね、すまないと思ってるよ、だから何度も謝ってるじゃないか……うん」

 何事かと疑惑の視線をこちらに送り始めた他のテーブルに、「すいません、すいません」とラルは中腰になってヘコヘコと頭を下げる。

(まさか飲むと性格が変わる体質とは……)

「聞いてるんですかラルさん!」

 ややろれつが回らなくなってきた舌で怒鳴り、バン、とテーブルを叩いて身を乗り出すチナ。非難めいた半眼でラルを睨んでいたが、急にニッコリとした笑顔に変わった。

「んふふ、でも……ラルさんはぁ、良い人だから……許しちゃいます♥」

「あ、ああ……」

「うふっ……」

 その時、機嫌が良くなったチナとは対照的な氷点下の寒気を身に纏ったウェイターがすすっとやってきた。

「あの、お客様…………」

「ああっ! わ、わかってる、わかってる。すまんすぐに出るよ、これは勘定だ。釣りはいい、申し訳ない!」

 ラルはテーブルに万札を数枚置くと、足元の覚束ないチナを小脇に抱えるようにしてレストランを飛び出した。

 

 

 

 

  6

 

 

 ──数分後、先ほどのレストランから数階降りただけのホテルの一室で、ぐったりとしたチナをベッドに寝かせているラルの姿があった。

「ふう、肝を冷やした……」

 公衆の面前で明らかな未成年者を酒に酔わすなど、運が悪ければ警察を呼ばれてもおかしくなかっただろう。即座に撤収して正解であった。そしてエレベーターを数階降りるだけのところに宿泊中の部屋があってよかったと、ラルは心底安堵していた。

 冷や汗を拭った彼はジャケットをハンガーに掛け、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

 栓を開けて一口飲んだ時、

「熱い~……」

と、背後で酔いが回ったような声が上がったので振り返ってみると、チナが白いオーバーニーソックスを脱いで生足を剥き出しているところであった。思わずブッと水を噴き出してしまう。少女の脚線を隠していた覆いが両方とも取り払われ、ベッドの向こうに投げ捨てられてしまった。

 デニムのミニスカートから伸びるすべすべとした太ももにラルの目は吸い寄せられてしまう。年頃の女の子らしい太すぎず細すぎもしない肉付きと光沢すらある艶めき。

「頭がクラクラするぅ~……熱いよお~…………」

 ラルの視線など気にもせずにチナはそう呻きながら両脚を投げ出すように伸ばして再びベッドに横たわり、しきりにもぞもぞと動く。体内に回ったアルコールがだいぶ悪さをしているようで、からだが火照って仕方ないという風情だった。

(あんな一気飲みをしてはな……)

 ラルがそう考えているうちにも、チナはニーソックスを脱いだ生脚を片方ずつ伸ばしたり畳んだり、胸を大きく上下させながらはぁはぁと切ない溜め息のような呼吸を幾度も繰り返した。

 ただ、そうやって苦しそうではあるが、嘔吐感などの気分の悪さは無い様子で、泥酔状態まで至っていないのが幸いだった。それでも体調が急変して吐き気をもよおすかもしれないと、用心のためにラルは屑籠をベッドに近付けておいた。

「ぁ……ラルさんだぁ…………」

 薄目を開けた少女が微笑みながらラルを見上げる。酔っているのがはっきり判るトロンとした目つき。熱にうかされたような色っぽい表情。どこか物欲しげな半開きの唇。

「ん、水でも欲しいかい?」

 ドキッとしながらもラルは平静を保ち、チナの言葉をよく聞き取れるように耳を近付けた。

 すると突然、チナががばっと腕を伸ばし、ラルの首を抑え込むように掻き抱く。たまらずにラルは引っ張られ、彼女の上に覆い被さってしまった。

「チナ君!? こ、こら」

「ラルさぁん♥」

と、頬ずりしてくるチナ。完全に性格が変わっている。

 先ほどのエレベーター内でもチナはふらつきながらラルの腕にべたべたとしがみついてきた。そうしなければ倒れそうだったのかも知れないが、少女のからだの柔らかさと高い体温、それに胸の膨らみをいやでも感じてしまい、ラルの困惑ぶりは相当なものであった。

 ただ、チナがくっついてくる様はまるで支えてくれる存在を必要としているかのような儚さもあった。

(不安と寂しさか……)

 チナの腕に篭った力は強く、剥がせないと判断したラルは仕方なく靴を脱いでベッドに乗り上がり、少女の横に寝そべった。互いにワインくさい息がかかる距離で見つめ合う。曲げた膝が当たる。それでもチナは腕を離さなかった。間近から少女の甘い体臭が漂って来てラルの鼻腔をくすぐる。

「チナ君……これでもワシは男なんだよ」多少警告めいたものを言外に含ませたが、効果は無かったらしい。チナは酩酊して理性が溶けている目で微笑みながらラルを見つめるだけだった。親子ほども年の離れている男に対して明らかに好意を抱いている目つき。セイへ向ける以上の感情ではないが、それでもラルをドキリとさせるには十分過ぎた。

「ラルさんはぁ……優しくて……頼もしくて……好きです! えへへぇ……」そう言うとチナは再びラルの胸元に潜るように頭を当ててこすった。「私ぃ、気付いちゃいましたぁ……ラルさんはいつも私を気にかけてくれてぇ……傍にいてくれてるってぇ…………」

 自分が何を言っているのか、何をしているのか、素面では絶対に有り得ない言動。

 ラルも思わず少女の背中に腕を回して抱擁するような形にしてしまってから気付いて内心焦ったが、ラルにそうされたチナは怯えるどころかむしろ安心するように──いや、安心したいように──さらに身を寄せて来た。ラルは腕を引っ込めるタイミングを逃してしまった。

「チ、チナ君…………」

 ゴクリとつばを飲み込むラル。

(おかしい……ワシはリン子さんのような成熟した大人の女性が好みのはずだが……)

 そうは思っても、こうして直にチナのからだに触ってみて、こんな色香があっただろうかと思わざるをえないほどの魅惑を感じてしまっていた。

 確かに成人女性のような豊かな肉付きはまだない。必要以上の力で抱き締めれば折れてしまいそうな細さだ。だが露出度が高い少女の夏着に包まれた上下の双丘は、どちらも控えめとはいえしっかりと盛り上がりが形成されている。重ねて言うが、薄いキャミソールと丈の短いミニスカートで隔られているだけなのだ。実際、先ほどからチナが脚を動かすたびにチラチラと白い下着が見えているし、胸元も覗き放題で薄桃色の乳首まで見えた(ちなみに内側にブラパッドが付いているタイプのキャミであった)。

 発展途上であっても整うところは整っている美少女。顔もからだつきも見目佳い──こうなると男の劣情を誘わずにはいられない組み合わせである。下手な大人より食指をそそられるかもしれない。

 しかも頬に赤みの差すチナの面差しはアルコールのせいで表情が緩み、先ほどから切なそうな吐息を漏らしている唇が妙な色っぽさを醸し出している。もともとチナは大人びた顔立ちをしているし、手足も長い。それらが合わさって年齢以上の色気を錯覚させるのかもしれない。

 そんな少女のからだを抱き締めていると、邪な気分が募っていくのを抑えるのが難しくなってきた。腰のくびれと腿の太さは男を受け入れられそうである。整ったプロポーション。もしこの少女とセックスできるとしたら──。

 気付くとラルはチナの尻や内ももを撫で回していた。

(──ハッ!)

 何をやらかそうとしているのか。狼狽を覚えて少女の様子を見ると、眼鏡の向こうにある両目の瞼は閉じられていた。眠った──わけではなく、チナはラルの手さぐりを感じていたのだ。からだをぴくぴく震わせながら、「ぁ……ぁ……♥」と、甘みを帯びた小声が喉から漏れていた。

 それがラルの血を沸騰させる。

(い、いかんぞ……酒が正常な判断力を奪っているのだ……セイ君につれなくされた不安と寂しさで一時の迷いを生じ、ワシを頼ろうとしているのだ……それをこんな……普段のチナ君ではないのだぞ。やめろ、やめるのだラルよ……)

 だが──その間にも意志に反して半ば勝手にチナのからだをまさぐっていた手がついに股の付け根にまで潜り、陰部を布越しになぞるように指が触れると、

「あっ……♥!」

と、チナははっきりとした甘い声を出して切なそうにからだを震わせた。

 大事な部分に触れても拒まない──いよいよ理性の塔は音を立てて崩落を始める。

 ラルの指がゆっくりと往復すると、その度に少女のからだは震え、徐々に脚が開いていく。中指の腹に感じる布の向こうの秘裂はまだ一本の筋としてほぼぴったりと閉じ、その周囲に淡い陰毛が生えていたが、なぞっているうちに汗とは違うぬめりが出て来るのが指先の感触でわかった。

「あっ……あっ……♥!」

 ラルの首からチナの腕がほどけて今度は秘所を弄くる手首を握ったが、止めさせようとするためではないようだった。少女は男の腕をただ掴むだけでうっとりと目を閉じ、ラルの自由に弄られるがまま、カエルのような菱型を形作るほどに脚を開いてしまう。

 チナのその声を、その様を眺めるのは、倫理性がどこかに吹っ飛んでしまうほどの背徳感であった。

 イオリ・セイひとすじのはずの可愛い少女が。

 ケツが痒くなるほどの初々しさでセイと淡い関係を育んでいる娘が。

 今、恋の対象でもない男にアソコを愛撫されて、気持ち好さそうに喘いでいるのだ……!

「あっ、あぁっ、あぁっ……♥」

 チナの反応から自慰の経験やセックスの知識はあるのだろう、という推察はできた。大人しそうに見えて、好きな男を追いかけて一人で遠出連泊するほどの行動力のある娘だ。色恋に対して人並み以上の興味と積極さがあっても不思議ではない。清楚そうな女性ほど実は淫乱だというのもよく聞く話だ。酒に酔ったことで理性のたがが外れ、その気質が顕れているのかもしれない。

 自分こそ正常な判断力を喪いつつあるのに気付かない男──。

 ラルは一旦手を離した。中指の先はぬめりが取れないほどに濡れていた。舐めるとわずかに尿が混じっているような甘じょっぱいうす味──実に美味であった。

 チナはすっかり開いた脚の付け根に両腕をくたっと落とし、はぁはぁと息をしながら酔いと性感に揺蕩う顔を淫らに紅潮させていた。

「気持ち好いようだね……もっと気持ち好くしてあげよう」

 そう言うとラルは指をまた秘裂に戻し、なぞりを再開させながらチナのキャミソールをめくりあげた。まだセイにも見せたことのないだろう慎ましい肉量の乳房はやはり形が良く、淡いピンクの突起まで可愛く目に映る

「いつだかレイジ君が君の胸を馬鹿にしたが……とんでもない。チナ君の胸はとても綺麗だよ……」

「あっ……あっ……♥!」

 嬌声を漏らしながらも羞恥に頬を染めるチナ。股を弄られるのは良くて胸を見られるのは恥ずかしいという基準はラルにはよくわからなかったが、彼が乳首に口をつけて吸い始めてもチナは拒もうとしなかった。それどころか、

「あっ、あっ、ああっ♥!」

と、反応がひときわ大きくなった。秘裂と乳首を同時に弄くられるのは堪らないのだろう。

 それは、まだ中学一年である少女が、本格的に性行為へ埋没してゆく合図でもあった。

 ひとしきりチナを甘く泣かせると、ラルは彼女のからだをひっくり返してうつ伏せにさせ、ミニスカートとパンティをするすると脱がしてしまった。尻側からだと簡単に下ろせる。パンティのクロッチは大きなシミが出来上がるほどに濡れていた。

 少女の下半身を生まれたばかりの姿にしてしまうと、自分も手早く脱いで全裸になる。二人合わせても最早チナのキャミソールしか纏っているものがなくなった。それも肩までめくり上がり、ほぼ全裸同士になったと言ってよかった。

 チナは寝そべったまま抵抗もせず枕を掻き抱くように顔を埋(うず)めたため、ラルの股間に屹立する怒張を目にしなかった。青筋張った肉棒は昂奮にいきり立ち、ズル剥けの亀頭から既に先走り汁が目に見えるほど溢れ昂奮していた。

 すべすべの尻を撫で回すと、チナのからだがピクン、ピクンと反応する。

(期待……しているのだな)

 信じられなくもあり、だが、それを察したラルの肉棒にさらに血が集まって固くなる。

 外気に触れたチナの性器の入り口はやはり侵入を拒むように厚い大陰唇で閉ざされていて、陰毛も薄くまばらだった。未成熟ゆえの慎ましやかな美しさ。だが、そこはラルの肉棒の比ではないほどの汁でぬめっていた。

 すぐにでも挿入したい衝動に駆られるが、まずは女子中学生のヴァギナの味を確かめたいと、ラルは少女の躰をまたころんと転がして再び仰向けにし、大開脚させた。そこへ上体を傾けて秘部に口を当てると、チナの両腿を抱えるように持ちながら今度は舌で汁ごと秘裂を舐め始めた。

「んああぁっ……♥!!」

 少女がゾクゾクと背中を震えさせながらラルの頭を掴む。

 ラルは構わずにチナの股間に頭を埋(うず)め続けた。時に舌先に力を篭め、時に触れるか触れないか、ひたすらに少女のまだ成熟していない裂け目を舐め上げる。刺激臭などまったくない、一種の清涼さすら感じさせる若い味の愛液はいくらでも舐めることができた。

「はぁっ……あっ、あっ、あっ……♥!」

 局所を這い回るラルの舌遣いにチナは下半身を小刻みにわななかせ、嬌声を漏らしながら自然に腰を浮き上がらせた。気持ち好くて堪らない証拠だ。その感じやすさはラルを喜ばせた。間隔を空けてたまに秘裂全体に口をつけてジュルジュルと音を立てて啜ると、チナは一段と大きな嬌声を上げて全身を痙攣させた。

 ラルは両の親指と人差し指を使って肉の二枚盾を左右にこじ開けて秘裂を拡げると、隠されていた鮮やかなピンク色の肉粘膜が視界に入ってきた。ラヴィアはまだ小さく可愛い形をしている。その秘裂の内部に舌を突き入れ、ほじくるように中を舐めた。そこはまだ膣内ではなく、その手前だ。だが入口付近は最も女性が感じやすい部分である。

「ひぃん♥!」気持ち好さそうに仰け反るチナ。「だめ……だめぇ……♥」

 すすり泣く少女は細い悲鳴を上げて両手でラルの頭を押しやるようにしたが、先ほどと同じくまるで力が入っていなかった。

 時に髪を引っ張られてもラルはお構いなしでクンニを続けた。ヴァギナに続く前庭は瑞々しい香気と熱気で包まれていた。ラルと同じくチナの股間に血が集まっている。経験もない処女であれば緊張や怖さで血の気が引き、肉が固く縮こまってもおかしくないが、本気で快感に喘いでいるチナの秘部はぬかるむように柔らかくなっていた。

 それでもさすがにクリトリスは厚い包皮に隠され、怯えるように佇んでいた。強引に剥こうとすれば真性包茎と同じく痛みを与えてしまうだろう。

 だが無理に剥く必要などない。

 クリトリスが隠れている上部をラルは舌の腹で押し、やんわりとした圧力を加える。それだけで、

「んうっ……くぅんンッ……♥!」

と、チナのからだに電流が走ったようにビクビクと今までで最も明確な反応が生まれる。クリトリスは豆粒以下の小さな陰核の中に男性の亀頭以上の数の神経が集まっている。男からすればこれで物足りるのかと思うソフトな刺激で十分なのだ。

 秘裂なぞり、膣口なぶり、そしてクリトリスへのソフトプレス──これらのクンニを繰り返すと、チナの嬌態は年端のいかない処女とは思えないほどに深化していった。

「あっ……あひぃんっ……ひぅっ……♥! いや……だめ……あぁ……♥! なんか……なんか、来ちゃうぅ…………♥!」

(おお……逝くのか……) 

 膣口の収縮でアクメが近いことに気付いたラルがクリトリスを圧し潰したままじっといていると、チナの方から勝手に腰を浮かして前後に動かし、彼の舌に何度も股間を押し付けて来た。

「あッ! あッ! ああッ♥!」

と、チナが何回目かの大きな嬌声を発した時、太ももにひときわ強い力が入ってラルの頭をギュウッと挟み込んだ。

「──~~~ッッ♥♥!!!!」

 息苦しさを我慢しながら、ラルは少女が絶頂するがままに任せる。秘裂から溢れてくる愛液がラルの髭をびっしょりと濡らす。チナはオーガズムに達するだけの快感を自ら動いて得たのだ。

 チナが絶頂していた時間は数秒程度だったろうか。ラルの頭を挟んでいた太ももから力が抜け、くったりと伸びて荒い息を残すのみとなった。

 シーツの端で顔じゅうにかかった愛液を拭うと、絶頂の余韻に浸っている少女の髪を撫でながらラルは褒め言葉をかけた。

「可愛かったよ、チナ君……」

 チナは返答も出来ず、快楽に煙(けぶ)った焦点の定まらない目でラルを見上げた。まだ十分に情慾を残している表情だった。クリトリスで一回逝ったぐらいでは、若い肉体に眠る体力はまだまだ尽きないのだろう。

 試しにチナの汗ばんだからだをまさぐり始めると、最初くすぐったそうにしていたが、その愛撫を拒まずにまた小さく喘ぎ出した。

(よし今度は……)

 表、裏、表と来て、チナの躰を二度目の裏返しにする。後ろから両手を回してチナの乳房を優しく揉みしだいた後、キャミソールを脱がして完全な全裸にする。これで二人とも一糸まとわぬ姿になった。

 チナは特に拒む様子もなかったが、両脚を閉じてまっすぐ伸ばして寝そべった。ラルはその体勢を指示しようとしていたのでむしろ好都合であった。こうして全裸になった全身を背面から眺めてみれば、やはり均整の取れた素晴らしいプロポーションであるのがよくわかる。股間がぴっちり閉じきるだけの贅肉が内股に付いておらず、逆三角形状の隙間が生まれていた。美脚の証明だ。まだ成熟しきっていないのにこれなのだから、大人になればどれほどのスタイルになるのか実に楽しみであった。

 ラルはチナの下腹部に枕を入れて角度を保つと、覆い被さるように上になった。密かに“ヒートロッド”と呼んでいる自慢の長く反り返った股間の逸物をしごきながら、その照準を少女の股下の空隙に定める。

 ラルも──そしてチナも──情交の昂奮で息が乱れていた。

 ゆっくりと腰を落としながら灼熱と化した自分自身をチナの股下に潜らせてゆく。挿入するわけではない、その前段階だ。

 ぬるぬるになった股間を長い肉棒が渡ってゆくと、「ンンッ……♥!」と、チナの腰が悦んだように震える。亀頭が潜り込まんばかりに秘裂を擦り、ヌチュヌチュと卑猥な音が立つ。

(おお……!)

 腰を突ききると下半身が密着し、少女の内ももに分身を挟まれながら柔らかい尻肉を圧し潰す。若い娘の弾かれるような肉感の瑞々しさと言ったら──何と形容すればいいのだろうか。ラルはある種の感動にすら襲われた。

 

 ヌ"ルッ ヌ"ルッ ヌ"ルッ

 

 傍目から見れば一つの形になったラルとチナ。閉じた股の中の往来は、素股とは思えないほどの肉の密着が感じられ、まるで本当に挿入している錯覚すらあった。

「あっ……あっ……あっ……♥」

 固い肉棒が秘裂を擦りながら縦断する感触と刺激に、チナも蕩けた声を出す。素股が与える快感に隷(したが)うように喘ぎ、ラルと裸同士になって下半身をくっつけているという事実に疑問や拒絶を抱いている様子もまるでなく、淫靡な昂奮に呑まれているようであった。

 素股を始めて数分でチナの股間は一気に熱が籠もり、秘裂の奥からぬるぬるとした蜜液が滲み出て来た。本当に昂奮し、感じていなければ出ない粘り気のある淫水。少女の体液はラルの肉棒によって秘裂全体や内股をしとどに濡らしてゆく。往復がより滑らかになると少女の悦感もさらに甘やかなものになった。

 

 ヌ"ルッ ヌ"ルッ ヌ"ルッ

 

「あっ……あっ……ああっ……♥」

「たまらなくなってきたかい……? 気持ち好いだろう……もっと力を抜いて、何も考えずに感じなさい……」

 ラルの言葉は暗示のようにチナの頭に浸透してゆき、少女は頷きすら返した。

 そうして素股を続けているうちに、徐々に二枚盾を割り開いて秘裂の中に亀頭がめり込んでいっているのにラルは気付いた。始めに指で弄くり出した時は異物に触れられるのを拒むような弾力を感じたものだが、今やチナの陰部の肉は適度にほぐれて柔らかくなっていた。試しに腰の位置を変えて軽く挿入してみようとすると、途端に亀頭全体が簡単に埋まってしまった。抗い難い本能の慾求でさらに押し込むと、ぬぐぬぐとした中途半端な抵抗感と共に、彼が想像していたより遥かにあっけなく熱の棒はチナの秘肉を掻き分けて中へ入っていってしまう。

(……すまん、セイ君…………)

 心の中でそう謝っても、この瞬間、ラルに罪悪感は無かった。あるのはこの美少女と一つになりたいという本能の慾求だけだ。たとえ酔った上での過ちであっても、今、チナはラルとの性交渉を受け入れている。ラルに気持ち好くされて恍惚としているのだ。もはや倫理観などどこかに吹っ飛んでいた。

 異様な昂奮が理性の抗議を掻き消している。この娘の膣内(なか)で思いきり射精しろ、この娘の膣内(なか)で思いきり射精しろと、本能がひっきりなしに要求して来る声しか届かない。それだけの魅力がチナにはあった。

 ラルの肉棒はさらに進み、もう半分以上がチナの膣内(なか)に収まってしまっていた。

 ここまで来ても処女膜の抵抗らしい抵抗はなかった。ふやけて緩んでしまったのか、それともまだ奥なのか……。

(そろそろ、か……)

「……ッッ!!」

 ぐっと進むと──少女の表情と腰が明らかに今までとは違う様子でひきつる。今度こそチナの処女膜を突き破ったらしい。

 ラルはしばらくそのままじっとしていた。チナの膣内の熱くぬるぬるとした感触がたまらない。処女膜を貫通した痛みのせいなのか、膣温が一気にカッと熱くなってキュウキュウと強く締まり、まだ中一の幼気(いたいけ)な少女と股間を密着させているという半端ない背徳感もあって、今、少しでも動けば途端に暴発しそうであった。

「あっ……くっ…………ふぅ…………!」

 確かにチナの顔には苦悶の気配があったが、痛いという言葉は漏れなかった。吐息に苦しそうな調子が混ざっても、その瞳からは依然快楽の色が褪せていない。破瓜は声になるほどの痛みを伴わず、これまでの快感を一掃するほど拭い去るまでには至らなかったのだ。

 ラルはそんなチナの横顔を後ろから見つめながら、

「チナ君、動くよ……ゆっくりやるからね」

と、寝バックのままゆっくりと抽送を開始した。チナも、「あっ……あっ……♥!」と、わずかに開いた唇から声を漏らしながらその動きを受け止める。まだ子供とは思えないほどの色気すら背中越しに感じられる。

 最初は突き入れた体勢で止まっている方が多く、徐々にテンポを上げてゆく。あくまで緩やかに、だが遅すぎもせず。数突きごとにチナの表情と膣肉から痛みによる強張りが取り除かれてゆき、十分も経たないうちに再び快感で緩むようになっていた。柔肉の反応も歓迎の気色をすっかり取り戻す。やはり痛みらしい痛みを感じていなかったらしい。淫液に混じってシーツや肉棒を穢す破瓜の血だけがチナが処女であったことを証明していた。チナのロストバージンの儀式はそれで全てであり、本人がほとんど意識しないうちにあっけなく終わっていた。

(セイ君……君の彼女は幸福に処女を散らしたぞ)

 その台詞にどれだけのおかしさが詰まっているか、考証するゆとりは今のラルにはない。

 抽送のテンポに休みらしい休みがなくなっても少女が平気そうなのを確認すると、一旦引き抜き、再びチナのからだをひっくり返して正常位で挿入する。

「──ッ♥!!」

 挿入時の快感で仰け反るチナ。熱くきつくともぬるぬると肉棒を迎え入れる膣洞の締まり心地は溜め息が出る他ない。ラルはチナを抱き締めながら腰だけで抽送を繰り返した。チナもラルの首と腰に手足を回し、二人は堂に入ったセックスパートナーのように躰を重ね合った。

 ベッドがゆさゆさぎしぎしと絶え間なく揺れる。

「あっ、あっ、あっ、あっ……♥!」

 処女を喪ったばかりとは思えないほどのチナの感度の良さと喘ぎ声であった。

(くう……さすがに、もう、限界か……!)

 挿入時から我慢してきたラルだったが、押し返されそうなほどの若い秘肉の弾力で盛んに肉棒を擦り上げられ、搾り上げられ、彼の腰全体まで熱く燃え上がっていた。先ほどまでは小休止を多用していたために何とか耐えられていたが、抽送が本格化すればあっけなく暴発を招くほど、チナのヴァギナの心地好さは想像以上だ。ロリコンと言われてもまったく反論できない。だが、きつくて固くとも、どこまでもぬるぬると迎え入れようとするこの熱い肉穴は……!

(すまん……セイ君……ッ!)

 抜かなければならないという理性の指摘は、この気持ち好い膣の中に精液を吐き出したいという本能の叫びに押し退けられてしまった。

 パンパンパンパン!

 ラストスパートが始まり腰と腰がぶつかる音が聴こえるぐらい高まると、それに合わせてチナの声も大きくなる。

「あ、あ、あ、あ、あッ♥!!」

 少女はこの後何が起こるかまだ知る由もなく、激しくなった抽送に喉を甘く震わせるばかりだった。いや、からだは知っていた。ラルの射精に至る動きに対して、まるで悦びを表すかのように半ば無意識にチナの腰や手足に力が篭もる。それはラルも感じた。

(すまんセイ君……! ぬおおぉ……!)

 それが最後の思考であった。

 ラルはチナのからだを強く抱き締め、これまでにない激しさで腰を動かした。

 

 そして──止まる。

 

「──はっ──あ──あっ────ッッ♥♥!!」

 チナは何が起こったのかわからなかったが、下半身を圧迫されるほど密着され、アソコがひときわ熱く疼くのだけはよく分かった。律動が無くなったのにも関わらず、これまで以上の心地好さを感じる。苦しいほど抱き締められるのも嬉しかった。重みはベッドが支えてくれている。からだの奥底から湧き上がる、一種の至福としか言えないこれまでにない感覚──。それは女性が男性から充分な満足感を味わった末に膣内射精された時に感じる、本能に備わった生殖快楽であったが、チナにとっては未知すら超えた衝撃的な体験であった。

(ああぁっ……ああぁぁっ……♥! なに……これえ…………♥!)

 アソコの中でラルの肉棒がドクドクと脈打っているのがはっきりと分かる。その感覚に身を委ねていると、気分がどうにかなりそうなほどの得体の知れない快感が全身を駆け巡る。何も考えられず、からだじゅうから力が抜け、いつまでも繋がっていたい圧倒的な陶酔感だけが脳内を占める。ラルが動かないため、存分にその感覚を味わうことができた。

 熱くぬめる柔肉粘膜に搾り上げられながら弾けんばかりにビュグビュグとチナの胎内に白濁を撒き散らすラルの肉棒。生殖因子がたっぷり詰まったゼリー状のザーメンが膨らんだ膣奥に次々と射ち込まれ、子宮口にも何度も浴びせかけられるほどであった。

 射精が済んでもラルとチナは抱き合った姿勢のまま、言葉もなく、長く感じられる時間をじっと過ごしていた──

 

 

 

 

  7

 

 

 こうして──

 何日か過ぎた頃から、その日の大会スケジュールが終わると別れの挨拶もそこそこに、そそくさと車に乗って会場を去るチナとラルの姿を、セイとレイジが取り残されたように見送る──という光景が日常となっていた。

 セイは別段怪しみもしていなかった。親戚の家への送迎はチナが応援に来た日から行われていた事だし、表面上何も変わったところはなかったからである。ラルが保護者としてチナに付き添ってくれていることに内心感謝しているぐらいで、毎日親戚の家まで無事に送り届けられているものとばかり思っていた。

 だから、二言三言交わしただけで別れる気配を見せたチナがラルに肩を抱かれてジープに乗り込み、まるでお持ち帰りされるかのように姿を消しても、彼は何の疑念も抱かなかったのである。

 

 だが、チナが車から降りる先は──

 

 恋しているはずの少年と別れてからしばらくもしないうちに、チナはホテルの一室にいた。ラルが泊まっている部屋。そこに連れ込まれてからだをまさぐられているか、彼の股間に頭を埋(うず)めてフェラチオに励んでいるか、はたまた愛撫もそこそこに下半身を結合させて喘いでいるか──。

 いずれにせよ、会場ドームから吐き出される人混みがまだまだ尽きない窓の外など見向きもせず、中年男と性行為を始めていたのである。

 あの日を境にして、チナはセイと別れて親戚の家に帰るまでの数時間、ラルとからだを重ね合い、めくるめく快感に何度も絶頂を覚え、たった数日間で二桁に上るほどの中出しを味わっていた。

 少年が委員長と呼ぶのも最近は随分と親しみが篭められてきた美少女。

 セイが眩しそうに見やるその夏の薄着は、ラルと二人きりの薄暗い密室で脱がされる。ラルはチナの両胸を丹念に揉みしだきながらキャミソールを脱がし、下着の中に手を突っ込んでアソコを弄りながらミニスカート、続いてパンティを脱がし。オーバーニーソックスはそのままで股を開かせると、まだワレメと言っていいほぼ閉じられた秘裂に大人の逞しい剛直を突き入れ、チナは根元までずっぽりと肉棒を咥え込むのだ。そうして狭いヴァギナを奥までヌレヌレになるまで突き回し、少女を存分に喘がせてからたっぷりと射精する。

 チナの膣粘膜には少年のではないザーメンが何日にも渡り幾重にも染み込んだ。

 ──それが、セイが好意を抱いている少女の今の姿であった。

 ガンプラ一途な少年に淡い恋心を抱いていたはずの少女は──自分の事に夢中な彼と少しでも長く一緒にいるよりも、優しく気遣ってくれる中年男に抱かれて性の悦びを味わうことを選んでしまったのである。

 

 当初口づけはなかった。初めてのキスはセイくんと──チナのその望みは関係が始まってからニ日目までは守られた。だが三日目、キスにカウントしない軽いキスなら──から始まり、食事は済ませてきますとまた親戚を騙した四日目の夜には六回戦に突入した時、汗だくになったからだを重ねたラルとチナは、情慾に駆られるまま、熱い吐息を混じえながら舌を使ったキスに夢中になっていた。

 日が落ちる頃になってやっとジープがホテルから出て来て親戚の家に向かうのだが、人気のない暗い場所に寄り道してカーセックスや青姦に及んだり、外食してくるという言い訳を度々使って──実際それは嘘ではなかったが──夜遅くまで親戚の家に帰らないこともしばしばであった。

 ガンプラバトル世界大会が盛り上がる中、チナとラルの関係もそうして急速に深まっていったのである。

 セイは毎日、これからすぐセックスする男と女を見送っていたのだった。

 

 

 予選中のとある夜。

 選手宿舎の割り当てられた部屋で、スタービルドストライクのコンディションチェックに余念のないセイが手を止め、

「委員長……今ごろどうしてるかなあ…………」

と、ふとチナのことを気にして窓の外を眺めた時。

 ──その宿舎が眼下に覗えるホテルの部屋では。

「あんっ、あっ、あんっ……♥! ラルさん……ラルさん、すごいぃ、素敵ぃ……♥!!」

 一糸まとわぬ姿を夜景の街に晒すように窓ガラスに上半身をくっつけたチナが、後ろからラルに突かれまくり、甘ったるい嬌声を上げて善がっていた。

 太い男根を奥深くまで突き入れられても、日を重ねる毎に柔らかくほぐれてゆくヴァギナは滑らかに迎え入れ、ただただ肉の悦びを発する。ラルの陰嚢にまで彼女の愛液が伝い、絨毯に滴り落ちていた。チナの視野には人工島にある選手村も、セイのいる宿舎も入っていたはずだが、この時、そこにいるセイの事を少しでも考えていたかどうか……。

(セイ君、リン子さん、すまない。だがうら若い娘の肉体こそこの世で最も得難い至宝の一つよ……このラル、戦いの中で戦いを忘れた……!)

 ラルはそう思いながら、本能の赴くままラストスパートを経て、チナの胎内に注ぎ込むのはこれでもう何回目かも忘れた快楽の放出を、キュウキュウと締まる膣肉の心地好さに包まれながら思い切りぶちまけるのであった。

 チナもその瞬間、温かさが広がる胎奥の脈動に陶然とし、セイのことなど忘れてその快感を味わうばかりで、ヴァギナとペニスを交わらせる気持ち好さに心を奪われてしまっていた……。

 

 

 一日も空くことなく二人の交淫は続き、少女の胎内にザーメンが注がれ続けた。当然のようにラルの精子はチナの子宮にどんどん入り込む。膣奥には常時ラルの精液が溜まり、また卵管にまでラルの精子が到達している状態で、チナはセイと毎日顔を合わせていたのである。

 それどころか、朝の送迎時や会場隅の人気のないトイレなどで出したてが“補充”され、その数分後に集合場所にいることもあった。

 その時はさすがに、

「あれ? 委員長、熱でもあるの? なんか顔が赤いよ」

と、様子のおかしさに気付いたセイの言葉がチナの狼狽を誘ったが、まさかこの大人しそうな少女が隣に立つ中年男と今しがたまでセックスしていて、しぼりたての精液が胃とアソコの両方に流れ込んでいるとは、セイもレイジも考えも及ばなかった。及ぶわけがない。何も知らない少年達が選手控室に行ってしまうと、チナとラルは客席へ──ではなく、まずはさっきまでいたトイレに戻ってさらに“補充”が重ねられた。パンティだけを脱がすとチナのソコはまだ十分に濡れており、若い媚肉の抵抗もそこそこにラルの肉棒はブチュブチュと音を立てながら収まってしまった。そこからは動物のような交尾。二人ともすっかり生セックス、生中出しにハマってしまっていた。

 酷い時にはセイとレイジの試合中にも二人の席は空になっていて、勝負が決まった瞬間にチナとラルの方でも中出しフィニッシュを決めていたこともある。

 チナはラルに抱かれて中出しの脈動を感じながらうっとりするようになってしまう始末であり、数日間で早くも射精時に締め付けてくるまでになっていた。中逝きを覚えるのもそう遠い話ではないかもしれない。

(間違いなく中出し大好き娘になるな……いやもうなっているか……)

と、ラルに予感させたものだった。

 

 

 

 

  8

 

 その後はどうなったのか。

 チナの恋はめでたく成就した。やがて大人になったセイとチナは結婚してイオリ模型店を継いだが、ガンプラバトル世界大会優勝経験者として世界各地から招かれるようになったセイは店をチナに任せて出かけることが多くなった。その後も父の足跡を追うように国際ガンプラバトル公式審判員となり、家に戻る日数はさらに減った。その代わりのようにほぼ毎日ラルの姿が店の中にあった。

 結婚して一年を待たずに子供が産まれたが、妙にセイに似ていなかった。しかししっかりと店を守ってくれていて、久々に帰った夜などは娼婦のように豹変する妻に、セイは彼女と結ばれたことに満足していた。チナへの愛は変わらなかった。毎年のように第二子第三子とやはり彼に似ていない子が産まれても、忙しく自分の夢を追い続けているセイは気にも止めなかった。

 だから、彼はイオリ模型店がよく平日昼間に閉店中の札を出しているのも知らなかったし、ラルが頻繁に寝泊まりに来ているのも聞いていなかった。家には彼の母親であるリン子もいたのだが、彼女もまたセイに何も言わず、ラルと妙に仲が良かった。セイにとってはそちらの方がよほど気掛かりだったため、チナの方には気が回らなかったのかも知れない。

 セイの妻となったチナが子供達の目を盗んでは昼夜問わずラルと絡み合い、夫に見せたことがないほどの女の顔で淫蕩に善がり、大人になっていよいよ美しくなったからだをラルに捧げていることなど──。

 たまの電話連絡で夫婦の仲を温めている時も、かなりの頻度でチナはラルと楽しんでる最中で、ラルに膣内射精される心地に艶声を漏らしそうになりながらセイと言葉を交わしている時もあった。電話を切るとチナはすぐ夫のことを忘れて今彼女を抱いている男の名前を叫びながら自ら腰を振り始めていた。

 あの世界大会の時からチナのすべてがラルに奪われていた。まだ中学生のときにセイが告白して正式に付き合い始めた時点で、既にチナは中逝きを覚え、アナル開発すら済ませており、高校時代はセイの知らない所で数知れずの変態プレイを経験していた。そして、チナとの間に生まれた愛の結晶はすべてラルの子種であった。

 チナとラルのそんな裏の関係をとうとう知ることなく、セイは妻を愛し、子供達を愛し、少年の頃と何も変わらない気持ちでいつまでも彼女を信じた。

 セイに信じられたチナ自身は、いつまでもラルとの爛れた関係を続け、ラルでなければ満足できないからだにされた。彼女が憶えた女の悦びはすべてラルから教わったもので、チナの子宮はラルの子種だけを宿し育むようになった。年にほんの一二回申し訳程度入ってくるだけのセイの精子は、チナの免疫とラルの精子の連合軍によって膣内でほとんど殺され、わずかばかり残ったのも子宮頸部も通過できずに全滅したのである。チナの子宮はラルの精子の独擅場であり、セイの精子の屍の上をラルの精子が元気よく泳ぎ進み、チナの卵子を受精させるのは常にラルの精子であった。

 彼女の内を占める大切な男の存在は、とっくの昔にセイではなくなっていた。

 そうして、年に数度しか帰って来ないセイをチナはいつでも優しい笑顔で迎え、イオリ模型店の夫婦は沢山の子宝に恵まれた人生を送ったいう。

 

(完)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終更新:2020年02月23日 17:30